棘≠針
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世間知らずでつまらない人間だった麗をまともな感性にまで育てたのは豊満太志郎のおかげと言っても過言ではない。
それほど麗はという存在は人としてはかけ離れていたし、どこか違った世界の住人であった。
人と対面してもどこか別のところを見定めているような目つき。
何気ない会話をしていても探っているような言葉。
とてもヒーローを志すような精神状態ではないことは明らかだった。
『太志郎は、どうしてヒーローになろうと思ったの』
『俺?うーん…単純な話、人に助けになりたいとか
困ってる人助けたいとか、わりとこんな感じやで』
『へぇ……すごいね』
『すごいねって、麗もそうなんやないん?』
『金がほしいって言ったじゃん最初』
『それは建前やろ?』
別の意味で核心を突かれ、動揺した。
少し無言を作ってしまい、取り繕う。
『何言ってんの
今の世の中、金がないと何もできないよ』
『金の力だけじゃできないこともあるんやで』
『例えば?』
『えっ……えっと…』
うーん、うーーん、と頭を悩ませる。
意地悪な返しであり、まともに回答しようと真剣に考えるなどとは思ってもみなかった。
ここに人間性の開きがあると、麗は無意識のうちに自覚した。
『あっ、そや
俺とか!』
『は?』
『わからへん?
なんや言わすなや〜』
『刺すよ』
『こわ!!暴力反対!!』
友達、という存在は麗が初めて手に入れた宝物だった。
体も全快し、薬物取締会議に赴いた。
先に到着していたファットガムが白蛇丸を見るなりいつもの笑顔を浮かべる。
「白蛇丸!もう大丈夫なんか?」
「治ったよ」
「そかそか、よかったわ」
付き添いの部下は待合室で待っているよう指示をし、警察官に招かれるまま会議室へと入った。
今回は個性を異常活性させる薬物の取り締まり会議だ。
良くある麻薬とはまた別ベクトルの薬であり、警察の力だけでは抑えられないものである。
「今回の薬物は中毒性があり、投与者はオーバードーズしている
各所でたびたび騒動が起きており、いずれも身体検査をすると該当の成分が検出された。
売人はただの麻薬に満足できなくなった者を相手取っているようだ。」
事件発生箇所が地図上に赤い点で示される。
隣町から雪崩れ込むように事件が相次いでいる。
いずれも民間人への被害は出ていないが、少なからずヒーローは苦戦を強いられている。
こういった情報を知るたびにヒーローとはハンデの連続であると思う。
会議に集められたヒーローが各地域に見回りやパトロールの指示を受ける。
最後に回ってきたのは白蛇丸だ。
「白蛇丸は他サイドキックと行動を共にするように」
「…了解」
単独でヒーロー活動をしているがサイドキックと同じ扱いをされることなど珍しくはない。
めぼしい戦果など上げていないのだから当然だ。
むしろ、裏社会と通じているヒーローは多数のサイドキックに見張らせておくのが好都合。
早速取締りのパトロールが始まった。
パトロールは長期に続くもので、この間のように薬の製造元を叩かない限りはイタチゴッコだ。
今や個性の掛け合わせで想像もできないような個性が幅をきかせている。
そんな個性で海外から密輸することなど当たり前のことだ。
そのため麻薬取締りなど、本当の意味でイタチゴッコ。
ヒーローとヴィランも互いにイタチゴッコなのだ。
夜のパトロールは日替わりで、要請があればいつでも出向かなければならない。
とはいえ本日の白蛇丸のパトロールは終了した。
今度は自分の事務所の整理をしなければならない。
というのもパトロールや事件やらで屋敷に襲撃された跡がまだ残っているからだ。
むろん植物人間は警察に引き渡し、今も治療を行なっている。
回復次第話を聞きにいかなければならないが、体内の植物がそれを許すかどうか。
『奴』の植物であれば生かすはずがない。
さらには次の強襲も考えられる。
せめて舎弟たちの安全を確保したいものだ。
「白蛇丸〜!」
また片手にたこ焼き持ってパトロールしたようだ。
ファットは店のたこ焼き持つだけで良い宣伝になるだろう。
「今日の担当おしまいか?」
「うん
ファットはまだあるんでしょう」
「おん、
あと、はい」
ずい、とたこ焼きを差し出される。
「…まさかと思うけど
このたこ焼きのためにきたの?」
「それもある!」
「ああそう…」
爪楊枝でさしたたこ焼きを一つ食べて、胃の中に入れた。
栄養を一度に入れられない体であるため食事の回数には気をつけなければならない。
以前クラスメイトに心配され通常の食事回数を摂取したところ腹を壊して入院するまでに至ったからだ。
「それで、他には?」
「こないだの駅前の騒動
犯人見つからんのやろ?」
「……まぁね
計画犯だろうとは思っているけど
捜査は警察に一任してるよ」
「さよか…
俺も協力できることあったらじゃんじゃん協力するからな」
「ありがとう」
ファットガムには屋敷への強襲のことは伏せている。
というか警察にも言っていない。
むろん情報提供はすべきだが、単純な話手に負えないだろう。
そして今まで積み上げた情報や舎弟の戦果を無駄にされたくはない。
警察が嗅ぎ回ると知ると雲隠れするからだ。
「それじゃあファット、また」
