光の反語

眩しい真昼に眠りこけて、何もかもが白に染まったみたい。カーテンが透けて、風を包みながら軽やかに波打っている。シーツも私にしがみついて、離そうとしない。甘えられてるみたい。いや、人ならざるものたちに甘やかされてるのかもしれない。気持ちいい。

ベッドの上だけ重力が他と違う。重い、でもちっとも苦しくない。どんどん重くなる……。押しつぶされる。でも、どん底を過ぎても柔らかいから大丈夫……。

「……!」

「あ、起きた?」

仗助が私の上に覆いかぶさって見下ろしていた。白が陰りを深くするから、表情がよく見えない。

動揺する心臓の鼓動を聴くように、仗助は耳をぴったり私の胸にあてる。密着が恥ずかしくて、起き上がろうとするも、やっぱりこの力には抗えない。絶対に押さえつけて、離さない。寂しくて執着するような――従属させるような威圧は一切ない。いや、むしろ――

「かまってくれよ。おれも、なんか、してあげるから。おねがい」

けなげな犬。

「おれ、ごほーびはだっこがいいなあ……」

こども。

「ちゅーもほしい」

すけべ。

「いっしょにごろごろ」

このままだと

ひらがなで

うめつくされる……



もし、無茶な要望をしたらどうなるだろう。

どんな困り顔をするのだろう。

楽しくなってきた。

「仗助。『待て』」

「ん……? 犬の?」

「そう。いったん離れて」

それぞれ身を起こして、ベッドの上で向き合った。なぜだかかしこまって、ふたりとも正座なんかしちゃって。

「いい? ご褒美あげるから、ちゃんと聞いてね」

「うん」

期待に満ちた笑顔は、穏やかで、目じりが垂れ下がってるのが情けなくて、可愛くて、本当に幸せそうだった。だから。



「別れて」



笑顔が消えて、無表情を通り過ぎて、青ざめて、悲しさがこみ上げてくるまでに、数秒。

私は続けた。

「きみは自由。軽くなる。これがご褒美」



――なんてほざいて。

「冗談だってわかってるぜ。信じてる……。でもよ、もしそんなことがあったらって、どうしても想像しちまうだろ……」

真昼の光が潤んだ瞳を飾る。輝きに吸い込まれる。光の中に閉じ込められて、永遠を過ごせたらいいのに。

「ごめんね。嘘、よく見抜けたね。えらいえらい」

「嘘にもならねぇぜ……」

「ありがとう、聞いてくれて。本当のご褒美あげなくちゃね。ほら、どうぞ」

広げた両腕の中に、ご自慢の髪がくしゃっと潰れた。
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