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なぜ私は青年に手を引かれているのだろうか。
別に記憶を失ったわけでもなく、ただただそう思った。
青年に嫌悪の感情も持たず、この足は走っている。
どこに行くのかもわからないけど、これ以上の地獄はないからと、青年は言う。
修学旅行で私は大きな博物館にきていた。
世界でも有数の博物館は思った以上に警備が厳重だが中では多くの人がスケッチをしたり思い思いに過ごしている。
それでも日本のツアーとしてきている私たちがガイドの指示のもと、順番に巡っていた。
突然の出来事だ。
それまで予兆があったのならまだしも、とある絵を前に坦々と眺めていただけでサイレンが鳴った。
「いったいどう言うことだ!」
「魔力反応です!」
「誰からだ!召喚される恐れがある!」
英語でけたたましく叫ぶ声が大きな機械を持ってきた。
するとその機械もまたサイレンを鳴らす。
人々は慌てて逃げる。
生徒も波にさらわれてしまった。
私も同じく押されてしまい、その場で転んだ。
「うがっ」
頭を踏まれる。
我先にと人間たちが私を超えていく。
手足ならまだしも頭を思い切り踏まれたせいで鼻血が出てしまった。
人々がいなくなってもなお音は響く。
機械は私に向けられていた。
「…え」
男性職員も、見る目が冷たい。
周囲には誰もいない。
慌てて逃げようとするが、逃すまいと腕が伸びる。
「こいつだ!」
「マスターだ!」
「早く追い出せ!」
乱暴な扱いに腰が抜ける。
何をされるのかわからずに、ひたすら怯えた。
声も出ず、ずるずると引きずられる。
「いや、いや!」
怖くてたまらない。
父親を思い出して抵抗するが、まるで人権など意味ないようで叩かれた。
そうこうすると、カツカツと足音が響く。
引きずられる先の廊下から現れたのは明かに人間ではないなにかだった。
形は人間だが、存在そのものが異質なもの。
サーヴァントだ。
「サーヴァント!?」
「逃げろ!!」
職員は私を置いて逃げ出した。
私はサーヴァントを前に体が震える。
めちゃくちゃな展開に、真顔で泣くばかりだ。
サーヴァントはこちらをみてぎょっとして、駆け寄る。
「大丈夫か?」
「へ…」
日本語で話しかけたのはもちろんだが、心配の言葉をかけられるなど思いもしなかった。
「ちょっと待って」
服の裾を思い切り破り、そしてそっと鼻にあてた。
「鼻大丈夫すか?
それに今のやつらは何すか?」
同じ男が目の前にいるのに、何故だか怖さを感じなかった。
理由はよく分からないが、確実にこちらを注視しているのではなく、この状況を気にしているのだとわかったからかもしれない。
「っ、う、うぅ」
「え!あ!だ、大丈夫すよ!
オレも今んとこよくわかってねーですけど!
取り敢えず外に…」
何かに反応して振り替えると一瞬で盾を取り出す。
そして弾いた音が聞こえる。
「物騒すぎるっしょ
何かに狙われたりしてます?」
「わか、んない」
「……無理しないでいいっすよ
ここで会ったのも何かの縁だ
せめて安全なとこに行くまでは守ります」
「動くな!そこにマスターがいるのはわかっている!大人しく引き渡せ!」
英語で激しい口調が聞こえた。
びくりと肩を跳ねさせる。
「マスターねえ……
やっぱりパスがつながってんのはそういうことなのか…
立てます?」
「こ、こし、ぬけて」
「じゃあ、オレが運んでいいっすか?」
「ん、ん」
何度も銃声が聞こえる。
それを盾で弾いていた。
この際男性恐怖症は仕方ない。
大人しく運ばれるべきだ。
「しっかり捕まってください」
片腕で抱き上げられ、何故か安定感もある。
そして一瞬で銃を撃つ警官との距離を開けた。
そのまま全力で館内を走る。
「やたらめったら広い場所っすね」
「ひ、非常口」
「お、いいっすね」
ドアノブをひねると簡単に空いた。
