君の夢を見るために
名前設定
この章の夢小説設定夏恋(デフォルト)
元親と幼馴染。
16歳にしては高身長で俗に言う美人。
ハキハキして女子にしては粗暴なところがある。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夏恋は縁側に居た。
紺色の着物を着て、座っているのだ。
ふと、聞こえないハズの声が聞こえた気がしてその方向を見ると、あの人が座っていた。
モノクロのはずなのに今日は色鮮やかだ。
『――――。』
何か言っている。
けれど聞こえない。
夏恋とその人の距離は離れているわけでもない。
それでも聞こえないのは大きな隔たりがあるのだろうと思わせる。
「聞こえないよ」
『――――――。』
「だから、聞こえないってば」
『――――、―――。』
「聞こえないって、言ってるじゃん!!」
叫んで、喉が枯れるまでそう言っても話すのをやめてくれない。
次第に胸が苦しくなって、泣き出す。
それでもこの人は話すのをやめてはくれなかった。
ふと、目が覚めると。
ベッドに腰掛けている幽霊がいた。
くすんだあの男だ。
まるで生きているように振る舞う幽霊に薄ら笑いさえ起こる。
「なんで勝手に座ってんだよ…」
体を起こすと泣いていたのがわかった。
人差し指を目尻にやると、涙がついていて、呆然とそれを見た。
すると男はこちらを見てゆっくり手を伸ばした。
驚いて、身を固くする。
あの白昼夢で、夏恋は死にかけたからだ。
ごつごつしていそうな指は夏恋に触れられず、少し通り抜けた。
それでも、涙を拭うような仕草をして、珍しく口をへの字にさせる。
おかしな幽霊だ。
いや、もしかすれば。
(幻覚?)
鏡を見てやつれたなと、自分で実感した。
しかし休もうとは思わず学校に向かう。
元親はしつこいほどに心配してくる。
ここまで弱った夏恋を見たことがないからだろう。
夏恋だって初めてだ。
「ほれ、握り飯握ってきた」
「おお、何入ってる?」
「こっちがおかか
こっちがサケ」
左右ひとつずつ、手のひらに乗せられた。
「やっり~
いやァ、料理男子が近くにいるとお得ですなァ」
「どうでもいいけどよ、お前ほんと休んだほうがいい
病院に行ったのか?」
「お金ないし、別にいいよ。」
「別によくはねぇだろうが」
これ以上悪化すると引きずってでも連れて行かれそうだ。
悪化させないよう、努力するしかない。
けどどうやって努力すんだよ、と自分にツッコミを入れて学校に着いた。
春なのに夏休み明けの体育祭に向けての準備をする。
応援合戦をどうするか、という学生らしい話し合いだ。
夏恋は人の気も知らずに、と不貞腐れる。
そもそもこの学校は学年対抗の体育祭で、毎年無駄に盛り上がるらしい。
しかし夏恋はどうにも盛り上がることはできない。
精神的に病んでいることもあるが、どうも周りが盛り上がっているとそれを傍観する側に回ってしまう癖があるようだ。
「うちには女子がいるんだからよ
な?夏恋!」
「え?」
「そうそう!そんだけ背が高いと目立つだろ!!」
「な、何が」
「応援合戦のチアガール」
「はぁ!!?」
そんなのいつ話し合ったんだ。
ぼうっとしている間にそんな話になったのか?
だとすれば想像していたより事態は深刻だ。
「私しないから!!」
「しょうがねぇだろ
ほかの学科の女子は恥ずかしいとか言って
つうかお前ホラ…スタイルいいじゃん…?」
「女なら誰でも良いくせに」
「チアガールだけじゃなくてチャイナ服とか」
本人そっちのけで勝手にヒートアップ。
ここに元親がいれば無理を言ってでもやめさせるのに、などと思いながら黒板のコスプレ一覧を全て消した。
ため息をつくと、教室の端にあのくすんだ色の人が現れた。
いつもの無表情かと思えば、少しだけ口角を緩ませて笑った。
(笑うタイミングがわからない…つうか私を笑ってんのか…?)
だが、あざけ笑うとか、そういうことではなく。
微笑んでいるようだった。
奴は何者なんだろう。
実際に存在していたのかな。
それともどこかにいるのかな。
雲を掴むような疑問ばかりで頭が痛くなる。
考えても仕方がない上に解決などするはずがない。
誰が教えてくれるはずもなく、夏恋は机に突っ伏して寝た。
町工場の男に引き取られた夏恋は家族と同等、いや、それ以上の愛情をもらって大切に育てられた。
学校に呼び出されたとき、ちゃんと叱り、ちゃんと許し、ちゃんと慰めた。
いろんな意味で尊敬のできる父親だ。
『おう、夏恋かい』
豪快な笑い声が聞こえる。
飲み会しているようだ。
グラスが当たったり大皿を用意する音が聞こえて来る。
そんな宴会に無理やり参加させられたり子供だからといってもみくちゃに可愛がられたことも思い出した。
「…うん」
夏恋の沈んだ声を聞いたせいか、父は席を立って少し離れた。
遠くの笑い声は少しずつ聞こえなくなっていく。
『珍しいな、お前さんから電話してくるってよ』
「…なんか、変な夢ばっか見て」
『ふーん』
「どうすればいい?
