アイキャンディ

何もしないで、口数も少なく、ぼけーっとしたふたりきりの部屋。私は仗助を見つめたい気持ちだったけど、お互いうつむいてばかりで視線を動かすのもおっくう。なんて声をかけたらいいかも思いつかない。

気力がない――そうだ。

「仗助、何か食べない?」

「?」

「例のイタリアンの味知ってたら貧乏くさいかもしれないけど」

「作るの?」

「むふふ……」



♦♦♦



マヨネーズにクミンをぶち込んだディップの完成。

「私ったら今最高に家庭的だわ」

「……」

「普段はね、アーモンドとかカシューナッツとかが入ったミックスナッツをこれで食べんの。今コーンチップスもあったかな……それもいいかもしれない。ミニきゅうりやにんじんスティックの時もあるよぉ」

「あのよ~」

「ん~?」

「なんでクミンなんだ?」

「気分」

「好きなのか?」

「好き」

私はわざわざ仗助の目を見て言った。仗助はたじろいで、呆れと照れが合わさった表情を見せた。その照れが、この言動の馬鹿馬鹿しさや気恥ずかしさからじゃなくて、好意からくるものだといいのだけど。

たまたまクミンの瓶は出しやすい所にあった。何か使うなら他のものでもよかった。マヨネーズに合うか合わないかはともかく、カルダモン、シナモン、クローブ、コリアンダー、ナツメグ、サフラン、ガーリック、バジル、ブラックペッパー、タイム、ディル、パセリ……どこかで聞いた、催淫効果があるとかないとか……。たかが微量で効果もへったくれもないけど。

頭の片隅にやましさ(やらしさ?)を残しながら、コーンチップスの袋を開けてつまみ始めた。



♦♦♦



ぽりぽり。もぐもぐ。

大口開けるのも、咀嚼中に頬っぺたと唇がぷくっとふくれたようになるのも、可愛くて嬉しくなる。

「何ニヤニヤしてんだよ」

「ずっと見てられる」

「……じゃあ、ずっと見てろよ」

「うん」

対抗心からか、仗助も視線をこっちに向けてロックオン。

両者見合って、八卦よい……八方位はよろしかったか……? 北に寝室、北東に台所、東にテレビと置きっぱなしのゲーム機、南東にパソコン、南に窓、南西に本棚、西にトイレと風呂場、北西に玄関……風水師はなんていうだろう……間取りや配置の前に掃除しなきゃなあ……と、どうでもいいことがぼけーっと頭をよぎったところで……。

「……ん?」

仗助がじりじりと近づいてきて、両手で私の頬包んだかと思ったら、むにゅっと軽くつまんだ。

「しっかりしろよな」

「えー」

「いかれた顔つきだったぜー。にらめっこで笑わすならお前の勝ちだな。お前の変な顔、ずーっと見てやるよ」

「そんなあ……」

私は恥ずかしくなって顔を逸らした。

「お、折れたな。オレの勝ち~」

「私の勝ちじゃなかったの?」

「オレが、お前より、ゾッコンだって証明が、にらめっこ耐久時間」

「……はは」

計測開始がもっと前なら、やっぱり私の勝ちではないのか、なんて思ったけど。

空腹と心が満たされつつある。
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