平衡常世国家 三國

 今回の特異点は三国時代。中国の三国志で有名な時代だ。とはいえ歴史はよくわからない。シバの選出サーヴァントが決定されるまでマシュとダ・ヴィンチちゃんから簡単な講義を受けた。
 これからレイシフトするのは238年。三国志の主要人物たちである曹操、劉備は既に没している。唯一覇を競った孫権だけは存命であるがいまだに三国の均衡は保たれているという。

「もうすでに頭ぱんぱん…」

 マスターである笑迫ショウはめまいを覚えた。歴史は得意ではないし、そもそも勉強全てがショウを苦しませるためにあると思っているくらいだ。

「大丈夫です!私がサポートしますから!」
「マシュ……!」
「こらこら、そこ甘やかさなーい」

 シオンの苦言に肩をすくめる。特異点とはいえ微弱な反応である。そこまで深刻ではないと技術チームも判断を下している。

「とはいえ、ちゃんと勉強しなさいよ」
「わかってますよ〜」

 本当か?と怪訝な顔で見るのはゴルドルフ新所長だ。ショウの真面目さは知っているが同時に勉強が苦手であるのも知っている。帰ったらサーヴァントによる特殊講義を行う必要性さえ感じた。

「はい注目〜、サーヴァント選定が終了しました〜」

 プロフェッサーが連れてきたのは斎藤一だった。

「え?はじめちゃん?中国の特異点なのに?」
「しょうがないでしょ、なんでか選ばれちゃったんだから」
「てっきり始皇帝とかぐっちゃん先輩とか…中華系サーヴァントだと思ってた」

 斎藤一はもちろん日本出身のサーヴァント。中国四千年とはよく言ったもので中国に関わりのあるサーヴァントは半数にのぼっていた。

「それから〜…」
「この呂布をお呼びしましたね!ヒヒン」
「……」

 呂布…もとい赤兎馬。頼もしいサーヴァントの一人だが呂布という自認を聞くと不安が込み上げてくる。だが現地に詳しいサーヴァント(馬)がいてくれるのは心強い限りだ。

「今回は私、マシュ・キリエライト、斎藤一さん、呂布…さんの3騎でしょうか?」
「はい〜そうです〜ですがシバは今回特殊なことを言ってまして〜」

 もう一騎、必要であると提唱しているそうだ。とはいえ技術チームからすればそれは誤差の範囲。居てもいなくても大差ないものだそう。言うなれば100にするための小数点以下の存在。

「戦力としては十分すぎると思うけどね」
「私も斎藤氏の意見には概ね同意、ですが〜…脅威がないと見せかけてヤバ脅威であることが最近のセオリーですので〜…」
「それはそう」

 一同重く頷いた。結局現地でのサーヴァント召喚を試みると決定が下される。
 準備が出来、いつでも出向可能だ。多くの特異点を修復してきたショウにとっては特段緊張するものではない。出来ることを全力で。胸の中でもう一度唱えてレイシフトを開始した。


平衡常世国家 三國


 風が吹いた。荒れた土地と生い茂る草木。人が住む場所ではないにせよ敵の姿はない。それに今回都合が良かったのはサーヴァントと逸れていないことだった。

「番号!」
「いち!」「に!」「さーん」
「よし、全員揃ってる!」
「この人数で点呼いる?」

 斎藤のツッコミはともかく会話をして互いのコンディションを確かめることは大切だ。通信も途切れていないので端末の向こう側ではくすっと笑う声が聞こえた。

『無事レイシフトできたようで何よりだ。しかも手付かずだからかあたりから霊脈の反応もある。今後の方針はショウちゃんに任せるよ』
「了解!じゃあまずは森を出て村や町を目指そう。それから聞き込み!」

 いつもの方針を定めて一行は山を降りた。獣道を辿ると川にたどり着く。ダヴィンチの指示に従い川をなぞるように歩いた。しかしやはり特異点とは思えないほどのどかな空気だ。何度も特異点修復を繰り返しているせいか肌でそれらの情報をある程度読めるようになっていた。
 小一時間ほど歩けば山を降りて村を見つける。赤兎馬には外部からの情報の詐称魔術をかけてもらい、共に村に入った。そしてショウの直感通り、村の空気は穏やかだった。戦乱が相次ぐ三国時代とは思えない。

