デフォルトはフラン
星の下に生まれる
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胸踊るはずの星穹列車の乗車。しかし今は正反対の心情を抱えていた。大きなソファー、ボードゲーム、みたことのない機材。興味深く思う気持ちが相殺されている。
「フランちゃん!え?何かあったの?」
「それなりにな。星、任せても良いか」
丹恒は早速なのかを連れて別車両へと向かった。適切な説明をしてくれるだろうと信じて星はソファーへ腰掛けるよう勧める。気を利かせたヴェルトもまた姫子に事情を説明するため離れるが、唯一何も知らない車掌が目を開かせていた。
「なんじゃ!?新しい乗客か!?」
「!?」
フランは見たこともない生物…この星穹列車の車掌であるパムを見て驚いていた。
「しゃべった!?」
「わしはこの星穹列車の車掌じゃ!喋らなければ仕事も満足にできんからな!」
「星穹列車の車掌、パムだよ。パム、こっちはちょっと事情があって星穹列車にやってきたフラン。羅浮の景元将軍の娘なんだ」
端的な説明にパムは力強く頷いた。客としてやってきた新顔に嬉しそうに笑う。
「またヴェルトに話を聞こう。なにやら深い事情があるようじゃ…ルールを守ってくつろぐといい!」
「あ、はい…ありがとうございます」
ぽてぽてとした足音を立てながら離れる。その後ろ姿をじっと見つめては先ほどまで薄暗かった瞳を輝かせていた。
「パムが気になる?」
「はっ!その……動物は好きで……パムさんは初めて見たから、すごくかわいいなぁって……」
「パムはああいう態度だけど優しいから、また話しかけてあげると喜ぶと思うよ」
フランはようやく笑った。肩の力も少し抜けたように見える。しばらくは景元将軍の話題を避けながら、列車の話、今までの旅の話をしながらフランの精神的負担を減らすよう尽力した。
一時間も話すとフランは年相応に笑顔を振りまき、星の話に喜んで食いついた。しかしフラン自信そうはいかないと思ったのだろう。指先をいじって戸惑いながらも話題を切り出した。
「あの……ありがとうございます。列車に連れてきてくれて」
「余計なお世話じゃなかった?」
「そんなことないです。私、あのまま景元さんと一緒にいたら……どうしてたかわからないです。なので、このまま列車の皆さんのご厚意に甘えているだけじゃダメだと思います。それに、セイチュウの言っていた景元さんの心情も…本当かどうか意見を聞きたいので…これまでのこと、話そうと思います」
無理に言うことはない、と落ち着かせるが事情を知らないとアイデアも提案もできない。フランの決意に甘えて過去を知ることにした。
「……あの、列車の方全員に伝えた方が、誠意として十分でしょうか」
「全員に言うことない。もし説明が必要だったらかいつまんで伝えておくから安心して」
「あ、ありがとうございます…正直、こういった身内のことを言うのは…ショックと、恥ずかしさがあったので」
初めてのことでいまだに自分の心の整理もつかないだろう。何を信じて良いかわからないはずだ。だからこそ星は、自分だけは誠実でいようと心に決めて身を乗り出した。
フランは初めは言葉にすることが億劫のようだったが次第に流暢に説明をしていた。惑星が星核によって擬似的支配を受けたこと。その星を、人もろとも破壊し、景元将軍と跡形もなく消し去ったこと。そしてセイチュウの言う通り、フランは星核の力で生まれたクローンである事実も肯定した。
「………私は…景元さんと、家族という形態ではないにせよそれに準ずる何かだと思っていました。景元さんは私を親愛の意味で愛してくれていると……でも、セイチュウのあの能力はある程度信憑性があります。昨日、私に接触してきた時全て思っていることを言い当てられたんです」
「うん、私も雲騎軍に通報しなかったことを見抜かれた。やっぱり……言いづらいけど」
おそらくセイチュウの言っていたことは真実に近い。フランは頭を抑えてまた顔色を悪くさせた。
「フラン、まずは休んで、何か食べて気力をつけた後に一緒に考えよう。今の状態で無理やり答えを見つけることはできないよ」
「はい…星さんの言う通りですね…」
「よかったら私の部屋を使って。お風呂もついてるから入っている間に食事を用意するよ」
疲れ切った顔のまま、フランは手伝うと申し出たが今の彼女はただの客。無理に働かせるために連れてきたわけではないし、むしろ無理やり連れてきたのは星なのだから存分に休んで欲しい気持ちが強い。問答無用で客室車両を抜けて星の部屋へ案内する。ベッドやいろんな家具が置かれているのはわかるが同室に存在する浴場を見て固まっていた。
「着替えは私のを使って。新しい歯ブラシもあるから。あとこっちはシャンプー、コンディショナー、ボディソープ。もし欲しいものがあればパムに在庫がないか確認してくるよ」
「十分です……大きなお風呂ですね……」
「入浴剤もあるよ」
香り、種類、効能を説明すると興味深そうに真剣に耳を傾ける。いつもシャワーで済ませることが多いため入浴剤というものがあるとは知らなかったそうだ。
