黒歴史アーカイブ

俺に何されてもいい、だと。媚びてるつもりかよ、頭にくるぜ。

抵抗できないように押さえつける。あっけなく。快感が駆け巡る瞬間の表情。ありがたそうに目を輝かせて、痛々しい。

「このまま、離さないでね。もう、仗助以外の所に放り出されるの、嫌だから……」

「なんで?」

「どこに行っても、息ができないの。巨体がのしかかって、首を絞めて、殴ってきて、内臓が潰れそう。目から血が出たし、骨も折るし、痣も、何度も切り付けられた傷も――」

そんな跡はどこにもなかった。

「あいつにやめてって言っても、話が通じない。どこに逃げても、大きなあいつがいる。でも仗助の近くにいるとね、ほら、治るんだよ……」

治した覚えはない。こいつはいつ会っても怪我なんかしてなかったからな。俺はウソつき呼ばわりされたことがあったが、こいつも相当なウソつきだ。こいつは自意識過剰で、大袈裟な話で盛るくらいに、ウソの自分を演じている。

「とどめ、さして。きっと、しあわせに、なれる」

「治るのに?」

「お願いだから。味方は仗助しかいないの。だから終わらせて。消えてしまいたい……」

ウソのくせに。冗談めいて、うすら寒い。泣けば済むとでも思ってるのか。こんな涙、こんな苦しさなんか、全部くだらないウソだ。俺はムカついて、感情のごった煮に入り込んで、どうにも正気に戻れない。辛さも、明るさも、平常心も、すべてがウソに思えてくる。すべてが溶ける。何もわからない。

腹立たしいのに、俺はこいつに手を出せなかった。離すこともできなかった。

俺はお前にどこまで乗っ取られてるんだろうな。どこまで、俺はお前のことを気にかけてるんだろうな。

治してやりたい。ここでは何も怖くないと伝えたい。それはお前のためじゃないのかもしれない。乗っ取られるなんて、冗談じゃねえ。

♦♦♦♦

私、私、私。私はいつも自分のことにかまけて――。

いつも身体のどこかが気持ち悪くて、痛くて、苦しくて、でも外では誤魔化せるくらい図太く健康的。死んじまえ。

生きようとする心を何度も壊そうとして、それでも死にきれない甘ったれ。もしかして、繰り返し仗助が修復してくれるから、まだ生きてるのかな。だとしたら、なんて綺麗な思いやりだろう。そして、都合よく考える私は、なんて醜いんだろう。いつか本当に潔く死ねたら。そんな綺麗なオチもつけられない、甘ったれは。

鼓動。ふわふわ温かい体温と、怯えるような痙攣が混在している。微かな呼吸の波に、もっと細やかな振動。私は全部拾い上げて、泣きじゃくる。

明日も、明後日も、毎日抱き合って、満ちて、溢れ続ける。

好きにならなくていいから、代わりに可哀想って言って。
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