デイジー・ベル
ガラル島の季節は冬となり、エキシビジョン・ダブルバトルマッチが開催した。まずは各ジムのペアが発表され、総当たり戦が繰り広げられる。キバナはメロンと初戦で鉢合わせにならぬよう祈った。結果、初戦はオニオンと当たることになる。
秋から緻密にバトルを構成してきたのはキバナだけではない。だが持ち前のバトルセンスとキバナと息のあったコンビネーションで勝ち抜いた。
トーナメントと違い総当たり戦はどれだけ勝利したかで優勝が決まる。手痛い敗北もあったが互いに鼓舞しモチベーション高くバトルに臨めたことがキバナペアの勝利の鍵だったのだろう。
最終バトルはキバナペアの勝利で終わった。二週間に及ぶバトルを優勝という形で飾ることができた。キバナとリョウタは強くハイタッチをし喜びを露わにする。
「よく頑張ったなリョウタ!」
「キバナ様!ペアを組ませていただきありがとうございました!」
一年の最後に盛大な勝利で締めくくれた。ナックルジムの皆はもちろんリネアも喜んでくれるだろうとテレビ取材に応じる。
インタビュー中、リョウタは相変わらずガチガチに緊張していたがそれもまた愛嬌のひとつだ。肩を組んでリラックスさせていると突如アナウンスが入る。
「エキシビジョン・ダブルバトルマッチ、ジムリーダーとトレーナーの皆さんお疲れ様でした。一年を締めくくるバトルは大いに盛り上がったことでしょう」
観客の声はスタジアムに轟く。天から降り注ぐ雷よりも強く、まさしく世界に響かせる勢いだ。
「ここで、皆様にサプライズをご用意しました!題して“エキシビジョンバトル・ワンモア”!スタジアムパネルをご覧ください」
映った場所は選手の入場口。逆光となりシルエットしか写らなかったがその靴の形でキバナは目を見開いた。
「マジか……!」
そしてパネルの直下にある入場口に視線、カメラが向けられる。入場してきたのはダンデ。さらに意外すぎる人物だった。
「はぁー!?」
リネアだ。なぜそこにいるのか全く持って見当がつかない。リョウタも同じく口を開けて驚く。
「これより元チャンピオン・ダンデと元チャレンジャー・リネア、バーサス、ナックルジムリーダー・キバナとナックルジムトレーナー・リョウタのダブルバトルを開始します!」
熱狂するスタジアム。キバナは力強く拳を作った。ダンデに挑めるチャンスが舞い込んできた高揚なのか、ダンデがリネアとペアを組んでいることの悔しさか。
「キバナさま、構成はどうしますか…」
リョウタの問いかけに我に帰る。
「リネアの手札はおおよそ読める。ダンデも初っ端から飛ばしてくるだろうな。最速での火力勝負に持ち込むぞ」
「はい!」
ポケモンを回復し、自身に気合を入れた。頬を数回叩いて勝利の余韻を追い出す。
改めてスタジアムへ入場すると観客は待ってましたと言わんばかりにキバナへの応援コールが響く。
ダンデとリネアの前に立つ。
「なんでお前がリネアと組んでるんだよ!」
開口一番はもちろん文句だ。ダンデに指差して詰め寄ったはずが逆に笑って受け流された。
「まぁそうカッカするなキバナ!楽しもうぜ!」
「あ、あの、キバナさん、リョウタさん…黙っていてすみませんでした……」
ダンデとペアを組む緊張からいつもよりリネアの姿は小さく見える。おおかた運営から黙っておけと指示されたに違いない。
「まぁいいけどよ……今回勝たせてもらうぜ!」
強く言い放つ。ダンデはリネアの背を押してトレーナー待機枠へ連れていく。キバナはターバンの下に青筋が立っている。
「ダンデめ〜〜〜……」
「侮っているわけではありませんが、このスタジアムの中、リネアさんのエコーロケーションは半減するはずです。それを見越してリネアさんはサポート技を出すでしょう。先にリネアさんに集中攻撃するのを提案します」
「ああ、その通りだ。いくら元チャンピオンでもダブルバトルの経験は少ない。これまでの訓練を出し切るつもりでいくぞ」
「はい!」