「なんだかすごく空気がいいね。朗らかでゆとりを感じるよ」
「はい、私もです。公益も盛んで活気にあふれています」

 ダヴィンチちゃんが言うには現在地は青州という中国大陸の中でも半島の場所。かつては戦いが多く繰り広げられていたがここまで落ち着きがあることについて驚いていた。

「それに、今の魏の皇帝もすごくいい人みたいだし…」

 この町のことを聞けば多くの人がこぞって口にしたのは皇帝の評判だ。見目麗しいだけでなく、慈しみを持った優しい人であると誰もが讃える。洗脳だとかそういった類ではないと確信できたのは、商人が現皇帝の悪口…というかからかうような言葉を口にしたせいだ。
 あまりの美しさに女と思われ、本人は気にしているらしい。間近で見た人間はあまりの美貌に男であろうが女であろうがどうでも良くなってしまう。とはいえ皇帝が行った偉業は男でなければ成せないだろう、と。

「お待たせマスターちゃん」
「おかえり、ってなんでにんじん?」
「お優しい店主から頂いたのです。これはこれで味の違いを楽しめて大変美味です」

 ショウが知るニンジンよりも細長い形だが赤兎馬は何なく食べている。その様子を絶句していたのはもちろんダヴィンチちゃんだ。

『えぇ〜!二百年代になんでにんじん〜!?』
「変なの?」
『変もなにも早すぎるよ!少なくとも中国に伝わるのは十世紀なのに!』

 ニンジンを食べ終えた赤兎馬は瞳をキリリとさせながら言う。

「ダヴィンチ氏のおっしゃる通り、ここは私の知る三国志ではありません。あまりにも平和すぎる」
「平和すぎるって、どういうこと?」
「あぁ、それなんだけどさぁ」

 斎藤たちはのらりくらりと返答を相手に合わせながら情報を多く手に入れることができたそうだ。主にこの大陸での世間の認識について。

「三国は今も均衡してる。でもびっくりなのが、各国は皇帝の代替わりをしているのに内政がかなり落ち着いてることなんだよね。三国志なんて内部でゴタゴタがあって自滅がオチなのに」
「だからこんなに平和な空気が流れていたんですね」

 ショウは顎に手を当てて考える。特異点の原因が何であれ、正史と離れつつある。つまり思考を飛ばしてみると「あまりにも善政をしすぎている」という異質さが見えた。

「三国のうち誰かが聖杯の知識でチートしてるって可能性は?」
「十分に考えられますね」

 赤兎馬の肯定にマシュは続ける。

「私たちも先輩と聞き込みをしたところ、この魏の皇帝は、太子時代この青州で孤児院のようなものを開き治安を安定させていたそうです。当時の知識では考えにくい発想と思われます。それに、三国の境界線の中央に、国に属さない医療機関もあるのだとか…」
「じゃあ異質さだけで言うなら魏の皇帝サマなんじゃない?」

 穏やかな空気を感じたからか、ショウは自然と胸に手を当てていた。特異点ならいいが、あまりにも人類史に離れて仕舞えばそれは「異聞帯」となる。そんなショウの精神のブレが生じ、カルデア司令部にアラートが上がるよりも先に動いたのは斎藤だった。

「話だけ聞いて、もし聖杯が悪さしてなければそれでいいんじゃない?今までにあったでしょこういうの」
「はい、もちろんです。それに空想樹の反応もありません」
「聖杯の力があったとしても、稀に見る“話し合いで解決”できる可能性もあります」

 ブレが生じやすいショウに明るい言葉で囲う。このカルデアのマスターは優しすぎるが故に、傷つきやすいが故に自分を追い詰める悪癖を持っていた。しかしこうした言葉に胸を軽くさせるのもまた一つの特徴でもある。ブレは揺らぎとなり静かな凪と変わった。

「うん、そうだよね!ありがとう」

 ゴルドルフは思わず胸を撫で下ろした。スタッフは全員斎藤に向かって親指を立てる。やはりこういう場所に精神を落ち着かせられる…ある程度人生経験のあるサーヴァントがいると見守る側も落ち着けるものだ。

