Touch wood
重力異常の原因が見つかりそうなのだとか。
レオはスティーブンに手伝った方がいいかと尋ねたが首を横に振る。
「エリクスと一緒に恋人探しに付き合ってくれ
今は異界からきたメンバーもいる
人員としては十分だ」
「そうっすか…」
その会話をしたのは昨日、ライブラから自宅へ帰る間際のことだった。
毎日エリクスを病院まで出迎えるのだが、やはり重力異常の件が頭から離れない。早朝、スクーターでヴァッシュを迎えにいくとすっかり懐かれた子供たちと元気に遊んでいた。
「エリクスー!つぎこっちだよー!」
「次おれと遊ぶっていったもん!」
「そーだそーだ!」
毒気のない柔らかな笑顔に絆されるのは無理もない。
そして子供たちに無邪気に取り合いをされているのもエリクスにとっては嬉しそうだ。
「こらこらケンカするなよ」
頬を膨らませて怒る子供たちを撫でる。こうしていると本当にただの人のように見える。
レオはそんな光景を微笑みながら見ていた。
「あ、ごめんな
友人が来たから、また今度」
「えー!」「もういっちゃうのー!」
レオは軽く手を上げて近づく。
「エリクスともっとあそびたい!」
「ごめんね、エリクスさんは大事な用事があるんだ」
レオも腰をかがめて優しく諭す。それでも納得いかない様子だ。
「帰ったらまたたくさん遊ぼうな
約束」
ヴァッシュは小指を出した。レオも子供達もきょとんとする。
「約束する時は小指同士で握るんだ
俺の恋人が教えてくれた」
子供達は小さな小指をエリクスの小指に絡める。その小ささとあたたかさに、嬉しそうに笑っていた。
「今度は俺の旅の話をするよ
約束だ」
「エリクスの話すき!」「でっかい恐竜の話して!」
「うん、きっと」
そうして子供達は行儀良く病院の庭でまた遊び続ける。
エリクスの頬は緩みっぱなしだ。
「やっぱり子ども好きなんですね」
「ああ、うん…そうだね
子どもに限らず人は好きだけど」
スクーターのキーをポケットから取り出す。
レオはふと思い出した。ライブラの応接室で見た強烈な光を。
今目の前にいるエリクスとは光の強さは違うものの、放つ色彩、暖かさは同等だ。
つまりレオからすれば不思議なことに、ヴァッシュとエリクスは同一人物に見えている。
「あの、一つだけ」
「ん?」
「本当にエリクスって名前なんですか?」
それには薄く作り笑いを見せた。
しかしずっとレオと行動を共にしていただけに隠し切れないと思ったのだろう。
息をはいて軽く笑っていた。
「ごめん、騙していたわけじゃないんだ
でもどうして?」
「今、似てる人がいるんです
その人はヴァッシュっていうんですけど…」
「そっかぁ…その異界から来たって人たちのことか
うん、俺自身じゃないけどきっとどこか違う方向の俺だ」
「驚かないんスね…」
レオはスクーターに腰を下ろす。
エリクスも同じように後部にもたれた。
「ない話じゃないなって思っただけだ
どうしてそうなっているのかわからないけど…その重力異常も少なからず俺たちが原因かもしれない」
「そうなんですか?」
「うん…でもひとまず俺は瀬香を探さないと、どうにも前に進めないんだ
悪い、レオ」
きっと半身をもがれている気分なのだろう。
子どもたちと遊んでいる時はその気配を潜めていたが、今はまた悲痛の面持ちでいる。
「でも、重力異常の手がかりが見つかったそうなんです
それこそ今、作戦決行の準備をしてます」
「念の為聞いてみたいけど、やっぱダメかな」
「俺も少ししか聞いてないんですけど、ザップさん曰く、女の子がいたって言ってました」
俯いて地面ばかり見ている視線。
それが上がった。目を見開いて、前髪の隙間からジェードグリーンの瞳が見える。
「女の子…」
「どんな背格好かわかりませんけど、しかもいるところが特殊で…電子空間ってわかります?
