デフォルトはフラン
星の下に生まれる
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「つまりあの外来生物はフランちゃんの暗殺のために送り込まれたってこと!?」
なのかは口を手で覆って驚く。フランは生命が脅かされることに慣れているが他の人、他の生命まで巻き込まれることは初めてだった。白露の手を握っているが今だけは白露がフランの手を引いているように見える。
「将軍の娘、そして短命種。狙われる理由は十分揃っています。星穹列車の皆さんはすぐ羅浮を離れた方がいいでしょう」
「この後の護衛は?」
星の問いかけには簡単に返答した。
「彦卿が担います。彼は雲騎軍最強の剣士ですから」
とはいえヴェルトは先ほどフランが言った二つの要素だけでは暗殺には至らないと見抜いている。そもそも短命種なのだから、仙舟人にとっては「放っておけばそのうち死ぬ」感覚だ。つまり短命種を狙うのは短命種しかあり得ない。短命種であるフラン自身に狙われる理由があるはずだった。しかしわざわざ目の前で指摘すべきか、考えあぐねる。これまでの動向全て思慮深く高い知性を感じさせられたからこそ言わない理由も持ち合わせているはずだった。
「屋敷につきました。護衛していただきありがとうございます」
「そんなのいいんだけど…大丈夫?なんか心配だよ…」
「大丈夫です。今は怪我をしていますが将軍から剣の手解きを受けています。それに有事の際は相応の隠れ家もありますので」
「そうか……繰り返しになるが、困ったことがあればいつでも言ってほしい。私たちは一つの仕事をこなした仲間なんだから」
ヴェルトの言葉に一つ頭を下げた。フランは白露に声をかけて屋敷の中へ入っていく。相変わらず心配そうな顔で患者の背中を見送っていた。
「フランちゃんとは仲良いんだよね?こういうことしょっちゅうなの?」
「うむ…じゃが周りを巻き込むのはおそらく初めてじゃろう。フランはそのことを気にかけて、あんなに落ち込んでおったに違いない」
いつも通りの真顔だったが友人の目は誤魔化せない。心なしか白露の尻尾もいつもより下がっている気がした。
「何か深い理由があるんだろう。俺たちが詮索して良いのはここまでだ」
「その深い理由が気になるのに〜」
ぶうぶうと頬を膨らませる。星も同じ気持ちのようででっち上げた「暗殺の理由」を好きなだけ妄想していた。とある婚約者だの、景元に恋しフランに嫉妬する者の仕業だの、今まで見聞きしたドラマや映画のネタを挟んでは盛り上がる。
「あ!そうじゃ!もし使いの者に抜け出した理由を聞かれたら、患者の手当をしておったと言ってくれぬか!?」
「ま、まぁ……ある意味事実ではあるからな……」
汗を流しつつ龍尊の願いを聞き入れる。今回のことで白露が怒られるのもフランは不本意だろう。
無事白露を屋敷前までつれていく。従者は抜け出したことに対し苦言を呈する前に白露が列車一行をうるんだ瞳で見上げていた。仕方なく星が「患者の手当てをしていた」と証言すれば無事説教は免れたらしい。従者は口をつぐんだ。
「そうじゃ、ぬしら……こういったことはあまり言うべきではないんじゃが……」
別れる寸前、白露が引き止める。
「何?」
星は腰を曲げて身を屈める。白露はそれでもほんの少し迷っていたが、友人のためになるかもしれないと一つ情報を与えた。
「フランは十年前に将軍に拾われた子でな、その時は今よりもう少し小さいくらいじゃった」
「……十年前?」
すかさず反応したのはヴェルトだった。ヴェルトの見立てではどんなに彼女が大人ぶろうとも十代前半だろうと思っていたからだ。つまり十年前……フランは少なくとも五、六歳で身長が百五十センチ程だったと見積もれる。いくら種族差があるとはいえそれはおかしな話だ。
「彼女の年齢はわかるか?」
「拾われたのが五歳と言っておったから、今は十五歳じゃろ」
「十五歳であんなに大人びてるの!?」
なのかはズレたところで驚いているがさておき、白露は続ける。
「他の惑星で出会ったと以前教えてくれた……名前は……ええと」
