デフォルトはフラン
星の下に生まれる
名前
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結果的に言うと、フランは羅浮に残ることに決めた。想像とは違う展開に景元は目を見開いたが、とにかく養父として列車組には謝礼をしなければならない。金銭という形ではなく、食料、機械部品といった形だ。それらを手配した後、夜二十一時に景元が迎えに行くと連絡をした。
今までたくさん話をしてきたのになんと会話すればいいだろうか。それとも謝罪すべきだろうか。景元は初めてのことにずっと頭を悩ませていた。
フランが景元の元を離れていたのは経ったの二日。それなのに耳ざとい者はフランという目の上のタンコブが消えたことで縁談の話をチラつかせていた。悠長な生命ではあるがこの時に限って行動が早い。景元は青筋を隠しながら興味ない素振りをするのだった。
そうして午後、采配のため廻星港にいた。雲騎軍兵士の配置と警備の厳重化。それから貿易流通の会議。さらに予算提案の書類作成。フランのことで頭がいっぱいだと言うのに羅浮はそんなことお構いなしに仕事を作ってくる。そんな調子だったため心の余裕はいつもより少なかっただろう。
「フランお嬢さんはどこにいったんだろうな?」
「もともと短命種でいろいろ言われてるだろ?戻って来にくいよな」
「まぁ将軍の雪獅子以下だろ?下位互換じゃないか。大して戦えないし百年も生きられないんだ。いなくなった方が将軍のためになる」
何気ない会話。それが景元の逆鱗に触れた。本来避けるべき感情を迸らせた。
鉾を出し柄を地面へ突き、音を打ち鳴らす。地面が少しひび割れたために周囲は無音となった。
「……私のフランと、踏浪雪獅子を比べる者は誰だ」
丹恒が湖を分けたように、景元は人の波を分けてその先にいる一人の男を見つけた。近寄り、見下ろす。
「短命種だからと、戦えないからと、私のフランを蔑ろにするのは君か」
男は息もろくにできないまま腰を抜かした。景元は瞳孔を開かせたまま群衆に問う。
「私の娘を皆そう思っているのか。短命の戦えぬ、金喰い虫とでも思っているのか」
誰も返事はできなかった。というよりは景元の殺気がそうさせていない。一歩でも動けば殺す、そんな雰囲気を取り巻いている。
「忌まわしき星核の子であると、疑っているのか」
冷や汗すら流せない。ここだけ物理法則が変わったかのよう。無音から耳鳴りが始まることなどない。景元が許しているのは“存在”だけだ。
景元は無言でその場を離れる。向かったのは太卜司だ。よく符玄の意見を聞くため訪れるがいつもの雰囲気と全く違う。唾を飲み込んで将軍の背中を見送るだけだ。
「そんなに殺気立たせて一体何があったのですか」
「フランの噂話とやらの対処をする」
「はい?」
「大衍窮観の陣で占いを行ってほしい」
符玄も開いた口が塞がらない。羅浮は滅多に怒らない…というか怒ったことのない将軍が怒っているとして一瞬で多くの人々に話が広まった。まさに景元の怒りは天変地異にも等しい。この騒ぎはもちろん星穹列車にも届き、景元がなぜか怒っていることだけ知ることになった。
「景元さんが怒るなんて……!絶対なにか変なもの拾い食いしたんだ……!」
「そこ!?っていうかどうする?私たちが関わって良いものかわからないし…」
なのかが悩んでいる間、フランは列車を出た。ひとまず太卜司に行けば符玄が何かしら教えてくれるだろうと思ったのだ。慌てて星も後から追いかける。
「フラン!」
「ご、ごめんなさい、でももう戻るつもりだったから…!あとで皆さんにちゃんとお礼をするので!」
「それはいいけど、こんな騒ぎの中出るのは危険じゃ…」
案の定フランを見ると、噂のことを言う者が多数いた。星核の子!早く出ていけ!と叫ばれる始末。しかしそんなことどうでも良いようで一瞥することもなく太卜司へ辿り着いた。