「じゃあ初めてだし、万人受けするバラの香りをいれるね」
「はい、ありがとうございます」
「時間は気にしないでいいから、ゆっくり入って」
そう言って星は部屋を出た。そのまま夕飯の担当としてキッチンに立つつもりなのだが、列車組全員がパーティ車両に集合していた。
「フランはお風呂に入ってる。お腹も空いてるみたいだし、今のうちに夕飯を作ってあげようと思うんだけど……」
「フランちゃんのことは聞いたわ。私もフランちゃんが落ち着くまで列車にいてくれても構わないわよ」
フランの乗車・滞在について肯定する姫子に、星はなんだかバツが悪くなった。勢いであんなことを言って皆の意見を聞かないまま連れてきたことを謝ると首を横に振る。
「彼女はまだ子どもよ。それに保護するのは当たり前だしナナシビトの精神であれはむしろ模範的だわ。私がその場にいたら同じことを言っていたでしょうね」
ひと足先にフランの過去を知ったせいか、姫子の受け入れる姿勢に胸を撫で下ろした。そしてフランの過去を列車の皆に伝えるには心情の整理が追いつかないことと、身内の問題なだけあって収まりが悪い旨を周知した。星が思っていた通り皆同じく「全て言う必要はない」という意見だ。ただナナシビトができるのはフランの一時的な保護であること。そして助けを求められたら駆け寄ること。悲しくもフランを立ち上がらせるほどの庇護力はないがそれでも全員がフランに協力的であった。
「お風呂使わせていただきました」
螺旋階段から降りてきたフランに列車のメンバーは笑顔で迎える。お客が来たと喜んであれこれ食事を出した。もちろんフランが知っている料理もあるが、他の世界、遠い惑星、未だ踏み入れていない有名な街、それらで手に入れたレシピからなるご馳走だった。
「こ、こんなにいいもの、食べてもいいんですか?」
テーブルいっぱいに広げられた品々に目を輝かせながらも怖気付く。フランは羅浮の中でも上流階級ではあるが人目につくことを避けて外食は避けていたし、使用人がいない時は見よう見まねで自炊することもあった。なので初対面であってもこれほどまでに良い待遇をしてくれることに驚きが隠せない。
「もちろんよ。あんたのためにヴェルトと丹恒、星が腕を振るったんだから」
「そーそー!それにフランちゃんがいてくれないと全部食べきれないよ!」
一時間前まではあんなに顔色が悪かったのに、談話し和やかに食事を進めると血色が良くなっていった。特にパムの存在が気になっていたようであれこれ質問攻めしては時折かわいいと呟く。とにかく目に見えて気力も回復を見せた。
ゆったりと時間が流れていた気がするが実際はあっという間に夜更けになる。全員で片付けまで終わらせて二十一時にはそれぞれ解散となった。フランは星と一緒に部屋に入り広々としたソファーに座ってアルバムをめくっていた。
「これは私が最初に開拓した星、ヤリーロ=Ⅵ。すごく寒くて、でもそこに生きる人たちはとても力強かった」
「こんなに真っ白な景色があるなんて……すごくキレイ……これは雪?ですか?」
「そう、水分が寒さで結晶化して空から降ってくる」
「すごい、星全体がかき氷みたい」
次のページをめくると羅浮での写真が収められていた。手が止まり、じっと見つめる。先ほどの写真と打って変わって、星が撮った写真がどの区画のどの通りなのか情報が全て頭に浮かぶ。
「……景元さんに…あんまり会いたくない」
「……」
フランの気持ちを否定できない。星は黙って耳を傾けた。
「私のことを、ずっと愛娘だって言ってたのに……本当は、違ったんだ……」
肩を撫でて寄り添う。瞳には涙が纏う。ようやく泣くことで気持ちを消化し始めていた。
「怖くて、きけない……どうしよう」
「その気持ちは、おかしなことじゃない。急な変化で驚いただろうし、景元からじゃなく暗殺目的の他人から言われたんだから不安になるのは当然のことだよ」
「でも、ずっと、星穹列車に甘えてるわけにはいかないと思うんです。だって、私には、やらなきゃいけない仕事とか、いっぱい……」
嗚咽をこぼして必死に言葉を繋げる様子は星の心を打つに十分だ。欲情を含んでいた愛だった事実は限りなく近い真実で、フランは否応にも不安と恐怖を抱いている。一方景元もまたフランを怖がらせていることに心を痛めているだろう。本物の家族ではないと言えど同じ屋根の下で暮らした期間は誰よりも長い。故にフランが今泣いていることも知っているはずだ。もしかすれば景元は一生ひた隠すつもりだったのかもしれない。
「どうしよう……帰りたくない……怖いよ…」
「フラン、もし良ければ今フランが思っていることを景元に伝える」
「でも、でも…」
「このまま放っておいたり見て見ぬフリをしていたらお互い後悔する。少しでも意思疎通をしたほうがいいんじゃないかって思う」
不安そうに震える手を優しく握った。
「もしそれでもこじれて関係が修復できないなら、星穹列車にいればいい。最終的にフランが決めることだけどそういう選択肢があることも覚えておいて」
涙を自分で拭いながら頷く。そして星を見ながら問うた。
「どうして、そんなに親身になってくれるんですか?」
