栄華代役舞台 パリ

毎日せっせと働き今日も寝て起きたら仕事。楽しみはそりゃあるがこれといって自己成長になるわけでもない。百万の富がほしいかと言われても微妙だし、ひとまずは来週姉と遊びに出かけるのが今いちばんホットでタイムリーな話題であった。嫌なことがあっても「でも来週遊びに行くし」で片付けられる精神性はありがたいと思っている。

だからこそ、その遊びの約束がダメになった時は人一倍ショックなのだ。



「カヨちゃん」

トントン、と肩を軽く叩かれる。なぜ姉の声がするんだろうと思いながらいまだに半分は夢を見ていた。小学生の頃、長女であるマオが起こしにきてあんまりにも起きないと布団を捲るのだ。いつもちゃらんぽらんにしているはずの次女、ユキは朝には強くて既に顔を洗い終わっている頃だろう。

とにかくカヨは布団をはがされないためにも起きる。しかし見知らぬ場所、見知らぬ空間。目の前にいる姉たちだけが日常の色を持っていた。

「え?マオちゃん、なんでいるの?」
「なんでいるのって…まぁとにかく意味わかんないことになってるんだよ」

長い髪をかきあげながらため息をつくマオ。来月結婚するのでその準備で忙しいはずだ。だがその疲弊とは違った顔色の悪さがあった。

石でできたまるで中世ヨーロッパのような部屋。灯りの役割は窓から差し込む太陽と、今は火が消えているランプ。もちろんコンセントの差し込み口はない。

窓から外を見ると高く聳える城の中にいると気づいた。

「なんこれ!?中世ヨーロッパ!?城!?」
「状況分析早っ」
「うちとマオちゃんだけ?」
「ううん、ユキちゃんもおる。でもお腹すいたっていって城の中歩き回ってる」

頭の中で高速でドミノ倒しのような展開を思い浮かべる。城の中に兵士がいるのは当たり前、そんな中一人でうろついたらどうなるかは目に見えている。

「危ないやん!連れ戻しにいかんと!」
「あっ、ちょっと待って!」

木製のドアを開けると無機質で冷たい廊下。その中央で金髪で無表情の人物が立っていた。驚いて無言で部屋に戻りドアを閉める。

「し、しら、知らん人いた!」
「大丈夫、なんか従者?らしくて。護衛してくれてる」
「絶対嘘やん!!絶対嘘!!そんなことあるわけないやろ!」

カヨが狼狽える最中、ドアを無慈悲に開けたのはその金髪の人物であった。本を片手に二人を見下ろしている。カヨは咄嗟に後ろに下がると同時に古い椅子を掴んだ。何かあれば椅子をぶん投げて姉を連れて逃げる為だ。

「警戒の必要はない。私はメソポタミアのハンムラビ。故あってここに召喚され、お前の姉であるマオに仕えることになった」
「は………?」
「ね?何言ってるかわからんやろ?」

カヨの警戒は最大となった。椅子をそのまま振り回すと光の幕が現れて椅子の攻撃を無効化していた。

「カヨちゃん何してんの!」
「だって!怪しいやろ!こんな、こいつ、絶対強いやん!なんかされたら勝てないじゃん!」
「大丈夫だって!ごめん、ほんとごめんハンムラビさん」
「むしろ正常な反応をしていて安心した。お前たちは少し私への警戒が薄すぎる」

ハンムラビが部屋から出るとカヨは急いで出てハンムラビと距離を取る。

「カヨちゃん!謝んな!」
「やだ!!」
「いいから!!変な生き物に襲われそうになった時すぐ助けてくれたんだよ!?」
「え!?」

でもそれは信頼を勝ち取る演技という可能性もある。いや、きっとそうに違いない。カヨは姉たちを守る為、同じくここは気を許したフリをするのがいいと考えついた。謝るのは非常に癪だが、ひとまず姉を怒らせたくないので謝る。

「………すみませんでした」
「構わん。それよりダルタニャンの元に行くべきだ」
「だれだにゃん?」
「ダルタニャン!」

カヨはそのままマオに引きずられる。城の中は殺風景で、そして無人。時々変な生き物がいるので気をつけた方がいいと言われてマオの服の裾を掴んで歩いた。

「にしてもマオちゃん、そんなに髪長かったっけ?」
「私に言わせればあんためちゃくちゃちっちゃいよ」
「は!?た、たしかにマオちゃんと身長同じな気がする!」
「私の方が背高いから!今は!」

