ジークフリート
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大昔の話を聞いたことがある。
とある男はいろんな人物の願いを叶えてきた。
それだけでよくありがちな、自己犠牲の話だ。
子供たちはその冒頭でうんざりする。
誰かの為になるような人間になりなさいと、そういうタイプの話はすでに聞き飽きた。
しかし爺、婆は違うという。
これは人の話だから、教訓など何もない。
人の願いを叶え続けた結果、自分の死を望まれることになった悲しい男の人生の話だと。
その男…否、王子は武勇にも、容姿も端麗だったという。さらに付け加えるなら、育ちの良さ以外に確かに感じられる人格の良さ。
いかに全てに優れていたかは、逸話を知ればよくわかる。
冒険の果てに竜を殺し、美しい姫に求婚すればめでたく結婚し、誰かに求められればすぐに助けた。
華やかな人生だったろう。
絶頂が何度も続いているかのような功績に、カズマは首を絞めたくなった。
そんな話、底辺に叩きつけられているカズマには拷問と同じだった。
どうして私ばかりこんな思いをしなければならないのだろう。
こういう思いは何度も吐き戻し、そうして飲み込まなければならない。
カズマはその話を最後まで聞く前に部屋を出ていったのを覚えている。
いつも隣にいる男はその王子、ジークフリートだと言う。
カルデア職員は説明を続ける。
「3日前、あなたはジークフリート氏を呼び起こし、その姿を竜にさせました。
魔力を譲渡しすぎたのか、なんなのか…それは今後の調査で答えが出ますが、
とにかく、結果的に暴走をさせてしまったのです。」
「暴走…」
時折ラジオで聞く。
どこかの地方で信仰していたはずの神様が暴走し、街を一つ破壊、虐殺、蹂躙を行ったと。
過ぎてしまったことなので、そうなのか、と他人事のように思う。
「信仰対象が暴走を始めたとの通報を受けて5時間後、対象は撃破され、あなたとジークフリート氏がいました。
何が起こったのか、教えていただけませんか。」
簡単に以上の話をまとめると、
カズマの出身地にて厚く信仰されていたジークフリートがカズマをきっかけに暴走し、5時間後にはジークフリートは消えていたと。
その答えを言うだけなら簡単だ。
だが、なら、それでは、
ここにいる男は何だ?
「カズマが見事討ち果たしてくれた。」
カズマの代わりにジークフリートは言う。
それは確かに事実だ。しかし隣にいる男は本当にジークフリートなのだろうか。
「では、すでに契約済み、ということでしょうか?」
「あなたたちの言葉で言うなら、そうかもしれない。
まだ知識が浅くてな。すまない。」
「いいえ、無理もありません。
そうだ、カズマさん、今すぐには無理ですが、手続きを踏めばご両親とお会いになれますよ。
どうしますか?」
その返答はすぐにできる。
「会いたくないです」
「え?」
「『あの竜』に親を殺してほしいと願ったんです。
私がどう思ってるか、察してください。」
職員は言葉を閉じて、無意味に鉛筆を回してみせた。
それからいくつかの質問をされて、職員はさっさと出て行った。
部屋は急に静かになる。
たまらずカズマは尋ねた。
「ジークフリート…なの?」
「なんだ?」
「いや、さっきのことが、気になって」
お前は本当にあのジークフリートなのか、と直球に尋ねる。
一つ頷く。
白銀の髪がきれいに揺れてみせた。
「俺とあの竜は同じ存在だ。
ただ、カズマ、嘘は良くない。
あの時あなたが死にたがっていた。
親の死など望んでいないだろう。」
「…ああでも言わないと、きっと、会いに来る。
怖い。」
押せば引いて、引けば押すような両親だ。
こっちが遠ざかれば、無論奪い返しにくるはずだ。
今までそういう体験を何度もしてきた。
そんな時、決まって怖いことをされるのだ。
背筋がぞっとする。
顔を背けて、一人、恐怖に耐えていると、何故か王子はベッドに腰掛けてきた。
思わずぎょっとした。
「な、なに」
「顔が見えない。」
「何で見たがるの」
「怖いと言ったからだ。」
意味がわからない。
不快感が募る。
両極端な彼らの態度にカズマは吐きそうになる。
胸の中が重たい。
「ほっといて」
「だが…」
「お願いだから、
気持ち悪い。
離れて。
優しくするな。
吐きそうになる。」
拒絶の言葉を差し向けたならば、ジークフリートは小さくつぶやく。
「わかった。
夜になったら戻ってくる。」
色々な感情に左右され、振り回されて、泣きたくなった。