はっと我にかえる。星はうっかり自分の出生を明らかにし忘れていた。改めて星穹列車に乗ったきっかけを話すと今までの中でも一番大きなリアクションをとった。
「星核が!?中に入ってるんですか!?それ体調は大丈夫なんですか!?」
「うん、なんともないよ」
フランほど星核の恐ろしさを知っている者はそうそういないだろう。しかし星はそのリアクションが少し面白く思えて口元を覆った。
「とにかく、私はフランが星核が原因で生まれたと知って妙に親近感が湧いているんだ。状況も全部違うけど……」
「……ありがとうございます。教えてくださって」
「そろそろ寝よう。もう就寝の時間になる。パムに怒られちゃうよ」
フランは星にすっかり懐いていた。似たような身長であり知識も大人と同等だろう。羅浮で差別を受けながら必死に足掻いてきたフランは多少報われたっていいという想いから星は寄り添う。広いベッドで二人横になり眠りについた。
翌日もフランは列車の中にいた。泊めてもらったからという理由でパムと一緒に車両の掃除をしている。その間、星は景元のもとへ向かっていた。羅浮の長楽天へいくと多くの人々はフランの噂で持ちきりになっていた。わざわざ星が聞かずとも皆口にする。フランは星核から生まれたと。
神策府にはこの民衆の噂に躍起になることはないが頭を痛めていることも事実。現に神策府にいるはずのない符玄が景元の目の前で頭を押さえていた。
「暗殺者の口は塞いでいるのになぜフラン様の噂が絶えないんだか…どうするおつもりですか?景元将軍?」
「どうもこうも、フラン個人に対する言葉に将軍である私はどうすることもない。暴動を起こすわけでもなし、好きに噂させていればいい」
まるで諦めのような声。景元は背中を向けたまま語っていた。
「景元」
だが星の声に振り返る。符玄は星をみて一言、苦言を呈した。
「将軍の娘を列車に迎え入れたことに関して、双方の同盟に亀裂が入るとは思わなかったのかしら」
「あの時はそんな余裕なかった。それより景元に話したいことがある」
珍しく神妙な顔つきで景元が星に近づいた。
「もちろんだ。私も話したいことがある。すまないがご覧の通りごたごたしている。夕方また私の屋敷に来てくれるかな」
「わかった。じゃあまた」
さっくりと返事をして星は去ろうとする。しかし景元は一つ声をかけて引き留めた。半身を返して言葉を待つが、珍しく景元は言葉を慎重に選んでいるようだ。数秒の後、いつもの声音で尋ねる。
「フランは…元気にしているかな」
「うん。元気だよ」
「そうか…それなら、いいんだ」
前髪で表情は見えないが、ただそれだけ言って景元もまた背を向けた。
長楽天のどこにいてもフランのあることないこと噂が絶えない。羅浮の星核問題が起こったばかりだからこそここまで話題になっている。暗殺者はなんとも良いタイミングでこの事件を引き起こしたものだ。
適当に時間を潰し、羅浮を照らす天候事象は夕日を示し始めた。姫子にフランの様子は変わっていないかメッセージを送り返信を待つ。すると二人とパムが映った写真が送られてきた。小さく笑ってスタンプを送った後、景元の屋敷へ向かった。
風情のある屋敷に落ち葉があったとて様になるだけ。円型の門戸をくぐると使用人が恭しく頭を下げた。
「こんにちは。将軍と話をしたくて来たのだけれど」
「お話は伺っております。景元様がお帰りになるまでくつろぎください」
板張りの廊下を歩き通された客間。庭が見えて見事な景観だ。庭に見惚れる星をよそに使用人は茶菓子を用意する。
「私は部屋の外に控えております。何かご用がございましたらいつでも声をかけてください」
「ありがとう」
この庭を、景元とフランは共に眺めていたのだろう。枝から葉が落ちるように、星は二人の関係が分たれて当然のように思えてならない。フランにとって羅浮は辛く厳しい世界だ。
廊下から足音が聞こえる。椅子から立ち上がると景元がやってきた。仕事終わりにフランのことを話すのだから気は休まらないだろう。
「待たせてしまってすまないね」
「いいや、庭が綺麗でずっと見てた。時間は気にならなかった」
「ああ、そうか……なら縁側で話そう。お互いそっちの方がいいだろう?」
景元の気遣いに頷き、二人で縁側に腰掛ける。おもむろに話し始めたのはやはり景元からだった。
「フランも気に入っていたんだ。この庭を。いつも庭が綺麗だから、庭師の腕がいいんだって褒めていたよ」
「景元、私はどっちの肩を持つとかそういうつもりで来たわけじゃないのはわかってほしい。ただ……放っておけなかっただけ」
ようやく緩く笑った。そうして目を閉じる。何かを考えているのかしばらく沈黙が続き、再び口を開いた。
「フランが褒めていた庭師が情報を流していた。フランが外来生物の特定をしていたことも筒抜けだったというわけだ」
「どうして庭師が」
「短命種は軽く見積もられる。それが故意であろうとなかろうと。庭師は意図して情報を流したんじゃない。この程度、どうってことない、という無意識の浅慮が情報流出に繋がった」
膝に置かれた手がそれぞれ拳を作る。顔色は変えずに悔しさを滲ませた。
