クー・フーリン
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ささやかな皮肉交じりの声がきこえる。
少女は何を言われているのかわからないが、よくは思わなかった。
胸の奥にウジウジと、嫌なものが溜まっていく。
それは鋭い刃のように感じ取れるが実際は鉛だった。
そんな胸中を見抜いて彼は言う。
「戯言に耳を貸す必要はねぇさ」
それに、頷いて歩いていく。
この小さな片田舎を出て行く際に、小さな弟に言う。
「お姉ちゃんはもういなくなるからね。」
5歳になったばかりの弟はわからぬようだ。
首をかしげているが、スッと母親が弟の肩を抱く。
親の目は疑心と憂いと不安に満ちた目だ。
「エオス、行くぞ」
「はぁい」
そのあとは振り返りもせず、彼の手を握って村を出て行った。
彼、というのはどんな存在であるかよくわかっていない。
エオスと彼から呼ばれた少女は幼い時からソレが見えていた。
だが大人たちはソレが何であるかは大方検討はついていた。
大昔、この村はとある国の端っこであった。
そうなればやはり敵も来るのだが、たまたま、『その時』は一人の子供だった。
外見的特徴といえば、未成熟な身体と、指につけた装飾具、そして一本の赤い槍。
とはいえ見かけによらず大人たちをどんどん倒していく。
それはもう英雄の卵と言えるほどであった。
この村に、その子供と戦える男たちはいなくなってしまったので国へ応援を依頼した。
そして訪れたのは英雄『クー・フーリン』
たった一人だ。
当時クー・フーリンの異名は全土へと轟いており、来訪した際は大盛り上がりだったという。
そして子供と英雄の一騎打ちが始まる。
これまでの大人たちを打ち負かしてきた子供は、さすがの英雄の槍捌きに追いつけぬ、そう奢っていたがその逆。
子供はクー・フーリンと同格であった。
いくら子供とは言え一介の戦士。
クー・フーリンは秘技を使った。
結果は言うまでもなく勝利。
だが子供は最後に言うのだ。
「それは教えてもらっていなかった」
血だまりに倒れた子供の言葉にすぐさま理解できなかったものの、背景を辿れば、クー・フーリンと同じ師を持っていた。
さらにクー・フーリンの血の繋がった子供だという。
クー・フーリンは悲しみはしなかった。
ただ、いつもより長く、深く、追悼していた。
村の伝承によれば、それはどんな者より、長い長い追悼であったという。
そんなことからこの村ではクー・フーリンは「慈しみ」「子供の守護」といった信仰を受けている。
エオスは知らないものの、クー・フーリンと呼ばれる彼がいつまでも深く深く目を閉じているのを見てしまった。
「風邪引くよ?」
それでも開くことはない。
傍らの大きな槍は地面に深く突き刺さっている。
木漏れ日が差す中、エオスは怖がらず顔を覗き込んだ。
「寝てるの?」
そうして、何百年もの眠りを妨げられたかのような不機嫌な顔をして目を開いた。
『なんだガキ』
「口わる!」
『悪くなるに決まってんだろう。
急に起こされたんだ。
誰だって不快だ。』
「そお?朝のまぶしー太陽とか、鳥の鳴き声とか好きだよ!
いっつも学校行く時、スズメがついてくるの!
…でもこれ言うと変な子って言うんだよねえ」
彼は顔を上げて、太陽に目を細める。
周りを見渡して、ああ、そうか、と呟いた。
『ここは、あの場所か…』
「?
迷子なの?」
『迷子のほうがマシだ。』
「…迷子じゃないってこと?
じゃあ何?」
『何をするべきか
何をもってして存在を続けるか
それがわからない』
クー・フーリンはエオスのせいでこの世に出現したも同然だった。
目を閉じた彼は、原型であるクー・フーリンの影同然。
意思の残留物だ。
エオスがそれを見てしまい、認識し、話しかけてしまったことで実像を得てしまった。
クー・フーリンとしての知識、経験はあるが生まれたて同然だ。
寝起きのようで、時折目を閉じる。
どうせ眠ったとしても数時間の安寧だ。
長い眠りには戻れない。
「じゃあ、あそぼ!」
『は?』
英雄は素っ頓狂な声を出す。
「何もすることがないってことでしょ?
それって暇ってことでしょ?
