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Touch wood

ここは混沌と言うにふさわしいヘルサレムズ・ロット。
元々はニューヨークという地名だったが一夜にして変貌を遂げた魔境の地。
境界の向こうから平然と世界を壊しにくる存在を阻止するため秘密結社ライブラは今日も動いている、のだが。

「おいし〜〜〜っ!」

ヴァッシュは頬いっぱいにドーナツを食べている。
パドマもダリも、それぞれ選んだドーナツを食べている。その二人の様子だけ見るなら年相応の少女たちに見える。

ウルフウッドは相変わらずタバコを吸って平凡…のような大通りに目を向けた。
案内役のチェインとツェッドは何でもなさそうに気にしていない。

というのも、やはり人のカタチをしていない存在が多いのだ。

「夢やないかとたまに思うんや」
「残念じゃのうニコ、ドーナツを受け付けない体になってしもうて」
「ドーナツはええねん別に」

一行は重力異常の原因特定と、元の世界に戻る手がかりを探して街へ繰り出している。
だが何の手がかりもない以上は手詰まりである。
なのでこうしてドーナツに興じている。

「慣れも大切だぞウルフウッド〜」
「そーだそーだ」
「むしろ平然としとんのもおかしいやろ」

それはそうなのだが、考えたってキリがない。
だから観光のようにのんびりカフェにいる。

「しかし何の糸口も見つからんとは難儀なものじゃ」

アイスティーを飲み終えたチェインは一行に口を挟む。

「何もないわけでは
重力異常は増え続けています
一日経つごとに“同じ箇所に“何度も出現しては消滅を繰り返しているのでこのまま検知を続ければ次の予知もある程度可能になります」

「次の、って?重力異常?」

パドマの質問に答えるツェッド。
それはこの先の未来に起こりる得る現実だ。

「次の重力増加です」

現在の重力は通常の3倍。
次の重力増加が始まれば間違いなく弱い存在は重さに耐えきれず死に向かう。
小動物だけではない、子供ですらその対象だ。

「っていっても僕らにとってはぜーんぜん軽いけど、本来はもっと軽いってこと?」
「ちょっと羨ましいかも」

ツェッドは人ならざる者なりに”怪訝な表情“をしながら問う。

「軽い…のですか?
そちらはどのくらい重力があったんですか」

ウルフウッド、ダリ、パドマは首を捻る。知らない、というよりそれが普通なので比べようも無い。
そんな中ヴァッシュが答えを出した。

「一説には地球の10倍とは言われてるね」

「じゅっ…」「10倍、ですか」

「だからここにきた時びっくりしたんだよ〜!すっごく体が軽くてさぁ!!」

逆に帰った後のことがかなり心配ではあるが、そこは帰る方法が見つかった時の贅沢な悩みというやつだ。
目の前の一行は頭では分かっていたが別世界の人間。肌で感じ取った。

「あれ、ツェッドさんチェインさん
それと昨日の
カフェにいるなんて奇遇ですね」

やってきたのは昨日の青年、レオナルド・ウォッチだ。
どうも、とそれぞれ挨拶をする。
とりわけ仲がいいツェッドは席を立った。

「捜索をしているのですよね
彼は?」
「少しベンチで休んでもらってます
2ヶ月入院していたせいか体力がかなり落ちてるみたいです
俺も休憩で一緒にドーナツを食べようかと」
「そうですか、恋人さん見つかるといいですね」
「はい、本当に…
それと、そっちの重力異常の件はどうなんですか?」

皆肩をすくめて首を横に振るばかり。
なかなか悪戦苦闘しているようだ。

「ならゲーセンはどうっすか?
意外と現場だけじゃなくて、人がいろいろ知ってることもありえるし」
「一理ありますね
チェインさんどうします」
「ここで暇を潰しても仕方ないわね、レオの言う通り聞き込み調査に移りましょう」

レオはドーナツを買ってカフェを後にする。
そして一行がやってきたのはゲーセン…正式名称はゲームセンター。
店の入り口だと言うのにガヤガヤとした音が聞こえる。
ダリは反射的に耳を抑えた。