「短命種への偏見は私自身対処しているつもりだが、当人が気付けない領域を私の手で改善することは甚だむずかしい。羅浮は…いや、仙舟はフランとって生き地獄に他ならない」
どこに行こうと仙舟であるかぎり景元の娘という肩書きだけはしつこくついて回るし短命種のレッテルは常に存在するだろう。景元はもう将軍という立場ではフランを守ることはできないと悟っていた。
「だがフランは負けず嫌いで真面目な性格だ。どんなに言われようと報われずとも正面からぶつかっていく気概がある。私はその姿が痛々しくて見ていられない」
「なら手放せばいいのに」
「そうできないことは知っているだろう?」
「それは状況がそうさせないんじゃなくて景元がそうしたくないだけでしょ?」
乾いた声で笑った。空は日が落ちてアザのような色をしている。
「ああ……そうだね……」
「セイチュウが言ってた。将軍はフランに欲情している、と。それは本当?」
返答はなかった。最後のプライドとして返事はできなかった。だからこそ無言が肯定となる。
「フランは、景元と過ごした時間は大切に思ってる。けど互いの愛情にギャップがあって苦しんでる。それだけは伝えておきたいと思って来たの」
「そうか」
背を正し星を見る。将軍というよりは一人の父としてそこにあるようだ。
「君たちの開拓の旅を邪魔するわけにはいかない。フランにはまず羅浮に戻るよう伝えてくれないか。もし、戻りたくないと言ったら……その時は、どうかフランも星穹列車に乗せてほしい」
「……私はそれでも構わない。でも景元はいいの?」
「当たり前だろう?この広い宇宙を……広大な自由をようやく……フランは手に入れることができる。羅浮に…私の元にいるよりずっと良い」
良くねーじゃん。という言葉は飲み干した。喉まで出かかったが堪えて、景元の目をじっと見つめる。
「フランには厳しい選択を迫ってしまうだろう。だが第三者を巻き込んでいる時点で時間の制限は付きものだ。フランもそのことは十分わかっている。返答は明日、日付を越える前までに頼むよ」
「その前に一つ聞きたいことがある」
星は一応確認として必要なこととして最初から聞いておこうと思っていたのだ。
「フランに手出す予定?」
「…………」
ひく、と歪に口角が上がった。心なしか眉間の皺も深い。
「景元の話をきいてると、全部フランのことばかりで景元がどうしたいか言ってない。私は今中立だって言ったはずだけど」
珍しく景元は額を抑えた。やはり何か考えている。言葉が出るまでじっと待っていたがついに溢れたのは深いため息。
「フランのことになるとうまく言葉が出てこない。せっかく丸め込もうとしたのに……やっぱり君は侮れないね」
ドヤ顔で胸を張る。その様子がおかしくて笑っていた。それから緊張が解けたのか縁側に両手をついて空を見上げる。
「シン=コウキが星核によって模倣された惑星と変化したのは知っているだろう。私はそれよりも前に初代フラン王と会ったことがある。その時はなんとも思っていなかったが、今思えば……惹かれていたんだろうね」
仙舟人は感情の気付きすらのんびりしているのか、はたまた景元は長生きして感情の発露に鈍くなってしまっているのか。どちらにせよ、模倣惑星となった時点で後の祭りだ。
「今のフランと重ねているわけではないんだ。同じ遺伝子、初代フラン王の経験情報があるとはいえ、過程が違う。初代と今とじゃ似ているのは外見くらいかな」
「じゃあ手を出すんだ」
「まさか!一度は父になるといったんだ。それを違えることはない。成人と同時に書面上の親子関係は解消する予定であったけど、この想いはずっと隠しておこうと思っていたよ」
「でも、一緒にいたいんだ?」
星の単純かつ明確な図星にまた言葉を失う。
「一応フランに言っておく」
「…………正気かな?」
「だってフランの気持ちも言ったんだから、景元の気持ちも言っておかないとフェアじゃない」
「公平かどうかはともかく、私は今フランの養父という立場だ。フランを庇護することが義務でもある。フランを怖がらせるようなことは言わないでくれ」
「今更じゃない?フランも景元のことは気づいている。それに逆に隠しているほうがフランにとって不利だよ。もしフランが残ることを選んで問題が起こった時、少なくともフランは景元を言い訳にできる」
つまり「景元が一緒にいたいと言ったから残っただけで本当は残りたくなかったから離れます」という最終手段のカードをフランの手元に残せるのだ。責任感が強く、思い詰めるフランが「自分の意思で決めたから何が起こっても残らないといけない」という理念のもと羅浮で酷い目に遭った時、そこに逃げ道はないのだ。
「……いい勉強になったよ。これは皮肉ではなく本心だ」
「どうも」
ぺこ、とお互い頭を下げてみせる。
「とにかく話は持ち帰るけど、それでフランがどう思うかはわからないしもしかしたら嫌われるかも」
「嫌われても構わない。私はフランが健やかに生きているだけで幸せなんだ」
もし遠くへ行ってしまっても、暗い宇宙で光る星が見えたらフランを想うことはできる。たったそれだけで満たされるのだ。
星は帰って行った。フランはきっと戻ってこないだろう。最後に一緒に寝たのはいつだったか覚えていない。景元は広い寝具に腰掛けてフランがいた場所を撫でる。