そうして大きな扉を開ける。すると映画で見たような長いテーブルが部屋の中央に横たわっていた。随分と使われていないんだろう。灰色の室内がどんよりとしていて空気が悪い。

「なんここ…バイオハザード?アンブレラ社でてくる?」
「出ないから」

マオが先先進むので後を追いかけると、そこには黄色いインコがいた。モノクロの城だったので突然、高発色の生き物を見ると目が痛い。

「なんでインコ?」
「お!ようやく最後の三銃士が揃ったな!」
「しゃっ、しゃべっっっ」

インコが人の声を真似するとかそういった次元ではない。対話しうる能力があり、人と同等の声質を持っている。人ならざるもの。そう認識するとまた椅子を掴んでいた。

が、その手をハンムラビとマオに抑えられていた。

「カヨちゃん!」
「おかしいやろ!インコが喋るなんて!」
「気持ちはわかるけど落ち着いて!」

そうしていると部屋の扉が開かれる。視線を寄越すとブリーチした金髪が特徴のユキと、見たことない綺麗な女性が一緒にいた。

「あ!カヨちゃん!いたの!?」
「ユキちゃん!」

その場を離れて駆け寄るが、近くにいる女性に同じく警戒を向ける。

「中、探索してたって聞いたけど何もない?変な生き物いるんやろ?」
「うん、いたけど、この人が全部やっつけてくれた!」

姉妹と同じくらいの背丈。深い瑠璃色の髪に吸い込まれそうな緑の瞳。ハンムラビと違って村娘のような服に、少しだけ警戒心は薄まるが同じく人以上の力を持っている。それを頭に入れて挨拶した。

「こ、こんにちは」
「こんにちは。私はマラヒートニッツァ。ユキさんの従者として召喚されたわ」
「………」

ちら、とユキを見る。さらに近寄って耳打ちする。

「なんて?」
「マラヒートニッチャちゃん」
「マラヒートちゃっちゃん?」
「聞こえてるし全然違うんですけど?」

ゆっくり名前を言ってもらい、なんとか発音は理解したが…それよりも今の状況はあまりにも謎めいていて理解が及ばない。大抵の物事はことの起こりを見て想定ができるのだが、今は理解するのも嫌になる。

「はいはい三銃士あつまれー」

痺れを切らしたインコが呼びつける。マオ、ユキと違ってカヨは怪訝な表情を浮かばせながら近づく。

「最後の銃士も揃ったし、まずは知恵を共有しておくね」
「知恵?」

嫌な予感がする、と感じた矢先に頭の中に情報が詰め込まれた。
魔術世界、聖杯戦争、7つのクラス、人理。膨大な情報量に頭が酩酊して膝から崩れ落ちそうになるがハンムラビが受け止めた。

「カヨちゃん!」
「おいインコ!ゆっくりやれって言っただろうが聞いてねーのか!」
「しょうがないじゃん、情報の流れはこっちが操作できるわけじゃないし」

でも今なら都合もいい。インコはそう言いながらカヨの髪を数本抜いて召喚の儀式を始めた。カヨは眩しい光と酩酊でより気分が悪くなる。
インコの儀式などどうでもいいことのようで、姉二人と従者を名乗る者たちはカヨの介抱に必死だった。

「寝かせると良くないからそのままハンムラビさんは背もたれになってあげてて」
「カヨちゃん水飲める?」
「温かいほうがいいわ。この石を膝の上に。少しずつ熱をもつわ」

膝掛け、上着、謎の温かい石。気分が悪く吐きそうだったが体がポカポカしてきたのと、心配する優しい声にメンタルが落ち着いてきた。引っ張られるように身体も落ち着きを取り戻す。

「おおっ!マイナーな英霊だ!ポルトスだからもっと大暴れするようなサーヴァントがくると思ってたけど」

余裕が出てきた為顔を上げる。するとそこには現代的な衣装を身に纏った男性がこちらを見ていた。インコは面白がっているのかその肩に乗っている。

「いまそこに座っているのがお前の主人だよ。まぁ長女次女は神秘性の高いサーヴァントだったけど末っ子はそんなサーヴァント引けなかったのが痛いね〜。しかもセイバーかぁ。クラス被ってるなぁ」