そこにいたらしいです
流石にセラカさんじゃないと思って…」
「ごめん、そのライブラに俺も連れてってくれないか」
「へ!?」
どういうことなのだろうか。
レオはイマイチ現状が理解できない。
そもそも話を聞く分に瀬香という少女はただの女の子だ。特殊な技能も、レオのように代償を差し出して何かを得たわけではない。
だからこそ瀬香はヘルサレムズ・ロットという現世の街にいると思っていた。
「頼む、今すぐ」
だがエリクスの目は今まで以上に生気がある。希望を見出し、前をしっかり見ていた。
初めての様子に頷くほかない。
「わ、わかりました」
レオは後ろにエリクスを乗せてすぐさまライブラへ向かった。朝のラッシュもレオは道を迂回しながら飛ばす。
結果的に今までの最短時間でライブラ前に辿り着いていた。
「こっちです!」
レオを先頭にエレベーターに乗る。
秘密結社なのだから本来このエレベーターの利用も秘匿にすべきなのだがそういう時間も惜しい。
目の前の扉が開かれ、廊下が見えるとエリクスはすぐさま走った。
そして一際大きな応接室へ勢いよく入る。
分析班は集中していただけにその登場に目を見開く。
「少年!」
「す、すみません!お叱りは後で…!!」
スティーブンをよそにエリクスは精神世界へ入っている4名を見た。
「ヴァッシュ…」
エリクスはそう呼ぶ。目の前のスクリーンには、少女に寄り添おうとするヴァッシュの姿が映っていた。
「悪い、少し邪魔するよ」
目を閉じ、眠っているようなヴァッシュの後ろから両手で目を覆う。
何をしているのか、何をするのか。
わからないけれどそれを邪魔してはいけない神聖さがそこにあった。
「瀬香」
エリクスは呼びかけた。
一年と二ヶ月。探し続けた恋人は泣き腫らして健気に自分を待っていたのだと、胸が苦しくなる。
すっかり長くなった髪を見て申し訳なく思う。
呆然としている4名の間を抜けて見つめ合った。
瀬香はずっと一人で重たいものを抱えて、堪えていたのだ。
「ごめんね、ずっと、一人にさせて」
人一倍優しい心が、エリクスが惚れ込んだ心が真っ黒に染まっている。
何度も絶望したに違いない。それでもブラックホールを手放さずにいた。その事実と努力に報いたい。
「それと、いつも瀬香に辛い思いばかりさせて本当にごめん」
両手が瀬香の両頬を包むがもちろん触れられない。
大粒の涙が溶けていく。
「ぁ…う……」
「この後すぐ迎えにいくから
俺に場所を教えて」
瀬香は何度も頷く。涙を散らしながら必死に。
唇を震わせてずっとエリクスの赤いコートを抱きしめていた。
「待ってるね、ヴァッシュさん」
真っ黒な柔らかい髪だった。空虚な影に口付けながらそんな感触を思い出す。いつもそばにいて楽しそうに、一緒に子供みたくはしゃいで笑っていた思い出。
瀬香の心に庭園が戻る。
風がそよぎ木漏れ日の中で目を真っ赤にさせながら微笑む。
絶対に自分が迎えにいくのだと、こうなれば意地だった。
意識が本来の肉体に戻る。
急に動き出したエリクスにまた一同ぎょっとする。
「瀬香を迎えに行ってくる!!」
そうしてエリクスは飛び出したのだ。
人混みの中を黒い服の男が駆け抜ける。
それをウルフウッド、ダリ、ヴァッシュ、パドマは追いかけていた。
「どういうこと!?あの黒い人、だれ!?」
突然のことでまだ頭が回らないパドマ。なにせ先ほどまでブラックホールに呑まれる寸前だったのだから。
「あれはトンガリや!黒いけどな!」
「トンガリって…ここにいるのに!?」
「せやから、並行世界のトンガリっちゅーことやろ!」
「自分に会うなんてなんか変な感じ〜!」
自分とほぼ同じ存在がいるというのにヴァッシュはどこか浮かれている。ヴァッシュが二人もいるなんて、輪をかけて何か揉め事が起こりそうで遠慮してほしいものだと思わずにいられない。
「しかしあの娘は場所を何も言っておらぬぞ
黒いヴァッシュはどこに向かって…」
ダリはふと頭上にかかった影を見た。
それはとても大きく、霧に包まれ十分に日が差さないヘルサレムズ・ロットに“影”を落とすほどの存在感だった。
一同は顔を上げる。
「なんっっじゃあの羽は!!」
ウルフウッドのリアクションはもっとも。地上から空高く天へ向かって片翼が伸びていた。
誰もが足を止め、手を止めてその翼を見上げる。
純白のそれは霧の上を突き抜けていた。
そんな一行の横をスクーターが抜けていく。
エンジン音で我に帰ったパドマが乗っている主を見た。
「レオくんが黒いヴァッシュを追いかけてる!」
「オイ待てやー!!そのスクーター置いてけやーー!!」
「ウルフウッド!それは恫喝だよ!!」
すると後ろからさらに重厚なエンジン音を吹かしながら改造車がやってきた。
ギルベルトだ。
「みなさんお乗りください」
「ほう、これは気がきくのぅ」
ダリは我先にと助手席に乗り込んだ。
こうなればついていくしかない。混乱する状況をなんとか飲み込みながらリムジンのオープンカーに乗ればアクセルを全開にレオとエリクスを追いかける。
「執事のおっさん、あの黒いトンガリを知っとったんか」
「ええ、彼はエリクスと名乗り二ヶ月前にヘルサレムズ・ロットの病院前に行き倒れていたようです
今も病院に居ますが暇を見てはレオ様と行方不明の恋人を探しておりました」
静寂の中けたたましいエンジン音だけが聞こえる。
誰もがギルベルトの発言を信じられなかったのだ。
一同は一斉に声を上げた。
『恋人ォ!?』
「ええ、さようです」
そして金髪のヴァッシュに目を向ける。
向ける視線はさまざまだが、思わず降伏のポーズをした。
「ぼ、僕は何も知りません…」
「まぁ、並行世界なのじゃから当たり前…じゃがの…」
「あの平和ボケトンガリズムに恋人っちゅーのは………」
「ヴァッシュってやっぱり年下が好きなの?」
ギルベルトはレオを見つけた。みなさま、と声をかけると同時に横につける。
「ギルベルトさん!!」
そして途中で拾ったのであろう黒いヴァッシュはレオの後ろにいた。
「おい黒トンガリ!!ちゃんと説明せぇや!!」
巨大な翼を見ていたエリクスは声のする方へ顔を向ける。
「えっ………ウルフウッドォ!!?
