ジークフリート
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えぐ、えぐ
カズマは泣いていた。
それはまるで、猫のようだった。
なぜ猫のようだと言うのかは、今の現状を知れば一目瞭然だ。
「カズマ……」
「降りれない…こわい…墜落死する…むり…」
全世界から魔力を持った人間『マスター』と、霊的存在である『サーヴァント』を集結し、世界に危害を加えぬよう育て、監視する学校施設『カルデア』にて。
むろんこれは授業だった。
『マスター』は『サーヴァント』を武器として戦う。文字通り、『サーヴァント』を武器に変換して戦うのだ。
なぜ『サーヴァント』に戦わせないのか?
それは『サーヴァント』の監視役として『マスター』がいるからだ。
その人ならざる力で多くの人びとに危害を加えかねない。
全力を出す術を彼らは知っているからだ。
だが制御となると途端に難しくなる。
ならば同じ魔力を持つ人間『マスター』を当てて制御するという考えだ。
それは大当たり。
『サーヴァント』も人の子。英霊。
軽蔑の目で見られるマスターに同情の目を向け、心を寄せる。
マスターは同時にサーヴァントに信頼を寄せる。
そうすることで『カルデア』での監視に容易に成功することとなった。
話は戻って現在。
秦民カズマはこの『カルデア』の一期生。つまり平たく言えば今年の入学者、一年生というわけだ。
手に持つ大剣は『ジークフリートのバルムンク』
サーヴァントは言うまでもなく、竜殺しのジークフリート。
このカルデアにやってきた新参者。
かつてカズマの故郷で知り合い、ここまで流れ流れて一緒にやってきた。
『カルデア』では毎日戦闘訓練が行われる。
こればかりは当然のことだし避けられないことだ。
だが急に、さぁ戦え、なんてムリなことわかっている。
一期生はまずは、『サーヴァント』を手にした上で、急に跳ね上がる身体能力のギャップに慣れるという訓練を受ける。
ONとOFFの切り替えを体で覚えるものだ。
そして教官は武器を持った状態で裏山を30週してこいという指示を出した。
体力も通常以上になるとはいえ、鍛えられていない体ではキツイ。
ヘロヘロになりながらカズマは走っていた。
ジークフリートの応援を耳にしながら。
しかし、足を踏み外し、落ちる間際にとっさに木の枝に捕まった。
そして今である。
下は8メートルほどの崖。
まるでナイフで斬られたような絶壁の上にこの木はいる。
「もうやだ…むり…なんで…むり…」
「カズマ、そう悲観するのはよくない。」
「誰が必死に捕まってると思ってんの!?私なんだけど!
落とそうか!?」
「すまない、早まるな」
このまま誰かの助けを待つのも難しい。
なぜならこの手がそろそろ限界だからだ。
「ねえ、下で受け止めるとかアリ?」
「難しいな…俺が複雑骨折をする」
「…“複雑骨折”って言われるとすごいフクザツな気分になる…」
「すまない、ジョークか?」
「お前舐めてんの?」
このジークフリートは冗談が通じるようで通じない。
何より生真面目と謙虚が混同しているのだから当たり前だ。
何にでも謙虚に、しかし言葉通りに受け止める。
なのでカズマはジークフリートと会話するのは何かと気力を使っていた。
突然、この崖の木に衝撃が加わった。
「ほあっ!?」
「お前こんなとこで遊ぶな」
「きょ、教官!」
急にやってきたのはこのカルデアの教官である白鷹明幸。
ちなみにマスターらしいが、その粗暴な物言いと興味なさげな目で生徒に恐れられている。
「はーん、なるほど、走ってたら落ちたってタイプだな。
毎回、一期生に2,3人はいるんだよなこういうの」
(馬鹿って遠まわしに言われた…)
「教官、カズマを助けてやって欲しい。」
明幸は崖の下を覗く。
そしてこの木の根をみる。
「頑張れ」
「は?」「え」
「アタシは成績整理しなきゃならん。
お前はもちろんEな。」
「ちょちょちょ!!!」
無慈悲な成績を宣言され、しかもこのまま放置されようとしている。
必死にその背を引き止めたいが少しずつ離れていく。
「なんだ」
「なんだ、じゃなくないですか?私こんな状況ですよ?」
「だから頑張れっていっただろ」
「手助けとかないんですか?」