「魏の皇帝にお話ができるか、まずは謁見を申し出ましょう。魏の首都は洛陽ですのでここで旅の支度をしましょうか」
「そうだね!何が必要かな〜」

 マシュはショウを連れて露店を見て回る。そんな背中見つめながら、斎藤と赤兎馬はお互いの拳を軽く突き合わせた。どんな形であれマスターが落ち込む姿は見たくはない。さらに今後の任務遂行にも影響が出るだろう。この特異点がどんなものかはさておき、特に斎藤はマスターの機微を見守ることが第一の使命だと感じていた。

 あらかた荷物をまとめ、赤兎馬の背中に乗せる。立派な体格の馬だなぁと商人に褒められればヒヒンと胸を張って鳴いた。

「そういえば、サーヴァントはもう一人いた方がいいって言われてなかったっけ」
「そういえばそんな話もありましたね。マスターの魔力消費にも影響するでしょうしこのまま様子を見るのも一つの手とは思いますがいかがしますか?」

 ショウはううんと唸る。ダヴィンチもシオンもどっちでもオッケーという軽い返事である。だがここが通常の三国志とは違う以上、もしかすればこの土地で召喚を行えば知識の補正も期待できる。つまりは水先案内人だ。余裕がある今だからこそ手を打っていた方が対策が練れるだろう。

「この土地の案内人が来てくれると期待して!召喚しようかな!」
「はい!マスターの指示に従います!」
「顔見知りであれば良いのですが…」
「赤兎馬の顔見知りってやばくないか?」

 人の目がつかない山の麓。円卓の盾を使い召喚を行う。右手を出し詠唱を始めた。ショウの体内からサークル、そして地脈へと縁が繋がるのを感じた。風がなびき前髪を揺らす。


──告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ。

我は星の光を手繰る者、我は沈む闇に抗う者。
翼の証明を以て共に飛び立たん

汝、星見の言霊を纏う七天
降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ──!


 地脈に沿った英霊召喚はカルデアの召喚より本来の召喚システムに近い。そのため地脈の魔力が噴き出て形を生み出す。荒れ狂う風が鎮まった時、ショウはようやく目を開けることができた。

「……ええと」

 そこにいたのは同年代くらいの青年だ。目を丸くさせながらショウたちを見ている。

「あれ?俺なんで……え?え!?なにこれ怖い!!頭に情報が入ってくる!!気持ちわりぃ!!」

「大丈夫……?」

「ちょ、ちょっと待ってもらっていいっスか!?」

 そのまま勢いよく竹林に向かって走り出し、吐いていた。聖杯による知識の供給はこんなにも気分が悪くなるものなのかと思わずにはいられない。

「あの、水をお持ちしたほうがいいんでしょうか…」
「あー…僕がいってくるから」

 マシュの手から水筒を受け取り斎藤は青年の介抱を行う。何故だか不安ばかり胸中に渦巻いた。今もなお「きもちわりぃうぼぇえ」と言いながら吐き気と戦っている彼の背中はどうも英霊には見えない。

 しばらくすると吐き気は治ったようだが心なしかげっそりしている。顔色も幾分悪い。現在進行形で悪夢を見ているかのようだ。

「あらためて、私は笑迫ショウ…こっちは後輩のマシュ、セイバーの斎藤一、ライダーの赤兎馬……なんだけど」
「ごめんなさいクラスとかマジでよくわかんない…いやクラスとかそういう知識はあるんだけど自分のことに関してかなり曖昧って言うかあのなんで赤兎馬がケンタウロス式なんですかね」
「私は呂布ですが?」
「ごめんね呂布、ちょっとにんじん食べてて」

 赤兎馬の口にニンジンをやるとご機嫌に食べ始める。

「ひとまず、クラスとかは置いて、なんて呼べばいいかな?」
「あ……そうだな…じゃあ、峰白。峰が白いって書いて峰白。そう呼んでくれ」

 それまで頼りなさそうな雰囲気だったが名前を口にした瞬間目の色が変わった。ショウは自分の認識を改める。彼もまた一人の英霊なのだと知る。
まず、ショウは峰白にこれまでの流れを話した。情報共有は何よりも重要だ。峰白も聖杯からの知識があるためか特段驚きもせず静かに話を聞いている。

