すれ違いと不信と執着
ハイネックの服を着て鏡の前でメイクを確かめる。
首が隠れていることをちゃんと確認すると部屋を出た。
その瞬間、誰かに口を塞がれて空き部屋に連れてかれる。
乱暴に床に叩きつけられ、「なにするんだよ!」と言う間もなく口をガムテープで閉じられる。
「…はぁ、いっつもいい匂い撒きやがって…。
勝手に番になればもう問題ねぇんだよな?」
そう言ったのはどこかのテレビ局で見たことのある男だった。そこのスタッフかもしれない。
「ハイネックなんて…隠そうととしても無駄なんだよ、え?どうせ俺が噛んでやるんだからよ」
不本意な番成立を避けようと、ガムテープで口を塞がれた男も必死に抵抗した。
しかし、男の手は有無を言わさず服の中に侵入してきて、気づくと拉致された男は泣いていた。
「早く、うなじ出せよ!!」
そう言って男が服の襟の部分を捲った。
「……は?!なんだこれ」
「なにしてるんですか」
2人きりだと思っていた部屋のドアのそばに、にいつのまにかジニョンが立っていた。
「〇〇局のスタッフですよね?動画もバッチリ撮りましたし通報しておきますね」
その言葉を聞くと、男は舌打ちして部屋から出て行った。
「大丈夫ですか?マクヒョン」
マークの口のガムテープを剥がしながらジニョンはふとマークの顔を見た。
目からは涙が溢れ、体はかたかたと震えていた。
「やっぱり…ベータの俺じゃヒョンを幸せにできないよね」
そう言ってマークの肩を抱いた。
マークはその言葉に首を横に振った。
「首輪…ありがとうジニョア」
そう言ってジニョンの手を両手で温めた。
寒い部屋の中で少しだけジニョンも涙を流した。
「ヒョンを好きになってから、こんなに弱くなって、俺じゃないみたいで。
ヒョンのこと守らなきゃいけないのに…ごめん」
マークはジニョンの背中をさすった。
2人の間に言葉はいらなかった。
その頃、ベンベンとヨンジェはマネヒョンの部屋に隔離されていた。
「ユギョムと…いつ番になったの?」
恐る恐るヨンジェが聞いてみた。
「今朝だよ。」
ベンベンは、だから何?という感じで軽く答えた。
「僕はそんなことできない…だって、自分の人生を、自分の体をその人に任せることになるじゃん。
そんな覚悟、まだできないよ…」
「うーん別に…覚悟とかはなかったな。ただ、ユギョミと番になりたかったから」
ベンベンは年下ながら、お兄ちゃんのようにヨンジェに笑いかけた。
「僕のフェロモンに振り回される人はユギョム だけでいいって、そう思ったから」
へへへっと笑うベンベンに、ヨンジェは眉をひそめた。
「実は僕も…メンバーに好きな人いるんだ」
え?とベンベンが目を丸くした。
「ユギョマ?…じゃないよね?」
ベンベンの焦ったような表情と言葉に、違うよー!とすぐに否定する。
「ジェボミヒョン。ふふ、僕おかしいでしょ」
ベンベンは、あ、となにかを思い出したような声を出した。
「ジェボミヒョンて、女の人とたくさん付き合ってた噂あるし…有名だよね。だから、叶わないのはわかってるんだ」
話し続けるのがつらそうな表情を見せる。そんなヨンジェの手をベンベンがきゅっと握った。
「ベンベンがさっき言った…『僕の匂いにあてられるのはこの人だけがいい』っていうのは、
僕にとってはジェボミヒョンでさ」
いつのまにか、ヨンジェは涙をこぼしていた。
「昨日、ヒートになったとき、僕が勝手にヒョンにキスしちゃったんだ。
なのに、っ、ヒョンもキスし返して、くれてっ…」
嗚咽の止まらないヨンジェを、なんとかベンベンが落ち着かせようとしたが無駄だった。
ヨンジェの目からは止まることなく涙が溢れた。
「僕は、ヒョンを、勝手に好きになるような、だめなやつなのに…
ヒョンが僕に優しくするたびに、好きが溢れ出してまた…っ」
「好きにさせればいいじゃん」
ベンベンの真っ直ぐな声に、え?と素っ頓狂な声を出す。
「キスし返してくれたってことは、ヨンジェヒョンのこと少しは気になってるんだよ、ね?
僕も協力するよヒョン」
ヨンジェとベンベンが隔離されて2日が経った。
ユギョムはベンベンへの心配がやまず、なによりジャクソンがうるさかった。
「あー!なんかあいつらの顔見ないと練習も集中できないわ!