「お前が中学科以下なら助けてやった。
けど高学科だろう。
なんとかしろ。」
「えええええ」
「いい訓練になる。
そうだ、このまま落ちてこのカルデアの中の森を出て学園に帰ってこられたら、成績はAくらいにはしてやろう。」
「まず落ちる時点で死にかけるんですけど…」
「とにかく、アタシは嘘はつかない。
Eが嫌ならそうしてみたらどうだ。
大丈夫だ。“複雑骨折”はするかもしれないが死ぬわけじゃない。」
ゆさゆさ
明幸は木を足で揺らし始めた。
「悪魔!!!!ジクフリ!!!ここに悪魔がいる!!!」
「教官、まずは落ち着いて話を聞いて欲しい」
「うるせぇ。口答えすんな優男」
ジークフリートはそれだけで沈黙する。
それに文句を言っていると、汗ばんだ手がつるりと滑った。
「おあああ!」
「さ、面白くなってきたな。こりゃ職員会議で盛り上がる。」
「死ねマジキチ殺人教師!!!!」
「アタシは頭がおかしいんだよ。精神汚染認定も受けてる。
さあ…行ってこォい!!!」
思いっきり木を蹴り飛ばした。
太い根ごと吹き飛ばされ、幹にしっかり捕まったはいいもののものすごいスピードで落ち始めた。
「いやああああああ!!」
手を振る明幸が一瞬で小さくなる。
あいつはいつか殺そうと決意した。
だがそのまえにこっちがもう死んでしまう。
「魔力を回せ!!!」
ジークフリートの声に我に返って、地上の木々に串刺しになる前に、魔力を放った。
魔力はいくらか持っていかれるが、命には変えられない。
爆風に体の落下スピードはゆるくなる。
「俺を離せ!」
言われるがまま、剣を離すと人の姿に戻る。
むろん体重が重いほうが先に落ちる。
だがジークフリートは英霊だ。
衝撃の吸収など造作もないことだ。
そうしてカズマを両手を広げて待つ。
「っ!!」
「~っ!我ながら…ナイスキャッチだ…」
「それは、私も、思う…」
バランスは崩れて地べたに倒れたものの、二人共無傷だ。
途中で叩き切った木も、先にどこかに落ちたようだ。
「…はぁ…どうやって殺してやろうか」
「やめておいたほうがいい。
返り討ちにあうだけだ。」
「そんなことわかってる」
はあ、と腰を上げた。
さっきまで授業をしていた裏山はずいぶんと遠くに見える。
たった8メートルの高さなのに。
「…回って帰るしかないか」
「そうだな。
しかし、演習で使うとは言えこれほどまでの広い森があるとはな。
これが人工というのだから驚きだ。」
「カルデアはわりと昔からあったよ。
いつ出来たのかはわからないけれど、少なくとも私が生まれるより前に」
「そうなのか。」
こんなふうに、他愛もない話をしながら歩き続け、カズマの時計はいつの間にか18時を示した。
残りの授業もすっぽかし、明幸のせいで欠席扱いを受けたと思うと腹が立つ。
「あ~~も~~!!」
「…そうだカズマ、少し、剣の扱いを教えよう」
「は!?それ今!?」
「苛立っているところ悪いが、どうせ残り1時間も帰れそうにない。
なら、時間をかけて帰ろう。
休憩を挟みながら」
カズマは口を尖らせる。
ジークフリートは手頃な木の枝を見つけてくる。
「カズマはなんでも飲み込みがいい。
すぐに俺など扱えてしまうだろう。」
「……。」
「カズマ?」
木の枝をぎゅっと握り締めるが、眉間のしわを深くさせていた。
今まで、怒っていたとしてもそのような顔はしていなかった。
ジークフリートは今、カズマが何を思っているのかわからない。
「……俺などって…
ジークフリート扱うって、私のとってはすっごいプレッシャーなんですけど…」
いつもの自分を卑下する癖が現れてしまう。
コレを嫌う人間は少なからず存在する。
ジークフリートは慌てて謝ろうとするが言葉は続いた。
「ジークフリートが、そんなんなら、私はなんなの…
もっと、くだらないって、思っちゃうじゃん
…ジクフリ、すごいんだから…せめてそういうこと言うのやめなよ…」
謝る言葉はぐっと飲み込んだ。
ここでは違うものを口にすべきだ。
「ありがとう、カズマ
俺が間違っていた。
正してくれてありがとう。」
「…………べつに」
「それで、やってみるか?」
「……うん」
二人が学園に帰ってきたのは9時を過ぎた頃だ。
明幸は寮の入口で待っていた。
ここを通ってきた生徒はギョッとしていたであろう。