「あ!もいっこあった!」
「え?」
「こないだバーベキューに混ぜてもろたし
今度はたこパしよ思ってな?」
「…しなくていい」
「えー!!なんでなんー!」
まともに取り合う方が時間の無駄かもしれない。
くるりと反転するとファットガムは子供のように、なんでなんでと周囲をウロつく。
「また今度するから」
「今度っていつなん!」
「今度は今度」
「白蛇丸の今度は当てにならへん!」
「私だって予定があるんだから」
「でもこないだ、埋め合わせするって約束したやろ!」
今過去に戻ることができたら自分に平手打ちしたい。
なんてバカな約束をしてしまったのだと。
「……別のものに」
「ダメー!約束守るのが仁義っちゅーもんやろ!」
「…………どうしても、都合が」
今屋敷に来られると困る。
戦闘の跡がいくつも残っている。
いくら修繕に金がかかるとはいえ、後回しにすべきではなかった。
後悔しつつもどうにか先延ばしにできないか思案し、苦し紛れの言い訳をする。
「……なんかあったん?」
「な、なにも」
「いいや嘘やな
絶対嘘や」
逆に言い訳をせずさっさと日にちを言っておけばよかったかもしれない。
墓穴ばかり掘る自分をはっ倒したい。
「じゃ」
「あっ!こら逃げるな!」
思わず逃げた。
この後ファットガムも仕事がある。
追いかけてはこないが早ければ今夜、絶対に奴はくる。
今のうちに修繕の依頼と、舎弟に破れた障子の張り替えを頼んだ。
壁には目立たせないよう絵を飾ったりするが大きな傷が入った床、植物が這ってそのまま定着してしまった蔦。
しまいには畳からトゲが出ている。
やばい、と白目になった。
「出来るだけ早く、修繕…!」
隠せるところは隠し、誤魔化したりして総出で掃除を始める。
そして門には見張りを立たせる。
太志郎が来たら身を呈してでも足止めをしろと命令した。
「お嬢!ファットさん来ました!」
「死守しろ!」
「無理です!」
「無理じゃねぇやるんだよ」
「ヒィイイ!」
しかしポーンと庭に跳ね飛ばされた舎弟を見て頭を抱えた。
「麗!やっぱり何か隠し事しとるな!?」
数分も足止めできないとは。
太志郎の個性が強すぎるのもあるが、舎弟がこんなに簡単に突破されるとは思いもしなかった。
「今たこパはできない!帰って!」
「いいや絶対たこパするんや!」
「え?たこパ?」
「お嬢!たこパしたいです!」
「うるせぇ黙ってな!」
舎弟の妄言をピシャリとはね飛ばす。
とはいえ、麗であっても太志郎を止めることは難しい。
何より相性が悪すぎる。
刺しても脂肪吸着で無効化される。
打撃も無意味。
白兵戦では勝てないと思っていいだろう。
太志郎はそれをわかって麗を捕まえにくる。
麗も太志郎の腕からすり抜けたり、軽い身のこなしで避ける。
「あ、相変わらずすばしこい!」
「ほんと、太志郎は敵に回したくない!」
結局体力切れで麗が捕まる。
ダリの時計のように太志郎の背中に乗せられていた。
「これで勝ったと思うなよ…」
「ヴィランのセリフやでそれ」
しかし麗を無効化し、改めて屋敷を見れば何があったのか一目瞭然だ。
「襲われたんか」
「………」
「麗」
まるで怒られる子供のよう。
ふい、と顔を背けて黙秘権を使った。
「なにがあったんや?」
「あ!!?舎弟に聞くの無しでしょ!!」
「麗が言わんからやアホ!」
「あんたら喋るなよ…」
若手は震え上がる。
だが中堅はそうもいかない。
ここが潮時と言わんばかりに呟いた。
「ええ、そうです」
「もーーー!あんたら嫌い!」
顔を腕で隠してこの組の長とも言える麗は我関せずを通した。
「麗が怪我したのはその時か?」
「いいえ、駅前の闘争の時に」
「さよか…」
麗を縁側におろし、額にデコピンを喰らわした。
強烈な音に舎弟も少し引く。
「いぃっづ…!?」
「なぁ麗、なんで言わへんの」
太志郎が怒っている。
口調は穏やかではあるが空気で伝わった。
「……だって」
「だっても何も
麗が黙っとって一番危ないんは舎弟くんたちやろ
違うか」
「…………」
「麗なりの矜恃があるんやろうけど
今は否定させてもらうで
意味ないやろ
麗が怪我して一番悲しいのは、麗を慕ってる舎弟くんなんやから」
次第に、殻に篭るように膝を抱えた。
麗が逃げたい時の癖だ。
それでも太志郎は逃さないように言う。
「だから一人で抱え込まんで
ちゃんと言いや
な?」
「…………みんな、向こうに…いって…
太志郎と…ふたりになる…」
足音が遠ざかる。
けれども麗は殻を解かず、そのままだった。
「ごめん…太志郎…やっぱりいえないよ
ごめんね」
すぐ駆けつける太志郎だからこそ言えない、という理由が大きい。
それでも太志郎は麗を撫でた。
まるで慰めるように。
「でも…これが、終わったら
辞めるの
ヒーローやめて、静かに暮らすの…」
「そうか…」
「だから……
私、一人でもちゃんとできてるから
もう心配かけたりしないから」
顔を上げて、いつもの真顔を作った。
「でも次またここに来るんとちゃうん?」
「……太志郎たまに話聞かないよね」
わはは、と明るく笑って髪をくしゃくしゃにしながら撫でた。
元々天然パーマのような頭なので多少乱れようがあまり関係ない。
「麗もやけど、舎弟くんも危ないし
そや!一時的にうちの事務所と提携しよ!な!