「フラン、どうか………生きてくれているだけでいい」
言い聞かせるように呟き、その場所に額を当てた。
「フランちゃん!え?何かあったの?」
「それなりにな。星、任せても良いか」
丹恒は早速なのかを連れて別車両へと向かった。適切な説明をしてくれるだろうと信じて星はソファーへ腰掛けるよう勧める。気を利かせたヴェルトもまた姫子に事情を説明するため離れるが、唯一何も知らない車掌が目を開かせていた。
「なんじゃ!?新しい乗客か!?」
「!?」
フランは見たこともない生物…この星穹列車の車掌であるパムを見て驚いていた。
「しゃべった!?」
「わしはこの星穹列車の車掌じゃ!喋らなければ仕事も満足にできんからな!」
「星穹列車の車掌、パムだよ。パム、こっちはちょっと事情があって星穹列車にやってきたフラン。羅浮の景元将軍の娘なんだ」
端的な説明にパムは力強く頷いた。客としてやってきた新顔に嬉しそうに笑う。
「またヴェルトに話を聞こう。なにやら深い事情があるようじゃ…ルールを守ってくつろぐといい!」
「あ、はい…ありがとうございます」
ぽてぽてとした足音を立てながら離れる。その後ろ姿をじっと見つめては先ほどまで薄暗かった瞳を輝かせていた。
「パムが気になる?」
「はっ!その……動物は好きで……パムさんは初めて見たから、すごくかわいいなぁって……」
「パムはああいう態度だけど優しいから、また話しかけてあげると喜ぶと思うよ」
フランはようやく笑った。肩の力も少し抜けたように見える。しばらくは景元将軍の話題を避けながら、列車の話、今までの旅の話をしながらフランの精神的負担を減らすよう尽力した。
一時間も話すとフランは年相応に笑顔を振りまき、星の話に喜んで食いついた。しかしフラン自信そうはいかないと思ったのだろう。指先をいじって戸惑いながらも話題を切り出した。
「あの……ありがとうございます。列車に連れてきてくれて」
「余計なお世話じゃなかった?」
「そんなことないです。私、あのまま景元さんと一緒にいたら……どうしてたかわからないです。なので、このまま列車の皆さんのご厚意に甘えているだけじゃダメだと思います。それに、セイチュウの言っていた景元さんの心情も…本当かどうか意見を聞きたいので…これまでのこと、話そうと思います」
無理に言うことはない、と落ち着かせるが事情を知らないとアイデアも提案もできない。フランの決意に甘えて過去を知ることにした。
「……あの、列車の方全員に伝えた方が、誠意として十分でしょうか」
「全員に言うことない。もし説明が必要だったらかいつまんで伝えておくから安心して」
「あ、ありがとうございます…正直、こういった身内のことを言うのは…ショックと、恥ずかしさがあったので」
初めてのことでいまだに自分の心の整理もつかないだろう。何を信じて良いかわからないはずだ。だからこそ星は、自分だけは誠実でいようと心に決めて身を乗り出した。
フランは初めは言葉にすることが億劫のようだったが次第に流暢に説明をしていた。惑星が星核によって擬似的支配を受けたこと。その星を、人もろとも破壊し、景元将軍と跡形もなく消し去ったこと。そしてセイチュウの言う通り、フランは星核の力で生まれたクローンである事実も肯定した。
「………私は…景元さんと、家族という形態ではないにせよそれに準ずる何かだと思っていました。景元さんは私を親愛の意味で愛してくれていると……でも、セイチュウのあの能力はある程度信憑性があります。昨日、私に接触してきた時全て思っていることを言い当てられたんです」
「うん、私も雲騎軍に通報しなかったことを見抜かれた。やっぱり……言いづらいけど」
おそらくセイチュウの言っていたことは真実に近い。フランは頭を抑えてまた顔色を悪くさせた。
「フラン、まずは休んで、何か食べて気力をつけた後に一緒に考えよう。今の状態で無理やり答えを見つけることはできないよ」
「はい…星さんの言う通りですね…」
「よかったら私の部屋を使って。お風呂もついてるから入っている間に食事を用意するよ」
疲れ切った顔のまま、フランは手伝うと申し出たが今の彼女はただの客。無理に働かせるために連れてきたわけではないし、むしろ無理やり連れてきたのは星なのだから存分に休んで欲しい気持ちが強い。問答無用で客室車両を抜けて星の部屋へ案内する。ベッドやいろんな家具が置かれているのはわかるが同室に存在する浴場を見て固まっていた。
「着替えは私のを使って。新しい歯ブラシもあるから。あとこっちはシャンプー、コンディショナー、ボディソープ。もし欲しいものがあればパムに在庫がないか確認してくるよ」
「十分です……大きなお風呂ですね……」
「入浴剤もあるよ」
香り、種類、効能を説明すると興味深そうに真剣に耳を傾ける。いつもシャワーで済ませることが多いため入浴剤というものがあるとは知らなかったそうだ。
「じゃあ初めてだし、万人受けするバラの香りをいれるね」
「はい、ありがとうございます」
「時間は気にしないでいいから、ゆっくり入って」