眉間に皺を寄せて腕を組む。しかし答えはすぐ出された。白露ではない声の主がその空気を切り裂くように。
「シン=コウキ。それが彼女が生まれ育った惑星の名前」
彦卿がいつもより厳しい目で列車組を見やる。
「悪いけどそれ以上は機密事項なんだ。知ることも、詮索することも許されない」
「……すまない、そうとは知らずに質問してしまった」
ヴェルトの落ち着いた返答に少しだけ口角を上げるがそれはただの笑みではない。自身よりも遥かに策士である男への警戒の現れだ。
「彼女の護衛は僕と直属の配下が担う。屋敷までの護衛ありがとう」
「ああ、将軍からもそう指示を受けた」
「かなり訳アリとだけ言っておくよ。それに君たちにはもう手出しできない問題でもあるからね」
意味深な言葉だけ残して風のように去っていった。ヴェルトは杖を無意識に強く握り締める。改めて白露に別れを告げて星穹列車へと帰っていった。
列車に戻ったとはいえ、不審な出来事があったせいで落ち着かない。星は暗くなった広場で佇んでいた。星だけではなくヴェルトも同じようで、アーカイブを確認すると言って篭り切り。息を吐いて、そろそろ列車に戻ろうとした時だった。
「君は……ナナシビト、だよね?」
フードの男が自信なさげにそう言った。星はすかさずバットを構えるがあわてて下がる。
「こ、攻撃しようとか敵対するつもりはないんだ!」
「じゃあどうしてナナシビトってわかるの」
「生まれつき…人の身なりで身分を当てたりするのが得意なんだ。それと、最近この羅浮も慌しかっただろ?ナナシビトなんじゃないかってピンときたんだ」
男の言葉に矛盾はない。しかし星もここで立ち止まっておしゃべりするつもりもない。帰ろうと思った瞬間男はまた口を開いた。
「僕はセイチュウ。報奨はきちんと払う!けれどどうか助けてほしいんだ!」
「助け…?」
「信じるも信じないも任せるけど、この羅浮に大罪人がいるんだ……復讐ってわけじゃない。ただ、それを見過ごしていいのかわからなくて、将軍に告発したいんだ!」
「要点を話して」
セイチュウは息を整える。覚悟を決めて話した。
「将軍の娘、フランは星核から生まれ、とある惑星を滅ぼした張本人なんだ」
いつもの星なら冷静に返答できただろう。しかし急に与えられたフランの情報に一瞬思考が止まった。そして改めてバットを強く握った。
「フランが星核から?証拠は?」
「そういうと思って、証拠を準備してきたんだ。ここで話すと雲騎軍が嗅ぎつける。長楽天で落ち合わないか?」
仮に事実であったとしても列車と将軍は信頼関係がある。そしてフランもまた生命に涙を流せる感受性がある。星が真っ先に想像したのが「こいつが暗殺の犯人なのでは?」ということだった。
ならば話を聞いた後にとっ捕まえてしまえばいいのではないか?当然の考えに星はしっかりと頷いた。
「なら明日、早朝に待ち合わせしよう。人も多くて俺たちの存在には気づかないだろうから。念押しするが、仲間のナナシビトに伝えてもいいが、羅浮の人間には伝えないでくれ」
「わかった」
盗聴器を仕掛けられたわけでもない。全然通報するが?と思いながらまずは列車に帰った。すぐ列車の全員に報告して、雲騎軍と将軍に告発する予定だと言う。
「何かの罠じゃないのか?そうでないなら相手は相当気が抜けているな」
丹恒の言葉には皆頷く。しかし星は丹恒のいう「罠」がどういうものか想像がつかない。首を傾げているとさらに自身の考えを口にした。
「そもそもフランが星核から生まれたという情報にはさまざまな解釈ができる。とはいえ確実に排除できる解釈は“フランそのものが星核であること。“だろう。つまりその男の情報はかなり決定打に欠けた内容だ。ただでさえその情報には裏付けがないのだから疑って然るべきだ」
「……要するに?」
「情報を裏付けする証拠を出すとのことだが、その場で何か別の動きを見せる可能性がある。雲騎軍への通報は後にしてまずは星がセイチュウという男と接触し、俺たちが隠れて監視するのはどうだ?」