なんか、よくわかんなくて」
『夢が怖いのか?』
「……その……すこし」
それでも父は笑わない。
そうか、と言って肯定した。
これならもう少し踏み入ったことを相談しても笑わないだろうと、少し自信が出た。
「あと、あの…笑わないでほしいけど
変な、人が見えて…頭おかしくなりそう…」
まともな思考をすれば病院に行けと言うだろう。
夏恋もそんな相談されたらそう言うに決まっている。
『お前が何か悪いモンでももってんじゃねえの』
反発したくなるような答えに、は?と思わず言った。
『俺は見えるタチじゃねえし…
まさか…お前とうとう元親に影響されてヤクまで…』
「いや、してないし。
元親もしてないから。」
『お前、あいつを家につれてくんなよ
絶対だからな。あんなやつが俺の息子になるとか絶対ムリ!!』
「だからそういうの1ミリもないから。
いい加減しつこいなぁ…
ていうかその話じゃなくてさぁ」
夏恋が悪い、などと一切考えた事がなかった。
ある意味衝撃を与えられたし別の視界を得た気分にもなる。
それはそれとしてイラつきも抱える。
『気づかないうちに悪いことをしていた…とか?
まぁよくわからんが
あと、適度に帰ってこいよ
あいつらが寂しいっつってんぞ』
人生の先輩からやや適当な助言をもらったところで、電話を静かに切った。
父の言うとおり、答えはすぐ見つからないかもしれない。
それはいい。
でも、もっとも恐ろしいのは、答えが永遠に見つからないことだ。
それじゃあこれは常に悪夢を見ているのと同じじゃないか。
息が詰まるような想いをして、重そうな暗い空を見上げた。
その日の夢はひどい夢だった。
焼かれたような大地に鎧を着た人が倒れている。
それは地平線のかなたまで続いているように見えて、それだけで足がすくんだ。
しかし見たことあるような、ないような。
夏恋はいてもたってもいられずとりあえず走った。
生き残っている人は互いに刀を交わらせ、殺したり、生きたり、死んだり、死にかけだったり。
今にも生死の狂気に満ちた音が聞こえてきそうで。
走って走って、向かった場所は高い丘の頂上。
私が駆け上ってたどり着いた瞬間、赤い夕日が目に入った。
そして二つのシルエットは交わる。
わからない。
夕日の光が強くて何もわからない。
ふと、体の大きい方がぐらついて、膝をついた。
体には長い刀が貫通しているのがわかる。
そして地面に伏せた。
そこから彼は動かなくなって、
あの夢のことを考えると頭が痛くなる。
とうとう夏恋は初めて学校を休むことにした。
かといって寝るとまたあの夢を見そうで怖くて、テレビをつけて寝転んでいた。
昼ドラとかバラエティーにチャンネルを回すも脳内は空っぽだ。
生きた屍と表現するのが正しい。
だがふと父に言われたことを思い出す。
(私が、悪い…)
悪いことをしたらやったほうは忘れて、やられた方はずっと覚えているとよく言うが。
それでも忘れてしまったものは仕方ないし、どうしようもない。
あのくすんだ男は夏恋に何かを伝えようとしているわけでもなさそうだ。
かといって恨みを持っている表情ではない。
しばらく考えて、それでも答えは見当たらない。
自分自身、嫌いになりそうだった。
翌日、体調がすぐれない夏恋は学校に行ってもふらふらして座り込んでしまった。
あのくすんだ色をみると、体がへこたれる。
気力も、正気も吸い取られているようだ。
「夏恋!」
「ご、ごめんごめーん」
「謝んな…
ほら、立てるか」
元親の大きい手に引かれて立ち上がる。
しかしめまいもして、保健室に行くことにした。
「無理すんなよ。」
「うん、ありがと」
保健室の先生は夏恋の熱を測ったり、最近何時に寝てるかとか、聞いてくるが至って普通だ。
それはもう、模範解答のよう。
「体は冷える?」
「いえ、普通です…」
「顔色悪いし…とりあえず寝てみて、様子を見ましょうか」
「はい」
体を横にする。
真っ白なシーツはまるで魔法のように眠りに誘った。
あの夢が恐ろしく、深く眠れていない分よく眠れそうでもあった。
こんな保健室で、学校で、戦場の夢を見たならばきっとうなされているに決まってる。
そんな時は起こしてくれるだろう。
そう思って思い切って眠った。
『――――。』
「―――――、――。」
目を閉じれば知らない夢を見る。