そう言って星は部屋を出た。そのまま夕飯の担当としてキッチンに立つつもりなのだが、列車組全員がパーティ車両に集合していた。
「フランはお風呂に入ってる。お腹も空いてるみたいだし、今のうちに夕飯を作ってあげようと思うんだけど……」
「フランちゃんのことは聞いたわ。私もフランちゃんが落ち着くまで列車にいてくれても構わないわよ」
フランの乗車・滞在について肯定する姫子に、星はなんだかバツが悪くなった。勢いであんなことを言って皆の意見を聞かないまま連れてきたことを謝ると首を横に振る。
「彼女はまだ子どもよ。それに保護するのは当たり前だしナナシビトの精神であれはむしろ模範的だわ。私がその場にいたら同じことを言っていたでしょうね」
ひと足先にフランの過去を知ったせいか、姫子の受け入れる姿勢に胸を撫で下ろした。そしてフランの過去を列車の皆に伝えるには心情の整理が追いつかないことと、身内の問題なだけあって収まりが悪い旨を周知した。星が思っていた通り皆同じく「全て言う必要はない」という意見だ。ただナナシビトができるのはフランの一時的な保護であること。そして助けを求められたら駆け寄ること。悲しくもフランを立ち上がらせるほどの庇護力はないがそれでも全員がフランに協力的であった。
「お風呂使わせていただきました」
螺旋階段から降りてきたフランに列車のメンバーは笑顔で迎える。お客が来たと喜んであれこれ食事を出した。もちろんフランが知っている料理もあるが、他の世界、遠い惑星、未だ踏み入れていない有名な街、それらで手に入れたレシピからなるご馳走だった。
「こ、こんなにいいもの、食べてもいいんですか?」
テーブルいっぱいに広げられた品々に目を輝かせながらも怖気付く。フランは羅浮の中でも上流階級ではあるが人目につくことを避けて外食は避けていたし、使用人がいない時は見よう見まねで自炊することもあった。なので初対面であってもこれほどまでに良い待遇をしてくれることに驚きが隠せない。
「もちろんよ。あんたのためにヴェルトと丹恒、星が腕を振るったんだから」
「そーそー!それにフランちゃんがいてくれないと全部食べきれないよ!」
一時間前まではあんなに顔色が悪かったのに、談話し和やかに食事を進めると血色が良くなっていった。特にパムの存在が気になっていたようであれこれ質問攻めしては時折かわいいと呟く。とにかく目に見えて気力も回復を見せた。
ゆったりと時間が流れていた気がするが実際はあっという間に夜更けになる。全員で片付けまで終わらせて二十一時にはそれぞれ解散となった。フランは星と一緒に部屋に入り広々としたソファーに座ってアルバムをめくっていた。
「これは私が最初に開拓した星、ヤリーロ=Ⅵ。すごく寒くて、でもそこに生きる人たちはとても力強かった」
「こんなに真っ白な景色があるなんて……すごくキレイ……これは雪?ですか?」
「そう、水分が寒さで結晶化して空から降ってくる」
「すごい、星全体がかき氷みたい」
次のページをめくると羅浮での写真が収められていた。手が止まり、じっと見つめる。先ほどの写真と打って変わって、星が撮った写真がどの区画のどの通りなのか情報が全て頭に浮かぶ。
「……景元さんに…あんまり会いたくない」
「……」
フランの気持ちを否定できない。星は黙って耳を傾けた。
「私のことを、ずっと愛娘だって言ってたのに……本当は、違ったんだ……」
肩を撫でて寄り添う。瞳には涙が纏う。ようやく泣くことで気持ちを消化し始めていた。
「怖くて、きけない……どうしよう」
「その気持ちは、おかしなことじゃない。急な変化で驚いただろうし、景元からじゃなく暗殺目的の他人から言われたんだから不安になるのは当然のことだよ」
「でも、ずっと、星穹列車に甘えてるわけにはいかないと思うんです。だって、私には、やらなきゃいけない仕事とか、いっぱい……」
嗚咽をこぼして必死に言葉を繋げる様子は星の心を打つに十分だ。欲情を含んでいた愛だった事実は限りなく近い真実で、フランは否応にも不安と恐怖を抱いている。一方景元もまたフランを怖がらせていることに心を痛めているだろう。本物の家族ではないと言えど同じ屋根の下で暮らした期間は誰よりも長い。故にフランが今泣いていることも知っているはずだ。もしかすれば景元は一生ひた隠すつもりだったのかもしれない。
「どうしよう……帰りたくない……怖いよ…」
「フラン、もし良ければ今フランが思っていることを景元に伝える」
「でも、でも…」
「このまま放っておいたり見て見ぬフリをしていたらお互い後悔する。少しでも意思疎通をしたほうがいいんじゃないかって思う」
不安そうに震える手を優しく握った。
「もしそれでもこじれて関係が修復できないなら、星穹列車にいればいい。最終的にフランが決めることだけどそういう選択肢があることも覚えておいて」
涙を自分で拭いながら頷く。そして星を見ながら問うた。
「どうして、そんなに親身になってくれるんですか?」
はっと我にかえる。星はうっかり自分の出生を明らかにし忘れていた。改めて星穹列車に乗ったきっかけを話すと今までの中でも一番大きなリアクションをとった。
「星核が!?中に入ってるんですか!?それ体調は大丈夫なんですか!?」