なのかはナイスアイデアと言い賛成する。ヴェルト、姫子も概ね同じ意見のようだ。だが経験のある大人として忠告する。
「様子を見るのはいいが、相手がわざわざ、雲騎軍と将軍に繋がりのある俺たちに接触してきたことに注意すべきだろう」
「ええ、ヴェルトの言う通りね。星はともかく監視メンバーはすぐ雲騎軍に連絡できるよう準備した方がいいわ」
「じゃあうちが監視役ね!」
丹恒は口では言わないものの、正気か?という顔をしていた。代わりに星が発言する。
「やめた方がいいと思う」
「なんで!?」
結局、丹恒とヴェルトが監視役となった。星もしっかり者の二人がついてくれることに安堵する。なのかはふてくされて、朝からショッピングをすると豪語していた。
翌日
星が待ち合わせの場所に行くとセイチュウがいた。星から声をかけると安堵したように息を吐く。
「よかった、雲騎軍に通報していないようだね」
「……本当にそういうのわかるんだ」
「まぁ、唯一の特技だからね。それより早速なんだけど」
取り出したデバイスには多くの写真があった。それは人が写っているわけではない。羅浮の書庫…いわゆるアーカイブの画面を映していた。他にも丹鼎司が管理しているであろうフランの生体記録までも収められていた。
「これは…」
「それが星核の子である証明だよ」
惑星シン=コウキはフランの手により爆破、そして住民を大量爆破により虐殺したと記載されていた。星が見るだけでは合成されたものかどうかはわからない。
「普通惑星を破壊しようと思う?ただの人がそんな発想に至ることがおかしいと思うんだ。それにシン=コウキの星核封印、カンパニーへ星核輸送まで行った景元将軍はシン=コウキに関する情報をひた隠しにしている」
「それでも、星核の意図によって今も操られてるとは思えない。この証拠では信用に足らないよ」
「僕はこのことを公開したいと言ったね。でもそれだけじゃ足りないのはわかってる。だからもう一つ、知って欲しいことがあるんだ」
クリップでまとめられた写真を受け取る。そこには養父と義理の娘が映っていた。仲睦まじい姿だがめくる程にその距離は近くなっている。
「…何が言いたいの」
「普通の…ましてや義理の親子がそんなに“仲がいい”ものかと疑問しかないんだ。もしかすれば景元将軍は星核に魅入られているかもしれない」
「それはない。ならこの間の星核の問題だって対処しようとは思わなかったはずでしょ」
くだらない。やはり問答無用で通報するべきだ。こんなゴシップに時間をかけていいものではない。
「今すぐ通報する。あんたの復讐ってやつはどうしようもなくくだらないものだね」
「養父なら、いくら愛娘とはいえクレーム現場にいくかな?愛娘が泣いているだけで、抱きしめたいと言うかな…」
星は端末を開いて通報する寸前、誰かがその腕を掴んだ。
「フラン…!?」
紛れもなく、命を狙われているフランだ。顔色を悪くさせながらセイチュウを見上げる。
「どうしてここに」
「私だけならともかく、そのネタを持って雲騎軍内にろくでもない噂を垂れ流すの?」
星はハッとした。通報し、セイチュウを捕える際どうやっても尋問が行われる。これらの写真を見てどう思うかは人それぞれだろうが、誰もが尊敬し讃える景元将軍のイメージの劣化、そして神策府へのレッテルを貼るには十分だろう。
「ああ、フラン王、お久しぶりです」
「一騎打ちでもしたいなら今私を攫って他の惑星に降りればいい。そうすればお前の望みは叶うだろう」
「いいえ、当初はそう思っていたけれどそれではつまらない。だって、“内側から壊す”ことに意味があるんだから」
まばらになった人の波を掻い潜り、穂先で男の腹を突く。しかしそれは容易に躱された。いつもの日常が始まるこの通りで槍を出した丹恒。全員が大きなトラブルが発生していると察知し逃げるか雲騎軍へ通報していた。
「丹恒!」
「さがれ!様子がおかしい、あの時と同じ威圧感だ!」
あの時、と思い返す。フラッシュバックのように思い返されたのは壊滅の指令、幻朧だ。
「お前は幻朧の配下…あるいは後詰めの駒か」