バトル開始の合図が響いた。4人は一斉にボールを投げる。
キバナはバクガメス、リョウタはペア選考でゲットしたドサイドンを繰り出した。一方でダンデが出したのはギルガルド。リネアはホエルオーを出した。
ダイマックスをせずとも巨大な体。鳴き声はスタジアムの歓声に匹敵している。
「リョウタ、予定変更だ!バクガメス!ギルガルドに<だいもんじ>!」
ダンデのギルガルドは強力だ。それに加えてダンデ自身のバトルセンスでタイミングよくフォームチェンジをする。やりにくさで言ったらダントツだろう。
リョウタはドサイドンに<ほのおのパンチ>を指示するがポケモンのすばやさはギルガルド、ホエルオーが一枚上手だ。
「バクガメスに<みずびたし>!」
<だいもんじ>を打つ前にバクガメスのタイプはみずとなった。続けてダンデが動く。
「<つるぎのまい>」
元々ギルガルドはシールドフォームとなっておりぼうぎょ、とくぼう共に非常に高い。積み技をすることで2体の攻撃をギルガルドが引き受けた。
「攻めに転じようリネアくん!」
「はい!<しおふき>!」
「バクガメスに<シャドーボール>!」
一時的にみずタイプとなったバクガメスには等倍ダメージ、しかし特殊技のシャドーボールも受けたためダメージは半分を切った。そしてドサイドンには四倍のダメージが入る。体力があるホエルオーのしおふきにドサイドンは一撃で倒れてしまった。
互いにサポートをしつつアタッカーにもなれる特殊技のコンビにキバナは汗が流れた。
「いけ!ペリッパー!」
この場面では最速であるペリッパーだが戦況はかなり不利だ。
「バクガメス!ギルガルドに<りゅうのはどう>!」
すでに二発くらっているギルガルドに立て続けに攻撃を与えればギルガルドはひんしとなった。
ホエルオーは健在、バクガメスは残りHPが低い上にみずタイプになっている。そして健在のペリッパー。ダンデのギルガルドを落とせたとしても、この後のポケモンは何が出るかわかっている。
「リザードン!出番だ!」
見事な連携だ。だが負けられない。四人は同時に指示する。
「リザードン!バクガメスに<かみなりパンチ>!」
「ホエルオー!ペリッパーに<うずしお>!」
「ペリッパー!ホエルオーに<タネばくだん>!」
「バクガメス!<トラップシェル>!」
リザードン、ペリッパー、ホエルオー、バクガメスの順で攻撃が始まった。乱戦とも見えるバトルだが駆け引きに満ちたギリギリの攻防。
かみなりパンチとタネばくだんが交差する。ホエルオーは無事受け切りうずしおを発動させたが次に待つのはバクガメスの<トラップシェル>による副次効果。相手全体に攻撃を放つ。
「今だ!放て!」
あのホエルオーはバクガメスの攻撃によりひんし。だがペリッパーにうずしおを残す仕事はやり遂げた。バクガメスもギリギリのところでよく耐えている。とはいえリザードンはまだダイマックスを隠している。今のところキバナたちは首の皮一枚で繋がっていた。
「がんばろう!イエッサン!」
ここでサポート型、イエッサンが出る。キバナは敵に塩を送ったような気分だ。
「リザードン!ペリッパーに<かみなりパンチ>!」
「イエッサン、バクガメスに<ドレインキッス>」
ペリッパーはかみなりパンチに耐えたがホエルオーが残したうずしおでダメージが入る。そしてバクガメスはイエッサンによって倒れた。残るはキバナの手持ち1体となった。
「申し訳ありません、キバナさま」
「やっぱ……一筋縄じゃねえよなあ」
緊張と、プレッシャー。キバナはダンデとリネアだけをみている。まさに目を奪われていた。
「行こうぜ!ジュラルドン!」
すでに行動を終えているリザードンとイエッサンに対しこれほど有利な場面はない。迷うことなくダイマックスを始めた。
ボールが巨大化し、ジュラルドンはダイマックスに適合した姿…キョダイマックスの姿となる。
「ジュラルドン!リザードンに<ダイスチル>だ!」