こんな汚い思いを力ずくで取り除きたくなる。
自己嫌悪が積み重なって、ひとしきり泣くことしかできなかった。
「花は好きか?」
寝落ちしていたようだ。
全身の痛みなどお構いなしに、泣いて、痛くて泣いて、よくわからなくて泣いて。
目を開けると同時にジークフリートは花を見せてきた。
本音をあえて言おう。
「は?」
「この部屋は殺風景だ。
確かに日当たりはいいが、花がないのは良くないと思った。
カズマの髪色に似た花を見つけたので、手折ってきたんだ。」
青く小さい花。
それが4輪。
小さい花瓶に入れて傍のテーブルの上に乗せた。
「…へー」
「カズマは何色が好きか教えてくれ」
「そんなの無いよ」
「そうなのか。
では好きな食べ物は」
「苦くなければなんでもいい」
「好きな音楽は」
「知らない」
「では…」
「うるさい」
ジークフリートは黙った。
さすがに、愛想が無さ過ぎた、と反省する。
「…………………なんか………ごめん」
長い沈黙の後、謝ってみた。
お互いほぼ初対面の人間だ。
それなのに愛想なく接して、無礼にもほどがある。
(そもそも、なんでこんなに、無愛想にしてるんだろう…私は)
きっと部屋を出ていくだろう。
そんなことを思った。
「何故だ。
俺が聞きすぎた。
俺の落ち度だ。」
その言葉を耳にしたとき、ひとつしかない目を丸くさせた。
右の目はもうひとりのジークフリート…竜の姿の存在…に目を焼かれたからだ。
とにかく、カズマは聞かざるを得なかった。
「…あのさ、今さっきの私の態度に愛想がないってキレてもいいとこじゃない?」
「そうなのか?」
「……まぁ
…実際…
…何も…
知らないし好みもないんだけど…」
これまで誰かの好みしか考えていなかった。
すべてあの二人に愛されるためだけに人生を極ぶりしていたと言っても過言ではない。
どうすれば喜んでもらえるのだろうか。
何をすれば見てくれるのか。
ただそれだけしかないカズマは空っぽ同然であった。
「…では、花は好きか?」
「……そこそこ」
「そうか、よかった」
ここでジークフリートは微笑む。
カズマは何もしていない。
適当に返事をしただけだ。
それだけなのに優しく笑うのだから、ひどく悔しくなって、毛布を頭まで被って引きこもる。
(そうか…無条件に優しいから、ムカつくのか)
理不尽な怒りを堪えて、じっとする。
とある男はいろんな人物の願いを叶えてきた。
それだけでよくありがちな、自己犠牲の話だ。
子供たちはその冒頭でうんざりする。
誰かの為になるような人間になりなさいと、そういうタイプの話はすでに聞き飽きた。
しかし爺、婆は違うという。
これは人の話だから、教訓など何もない。
人の願いを叶え続けた結果、自分の死を望まれることになった悲しい男の人生の話だと。
その男…否、王子は武勇にも、容姿も端麗だったという。さらに付け加えるなら、育ちの良さ以外に確かに感じられる人格の良さ。
いかに全てに優れていたかは、逸話を知ればよくわかる。
冒険の果てに竜を殺し、美しい姫に求婚すればめでたく結婚し、誰かに求められればすぐに助けた。
華やかな人生だったろう。
絶頂が何度も続いているかのような功績に、カズマは首を絞めたくなった。
そんな話、底辺に叩きつけられているカズマには拷問と同じだった。
どうして私ばかりこんな思いをしなければならないのだろう。
こういう思いは何度も吐き戻し、そうして飲み込まなければならない。
カズマはその話を最後まで聞く前に部屋を出ていったのを覚えている。
いつも隣にいる男はその王子、ジークフリートだと言う。
カルデア職員は説明を続ける。
「3日前、あなたはジークフリート氏を呼び起こし、その姿を竜にさせました。
魔力を譲渡しすぎたのか、なんなのか…それは今後の調査で答えが出ますが、
とにかく、結果的に暴走をさせてしまったのです。」
「暴走…」
時折ラジオで聞く。
どこかの地方で信仰していたはずの神様が暴走し、街を一つ破壊、虐殺、蹂躙を行ったと。
過ぎてしまったことなので、そうなのか、と他人事のように思う。
「信仰対象が暴走を始めたとの通報を受けて5時間後、対象は撃破され、あなたとジークフリート氏がいました。
何が起こったのか、教えていただけませんか。」
簡単に以上の話をまとめると、
カズマの出身地にて厚く信仰されていたジークフリートがカズマをきっかけに暴走し、5時間後にはジークフリートは消えていたと。
その答えを言うだけなら簡単だ。
だが、なら、それでは、
ここにいる男は何だ?