なぁ、みんなで2人の様子見にいかねぇ?」
そう言ってメンバーたちがマネヒョンの部屋のドアの前にたどり着いた。
「ベンベン、それ」
「これ?これ食べたいの?ふふ、ヨンジェヒョン可愛いなぁ」
「ねぇ、ものすごい甘い匂いしない?
ヒート中なのはわかるけどさ。」
ドアの前でマークが小声でそう言った。
「確かに…なんかお菓子みたいな」
ジニョンのその言葉で、ジェボムがまさか、と言った。
勢いよくドアを開けると、そこにはホールケーキや数々のお菓子、果物が置いてあった。
「あーん…あれ?みんなどうしたの?」
ベンベンにチョコをもらおうとヨンジェが思いっきり身体を委ねて口を開けていた。
対するベンベンもにこにこしながらヨンジェに餌付けしている。
「お前ら、アイドルだろうが!え?
こんなに甘いもの食べて…体型とか少しは考えろよ!」
ジェボムが大きな声で怒鳴った。
残りのメンバーは、そこまで言わなくても…と言葉を濁した。
「えー。ヒート中って、やけに甘いのが食べたくなるのに…
いいもん。僕を甘やかしてくれるのはベマだけだから」
そう言ってジェボムを細めで睨んだあと、ふいっと視線をそらしてベンベンに向き直った。
「あ、それは確かに。俺もヒート中たくさん甘いの食べたくなったよ。
そういう時は我慢すると症状つらくなるから食べた方がいいって、お医者さんも言ってた」
マークがすぐさまそう言った。
「ジェボミヒョン、仮にも2人はヒート中なんだから…そんなに怒鳴らずに大目に見てあげましょうよ」
ジニョンが加えてそう言うが、ジェボムはまだ納得いっていない様子だった。
「…わかった、お前らの好きにしろよ」
独り言のように呟くとメンバーを連れて部屋を出ようとした。
「待ってジェボミヒョン、僕だけ…ちょっと部屋にいちゃだめ?」
そう言ったのはユギョム だった。
さっきからベンベンとヨンジェのくっつきようを見ては心配そうなまなざしを向けている。
「だめだ。お前ら全員ここから出るぞ」
少しイライラしているジェボムは、ユギョムの言葉に承諾せずそのまま部屋を出た。
部屋はまた2人きりになった。
「…あれは絶対、ヨンジェヒョンに気があるよ、
ね?そう思ったでしょ?」
ベンベンが目を輝かせてそう言った。
「え、そうなの?全然わかんなかったけど…」
「だってあれは僕たちに嫉妬してたよ!絶対そう!」
そう明るく言うベンベンに、ヨンジェは少しの違和感を覚えた。
「ねぇ、それもだけど…。ユギョムもちょっと心配だな、僕は
僕とベマの関係を疑ってるみたいだけど?」
心配そうに言うヨンジェに、ベンベンは冷たい目で虚空を一瞥した。
「あのくらいで疑うなら、ほんとに僕のことを信用してないんだよ。
知ってる?番って、アルファが別な人と番になったら解消されるんだよ。
僕の匂いがいつからか他の人にわかるようになった時に、あぁユギョムに捨てられたんだってわかるの」
いつものふざけた様子とは違った口調に、ヨンジェは驚きを隠せなかった。
「それがユギョムの望んだ結果なんだから、仕方ないよ」
「でも、それってベンベンが、ユギョムに信頼されるような行動をとればいいだけじゃないの?」
そう聞いたヨンジェに、視線を合わせず答えた。
「…生憎、あんまり人を信じれる性格じゃないからさ、僕が。
ユギョムに信頼されたいとも、信頼したいとも思わないんだ」
「おいユギョム」
恋人とヨンジェのいちゃいちゃを見せつけられて混乱中のユギョムに話しかけたのは、ジェボムだった。
「お前ベンベンの番じゃねーのか?なんなんだよあいつらのベタベタは。」
「番だよ!…僕だって、今わかんないよ…」
はっきりしないユギョムの返事にまた頭に血が上る。
「あんなに近くにいて。男2人とか何が起こるかわかんねーし…」
「いや、何も起こらないでしょ。『男』2人なのに」
いつのまにか隣に来て口を挟んできたのは
ジニョンだった。
「ヒョンまさか…好きですね?」
頭の中を見透かすようなジニョンの視線にジェボムがたじろいだ。
「は、?好きって誰が誰をだよ、意味わかんねぇ」
口では強気だがなんとかしてジニョンから離れようとした。
「誰が?誰を?もう自分でわかってるでしょ?