防御をあげつつリザードンに攻撃をする。イエッサンは強敵だが何より弱点を打てるリザードンを先に落とすべきだ。何よりイエッサンはダイスチルを受け切ることはできないはずだ。
キバナの狙い通り体力を大きく削れた。防御もあがり後一撃耐えることもできる。これさえ乗り切れば勝利は目前だ。
「ダンデさん、チャンピオンタイムいきましょう」
リネアが鈴を鳴らし左手を上へ伸ばす。
「<このゆびとまれ>!」
イエッサンは小さな指をリネアと同じく天へ掲げる。だとしても次のダイスチルを受けた後、ダンデのリザードンへの守りはなくなるとキバナは読んだ。
「リザードン!オレたちもダイマックスだ!」
リザードンはジュラルドンと対をなすように姿を変化させた。
「ダイマックスしようが、オレさまは勝つ!必ず!渾身の一撃くらわせてやれ!」
ダイスチルがイエッサンを襲う。ジュラルドンがリザードンのダイバーンを受け切った。これで次の行動はジュラルドンとなる。ダンデに勝てる、そう強く予感した。
湯気が立つスタジアム。そこに残る小さな影に観客は熱狂した。
「耐えた……!?」
イエッサンは声一つも出さずに次の指示を待つ。
こうなれば次にリザードンのダイバーンでジュラルドンが落ちる。その前にリザードンでかたをつけるべきだ。
「リザードンに<ダイスチル>!」
だが次もリネアは口にした。
「<このゆびとまれ>!」
わずかにイエッサンが早い。再び攻撃を集中させてリザードンを守り切る。そしてリザードンからはダイバーンが放たれた。
リネアのイエッサンは二度のダイスチルを受けてもなおギリギリで踏みとどまった。もしリョウタのポケモンがいたとしても負けは確実だっただろう。ジュラルドンはキバナの背後で煙を立ててダイマックス解除されていく。その時のキバナの目はひどく寂しそうに見えた。まるでもっとバトルをしていたかったと、駄々をこねる子供のよう。
試合が決した今、四人は中央へ集まり握手を交わす。
「バトルができて光栄でした、ダンデさま」
「君のドサイドンとペリッパー、よく育てられているな!」
リネアとキバナも同じく握手する。燃えるほどのキバナの体温にリネアは思わず熱いと思った。
「完敗だぜ。リネア」
「え?ダンデさんではなく、私ですか?」
「ジェラルドンのダイスチルを二回も受け切るポケモンは初めてだ。ダンデのポケモンですら耐えられないんだぜ、あれ」
「そうおっしゃっていただけると、嬉しいです」
リネアはリョウタとも握手をする。一方キバナはダンデの手を握りしめながら問いただす。
「んで、どうやってリネアをたぶらかした?ん?」
「いででで!誤解だキバナ!」
しっかり四人で自撮りをし、エキシビジョンバトルは閉幕した。優勝のトロフィーはもらえたが最後のバトルのおかげで優勝した実感がわかない。
更衣室にたどり着くとリョウタはふと口にした。
「試合の後でこんなことを言うのは申し訳ないのですが……キバナさまは本当はリネアさんと組みたかったんじゃないでしょうか」
キョトンとリョウタを見ると慌てて言い訳をする。だがリョウタにはそう見えていたのだろう。
「オレさまとしては、そういうつもりはなかったが……悪い、気を使わせてたか?」
「いえ!これまでの調整も、総当たり戦もそうは思っていません!ただ最後のバトル……キバナさまはダンデさまとリネアさんをみていました」
ダブルバトルにおける絶対条件はペアを組んでいる相手との調和。リョウタに言われて振り返ると確かにキバナは突出していたように思える。ベンチに座り込み頭を抱えた。
「そう、だよなぁ……」
「あっ!これは決して不満とかそういう意味ではなく…!」
「けどオレさまがダンデとリネアに注視していたのは確かだ」
ダンデに敗北するだけでなくリネアも強敵であると強く認識させられた。いきなり分厚い壁がそそり立った気分である。
