魔女の塔
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咄嗟に殴れると知ったのか、ダンテはそれから割と私を放任し始めた。
頼むからちゃんと守って!と懇願してケラケラ笑うだけでまともにとりあってくれない。
私の命で遊ばれているのだ。
やはりダンテといるとストレスというか、それ以上の苦痛が襲う。
この監獄から抜け出せたらきちんと別れないと。
(というか既に私の人生めちゃくちゃになってる気がしないでもない)
こんなことに巻き込まれ、両手に赤い結晶が埋め込まれているのだからおそらく苦労して生きることになるだろう。
「おい」
「え?」
モヤモヤと悩んでいると急にダンテが話しかけてきた。
いつも私が話しかけるばかりだったので珍しい。
「ここから出たら何したい」
「え…すごい急…
えーっと…特にしたいこともないですし
多分また就職活動…的な?
あ、わかります?しゅーしょくかつどー」
「お前俺をなんだと思ってんだ?」
「いやいや、日本文化知らないイメージだったんでつい
ダンテさんは?」
「パフェ食う」
「えっ!?ほんとですか!?マジですか!!?
ダンテさんパフェ食べるんですか!?いーなー!私も食べたい!!」
「てめぇの分はてめぇで食え」
「なんでそんなつれないんですか
奢ってくれてもいいんですよ?
私抹茶パフェ!」
「話しかけなけりゃよかった」
「ダンテさんは?ダンテさん何が好き?」
わざとダンテの前に出て邪魔をしてみるがすり抜けられる。
走って周りをぐるぐるしてみた。
「やかましい
犬かお前は」
「散々私のこと子犬呼ばわりしたからですよー」
「じゃあ今度首輪買ってやる」
「それはいりません
パフェください」
「子犬ちゃん、ご主人様の名前を言ってみな
ご褒美がくるかもだぜ」
「さいてー」
きゃっきゃと私は本当にダンテに懐いた子犬のようだった。
ようやく心を開いたと言っても過言ではない。
そうしていつしかデスクが亡骸のように積み上げられた部屋が多くなった。
私は他人事のようにそれを眺めている。
しかしここを悪魔が監獄というには監獄として大事なものがない。
それは牢屋だ。
鉄格子のそれが全くない。
もしくは囚人を捕らえる小部屋。
たださしあたって目ぼしいものはこのデスクくらいだ。
「ところで私を利用した?人って検討ついてるんですか?」
「いいや
出会い頭ぶちかますくらいしか考えてない
むしろお前の方が心当たりあるんじゃないのか」
「うーん…いや…その道の極悪人とかいるのかなって
私数時間前までただの社畜だったんですよ
わかんないです」
社長秘書がいたのに社長がいないのはおかしいとは思う。
しかし社長なんて写真でしか見たことがないし、興味もない。
話したことすらないのだ。
多分目の前に出てきてもわからないだろう。
殺風景な部屋ばかり通過していくと、鉄の簡単な階段がある。
それまで重厚感のある立派な階段だったのにここだけ違和感を放っている。
かつかつとブーツの音をたてて登っていくので私も後を追う。
すると、下手な悪魔よりもエグい、肉の塊があった。
部屋は豪華なのに、その異物が何よりも嫌悪感を示す。
ダンテは何も言わず私を後ろにやって2丁の銃を取り出す。
「他にも持って来ればよかったな」
「他?」
「同業者が俺の武器持っていくんだよ
骨が折れるな」
それ借りパクされているのでは?