そこには景元将軍が自ら大衍窮観の陣に自身とシン=コウキに関する情報を設置している姿があった。フランも星も目が点になる。すぐさま説明を求めるために符玄を見るが首を横に振った。
「覚悟した方がよくてよ、フラン様」
「はい?」
「未だかつてないほど、貴方のために怒り狂っているのだから」
その怒りに規則、道徳、道理を説いても無駄だった。符玄は折れて陣発動のため歩き出す。陣の中心には静かに景元が佇んでいた。
「では将軍、参ります」
陣が幾つも浮かび上がる。情報の収集計測測定。複雑なプログラムのもと堂々たる事実を仙舟「羅浮」の全域に公開した。
──他ならぬ貴方が来るのだから、楽しく、明るく、笑い転げるくらいの宴を約束します
── 初めまして、シン=コウキの王、フランです
── 惑星の破壊です
── この惑星全てが私の敵です
── 景元将軍なら来てくれるのではないかと……この星と宿命を、壊してくれると、思いました
── 星と同じ運命を歩みます。
── 私の、存在意義は、この爆発の後消えます。どう生きろと言うのですか
展開される情報と共に記憶の断片流れる。初めて景元と出会った日、ようやく解放されると思った。その胸の高鳴りと肩の荷が降りていく感覚。それが今もう一度再来していた。
── ようこそ、我らが舟へ
フランは星核によって生み出されたシン=コウキのクローンであることが公開された。そしてシン=コウキは修復不可能なほど星核に汚染されて破壊するしかなかったことも。
「羅浮に生きる民がどのような考えをもっていても構わない。しかし、私の前でフランの名を口にする時は気をつけた方がいい。愛する者の侮辱を見過ごせるほどできた人間ではないのだから」
「脅し……」
フランでさえもドン引きしている。もちろん符玄もだ。景元はフランの侮辱は許さないと、事実上布告した。たとえその布告がフランの父親としてであっても、それよりも将軍としての肩書きが大きいのだから。
どこか羅浮全体が静まり返ったような気がした。静寂の中、景元は符玄に礼を言う。
「ありがとう、すっきりしたよ」
「大衍窮観の陣はデトックス器具ではありませんが?」
今はもう符玄の怒りの方が大きい。肩をすくめて景元も下手に出ているくらいだ。だが太卜司に駆けつけたフランと星を見やった。
「すまなかったね、事前の相談無しに公表してしまって」
「い…いえ…」
「……初めから、こうしておけばよかったかな。そうすれば少なくともフラン王はずっと……自由だったかもしれない」
まるで自分が鳥籠に閉じ込めていたかのような口ぶりだ。フランは景元が親として十分すぎるほど手厚く養育されたことを知っている。忙しい合間をぬって勉強を見てくれたこともあった。なぜか次から次へと思い出が蘇りフランは涙を流した。
景元はギョッと驚くがいつものように抱きしめることもできない。せめてオロオロ感を出さないよう直立不動を維持している。
そんな景元に星が撫でるジェスチャーをした。アイコンタクトでやり取りを続ける。
──撫でろ
──でもフランは
──いいからやれ
──余計泣いたらどうするんだ
──嫌われてもいいって昨日自分で言ったじゃん
結局目力に根負けして背中を軽く撫でた。するとフランは景元の胸元に頭を預けるからそのまま頭も撫でてやった。
「フラン、もう目が真っ赤に腫れている。泣くのはやめなさい」
優しく頬を指の背で撫でる。昔から変わらない泣き顔にほっとした。しかし遠慮がちにじっと見上げて来たのだ。フランの涙を拭えるのは景元の特権だったが故に手が止まる。
「……先に、屋敷に戻る」
「あ、ああ」
星には、また後日礼に伺うと言ってその場を離れた。
「何とかなりそうだね」
「気楽に言ってくれるな……だがありがとう、感謝するよ」