嘘だろ、なんで!!?」
「ワイも最初からおったんや!!とにかく、アレどないするつもりや!!」
「わはーー!!ウルフウッド!!ウルフウッドだ!!」
「無視すんなや!!」
ダリは興奮するウルフウッドの頭を掴んで下へ押す。
埒が開かない状況に痺れを切らしたようだ。
「黒いヴァッシュとやら!
あの翼に例の娘がおるのか!」
エリクスは頷く。
さらにパドマはウルフウッドの背中を両手で押した。
「恋人ってあの女の子だよね!
あの場所から出してあげられるってこと!?」
「うん!とにかく俺がなんとかする!」
金髪のヴァッシュがさらに後ろからウルフウッドの腰を押した。
「じゃあ早く迎えに行かないとね!」
二人の同一人物は笑い合う。
だがつぶされまくったウルフウッドが唸りながら体を起こした。
「じゃかしーーっ!!
んならくっちゃべっとる場合か!!
はよ行くで!!」
羽の下は多くの野次馬が集まっている。
それだけではない、翼が一枚一枚純白の羽で出来ているせいか物珍しさに異界の住民がまとわりついていた。
そして集まるのは平凡な住民だけではない。
ギルベルトは人混みの手前で車を停める。
レオも同じく。
全員が車を降りると、街中の巨大テレビやラジオ、全てに同じ人物の姿と声が映し出された。
『やぁみんな相変わらず退屈な街で平凡に暮らしているねぇ』
「こ、こんな時に堕落王!!?」
レオとギルベルトが顔を顰めるのも無理はない。
わからないのはノーマンズランドからやってきた者のみだ。
『つまらないなー楽しいおもちゃはないかなーと思っていた矢先に!
あるじゃないかあるじゃないか!!僕のサイコーの暇つぶしが!!』
ノリノリの声が街中に轟く。
理解の早いヘルサレムズ・ロットの住民は巨大な翼から逃げていくか、面白半分興味半分で囃し立てている。
「なんじゃあのトンチキな仮面は」
画面の中の男は一つの駒を盤上に置いてみせた。
『というわけで早い者勝ちだ
悪く思わないでくれよ』
天から霧をかき分け現れたいくつもの異形のものたち。
人と形容するにはあまりにも歪で、天使というには醜悪であり悪魔と言うには滑稽な姿。
インスタントなモンスターたちは背中に爛れた翼を生やし、純白の翼を掴んで持ち上げようとした。
「瀬香!!」
エリクスは走る。白い巨大な翼まで700メートル。
駆けつける間に怪物の群れが一斉に引き上げた。
翼の根本から見えたのは同じく羽の集合体。何重にも固められた堅牢な檻のような球体だ。
「あの化け物を撃ち落としゃええ話や!」
ウルフウッドはパニッシャーを構えてすぐさま引き金を引いた。
もちろん弾丸はまっすぐ怪物を撃ち殺すのだが、抉られ千切れた肉塊が膨れ上がりまた別個体の化け物へと進化した。
「増えたんですけど!?」
「んなもんありか!!」
パドマも黒いヴァッシュを追って走り出す。
「パドマ!」
ヴァッシュは慌てて後を追いかける。
「中にあの子がいるなら、黒いヴァッシュが連れ出せばいいんだよね!
ならあの気持ち悪いのをどうこうするより羽にへばりついたほうが早いわ!」
「それはそうだけど…!」
二人は見上げる。
すでに羽の球体は空へと持ち上がっていた。
「いくら異形といえど何かしらの対処法があるじゃろう!」
「トンガリとドリル娘は黒いトンガリについてけ!
