迷宮攻略よりも文明復興の方が難しい
石神村に戻る前、杠という千空と幼なじみの女の子のお手伝いをしていたが、指先に針を何度も指す姿を見たマグマや銀狼、——初対面である上井陽さんの3人からドン引きされ、救護室へと運ばれた。治療してくれたのは千空だった。
「テメー、その怪我……!」
『ははは。びっくりだよな!集中力なかったみたいで怪我したみたいだ!』
「笑い事じゃねぇわ」
『……そうだな』
「何があった?」
『……』
「おい」
『……』
「……集中力が切れて指先を何度も刺すヤツがあるか!?どんだけテメーは不器用なんだよ?」
『…私は杠程ではないけど器用な方だよ』
花冠だって上手に作れたんだもんな!。私は器用だ。
「……ハァ、今日は杠の手伝いも終わりだ。無理してここにいる必要もねぇ。」
『別に無理してなんか……!』
「村戻って寝ろ。頭冷やせ。』
『…いや…あー、…………そうします。しばらく頭冷やしてくる』
嫌だと言おうとした、その瞬間。千空の鋭い赤い瞳がこちらを射抜く。言葉は喉の奥で止まった。……くっそ。
指先に包帯を巻いてもらい終わり、石神村に2日かけて戻った。
『ただいま』
「アリババー!おかえりー!」
「アリババくん!!!」
「アリババー!会いたかった~!!」
と言い抱きついてくる子供たち。その愛らしさに思わず顔が緩んでいれば、
「アリババ!久しぶりだな!」
「おう、アリババ!」
『コハク!クロム!!久しぶり!!』
「!、君がアリババ…」
村にはコハクにクロム、そして見かけない男性がいた。もしかして、司帝国の方なのだろうか。あ、目があった。
『初めまして!アリババです!!えーと、貴方は……』
「僕は西園寺羽京。君のことは科学王国の皆から聞いてるよ。よろしくね」
『よろしくお願いします!羽京さん!!』
羽京さんに手を差し出され、そっと握り返す。
「敬語使わなくていいよ」
『あー、……うん』
「うん、よろしくねアリババ」
ああ、なんだか羽京さんの声、——
『白龍に似てる…?』
「ハクリュウ……?」
『き、気にしないでくれ!!独り言だ!!』
思わず口を押さえる。小声で呟いていたことが羽京さんに聞こえていたようだ。あんまり大きい声じゃなかったのになぁ。
このときの私は知らなかった。羽京さんが超人的な聴力を持つ人物であり、私が夜な夜なカシムのことで泣いている声を聞かれたり、石神村のお墓の近くに石を置き、勝手にカシムの墓に建てて、一人で会話している内容を彼に全て筒抜けであったことに。
***
『うっ、……ごめん。ごめんっ……カシム』
まただ。アリババが石神村に戻ってきて、彼女は夜な夜な一人で泣いている。ゲンや、千空に「アリババがいつも"カシム"という人物のことで泣いているんだ。何か知らない…?」と伝えれば、今はアリババのことをそっとしておいてあげてほしいと、言われてしまった。
僕は見守ることしかできない。自分より幼い10代の——、普段は明るくて優しい女の子が誰にも相談せずに苦しんでいるのに助けられないなんて。
「アリババ…」
『?…どうしたんだ?』
不思議そうに首を傾げるアリババ。周りには子供たちが集まり、皆で一緒に花冠を作りあげている。
「いや。何でもないんだ」
『あ、待ってくれ!羽京さん』
僕が立ち去ろうとすれば。追いかけてきたアリババ。
「?、どうしたの?」
『ちょっと目閉じてもらっててもいいか?』
「うん」
アリババの言うとおり、目を閉じる。そうすると頭の上に軽く重みを感じる。視界を開き、頭にのせられたものを触る。ああ、これは
『花冠だ!…綺麗だろ?』
にししと笑うアリババ。 こんなに眩しい笑顔を向ける君が夜になると一人で苦しんでいるなんて、誰が想像できるんだ。
「ありがとう…!アリババ」
『おう!』
やっぱり僕は我慢できない。……千空、ゲン、ごめん。
「……アリババ。実は、君が夜泣いてるのをたまたま聞いてしまったんだ。なにかあったの?」
目を左右に泳がせたかと思うと、アリババはおもむろに口を開いた
『!………………実は、俺に昔友人がいたんだけど、喧嘩別れしちゃってさ、ずっと会えないって思ってたんだ』
「うん」
『でもな、龍水の友人だったらしくて色々と俺の話をしていたらしくて、…ああ、やっぱりアイツに会いたいなって思ったんだ。』
「…」
『だけどな、……18歳の時に心臓病で亡くなってたんだ』
「!」
『もう、会えないんだ。』
ポロリとアリババの大きな瞳から涙が溢れる。カシムという人物は亡くなってしまっているのか。
「……そっか。それで落ち込んでたんだね」
『…うん。……吹っ切れたと思ってたんだけどな』
「別に無理して忘れなくていいんじゃないかな?」
『え、…?』
僕がそういうと反応に困っている様子のアリババ。
「今のアリババはその人のことを忘れようと必死になっている気がするんだ」
『羽京さん…』
僕は笑みを浮かべ、小さく頷く。
「大切な人を失った悲しみは、無理に消すものじゃないと思う」
『……』
「自分の気持ちに正直に生きるべきなんじゃないかな」
アリババは唇を噛み、静かに耳を傾けている様子だ。
「だから、忘れなくていいんだ」
『……でも、俺だけ前を向いて生きるのって、裏切りみたいで…』
「そんなことはないよ」
僕はそっと首を振り、アリババの小さな手を包み込む。
「もし僕が彼の立場なら、大切な友人には幸せになってほしいと思う。」
『……』
「きっとその子も同じじゃないかな。」
アリババの瞳から、また一粒涙が零れた。
『カシム……最後に幸せになれよって言ってくれてた。』
「その人は、どんな人だったの?」
『え……?』
「話してくれないかな?」
僕はアリババに向けて、笑みを浮かべる
『うん』
「忘れたくないなら、思い出を閉じ込めなくていいんだよ。一人で抱え込むのも苦しいと思うんだ」
アリババは目元を袖で拭う。
『!、……あいつ——、カシムのやつは、昔から良い喧嘩友達だったんだ』
そう言って、穏やかに笑うアリババ。
『優しくて、仲間思いで面倒見が良かったんだ…』
羽京は相槌を打ちながら、アリババが話し終わるまで静かに耳を傾けていた。
***
今日は羽京さんとお話したおかげで、今までうじうじと悩んでいたことが馬鹿らしくなってしまった。
やってきた先は、千空の父親や石神村の亡くなった人々が眠る墓だった。少し離れた場所に石を積み重ね、簡易的な墓を作り上げた。
そして胡座をかき、墓に話しかける。
『なぁ、カシム……お前はどう思う?この世界のことを。前に"いつか俺たちが知らない別の世界と話ができる日が来るだろう。その時にまたびびっちまうのかなぁ?そいつらと俺らの違いにさ"』
以前、前の世界で全ての闘いが終わった後、カシムの墓前で話していたことだ。
『"生まれた時から同じやつはいねぇ、……でも、だからこそ変わっていけると思うんだ。だから、今は違うことに悲しいとは思わねぇ!"……って、お前に話していたのに、どうしてこんなに大切なことを忘れていたんだろう。』
悩んだらぶつかればいいんだ。 そうしなきゃ誰にも自分の悩みなんてわからないし、伝わらないんだから。