「ぬう…ここは思念が多いようじゃ」
「ダリちゃん大丈夫?」

心配そうに見つめる。人でないだけあって別の感受体があるのだと察した。

「すまんが妾はここにおる」
「なんやダリ、そんなにやばいんか」
「やばい以前に煩いのじゃ
思念すら聞きたくもないのに入ってくる
慣れたら後を追う故さっさと行け」

と言うものの一人は流石に危ない。例えこの見た目少女が想定以上に歳をとっていて、怪力で、思考回路が人そのものではないにしても。
ヘルサレムズ・ロットは何が起こるかわからないのだから。

「なら僕がついておきます
皆さんは中へ」
「おん、堪忍な」
「ダリちゃん無理しなくていいからね」

チェインは残りのメンバーをお守りするため先頭を行く。
余計なことはあまりしないように、と注意されていたが素直に聞くメンバーでもない。

最後尾のヴァッシュはダリを見て腰をかがめた。

「ここに来てから思念を感じ取りやすくなってる?」
「…そういうわけでもない
そもそもこの街は人口が多すぎる故、飛び交う思念が多いだけじゃ」
「そう…パドマちゃんも言ってたけど、無理するなよ」

ヴァッシュはゲーセンの中へ入っていく。
そう、ヴァッシュの言う通りここに来てから雑音のような思念が飛び交っているせいか、いつもより感じ取りやすくなっているのは事実。それが誰なのか、何を伝えたいのかはわからない。
ただ不快で面倒なだけなのだ。

「あのヴァッシュ、という方も
少なからず人ではないのでしょうね」

ダリは何も言わない。
その情報を与える必要がないからだ。
ツェッドは感じ取ってしまう。自分以外の種族がいない、同一の体を持つ存在がいないことの空虚さを。
しかしそれでも己と共通点があることを知っていた。

「けれどあなた達は、人間に心を預けている」
「なんじゃ、それ」
「僕の他愛無い直感です」
「そりゃ難儀な直感じゃ」

どうでもいいことだ。
けどその言葉で一蹴するほどのものでもない。
ダリはツェッドの雑談を耳にしてヘルサレムズ・ロットの通りをじっと眺めた。


聞きなれない音。決して自然界では生み出されるはずのないものは一行の聴覚を刺激していく。

「ゲーセンて賭博かと思うとったが…」
「文字通りのゲームってこと!?あ!ぬいぐるみー!」
「かわいい〜!ねぇチェインさん遊んで良い?」

観光客と同じリアクションでチェインはため息をつく。しかし騒音に紛れて3人に聞こえるはずもなかった。

「こういうこともあろうかとミスタークラウスからお小遣いをもらってます」
「おこづかい」「ガキかワイら」「まぁまぁ、気を遣ってくれてるってことだろ?」

ゲーセンの中に設置されているゲームはほとんどがワンコインで遊べるものらしい。
それぞれ5枚の貨幣を渡された。
パドマはお金を貰い、元気よく感謝した後に早速クレーンゲームへ向かった。
ヴァッシュもその後を追いかける。

「にしても随分気前のいいリーダーなんやな」
「ミスタークラウスは外見で勘違いされやすいだけで優しい方なので」
「ほんまやな」

ウルフウッドの手のひらの貨幣を見て握りしめる。

「まぁせっかくやから甘えとこか
なんやおもろいもん知っとるか?」
「ええまぁ
あれなんかいいんじゃないですか?
ドライビングゲームです」

チェインが指差す先には何やら重々しい機械が設置されたブース。
見たこともないものなので思わず腰が引けるがここで怖気付いても仕方がない。
むしろ今までのウルフウッドの人生のほうが過酷なことを経験している。

「ワイはここで暇潰しとる
すまんがトンガリとドリル娘についとってくれへんか」
「それはいいんですけど…一つ質問をしていいですか」
「なんや?」

ウルフウッドは椅子に座る。
手足を所定の位置に置き、頭に何やら機械を乗せるらしい。
ドライビングゲームと言いながらハンドルがない点は不思議だがやってみればわかるだろう。

「あなた達の元の世界は重力が10倍
それに過酷なものだと聞いています
その世界に本気で戻りたいのですか?」
「なんや当たり前やろ
ワイだけやない、他の奴らも断言するはずや」
「どうして」
「やらなあかんことがある
それは命を賭してでも」