「ただ……キバナさまは試合が進むにつれて意識の向け方が変わってきていました。戯れ事だと思って聞き流していただいてもいいのですが……もし次ダブルバトルがあった際はリネアさんを推薦します」
着替え終えてロビーに向かうと多くのファンとカメラが待ち構えていた。遠くからでもわかる熱狂的な声に立ちすくむ者が一人。
「リネア、ダンデはどうした」
「あっ、更衣室前で待ち合わせしていたんですがどこかに行ってしまって…」
「また迷子かよ!」
だがスタッフがなんとか連れ戻すだろう。スタッフに勝手に期待してリネアの肩に触れる。
「一緒に車に乗ろうぜ。リョウタも一緒だ」
「はい、ありがとうございます。正直どうしようか困っていたんです」
それもそうだろう。あの鮮烈なバトルでリネアの顔と名前は知れ渡った。そして今もリネアの名前を呼ぶ声。ダンデはそれを見越して待ち合わせしていたんだろうが迷子癖があだになった。
「ダンデにはオレさまから連絡するから安心しろ。じゃあいくぞ」
ロビーの中央を歩くと様々な報道班からマイクを向けられるがリネアは疲れ切っている。マイクが当たらぬよう手の甲でリネアの顔を守る。
「悪いがインタビューは後日だ。よいお年を〜」
にこやかに手を振って前へ進むものの車のドア付近までリネアへのマイクがしつこい。運転手がドアを開けたため先にリネアを入れる。フチに手を当てて頭をぶつけないよう見届ける。
全員車に乗り颯爽とスタジアムを離れた。
「そういえば明日はエキシビジョン参加者のパーティだがリネアは参加するのか?」
リネアからの返事はない。顔を覗くとうとうとと船を漕いでいる。肩を寄せてもたれ掛けさせるとリネアはとうとうぐっすり眠ってしまった。
小さな寝息に口元がニヤケそうになるのを必死に抑える。リョウタがいるし運転手の目もある。平静を貫いて理性を固くしなければなるまい。
40分ほどでナックルシティの街並みが見えてきた。地区を伝えてその付近に車を停めるよう伝える。
「リョウタ、オレさまはリネアを送ってく。リョウタは送ってもらえ」
「ええ!?オレがリネアさんを送りますよ!」
善意の申し出にリョウタの額に向かってデコピンしてやった。なぜデコピンされたのかわからないままリョウタは額を抑えて首を傾げる。
リネアが住む地区にたどり着いた。ゆすって起こすと起き抜けの声で返事をする。
「オレさまが近くまで送るから、いこうぜ」
「えっ、でも」
「いいからいいから」
眠そうな顔の子ひとりで夜を歩かせられない。そう伝えると渋々車から降りた。リョウタにまた明日のパーティで、と伝えて別れる。
「リネア、大丈夫か?かなり疲れてるみたいだな」
「はい…ちょっと緊張がとれてうとうとしちゃってます……」
ふらふらする体を固定するため手を握る。リネアは小さな力で握り返してくれた。それが嬉しくて高揚するとイエッサンがまた出てくる。防御オバケのあのイエッサンだ。だがリネアは余裕がないのか、ダメでしょ〜と言ってボールに戻す。
「明日、パーティに出るのか?」
「はい……でもすぐ帰るかもしれません。パーティの服なんて持ってないですし、立食会は、初めてですから…」
かくん、と頭がゆれる。危なすぎるのでリネアのスマホロトムに登録していた自宅にマップピンを使って案内してもらうことに。そしてリネアはキバナに背負われている。広い背中で可愛い寝息を立てていた。
連れて帰りたい、と思ってしまうが心を鬼にして音声案内の通り進む。キバナの背中はリネアが寝ているせいで熱く、冬の寒さなど無かったことにされている。
無事キバナはアパートにたどり着く。リネアを再びゆすって起こす。
「キバナさん、送ってくださりありがとうございました…」
「それはいいが、あったかくして寝ろよ。風邪引くなよ」
「はい…」
リネアには頼れるポケモンたちがいるから大丈夫だろう。
「それと……パーティ服ないんだろ。明日買いにいこうぜ」
「え?」
「朝迎えにいく。ここで待ってろ。じゃあな」
頭を撫でて離れた。リネアは寝ぼけた頭でキバナの発言を思い出す。
