ふぁて/因習村?RTA

マスターのビーコンは常に安定している。メンタル面でのブレも観測していない。故にカルデアが急ぎ通信を回復させることはない。
斎藤一は笑った。これで誰にも邪魔されることなく、マスターを連れ出せると確信した。


ことの起こりは不思議な現象からだ。斎藤一の霊基が単独レイシフト。特異点を作った。
しかし急遽呼び出されたショウは首を傾げる。管制室に行く直前、斎藤と軽い雑談をしていたからだ。

「いましたけど…」
「そう、今いる斎藤一の霊基もカルデア由来のものだ」
「はい?」

ダヴィンチちゃんによると、斎藤一が何かやらかしているか、あるいは斎藤一の霊基を使ってダミーとしているか。どちらにしても斎藤一が関わっているためカルデア内で監視は続けるとのこと。

「まぁ斎藤さんならやりかねないですよねー」

同じく呼び出されたのは適性のある沖田総司。マスターもちょっと思っていたが長年の付き合いのある沖田から言われると説得力が増す。

「とにかく、ズバッと解決してみせますので!マスターは大船に乗ったつもりでいてください!」
「ぼく も、がんばる」

そしてアステリオス。二人とも臨機応変にマスターの指示を良く聞くサーヴァント。今回同時に二人を連れて行くのは初めてだが相性はかなりいい。

「うん!頑張ろうね!」

特異点を解消し、斎藤一なるものを確認すればそれでいい。楽勝じゃーん、と思っていた時期がマスターにもありました。




そして特異点到着後。もちろんサーヴァントとはぐれる上にカルデアとの通信途絶。あちゃー、と思ったのも束の間、カルデアを経由してつながっていたパスが一本切れた。

「え?」

それはサーヴァントが一騎、カルデアへ帰還したことを意味する。さらに、辿り着いた一般的な住宅街のさまざまな家屋が隆起し始めた。家が増殖し、道は迷路となり果てる。明るいはずの住宅街が一瞬で、夜の魔界へと変貌したのだった。

「ど、どう、なってるの」

一歩、二歩とゆっくり前へ進む。空間が捻じ曲がり、住宅街は進めば進むほど坂道になっていて黒い渦の中に入っている。しかし見るだけでも果てしない距離。さも、こちらへ来いと言われているような道を進むほど愚かではない。まずマスターはサーヴァントを探すため、住宅街の探索を始めた。
だが誰の気配もない。デバイスは息をしておらず、非常にまずい状態だ。時間の感覚すらおかしくなる。

ぐうう、と腹の虫が鳴いた。簡易食糧は持っているが今ここで食べるのは得策ではない。

一つ気づいたことは、先ほどはずっと坂道だと思っていたけど実際に歩くと平坦でしっかりした道が続いている。そして渦へ進めば進むほど建物が古くなっていった。

横道に逸れても行き止まりばかりで、家の中で休ませてもらおうとしてもドアが固く閉められている。仕方なく民家の庭の茂みの中で休んでいた。
流石にサーヴァント無しでこの先進むことはできない。身を守るにしても限度がある。
ため息を押し殺し、身を潜める。すると複数の足音が聞こえた。塀の飾り穴から覗くと、新撰組の格好をした敵性エネミーが刀を持ってうろうろしている。しかも民家に入って刀で建物を切りつけている。
探しているのは自分だと気づくや否や裏門から走って逃げた。

最初はエネミーの目を掻い潜り逃げられたが、とうとう見つかってしまう。容赦無く刀を振り上げる様に慌てて走って逃げた。このままだと渦の中へ入ってしまう。けどここで死んでしまうよりはマシだ。

思い切って入ることにした。



瞬きの間、ガラリと様子が変わる。月夜が覆う古い日本の村。一口に村と表現したが、ここは大きな屋敷なのではないかと察する。マスターの後ろには大きな門。もちろん動かして開くこともできない。そして石畳を進むと旅館のような入り口。視線を右にずらすと別の家屋がある。この規模なら村と言っても差し支えないだろう。カルデアより大きな建物に見える。

ポケットから食糧を取り出して食べる。先ほどまで走っていたし、体力とは別に気力を回復しておくべきだ。乾燥した栄養食を食べて、水を含む。胃の中で膨らんである程度満腹感が得られるものだ。