ワイらはこの化け物の気を引いたる!!」
「頼んだウルフウッド、ダリ!」
ウルフウッドはパニッシャーを逆さまに持ち直す。
そして別の銃口が開いた。
「去ね!!」
焼夷弾が化け物の群れに炸裂する。
飛び散った肉塊が再生し、分裂を開始する前にダリはそれを手のひらで粉砕した。
「再生する異形どもの数がおかしい
何か核でもあるのか…?」
もし千切れた肉ごとに増えるのだとしたら、今ダリが握りつぶした程度の数ではないはずだ。
直撃し肉が燃えたのなら話は別だが周囲の化け物たちはそうではないだろう。
「首元と鎖骨の間です!」
レオの声が響いた。
ウルフウッドとダリは少年を見るが、その瞳は今までに見たことがないほど酔狂な代物だった。
瞳に紋が浮かび化け物を1匹ずつ捉えてはその目に全ての情報を晒される。
神々の義眼という名称を知るのはまだ先のことだ。
秘密結社ライブラにいる以上ただの平凡ではいられないのだが、こうも異常性を見せつけられると文字通りの凡人はこの世界にいないと思えた。
「コアがあります!
それを潰せば分裂しないはずです!」
「んなら徹底的に撃ち込んだる!ダリ!行くで!!」
「誰に言うておる!童もしかとついて来い!!」
そんなウルフウッドとダリの耳に、音速でイヤホンを突っ込んでいく猿がいた。
ソニックだ。
それぞれ知らない感触に驚きながら鳥肌を立たせる。
特にダリは足元からシビビ、と固まり違和感で一瞬動けなくなったほど。
「なんやこれ!?」
『ちんたらしてる暇ないわよボクたち』
イヤホンから女の声がした。
その瞬間、空を駆け抜ける雷電の光。一本の矢、と言うよりは神の雷を思わせるほどの強烈な衝撃波だ。
954血弾格闘技
STRAFINGVOLT 2000
一体の化け物に当たれば電撃が派生していく。
強制的な電気信号による筋肉収縮と電圧による筋肉損傷を引き起こし次々と地面へ落ちていった。
『地面に落ちたのは任せるわ』
「K・Kさん!」
『レオっち、あんまり前に出るんじゃないわよ』
虫が力尽きて落ちている様を彷彿とさせる。
むしろ強力すぎる攻撃に後処理をさせられているのではないかと錯覚した矢先だ。
落とした化け物たちが一つに無理やり集められ、巨大な肉塊となる。
周囲のビル群に肉を糸状に張り巡らせてそこから先を塞いだ。さらに、弾丸のように液体を飛ばした。
ウルフウッドはレオの首根っこを掴んで後ろに放り投げる。
ふげぇ、と悲鳴をあげた後に己がいた場所を見ればアスファルトを溶かしていた。
「嫌な予感…」
レオがそう言うと肉塊からいくつもの眼球が浮かび上がる。
そして生命体を視認すると溶解液を絶え間なく放ち続けた。
「ドアァァア!!?」
『あら、やぶへびかしら』
今度はダリがレオを引きずりながら建物に隠れる。
ウルフウッドは反対側のトラックに身を潜めた。
「オイ!あの目ん玉の化け物もコアがあるんか!!」
「そりゃもうめちゃくちゃにありますね!!中でぐるぐるまわってます!!」
「ったくめんどくさいものを押し付けられたのう」
万事休すどころかやられそうなまである。
異界からきたモノ同士とはいえあちら側は何でもありだ。次から次にこちらの対策を講じて一歩上を行く。
「化け物退治にゃ本職がいんだよ!!」
二の足を踏んでいた一行を無視して飛び出したのは先ほどまで爆睡していたはずのザップ・レンフロだ。
「ザップさん!コア!!」
「わかってる!!」
続々と発射される溶解液を刀身で捌き、弾く。
そもそも発射スピードは弾丸と同じ。それを呼吸するかのように易々と流しているのだ。
「やっぱりコイツらでたらめーずやんけ!!」
『褒め言葉として受け取っておこうかしら』
「刃身ノ六──紅天突!」
赤い雨が降った。
小気味良くアスファルトを打つ音と同時に肉塊は動きを止めた。
そして、ひき肉になる。血がどろりと地表を汚し、もはやひき肉というよりただの液体となっている。
ウルフウッドとダリがドン引きしてもなお、さらにトドメを刺したのはスティーブンだ。
異形にまつわるものであれば全てを凍らせた。
「ザップ、油断するなよ」
「へいへい」
「このまま前線を追い上げる
堕落王は境界からホムンクルスを次々と投入している
ザップは遊撃隊だ、各所で暴れ回ってこい」
「っしゃあ!」