一緒にパーティ服を買いに行く。それだけで一気に目が覚めてしまい寝るまでキバナのことで頭をいっぱいにさせていた。
秋から緻密にバトルを構成してきたのはキバナだけではない。だが持ち前のバトルセンスとキバナと息のあったコンビネーションで勝ち抜いた。
トーナメントと違い総当たり戦はどれだけ勝利したかで優勝が決まる。手痛い敗北もあったが互いに鼓舞しモチベーション高くバトルに臨めたことがキバナペアの勝利の鍵だったのだろう。
最終バトルはキバナペアの勝利で終わった。二週間に及ぶバトルを優勝という形で飾ることができた。キバナとリョウタは強くハイタッチをし喜びを露わにする。
「よく頑張ったなリョウタ!」
「キバナ様!ペアを組ませていただきありがとうございました!」
一年の最後に盛大な勝利で締めくくれた。ナックルジムの皆はもちろんリネアも喜んでくれるだろうとテレビ取材に応じる。
インタビュー中、リョウタは相変わらずガチガチに緊張していたがそれもまた愛嬌のひとつだ。肩を組んでリラックスさせていると突如アナウンスが入る。
「エキシビジョン・ダブルバトルマッチ、ジムリーダーとトレーナーの皆さんお疲れ様でした。一年を締めくくるバトルは大いに盛り上がったことでしょう」
観客の声はスタジアムに轟く。天から降り注ぐ雷よりも強く、まさしく世界に響かせる勢いだ。
「ここで、皆様にサプライズをご用意しました!題して“エキシビジョンバトル・ワンモア”!スタジアムパネルをご覧ください」
映った場所は選手の入場口。逆光となりシルエットしか写らなかったがその靴の形でキバナは目を見開いた。
「マジか……!」
そしてパネルの直下にある入場口に視線、カメラが向けられる。入場してきたのはダンデ。さらに意外すぎる人物だった。
「はぁー!?」
リネアだ。なぜそこにいるのか全く持って見当がつかない。リョウタも同じく口を開けて驚く。
「これより元チャンピオン・ダンデと元チャレンジャー・リネア、バーサス、ナックルジムリーダー・キバナとナックルジムトレーナー・リョウタのダブルバトルを開始します!」
熱狂するスタジアム。キバナは力強く拳を作った。ダンデに挑めるチャンスが舞い込んできた高揚なのか、ダンデがリネアとペアを組んでいることの悔しさか。
「キバナさま、構成はどうしますか…」
リョウタの問いかけに我に帰る。
「リネアの手札はおおよそ読める。ダンデも初っ端から飛ばしてくるだろうな。最速での火力勝負に持ち込むぞ」
「はい!」
ポケモンを回復し、自身に気合を入れた。頬を数回叩いて勝利の余韻を追い出す。
改めてスタジアムへ入場すると観客は待ってましたと言わんばかりにキバナへの応援コールが響く。
ダンデとリネアの前に立つ。
「なんでお前がリネアと組んでるんだよ!」
開口一番はもちろん文句だ。ダンデに指差して詰め寄ったはずが逆に笑って受け流された。
「まぁそうカッカするなキバナ!楽しもうぜ!」
「あ、あの、キバナさん、リョウタさん…黙っていてすみませんでした……」
ダンデとペアを組む緊張からいつもよりリネアの姿は小さく見える。おおかた運営から黙っておけと指示されたに違いない。
「まぁいいけどよ……今回勝たせてもらうぜ!」
強く言い放つ。ダンデはリネアの背を押してトレーナー待機枠へ連れていく。キバナはターバンの下に青筋が立っている。
「ダンデめ〜〜〜……」
「侮っているわけではありませんが、このスタジアムの中、リネアさんのエコーロケーションは半減するはずです。それを見越してリネアさんはサポート技を出すでしょう。先にリネアさんに集中攻撃するのを提案します」
「ああ、その通りだ。いくら元チャンピオンでもダブルバトルの経験は少ない。これまでの訓練を出し切るつもりでいくぞ」
「はい!」
バトル開始の合図が響いた。4人は一斉にボールを投げる。