ね!あそんで!」
『ちょっ、な、なんで俺が…』
「座ってても何も変わらないでしょ!ほら!いこーよ!
私の秘密基地教えてあげる!」
無理やり手を引っ張って少女の言う秘密基地に連れて行かれた。
戦地とは違う緑の匂い。大地から切り取った土。甘い果実の味。
それまでの鈍っていた五感を研いで、頭が冴え渡る。
「これ私の宝物!
鹿の角と、セミの抜け殻、お絵描き用の軽石とすっごい綺麗な石!!」
『名前は』
「宝物に名前なんてないよ~」
『違う、お前のだよ』
「私?エオスだよ
エオス=ゴッドスピード 」
『エオスか。
確かに目覚めにはいい名前だ。』
「おじさんは?」
『クー・フーリン』
「へぇ~
じゃあお近づきの印にこの石あげる!
特別だよ!」
彼は目を覚ます。
新しい乗り物に慣れず、ここ数日は目が冴え渡っていたが、いつの間にか寝てしまったようだ。
「あ!クーおはよ!」
「おう、おはようさん」
「みて!買ってきてあげたんだ!
ひえひえだよ!」
エオスはクーに冷たい飲み物を渡す。
眠気覚ましにちょうど良い。
「どのくらい寝てた」
「え?わかんないけど、結構長かった!
ほっぺた引っ張っても起きなかったよ」
寝てる人間にそういうことはするなとあれほど注意してきたつもりなのだが、エオスには関係ないようだ。
「ね!だから構って~
すごく暇だったんだ~」
これでも弟が居る長女のはずなのだが、クーがいるせいで甘えん坊だ。
「お前なぁ~もう8歳だろ
もうちょっと大人になれよ」
「え~…だめ?」
「………だめじゃねぇけど…」
大概クーも甘いのだが、エオスが甘え上手というのもある。
そして何より愛想がよく気持ちのいいくらい明るい。
仕方なく膝に乗せて構ってやると学校関係者がやってくる。
「次で乗り換えですのでご準備ください」
「あ、はーい」
「その後は船で移動しますので。」
エオスはちゃっかり荷物を既にまとめていたようだ。
リュックを抱きしめている。
一方クーは荷物がない…というよりは、エオスのリュックに入れている。
エオスたちは『カルデア』という学校に向かっている。
そもそも、何故家里離れて行かなければならないのか。
それはエオスの特異性にある。
この世界には魔力を持つ人間が時々存在している。
そして、霊的存在を武器にする術をも持っている。
そんな二つの存在を取りまとめるのが『カルデア』という学校だ。
魔力の暴発や暴走を起こさせないために、魔力の扱い方を学ぶ。
そして霊的存在は普通の人間では御しきれない力を時折爆発させてしまう。
それを魔力を持つ人間によって制御させ、未然に防ぐという目的がある。
とはいえ、そんな希な人間が居れば普通の人間は異端の目を向けるのは当然の話し。
そういうわけで保護という名目で『カルデア』に強制入学をさせるのだ。
エオスを抱き上げたまま新幹線を降りる。
人の多さに興奮するが、クーはそんな人間を冷めた目で見ていた。
ごん、と硬い音がした。
「ぁいて」
「あ、わりぃ」
新幹線の入口でエオスが頭を打った。
クーがしゃがみきれなかったからだ。
「もー!しっかりしてよね!」
「悪かったって」
新幹線はただひたすらに前に進む。
クーは起こされた身とはいえ、すっかりエオスに心ほだされていた。
事実、エオスと居るのは面白い。
村の祭りも、たくさんの冒険と、ささいなケンカと仲直りもすべてこなした。
今も疲れて眠ってしまっているエオスを見つめる。
頭を撫でて、そして手に持つ綺麗な石を眺めた。
(エオスはどこに行くんだろうなあ)
『カルデア』は海に浮かぶ人工島だ。
全世界が『カルデア』という魔力を持つ人間を収容する施設の設立に合意し、そして体面を気にして学校、という体裁を取っている。
むろん収容するのだから”出してはいけない”。
そして内部の人間に被害を加えてもいけない。
出された答えは、海底から入るという方法だ。
「うわ!!