ふう、と呼吸を整える。
落ち着いて観察するとまるでホラー映画のようだ。だがここに来たということは何か理由があるに違いない。
建物の扉を開く。玄関を進んで内装を確認する。かなり古い。床を触るとかなり汚れている。手を払って土足で上がり込んだ。ゴツ、とブーツの足音が響く。床を踏み締める軋みも。
すると奥からカタカタと音を立てて何かがやってくる気配がした。デバイスは確かに機能としての役割を果たしていない。だが備え付けられたライトは別だ。

パッと照らすと、着物を纏い、刀を持った敵性エネミーが真っ直ぐ刃を向けていた。
咄嗟に避けるが首の薄皮が切れる。走って逃げるがブーツの足音が大きすぎて位置を知らせているようなものだ。なら、どれだけ長期戦になってもあのエネミーを倒すしかない。
木が腐った階段がある。その手すりをもぎ取る。
振り翳したエネミーに対し、その木を当てる。思った通りに、刀に木が挟まった。そのままもう一本の手すりの木材でエネミーを殴りつける。

「だぁっ!!」

頭にヒットした。視界がブレたところをもう一度下から殴りあげる。だが相手はエネミー。サーヴァントとも渡り合う存在。しかもからくりだ。彼らは視認できているかなど関係ない。ただ敵がいるなら武器を振るうのが唯一の生命行動。

木材が挟まっていたので軽傷で済んだものの、右肩を突かれ、血が流れた。

「あぁあっ!!」

無理やり、生存本能のまま、刀を肩側へ向けて払う。腕も切れたが貫通されるよりマシだ。

「はぁ゛ーっ!はぁーっ!なめ、るな!」

ほぼ動かない右腕は添えられているだけ。それでも火事場の馬鹿力とでもいうのか。永遠に、エネミー殴り続けた。そしてようやく動きを止めた。

「ひぃ……はぁ……はぁ…」

刀を奪う。念のためからくりの四肢を切り落としたところで、また別の音が聞こえた。意識が朦朧とする中で視線を寄越すと、扉の隙間から無数の手が這っていた。

マスターは逃げ続けた。からくりに襲われ、道順など確認することもなくただ敵から逃げるためだけに。ようやく見つけた唯一の安全地帯は、とある一室の押入れの中。だが声を上げればすぐ見つかるような場所だ。息を殺して、痛みに耐えながら自分で応急処置を施した。

まず自分に鎮静剤を打つ。鎮静剤で脳みそが落ちる前に、針と糸で傷を縫い合わせる。だがよりによって左手だ。痛みでいちいち手が震えて嫌になる。

なんとか傷口を縫った後、ガーゼを当てて包帯で巻く。かたく、分厚く巻けば痛みも少しは和らいだように感じた。
少し目を閉じて仕舞えば疲労で何時間も寝てしまうだろう。しかし命の危機で眠れないのも確か。一体ここはなんなのか。逸れサーヴァントもいない。カルデアのサーヴァントもいない。わからないことばかりで泣くのを必死に堪えていた。

それからマスターは実に五日間、彷徨い、逃げ続けることになる。



サーヴァント、沖田総司が強制的に霊基が崩されたのを確認した。突き返すように戻ってきた沖田は重傷のまま管制室へ向かう。

「ちょ、っとどうなってんの沖田ちゃん!」
「はぁ、はぁっ!ど、いてくださいっ!!」

斎藤が必死の剣幕の彼女を見ると、とんでもない特異点が発生していると察した。肩をかして共に管制室へ向かう。

「一体何があった!?」
「レイシフトした途端、強烈な斬撃を受けました!それから、一部、霊基を持っていかれています…!」
「アステリオスの霊基は!?」「今確認中です!」

ごほっ!と沖田が血を吐く。ひとまず霊基を調べるためネモナースに連れて行かれた。

「朝から騒がしいけど、これどういう特異点?マスターちゃんは」
「ビーコンは反応してる。マスターが生きているのは確かだよ」
「生きてるとかそういう話じゃないんだわ」

ダヴィンチに静かに言うと皆口を閉ざす。斎藤の思想は、マスター第一。敵が斎藤一に連なるもの、あるいは斎藤一そのものだった場合、リスクは跳ね上がる。とはいえ送り込める適性サーヴァントは斎藤一しかいなかった。