ウルフウッドは手のひらの貨幣をもう一度見る。
擦れる金属音が妙に耳に残った。

「ダリ、パドマもそうだと?」
「そや
ドリル娘のことは詳しくは知らん
けど別の俺とトンガリについていく女や
まともなはずあらへんで」

犬歯を見せながら笑う。
そうやって生きていくのだろう。彼らはこれからも。
チェインはやはり過酷な世界に戻りたい気持ちがわからないと思いながらも微かに笑った。

「野暮なこと聞いたみたいで、すみません
それじゃあ面倒ごと起こさないようお願いします」
「おー」

チェインはそのままクレーンゲームに熱中する二人の元へ向かった。
やはり難しいらしく、パドマは唸ってはクレーンの位置を操作していた。

「ああ、そうだ
一応注意書きは読んでいた方がいいですよ」
「注意書き?」

指差す先は手のひらサイズのシール。
そこには三角形の黄色いマークがあった。
黒字で「danger」と書かれている。

「え…デンジャー…?」

ヴァッシュがヒクヒクと口角を引き攣らせる。
するとパドマが悲鳴を上げた。

「うぎゃあああ!!?」

すぐさまヴァッシュに抱きつく。
なんの変哲もないクレーンゲームだったはずがクレーンからイソギンチャクのような触手が生え、うねうねと動いていた。

「ヒッ…!?なに!?何コレ!?」

触手はパドマの顔を見るや否や、ガラスに向かって勢いよく張り付く。
条件反射で2丁拳銃を引き抜いたがヴァッシュが咄嗟に腕を押さえる。

「ダメダメダメ!!!撃ち抜いちゃダメだよパドマちゃん!!!」
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い」

半無理やり銃を下ろしてヴァッシュに抱きつく。
チェインは未だ粘液を撒き散らしながら蠢くクレーンを見ていた。

「異界のクレーンが寄生してたみたいですね
他のゲームしたほうがいいかと」
「クレーンが寄生!?」「異界!?異界ってこんなのばっかなの!?」

ここは異界の交差点、ヘルサレムズ・ロット。こんなことなどまだまだ序の口だった。
二人はすっかり萎縮し互いに抱きしめ合ってチェインの後についていく。

「ここらへんはシューティングゲームが多いし安全なものもあるはずなので」
「ハズって…」

するとパドマは明るい声を出してヴァッシュから離れた。
向かった先はガンシューティング。銃と馴染み深い彼らにとってはやりやすいゲームのひとつだ。

「これならできそうじゃない?一緒にやってみない?」
「うん、そうだね…あ、二人でできるみたいだよ」
「やったー!」

うんうん、とチェインも頷く。
これならワンゲームで終わるだろう。そんな予想をしていた矢先だった。

鈍い音を立てながらヴァッシュとパドマの周囲に光の壁が迫り上がった。

「へ!?へぁ!?」「何コレ次はなんなのー!?」

dead or arriveの電光掲示。さらに何の説明もなくカウントダウンが始まる。
チェインに助けを求めようとするが、光の壁より向こうは出られない。
つまり脱出できなかった。

「ウソォ!!」
「パドマ!」

咄嗟にヴァッシュが叫ぶ。
パドマが正面を見た時には画面から銃を向けられていた。
実際によく耳にする銃声が響く。
これは本物だと理解したのと着弾はどちらが早いだろうか。

そのコートの襟をチェインが引っ張った。
弾丸は光の壁に着弾し吸い込まれた。

「あ、ありが…」
「それより前!」

つまり本物の銃撃戦ゲーム。
着弾すればケガとして残るしゲームオーバーは即ち死だった。
備え付けの銃をヴァッシュとパドマは構えて撃つ。
幸い残弾数は全て無限だったようだが、そんなところで親切心を出されても困る。

「これ!どうすればゲームクリアになるの!?」
「二人で敵を倒せばいいみたい!」

敵、とは画面の向こうに映る男たちのことを指している。画面右端にはヴァッシュが銃を放つ度にカウントが減っていく。
残りのカウントは83

「100人倒せってことォ!?」
「バカでしょコレ!!」

口ではなんとか言いつつも二人は怒涛の勢いでムダ撃ちなどせず敵を殲滅していく。
K・Kと渡り合ったことからヴァッシュの腕は周知されていたがパドマもまた非凡な才を持つ人物であると知らされる。