「異界組はK・Kの援護を受けながら羽の球体を追ってくれ
異常があれば報告を頼む」
「妾は小童の手下になった覚えはないぞ」
ダリの冷ややかな目にスティーブンの意味深な笑み。
ウルフウッドはため息をこぼしながらダリを担いだ。
「異常があれば報告はしたる
ただワイらはお前らの指示で武器は振るわん
ええな」
「それでいい」
「放せニコ!」
「ええからトンガリーズを追うで!」
敵は数を増やしている。
一種類だった敵が今やバリエーション豊富な様子に眩暈がした。
レオはスティーブンに手伝った方がいいかと尋ねたが首を横に振る。
「エリクスと一緒に恋人探しに付き合ってくれ
今は異界からきたメンバーもいる
人員としては十分だ」
「そうっすか…」
その会話をしたのは昨日、ライブラから自宅へ帰る間際のことだった。
毎日エリクスを病院まで出迎えるのだが、やはり重力異常の件が頭から離れない。早朝、スクーターでヴァッシュを迎えにいくとすっかり懐かれた子供たちと元気に遊んでいた。
「エリクスー!つぎこっちだよー!」
「次おれと遊ぶっていったもん!」
「そーだそーだ!」
毒気のない柔らかな笑顔に絆されるのは無理もない。
そして子供たちに無邪気に取り合いをされているのもエリクスにとっては嬉しそうだ。
「こらこらケンカするなよ」
頬を膨らませて怒る子供たちを撫でる。こうしていると本当にただの人のように見える。
レオはそんな光景を微笑みながら見ていた。
「あ、ごめんな
友人が来たから、また今度」
「えー!」「もういっちゃうのー!」
レオは軽く手を上げて近づく。
「エリクスともっとあそびたい!」
「ごめんね、エリクスさんは大事な用事があるんだ」
レオも腰をかがめて優しく諭す。それでも納得いかない様子だ。
「帰ったらまたたくさん遊ぼうな
約束」
ヴァッシュは小指を出した。レオも子供達もきょとんとする。
「約束する時は小指同士で握るんだ
俺の恋人が教えてくれた」
子供達は小さな小指をエリクスの小指に絡める。その小ささとあたたかさに、嬉しそうに笑っていた。
「今度は俺の旅の話をするよ
約束だ」
「エリクスの話すき!」「でっかい恐竜の話して!」
「うん、きっと」
そうして子供達は行儀良く病院の庭でまた遊び続ける。
エリクスの頬は緩みっぱなしだ。
「やっぱり子ども好きなんですね」
「ああ、うん…そうだね
子どもに限らず人は好きだけど」
スクーターのキーをポケットから取り出す。
レオはふと思い出した。ライブラの応接室で見た強烈な光を。
今目の前にいるエリクスとは光の強さは違うものの、放つ色彩、暖かさは同等だ。
つまりレオからすれば不思議なことに、ヴァッシュとエリクスは同一人物に見えている。
「あの、一つだけ」
「ん?」
「本当にエリクスって名前なんですか?」
それには薄く作り笑いを見せた。
しかしずっとレオと行動を共にしていただけに隠し切れないと思ったのだろう。
息をはいて軽く笑っていた。
「ごめん、騙していたわけじゃないんだ
でもどうして?」
「今、似てる人がいるんです
その人はヴァッシュっていうんですけど…」
「そっかぁ…その異界から来たって人たちのことか
うん、俺自身じゃないけどきっとどこか違う方向の俺だ」
「驚かないんスね…」
レオはスクーターに腰を下ろす。
エリクスも同じように後部にもたれた。
「ない話じゃないなって思っただけだ
どうしてそうなっているのかわからないけど…その重力異常も少なからず俺たちが原因かもしれない」
「そうなんですか?」
「うん…でもひとまず俺は瀬香を探さないと、どうにも前に進めないんだ
悪い、レオ」
きっと半身をもがれている気分なのだろう。
子どもたちと遊んでいる時はその気配を潜めていたが、今はまた悲痛の面持ちでいる。
「でも、重力異常の手がかりが見つかったそうなんです
それこそ今、作戦決行の準備をしてます」
「念の為聞いてみたいけど、やっぱダメかな」
「俺も少ししか聞いてないんですけど、ザップさん曰く、女の子がいたって言ってました」
俯いて地面ばかり見ている視線。
それが上がった。目を見開いて、前髪の隙間からジェードグリーンの瞳が見える。
「女の子…」
「どんな背格好かわかりませんけど、しかもいるところが特殊で…電子空間ってわかります?