「……まず、マスターを五体満足で無事に連れ帰ってきて欲しい。特異点解消はその後だ」
「了解」
「なら説明しよう」

ダヴィンチの現状説明はまさしく端的で、同時に自分が監視対象でもあることを開示した。斎藤は、だからあんなに見張られていたのかと納得するものの、マスター関連では信用されていないことも知った。

「理由はどうあれ、マスターは今危険に迫られている。何が何でも連れ帰ってきて欲しい」
「わかってますよ。マスターもそれを望むだろうし」

斎藤一はレイシフトを開始した。同じ存在である斎藤の仕業なら、趣味が悪い。同じ斎藤が相手なら刺し違えてでも帰還できるという確かな自信が感じられた。

レイシフト先は廃墟。和風建築だが斎藤はこれほどまで大きな建築物をみたことがない。十中八九、何か魔術を使ったものだと推測する。進むと一つ血溜まりがあった。指先で確認すると乾いている。そして残されたエネミーの体。ボコボコに殴られ抵抗したのだろう。ならばこの血はマスターのものだ。血痕を辿り進む。
しかし廊下の途中で円形の血痕が半分に切れていた。その先は相変わらず古臭い廊下が続く。つまり、定期的にこの廃墟は組み替えられていることがわかった。

「試すようなことしやがって…」

斎藤は刀を抜き、襖に向かって投げた。エネミーのくぐもった声が聞こえる。

「俺のマスターをそうやっていたぶってきたのか?」

もう一対の刀を何度も何度も刺して、襖を切った。潜んでいたエネミーは再起不能となっている。女を一人この場所に閉じ込めて追い込んで遊んでいるのだ。斎藤は、相手が誰であれ徹底的に仕留めることを決意する。
この先少しでもマスターが生き延びることができるならばと、斎藤は片っ端から敵を斬り壊していった。


押入れに隠れてどれくらい時間が経っただろう。子供の笑い声で目が覚めた。運良く見つかっていないようだが、こんな廃墟で子供の笑い声など恐ろしくてたまらない。息を潜めて耐えているとどこか聞き覚えのある声が聞こえた。

ねえねえ、他はどんなとこがあるの?
そうだねぇ、一緒に探検しようか。

子供の声は、聞き間違えるはずもない。自分自身の声。そしてそのそばに居るのは斎藤一の声だった。一体どう言うことなのか理解ができない。だが斎藤というだけでマスターの警戒心がどこか緩んだ。

襖を開けて慎重に周囲を見渡す。廊下に出ると足が角を曲がった。

「す、すみませーん…」

声をかけてみるも反応はない。片手に持ったボロボロの刀を背に隠しながら、角に向かった。

「あの、ここがどう言うところか教えて欲しい、ん……」


角を曲がった突き当たり。割れた花瓶を前に黒いスーツ姿の男が佇んでいる。腕に何か抱えていて、実に怪しい。あのまま隠れていればよかったと、ちょっと後悔する。

「……あなたは、誰ですか」

男が振り返る。髪を高い位置で結っており風貌こそ違いはあれど、間違いなく斎藤一だ。

「随分とボロボロじゃないの、マスターちゃん」
「斎藤さん…?」

だが腕に抱えているのは人形だ。ドレスを着た西洋人形。

「ほうら、□□ちゃん、挨拶」

かく、かく
ぎこちない動きを始める。聞き覚えのない名前だが、どこか大切なような気もしてどちらに注目すればいいかわからなくなった。

「はじめまして。私、ここに迷い込んじゃったんだけど、はじめちゃんに助けてもらったの」
「…!」

やはり、マスターの声だった。喋り方も、語尾に残るイントネーションの違いも、真似しようとしてできるものではない。ましてや人形がそこまで模写できるとも思えなかった。

「助けるなんて、当たり前だろう。さ、少しだけ目を閉じて……」
「ん?うん、わかった」

斎藤は慈しむように手で人形の瞼を閉じた。そして、気がつくとマスターの右肩に刀が通っていた。

「ヒ、あ゛ッ!?」

激痛で叫ぶ前に斎藤はマスターの口に指を突っ込んだ。

「叫ぶなよ…□□ちゃんが怯えるだろ?」
「ふ、うっ、ふうっ!」
「大丈夫大丈夫、そのうちなぁ〜んにもわからなくなるから。痛いのは今だけ」

刀から滴り落ちる血。人形の口を開けてマスターの血を飲ませていた。するとみるみるうちに人形が子どものサイズに変化していく。どういうわけか、斎藤はマスターを使って、マスターの分身を作っているようだった。