ヴェルトは警戒は怠らないままフランの前に立つ。
「そんな大層なものじゃない。壊滅と言えるほどの力はないし、幻朧のように長期間潜伏できるほど我慢強くもないんだ。ただ、一つだけ与えられたものは“相手の心情を可視化する”こと」
セイチュウは笑顔でフランを見つめる。
「フラン王、あなたが信じていた景元は一人の男としてあなたに欲情しているんだよ」
フランが棍平を操り鎖を投げた。先についた小刀が地面を抉る。
「景元はそんなんじゃない!!景元は私に畏敬を持つといった!!景元は、景元は、お前が口にできるような存在ではない!!」
悠々と避けながらフランの激昂を揶揄う。そうこうしているうちに雲騎軍が現場に到着する。このままではフランの存在がある故に羅浮に亀裂が入る。どうすればこの男の口を閉じることができるだろう。
「男の味は覚えてますか?最後に共に将軍と寝たのはいつ?将軍の腕はさぞや逞しくあたたかいでしょう」
フランは閃いた。せめてこれが景元への恩返しになると信じて距離を詰める。
ヴェルトがその後を追いかけ服を引っ張ると目の前に剣先が滑った。ヴェルトがフランの腹をしっかり抱いて体勢を整える前に殺気立った目が二人を見下ろす。剣が振り下ろされる前に星がバットで跳ね返し剣を飛ばした。続いて丹恒の槍がセイチュウを吹き飛ばす。
石畳の上に叩きつけられ咳き込む。セイチュウが自分で宣言していた通り、壊滅の力はないようだ。だが雲騎軍がこの場にいることで命の保障とこれからの計画は順調に進む。荒い呼吸をしながら笑っていた。雲騎軍により両腕を捕まれて捕えられる。
「みなさぁん!聞いてください!このフラン様は、星核から生み出され、」
嬉々として喜びながら声をあげる。その最中、フランが飛び出し顎を蹴り上げた。躊躇のない動きはまさに手だれの傭兵のようだった。兵士はフランの気迫に気押される。まだ十五年しか生きていない子どもがこれほどまでに恐ろしい顔をしてみせるのかと、ついセイチュウを押さえる手を離した。そしてナイフを取り出し、気絶するセイチュウの首をめがけ振りかざす。
セイチュウに向かって走り出した瞬間から追いかけていたヴェルトが制止するが止まれるはずもない。この男を殺してしまえば全てが丸く収まるのだから。フランは自分が存在することで生まれる不利益は自分の手で片付けなければならないと信じている。そして自分の星の不始末は自分で着けないといけないことも。
振り翳した瞬間だった。振り返るとそこには景元の鉾が突き刺さっていた。柄に腕が当たり動かない。
混沌とする状況下で景元は顔色変えずに彼らの後ろから歩み寄る。
「何をしている。奴の口を塞ぎ捕えろ」
「は、はい!」
「列車の諸君、偶然とはいえフランを助けてくれてありがとう」
笑顔を浮かべているが怒っている。通報しなかったことか、はたまた大事にしたことか。いや、それよりもフランが屋敷に出て危険な行為をしたからだろう。
鉾を抜き、フランの背中を見ていた。
「フラン、屋敷から出るなと伝えたはずだが」
「あなたと、話すことは何もありません…」
「君にはなくとも私にはある。昨晩、あの男から接触があったはずだ。なぜ知らせなかった。結果的に星穹列車を巻き込んでしまったことに気づかないのか」
フランは何も考えられない。背を向けてただ逃げたくて仕方がなかった。家族とは言えない関係性だが信頼できる相手が欲情を持っていた可能性があることを考えると奥底に恐怖が宿った。
事情を知る星が二人の間に入る。
「開拓者、後ほど挨拶にいく。しばらく待っていてほしい」
「そうじゃない。フランは今将軍の言葉を聞けるほどの余裕はない」
「私にもその時間を与える猶予はないんだ」
「なら、将軍はフランをどう思ってる?」
将軍は言葉を詰まらせた。無言になり、代わりにフランは星の裾を握って離さない。
「この質問に答えられない限り、フランは本当の意味で将軍の言葉は聞けない。フランの安全を考慮して、星穹列車で預かる」
「……刺客も、まさか列車にいるとは思わないだろう。許可するよ」
「いこう、フラン」
