迷宮攻略よりも文明復興の方が難しい
「やあ千空ちゃん。お帰〜」
「あ"ー?なんだこりゃ……」
帰ってきた千空は、マグマが目隠しをしてサプライズがバレないようにしてくれていた。
「ハッ!助けを求めても無駄だぞ千空。村の皆も全員ゲンとグルだからな!!」
「……ククク、ひょっとしてテメーらもようやく気がついきやがったか?俺の首と科学さえ司に差し出しゃあ村は安泰っつう合理的な裏技によ」
『!』
そっか、千空も心のどこかで不安なこととかあったのかな。そうだよね、まだ子供だもんね。
「……何言っちゃってんのか分かんないけど、——」
『大丈夫だよ。……千空、お前が心配することは何もないからな』目隠しを取る瞬間に耳元でそっと小さな声で呟く。ピクリと動いた身体には気づかないフリをして。
「オホー、1月4日イシの日!」
「今日が誕生日と聞いたぞ!千空の」
「誕生日プレゼントなんだよ……!みんなからの!」
「天体望遠鏡…?いや天文台——」
あれから3日間大変だった。何故かゲン共に仕切る役を任され作業をしていたのだから。だけど、千空っていうリーダーのお祝いをしたいって気持ちで私達の心がひとつになれたんじゃないかなと私は思う。
「いやまあね〜俺のうろ覚えで筒にレンズ2枚入れてみただけっていうテキトーすぎなアレだけども。村のみんな総出で頑張ってくれちゃったから、あとはホラ千空ちゃんが自力で調整してよ」
「やるじゃねーかテメーら!実に実用的だ!VS司軍の物見やぐらに使えるな!!」
「お、……おおたしかに」
「相変わらず合理的なご感想」
『ふ、はははっ』
なんだか千空がとても可愛くみえてしまう。
「ククク、男が自分の誕生日なんつうもんいちいち話すわけもねぇ、なんで今日ってわかった??」
そういやあ、この前6268日とかなんとか話していたよな。それのことかな。
「…あ"ーあれか誘導尋問か。つっても俺の石化期間知らなきゃ逆算はできねぇ」
「覚えてない?書いてたじゃない。石化が解けた日付なら……奇跡の洞窟の側、千空ちゃんが目覚めてすぐに。……わりと好きだったのよ千空ちゃんが。損得は置いておいてさ、そういうことでしょ村の皆も。千空ちゃんは気持ち悪いとか言うだろうけどね〜」
「あ"あ気持ち悪い」
「でっしょ〜?」
『……(何故二人で話してるのにどうして私がここにいるんだ!?お邪魔虫では????)』
しかもゲンが千空に告白してるし(してない)
「んじゃあ、後は二人でどうぞ」
なんてにこやかに手を振り、去っていったゲン。
「…」
『…』
「…」
『…あの』
「ああ?」
『あのさ、前に元王女って話しただろ?』
ちょうど二人きりだし、自身のことを千空に知ってもらいたくなり、自分の前の世界であったことを語る。
「ああ」
『その前はなスラム育ちだったんだよ』
「ああ…………、は???」
『ははっ、その反応になるよな』
元々話すつもりはなかったが、千空は口固そうだから大丈夫だろう。
「待て待て待て。王女の前がスラム!?時系列どうなってんだ。」
『色々あったんだよ。』
「色々で済む話じゃねぇ」
『……母親が女手1つ育ててくれた。私の母はスラムの娼婦でさ、笑顔がとっても素敵な人だった』
「……」
『朝起きたら、まず今日食べる物探してた。市場の裏で捨てられたパン拾ったり、川の水飲んだり。盗みもした。しないと死ぬから。』
「……」
『冬は寒くてさ。毛布なんかないから、人が集まって寝て体温分け合うんだ。それでも朝には何人か起きなくて。』
「……そうか」
『それでも母は他人を見捨てる人じゃなかった。私、親友がいてさ。親友の父親が亡くなって、その親友と妹を母が家族として引き取ったんだ。』
「自分たちだって食うのも大変だっだんじゃねぇのか?」
『ああ。それでも「この子たちまで見捨てたら人じゃない」って笑ってた。だから飯はもっと減ったけどな。……でも、その母も流行り病で死んだ。』
「……」
『だから"明日"なんて考えたことなかった。その日、生きられれば勝ちだった。で、…ある日拾われた。』
「王族にか?」
『そう。身なり整えられて、風呂入れられて、綺麗な服着せられて。』
「…」
『……母さんが昔、城で侍女をしてたんだよ。そこで王と関係を持って……できたのが私だった。』
「それで王族に迎えられたのか。」
『ああ、最初はパンを袖に隠して怒られたよ。』
「……癖か。」
『うん。"次いつ食えるか分からない"って身体が覚えてた。……食卓には10人分くらい料理が並んでるのに、誰も食べきらない。捨てるんだ。』
「……」
『スラムなら、その残飯1つで10人くらい助かるのになって思ってた。』
「…」
『ま、そんな感じだ!』
いつの間にか前の世界の事をペラペラと喋ってしまった。なんだか渋い顔してるな、千空のやつ。そりゃあそうか。私も急にそんな話聞かされればびっくりするしな。
『私の話はここまでにして。……千空、お前も溜め込むなよ?』
「……それはテメーもだろ」
『え?』
「いつも寂しそうなツラしてやがる。何か考え込んでるくせに、聞いても「大丈夫」で終わり、勝手に抱え込んで、勝手に答え出して、勝手に納得してる。……なんなんだよ、テメーは。」
『は、?いきなり何なんだよ……!?!?』
本当なんなんだよ。急に。終わろうとしていたのに責められること言われても困るんだが!?