「痛いねぇ?よしよし…」
「えぅ……!」

舌を引っ張り出される。涙と脂汗でぐちょぐちょの顔。それを斎藤は満足気に見下ろしていた。

「あんたの痛そうな顔見てると、ホッとするよ……」

指を抜いた。そして刀も引き抜かれる。

「うあ゛あ゛あ゛!」

あまりの痛みにのたうち回る。その間に斎藤は無慈悲にもその場を立ち去った。何をしているのかわからない。いつもそばにいて分かるような言葉で話してくれていた斎藤一が、まるで影に覆われてしまったようだった。

そしてそうしている間にも悲鳴を聞きつけたエネミーがやってくる。泣きながら、必死に斎藤の後を追った。マスターは走っているのに斎藤は悠々と、もう一人のマスターを大事に抱きながら先を歩く。

「ま、って、お願い待って…!!」

すぐ後ろに迫るからくり。情けない声を出しながらマスターは進むしかなかった。痛み、生命の危機、もう一人の自分と斎藤。全てに板挟みされて、生きるのを辞めたくなるくらいの悲壮。

「わああぅう、おき、沖田ちゃんっ、あすて、ぃおすくん!」

名前を呼んでも返事はない。令呪にも反応はない。血が抜けて、意識もあやふやになってきた。腰にあるポーチからアンプルを抜いて足に向かって打つ。ちょっとの痛みでさえ声を上げてもう嫌だと叫びたくなった。それでもマスターは前へ進まなければならない。


なんとか意識を保ちながら階段を上がると、斎藤は大きな襖を閉めていた。走って乱暴に開ける。

「は…あ…」

そこはまさに宴会場。からくりたちは三味線を奏でて、偽物の新撰組たちは太鼓を持って囃し立てている。その座敷の真ん中にいるのは、小さいマスターに膝枕をしてやっている斎藤だ。

「いい顔だ、マスターちゃん。俺はマスターちゃんの体が必要なんだ。大丈夫、ちゃんと丁寧に捌いて、この□□ちゃんに与えるから。そうすれば新しいマスターちゃんになれる」
「なに、いってるの」
「さぁ余興だ!どれだけ逃げられるか!」


この場にいるエネミーたちが襲いかかってきた。しかしあえて避けられる程度。わざと逃げる隙間を作っていたぶっているのが分かった。こんなことをして何になるのか。聞きたくても肺は呼吸で焼けて疲労とストレスで足がおぼつかない。

「う゛あっ」

足を引っ掛けられて転んだ。エネミーたちは大声で笑う。

「よく頑張ったねマスターちゃん、もう楽になっていいよ」

斎藤の優しい声。だがマスターが知る斎藤はこんなこと言わない。
じわりと、頬にまで肩の血が広がった。あれだけ浅かった息が今は不思議と深い。ただし心臓は生きろと必死に動いていて、その差がおぞましい。


「どけオラァ!!」


また懐かしい声。マスターは目を開けていられず、意識を手放した。



「エネミーが一斉に移動しやがるから追いかけてみれば、何してくれてんだテメェ!」

カルデアからレイシフトをした斎藤は間髪入れずに宝具を放つ。周囲のエネミーを巻き込み、狙うはもう一人の自分。

「すっこんでろ負け犬が!」

これに斎藤も宝具を放つ。余波でエネミーが数体消えていった。

「んだテメェは…!マスターに何してんだ!」
「マスターを救ってる最中だ、邪魔すんじゃねぇよ!」
「血だらけにしやがって!何が救うだ!」
「ガタガタ抜かすな腰抜け!」