星の言葉に促され共に歩き出す。手足は震えていて怯えた様子だった。将軍は振り返ることなどなく、ただその場で佇むのみ。
なのかは口を手で覆って驚く。フランは生命が脅かされることに慣れているが他の人、他の生命まで巻き込まれることは初めてだった。白露の手を握っているが今だけは白露がフランの手を引いているように見える。
「将軍の娘、そして短命種。狙われる理由は十分揃っています。星穹列車の皆さんはすぐ羅浮を離れた方がいいでしょう」
「この後の護衛は?」
星の問いかけには簡単に返答した。
「彦卿が担います。彼は雲騎軍最強の剣士ですから」
とはいえヴェルトは先ほどフランが言った二つの要素だけでは暗殺には至らないと見抜いている。そもそも短命種なのだから、仙舟人にとっては「放っておけばそのうち死ぬ」感覚だ。つまり短命種を狙うのは短命種しかあり得ない。短命種であるフラン自身に狙われる理由があるはずだった。しかしわざわざ目の前で指摘すべきか、考えあぐねる。これまでの動向全て思慮深く高い知性を感じさせられたからこそ言わない理由も持ち合わせているはずだった。
「屋敷につきました。護衛していただきありがとうございます」
「そんなのいいんだけど…大丈夫?なんか心配だよ…」
「大丈夫です。今は怪我をしていますが将軍から剣の手解きを受けています。それに有事の際は相応の隠れ家もありますので」
「そうか……繰り返しになるが、困ったことがあればいつでも言ってほしい。私たちは一つの仕事をこなした仲間なんだから」
ヴェルトの言葉に一つ頭を下げた。フランは白露に声をかけて屋敷の中へ入っていく。相変わらず心配そうな顔で患者の背中を見送っていた。
「フランちゃんとは仲良いんだよね?こういうことしょっちゅうなの?」
「うむ…じゃが周りを巻き込むのはおそらく初めてじゃろう。フランはそのことを気にかけて、あんなに落ち込んでおったに違いない」
いつも通りの真顔だったが友人の目は誤魔化せない。心なしか白露の尻尾もいつもより下がっている気がした。
「何か深い理由があるんだろう。俺たちが詮索して良いのはここまでだ」
「その深い理由が気になるのに〜」
ぶうぶうと頬を膨らませる。星も同じ気持ちのようででっち上げた「暗殺の理由」を好きなだけ妄想していた。とある婚約者だの、景元に恋しフランに嫉妬する者の仕業だの、今まで見聞きしたドラマや映画のネタを挟んでは盛り上がる。
「あ!そうじゃ!もし使いの者に抜け出した理由を聞かれたら、患者の手当をしておったと言ってくれぬか!?」
「ま、まぁ……ある意味事実ではあるからな……」
汗を流しつつ龍尊の願いを聞き入れる。今回のことで白露が怒られるのもフランは不本意だろう。
無事白露を屋敷前までつれていく。従者は抜け出したことに対し苦言を呈する前に白露が列車一行をうるんだ瞳で見上げていた。仕方なく星が「患者の手当てをしていた」と証言すれば無事説教は免れたらしい。従者は口をつぐんだ。
「そうじゃ、ぬしら……こういったことはあまり言うべきではないんじゃが……」
別れる寸前、白露が引き止める。
「何?」
星は腰を曲げて身を屈める。白露はそれでもほんの少し迷っていたが、友人のためになるかもしれないと一つ情報を与えた。
「フランは十年前に将軍に拾われた子でな、その時は今よりもう少し小さいくらいじゃった」
「……十年前?」
すかさず反応したのはヴェルトだった。ヴェルトの見立てではどんなに彼女が大人ぶろうとも十代前半だろうと思っていたからだ。つまり十年前……フランは少なくとも五、六歳で身長が百五十センチ程だったと見積もれる。いくら種族差があるとはいえそれはおかしな話だ。
「彼女の年齢はわかるか?」
「拾われたのが五歳と言っておったから、今は十五歳じゃろ」
「十五歳であんなに大人びてるの!?」
なのかはズレたところで驚いているがさておき、白露は続ける。
「他の惑星で出会ったと以前教えてくれた……名前は……ええと」
眉間に皺を寄せて腕を組む。しかし答えはすぐ出された。白露ではない声の主がその空気を切り裂くように。