みて!お魚さん!!」
「うお~でけぇ~見ろエオス、鯨だぞ。
うまそ~」
「そんな邪な目をする人は見ちゃダメ!」
「なんだよ腹グーグー鳴らしてるくせに」
相変わらず明るい組み合わせだ、と学校関係者は思う。
今までいろんな”主従”を迎えてきたがこんなに明るく、既に信頼を築いている主従は数える程しかいない。
「もうそろそろ学園都市に着きます。」
ふわ~っと小型艇が浮き上がり、日の目を浴びた。
そこからさらに港らしい桟橋にたどり着く。
「お疲れ様です。
ここが学園都市となります。
入学は明後日ですので、とりあえずはこれから過ごす寮へ案内します。」
「わ~」
「エオス、離れんな
迷子になるぞ」
二人はそれぞれ地図を貰い、賑わう町並みを歩いていく。
村にいた頃はこんなに多くの店を見たことがなかった。
初めて見るものも多い。
石畳の綺麗な道路にも目を惹かれる。
「ここが学園『カルデア』です。
寮はこの中です。
『カルデア』は夜9時を過ぎると閉門してしまい、合わせて寮も閉まってしまいます。
9時を過ぎる外出の際は警備員に夜間外出届を書いて出してください。」
「?」
「まぁ夜9時に外出すんなってことだ。」
門を過ぎて左に大きく曲がると、学校と負けず劣らず大きな寮があった。
荷物は先に部屋に届いていると聞いているが、この外観を見る限り、部屋にたどり着くのがさらに大変そうだ。
青葉のついた木々を横目に寮に到達する。
警備員が受付をし、中に入る…と思いきや。
「こちらが鍵です。
無くさないように。
それから部屋は807号室です。
寮は複雑なので、まずは自分の足で覚えてください。
この待合室に地図があるので。」
「急に投げやりだな」
「807って遠い?」
「もし迷ったら生徒に訪ねてください。
それでは長旅ご苦労様でした。」
そっけなく帰ってしまう案内人。
エオスとクーは顔を見合わせて地図を見入るのだった。
「ぜぇったいこっち!」
「お前の言い分は宛になんねぇんだよ!!
こっちにきまってる!!」
「私ちゃんと地図かいたもん!間違ってないもん!」
「お前村でもそういうこと言って一晩野営したろーが!」
「してないもん!あれはクーのせいだもん!」
「だぁ~~めんどくせぇ~~」
この有様である。
迷い始めて1時間。
これだけの大きな寮に放り出されたクーとエオスは子羊同然だ。
似たような壁紙と窓枠に同じドアの色。
無限ループの中をさまよう感覚。
階数は10階。
さらに棟は7つ。
疲労も同様に募っていた。
「も~私だって歩きたくない~やだ~」
「仕方ねーだろ
ほら、抱っこしてやるから」
「や~やだ~」
「ほら、行くぞ…も~俺だってヤダ~って言いてぇよ…」
エオスを無理やり抱き上げた目の前に、気配なく長身の女性が立っていた。
こちらの一部始終見られていたようだ。
「迷子か」
「はい!迷子でーす!」
「胸張って言えることじゃねえから」
「部屋はどこだ」
寄越せというように、メモした紙を見る。
そして、じーっと周りを見渡す。
「あの角左に曲がって階段を3つ降りたら807だ。
ついでに言っとくと、地下に食堂と風呂場がある。」
「悪い、助かった」
「ありがとうお姉さん!!」
「別に。
じゃあ。」
「あっ!お名前なんて言うの?私エオス!」
エオスの問にその女性はぶっきらぼうに言う。
「明幸」
身軽に階段を下りていくのを見届けて、二人も教えられた道順を行く。
部屋を開けた瞬間、荷物がごろごろと転がっていた。
ダンボールの中には衣装しか入っていないのだが、部屋に散らばっている。
せめて並べるなりしてもいいと思うが。
「はい!クーさんにインタビューです!