キバナはバクガメス、リョウタはペア選考でゲットしたドサイドンを繰り出した。一方でダンデが出したのはギルガルド。リネアはホエルオーを出した。
ダイマックスをせずとも巨大な体。鳴き声はスタジアムの歓声に匹敵している。
「リョウタ、予定変更だ!バクガメス!ギルガルドに<だいもんじ>!」
ダンデのギルガルドは強力だ。それに加えてダンデ自身のバトルセンスでタイミングよくフォームチェンジをする。やりにくさで言ったらダントツだろう。
リョウタはドサイドンに<ほのおのパンチ>を指示するがポケモンのすばやさはギルガルド、ホエルオーが一枚上手だ。
「バクガメスに<みずびたし>!」
<だいもんじ>を打つ前にバクガメスのタイプはみずとなった。続けてダンデが動く。
「<つるぎのまい>」
元々ギルガルドはシールドフォームとなっておりぼうぎょ、とくぼう共に非常に高い。積み技をすることで2体の攻撃をギルガルドが引き受けた。
「攻めに転じようリネアくん!」
「はい!<しおふき>!」
「バクガメスに<シャドーボール>!」
一時的にみずタイプとなったバクガメスには等倍ダメージ、しかし特殊技のシャドーボールも受けたためダメージは半分を切った。そしてドサイドンには四倍のダメージが入る。体力があるホエルオーのしおふきにドサイドンは一撃で倒れてしまった。
互いにサポートをしつつアタッカーにもなれる特殊技のコンビにキバナは汗が流れた。
「いけ!ペリッパー!」
この場面では最速であるペリッパーだが戦況はかなり不利だ。
「バクガメス!ギルガルドに<りゅうのはどう>!」
すでに二発くらっているギルガルドに立て続けに攻撃を与えればギルガルドはひんしとなった。
ホエルオーは健在、バクガメスは残りHPが低い上にみずタイプになっている。そして健在のペリッパー。ダンデのギルガルドを落とせたとしても、この後のポケモンは何が出るかわかっている。
「リザードン!出番だ!」
見事な連携だ。だが負けられない。四人は同時に指示する。
「リザードン!バクガメスに<かみなりパンチ>!」
「ホエルオー!ペリッパーに<うずしお>!」
「ペリッパー!ホエルオーに<タネばくだん>!」
「バクガメス!<トラップシェル>!」
リザードン、ペリッパー、ホエルオー、バクガメスの順で攻撃が始まった。乱戦とも見えるバトルだが駆け引きに満ちたギリギリの攻防。
かみなりパンチとタネばくだんが交差する。ホエルオーは無事受け切りうずしおを発動させたが次に待つのはバクガメスの<トラップシェル>による副次効果。相手全体に攻撃を放つ。
「今だ!放て!」
あのホエルオーはバクガメスの攻撃によりひんし。だがペリッパーにうずしおを残す仕事はやり遂げた。バクガメスもギリギリのところでよく耐えている。とはいえリザードンはまだダイマックスを隠している。今のところキバナたちは首の皮一枚で繋がっていた。
「がんばろう!イエッサン!」
ここでサポート型、イエッサンが出る。キバナは敵に塩を送ったような気分だ。
「リザードン!ペリッパーに<かみなりパンチ>!」
「イエッサン、バクガメスに<ドレインキッス>」
ペリッパーはかみなりパンチに耐えたがホエルオーが残したうずしおでダメージが入る。そしてバクガメスはイエッサンによって倒れた。残るはキバナの手持ち1体となった。
「申し訳ありません、キバナさま」
「やっぱ……一筋縄じゃねえよなあ」
緊張と、プレッシャー。キバナはダンデとリネアだけをみている。まさに目を奪われていた。
「行こうぜ!ジュラルドン!」
すでに行動を終えているリザードンとイエッサンに対しこれほど有利な場面はない。迷うことなくダイマックスを始めた。
ボールが巨大化し、ジュラルドンはダイマックスに適合した姿…キョダイマックスの姿となる。
「ジュラルドン!リザードンに<ダイスチル>だ!」
防御をあげつつリザードンに攻撃をする。イエッサンは強敵だが何より弱点を打てるリザードンを先に落とすべきだ。何よりイエッサンはダイスチルを受け切ることはできないはずだ。
