始まりとその先
僕には前世の記憶がある。
いつかまたあの人に会えるだろうと、今世に生まれてからもう十何年も生きてきた。
けれどいつまで経っても現れない。
その人は僕を…覚えていないんだろうか。
____________________________
「先生!」
遠くから1人の男子生徒が走ってきた。
「今日の授業でわからなかったところ…また放課後聞いてもいいですか?」
そう言って目をキラキラ輝かせてやがる。
「当たり前だろ。ヨンジェみたいな真面目なやつに教えるのは楽しいしな」
すると、ヨンジェはえへへと顔を崩して笑った。
「ありがとう!ジェボム先生!」
俺が担任しているクラスではないけど、2組のチェヨンジェには、
1週間に2、3回、放課後に残って勉強を教えてやっている。
要点を指で指しながらちらっと様子を伺うと、いつもうんうんと頷きながら聞いていてなんていうか…かわいい。
ほら、今日だって、いつもの数学室で俺の裾を引っ張ってここ教えて、なんてねだってるんだ。
「ねぇ、ジェボム先生〜。ここ教えてってばー。」
悪い悪い、と言ってヨンジェの頭をよしよしと撫でる。
「ねぇ、ジェボム先生はなんで結婚してないんですかー?」
突然ヨンジェがそんなことを言った。
「なんでそんなこと気になるんだよ。結婚できないのに理由はたくさんあるだろー」
「できないって…そんなにイケメンで高学歴で…。女の人なら黙ってない良い男なのに、断り続けてるのは先生じゃないですかー」
お前は知らなくていいんだよヨンジェ。
俺が実は…男が好きだってこと。
ここに勤めたのも下心がなかったわけじゃないんだ。なんたってここは男子校。生徒となにかあるかもしれないだろ?
けど真面目で純粋なヨンジェに会って…結婚とか恋とか、正直どうでもよくなったんだよ。
「今は別に結婚に興味がないんだよ、実は。」
そう言うとヨンジェは、えーと言って頬を膨らませた。
「僕は…僕も、将来結婚できないと思います」
ヨンジェがいきなりそんなことを言い出した。
「なんでだよー。お前は真面目だし顔も悪くないし…結婚くらいできるよ」
肩に手を置いて慰めようとすると、ヨンジェは少し避けて俺がヨンジェに触れるのを防いだ。
「一途なんです、僕。気持ち悪いくらいに。
その人は…僕のことを覚えていないのに」
急に部屋が暗い空気になる。
「…小さい頃会ったやつってことか?
それとも…記憶を失ったとか?」
ジェボムの言葉を、そんなところです、と適当にあしらい再び勉強の手を進めた。
時計がカチカチと規則的に刻む音だけが聞こえた。
「そんなに待ってても…無駄なのかもな」
「無駄?」
ジェボムのいきなりの言葉にヨンジェはおうむ返しで返した。
「ほら、そいつはヨンジェを覚えてないわけだし。それに…ヨンジェはその覚えてないやつよりも別な人に愛される資格があると思う」
はっ、とヨンジェらしくない声を出した。
ヨンジェは明らかに不服そうな顔をしていた。
「あ…悪い、お前は好きなのにな」
なぜそんなことを言ってしまったのか、理由は明らかだった。
自分は『ヨンジェを覚えていないそいつ』に嫉妬していた。
全く大人げない行動だったと反省した。
ヨンジェはカチカチとシャーペンのペン先をしまうと、筆箱に乱暴に入れて部屋から出ようとした。
「…いつまでも執着しててもだめですよね。
そんなの、僕だってわかってますよ先生」
ヨンジェはずっと下を向いていた。
ヨンジェを怒らせてしまったことを受け入れられず、ジェボムはその場から動けないでいた。
「けど…こんなに好きなのに…っ!」
唇を噛み締めているヨンジェの目からは、涙が今にも溢れ出しそうだった。
こんな状況なのに、そんなヨンジェに見惚れていた。
気づくと、バタンと大きな音を立てヨンジェは部屋から出て行っていた。
取り残されたジェボムは、機嫌を悪くさせてしまった罪悪感と、
久しぶりの胸の高揚に悩まされていた。
「おかえりヒョンー…ってうわ!どうしたのその目?!」
ヨンジェが家に帰ると、一歳年下のユギョムが出迎えた。
ヨンジェとは別の高校だが、仲がとてもいい。
仲がいいのには、少し特別な理由もあるのだが。
「ジェボム先生に…。ひどいこと言われた…」
事の顛末をユギョムに話すと、ユギョムは呆れた声を出した。
「あの浮気野郎、今世でもヨンジェヒョンのこと傷つけて…。ほんとに意味わかんない。
ヒョン、あんなやつはもう忘れなよ」
「ユギョマだって…前世じゃジェボム先生と親友だったじゃん…。
まぁいいよあんな昔のこと。どうせ待つのなんて『無駄』だし、」
ジェボムからの言葉をよほど気にしていたのか、そう独り言をこぼした。
「そりゃあ親友だったけど…。あんなこと起きたらさ。
とにかく、ヨンジェヒョンは明日から学校でジェボマと話さなければいいんだよ、わかった?」
うん、と素直に頷くとユギョムも笑顔になった。
いつかまたあの人に会えるだろうと、今世に生まれてからもう十何年も生きてきた。