「カズマが見事討ち果たしてくれた。」
カズマの代わりにジークフリートは言う。
それは確かに事実だ。しかし隣にいる男は本当にジークフリートなのだろうか。
「では、すでに契約済み、ということでしょうか?」
「あなたたちの言葉で言うなら、そうかもしれない。
まだ知識が浅くてな。すまない。」
「いいえ、無理もありません。
そうだ、カズマさん、今すぐには無理ですが、手続きを踏めばご両親とお会いになれますよ。
どうしますか?」
その返答はすぐにできる。
「会いたくないです」
「え?」
「『あの竜』に親を殺してほしいと願ったんです。
私がどう思ってるか、察してください。」
職員は言葉を閉じて、無意味に鉛筆を回してみせた。
それからいくつかの質問をされて、職員はさっさと出て行った。
部屋は急に静かになる。
たまらずカズマは尋ねた。
「ジークフリート…なの?」
「なんだ?」
「いや、さっきのことが、気になって」
お前は本当にあのジークフリートなのか、と直球に尋ねる。
一つ頷く。
白銀の髪がきれいに揺れてみせた。
「俺とあの竜は同じ存在だ。
ただ、カズマ、嘘は良くない。
あの時あなたが死にたがっていた。
親の死など望んでいないだろう。」
「…ああでも言わないと、きっと、会いに来る。
怖い。」
押せば引いて、引けば押すような両親だ。
こっちが遠ざかれば、無論奪い返しにくるはずだ。
今までそういう体験を何度もしてきた。
そんな時、決まって怖いことをされるのだ。
背筋がぞっとする。
顔を背けて、一人、恐怖に耐えていると、何故か王子はベッドに腰掛けてきた。
思わずぎょっとした。
「な、なに」
「顔が見えない。」
「何で見たがるの」
「怖いと言ったからだ。」
意味がわからない。
不快感が募る。
両極端な彼らの態度にカズマは吐きそうになる。
胸の中が重たい。
「ほっといて」
「だが…」
「お願いだから、
気持ち悪い。
離れて。
優しくするな。
吐きそうになる。」
拒絶の言葉を差し向けたならば、ジークフリートは小さくつぶやく。
「わかった。
夜になったら戻ってくる。」
色々な感情に左右され、振り回されて、泣きたくなった。
こんな汚い思いを力ずくで取り除きたくなる。
自己嫌悪が積み重なって、ひとしきり泣くことしかできなかった。
「花は好きか?」
寝落ちしていたようだ。
全身の痛みなどお構いなしに、泣いて、痛くて泣いて、よくわからなくて泣いて。
目を開けると同時にジークフリートは花を見せてきた。
本音をあえて言おう。
「は?」
「この部屋は殺風景だ。
確かに日当たりはいいが、花がないのは良くないと思った。
カズマの髪色に似た花を見つけたので、手折ってきたんだ。」
青く小さい花。
それが4輪。
小さい花瓶に入れて傍のテーブルの上に乗せた。
「…へー」
「カズマは何色が好きか教えてくれ」
「そんなの無いよ」
「そうなのか。
では好きな食べ物は」
「苦くなければなんでもいい」
「好きな音楽は」
「知らない」
「では…」
「うるさい」
ジークフリートは黙った。
さすがに、愛想が無さ過ぎた、と反省する。
「…………………なんか………ごめん」
長い沈黙の後、謝ってみた。
お互いほぼ初対面の人間だ。
それなのに愛想なく接して、無礼にもほどがある。
(そもそも、なんでこんなに、無愛想にしてるんだろう…私は)
きっと部屋を出ていくだろう。
そんなことを思った。
「何故だ。
俺が聞きすぎた。
俺の落ち度だ。」
その言葉を耳にしたとき、ひとつしかない目を丸くさせた。
右の目はもうひとりのジークフリート…竜の姿の存在…に目を焼かれたからだ。
とにかく、カズマは聞かざるを得なかった。
「…あのさ、今さっきの私の態度に愛想がないってキレてもいいとこじゃない?」
「そうなのか?」
「……まぁ
…実際…
…何も…
知らないし好みもないんだけど…」
これまで誰かの好みしか考えていなかった。
すべてあの二人に愛されるためだけに人生を極ぶりしていたと言っても過言ではない。
どうすれば喜んでもらえるのだろうか。
何をすれば見てくれるのか。
ただそれだけしかないカズマは空っぽ同然であった。
「…では、花は好きか?」
「……そこそこ」
「そうか、よかった」
ここでジークフリートは微笑む。
カズマは何もしていない。
適当に返事をしただけだ。
それだけなのに優しく笑うのだから、ひどく悔しくなって、毛布を頭まで被って引きこもる。
(そうか…無条件に優しいから、ムカつくのか)
理不尽な怒りを堪えて、じっとする。