今のお気持ちを教えてください!」
「は?何だよ」
「いーから!」
クーは考えるふりをしたが、言うことは決まっていた。
「お前がこれ以上馬鹿しないように監視します。」
「馬鹿っていう方が馬鹿なんです~」
「へいへい」
そんなことを言っても、なんとなく腹の中は決まっている。
それをそっと仕舞っておもむろにダンボールの前に座った。
「何すんの?」
「お前の服出すんだよ」
「ぎゃーー!!それパンツ!!!」
「ガキの下着みて興奮するわけねぇだろうが」
「変態!ばか!オヤジ!」
少女は何を言われているのかわからないが、よくは思わなかった。
胸の奥にウジウジと、嫌なものが溜まっていく。
それは鋭い刃のように感じ取れるが実際は鉛だった。
そんな胸中を見抜いて彼は言う。
「戯言に耳を貸す必要はねぇさ」
それに、頷いて歩いていく。
この小さな片田舎を出て行く際に、小さな弟に言う。
「お姉ちゃんはもういなくなるからね。」
5歳になったばかりの弟はわからぬようだ。
首をかしげているが、スッと母親が弟の肩を抱く。
親の目は疑心と憂いと不安に満ちた目だ。
「エオス、行くぞ」
「はぁい」
そのあとは振り返りもせず、彼の手を握って村を出て行った。
彼、というのはどんな存在であるかよくわかっていない。
エオスと彼から呼ばれた少女は幼い時からソレが見えていた。
だが大人たちはソレが何であるかは大方検討はついていた。
大昔、この村はとある国の端っこであった。
そうなればやはり敵も来るのだが、たまたま、『その時』は一人の子供だった。
外見的特徴といえば、未成熟な身体と、指につけた装飾具、そして一本の赤い槍。
とはいえ見かけによらず大人たちをどんどん倒していく。
それはもう英雄の卵と言えるほどであった。
この村に、その子供と戦える男たちはいなくなってしまったので国へ応援を依頼した。
そして訪れたのは英雄『クー・フーリン』
たった一人だ。
当時クー・フーリンの異名は全土へと轟いており、来訪した際は大盛り上がりだったという。
そして子供と英雄の一騎打ちが始まる。
これまでの大人たちを打ち負かしてきた子供は、さすがの英雄の槍捌きに追いつけぬ、そう奢っていたがその逆。
子供はクー・フーリンと同格であった。
いくら子供とは言え一介の戦士。
クー・フーリンは秘技を使った。
結果は言うまでもなく勝利。
だが子供は最後に言うのだ。
「それは教えてもらっていなかった」
血だまりに倒れた子供の言葉にすぐさま理解できなかったものの、背景を辿れば、クー・フーリンと同じ師を持っていた。
さらにクー・フーリンの血の繋がった子供だという。
クー・フーリンは悲しみはしなかった。
ただ、いつもより長く、深く、追悼していた。
村の伝承によれば、それはどんな者より、長い長い追悼であったという。
そんなことからこの村ではクー・フーリンは「慈しみ」「子供の守護」といった信仰を受けている。
エオスは知らないものの、クー・フーリンと呼ばれる彼がいつまでも深く深く目を閉じているのを見てしまった。
「風邪引くよ?」
それでも開くことはない。
傍らの大きな槍は地面に深く突き刺さっている。
木漏れ日が差す中、エオスは怖がらず顔を覗き込んだ。
「寝てるの?」
そうして、何百年もの眠りを妨げられたかのような不機嫌な顔をして目を開いた。
『なんだガキ』
「口わる!」
『悪くなるに決まってんだろう。
急に起こされたんだ。
誰だって不快だ。』
「そお?朝のまぶしー太陽とか、鳥の鳴き声とか好きだよ!
いっつも学校行く時、スズメがついてくるの!
…でもこれ言うと変な子って言うんだよねえ」
彼は顔を上げて、太陽に目を細める。
周りを見渡して、ああ、そうか、と呟いた。
『ここは、あの場所か…』
「?
迷子なの?」
『迷子のほうがマシだ。』
「…迷子じゃないってこと?
じゃあ何?」
『何をするべきか
何をもってして存在を続けるか
それがわからない』
クー・フーリンはエオスのせいでこの世に出現したも同然だった。
目を閉じた彼は、原型であるクー・フーリンの影同然。
意思の残留物だ。
エオスがそれを見てしまい、認識し、話しかけてしまったことで実像を得てしまった。
クー・フーリンとしての知識、経験はあるが生まれたて同然だ。
寝起きのようで、時折目を閉じる。
どうせ眠ったとしても数時間の安寧だ。
長い眠りには戻れない。
「じゃあ、あそぼ!」
『は?』
英雄は素っ頓狂な声を出す。
「何もすることがないってことでしょ?
それって暇ってことでしょ?
ね!あそんで!」
『ちょっ、な、なんで俺が…』
「座ってても何も変わらないでしょ!ほら!いこーよ!