そこにいたらしいです
流石にセラカさんじゃないと思って…」
「ごめん、そのライブラに俺も連れてってくれないか」
「へ!?」
どういうことなのだろうか。
レオはイマイチ現状が理解できない。
そもそも話を聞く分に瀬香という少女はただの女の子だ。特殊な技能も、レオのように代償を差し出して何かを得たわけではない。
だからこそ瀬香はヘルサレムズ・ロットという現世の街にいると思っていた。
「頼む、今すぐ」
だがエリクスの目は今まで以上に生気がある。希望を見出し、前をしっかり見ていた。
初めての様子に頷くほかない。
「わ、わかりました」
レオは後ろにエリクスを乗せてすぐさまライブラへ向かった。朝のラッシュもレオは道を迂回しながら飛ばす。
結果的に今までの最短時間でライブラ前に辿り着いていた。
「こっちです!」
レオを先頭にエレベーターに乗る。
秘密結社なのだから本来このエレベーターの利用も秘匿にすべきなのだがそういう時間も惜しい。
目の前の扉が開かれ、廊下が見えるとエリクスはすぐさま走った。
そして一際大きな応接室へ勢いよく入る。
分析班は集中していただけにその登場に目を見開く。
「少年!」
「す、すみません!お叱りは後で…!!」
スティーブンをよそにエリクスは精神世界へ入っている4名を見た。
「ヴァッシュ…」
エリクスはそう呼ぶ。目の前のスクリーンには、少女に寄り添おうとするヴァッシュの姿が映っていた。
「悪い、少し邪魔するよ」
目を閉じ、眠っているようなヴァッシュの後ろから両手で目を覆う。
何をしているのか、何をするのか。
わからないけれどそれを邪魔してはいけない神聖さがそこにあった。
「瀬香」
エリクスは呼びかけた。
一年と二ヶ月。探し続けた恋人は泣き腫らして健気に自分を待っていたのだと、胸が苦しくなる。
すっかり長くなった髪を見て申し訳なく思う。
呆然としている4名の間を抜けて見つめ合った。
瀬香はずっと一人で重たいものを抱えて、堪えていたのだ。
「ごめんね、ずっと、一人にさせて」
人一倍優しい心が、エリクスが惚れ込んだ心が真っ黒に染まっている。
何度も絶望したに違いない。それでもブラックホールを手放さずにいた。その事実と努力に報いたい。
「それと、いつも瀬香に辛い思いばかりさせて本当にごめん」
両手が瀬香の両頬を包むがもちろん触れられない。
大粒の涙が溶けていく。
「ぁ…う……」
「この後すぐ迎えにいくから
俺に場所を教えて」
瀬香は何度も頷く。涙を散らしながら必死に。
唇を震わせてずっとエリクスの赤いコートを抱きしめていた。
「待ってるね、ヴァッシュさん」
真っ黒な柔らかい髪だった。空虚な影に口付けながらそんな感触を思い出す。いつもそばにいて楽しそうに、一緒に子供みたくはしゃいで笑っていた思い出。
瀬香の心に庭園が戻る。
風がそよぎ木漏れ日の中で目を真っ赤にさせながら微笑む。
絶対に自分が迎えにいくのだと、こうなれば意地だった。
意識が本来の肉体に戻る。
急に動き出したエリクスにまた一同ぎょっとする。
「瀬香を迎えに行ってくる!!」
そうしてエリクスは飛び出したのだ。
人混みの中を黒い服の男が駆け抜ける。
それをウルフウッド、ダリ、ヴァッシュ、パドマは追いかけていた。
「どういうこと!?あの黒い人、だれ!?」
突然のことでまだ頭が回らないパドマ。なにせ先ほどまでブラックホールに呑まれる寸前だったのだから。
「あれはトンガリや!黒いけどな!」
「トンガリって…ここにいるのに!?」
「せやから、並行世界のトンガリっちゅーことやろ!」
「自分に会うなんてなんか変な感じ〜!」
自分とほぼ同じ存在がいるというのにヴァッシュはどこか浮かれている。ヴァッシュが二人もいるなんて、輪をかけて何か揉め事が起こりそうで遠慮してほしいものだと思わずにいられない。
「しかしあの娘は場所を何も言っておらぬぞ
黒いヴァッシュはどこに向かって…」
ダリはふと頭上にかかった影を見た。
それはとても大きく、霧に包まれ十分に日が差さないヘルサレムズ・ロットに“影”を落とすほどの存在感だった。
一同は顔を上げる。
「なんっっじゃあの羽は!!」
ウルフウッドのリアクションはもっとも。地上から空高く天へ向かって片翼が伸びていた。
誰もが足を止め、手を止めてその翼を見上げる。
純白のそれは霧の上を突き抜けていた。
そんな一行の横をスクーターが抜けていく。
エンジン音で我に帰ったパドマが乗っている主を見た。
「レオくんが黒いヴァッシュを追いかけてる!」
「オイ待てやー!!そのスクーター置いてけやーー!!」
「ウルフウッド!それは恫喝だよ!!」
すると後ろからさらに重厚なエンジン音を吹かしながら改造車がやってきた。
ギルベルトだ。
「みなさんお乗りください」
「ほう、これは気がきくのぅ」
ダリは我先にと助手席に乗り込んだ。
こうなればついていくしかない。混乱する状況をなんとか飲み込みながらリムジンのオープンカーに乗ればアクセルを全開にレオとエリクスを追いかける。
「執事のおっさん、あの黒いトンガリを知っとったんか」
「ええ、彼はエリクスと名乗り二ヶ月前にヘルサレムズ・ロットの病院前に行き倒れていたようです
今も病院に居ますが暇を見てはレオ様と行方不明の恋人を探しておりました」
静寂の中けたたましいエンジン音だけが聞こえる。
誰もがギルベルトの発言を信じられなかったのだ。
一同は一斉に声を上げた。
『恋人ォ!?』
「ええ、さようです」
そして金髪のヴァッシュに目を向ける。
向ける視線はさまざまだが、思わず降伏のポーズをした。
「ぼ、僕は何も知りません…」
「まぁ、並行世界なのじゃから当たり前…じゃがの…」
「あの平和ボケトンガリズムに恋人っちゅーのは………」
「ヴァッシュってやっぱり年下が好きなの?」
ギルベルトはレオを見つけた。みなさま、と声をかけると同時に横につける。
「ギルベルトさん!!」
そして途中で拾ったのであろう黒いヴァッシュはレオの後ろにいた。
「おい黒トンガリ!!ちゃんと説明せぇや!!」
巨大な翼を見ていたエリクスは声のする方へ顔を向ける。
「えっ………ウルフウッドォ!!?