そのまま外に出て、しばらく町並みを歩く。
鎧の男と制服の日本人。
注目を集めないわけがないが、騒動から十分に離れた場所にまで逃げられた。
川沿いの公園に腰を落ち着かせる。
「血、止まりました?」
「あ…あの……布…服…ごめんなさ…」
「いいんすよ
オレこそもっと綺麗なもん渡せなくてすいません」
改めてあの出来事、今の状況を考えて、また泣き出した。
静かに泣いているところで、背後から声をかけられた。
鎧の青年が応答してくれたようだ。
もういちいち取り合っていられない。
ぐすぐすと泣いていると目の前に女性が現れた。
「大丈夫?」
この女性も人ならざる者、サーヴァントであった。
だが泣いている私をそっと、母のように抱き寄せて頭を撫でられた。
「もう大丈夫よ
お姉さんが守ってあげるからね」
こんなに優しく抱きしめられたのは久しぶりだ。
思わずしがみつくように、そのサーヴァントに甘えた。
この世界はマスターと呼ばれる人間がいる。
魔力という特殊な力を持ち、忌み嫌われる存在だ。
そしてマスターはサーヴァントと呼ばれる英霊を呼び起こす。
マスターとサーヴァントは表裏一体と言っても過言ではなかった。
「ハヤテちゃんに反応して、マンドリカルドくんが召喚されちゃったみたいね」
怪我を消毒されながら、ブーディカに説明を受ける。
私を美術館から出るまで守ってくれた青年はマンドリカルドと言うらしい。
そしてこの場所はカルデアと呼ばれる、マスターとサーヴァントを管理する組織の派出所。
国に定められた区域内では許可がなければ無断で立ち入ることすらもできないようだ。
「あの…私…修学旅行で海外にきてて
これからどうすれば…」
「マスターと分かった以上、日本代表のカルデアと取締り機関の判断に委ねられるわ
けれど大丈夫、保護という名目だから手荒な真似はされないから」
「………」
「さ、手当てはおしまい
あとの事は大人たちに任せて部屋で休んでおいで」
「ありがとうございます…」
一礼して先程案内された部屋に向かう。
廊下に出たところで、私が召喚したらしいマンドリカルドがいた。
びくりと思わず肩を震わせる。
「すんません
驚かせて
怪我は…」
「へ、平気です……」
「そう…すか」
早足で横を通り過ぎる。
本来ならば礼を言わなければならない。
それなのにどうして言えないのだろう。男性だからと避けてしまうのだろう。
自己嫌悪に浸って、部屋で膝を抱えた。
せっかくの楽しい修学旅行は一瞬で終わり、私だけが先に日本に帰国した。
日本に近づくたび、家に近づくたびに吐き気がする。
日本で先に出迎えていたのは主従だった。
とはいえ今後の連絡先や、対応についての書類を封筒で渡されただけだ。
「もし困ったことがあればいつでもここに。
君の家の近くには派出所がないから私たちが行くよ」
「はい………あ、あの…サーヴァントさんを…預けたり…は…」
「サーヴァントは一人1騎までという規定があるんだ
たとえ同意の上でもサーヴァントを同伴させてはいけないんだよ」
「そ…そう…なんですか」
マンドリカルドはずっと霊体化したままだ。
それはそれでいいのだが、家に帰ってから、全て起こる出来事を見て欲しくない。知って欲しくない。
ただそう思うしかなかった。
できれば家に帰ったらずっと霊体化でいてほしいと、話さないでほしいと願うと青年は何も言わなかった。
そこにいるのかも分からなくなるほどだ。
重い足取りで帰路に着く。
荷物も無駄に重い。
古いアパートの玄関をあける。
すると酒に酔って潰れた父がいた。
「お…おとうさん…」
「ああ…?」
「ただいま…」
ひゅん、と飲み干したビール缶が投げられる。
頭に当たって足に転がった。
「はは、当たった」
無言で拾う。
案の定ゴミで散乱されている。
疲れてそれどころじゃないが、青年にも見られていると思うと恥ずかしい。
すぐ掃除に取りかかった。
「あ?まてよ?