「最後!」

ヴァッシュはパドマの画面に映る男を撃った。
右肩に当たり、ダメージを受けるモーションが入る。
しかし当たり判定と射撃判定に差が発生したのか、殺られているのに弾丸が飛んできた。

それも見落とさない。

気を抜くことなくパドマに向かう弾丸を弾丸で撃ち落とす。

GAME CLEARの電光掲示。二人はそれをみて同じくへたり込む。
光の壁はとっくに消えていた。

「ふぇえ〜〜ん!!ヴァッシュ〜〜!!」
「パドマちゃ〜ん!!」

二人はまた抱きしめ合う。
無事生還しただけに二人の達成感もひとしおだ。

「もう出よう!今すぐ出よう!!」
「ダメに決まってるじゃないですか」
「パドマちゃんがこんなにべしょべしょに泣いてるのに!?」
「言うほど泣いてないですよ」

チェインの言葉にヴァッシュはパドマをより撫でて慰める。
ともあれまともなゲームセンターではないことは把握してくれたようだ。チェインはまた二人を引き連れて聞き込み調査に入るかと、店内に目星をつけた。

「なんじゃ、二人して抱き合っとるんじゃ」
「聞いてよダリちゃーん!」

ヴァッシュから次はダリへ抱きつく。
あんなに縋られていたのにあっさり離れられたヴァッシュは少し肩を落としていた。
先ほどの命懸けのゲームの話をして怖かったと小さく泣いている。ダリも話半分に頷いて好きなだけ抱きしめられていた。

「ところでウルフウッドさんの姿が見えませんが」

ダリの後ろからついてきていたツェッド。チェインが指させば「ああ」と言った。

「なんじゃ、童なりにげぇむをしておるのか」
「あれは異界の技術を取り入れた精神投影型のゲームですね
平たく言えば、精神をゲームに入れて仮想空間で好きなように動ける代物です」

レオがたまにやっているらしい。
ツェッドはしたことがないらしいがザップは当初こそハマり、やりこんでいたようだ。しかし持ち前の精神力と反射神経で全てのステージをクリアしてしまい、すっかり飽きたのだと言う。

ウルフウッドが座る席の後ろで一行は画面を見る。映し出される画面はウルフウッドが見ている視界を出されていた。

「あ!ウルフウッドがコースアウトした!」
「せっかく1位だったのにもうビリだよ!」

ヴァッシュとパドマはすっかり観客になっている。
操作している本人は精神が仮想空間にあるためか体はうんともすんとも言わない。

ダリが顔を顰めた。

「う……雑音め…」

思念の声がノイズとなって勝手にダリの耳に届く。
こんなことはノーマンズランドで一度もなかった。無理やり聴覚機能を広げられているようで不愉快だ。

「ダリちゃん、少し外に出る?」
「…そうじゃの、やはり肌に合わぬようじゃ」

ダリとパドマは同時に背を向ける。
するとツェッドは急に声を上げた。

「待って!何かが変です」

ダリはすぐ振り返り、画面を見る。
そこに映っているのはレース中の画面などではない。
何もない0の世界で赤いコートがはためいている。

直感がざわめく。そこはまだ踏み入れるべきではない場所だ。

「戻れニコラス!!」

ダリが叫んでも聞こえるはずがない。
ウルフウッドはそのまま赤いコートを持つ子供に近づいている。
このまま放っておけば面倒なことが起こる。それだけは確かだった。

ダリは隣の席に座り、勝手にヴァッシュのポケットからコインを取り上げた。

「ダリ!?何すんの!?」
「童を引きずり戻す!!」

すぐ隣で同じゲームをするとはいえ個別の仮想空間だ。ウルフウッドの元にいけるはずもないのだが、ダリなら手がかりがある。

機械を頭に被せてダリは文字通り意識に潜り込む。
0と1だけの表示など全てを薙ぎ倒し、無理やり空間を開いた。

いわゆる仮想空間を統括するマザーボードの処理システム空間。
瞬く間にたどり着いたのだ。


ウルフウッドは余興と思いながら厚意に沿ってゲームをしていた。たったそれだけなのだが突如ハンドルが吸い込まれたかのようにコースの外に投げ出された。

体の痛みはない、だが違和感に意識が警戒を促す。
割れた空間を見ながら立ち上がるとウルフウッドの後ろには膝を抱えた子供がいた。
いや、子供なのだろうか。赤いコートをはためかせ、膝を抱えているように見える。