これまで余裕綽々だったインコが次の瞬間、ぎえっ!と悲鳴をあげた。

「どういう状況なのかな?お前、この子の魔力利用して俺を召喚したよな?だからああやってぶっ倒れてるんじゃねーの?」

ぴぃ!ぴぃ!と羽を散らしながら男の手の中で暴れる。力の限り握りつぶす様子に、せっかく落ち着いたメンタルが悪い方向へ引っ張られた。

「やめて!鳥を握らないで!死ぬじゃん!」

ユキが男の手を掴む。すると男はすんなりと手を離した。

「召喚されてあらかた状況は掴めてるよ。とは言っても、こっちはお昼のコロッケそば食いそびれてちょっと気が立ってるんだけどね」

インコはぜぇぜぇと息を切らしながらテーブルの上にいる。カヨが思わず立ち上がるとマオが肩を抑えて座らせた。

「いいから、じっとしてて」
「で、でも、何、どういうアレなん?なんで……」

情報だけいきなり与えられてもカヨは理解できなかった。今自身に降りかかっていることのあらましはわかっているが、どうやってこの状況なのかがわからないから混乱している。


「うち……うち、マオちゃんとユキちゃんと、遊び行きたかったのになんでこうなっとると?」

唇をわなわな震わせて泣いた。

「三銃士の役割与えられても、なんもわからん、何がしたいの?あの、あのクソインコっ…!」

インコは体をパキパキ鳴らしながら体を復元していた。

「あ〜やっと治った。やっぱりポルトスが選ぶサーヴァントだわお前」
「そりゃ光栄、だな!」


男は刀を振り下ろす。しかし次の瞬間にはインコはカヨの目の前にいた。

「私を攻撃しない方がいいよ。何故なら彼女ら三銃士と同じ霊基だからね!私を攻撃すると彼女らも消える!」
「へぇ、人質ってわけ」
「そう!だから私たちは運命共同体!さぁ、三銃士たち、新しい女の子の体を与えたわけだし旅をしよう!今度の旅はもーーっとスケールが大きいぞ!」

インコ…真名をダルタニャンは三銃士の霊基に手を加えた。アトスには長女マオを。アラミスには次女ユキを。ポルトスには三女カヨを。この場全員の同意を得ることなく擬似サーヴァントにしたのだ。

「強くて頼り甲斐のある新たな従者もつけてあげたんだ。賑やかで楽しくなるにちがいない!」

きゃあきゃあと笑うダルタニャン。だがその体を再び掴んだ者がいた。


「ぎゃっ!?」
「ふざけんなよテメェェエ……」


戦いなど知らない、一般人の肉体。だが擬似サーヴァントである以上戦えるだけの力はつけられていた。

「ぽっ、ポルトスっ!やめなさい!やめっ!」
「うるせぇ!!こっちは遊びキャンセルされて最悪なんだよこの場で死ね!死んで詫びろ!」
「私がしんだらっ」
「遊びがなくなった時点で死んだも同然なんだよ死ねーーーー!!」

この時、長女マオは
(まぁそれはそう。死ぬのは嫌だけどもうカヨちゃんの好きなようにさせよう)
と思っていた。
また次女ユキは
(それなんだよな〜こっちはそれ楽しみに残業してたしな〜)
と思っていた。

ちなみにこの(カヨちゃんの好きにさせよう)という感情はざっくりと三姉妹に共有される。つまりダルタニャンは誰も助けてくれないと即座に判断した。

「ち、ちくしょーーー!!」

最終手段として、最後に召喚した男の縁をつたう。綱渡のような危ない逆因果を辿っていった。

その結果、手のひらにいたダルタニャンは姿を消して逃亡を図ったのだ。



【栄華代役舞台 パリ】




藤丸立香は廊下で黄色い物体を見つけた。なんだこれ、と近くでみるとそれはインコだった。しかも体がやたら曲がっていて生きているのかも不明だったが息はしていたため急いで拾い上げて医務室へと駆け込むことにした。
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