嘘だろ、なんで!!?」
「ワイも最初からおったんや!!とにかく、アレどないするつもりや!!」
「わはーー!!ウルフウッド!!ウルフウッドだ!!」
「無視すんなや!!」
ダリは興奮するウルフウッドの頭を掴んで下へ押す。
埒が開かない状況に痺れを切らしたようだ。
「黒いヴァッシュとやら!
あの翼に例の娘がおるのか!」
エリクスは頷く。
さらにパドマはウルフウッドの背中を両手で押した。
「恋人ってあの女の子だよね!
あの場所から出してあげられるってこと!?」
「うん!とにかく俺がなんとかする!」
金髪のヴァッシュがさらに後ろからウルフウッドの腰を押した。
「じゃあ早く迎えに行かないとね!」
二人の同一人物は笑い合う。
だがつぶされまくったウルフウッドが唸りながら体を起こした。
「じゃかしーーっ!!
んならくっちゃべっとる場合か!!
はよ行くで!!」
羽の下は多くの野次馬が集まっている。
それだけではない、翼が一枚一枚純白の羽で出来ているせいか物珍しさに異界の住民がまとわりついていた。
そして集まるのは平凡な住民だけではない。
ギルベルトは人混みの手前で車を停める。
レオも同じく。
全員が車を降りると、街中の巨大テレビやラジオ、全てに同じ人物の姿と声が映し出された。
『やぁみんな相変わらず退屈な街で平凡に暮らしているねぇ』
「こ、こんな時に堕落王!!?」
レオとギルベルトが顔を顰めるのも無理はない。
わからないのはノーマンズランドからやってきた者のみだ。
『つまらないなー楽しいおもちゃはないかなーと思っていた矢先に!
あるじゃないかあるじゃないか!!僕のサイコーの暇つぶしが!!』
ノリノリの声が街中に轟く。
理解の早いヘルサレムズ・ロットの住民は巨大な翼から逃げていくか、面白半分興味半分で囃し立てている。
「なんじゃあのトンチキな仮面は」
画面の中の男は一つの駒を盤上に置いてみせた。
『というわけで早い者勝ちだ
悪く思わないでくれよ』
天から霧をかき分け現れたいくつもの異形のものたち。
人と形容するにはあまりにも歪で、天使というには醜悪であり悪魔と言うには滑稽な姿。
インスタントなモンスターたちは背中に爛れた翼を生やし、純白の翼を掴んで持ち上げようとした。
「瀬香!!」
エリクスは走る。白い巨大な翼まで700メートル。
駆けつける間に怪物の群れが一斉に引き上げた。
翼の根本から見えたのは同じく羽の集合体。何重にも固められた堅牢な檻のような球体だ。
「あの化け物を撃ち落としゃええ話や!」
ウルフウッドはパニッシャーを構えてすぐさま引き金を引いた。
もちろん弾丸はまっすぐ怪物を撃ち殺すのだが、抉られ千切れた肉塊が膨れ上がりまた別個体の化け物へと進化した。
「増えたんですけど!?」
「んなもんありか!!」
パドマも黒いヴァッシュを追って走り出す。
「パドマ!」
ヴァッシュは慌てて後を追いかける。
「中にあの子がいるなら、黒いヴァッシュが連れ出せばいいんだよね!
ならあの気持ち悪いのをどうこうするより羽にへばりついたほうが早いわ!」
「それはそうだけど…!」
二人は見上げる。
すでに羽の球体は空へと持ち上がっていた。
「いくら異形といえど何かしらの対処法があるじゃろう!」
「トンガリとドリル娘は黒いトンガリについてけ!