けれどいつまで経っても現れない。
その人は僕を…覚えていないんだろうか。
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「先生!」
遠くから1人の男子生徒が走ってきた。
「今日の授業でわからなかったところ…また放課後聞いてもいいですか?」
そう言って目をキラキラ輝かせてやがる。
「当たり前だろ。ヨンジェみたいな真面目なやつに教えるのは楽しいしな」
すると、ヨンジェはえへへと顔を崩して笑った。
「ありがとう!ジェボム先生!」
俺が担任しているクラスではないけど、2組のチェヨンジェには、
1週間に2、3回、放課後に残って勉強を教えてやっている。
要点を指で指しながらちらっと様子を伺うと、いつもうんうんと頷きながら聞いていてなんていうか…かわいい。
ほら、今日だって、いつもの数学室で俺の裾を引っ張ってここ教えて、なんてねだってるんだ。
「ねぇ、ジェボム先生〜。ここ教えてってばー。」
悪い悪い、と言ってヨンジェの頭をよしよしと撫でる。
「ねぇ、ジェボム先生はなんで結婚してないんですかー?」
突然ヨンジェがそんなことを言った。
「なんでそんなこと気になるんだよ。結婚できないのに理由はたくさんあるだろー」
「できないって…そんなにイケメンで高学歴で…。女の人なら黙ってない良い男なのに、断り続けてるのは先生じゃないですかー」
お前は知らなくていいんだよヨンジェ。
俺が実は…男が好きだってこと。
ここに勤めたのも下心がなかったわけじゃないんだ。なんたってここは男子校。生徒となにかあるかもしれないだろ?
けど真面目で純粋なヨンジェに会って…結婚とか恋とか、正直どうでもよくなったんだよ。
「今は別に結婚に興味がないんだよ、実は。」
そう言うとヨンジェは、えーと言って頬を膨らませた。
「僕は…僕も、将来結婚できないと思います」
ヨンジェがいきなりそんなことを言い出した。
「なんでだよー。お前は真面目だし顔も悪くないし…結婚くらいできるよ」
肩に手を置いて慰めようとすると、ヨンジェは少し避けて俺がヨンジェに触れるのを防いだ。
「一途なんです、僕。気持ち悪いくらいに。
その人は…僕のことを覚えていないのに」
急に部屋が暗い空気になる。
「…小さい頃会ったやつってことか?
それとも…記憶を失ったとか?」
ジェボムの言葉を、そんなところです、と適当にあしらい再び勉強の手を進めた。
時計がカチカチと規則的に刻む音だけが聞こえた。
「そんなに待ってても…無駄なのかもな」
「無駄?」
ジェボムのいきなりの言葉にヨンジェはおうむ返しで返した。
「ほら、そいつはヨンジェを覚えてないわけだし。それに…ヨンジェはその覚えてないやつよりも別な人に愛される資格があると思う」
はっ、とヨンジェらしくない声を出した。
ヨンジェは明らかに不服そうな顔をしていた。
「あ…悪い、お前は好きなのにな」
なぜそんなことを言ってしまったのか、理由は明らかだった。
自分は『ヨンジェを覚えていないそいつ』に嫉妬していた。
全く大人げない行動だったと反省した。
ヨンジェはカチカチとシャーペンのペン先をしまうと、筆箱に乱暴に入れて部屋から出ようとした。
「…いつまでも執着しててもだめですよね。
そんなの、僕だってわかってますよ先生」
ヨンジェはずっと下を向いていた。
ヨンジェを怒らせてしまったことを受け入れられず、ジェボムはその場から動けないでいた。
「けど…こんなに好きなのに…っ!」
唇を噛み締めているヨンジェの目からは、涙が今にも溢れ出しそうだった。
こんな状況なのに、そんなヨンジェに見惚れていた。
気づくと、バタンと大きな音を立てヨンジェは部屋から出て行っていた。
取り残されたジェボムは、機嫌を悪くさせてしまった罪悪感と、
久しぶりの胸の高揚に悩まされていた。
「おかえりヒョンー…ってうわ!どうしたのその目?!」
ヨンジェが家に帰ると、一歳年下のユギョムが出迎えた。
ヨンジェとは別の高校だが、仲がとてもいい。
仲がいいのには、少し特別な理由もあるのだが。
「ジェボム先生に…。ひどいこと言われた…」
事の顛末をユギョムに話すと、ユギョムは呆れた声を出した。
「あの浮気野郎、今世でもヨンジェヒョンのこと傷つけて…。ほんとに意味わかんない。
ヒョン、あんなやつはもう忘れなよ」
「ユギョマだって…前世じゃジェボム先生と親友だったじゃん…。
まぁいいよあんな昔のこと。どうせ待つのなんて『無駄』だし、」
ジェボムからの言葉をよほど気にしていたのか、そう独り言をこぼした。
「そりゃあ親友だったけど…。あんなこと起きたらさ。
とにかく、ヨンジェヒョンは明日から学校でジェボマと話さなければいいんだよ、わかった?」
うん、と素直に頷くとユギョムも笑顔になった。
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