「なんでガキがこんなところにおるんや…?」

恐る恐る近づく。
子供はしゃくりあげて泣いていた。
さらに、持っている赤いコートは否が応でも見覚えがある。

「おい、嬢ちゃん
そのコートどこで拾うたんや」

声をかける。
子供は顔を上げた。長い髪は顔を覆い隠すほど伸びている。
しかしウルフウッドを見上げるために上げた時、前髪が左右に溢れて表情がようやく見えた。


左目は深い黒。右目はどこかで見た空のような瞳。
ジェードグリーンを抱える瞳にギョッとした。

「まぼろし、また、まぼろし
いらない、いらない!!今忙しい!!無理なんよもう!!」
「は!?」
「必死なんよ!集中するのに!!なんべん言ったらわかんの!?」
「ちょ、ちょい落ち着けや
そのコートは何なんやって聞きた…」
「どうせならヴァッシュさんの姿で出てきてよ!!ウルフウッドで出てくるなんて嫌味やろ!!うう、くそ、もうやだ、どれだけ待てばいいの!?こんな、こんな幻覚!!もう死にたくなる!!」

何故名前を知っているのか。その理由を問いただすため口を開こうとしたが、コートの内側から光の粒が出てきた。

「あ、ああ!!だめ!!もう!!どうすればいいか…わかんないよ!!」

光の粒は少しずつ大きくなる。
髪の長い子供を覆い隠した上でさらにウルフウッドにも。
それが一体何なのかわからず見ていると、急に首根っこを掴まれた。

「うげぇ!?」
「この愚か者!!逃げるぞ!!」
「は!?そん声はダリ………………」

首を掴んだ主はウルフウッドとほぼ同等の背丈の美女。
切れ長の目つきだけで人が死んでしまうのではないかと言うほど、異形の目をしていた。
さらに輝く銀髪に目を見開くしかない。

「おま、ダリか!?」
「当たり前じゃろ呆けおって!!
それより走れ!!」

空間の外へ出て通常の仮想空間へ戻るが光は膨れ上がる。
そして空間をも飲み込み、ひび割れていった。
あらためてウルフウッドは状況を察してゲーム内の車に乗る。
ダリが助手席に乗ったのを確認して飛ばす。

「このげぇむくりあ条件はなんじゃ!?」
「コースクリアや!」
「じゃあはよ飛ばせ!」
「もうやっとる!!」

圧殺する光が迫る。スピードを上げるほどに、光が追い上げていた。
偽物の空が割れてガラスのように落ちている。

遠くにGoleの文字。
すでに最大スピードだ。それでもなお光が車の後部を侵食した。
タイヤがダメになる前に二人同時に立ち上がる。
ボンネットを蹴り付け、白と黒のラインに向けて飛んだ。



ハッと二人は現実世界に戻ってくる。
ウルフウッドは隣に座っていたダリの目を見て胸を撫で下ろした。

「この愚か者!どこまで呆けておるんじゃ!!」
「ってぇ!?何すんねん!!」

割と本気で蹴り付けたためウルフウッドを膝を押さえる。
ともあれ意外なところで異常なものを見てしまった。
チェイン、ツェッドは顔を見合わせる。

「ライブラに戻りましょう」
「へ?」

パドマはきょとんとした。先ほどの現象も、ヴァッシュと経験したような“ゲーム”ではないのかと言いたげだ。
しかしあれほど歪で異質なものはありえない。

精神投影型のゲームはそれまで光を放ち存在を示していたのだが、いまは光を閉ざし暗闇に包まれている。

「ツェッド、私はこの筐体の情報交渉にあたるわ
ミスタークラウスに連絡を」
「はい、わかりました」

ウルフウッドはまだ暗い画面を見ている。
あの赤いコートの持ち主はここにいるのか。オッドアイの少女は何者なのか。
一気に不可解なことが混ざり、前髪をかき乱した。
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