キバナの狙い通り体力を大きく削れた。防御もあがり後一撃耐えることもできる。これさえ乗り切れば勝利は目前だ。
「ダンデさん、チャンピオンタイムいきましょう」
リネアが鈴を鳴らし左手を上へ伸ばす。
「<このゆびとまれ>!」
イエッサンは小さな指をリネアと同じく天へ掲げる。だとしても次のダイスチルを受けた後、ダンデのリザードンへの守りはなくなるとキバナは読んだ。
「リザードン!オレたちもダイマックスだ!」
リザードンはジュラルドンと対をなすように姿を変化させた。
「ダイマックスしようが、オレさまは勝つ!必ず!渾身の一撃くらわせてやれ!」
ダイスチルがイエッサンを襲う。ジュラルドンがリザードンのダイバーンを受け切った。これで次の行動はジュラルドンとなる。ダンデに勝てる、そう強く予感した。
湯気が立つスタジアム。そこに残る小さな影に観客は熱狂した。
「耐えた……!?」
イエッサンは声一つも出さずに次の指示を待つ。
こうなれば次にリザードンのダイバーンでジュラルドンが落ちる。その前にリザードンでかたをつけるべきだ。
「リザードンに<ダイスチル>!」
だが次もリネアは口にした。
「<このゆびとまれ>!」
わずかにイエッサンが早い。再び攻撃を集中させてリザードンを守り切る。そしてリザードンからはダイバーンが放たれた。
リネアのイエッサンは二度のダイスチルを受けてもなおギリギリで踏みとどまった。もしリョウタのポケモンがいたとしても負けは確実だっただろう。ジュラルドンはキバナの背後で煙を立ててダイマックス解除されていく。その時のキバナの目はひどく寂しそうに見えた。まるでもっとバトルをしていたかったと、駄々をこねる子供のよう。
試合が決した今、四人は中央へ集まり握手を交わす。
「バトルができて光栄でした、ダンデさま」
「君のドサイドンとペリッパー、よく育てられているな!」
リネアとキバナも同じく握手する。燃えるほどのキバナの体温にリネアは思わず熱いと思った。
「完敗だぜ。リネア」
「え?ダンデさんではなく、私ですか?」
「ジェラルドンのダイスチルを二回も受け切るポケモンは初めてだ。ダンデのポケモンですら耐えられないんだぜ、あれ」
「そうおっしゃっていただけると、嬉しいです」
リネアはリョウタとも握手をする。一方キバナはダンデの手を握りしめながら問いただす。
「んで、どうやってリネアをたぶらかした?ん?」
「いででで!誤解だキバナ!」
しっかり四人で自撮りをし、エキシビジョンバトルは閉幕した。優勝のトロフィーはもらえたが最後のバトルのおかげで優勝した実感がわかない。
更衣室にたどり着くとリョウタはふと口にした。
「試合の後でこんなことを言うのは申し訳ないのですが……キバナさまは本当はリネアさんと組みたかったんじゃないでしょうか」
キョトンとリョウタを見ると慌てて言い訳をする。だがリョウタにはそう見えていたのだろう。
「オレさまとしては、そういうつもりはなかったが……悪い、気を使わせてたか?」
「いえ!これまでの調整も、総当たり戦もそうは思っていません!ただ最後のバトル……キバナさまはダンデさまとリネアさんをみていました」
ダブルバトルにおける絶対条件はペアを組んでいる相手との調和。リョウタに言われて振り返ると確かにキバナは突出していたように思える。ベンチに座り込み頭を抱えた。
「そう、だよなぁ……」
「あっ!これは決して不満とかそういう意味ではなく…!」
「けどオレさまがダンデとリネアに注視していたのは確かだ」
ダンデに敗北するだけでなくリネアも強敵であると強く認識させられた。いきなり分厚い壁がそそり立った気分である。
「ただ……キバナさまは試合が進むにつれて意識の向け方が変わってきていました。戯れ事だと思って聞き流していただいてもいいのですが……もし次ダブルバトルがあった際はリネアさんを推薦します」