「なるほど…特異点、か…その原因がほぼ聖杯だから回収して揺らぎを無くしたい、と」
「はい、この世の中に対してではなくあくまで聖杯に対してのアプローチを主軸に行動しています」

マシュのわかりやすい目標や行動指針を聞いてさらに頷く。

「ところで、峰白…だっけ?三国志できいたことない名前だけど偽名?」

斎藤のストレートな疑問にショウはぎょっとする。なにせ「お前はマイナーです」と言い放っているようなものだ。

「斎藤さん!失礼!」
「あ、いや、いいんだ。知らないで当然だから」

ショウの注意に峰白も苦笑いで返す。咳払いをして小さく息を吐いた。

「意味わかんねーと思うだろうけど…俺、普通生きてた現代人なんだ」
「え?」
「説明が難しいんだけどさ、この三国時代ででっけぇ戦があって、その副作用で魂だけ引っ張られたっていうか…」

峰白の話に食いついたのはシオンだ。ショウは訳が分からずハテナを出しているばかりだが、シオンにとってそれはありえない事象である。

「引っ張られたって、要するに未来の魂を召喚したってこと…?ナイナイ!と言いたいところですけど…」
「証明できるものが限られてるからなんとも言えねーけど…でもその時に仕えてたのは今の魏の皇帝、元仲殿だ。これから会いに行くなら少しでも俺の顔が通用すると思うし、協力できるって胸張って約束できる!」

先ほどまで吐いていたとは思えないほどピンとした背筋に頼もしさが生まれる。謎は深まるばかりだが警戒心が強まらないのは召喚早々嘔吐したからかもしれない。

「理由はともあれ元従者っていうんなら渡りに船じゃない。よかったねマスターちゃん」
「そ、それより、赤兎馬さん…に三国志の話聞きたいんですけどいいですかね…!」

峰白は隣を歩く赤兎馬をちらちら見ては気になっているようだ。ショウは笑顔で頷き赤兎馬に声をかける。

「峰白さんと仲良くしてあげて」
「もちろん、同じ主をいただく者として歓迎いたしましょう。ヒヒン」

横で話を聞く限り峰白はかなりの三国志マニアのようだ。特に呂布の話を聞いては少年のように興奮していた。



首都、洛陽まで時折荷車を使いながら移動を続けた。結果的に言えば公共の交易路も整備されていたため三日でたどり着く。今まででも十分わかっていたことだが、三国時代にしては発展しすぎている。そこに違和感が常に存在しているがなぜだか峰白は誇らしくそれらを眺めているのだ。

「よし、俺が早速門番に話をつけてくる。きっと面会できるだろうから今のうちに聞きたいこととかまとめておいてくれないか?」
「ありがとうございます、峰白さん」

首都の大通りの往来は大変賑わっている。屋台だけでなくお土産まで売られていた。そんな人混みで峰白の姿が消える前に斎藤はショウに声をかける。

「念のため後をつける」
「護衛もお願いね」

斎藤一は肩をすくめて小さく笑いながら姿を消した。霊体化して追うつもりのようだ。丁度いいのでこの時間を使って皇帝に質問することを考えることにした。

「峰白さんが言うにはかなり話が通じるみたいだし、目的を先に伝えるのもアリかもしれない」
「ええ、ですが…今はまだこの特異点の異常が見当たりません。皇帝の協力を得るには説得力に欠けているかもしれません」

ショウは顔を上げて赤兎馬を見やる。

「赤兎馬はどう思う?」
「ふむ…微かですがこの市井の賑わいに違和感はあります」
「え?」
「あくまで私自身の経験則からなる違和感であることを念頭にいれてお聞きください」

本来の史実である三国時代を知っている赤兎馬なら、その言葉は非常に重みがある。頷いてその意見を伺う。

「まず端的に申し上げると兵士の数が多く配置されています」
「兵士…?でも皇帝のお膝元だしあり得るんじゃない?」
「兵士を置くだけならまだしも街を監視カメラの如く死角なく見張っています。我らは誤認の魔術があるのでなんとも思われていませんが」

改めて周囲を見渡す。兵士、と赤兎馬は言っていたが、一般の民に変装している者がいる。民衆に紛れてこの通りをさり気なく往来している人物が見られた。これはショウが今までの戦闘経験があるからこそ気づいたもので、その変装も、往来で一目につかぬよう進む姿も、まさに普通の人間では気付きようもないほど一流だ。