「将軍それよりも始末書を書いていただけますか〜〜!?」
こんな日でも書類の作成は続くらしい。だが胸のつかえが取れたおかげですぐに書き上げることができた。
翌日、早速景元とフランは改めて星穹列車へ礼をしに行った。列車の皆に挨拶しながらフランは食べたことのないレシピ、特殊な調理法があると喜んで教えていた。景元は嬉しそうにその話を熱心に聞いている。
「仲がこじれるかもって聞いたけど、そうでもなさそう…?」
「うん、大丈夫だと想う」
熱心にパムの可愛さを説明していても景元の表情は柔らかくなる一方だ。
「まぁ何かあったらまた星穹列車で匿えばいいんだし」
「適当じゃん!」
なのかのツッコミにはあえてスルーしつつ二人を眺めていた。
◆
理由があったわけでもない。ただフランは景元の部屋の前にいた。入ろうか入らまいか悩んでいる途中で扉が開かれる。
「何かあったかな?」
「あ…えと……」
枕を握る手に力が込められる。微笑んで扉をあけた。
「眠たくなるまで話そう」
扉は開けたまま。フランがいつでも逃げられるようにとの気遣いが見えた。椅子に腰掛けるが何を話せばいいかわからない。
「フラン、私に気を使う必要はない。成人するまでの金銭的補助をする者と思っていればいい」
昼間はあんなに話していたのに二人きりになるとこうだ。暗い話しかできない。景元もこんな空気はうんざりしていた。
「そして、書面上での親子関係が無くなってもフランが助けを求めるならそれに応じるつもりだ。羅浮にいても、他の星に向かってもそれは変わらない」
微笑みを作って安心させてやる。一方でフランは不安そうに眉を下げている。
「正直、私自身、私のことよく分かってなくて…だから的外れなこと言うかもしれないし、うまく伝わらないかもしれないけど……」
対に座る景元は優しい表情のまま耳を傾けた。言葉にならない感情を少しでも受け止めるために。
「今まで羅浮から出て行きたいと思っていたし、今もそうだけど……でも出ていけなかったのは、多分……この家が、いいから」
フランから目を合わせることはできない。気持ちの整理に集中していることと気恥ずかしさで俯いている。
「だから、ええと…本当は戻ることにすごく怖かった。私の居場所はここしかないって。本当の意味で味方も居なくなったって勝手に思ってたかも。でも、大衍窮観の陣でほんとのことを言って…怒ってくれて…将軍の立場からすれば良くないことで問題がいっぱい起こるかもしれないけど、すごく嬉しかった」
景元は胸が熱くなる。だがこれもフランから隠し通さなければならない。
「私……もう少しがんばる。自立して、生きていけるようになったら……その時景元さんの気持ちも考えてみる」
肘掛けに腕を預けながら口元を隠した。フランにとっては何気ない仕草だが景元にとってはわかりやすい動揺の現れだ。やはりフランはどう足掻いても好ましく見える存在であり敬意を表するに値する。景元の予想と反する行動に心臓をかき乱されてはその動向を好奇心を持って見つめ、追いかけてしまう。
複雑な愛情がもつれあってどこが親愛でどこが異性愛なのかわからないくらい、今はフランの誠実な想いに浮かれていた。
「ありがとうフラン。そう言ってくれて…とても嬉しいよ」
席を立ち、フランの前に片膝をついた。
「親子関係である以上私は絶対にフランを怖がらせるようなことはしない。もし私が過ちを犯したらその時は遠慮なく殴ってくれ」
「う、うん」
「それから……この先どんなことがあっても、君が健やかに生きてくれていればそれが私の喜びだ。それだけは、覚えていてほしい」
小さく、ありがとうと言ってフランはせっかく持って来た枕を抱きしめて部屋を出た。薄暗い廊下を歩く背中を見送りながら告げる。
「おやすみ、フラン」
「おやすみ…」
