ヒーロー

窓から差し込む光の中、日向ぼっこの猫二匹ってかんじ。ふたりでだらだら。仗助はぽやーっとして、無感情、無表情。そのたたずまいすら大事にしたくて、寄り添えば日光とは違うあたたかさ。

とろけたまぶた、まつげが落とす影、潤んだ輝きで私を縛りつける瞳。

寂しがりやに変わったきみのくちは、甘えん坊の言葉をぽつりぽつりとこぼす。

触れあう。隙間に限りなく薄い紙を挟む軽さで。そうしないと怖いから。それでも体はこわばって、鼓動は胸を突き破りそうだし、息も乱れて、抑えようとすればもっと苦しくなる。やがて痺れて感覚が鈍くなって、意識もぼーっとしてくる。血が刺し傷から抜ける感覚、幻覚。

「すきだ」

なんて、小さく言われて。いたいのいたいのとんでけ、と子供におまじないをかけるように、傷口を撫でる。

「私、ちょっと落ち着かなきゃね……」

「——うん」

仗助がひとことこぼすたびに、包みたくなるような頬っぺた。もちもち、ぷにぷに。ちゅうだってしたいけどさ。

「仗助ェ」

「ん?」

私はこの昼を待っていた。静かな部屋。冷たい冬のあたたかい太陽。寝転んでも誰も責めない。自由で優しい、甘やかしの環境。

「遊ぼーよ、仗助ェ。何して遊ぶ? ゲーム? 仗助のスーパープレイ後ろから見てるね。私もやってもいいけど、仗助の方が効率いいもんね。見てるだけで楽に攻略できちゃうの好き。なんかおいしいお菓子でも食べながらやろーよ」

「あのよォ……」

わかってるんだ、きみが言いたいことは。どうやら、嬉しいことに、私を欲している。そう察知していても、信じたくない。信じてしまったら、いいことしかない。

振り子が幸せの極限まで振れてしまったら、その反対に自ずと戻ってしまう。

「好き。好き、好き、仗助」

「——おれも、だけど……」

本当に好きだよ。でも冗談だよ。ということは嘘なんだよ。嘘じゃなかったら、滑稽だね。きみがいなくなったら、とんでもなく惨めな私になるね。きみがそばにいてくれても、惨めな私だね……。

やけっぱちになって、行儀悪くでかでかと大の字に寝て、何もかも降参。

「本当にダラけてるよなァ、今日は」

「へへ。怠け者にあきれてる?」

「思わねーよ。ただ、疲れてねーかなって」

「私が疲れてるって言ってしまったら、叱られちゃう……。でも常に態度であからさまに出てるから、ダメだよね……」

癖の弱音を叱る代わりに、仗助は鋭い瞳で見つめてくる。たしなめる代わりに、魅了してくる。やっぱりきれいな目つきだな。これを見る側で本当によかったなあ。

「ぼーっとすんなって」

「は、はい」

「この仗助クンの存在理由っつーのはよ〜」

「はい、な、なんでしょう?」

「絶対に叱らなくて、絶対に甘やかす、それでいいか?」

「——心強いよ……」

私はぎゅう、と、この男前のようで最高に可愛い子にしがみついた。

私は子供に戻りたいと思った。親のように守ってくれる仗助に頭を撫でられて、うっかり眠りに持ってかれそうになる。大好き、仗助。そういえば、きみの父親ったら、十何年もきみのこと放ったらかしにしてたね。でもそれが酷いことだったって、どうしても思えないんだ。私は笑ってしまった。
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