着替え終えてロビーに向かうと多くのファンとカメラが待ち構えていた。遠くからでもわかる熱狂的な声に立ちすくむ者が一人。
「リネア、ダンデはどうした」
「あっ、更衣室前で待ち合わせしていたんですがどこかに行ってしまって…」
「また迷子かよ!」
だがスタッフがなんとか連れ戻すだろう。スタッフに勝手に期待してリネアの肩に触れる。
「一緒に車に乗ろうぜ。リョウタも一緒だ」
「はい、ありがとうございます。正直どうしようか困っていたんです」
それもそうだろう。あの鮮烈なバトルでリネアの顔と名前は知れ渡った。そして今もリネアの名前を呼ぶ声。ダンデはそれを見越して待ち合わせしていたんだろうが迷子癖があだになった。
「ダンデにはオレさまから連絡するから安心しろ。じゃあいくぞ」
ロビーの中央を歩くと様々な報道班からマイクを向けられるがリネアは疲れ切っている。マイクが当たらぬよう手の甲でリネアの顔を守る。
「悪いがインタビューは後日だ。よいお年を〜」
にこやかに手を振って前へ進むものの車のドア付近までリネアへのマイクがしつこい。運転手がドアを開けたため先にリネアを入れる。フチに手を当てて頭をぶつけないよう見届ける。
全員車に乗り颯爽とスタジアムを離れた。
「そういえば明日はエキシビジョン参加者のパーティだがリネアは参加するのか?」
リネアからの返事はない。顔を覗くとうとうとと船を漕いでいる。肩を寄せてもたれ掛けさせるとリネアはとうとうぐっすり眠ってしまった。
小さな寝息に口元がニヤケそうになるのを必死に抑える。リョウタがいるし運転手の目もある。平静を貫いて理性を固くしなければなるまい。
40分ほどでナックルシティの街並みが見えてきた。地区を伝えてその付近に車を停めるよう伝える。
「リョウタ、オレさまはリネアを送ってく。リョウタは送ってもらえ」
「ええ!?オレがリネアさんを送りますよ!」
善意の申し出にリョウタの額に向かってデコピンしてやった。なぜデコピンされたのかわからないままリョウタは額を抑えて首を傾げる。
リネアが住む地区にたどり着いた。ゆすって起こすと起き抜けの声で返事をする。
「オレさまが近くまで送るから、いこうぜ」
「えっ、でも」
「いいからいいから」
眠そうな顔の子ひとりで夜を歩かせられない。そう伝えると渋々車から降りた。リョウタにまた明日のパーティで、と伝えて別れる。
「リネア、大丈夫か?かなり疲れてるみたいだな」
「はい…ちょっと緊張がとれてうとうとしちゃってます……」
ふらふらする体を固定するため手を握る。リネアは小さな力で握り返してくれた。それが嬉しくて高揚するとイエッサンがまた出てくる。防御オバケのあのイエッサンだ。だがリネアは余裕がないのか、ダメでしょ〜と言ってボールに戻す。
「明日、パーティに出るのか?」
「はい……でもすぐ帰るかもしれません。パーティの服なんて持ってないですし、立食会は、初めてですから…」
かくん、と頭がゆれる。危なすぎるのでリネアのスマホロトムに登録していた自宅にマップピンを使って案内してもらうことに。そしてリネアはキバナに背負われている。広い背中で可愛い寝息を立てていた。
連れて帰りたい、と思ってしまうが心を鬼にして音声案内の通り進む。キバナの背中はリネアが寝ているせいで熱く、冬の寒さなど無かったことにされている。
無事キバナはアパートにたどり着く。リネアを再びゆすって起こす。
「キバナさん、送ってくださりありがとうございました…」
「それはいいが、あったかくして寝ろよ。風邪引くなよ」
「はい…」
リネアには頼れるポケモンたちがいるから大丈夫だろう。
「それと……パーティ服ないんだろ。明日買いにいこうぜ」
「え?」
「朝迎えにいく。ここで待ってろ。じゃあな」
頭を撫でて離れた。リネアは寝ぼけた頭でキバナの発言を思い出す。
一緒にパーティ服を買いに行く。それだけで一気に目が覚めてしまい寝るまでキバナのことで頭をいっぱいにさせていた。