「シン=コウキ。それが彼女が生まれ育った惑星の名前」
彦卿がいつもより厳しい目で列車組を見やる。
「悪いけどそれ以上は機密事項なんだ。知ることも、詮索することも許されない」
「……すまない、そうとは知らずに質問してしまった」
ヴェルトの落ち着いた返答に少しだけ口角を上げるがそれはただの笑みではない。自身よりも遥かに策士である男への警戒の現れだ。
「彼女の護衛は僕と直属の配下が担う。屋敷までの護衛ありがとう」
「ああ、将軍からもそう指示を受けた」
「かなり訳アリとだけ言っておくよ。それに君たちにはもう手出しできない問題でもあるからね」
意味深な言葉だけ残して風のように去っていった。ヴェルトは杖を無意識に強く握り締める。改めて白露に別れを告げて星穹列車へと帰っていった。
列車に戻ったとはいえ、不審な出来事があったせいで落ち着かない。星は暗くなった広場で佇んでいた。星だけではなくヴェルトも同じようで、アーカイブを確認すると言って篭り切り。息を吐いて、そろそろ列車に戻ろうとした時だった。
「君は……ナナシビト、だよね?」
フードの男が自信なさげにそう言った。星はすかさずバットを構えるがあわてて下がる。
「こ、攻撃しようとか敵対するつもりはないんだ!」
「じゃあどうしてナナシビトってわかるの」
「生まれつき…人の身なりで身分を当てたりするのが得意なんだ。それと、最近この羅浮も慌しかっただろ?ナナシビトなんじゃないかってピンときたんだ」
男の言葉に矛盾はない。しかし星もここで立ち止まっておしゃべりするつもりもない。帰ろうと思った瞬間男はまた口を開いた。
「僕はセイチュウ。報奨はきちんと払う!けれどどうか助けてほしいんだ!」
「助け…?」
「信じるも信じないも任せるけど、この羅浮に大罪人がいるんだ……復讐ってわけじゃない。ただ、それを見過ごしていいのかわからなくて、将軍に告発したいんだ!」
「要点を話して」
セイチュウは息を整える。覚悟を決めて話した。
「将軍の娘、フランは星核から生まれ、とある惑星を滅ぼした張本人なんだ」
いつもの星なら冷静に返答できただろう。しかし急に与えられたフランの情報に一瞬思考が止まった。そして改めてバットを強く握った。
「フランが星核から?証拠は?」
「そういうと思って、証拠を準備してきたんだ。ここで話すと雲騎軍が嗅ぎつける。長楽天で落ち合わないか?」
仮に事実であったとしても列車と将軍は信頼関係がある。そしてフランもまた生命に涙を流せる感受性がある。星が真っ先に想像したのが「こいつが暗殺の犯人なのでは?」ということだった。
ならば話を聞いた後にとっ捕まえてしまえばいいのではないか?当然の考えに星はしっかりと頷いた。
「なら明日、早朝に待ち合わせしよう。人も多くて俺たちの存在には気づかないだろうから。念押しするが、仲間のナナシビトに伝えてもいいが、羅浮の人間には伝えないでくれ」
「わかった」
盗聴器を仕掛けられたわけでもない。全然通報するが?と思いながらまずは列車に帰った。すぐ列車の全員に報告して、雲騎軍と将軍に告発する予定だと言う。
「何かの罠じゃないのか?そうでないなら相手は相当気が抜けているな」
丹恒の言葉には皆頷く。しかし星は丹恒のいう「罠」がどういうものか想像がつかない。首を傾げているとさらに自身の考えを口にした。
「そもそもフランが星核から生まれたという情報にはさまざまな解釈ができる。とはいえ確実に排除できる解釈は“フランそのものが星核であること。“だろう。つまりその男の情報はかなり決定打に欠けた内容だ。ただでさえその情報には裏付けがないのだから疑って然るべきだ」
「……要するに?」
「情報を裏付けする証拠を出すとのことだが、その場で何か別の動きを見せる可能性がある。雲騎軍への通報は後にしてまずは星がセイチュウという男と接触し、俺たちが隠れて監視するのはどうだ?」
なのかはナイスアイデアと言い賛成する。ヴェルト、姫子も概ね同じ意見のようだ。だが経験のある大人として忠告する。