あいつ可愛いですもんねー、手を出したくなるのはわかりますけどヒョン、」
やめろよ!と顔を赤くして言うと恥ずかしそうに去って行った。
2人の会話に追いついていけなかったユギョムは、ジェボムの背中に一言声を掛けた。
「誰ー?ベムじゃないですよねー?!」
首が隠れていることをちゃんと確認すると部屋を出た。
その瞬間、誰かに口を塞がれて空き部屋に連れてかれる。
乱暴に床に叩きつけられ、「なにするんだよ!」と言う間もなく口をガムテープで閉じられる。
「…はぁ、いっつもいい匂い撒きやがって…。
勝手に番になればもう問題ねぇんだよな?」
そう言ったのはどこかのテレビ局で見たことのある男だった。そこのスタッフかもしれない。
「ハイネックなんて…隠そうととしても無駄なんだよ、え?どうせ俺が噛んでやるんだからよ」
不本意な番成立を避けようと、ガムテープで口を塞がれた男も必死に抵抗した。
しかし、男の手は有無を言わさず服の中に侵入してきて、気づくと拉致された男は泣いていた。
「早く、うなじ出せよ!!」
そう言って男が服の襟の部分を捲った。
「……は?!なんだこれ」
「なにしてるんですか」
2人きりだと思っていた部屋のドアのそばに、にいつのまにかジニョンが立っていた。
「〇〇局のスタッフですよね?動画もバッチリ撮りましたし通報しておきますね」
その言葉を聞くと、男は舌打ちして部屋から出て行った。
「大丈夫ですか?マクヒョン」
マークの口のガムテープを剥がしながらジニョンはふとマークの顔を見た。
目からは涙が溢れ、体はかたかたと震えていた。
「やっぱり…ベータの俺じゃヒョンを幸せにできないよね」
そう言ってマークの肩を抱いた。
マークはその言葉に首を横に振った。
「首輪…ありがとうジニョア」
そう言ってジニョンの手を両手で温めた。
寒い部屋の中で少しだけジニョンも涙を流した。
「ヒョンを好きになってから、こんなに弱くなって、俺じゃないみたいで。
ヒョンのこと守らなきゃいけないのに…ごめん」
マークはジニョンの背中をさすった。
2人の間に言葉はいらなかった。
その頃、ベンベンとヨンジェはマネヒョンの部屋に隔離されていた。
「ユギョムと…いつ番になったの?」
恐る恐るヨンジェが聞いてみた。
「今朝だよ。」
ベンベンは、だから何?という感じで軽く答えた。
「僕はそんなことできない…だって、自分の人生を、自分の体をその人に任せることになるじゃん。
そんな覚悟、まだできないよ…」
「うーん別に…覚悟とかはなかったな。ただ、ユギョミと番になりたかったから」
ベンベンは年下ながら、お兄ちゃんのようにヨンジェに笑いかけた。
「僕のフェロモンに振り回される人はユギョム だけでいいって、そう思ったから」
へへへっと笑うベンベンに、ヨンジェは眉をひそめた。
「実は僕も…メンバーに好きな人いるんだ」
え?とベンベンが目を丸くした。
「ユギョマ?…じゃないよね?」
ベンベンの焦ったような表情と言葉に、違うよー!とすぐに否定する。
「ジェボミヒョン。ふふ、僕おかしいでしょ」
ベンベンは、あ、となにかを思い出したような声を出した。
「ジェボミヒョンて、女の人とたくさん付き合ってた噂あるし…有名だよね。だから、叶わないのはわかってるんだ」
話し続けるのがつらそうな表情を見せる。そんなヨンジェの手をベンベンがきゅっと握った。
「ベンベンがさっき言った…『僕の匂いにあてられるのはこの人だけがいい』っていうのは、
僕にとってはジェボミヒョンでさ」
いつのまにか、ヨンジェは涙をこぼしていた。
「昨日、ヒートになったとき、僕が勝手にヒョンにキスしちゃったんだ。
なのに、っ、ヒョンもキスし返して、くれてっ…」
嗚咽の止まらないヨンジェを、なんとかベンベンが落ち着かせようとしたが無駄だった。
ヨンジェの目からは止まることなく涙が溢れた。
「僕は、ヒョンを、勝手に好きになるような、だめなやつなのに…
ヒョンが僕に優しくするたびに、好きが溢れ出してまた…っ」
「好きにさせればいいじゃん」
ベンベンの真っ直ぐな声に、え?と素っ頓狂な声を出す。
「キスし返してくれたってことは、ヨンジェヒョンのこと少しは気になってるんだよ、ね?
僕も協力するよヒョン」
ヨンジェとベンベンが隔離されて2日が経った。
ユギョムはベンベンへの心配がやまず、なによりジャクソンがうるさかった。
「あー!なんかあいつらの顔見ないと練習も集中できないわ!