「帰ってきてあげましたけど?」
明幸は時計を見て、二人をみた。
「やけに上から目線だな」
「ったりめーでしょうが。私が敬語使ってあげてるだけでも感謝して欲しいくらいですね。」
暗い森の中を駆けずり回っていたのだろう。
周りを高い壁で覆われた人工島は日が落ちるのが早い。
だが、無事に帰ってきた。
二人がケンカをした様子もない。
「よし、評価はSにしておく。」
「おえ?」
「Aではないのか?」
「規定外の課外授業だし、Sが妥当だろ。
アタシはそこまで鬼じゃないし、鬼になるなって言われたし、お前らギスギスしてたし。」
カズマとジークフリートはお互いをみた。
ギスギスしていたといえば、確かにそうなのだろう。
お互い知らないことばかり、そして知らない環境でわからないことを学んでいる。
そうなるのは当然だ。
「寮長には話をつけている。
さっさと中に入って寝ろ。」
ぶっきらぼうに言って寮の入口から出て行った。
ぽつぽつと明かりのある道を歩く。
点滅するように背中がまた小さくなっていった。
「…でも、木から落としたのは、別の話じゃね」
「カズマ、もう休もうか…さすがの俺も堪えた」
二人してため息をつきながら玄関に入ると、日替わりで駐留する警備員が声をかけた。
「お、今日課外授業だったんだろ?あの白鷹教官の!」
「はぁ、まあ、そうですけど」
「差し入れだってよ。」
おずおずと、差し出された箱を受け取る。
少し中を開けて見てみる。
「!!」
「なんだった?」
「あ、いや、その……」
ジークフリートが同じくその中身を覗いてみる。
「……ケーキ、か?」
「…か、帰って、お風呂入って、食べよ」
そそくさと足早に帰っていくカズマを見ながら、確信する。
「ケーキが好きなのか…」
カズマは泣いていた。
それはまるで、猫のようだった。
なぜ猫のようだと言うのかは、今の現状を知れば一目瞭然だ。
「カズマ……」
「降りれない…こわい…墜落死する…むり…」
全世界から魔力を持った人間『マスター』と、霊的存在である『サーヴァント』を集結し、世界に危害を加えぬよう育て、監視する学校施設『カルデア』にて。
むろんこれは授業だった。
『マスター』は『サーヴァント』を武器として戦う。文字通り、『サーヴァント』を武器に変換して戦うのだ。
なぜ『サーヴァント』に戦わせないのか?
それは『サーヴァント』の監視役として『マスター』がいるからだ。
その人ならざる力で多くの人びとに危害を加えかねない。
全力を出す術を彼らは知っているからだ。
だが制御となると途端に難しくなる。
ならば同じ魔力を持つ人間『マスター』を当てて制御するという考えだ。
それは大当たり。
『サーヴァント』も人の子。英霊。
軽蔑の目で見られるマスターに同情の目を向け、心を寄せる。
マスターは同時にサーヴァントに信頼を寄せる。
そうすることで『カルデア』での監視に容易に成功することとなった。
話は戻って現在。
秦民カズマはこの『カルデア』の一期生。つまり平たく言えば今年の入学者、一年生というわけだ。
手に持つ大剣は『ジークフリートのバルムンク』
サーヴァントは言うまでもなく、竜殺しのジークフリート。
このカルデアにやってきた新参者。
かつてカズマの故郷で知り合い、ここまで流れ流れて一緒にやってきた。
『カルデア』では毎日戦闘訓練が行われる。
こればかりは当然のことだし避けられないことだ。
だが急に、さぁ戦え、なんてムリなことわかっている。
一期生はまずは、『サーヴァント』を手にした上で、急に跳ね上がる身体能力のギャップに慣れるという訓練を受ける。
ONとOFFの切り替えを体で覚えるものだ。
そして教官は武器を持った状態で裏山を30週してこいという指示を出した。
体力も通常以上になるとはいえ、鍛えられていない体ではキツイ。
ヘロヘロになりながらカズマは走っていた。
ジークフリートの応援を耳にしながら。
しかし、足を踏み外し、落ちる間際にとっさに木の枝に捕まった。
そして今である。
下は8メートルほどの崖。
まるでナイフで斬られたような絶壁の上にこの木はいる。
「もうやだ…むり…なんで…むり…」
「カズマ、そう悲観するのはよくない。」
「誰が必死に捕まってると思ってんの!?私なんだけど!