私の秘密基地教えてあげる!」
無理やり手を引っ張って少女の言う秘密基地に連れて行かれた。
戦地とは違う緑の匂い。大地から切り取った土。甘い果実の味。
それまでの鈍っていた五感を研いで、頭が冴え渡る。
「これ私の宝物!
鹿の角と、セミの抜け殻、お絵描き用の軽石とすっごい綺麗な石!!」
『名前は』
「宝物に名前なんてないよ~」
『違う、お前のだよ』
「私?エオスだよ
エオス=ゴッドスピード 」
『エオスか。
確かに目覚めにはいい名前だ。』
「おじさんは?」
『クー・フーリン』
「へぇ~
じゃあお近づきの印にこの石あげる!
特別だよ!」
彼は目を覚ます。
新しい乗り物に慣れず、ここ数日は目が冴え渡っていたが、いつの間にか寝てしまったようだ。
「あ!クーおはよ!」
「おう、おはようさん」
「みて!買ってきてあげたんだ!
ひえひえだよ!」
エオスはクーに冷たい飲み物を渡す。
眠気覚ましにちょうど良い。
「どのくらい寝てた」
「え?わかんないけど、結構長かった!
ほっぺた引っ張っても起きなかったよ」
寝てる人間にそういうことはするなとあれほど注意してきたつもりなのだが、エオスには関係ないようだ。
「ね!だから構って~
すごく暇だったんだ~」
これでも弟が居る長女のはずなのだが、クーがいるせいで甘えん坊だ。
「お前なぁ~もう8歳だろ
もうちょっと大人になれよ」
「え~…だめ?」
「………だめじゃねぇけど…」
大概クーも甘いのだが、エオスが甘え上手というのもある。
そして何より愛想がよく気持ちのいいくらい明るい。
仕方なく膝に乗せて構ってやると学校関係者がやってくる。
「次で乗り換えですのでご準備ください」
「あ、はーい」
「その後は船で移動しますので。」
エオスはちゃっかり荷物を既にまとめていたようだ。
リュックを抱きしめている。
一方クーは荷物がない…というよりは、エオスのリュックに入れている。
エオスたちは『カルデア』という学校に向かっている。
そもそも、何故家里離れて行かなければならないのか。
それはエオスの特異性にある。
この世界には魔力を持つ人間が時々存在している。
そして、霊的存在を武器にする術をも持っている。
そんな二つの存在を取りまとめるのが『カルデア』という学校だ。
魔力の暴発や暴走を起こさせないために、魔力の扱い方を学ぶ。
そして霊的存在は普通の人間では御しきれない力を時折爆発させてしまう。
それを魔力を持つ人間によって制御させ、未然に防ぐという目的がある。
とはいえ、そんな希な人間が居れば普通の人間は異端の目を向けるのは当然の話し。
そういうわけで保護という名目で『カルデア』に強制入学をさせるのだ。
エオスを抱き上げたまま新幹線を降りる。
人の多さに興奮するが、クーはそんな人間を冷めた目で見ていた。
ごん、と硬い音がした。
「ぁいて」
「あ、わりぃ」
新幹線の入口でエオスが頭を打った。
クーがしゃがみきれなかったからだ。
「もー!しっかりしてよね!」
「悪かったって」
新幹線はただひたすらに前に進む。
クーは起こされた身とはいえ、すっかりエオスに心ほだされていた。
事実、エオスと居るのは面白い。
村の祭りも、たくさんの冒険と、ささいなケンカと仲直りもすべてこなした。
今も疲れて眠ってしまっているエオスを見つめる。
頭を撫でて、そして手に持つ綺麗な石を眺めた。
(エオスはどこに行くんだろうなあ)
『カルデア』は海に浮かぶ人工島だ。
全世界が『カルデア』という魔力を持つ人間を収容する施設の設立に合意し、そして体面を気にして学校、という体裁を取っている。
むろん収容するのだから”出してはいけない”。
そして内部の人間に被害を加えてもいけない。
出された答えは、海底から入るという方法だ。
「うわ!!