「うん、なんともないよ」
フランほど星核の恐ろしさを知っている者はそうそういないだろう。しかし星はそのリアクションが少し面白く思えて口元を覆った。
「とにかく、私はフランが星核が原因で生まれたと知って妙に親近感が湧いているんだ。状況も全部違うけど……」
「……ありがとうございます。教えてくださって」
「そろそろ寝よう。もう就寝の時間になる。パムに怒られちゃうよ」
フランは星にすっかり懐いていた。似たような身長であり知識も大人と同等だろう。羅浮で差別を受けながら必死に足掻いてきたフランは多少報われたっていいという想いから星は寄り添う。広いベッドで二人横になり眠りについた。
翌日もフランは列車の中にいた。泊めてもらったからという理由でパムと一緒に車両の掃除をしている。その間、星は景元のもとへ向かっていた。羅浮の長楽天へいくと多くの人々はフランの噂で持ちきりになっていた。わざわざ星が聞かずとも皆口にする。フランは星核から生まれたと。
神策府にはこの民衆の噂に躍起になることはないが頭を痛めていることも事実。現に神策府にいるはずのない符玄が景元の目の前で頭を押さえていた。
「暗殺者の口は塞いでいるのになぜフラン様の噂が絶えないんだか…どうするおつもりですか?景元将軍?」
「どうもこうも、フラン個人に対する言葉に将軍である私はどうすることもない。暴動を起こすわけでもなし、好きに噂させていればいい」
まるで諦めのような声。景元は背中を向けたまま語っていた。
「景元」
だが星の声に振り返る。符玄は星をみて一言、苦言を呈した。
「将軍の娘を列車に迎え入れたことに関して、双方の同盟に亀裂が入るとは思わなかったのかしら」
「あの時はそんな余裕なかった。それより景元に話したいことがある」
珍しく神妙な顔つきで景元が星に近づいた。
「もちろんだ。私も話したいことがある。すまないがご覧の通りごたごたしている。夕方また私の屋敷に来てくれるかな」
「わかった。じゃあまた」
さっくりと返事をして星は去ろうとする。しかし景元は一つ声をかけて引き留めた。半身を返して言葉を待つが、珍しく景元は言葉を慎重に選んでいるようだ。数秒の後、いつもの声音で尋ねる。
「フランは…元気にしているかな」
「うん。元気だよ」
「そうか…それなら、いいんだ」
前髪で表情は見えないが、ただそれだけ言って景元もまた背を向けた。
長楽天のどこにいてもフランのあることないこと噂が絶えない。羅浮の星核問題が起こったばかりだからこそここまで話題になっている。暗殺者はなんとも良いタイミングでこの事件を引き起こしたものだ。
適当に時間を潰し、羅浮を照らす天候事象は夕日を示し始めた。姫子にフランの様子は変わっていないかメッセージを送り返信を待つ。すると二人とパムが映った写真が送られてきた。小さく笑ってスタンプを送った後、景元の屋敷へ向かった。
風情のある屋敷に落ち葉があったとて様になるだけ。円型の門戸をくぐると使用人が恭しく頭を下げた。
「こんにちは。将軍と話をしたくて来たのだけれど」
「お話は伺っております。景元様がお帰りになるまでくつろぎください」
板張りの廊下を歩き通された客間。庭が見えて見事な景観だ。庭に見惚れる星をよそに使用人は茶菓子を用意する。
「私は部屋の外に控えております。何かご用がございましたらいつでも声をかけてください」
「ありがとう」
この庭を、景元とフランは共に眺めていたのだろう。枝から葉が落ちるように、星は二人の関係が分たれて当然のように思えてならない。フランにとって羅浮は辛く厳しい世界だ。
廊下から足音が聞こえる。椅子から立ち上がると景元がやってきた。仕事終わりにフランのことを話すのだから気は休まらないだろう。
「待たせてしまってすまないね」
「いいや、庭が綺麗でずっと見てた。時間は気にならなかった」
「ああ、そうか……なら縁側で話そう。お互いそっちの方がいいだろう?」
景元の気遣いに頷き、二人で縁側に腰掛ける。おもむろに話し始めたのはやはり景元からだった。
「フランも気に入っていたんだ。この庭を。いつも庭が綺麗だから、庭師の腕がいいんだって褒めていたよ」
「景元、私はどっちの肩を持つとかそういうつもりで来たわけじゃないのはわかってほしい。ただ……放っておけなかっただけ」
ようやく緩く笑った。そうして目を閉じる。何かを考えているのかしばらく沈黙が続き、再び口を開いた。
「フランが褒めていた庭師が情報を流していた。フランが外来生物の特定をしていたことも筒抜けだったというわけだ」
「どうして庭師が」
「短命種は軽く見積もられる。それが故意であろうとなかろうと。庭師は意図して情報を流したんじゃない。この程度、どうってことない、という無意識の浅慮が情報流出に繋がった」
膝に置かれた手がそれぞれ拳を作る。顔色は変えずに悔しさを滲ませた。
「短命種への偏見は私自身対処しているつもりだが、当人が気付けない領域を私の手で改善することは甚だむずかしい。羅浮は…いや、仙舟はフランとって生き地獄に他ならない」