「何なんだ、じゃねぇ。そうやって誰も入れねぇように壁作って、一人で全部勝手に終わらせようとすんのが気に食わねぇって言ってんだよ」
『!、……勝手にか、?……生憎俺はそういう生き方しか知らないんだよ…!!!』
一瞬息が苦しくなる。ああ、八つ当たりするつもりなんてないのに。そうだよ、いつも悩んでも自分一人で解決してしまう。
「……だからって一人で抱え込んでいい理由にはなんねーだろ」
『昔からそうやって来た。誰かに頼るより、自分で終わらせた方が早いって。……今更どうやって変えるんだよっ!!!!——それに俺の言ったことなんて誰も信じてくれないだろ!?』
ああ泣いてしまいそうだ。別の世界から来たなんて話しても"頭大丈夫か、この人?"なんて表情を浮かべられて、どれだけ傷ついたか。よくある異世界トリップでは主人公は受け入れられているが実際はどうだ?そう簡単に信じてくれないもんだ。感情的になってしまい、涙が溢れ出て、頬を伝う。
『ううう、……ぐずっ……』
ふと「アリババくんは泣き虫だなぁ」と信頼している仲間、アラジンの声が聞こえた気がした。
「ハァ、………異世界だの何だのはどうでもいい。事実としてテメーが“ここにいる”ってのは変わらねぇだろ」
『!』
冷たく聞こえるが、その一言救われたような気がした。
「おはよう…………ちょ、ジーマで何かあったの!?!?アリババちゃん!?」
『いやぁ~、うつぶせで寝てたらこうなりました』
目元を冷やしてから寝たのに朝起きればパンパン腫れていた。いやなんで???
そのせいで、みんなからなんかあったの???と心配されてしまった。銀狼なんて「あれ?アリババちゃん……その目、蜂に刺されたの?」なんて言われた。もちろん銀狼にはゲンコツを落とした。コハクがな。
あのあと冷静になって考えてみれば、コハクやクロム、金狼、銀狼も、科学王国の皆や村の住人は私のことを仲間認定してくれていた。異世界からやってきたことを信じているかはわからないが、仲間だって思ってくれているなら今はそれでいいだろう。
千空の様子をチラリと盗み見する。クロムとカセキのおじいさんがハイタッチしている。
スイカちゃんが羨ましそうに見ているので背中をそっと押す。
『行ってきな』
「!、うん!!」
千空とスイカちゃんが2人がハイタッチするのを見て、ふふふと笑い声が漏れてしまう。
「え、アリババ……テメーなんで一人で笑ってんだ??」
『クロム……!?』
げっ!クロムに見られていたのか。彼とは時たま私の世界での話を聞かせてくれ!!!と頼まれ、話すことがある。子供達と一緒に混ざる姿は純粋な青年だ。ピュアだ。
『あー、スイカちゃんが可愛いなって思って』
「ほー」
自分から聞いてきたクセに興味ねぇな!?!?
まぁいい。私は子供達の所へ混じって電線を作るのを手伝う。寒さで手がかじかむ。皆ブルブル震えながら作業をしている。
「この冬はまた厳しいねぇ」
「今年は誰も寒さで死なないと良いけどねぇ…」
『あはは!なら皆でぴったりくっついて寝ますか?』
「ふふふ。それはいいわねぇ」
なんて話を聞かれていたのか、千空達が暖炉を作りあげてくれた。
「わぁぁああああ!!!」
「うちの中がすっごい暖かいんだよ……!!」
「あ”ー俺らはただ石炭の燃えカスが欲しいだけだ。火にあたりたきゃ勝手にあたれ!」
『暖かい〜』
なんてぬくぬくしていれば、ルリさんに「アリババさんすみません、ちょっと頼み事があるのですが……」と呼ばれる。
『どうしたの?ルリさん』
「マンガン電池を作るのを手伝っていただけませんか……?」
『任せて!』
なーんて簡単に引き受けたが、マンガン電池を800個作らないといけないらしい。まじかよ……石神千空じゃなくて鬼神千空じゃねぇか……!!!!
『千空の鬼!ゲス!鬼神千空!!』
「え、ちょアリババちゃん?そんな大きな声だと千空ちゃんに、——」
「800個程度で音を上げる元王女サマなんざ、文明復活じゃやっていけねぇな?」
『〜っそんぐらい俺にも出来るからなっ!?!?』
むっっかつく!!ゲンも苦笑しないでよ!?まるで私が大人気ない人みたいじゃん!!!!
「…………ん?元王女??」
『元王女なんだよ。私』
「ジ、」
『じ?』
「ジーマで言ってるそれ!?バイヤーすぎない!?アリババちゃん!!!」
うるさ!?そこまで驚かなくても……。そんなに意外にみえるのかよ。