落とそうか!?」
「すまない、早まるな」
このまま誰かの助けを待つのも難しい。
なぜならこの手がそろそろ限界だからだ。
「ねえ、下で受け止めるとかアリ?」
「難しいな…俺が複雑骨折をする」
「…“複雑骨折”って言われるとすごいフクザツな気分になる…」
「すまない、ジョークか?」
「お前舐めてんの?」
このジークフリートは冗談が通じるようで通じない。
何より生真面目と謙虚が混同しているのだから当たり前だ。
何にでも謙虚に、しかし言葉通りに受け止める。
なのでカズマはジークフリートと会話するのは何かと気力を使っていた。
突然、この崖の木に衝撃が加わった。
「ほあっ!?」
「お前こんなとこで遊ぶな」
「きょ、教官!」
急にやってきたのはこのカルデアの教官である白鷹明幸。
ちなみにマスターらしいが、その粗暴な物言いと興味なさげな目で生徒に恐れられている。
「はーん、なるほど、走ってたら落ちたってタイプだな。
毎回、一期生に2,3人はいるんだよなこういうの」
(馬鹿って遠まわしに言われた…)
「教官、カズマを助けてやって欲しい。」
明幸は崖の下を覗く。
そしてこの木の根をみる。
「頑張れ」
「は?」「え」
「アタシは成績整理しなきゃならん。
お前はもちろんEな。」
「ちょちょちょ!!!」
無慈悲な成績を宣言され、しかもこのまま放置されようとしている。
必死にその背を引き止めたいが少しずつ離れていく。
「なんだ」
「なんだ、じゃなくないですか?私こんな状況ですよ?」
「だから頑張れっていっただろ」
「手助けとかないんですか?」
「お前が中学科以下なら助けてやった。
けど高学科だろう。
なんとかしろ。」
「えええええ」
「いい訓練になる。
そうだ、このまま落ちてこのカルデアの中の森を出て学園に帰ってこられたら、成績はAくらいにはしてやろう。」
「まず落ちる時点で死にかけるんですけど…」
「とにかく、アタシは嘘はつかない。
Eが嫌ならそうしてみたらどうだ。
大丈夫だ。“複雑骨折”はするかもしれないが死ぬわけじゃない。」
ゆさゆさ
明幸は木を足で揺らし始めた。
「悪魔!!!!ジクフリ!!!ここに悪魔がいる!!!」
「教官、まずは落ち着いて話を聞いて欲しい」
「うるせぇ。口答えすんな優男」
ジークフリートはそれだけで沈黙する。
それに文句を言っていると、汗ばんだ手がつるりと滑った。
「おあああ!」
「さ、面白くなってきたな。こりゃ職員会議で盛り上がる。」
「死ねマジキチ殺人教師!!!!」
「アタシは頭がおかしいんだよ。精神汚染認定も受けてる。
さあ…行ってこォい!!!」
思いっきり木を蹴り飛ばした。
太い根ごと吹き飛ばされ、幹にしっかり捕まったはいいもののものすごいスピードで落ち始めた。
「いやああああああ!!」
手を振る明幸が一瞬で小さくなる。
あいつはいつか殺そうと決意した。
だがそのまえにこっちがもう死んでしまう。
「魔力を回せ!!!」
ジークフリートの声に我に返って、地上の木々に串刺しになる前に、魔力を放った。
魔力はいくらか持っていかれるが、命には変えられない。
爆風に体の落下スピードはゆるくなる。
「俺を離せ!」
言われるがまま、剣を離すと人の姿に戻る。
むろん体重が重いほうが先に落ちる。
だがジークフリートは英霊だ。
衝撃の吸収など造作もないことだ。
そうしてカズマを両手を広げて待つ。
「っ!!」
「~っ!我ながら…ナイスキャッチだ…」
「それは、私も、思う…」
バランスは崩れて地べたに倒れたものの、二人共無傷だ。
途中で叩き切った木も、先にどこかに落ちたようだ。
「…はぁ…どうやって殺してやろうか」
「やめておいたほうがいい。
返り討ちにあうだけだ。」
「そんなことわかってる」
はあ、と腰を上げた。
さっきまで授業をしていた裏山はずいぶんと遠くに見える。