ハヤテ、お前まだ海外じゃねえのか」
「い、いろいろあって…その…体調良くなくて…」
「なんだよせっかくおめーのためにザーメン溜めてたのによ」
びく、と手が震える。
「そ、掃除を、しますので」
「それより仕事で疲れてる父親を労うのが先だろうが!」
「っ!」
怒鳴り声に足がすくむ。
耳が痛い。
頭の中でセミのような音が鳴り響く。
「はいそうですって言えよ!!」
「ぐっ」
足で蹴られた。
すぐさま腕を掴まれる。
「オラ立て
立って脱げ」
「や、やめてお父さん
お願いです」
「いいから言うこと聞けや!!!」
制服のボタンを乱暴に引きちぎる。
そこで我慢できなかったのか、それ以上の力で父を引き剥がした。
あの青年が父の腕を引っ張り上げて突き飛ばす。
「テメェ…実の娘に何してやがる」
「は…?なんだ…?
なんだお前?どこから……いやまて…お前!!
どういうことだハヤテ!!
こいつはなんだ!」
「近づくな!」
青年は盾のように私の前に立ち塞がる。
「どけクソガキ!」
「どくわけねぇだろ!」
「ハヤテ説明しろ!!一体どういうことだ!
いうことを聞け!!」
「うっ、うぅうっ」
「早くいわねぇとお前の母親殺しに行くぞ!!」
「サーヴァントですっ!!わ、私の、サーヴァントっ」
「サーヴァント!!?
ならクソガキは俺のサーヴァント同様ってこったな!
なぁハヤテ!」
青年は胸ぐらを掴み上げる。
「図に乗るなよ
俺はマスターだけのサーヴァントだ」
「おいハヤテ!」
泣きじゃくった声で言うしかない。
「お、お願い、します
お、お、おとうさんに、乱暴しないで…」
振り向いた彼の顔はとても悲しい顔をしていた。
そして同時に悔しい顔も。
ぶるぶると手が震えて、拳を作る。
「お、お母さんが、お父さんから、逃げたの
だから、優しいお母さんだから、お願いだから、」
酸欠の頭で必死に言葉を紡ぐ。
青年はゆっくりと手を下ろした。
「はん
最初からそうすりゃいいだろうが
こいハヤテ
脱げ」
「!?
お、お願いします
殴っていいから、ぬぐのは、いや」
「はぁーーーー!?
いいから黙って服脱いで股開いてりゃいいんだよ!!」
父が一歩踏み込んだ瞬間、マンドリカルドは思いっきり頭突きをかました。
頭蓋骨同士がぶつかり合う激しい音に目を見開く。
「お…ぁ…?」
「おとうさ…」
「マスター、これを」
血を額から流しながら私に上着を渡した。
「必要なもの、今持ってこれます?」
「え…?」
「ここにいるべきじゃない」
「でも、」
「俺が全部なんとかします
だから行きましょう」
真っ直ぐな目が嫌味ではない。
ここまで、心の根まで見通して心配し寄り添う人がいただろうか。
今まで守ってくれるような人間いただろうか。
初めて会ったあの時と同じだと気付いた。
「このっ、クソガキ!」
彼の頭に酒瓶が当たった。
ガラスと酒が頭に降り注ぐ。
「っ!?やめてお父さん!!」
「黙れ!お前は俺のもんだろうが!」
もう見ていられない。
自分が犠牲になって丸く治るのならそれに越したことはない。
前に出ようとすると、ゆっくり手が肩を押す。
「行かなくていいです
こいつは俺が留めておくんで
準備してください」
必要な着替えはバッグにある。
修学旅行に行きそびれたからだ。
それから携帯は持っていっても意味がないだろう。
制服はボロボロなので早く着替えて、念のためタオルも詰め込んで、
早足で準備するもその間に何度酒瓶が割れたか。
「あ、あの」
準備が終わる頃には青年は血だらけだった。
それでも微動だにせず、ただ男を見据える目。
父も動揺し、持てる武器もないまま立ち尽くしていた。