絶対それがええ!てか麗とどうどうと肩並べるのええな!」
「何それ…太志郎に負担がかかるだけじゃん」
それにはドヤ顔で返答する。
太志郎は元々頭がいいのでこういった舌合戦では勝てた試しがない。
「麗が黙っとるんやったら俺は勝手に助ける
麗は何も言う資格ないで
だって俺が好きにしとるだけやからな」
「………そう」
また膝を抱えて、じっとした。
こうなった麗はしばらく動かない。
だが一言、たこパすれば、とだけ言ってそれきりだった。
月笛麗は、かつて偶像だった。
ポピュラーな人物で例えるならキリストのような存在であり、まさに信仰対象だ。
とはいえ麗が信仰宗教を打ち立てたのではなく、その両親が創設者であった。
社会が個性という波に呑まれ、ヤクザに生きる家が存続するには薬物売買、銃火器取り扱い、情報屋などに特化しなければならない。
とにかくロクなものではない。
しかし麗の両親が考えたのは中でもタチの悪い事業、カルト教団。
それが竜神木教会であった。
持ち前の美貌と営業トークで信者を着実に増やした竜神木 鈴蘭。
経営手腕と裏社会の情報を牛耳り、先手先手で行動をする竜神木 逸樹。
そんな二人の間で生まれたのが麗だった。
単純に、子供は愛されやすいから、という理由と
麗の個性上表情が表に出にくく大人しいから神子という偶像に位置づけられた。
救いを求めてくるもの、行き場を無くしたもの、疲れ切ったもの、全てを受け入れて余すところなくその全てを握り絞る。
それが竜神木教会のやり方だ。
だが竜神木夫妻の最大の失敗があった。
麗の表情が読めないからこそ、麗の静かなる謀反に気付かなかったことだ。
麗はまず教会に牛耳られていた舎弟から逃した。
いずれも裏社会とは知らずに騙されてきた人間たちだ。
借金の肩代わりや、騙されて入会しそのまま逃げられなくなり他の信仰者を増やす役目を負わされた者。
様々な境遇から逃げたいと思っている者を、両親の目を欺いて逃し続けていた。
それから警察や他ヤクザに情報を流していた。
いつどこで大規模な集会がある、または犯罪件数が増える、といった内容。
逆にヤクザに対しては、警察にリークしているため手を引いたほうが良い、竜神木に関わるな、という内容だ。
そうして警察と裏社会の2面から挟み撃ち。
さらには内部からの告発者と麗の裏切りにより瓦解。
竜神木夫妻は逮捕され、教会も取り潰された。
今、麗を慕って月笛という家に集まっているのは麗自身が逃した人物たちであり、単純に麗の力になりたいと純粋な思いで申し出てきた者たちだ。
「俺たちは、お嬢に助けられた人間です
ですから、今度は俺たちが恩返しする番です」
毎夜、情報をリークし、被害者を減らすために苦しむ舎弟を逃す。
それを5年続けた麗はいつしか人を見る目が変わっていった。
「お嬢がああやって、人とズレたような、
何か違うものを見ているような人になられてまで
何故俺たちを助けてくれたのかはわかりませんが…俺たちはお嬢のこと守ります
だからファットさん…俺たちのこと頼ってください」
たこ焼きパーティーをしている間も、麗はぼんやりとその光景を眺めていた。
どこか違う世界に一人だけいるような、その光景に酔っているような。
とにかく話しかけても気の抜けた返答しかなかったので今だけはそっとしておくことにした。
太志郎が帰る間際、麗の舎弟の一人がほんの少しの事実を言った。
それは無論、麗の殻を無視してまで突き破ってきた人物に対しての最低限の礼儀だろう。
太志郎はにこりと笑う。
「ほんまええ舎弟くんばっかりやなぁ
羨ましいわ
ヒーローとか目指してみぃひん?」
「いえ…結構です」
「残念やなぁ…」
今更ながら、高校時の金の亡者宣言は明かに嘘であったと知る。
その時なんて言えばいいかわからず適当に言ったのだろう。
9年越しにようやく答えがわかってしみじみとした。
「おおきにな、頼りにさせてもらうわ」
◆