「様子を見るのはいいが、相手がわざわざ、雲騎軍と将軍に繋がりのある俺たちに接触してきたことに注意すべきだろう」
「ええ、ヴェルトの言う通りね。星はともかく監視メンバーはすぐ雲騎軍に連絡できるよう準備した方がいいわ」
「じゃあうちが監視役ね!」
丹恒は口では言わないものの、正気か?という顔をしていた。代わりに星が発言する。
「やめた方がいいと思う」
「なんで!?」
結局、丹恒とヴェルトが監視役となった。星もしっかり者の二人がついてくれることに安堵する。なのかはふてくされて、朝からショッピングをすると豪語していた。
翌日
星が待ち合わせの場所に行くとセイチュウがいた。星から声をかけると安堵したように息を吐く。
「よかった、雲騎軍に通報していないようだね」
「……本当にそういうのわかるんだ」
「まぁ、唯一の特技だからね。それより早速なんだけど」
取り出したデバイスには多くの写真があった。それは人が写っているわけではない。羅浮の書庫…いわゆるアーカイブの画面を映していた。他にも丹鼎司が管理しているであろうフランの生体記録までも収められていた。
「これは…」
「それが星核の子である証明だよ」
惑星シン=コウキはフランの手により爆破、そして住民を大量爆破により虐殺したと記載されていた。星が見るだけでは合成されたものかどうかはわからない。
「普通惑星を破壊しようと思う?ただの人がそんな発想に至ることがおかしいと思うんだ。それにシン=コウキの星核封印、カンパニーへ星核輸送まで行った景元将軍はシン=コウキに関する情報をひた隠しにしている」
「それでも、星核の意図によって今も操られてるとは思えない。この証拠では信用に足らないよ」
「僕はこのことを公開したいと言ったね。でもそれだけじゃ足りないのはわかってる。だからもう一つ、知って欲しいことがあるんだ」
クリップでまとめられた写真を受け取る。そこには養父と義理の娘が映っていた。仲睦まじい姿だがめくる程にその距離は近くなっている。
「…何が言いたいの」
「普通の…ましてや義理の親子がそんなに“仲がいい”ものかと疑問しかないんだ。もしかすれば景元将軍は星核に魅入られているかもしれない」
「それはない。ならこの間の星核の問題だって対処しようとは思わなかったはずでしょ」
くだらない。やはり問答無用で通報するべきだ。こんなゴシップに時間をかけていいものではない。
「今すぐ通報する。あんたの復讐ってやつはどうしようもなくくだらないものだね」
「養父なら、いくら愛娘とはいえクレーム現場にいくかな?愛娘が泣いているだけで、抱きしめたいと言うかな…」
星は端末を開いて通報する寸前、誰かがその腕を掴んだ。
「フラン…!?」
紛れもなく、命を狙われているフランだ。顔色を悪くさせながらセイチュウを見上げる。
「どうしてここに」
「私だけならともかく、そのネタを持って雲騎軍内にろくでもない噂を垂れ流すの?」
星はハッとした。通報し、セイチュウを捕える際どうやっても尋問が行われる。これらの写真を見てどう思うかは人それぞれだろうが、誰もが尊敬し讃える景元将軍のイメージの劣化、そして神策府へのレッテルを貼るには十分だろう。
「ああ、フラン王、お久しぶりです」
「一騎打ちでもしたいなら今私を攫って他の惑星に降りればいい。そうすればお前の望みは叶うだろう」
「いいえ、当初はそう思っていたけれどそれではつまらない。だって、“内側から壊す”ことに意味があるんだから」
まばらになった人の波を掻い潜り、穂先で男の腹を突く。しかしそれは容易に躱された。いつもの日常が始まるこの通りで槍を出した丹恒。全員が大きなトラブルが発生していると察知し逃げるか雲騎軍へ通報していた。
「丹恒!」
「さがれ!様子がおかしい、あの時と同じ威圧感だ!」
あの時、と思い返す。フラッシュバックのように思い返されたのは壊滅の指令、幻朧だ。
「お前は幻朧の配下…あるいは後詰めの駒か」
ヴェルトは警戒は怠らないままフランの前に立つ。
