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部屋中に溢れる消毒薬と傷薬の匂いと、気まずい空気。 「ごめんなさい」 「………………」 彼の返事はない、さっきからずぅーっと謝っているのだけど。やっぱり怒ってるのかしら。 そして、これは今日何回目の『ごめんなさい』だったかしら。 先程から気にし、声をかけているというのに彼は無言のまま、跪くように傷の手当てをしてくれている。 (うっかり、ぶっちゃったのは悪かったと思ってる、だけどだけど……!) “共犯者”の黒豹はラグの上でこちらに背中を向け伏せている。眠っているようにも見えるが、時折こちらの様子を伺うように耳が動くところをみると“狸寝入り”だろう。 サイバーシックスはベッドに腰掛け、ぼんやりとルーカスの旋毛を見ていたが、彼のシャツの胸が不自然に膨らんでいることに気がついた。 彼の胸ポケットから覗いているのは自分がロリに託したはずのそれ。 ルーカスが何も言わない理由が判った気がした。 「ごめんなさい」 少し落ちた声でサイバーシックスはもう一度謝罪の言葉を口にすると、ようやくルーカスが顔を上げた。 『はなすきもない』 消毒薬と傷薬の匂いが篭るアパートの中で俺は黙々と作業をしていた。 満身創痍の彼女をベッドに腰掛けさせ、腕に薬を塗り包帯を巻きつけていく。 俺の目の前に遠慮がちに差し出された腕に赤く走る傷は痛々しくて見ていられない。女性の、しかも自分が好ましく思っている彼女のだから当然だ。 俺はそれを……ついでに腕の刺青をも覆い隠すように丁寧に白い布を巻いていった。 さっきから彼女、サイバーシックスが何度も謝っているが、これは俺の方に非がある。 少し前に彼女、いやエイドリアンのアパートに灯りが点いているのに気がついた途端、俺は嬉しさのあまり理性を無くした。 中にいるのが女性だというのを忘れてノックもせずに部屋を開けた俺が悪い。 だから俺の右頬に残る手形は“当然の報い”という奴でそのことについて俺が非難できる立場ではない。 彼女が手加減したのは俺の顔面が複雑骨折していない事実で充分判るものだったし。 だが、“左頬”の猫パンチ跡は少々許しがたい。 猫というには大きすぎるそれを俺の頬に施した張本“豹”はそ知らぬ顔で寝転んでいる。 奴の怪我が直ったらどうリベンジしてやろうか。 「ごめんなさい」 少し低くなる彼女の声音に先程までとは違う意味が籠められたのを感じ、顔を上げ彼女を見る。 サイバーシックスの視線は俺の胸ポケットの中、エイドリアンの眼鏡に止まっていた。 「君の、だろう?」 確信を込めて問う。 「ごめんなさい」 体を一瞬強張らせた後、もう一度彼女は謝罪した。 「いいさ、君にも理由があったのだろうから」 顔を横に向けて言葉を繋いだ。今彼女の顔を見るわけにはいかない。 目線をそらした俺を見た彼女は何を誤解したのか、ますます体を硬くさせた。 人が話をしている時にはちゃんと相手の見るというのは常識だって判ってる。 だけどああ!今彼女と目を合わせるわけにはいかない そんなことをしたら嫌でも彼女の体が目に入ってしまう。 サイバーシックス、君は今どれだけ魅惑的な姿をしているのか判っているのか。 君は半裸でシーツをその体に巻きつけただけだ。 それを見て平然としていられる男がいるだろうか、いやいない。 「でも!」と俺の葛藤を他所に俺を見る彼女の目は不安げに揺らいでいる。 ああ、そんな顔をされたらこっちまで揺らいでしまうじゃないか。その体を力任せに抱きしめたくなるのを 大人の理性で必死に我慢しているというのに。 落ち着け、俺。 彼女は怪我人だ。 押さえるように息を吐き彼女に伝える。 「俺もロリも君の事を誰かに話す気はないからそんな顔をするな」 それを聞いてようやく安心したのだろうか。サイバーシックスの目が安堵の色を浮かべる。 その様子に安心した俺は彼女に休むようにと、子供にするようにベッドに横たわらせるとその体にシーツをかけた。 「ありがとう、ルーカス」 呟く彼女の声が聞こえてからしばらくすると、寝入ったのか落ち着いた呼吸音が聞こえてきた。 俺はそれを確認すると、借りたブランケットを巻きつけベッドの脇に座り込む。 今夜はここで寝ることにするか。 そして小さく、彼女の眠りを妨げないように 「君を離す気もないけど」と呟いた。 END →おまけ 『リベンジ!』 俺の左頬に未だ残る肉球の跡。やり返そうにも怪我しているヤツ相手に仕返しをするのはどうにも気が引ける。 ヤツことデータセブンは黒豹だが、だからといってフェアでないのはいけないだろう。こっちも人間としてのプライドがあるのだから。 怪我が治ったらどうリベンジしてやろうか。 そんなことを考えながら彼女の傍らで俺は眠りに落ちた、つもりだった。 だが、ふと入眠直前に浮かんだ思いつきの素晴らしさにはっと飛び起きる。 そうだそうだ、怪我が治るまでのんびりと待つ必要はない。 善は急げだ、道具はある。俺はすぐさま行動を開始した。 そして次の日。 「なぁに、それ」 朝日の中であどけなく問いかけるサイバーシックス。 良く眠れたのだろう、包帯だらけの痛々しい体はそのままだが顔色は昨日よりもずっと良い。 「折角手当てしたのに舐めたりして悪化させたら大変だろ?」 だからこうしたんだ、と俺は“自信作”に目を向けた 「そう、ルーカスは物知りなのね」 ふんわりと笑ったサイバーシックスも感心した様に俺と同じ物を見る。 俺達二人の視線の先には即席エリザベスカラーを装着したデータセブンの姿があった。 今度こそEND |