みて!お魚さん!!」
「うお~でけぇ~見ろエオス、鯨だぞ。
うまそ~」
「そんな邪な目をする人は見ちゃダメ!」
「なんだよ腹グーグー鳴らしてるくせに」
相変わらず明るい組み合わせだ、と学校関係者は思う。
今までいろんな”主従”を迎えてきたがこんなに明るく、既に信頼を築いている主従は数える程しかいない。
「もうそろそろ学園都市に着きます。」
ふわ~っと小型艇が浮き上がり、日の目を浴びた。
そこからさらに港らしい桟橋にたどり着く。
「お疲れ様です。
ここが学園都市となります。
入学は明後日ですので、とりあえずはこれから過ごす寮へ案内します。」
「わ~」
「エオス、離れんな
迷子になるぞ」
二人はそれぞれ地図を貰い、賑わう町並みを歩いていく。
村にいた頃はこんなに多くの店を見たことがなかった。
初めて見るものも多い。
石畳の綺麗な道路にも目を惹かれる。
「ここが学園『カルデア』です。
寮はこの中です。
『カルデア』は夜9時を過ぎると閉門してしまい、合わせて寮も閉まってしまいます。
9時を過ぎる外出の際は警備員に夜間外出届を書いて出してください。」
「?」
「まぁ夜9時に外出すんなってことだ。」
門を過ぎて左に大きく曲がると、学校と負けず劣らず大きな寮があった。
荷物は先に部屋に届いていると聞いているが、この外観を見る限り、部屋にたどり着くのがさらに大変そうだ。
青葉のついた木々を横目に寮に到達する。
警備員が受付をし、中に入る…と思いきや。
「こちらが鍵です。
無くさないように。
それから部屋は807号室です。
寮は複雑なので、まずは自分の足で覚えてください。
この待合室に地図があるので。」
「急に投げやりだな」
「807って遠い?」
「もし迷ったら生徒に訪ねてください。
それでは長旅ご苦労様でした。」
そっけなく帰ってしまう案内人。
エオスとクーは顔を見合わせて地図を見入るのだった。
「ぜぇったいこっち!」
「お前の言い分は宛になんねぇんだよ!!
こっちにきまってる!!」
「私ちゃんと地図かいたもん!間違ってないもん!」
「お前村でもそういうこと言って一晩野営したろーが!」
「してないもん!あれはクーのせいだもん!」
「だぁ~~めんどくせぇ~~」
この有様である。
迷い始めて1時間。
これだけの大きな寮に放り出されたクーとエオスは子羊同然だ。
似たような壁紙と窓枠に同じドアの色。
無限ループの中をさまよう感覚。
階数は10階。
さらに棟は7つ。
疲労も同様に募っていた。
「も~私だって歩きたくない~やだ~」
「仕方ねーだろ
ほら、抱っこしてやるから」
「や~やだ~」
「ほら、行くぞ…も~俺だってヤダ~って言いてぇよ…」
エオスを無理やり抱き上げた目の前に、気配なく長身の女性が立っていた。
こちらの一部始終見られていたようだ。
「迷子か」
「はい!迷子でーす!」
「胸張って言えることじゃねえから」
「部屋はどこだ」
寄越せというように、メモした紙を見る。
そして、じーっと周りを見渡す。
「あの角左に曲がって階段を3つ降りたら807だ。
ついでに言っとくと、地下に食堂と風呂場がある。」
「悪い、助かった」
「ありがとうお姉さん!!」
「別に。
じゃあ。」
「あっ!お名前なんて言うの?私エオス!」
エオスの問にその女性はぶっきらぼうに言う。
「明幸」
身軽に階段を下りていくのを見届けて、二人も教えられた道順を行く。
部屋を開けた瞬間、荷物がごろごろと転がっていた。
ダンボールの中には衣装しか入っていないのだが、部屋に散らばっている。
せめて並べるなりしてもいいと思うが。
「はい!クーさんにインタビューです!
今のお気持ちを教えてください!」
「は?何だよ」
「いーから!」
クーは考えるふりをしたが、言うことは決まっていた。
「お前がこれ以上馬鹿しないように監視します。」
「馬鹿っていう方が馬鹿なんです~」
「へいへい」
そんなことを言っても、なんとなく腹の中は決まっている。
それをそっと仕舞っておもむろにダンボールの前に座った。
「何すんの?」
「お前の服出すんだよ」
「ぎゃーー!!それパンツ!!!」
「ガキの下着みて興奮するわけねぇだろうが」
「変態!ばか!オヤジ!」
1/2ページ