なぁ、みんなで2人の様子見にいかねぇ?」
そう言ってメンバーたちがマネヒョンの部屋のドアの前にたどり着いた。
「ベンベン、それ」
「これ?これ食べたいの?ふふ、ヨンジェヒョン可愛いなぁ」
「ねぇ、ものすごい甘い匂いしない?
ヒート中なのはわかるけどさ。」
ドアの前でマークが小声でそう言った。
「確かに…なんかお菓子みたいな」
ジニョンのその言葉で、ジェボムがまさか、と言った。
勢いよくドアを開けると、そこにはホールケーキや数々のお菓子、果物が置いてあった。
「あーん…あれ?みんなどうしたの?」
ベンベンにチョコをもらおうとヨンジェが思いっきり身体を委ねて口を開けていた。
対するベンベンもにこにこしながらヨンジェに餌付けしている。
「お前ら、アイドルだろうが!え?
こんなに甘いもの食べて…体型とか少しは考えろよ!」
ジェボムが大きな声で怒鳴った。
残りのメンバーは、そこまで言わなくても…と言葉を濁した。
「えー。ヒート中って、やけに甘いのが食べたくなるのに…
いいもん。僕を甘やかしてくれるのはベマだけだから」
そう言ってジェボムを細めで睨んだあと、ふいっと視線をそらしてベンベンに向き直った。
「あ、それは確かに。俺もヒート中たくさん甘いの食べたくなったよ。
そういう時は我慢すると症状つらくなるから食べた方がいいって、お医者さんも言ってた」
マークがすぐさまそう言った。
「ジェボミヒョン、仮にも2人はヒート中なんだから…そんなに怒鳴らずに大目に見てあげましょうよ」
ジニョンが加えてそう言うが、ジェボムはまだ納得いっていない様子だった。
「…わかった、お前らの好きにしろよ」
独り言のように呟くとメンバーを連れて部屋を出ようとした。
「待ってジェボミヒョン、僕だけ…ちょっと部屋にいちゃだめ?」
そう言ったのはユギョム だった。
さっきからベンベンとヨンジェのくっつきようを見ては心配そうなまなざしを向けている。
「だめだ。お前ら全員ここから出るぞ」
少しイライラしているジェボムは、ユギョムの言葉に承諾せずそのまま部屋を出た。
部屋はまた2人きりになった。
「…あれは絶対、ヨンジェヒョンに気があるよ、
ね?そう思ったでしょ?」
ベンベンが目を輝かせてそう言った。
「え、そうなの?全然わかんなかったけど…」
「だってあれは僕たちに嫉妬してたよ!絶対そう!」
そう明るく言うベンベンに、ヨンジェは少しの違和感を覚えた。
「ねぇ、それもだけど…。ユギョムもちょっと心配だな、僕は
僕とベマの関係を疑ってるみたいだけど?」
心配そうに言うヨンジェに、ベンベンは冷たい目で虚空を一瞥した。
「あのくらいで疑うなら、ほんとに僕のことを信用してないんだよ。
知ってる?番って、アルファが別な人と番になったら解消されるんだよ。
僕の匂いがいつからか他の人にわかるようになった時に、あぁユギョムに捨てられたんだってわかるの」
いつものふざけた様子とは違った口調に、ヨンジェは驚きを隠せなかった。
「それがユギョムの望んだ結果なんだから、仕方ないよ」
「でも、それってベンベンが、ユギョムに信頼されるような行動をとればいいだけじゃないの?」
そう聞いたヨンジェに、視線を合わせず答えた。
「…生憎、あんまり人を信じれる性格じゃないからさ、僕が。
ユギョムに信頼されたいとも、信頼したいとも思わないんだ」
「おいユギョム」
恋人とヨンジェのいちゃいちゃを見せつけられて混乱中のユギョムに話しかけたのは、ジェボムだった。
「お前ベンベンの番じゃねーのか?なんなんだよあいつらのベタベタは。」
「番だよ!…僕だって、今わかんないよ…」
はっきりしないユギョムの返事にまた頭に血が上る。
「あんなに近くにいて。男2人とか何が起こるかわかんねーし…」
「いや、何も起こらないでしょ。『男』2人なのに」
いつのまにか隣に来て口を挟んできたのは
ジニョンだった。
「ヒョンまさか…好きですね?」
頭の中を見透かすようなジニョンの視線にジェボムがたじろいだ。
「は、?好きって誰が誰をだよ、意味わかんねぇ」
口では強気だがなんとかしてジニョンから離れようとした。
「誰が?誰を?もう自分でわかってるでしょ?
あいつ可愛いですもんねー、手を出したくなるのはわかりますけどヒョン、」
やめろよ!と顔を赤くして言うと恥ずかしそうに去って行った。
2人の会話に追いついていけなかったユギョムは、ジェボムの背中に一言声を掛けた。
「誰ー?ベムじゃないですよねー?!」