「監視が多すぎる、ってこと?」
「はい、こういった兵士たちが通りに多くいるのは、外敵を即座に捕縛するためです。私には、魏が外からの敵へ対応しているものだと推測します」

まるでこれから敵が来ます、と言わんばかりだ。或いは、ここだけは死守するという思惑も感じ取れる。

「ということは何か隠してる可能性もあるよね…やっぱり直球でいくのはナシにしよう」
「そうですね。外敵から首都を守っているのなら、傭兵として採用してもらえるかもしれません。一旦内部に入って偵察するのもいいのでは?」
「ナイス!そうしよう!」

マシュの提案で皇帝に話す内容は概ね決まった。峰白には悪いけれど波風立てることなく観察し情報を固めることが第一の方針だ。何よりこれだけ出来上がっている国を敵に回すなど恐ろしい。

程なくして先に斎藤が戻ってきた。今後のことを共有している間、峰白もすぐ戻ってきた。

「無事面会を取り付けることができたぞ!明日の朝からだ!」

ほくほくとした顔で報告してくる。現地経験者ということもあり峰白のおかげでかなり前進している。改めてこの特異点攻略に意気込んだ。



宿は思ったより小綺麗で峰白は懐かしいと言いながら部屋を眺めていた。そして腰を落ち着けたことで改めて峰白の話を聞く。

「言いにくいことだったら良いんだけど、現代に生きていてどうして皇帝に仕えてたの?」
「うーん…話すと長くなるけど…それでも大丈夫か?」
「大丈夫です、私も峰白さんのことを知りたいです」

マシュの素直な感想に峰白は顔を赤くさせる。そんな様子を見て斎藤は小言を漏らした。

「マシュちゃんはそんじゃそこらの子と違って強いしうちのマスターちゃんのファーストサーヴァントだから、下手に手を出すととんでもないことになるよ〜」
「そ、そんなつもりないですって!近い年齢の…こういう空気感が懐かしくて…」

からかわないの、と注意する。しかし峰白の表情もより和らいだのは事実だ。

「まず大前提で知って欲しいことがあるんだ。俺は正史の三国時代を知識として知ってる。でもこの時代の三国時代は正史とズレてる」
「ズレている…って、並行世界ってこと?」
「ああ、というか、ちょっと歴史が動いた感じだな」

人類史に大きな影響を与えていないのであれば、それは確かに並行世界という名称で問題ないだろう。異聞帯でないのが幸いだと強く思う。

「っていうのも、死んでるはずの人が生きてたり、起きるはずのない事件が発生したり…とりわけこの並行世界での大事件…大きな戦いがあった」
「それは、峰白さんがこの世界に魂だけ引っ張られた原因の戦いなんでしょうか?」

重く頷いた。だとすると彼は今回が二度目なのだろう。状況や手段は違うものの、ニ回も召喚されてこの時代にやってきている。

「この世界では鉄竜の戦いって言われてる。黄巾党の残党が人の命を使って未来の武器“銃”を使って人を虐殺し始めたんだ」
「!?」
「俺には詳細な情報が回って来なかったっていうか…もう負傷者の手当てでそれどころじゃなかったんだ。とにかく当時の太子だった…ええと、今の皇帝が黄巾党討伐のために三国連合の盟主となって黄巾党を打ち倒したことで収束した」
「銃にたいして、どうやって!?」

銃の恐ろしさはショウにもわかることだ。戦術的価値だって身に染みている。その銃に対し、銃無しで対抗し勝利した世界に驚きを隠せない。

「あっちは銃の弱点を知らなかったし生産ラインも作ってなかったんだ。俺たちは土嚢を組んで矢で敵を捕獲、銃は溶かして鉄にした……かなりジリ貧な戦いだったし最後は機関銃まで出てきて崩壊寸前だった…」

この世界に対して認識を改めなければならないと思ったのはショウだけではない。遠隔で話を聞いていたカルデアもそうだった。

「とにかく、今の皇帝とその側近たちは有能揃いでいい人ばっかりなんだ!きっといろいろと便宜を図ってくれると思う!」
「そっか…ありがとう峰白さん。いてくれてとても助かるよ」