たった8メートルの高さなのに。
「…回って帰るしかないか」
「そうだな。
しかし、演習で使うとは言えこれほどまでの広い森があるとはな。
これが人工というのだから驚きだ。」
「カルデアはわりと昔からあったよ。
いつ出来たのかはわからないけれど、少なくとも私が生まれるより前に」
「そうなのか。」
こんなふうに、他愛もない話をしながら歩き続け、カズマの時計はいつの間にか18時を示した。
残りの授業もすっぽかし、明幸のせいで欠席扱いを受けたと思うと腹が立つ。
「あ~~も~~!!」
「…そうだカズマ、少し、剣の扱いを教えよう」
「は!?それ今!?」
「苛立っているところ悪いが、どうせ残り1時間も帰れそうにない。
なら、時間をかけて帰ろう。
休憩を挟みながら」
カズマは口を尖らせる。
ジークフリートは手頃な木の枝を見つけてくる。
「カズマはなんでも飲み込みがいい。
すぐに俺など扱えてしまうだろう。」
「……。」
「カズマ?」
木の枝をぎゅっと握り締めるが、眉間のしわを深くさせていた。
今まで、怒っていたとしてもそのような顔はしていなかった。
ジークフリートは今、カズマが何を思っているのかわからない。
「……俺などって…
ジークフリート扱うって、私のとってはすっごいプレッシャーなんですけど…」
いつもの自分を卑下する癖が現れてしまう。
コレを嫌う人間は少なからず存在する。
ジークフリートは慌てて謝ろうとするが言葉は続いた。
「ジークフリートが、そんなんなら、私はなんなの…
もっと、くだらないって、思っちゃうじゃん
…ジクフリ、すごいんだから…せめてそういうこと言うのやめなよ…」
謝る言葉はぐっと飲み込んだ。
ここでは違うものを口にすべきだ。
「ありがとう、カズマ
俺が間違っていた。
正してくれてありがとう。」
「…………べつに」
「それで、やってみるか?」
「……うん」
二人が学園に帰ってきたのは9時を過ぎた頃だ。
明幸は寮の入口で待っていた。
ここを通ってきた生徒はギョッとしていたであろう。
「帰ってきてあげましたけど?」
明幸は時計を見て、二人をみた。
「やけに上から目線だな」
「ったりめーでしょうが。私が敬語使ってあげてるだけでも感謝して欲しいくらいですね。」
暗い森の中を駆けずり回っていたのだろう。
周りを高い壁で覆われた人工島は日が落ちるのが早い。
だが、無事に帰ってきた。
二人がケンカをした様子もない。
「よし、評価はSにしておく。」
「おえ?」
「Aではないのか?」
「規定外の課外授業だし、Sが妥当だろ。
アタシはそこまで鬼じゃないし、鬼になるなって言われたし、お前らギスギスしてたし。」
カズマとジークフリートはお互いをみた。
ギスギスしていたといえば、確かにそうなのだろう。
お互い知らないことばかり、そして知らない環境でわからないことを学んでいる。
そうなるのは当然だ。
「寮長には話をつけている。
さっさと中に入って寝ろ。」
ぶっきらぼうに言って寮の入口から出て行った。
ぽつぽつと明かりのある道を歩く。
点滅するように背中がまた小さくなっていった。
「…でも、木から落としたのは、別の話じゃね」
「カズマ、もう休もうか…さすがの俺も堪えた」
二人してため息をつきながら玄関に入ると、日替わりで駐留する警備員が声をかけた。
「お、今日課外授業だったんだろ?あの白鷹教官の!」
「はぁ、まあ、そうですけど」
「差し入れだってよ。」
おずおずと、差し出された箱を受け取る。
少し中を開けて見てみる。
「!!」
「なんだった?」
「あ、いや、その……」
ジークフリートが同じくその中身を覗いてみる。
「……ケーキ、か?」
「…か、帰って、お風呂入って、食べよ」
そそくさと足早に帰っていくカズマを見ながら、確信する。
「ケーキが好きなのか…」