「行きましょう」
私の手を引いて玄関へ。
「待てハヤテ!!!」
戸を開ける前、父は錆びた包丁を持っていた。
「行かせてやるものか、
黙って俺に媚びていればいいんだよ!」
そして包丁を振りかざすも、呆気なくマンドリカルドによって遮られる。
「いいから黙れ!」
そのまま殴られた。
激しい音が最後に響いて、父は倒れた。
気絶したのだろう。
「マスター、行きましょう」
きた道を戻る。
すっかり夜になっていた。
「大丈夫
これ以上の地獄はないっすよ」
優しく握る手は、外気を含んで少し冷たかった。
◆
ことの事情をマンドリカルドから説明し、すぐに保護された。
念のため病院にも連れて行かれて検査を受ける。
目立った異常はなく、健康体と医者からお墨付きを貰った。
その翌日、すぐにカルデア入りの手配が進められ、一週間後には旅立つこととなった。
母親のことも気がかりだが、私の知る名前で警察へ保護を依頼しても探すことができなかったようだ。
可能性としては名前を変えているか、または海外に逃げているか。
およそそのどちらかだろうと。
「大丈夫すよ
あいつだって居場所なんざしらねぇはずです」
マンドリカルドは笑って私を励ました。
私もそれに倣ってみたいが、下手くそなままだ。
警察署からの帰り、そのまま学校に退学届を提出した。
傍にいるサーヴァントをみてそう言うことなのだと理解されると同時に冷たい目を向けられる。
「お世話になりました」
一礼するまでの間に教師は背を向けてしまった。
最近はこのマスターという差別に心が疲れてしまい、こんな態度でも無感情になっていた。
「…妙な話ですね
マスターってだけで差別されるとか
昔なら魔力持ってるやつなんざうじゃうじゃ居ましたけど」
「…仕方ないよ」
とぼとぼと歩く。
それよりも、あれだけ助けてくれたマンドリカルドに未だお礼を言えてない。
きっと、幻滅しているだろう。
それにレイプとはいえ実の父親を関係を持っていた女だ。
それだけでも嫌悪対象に違いない。
少し気分が悪い。
「…顔色悪いすよ
大丈夫っすか」
「……」
無言で頷く。
「無理、しないでいいっすよ
俺でよければ背負います」
「だ、大丈夫」
顔をそむけるとそれ以上深くは訊ねなかった。
ただそれでも、そんな私を心配して時々様子を見られていた。
カルデアに向かう日数は4日間だ。
飛行機がないので船や新幹線を乗り継いでいく。
急遽呼び出されたカルデアの使者が息を切らしながらやってきた。
「か、カルデアまで案内するものです
よろしくお願いします」
「お願いします…」
「っす」
道中、言葉を口にすることのほうが少なかった。
話題もない上に不安でいっぱいだからだ。
これからどうなってしまうのだろうと、堪えきれなくなったのは移動の最終日だった。
次は潜水艇です、と職員が説明してついていく。
長い旅路でちゃんとしたベッドに寝ていないのもある。
情緒不安定になり、ぽつりと溢した。
「いやだな…」
「あっ、すいません
カルデアは他からの密航を防ぐため潜水艇だけが移動手段なんです」
「あ…すみません…なんでもないです」
「じゃあカルデアに連絡をしてきますのでここで待っていてください」
職員には悪いことを言ってしまった。
荷物を抱えて、寂れた港のベンチに座り込む。
「…マスター
俺の勘違いだったら申し訳ないんすけど…」
「な…なに…?」
「俺がちゃんと盾になりますから」
なにも言えない。
言葉が出ないという表現が正しい。
荷物に顔を埋めて、職員が来るのを待った。
◆
疲れ切った顔のハヤテはカルデアにつくと、その島の規模に目を見開く。
「おどろきました?