「そんな大層なものじゃない。壊滅と言えるほどの力はないし、幻朧のように長期間潜伏できるほど我慢強くもないんだ。ただ、一つだけ与えられたものは“相手の心情を可視化する”こと」
セイチュウは笑顔でフランを見つめる。
「フラン王、あなたが信じていた景元は一人の男としてあなたに欲情しているんだよ」
フランが棍平を操り鎖を投げた。先についた小刀が地面を抉る。
「景元はそんなんじゃない!!景元は私に畏敬を持つといった!!景元は、景元は、お前が口にできるような存在ではない!!」
悠々と避けながらフランの激昂を揶揄う。そうこうしているうちに雲騎軍が現場に到着する。このままではフランの存在がある故に羅浮に亀裂が入る。どうすればこの男の口を閉じることができるだろう。
「男の味は覚えてますか?最後に共に将軍と寝たのはいつ?将軍の腕はさぞや逞しくあたたかいでしょう」
フランは閃いた。せめてこれが景元への恩返しになると信じて距離を詰める。
ヴェルトがその後を追いかけ服を引っ張ると目の前に剣先が滑った。ヴェルトがフランの腹をしっかり抱いて体勢を整える前に殺気立った目が二人を見下ろす。剣が振り下ろされる前に星がバットで跳ね返し剣を飛ばした。続いて丹恒の槍がセイチュウを吹き飛ばす。
石畳の上に叩きつけられ咳き込む。セイチュウが自分で宣言していた通り、壊滅の力はないようだ。だが雲騎軍がこの場にいることで命の保障とこれからの計画は順調に進む。荒い呼吸をしながら笑っていた。雲騎軍により両腕を捕まれて捕えられる。
「みなさぁん!聞いてください!このフラン様は、星核から生み出され、」
嬉々として喜びながら声をあげる。その最中、フランが飛び出し顎を蹴り上げた。躊躇のない動きはまさに手だれの傭兵のようだった。兵士はフランの気迫に気押される。まだ十五年しか生きていない子どもがこれほどまでに恐ろしい顔をしてみせるのかと、ついセイチュウを押さえる手を離した。そしてナイフを取り出し、気絶するセイチュウの首をめがけ振りかざす。
セイチュウに向かって走り出した瞬間から追いかけていたヴェルトが制止するが止まれるはずもない。この男を殺してしまえば全てが丸く収まるのだから。フランは自分が存在することで生まれる不利益は自分の手で片付けなければならないと信じている。そして自分の星の不始末は自分で着けないといけないことも。
振り翳した瞬間だった。振り返るとそこには景元の鉾が突き刺さっていた。柄に腕が当たり動かない。
混沌とする状況下で景元は顔色変えずに彼らの後ろから歩み寄る。
「何をしている。奴の口を塞ぎ捕えろ」
「は、はい!」
「列車の諸君、偶然とはいえフランを助けてくれてありがとう」
笑顔を浮かべているが怒っている。通報しなかったことか、はたまた大事にしたことか。いや、それよりもフランが屋敷に出て危険な行為をしたからだろう。
鉾を抜き、フランの背中を見ていた。
「フラン、屋敷から出るなと伝えたはずだが」
「あなたと、話すことは何もありません…」
「君にはなくとも私にはある。昨晩、あの男から接触があったはずだ。なぜ知らせなかった。結果的に星穹列車を巻き込んでしまったことに気づかないのか」
フランは何も考えられない。背を向けてただ逃げたくて仕方がなかった。家族とは言えない関係性だが信頼できる相手が欲情を持っていた可能性があることを考えると奥底に恐怖が宿った。
事情を知る星が二人の間に入る。
「開拓者、後ほど挨拶にいく。しばらく待っていてほしい」
「そうじゃない。フランは今将軍の言葉を聞けるほどの余裕はない」
「私にもその時間を与える猶予はないんだ」
「なら、将軍はフランをどう思ってる?」
将軍は言葉を詰まらせた。無言になり、代わりにフランは星の裾を握って離さない。
「この質問に答えられない限り、フランは本当の意味で将軍の言葉は聞けない。フランの安全を考慮して、星穹列車で預かる」
「……刺客も、まさか列車にいるとは思わないだろう。許可するよ」
「いこう、フラン」
星の言葉に促され共に歩き出す。手足は震えていて怯えた様子だった。将軍は振り返ることなどなく、ただその場で佇むのみ。