というよりあまりにもリアルなものだったため誰かの記憶ではないかと思うほどだ。
緑に囲まれた景色と、豊かな茶色の土に澄んだ川が流れる。
典型的な自然の風景の中で色鮮やかな、あの人がいた。
死んだような血の気のない肌ではなく、小麦色のした綺麗な肌。
黄色が印象的な奇抜な服。
その隣には番傘をさした人がいる。
袴を着ているから後ろからでは男か女かわからない。
後ろ姿ではロクなことはわからない。
何を話しているのか、わからないけど。
ただ明確にわかるのは、仲が良いということだけ。
二人は歩き出した。
あの人は番傘を持った人の手をさりげなく握って。
微笑んで、歩いていく。
「―――。」
『―――、――――――。』
「――――。」
一人はさみしいからふたりの後をついて歩いていく。
ほんとうに仲が良さそうだ。
時々、番傘の人はあの人の手をにぎにぎと力を込めて、揉むように握るとあの人は子供っぽく笑って握り返す。
まるで子供がうちに帰るよう。
『―――。―――、夏恋。』
突然名前を呼ばれて心臓がはねた。
若い男性の声。
まるで霧をかき分けるようにその声は夏恋へ届いた。
あの人の声だとわかった。
けどなぜ、私の名前を呼ぶ?
私はあの人なんか知らないのに。
いや、これは私の夢なんだからあの人が名前を知っていてもおかしくはない。
忙しく動く心臓を落ち着かせるように思考を回らすが次の声でそれも無に帰す。
「私が迎えに行くよ、――。」
客観的な夏恋の声。
目を見開いて、番傘の人を見つめた。
番傘はゆっくりと下ろされる。
その先にいたのは。
ビクッと体が震えて起き上がった。
呼吸が荒い。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
頭が麻痺したようで、何も考えられない。
汗が吹き出し、頭がやたらと重い。
まるで重労働をした後のようだ。
少し唾を飲み込み、窓の外を眺めると
『おはよう、私』
紺色の袴に燃えるような赤の番傘を持った夏恋が笑って見下ろしていた。
◆
初めて彼女に出会ったのは夢の中だ。
鳥のさえずりと同時に、頬を撫でられる感触。
ふと目を覚ませば部屋の木目ではなく、軒下と、半分の空。
それと綺麗な女性。
「…。」
『あ、起こした?』
見た目と裏腹に明るい声は、動揺する心をひどく安心させた。
『もう少し寝てていいよ。
最近頑張ってたし。』
頬を撫でる手は女性の手であるにも関わらず、少し硬かった。
手を重ねるといくつかタコがあって、お前は誰だと尋ねようと思った。
しかし、白い瞼と長いまつげに閉じられた瞳が微かに開いて見つめられる。
日本人離れした顔立ちに時折金が混じる茶色の髪。
それらを隠すように頭に付けられた布あて。
何より目を惹かれたのは、彼女の深い瞳の蒼だった。
夢は毎晩続いた。
彼女は笑いかける。
涙を流す。
怒る。
そして自分を好いている。
金の髪は木の実の汁でごまかしていることも知った。
外国人とのハーフであることを大きい番傘で隠していることを知った。
夢の中で自分はは一国の主であることを知った。
彼女は鍛冶師であり、薬師でもあることを知った。
それ以前に堺の人間であり、商人であることを知った。
自分は彼女より年下だったことを知って少し恥ずかしい気持ちになった。
彼女はたくさんの話をした。
自分がよろめかないよう、様々な疑問を投げかけては心の内にある答えを引き出してくれていた。
自分が人を殺したことを知った。
彼女はそれでも自分と接吻を交わした。
彼女は恥ずかしそうにはにかんで、名前を呼んだ。
こんな自分でもたくさんの仲間がいたことを知った。
それらは全て彼女が教えてくれた。
彼女なしでは自分は人ではない、何かになっていたはずだと気づいた。
結局、大切な彼女を遺して死んだことを知った。
彼女は最期、来てはくれなかった。
来れない状況ではあったから仕方がない。
いや、それ以前に、彼女は最期まで信頼してくれた。
傍にいて涙を拭った。
唯一の光そのもののような気がした。
例え友に疑われ殺されかけようとも、友の大切な人間を殺してしまおうとも、絆と言って自分に繋がる絆はか細いものであったとしても。
彼女はそっと近くにいてくれて、愛してると囁き、ワシは彼女を離さなかった。