カルデアって聞くと島流しみたいなイメージありますけど
そんな閉鎖的なところではないですよ
ここにいるほとんどの人がマスターであり、サーヴァントです」
カルデアでの生活を回すための市役所のような場所も、病院も学校もすべてそうらしい。
まるで異国に来たような雰囲気に圧倒された。
「ハヤテさんは来年、カルデアに入学してもらいます
ですのであと4ヶ月、これから案内するアパートで過ごしてください」
「アパート…でも家賃は払えません…」
「ああ、そうそう
これを」
職員が手渡したものはプラスチックのカードだ。
ローマ字でハヤテの名前が書かれている。
「家賃も食費も光熱費も心配しないで大丈夫です
というかすべての主従はここでお金を払う必要性はほぼありません」
「え!?」
「そのカードは言わばIDカードです
病院にいったり、いろいろと必要なものですから無くさないように
なくしたらカルデア中央局で再発行をしてくださいね」
「は、はぁ…」
金銭感覚が狂いそうになる。
だがマスターを保護するための資金は潤沢ではないけれどそれなりに用意されているのだとか。
アパートにいけば外観はしっかりしていて、とても仮の住まいとは思えないほどだった。
むしろそれまで住んでいたアパートがぼろ家と思えるほど。
「こちらが鍵です
マンドリカルドさんにも渡しておきますね」
「うっす」
「中にはカタログやカルデアでの過ごし方のパンフレットがあるのでごらんになってください
あと、これ私の名刺です
4ヶ月間は私がサポートを担当させていただくので
もしわからないことがあれば気軽に電話ください」
小さな名刺にはもちろんサーヴァントの名前もセットで書かれている。
あまりの状況に目がチカチカし始めた。
ともあれ職員も帰ったので、荷物を下ろして体を休めるのが先だ。
鍵を開ける。
油の足りないような、開けにくいということはもちろんない。
「すごくきれい…
か、家具もある…」
「はー、すげぇっすね」
「え、まって、3LDK!?」
荷物を下ろして一部屋ずつ見ていく。
別世界というより異世界だ。
こんなきれいな部屋を無償で使っていいのか。
混乱してしまい立ちくらみを起こした。
「大丈夫すか!」
「ご、ごめんなさい…
あんまりにも、すごいから…くらくらしちゃって」
「休憩しましょ
ソファーもあるし座ってください」
ゾンビのようにおぼつかない足取りで向かう。
真新しい新鮮な視界に今でも脳は驚いている。
「後ですきな部屋決めてください
俺どこでもいいんで」
「は、はい」
マンドリカルドはキッチンあたりを物色し始める。
無論家具だけは取り揃えられているだけの空っぽだ。
それからカタログやパンフレットを眺めて理解したかのように、一つうなずいた。
「俺ちょっと出かけてきます
マスターはここで休んでください」
「どこに…?」
「ちょっと買い出しと散策に
すぐ戻ってきます」
地図を持ってそのまま行ってしまった。
一人になれてようやくどっと疲れが降りかかる。
マスターであること、父親から離れられたこと、カルデアにきたこと、何よりマンドリカルドと出会ったこと。
この2週間ほどで転がるように展開が変わっていった。
体が重く感じ、単純に疲れが出たのだと思うと横になって眠ってしまっていた。
1時間ほど経った頃、マンドリカルドが帰ってきた。
ソファーで泥のように眠るハヤテを見て、慌てて押し入れにあった毛布を持ってくる。
起こさぬようゆっくりかける。
小さな寝息は変わらず、眠っているようだった。
外に出ていたマンドリカルドは道ゆく人間や存在が、職員の言う通りマスターでありサーヴァントであったことを知る。
そしてキョロキョロしているせいか、来たばかりと知られると怪訝な表情をされるわけでもなく、暇を持て余したサーヴァントが経営する店や、カルデア公認の書物店を案内された。
長旅を除いてもあの父親のことで精神的に参っているマスターを少しでも楽にさせようとあらかじめ情報収集に行っていたわけだ。
しかし思わぬ親切なマスターに、自分のマスターが女の子でしかもまだ10代と知られれば、甘いものからサンドイッチまで半ば強引に渡された。
難しい顔して、不安そうなマスターには確かに必要なものだろうと
そのマスターと分かれた後に思い至った。
そのことも、きっとあのマスターは我ごとのように分かっていたのだろう。
明日は必要最低限のものを買いに行かなければならない。
そんなことを思いながら部屋の明かりを消し、小さなランプをつけた。
そそり立つ外壁に取り込まれたこのカルデアは日が沈むのが早い。
夕日が差し込むどころか壁の影が光を遮って部屋の中は暗かった。
しばらくはゆっくり休ませてあげようと、マンドリカルドは霊体化し、部屋にはハヤテ1人だけが眠っていた。
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