ワイらはこの化け物の気を引いたる!!」
「頼んだウルフウッド、ダリ!」
ウルフウッドはパニッシャーを逆さまに持ち直す。
そして別の銃口が開いた。
「去ね!!」
焼夷弾が化け物の群れに炸裂する。
飛び散った肉塊が再生し、分裂を開始する前にダリはそれを手のひらで粉砕した。
「再生する異形どもの数がおかしい
何か核でもあるのか…?」
もし千切れた肉ごとに増えるのだとしたら、今ダリが握りつぶした程度の数ではないはずだ。
直撃し肉が燃えたのなら話は別だが周囲の化け物たちはそうではないだろう。
「首元と鎖骨の間です!」
レオの声が響いた。
ウルフウッドとダリは少年を見るが、その瞳は今までに見たことがないほど酔狂な代物だった。
瞳に紋が浮かび化け物を1匹ずつ捉えてはその目に全ての情報を晒される。
神々の義眼という名称を知るのはまだ先のことだ。
秘密結社ライブラにいる以上ただの平凡ではいられないのだが、こうも異常性を見せつけられると文字通りの凡人はこの世界にいないと思えた。
「コアがあります!
それを潰せば分裂しないはずです!」
「んなら徹底的に撃ち込んだる!ダリ!行くで!!」
「誰に言うておる!童もしかとついて来い!!」
そんなウルフウッドとダリの耳に、音速でイヤホンを突っ込んでいく猿がいた。
ソニックだ。
それぞれ知らない感触に驚きながら鳥肌を立たせる。
特にダリは足元からシビビ、と固まり違和感で一瞬動けなくなったほど。
「なんやこれ!?」
『ちんたらしてる暇ないわよボクたち』
イヤホンから女の声がした。
その瞬間、空を駆け抜ける雷電の光。一本の矢、と言うよりは神の雷を思わせるほどの強烈な衝撃波だ。
954血弾格闘技
STRAFINGVOLT 2000
一体の化け物に当たれば電撃が派生していく。
強制的な電気信号による筋肉収縮と電圧による筋肉損傷を引き起こし次々と地面へ落ちていった。
『地面に落ちたのは任せるわ』
「K・Kさん!」
『レオっち、あんまり前に出るんじゃないわよ』
虫が力尽きて落ちている様を彷彿とさせる。
むしろ強力すぎる攻撃に後処理をさせられているのではないかと錯覚した矢先だ。
落とした化け物たちが一つに無理やり集められ、巨大な肉塊となる。
周囲のビル群に肉を糸状に張り巡らせてそこから先を塞いだ。さらに、弾丸のように液体を飛ばした。
ウルフウッドはレオの首根っこを掴んで後ろに放り投げる。
ふげぇ、と悲鳴をあげた後に己がいた場所を見ればアスファルトを溶かしていた。
「嫌な予感…」
レオがそう言うと肉塊からいくつもの眼球が浮かび上がる。
そして生命体を視認すると溶解液を絶え間なく放ち続けた。
「ドアァァア!!?」
『あら、やぶへびかしら』
今度はダリがレオを引きずりながら建物に隠れる。
ウルフウッドは反対側のトラックに身を潜めた。
「オイ!あの目ん玉の化け物もコアがあるんか!!」
「そりゃもうめちゃくちゃにありますね!!中でぐるぐるまわってます!!」
「ったくめんどくさいものを押し付けられたのう」
万事休すどころかやられそうなまである。
異界からきたモノ同士とはいえあちら側は何でもありだ。次から次にこちらの対策を講じて一歩上を行く。
「化け物退治にゃ本職がいんだよ!!」
二の足を踏んでいた一行を無視して飛び出したのは先ほどまで爆睡していたはずのザップ・レンフロだ。
「ザップさん!コア!!」
「わかってる!!」
続々と発射される溶解液を刀身で捌き、弾く。
そもそも発射スピードは弾丸と同じ。それを呼吸するかのように易々と流しているのだ。
「やっぱりコイツらでたらめーずやんけ!!」
『褒め言葉として受け取っておこうかしら』
「刃身ノ六──紅天突!」
赤い雨が降った。
小気味良くアスファルトを打つ音と同時に肉塊は動きを止めた。
そして、ひき肉になる。血がどろりと地表を汚し、もはやひき肉というよりただの液体となっている。
ウルフウッドとダリがドン引きしてもなお、さらにトドメを刺したのはスティーブンだ。
異形にまつわるものであれば全てを凍らせた。
「ザップ、油断するなよ」
「へいへい」
「このまま前線を追い上げる
堕落王は境界からホムンクルスを次々と投入している
ザップは遊撃隊だ、各所で暴れ回ってこい」
「っしゃあ!」
「異界組はK・Kの援護を受けながら羽の球体を追ってくれ
異常があれば報告を頼む」
「妾は小童の手下になった覚えはないぞ」
ダリの冷ややかな目にスティーブンの意味深な笑み。
ウルフウッドはため息をこぼしながらダリを担いだ。
「異常があれば報告はしたる
ただワイらはお前らの指示で武器は振るわん
ええな」
「それでいい」
「放せニコ!」
「ええからトンガリーズを追うで!」
敵は数を増やしている。
一種類だった敵が今やバリエーション豊富な様子に眩暈がした。