ファットガム事務所は若手にしては名を上げ、結果的に大きな事務所へとなった。
サイドキックの募集が最近多くなり、少なくともファットガムも暇ではない。
「やっぱファットさんの事務所大きいっすね」
舎弟の感想は置いておいて、中へ入る。
サイドキックの数名が資料を整頓したりパトロールの準備を始めている。
声をかけると白蛇丸の存在にようやく気づいたようで少し驚いていた。
「忙しそうだね」
「え、ええまぁ」
やはり提携など無理なのではないだろうか。
そんな不安が浮かんで、帰りたくなっていた。
階段を上がり、事務室に入るとファットガムの机の上にはいつものたこ焼きではなく、大量の冊子が置かれていた。
「ファット」
「おお!ええとこに!
白蛇丸こっち!」
舎弟と目をあわせばそこらへんで暇を潰します、と小声で呟いた。
頷き、ファットの元に近寄る。
「どうしたのこの本」
「事務所建て替えよおもてな!
どんなデザインがええかな?」
「…………帰ろうかな」
「帰らんといて!!!」
忙しいからと遠慮していた自分が恥ずかしくなってくる。
そもそもこの忙しい時期に建て替えなどよくやるものだ。
「白蛇丸はセンスあるやろ?
どんなのがええかな〜って」
「センスがいいって言ってもジャンルが違うし…
私じゃ役不足だと思うけど」
サイドキックが資料の整理をして忙しそうだったのはこれのせいだと合点がいく。
やや苦笑いしていたのも。
ファットは時折こういった天然な行動や言動をするところがある。
生粋の大阪人とはこういうものなのだろうか。
「…今じゃなくてもいいんじゃない?」
「今じゃなくていつやるん!
人数も多くなってきたし、設備も所々ガタがきとるからな」
一応考えてはいるようだ。
だがその間資料はどこに保管するのか運ぶのか。
少し息を吐く。
観念して、ツンツンと腕をつついた。
「ファット、少しこれは派手すぎ
色調抑えた方がいい」
「お!」
結局ファットの望み通り、というのも気にくわない。
白蛇丸は無理やり膝に座った。
「お…おぅ…」
「何?」
「珍しおもて…」
「こんなに可愛い子が膝にきて嬉しい?」
にこりと笑うと頬をつねられた。
顔が赤いファットは白蛇丸に翻弄されながらも誤魔化すように資料を開いていく。
白蛇丸はそれはもう楽しんで膝に座っていた。
だがファットにとっては楽しむ余裕どころかなんとも言い難い感情に襲われて頭が回らなくなっていた。
それがいわゆる恋だとか愛だとかそういったものかは定かではない。
けれども親友以上であることは間違いない。
思い返してみれば、昔から綺麗な顔をしていると思ってばかりだ。
それから、勘違いさせられそうな言動ばかり、白蛇丸はファットに投げかけてもいた。
『太志郎、次の演習、Cチームなの?』
『おん!麗はAやったな
お互いきばってこーな!』
淡白な表情、それが麗のシンボルでもあった。
しかしこの後、とたんに言葉が詰まって、もじもじして、少し俯く。
『…太志郎といっしょが良かったな』
それが太志郎にとって初めて麗の感情を見た瞬間だった。
思考回路がショート寸前というものは今の太志郎を指し示すためにあるかのような、そんな状態になってしまった。
『太志郎にしか言えないよ…』
『ねぇ、太志郎、ご飯…いっしょ、食べていい?』
『私の針が刺さらないから、太志郎と居ると気が楽だよ』
『太志郎には…失望されたくなかった』
『太志郎のお願いは聞いてあげたいけど…』
心の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、自分の思考すら読めなくなってしまう。
白蛇丸のそんな真っ直ぐで何気なく出される言葉に毎回動揺し、それを隠してもいた。
「太志郎、ちゃんと聞いてる?」
「き、きいとるきいとる」
「…絶対聞いてない
もう一回言うからね
太志郎にしかこんなサービスしないよ」
こういうところ!と頭の中で強く自分を保つ。
それから必死に麗の話にくらいついた。