黒歴史アーカイブ

お前がいなかった頃、俺はどんな人間だったのか。表の日常だけの頃、俺は何を思ってたのか。楽しいことがあれば笑うし、ムカついたり不機嫌になったり……でも、一番深い暗がりに向かおうとすると、途端空っぽになる。ある時、その空きにお前の感情が流れ込んで、気づかなかったものに気づいてしまった。不気味で静まり返っている。

俺の中に何度も入ってくるお前は、いつも壊れてる。俺はお前の静かな激情に抗えない。それは俺以外の誰にも明かされない秘密らしい。声も上げずにぼろぼろと涙をこぼして、身をこわばらせている。

お前は傷ついた自分を汚らわしいと嫌っていた。傷跡が腐り始めても、汚いなんて思わない。むしろ触れたいくらいだ。治してやりたい。

俺はお前を綺麗だと思ってる。そう言ってもお前は信じないだろうから、俺は必死だ。

笑うお前が好きだ。泣いてるお前は、綺麗で恐ろしい。

ただ、守るように、緩く包み込みたいのに。

「苦しいの?」

頭の血が弾けちまうかってくらいに身体を固くして、堪えるような息は細く乱れて――。

力で支配などしていない。思いやるつもりが、どうしてこうも怖がらせてしまうのか。

「やっぱ放した方がいいか」

「違う」

低く、重い囁きで、なんとか答えたようだった。

「仗助は何も間違ってない。仗助が私にしてくれることは全部いいこと。だから私の罰になる」

何が「だから」なんだ。

「迷惑か?」

「ありがたくて、幸せになりそうだから、罰になる。これ以上私が甘ったれになったら、もう誰にも許してもらえない。私に善い心を与えてはいけない。与えたところで私は受け取らずに、あえて苦しむ。もっと恐ろしいことに耐えられる自分にならないといけない」

俺は怖い目に遭わせないようにするために、お前に触りたかった。近づこうとするほど事態は悪くなる。

果てはこんなことを言い出した。

「――生まれてきて、ごめんなさい」

なんだよそれ。大袈裟な被害妄想だ、こんなの。俺だって、間違いで生まれたっつーのに。

「生まれちゃ駄目。悲しいことだらけ。でも私は世界一不幸でもない。だから私は甘ったれてる。私は救われない。こんな奴救わないのが正しいんだ。私は私が大嫌い。……仗助が殺してくれたらいいのに」

殺してやるもんか。とことん優しくしてやる。弱々しく触って、俺の血の熱で温めて、正直な言葉をかけて――そうすれば、殺すよりもおっかない苦しみを味わえる。



♦♦♦♦



(私の汚らわしいお喋り)

私の大好物、仗助の痛む心がしっかり伝わってくること。苦しくて、悲しくて、きれい。

私にまで構って、なんていい子。仗助が今までいくつ心を痛めてきたなんて、数えきれないだろう。神様、あの子のために、私を罰してください。汚い私を罰して、仗助の善い心に光を当ててください。

私は今まで何度、自分に失望しただろうか。でもそれでいい。私が私を否定することに正しさを確信している。それが間違いであろうはずがない。私が醜いのは、仗助が美しいことの証。

殺してほしい。巻きつけた腕の中が暖かくて、眠りに落ちるように、ゆったりと、知らぬうちにフェードアウトする。私は全てを失ってしまう。地獄よりも恐ろしいところへ向かう。

自分を許してしまったらエクスタシーが消えてしまう。
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