と、思ったのは幻だったのかもしれない。
翌朝、早速謁見に向かうと大広間に通された。いよいよ峰白が尊敬する皇帝…曹叡に会うことになったのだが、豪華な謁見席に姿を表した時、峰白はびくりと肩が震えた。

「私が曹 元仲である。謁見をしたいと申し出たのは貴様らか」

艶がありながらも落ち着いた声音。顔は布で隠されており、威厳に満ち溢れている。
峰白は視線を泳がせていたがそれを指摘するわけにもいかない。ショウは声を上げて申し出た。

「私たちは旅のものです!魏の皇帝、元仲様のご高名を伺い是非元仲様の元で働きたいと思いやってまいりました。各地で護衛などを務めており腕に自信があります。どうか私どもをお使いください!」

皇帝は小さく笑う。

「その心意気は良いものだ。だが、私はそなたらを信用できぬ理由がある」
「え?」
「峰白は私が目の前で殺した相手だ。なぜ同じ顔の者がここにいる?」

ショウ、マシュ、斎藤は峰白を一斉に見た。

「や、あの、皇帝陛下……俺は…」
「門番も世迷いごとを、と思っていたが本当だったとはな。皆、その者たちを捕えろ!」

一斉に兵が出てくる。

「っとに勘弁してくれ〜!」
「な、なんで〜!?」
「斎藤さん!突破お願いします!私が背後を守ります!」

マシュの的確なサポートにより、兵士の包囲が完成する前に謁見の間を抜けた。しかし外にも兵士が待機している。

「嘘だろ〜!?」
「大丈夫!ライダー!!」

大声を出すと門を破壊して赤兎馬がやってきた。

「みんな、撤退しよう!」
「マスター!俺とマシュで蹴散らす!先に行け!」
「わかった!峰白さん、乗って!赤兎馬お願い!」

荒ぶる馬の力に兵士は恐れ慄く。勢いもあってか斎藤とマシュも兵士の突破にさほど苦労はしなかったようだ。

城下を突き進み、首都を駆け抜ける。大きな城砦が小さくなった頃、ようやく赤兎馬は追手が来ないことを確認し足を止めた。

「ふう、厄介なことになりましたね」
「はぁ、はひ、ひ」

ライダーの圧倒的なスピードに峰白は赤兎馬の背中から溢れるように落ちる。そしてその直後、追いついた斎藤が実体化して峰白の胸ぐらを掴んだ。

「話が違うんじゃねぇか?」

殺気みなぎる様子に峰白は息を止める。ショウが慌てて胸ぐらを掴む手を押さえた。

「斎藤さん!」
「下がれマスター、安全が担保されているから話に乗ったが、あの皇帝はお前を殺したと言った。どういうことだ!」

盾を持ったマシュも斎藤の怒りに理解はしつつも宥めようと声をあげる。

「待ってください!峰白さんが昨日話していただいた理性的な陛下とは印象が違うように思います。何かあったのかもしれません」
「何かワケがあっても、こっちはマスターの命かかってんだ。生半可な情報出されちゃたまったもんじゃねぇよ」

一発シメとくか、という壬生浪士の精神が出てる。こうなったら斎藤は止まらない。何よりマスターの生命を第一としているのだから当然だ。

「はじめちゃん!」

ショウは思い切って声を出して、無理やりでも峰白と斎藤の間に入った。そしてスーツに抱きつく。一瞬気取られたところをすかさずマシュが峰白を引き離した。

「これは一本取られましたね、斎藤殿」

赤兎馬の冷静な声に、斎藤は顔に手を当てた。

「はぁ……」
「はじめちゃん、まずは今の状況を整理して対策を考えよう。謁見の時、峰白さんの様子もおかしかったし……それにまだ後手に回ったわけじゃないよ」
「わかった、わかったから」

するりと腕を離すと斎藤の表情はこそばゆそうに見えた。

「マスター、首都を出たとはいえ軍を再編される可能性もあります。可能な限り移動を続けましょう」
「うん、そうだね。みんな、まずはここから離れよう」

峰白は顔色を悪くさせながらも何度か頷きついてくる。あれだけシャンとしていた背筋が今は丸まっていた。
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