どこに行こうと仙舟であるかぎり景元の娘という肩書きだけはしつこくついて回るし短命種のレッテルは常に存在するだろう。景元はもう将軍という立場ではフランを守ることはできないと悟っていた。
「だがフランは負けず嫌いで真面目な性格だ。どんなに言われようと報われずとも正面からぶつかっていく気概がある。私はその姿が痛々しくて見ていられない」
「なら手放せばいいのに」
「そうできないことは知っているだろう?」
「それは状況がそうさせないんじゃなくて景元がそうしたくないだけでしょ?」
乾いた声で笑った。空は日が落ちてアザのような色をしている。
「ああ……そうだね……」
「セイチュウが言ってた。将軍はフランに欲情している、と。それは本当?」
返答はなかった。最後のプライドとして返事はできなかった。だからこそ無言が肯定となる。
「フランは、景元と過ごした時間は大切に思ってる。けど互いの愛情にギャップがあって苦しんでる。それだけは伝えておきたいと思って来たの」
「そうか」
背を正し星を見る。将軍というよりは一人の父としてそこにあるようだ。
「君たちの開拓の旅を邪魔するわけにはいかない。フランにはまず羅浮に戻るよう伝えてくれないか。もし、戻りたくないと言ったら……その時は、どうかフランも星穹列車に乗せてほしい」
「……私はそれでも構わない。でも景元はいいの?」
「当たり前だろう?この広い宇宙を……広大な自由をようやく……フランは手に入れることができる。羅浮に…私の元にいるよりずっと良い」
良くねーじゃん。という言葉は飲み干した。喉まで出かかったが堪えて、景元の目をじっと見つめる。
「フランには厳しい選択を迫ってしまうだろう。だが第三者を巻き込んでいる時点で時間の制限は付きものだ。フランもそのことは十分わかっている。返答は明日、日付を越える前までに頼むよ」
「その前に一つ聞きたいことがある」
星は一応確認として必要なこととして最初から聞いておこうと思っていたのだ。
「フランに手出す予定?」
「…………」
ひく、と歪に口角が上がった。心なしか眉間の皺も深い。
「景元の話をきいてると、全部フランのことばかりで景元がどうしたいか言ってない。私は今中立だって言ったはずだけど」
珍しく景元は額を抑えた。やはり何か考えている。言葉が出るまでじっと待っていたがついに溢れたのは深いため息。
「フランのことになるとうまく言葉が出てこない。せっかく丸め込もうとしたのに……やっぱり君は侮れないね」
ドヤ顔で胸を張る。その様子がおかしくて笑っていた。それから緊張が解けたのか縁側に両手をついて空を見上げる。
「シン=コウキが星核によって模倣された惑星と変化したのは知っているだろう。私はそれよりも前に初代フラン王と会ったことがある。その時はなんとも思っていなかったが、今思えば……惹かれていたんだろうね」
仙舟人は感情の気付きすらのんびりしているのか、はたまた景元は長生きして感情の発露に鈍くなってしまっているのか。どちらにせよ、模倣惑星となった時点で後の祭りだ。
「今のフランと重ねているわけではないんだ。同じ遺伝子、初代フラン王の経験情報があるとはいえ、過程が違う。初代と今とじゃ似ているのは外見くらいかな」
「じゃあ手を出すんだ」
「まさか!一度は父になるといったんだ。それを違えることはない。成人と同時に書面上の親子関係は解消する予定であったけど、この想いはずっと隠しておこうと思っていたよ」
「でも、一緒にいたいんだ?」
星の単純かつ明確な図星にまた言葉を失う。
「一応フランに言っておく」
「…………正気かな?」
「だってフランの気持ちも言ったんだから、景元の気持ちも言っておかないとフェアじゃない」
「公平かどうかはともかく、私は今フランの養父という立場だ。フランを庇護することが義務でもある。フランを怖がらせるようなことは言わないでくれ」
「今更じゃない?フランも景元のことは気づいている。それに逆に隠しているほうがフランにとって不利だよ。もしフランが残ることを選んで問題が起こった時、少なくともフランは景元を言い訳にできる」
つまり「景元が一緒にいたいと言ったから残っただけで本当は残りたくなかったから離れます」という最終手段のカードをフランの手元に残せるのだ。責任感が強く、思い詰めるフランが「自分の意思で決めたから何が起こっても残らないといけない」という理念のもと羅浮で酷い目に遭った時、そこに逃げ道はないのだ。
「……いい勉強になったよ。これは皮肉ではなく本心だ」
「どうも」
ぺこ、とお互い頭を下げてみせる。
「とにかく話は持ち帰るけど、それでフランがどう思うかはわからないしもしかしたら嫌われるかも」
「嫌われても構わない。私はフランが健やかに生きているだけで幸せなんだ」
もし遠くへ行ってしまっても、暗い宇宙で光る星が見えたらフランを想うことはできる。たったそれだけで満たされるのだ。
星は帰って行った。フランはきっと戻ってこないだろう。最後に一緒に寝たのはいつだったか覚えていない。景元は広い寝具に腰掛けてフランがいた場所を撫でる。
「フラン、どうか………生きてくれているだけでいい」
言い聞かせるように呟き、その場所に額を当てた。