宝具の打ち合い。斬撃は互いに対消滅し、一歩も譲ることはない。


「ん……う?はじめちゃん?」

子供の声に反応した。斎藤を蹴り飛ばし距離を空ける。

「□□ちゃん、起きたか」
「なにここ?」
「ここは少し危ないから、別の場所にいこう」
「え?でも、まって、怪我してる人いるよ!」

人形特有の球体関節を持つ子どもの顔はまさにマスターを幼くさせたもの。カルデアからきた斎藤もまた、その人形は限りなくマスターに近いものだと察した。

「血だらけだよ!?」

狼狽える子どもに、斎藤は優しく口付けした。ちゅ、と音を立てると子供はまた眠りにつく。

「余計なもんを俺の□□ちゃんに見せやがって……覚えておけ」

そう言って子供を抱き抱えて姿を消した。完全に気配が消えたのを確認して、倒れているマスターに駆け寄る。

「マスター!!おい!しっかりしろ!!」

最悪の事態を想定して斎藤にはいくつか肉体再生の礼装を持たされていたがこれで事足りるか不安だ。自分で縫ったであろう、針。打撲痕と、目の下のクマ。何日もここで彷徨っていたのか、考えたくもない。




マスターは目を覚ます。直前のことを思い出して起き上がるが右肩が激痛となって倒れた。

「う゛あ゛あぁっ!!」

周囲の警戒をしていた斎藤が駆け寄る。

「マスター!無理するな!」

斎藤のはずなのに、刀を向けられた恐怖が再来する。走って逃げて部屋の隅へ縮こまる。

「やだっ!やだやだやだっ!!誰!?」
「マスターちゃん…」
「こないで!こっち来ないでぇ!!」

近くに転がっていた燭台を手に斎藤へ向ける。だが手も足も震えて、可哀想な有様だ。自分と同じ顔によほど手ひどいことをされたのだろう。さらにこの屋敷でサーヴァントの助けもなしに彷徨っていた。恐怖心が最大限に高まったところでやつはあえて姿を現し、精神的な崩壊を誘ったのだと察した。

斎藤は腰に下げた刀を落とし、コートを脱ぎ捨てる。スーツのジャケットも脱いでできるだけ無防備な状態にした。

「マスターちゃん」

小さい悲鳴が聞こえる。膝をつきながらゆっくり近づくと、マスターは警戒心を緩める。

「抱きしめていい?」

涙で顔を濡らしている。それを早く拭ってやりたいが、マスターはまだ心のささくれを残している。

「は、はっ、はじめちゃ、しか、知らないこと、いって」
「へ?あー……そうだなぁ……マスターちゃんが寝ぼけてお玉で白米食べようとしたこととか?魔術工房に入って声がすっごく高くなったこととか…」

他愛ない思い出を話すと、ようやく燭台を落として大声で泣いた。斎藤は血まみれの体を強く抱きしめる。

「よく頑張った、もう大丈夫だ」
「えぇうう〜〜!あぁあ〜〜〜!!」

こわかった、死ぬかと思った。叫んで今まであったことを斎藤に告げ口する。斎藤も、うんうんと聞いてやりながら慰めた。

「も、か、える、かえるっ」
「おう、帰ろう。でも脱出する前に少し休んでおきな。ろくに寝てないでしょ」
「いい、帰りたいっ!……でも、沖田ちゃんと、アステリオスくんも、連れて帰らなきゃっ!!」

完全に興奮している。瞳孔が開いて汗まででている。顎をそっと持ち上げて、斎藤はキスした。

「ふっ!?」

ちゅ、ちゅ、と啄み顔中を撫でる。マスターはタイミングよく呼吸をする。下唇を撫でると、マスターは斎藤の舌を迎えにいった。

「んぅ〜……ふぅ……へ、ぁ……」

すっかりとろけている。マスターの舌を吸い上げて、今度は強く抱きしめながらキスを続ける。

「きもちーな?」
「へ…へ……」
「おいで、ゆっくりキスしよう」

座敷に押し倒し、唇をねぶる。触れるキスを続けながら囁き、頭を撫でていく。かわいい、いい子、きもちい。言葉を脳に刷り込ませていくと体の興奮が抜けていく。

「は、じめちゃ……」
「ん、いい子は目ぇつむれるよな?」
「う、うん」
「大丈夫、俺はずっとここにいる」

するとマスターはあっという間に眠る。日頃からデロデロになるまで甘やかしていたおかげだ。コートをかけて安心し切った寝顔を見つめる。
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