ともあれ言わぬが花か。
だが肉の塊はうめき声をあげるだけで全く攻撃しようとする意思を見せない。
むしろ苦痛を訴えているようにも見える。
「ダンテさん、なんか様子が…」
いつもの悪魔ならすぐ襲いかかってくるだろう。
しかしそいつはただそこにいるだけだ。
ダンテは近寄り、肉に軽く蹴りをいれた。
それでも何もしてこない。
「こいつは柱か」
「柱?」
「この監獄を支える柱
お前の魔力と、この柱があって会社の姿も存在も組み替えた」
「じゃあ誰がこんなこと…」
なんて暇人だ。
とかいう言葉を口に仕掛けたが、後ろから階段を登ってくる音が聞こえる。
素早くダンテの後ろに隠れた。
「ほんと、素早いな」
「命かかってるので、ええ
自分の役立たずは自分で理解しているつもりです」
扉を開けてきたのは顔面崩壊の古川だ。
自分でやっておきながらエグいと思ってしまった。
「思ったより殴られていい顔になってるぜ」
「やめて…煽るのやめて…」
「男の勲章だな」
「やめろってば」
遠回しに私をからかうの本当にやめて。
背中を叩く。
しかしこの男よくもまぁこんな状況で口が減らないものだ。
逆に言葉の引き出しが多くて感心する。
「青桐…!!戻ってこい青桐!!」
古川の顔はぐちゃぐちゃと音を立てて変形していく。
人ではない。
人の形をした何かだ。
「悪魔であることも気づいてないのか?」
「青桐!!お前は俺のものだ!!この監獄はお前のものだ!!」
ダンテが庇うように、もしくは煽るように私を抱き寄せる。
「やめてください」
「つれないな
俺とお前の仲だろ?」
「悪魔などの分際で!!
青桐!!青桐!!いいからこっちへ来い!!」
古川とダンテ、どちらがいいかというと、断トツでダンテだ。
ぎゅ、とシャツを握る。
「俺がいいとさ」
「消去法です」
「素直になれよ」
すると古川は走り出す。
その最中身体中が膨れ上がり、肉塊同然になった。
息を飲む暇もない。
ダンテは私を抱えて逃げる。
肉塊に包まれていない脚を狙って撃った。
だがそれでも脚が壊れたのは一時的で肉塊がアメーバのように迫ってきた。
『青桐ィ!
俺がお前を迎えてやったんだ!
だからこの監獄はお前のものであり俺のもので
お前も俺のものだ!!』
柱と称された肉塊と混ざり合い、さらに大きな肉塊と変化した。
動きは流動的で肉質な音を立てている。
「あんなに好かれてるぞ
チャームの呪いでも持ってるのか?」
「ちゃ、ちゃいむ!?」
「バカ」
弾丸は肉が包み込んでしまう。
現状の武器では打つ手無しだ。
『お前の魔力で王になれる!
こんなしみったれた世の中、お前には監獄に見えているんだろう!?
俺にはよくわかる!!俺が理解者だ!!』
古川の言っていることは先ほどから意味不明だ。
だがダンテには何となく察しがついたらしい。
「泣かせるね
お前のためにこの場所を作り変えたんだとさ」
「意味わかんないんですけど!?
ていうか結局私を利用してたのは誰ですか!」
「きっかけづくりはあのストーカーだが
作り変えたのもこの監獄も全部お前だとさ」
何を根拠にそんなことを言うのかわからない。
そもそも、限られた情報しかないのにそのように断言することができるのか。
古川は本来の声から様々な人間の声が混ざり始めた。
『ここでなら俺も最強だ!
青桐が女王蜂だ!!
この監獄が巣だ!!』
黙ってろと言わんばかりに飛び出た古川の顔を狙う。
痛みに短い悲鳴が出たがすぐに作り直される。
「まぁ、ここにきて試してはいたが
チカコ、お前さんの認識がそのまま投影されている
口揃えて悪魔が監獄と言ってるのは紛れも無いお前が監獄だと思っているからだ」
「は、はぁ?」
「実際チカコが恐怖を覚えれば悪魔は強くなる
俺がチカコを喜ばせたら悪魔が弱くなる」
「……ってことは私おだてられてただけ!?」
「俺はつまらん嘘はつかない」
はーーー!?
ブチギレながらも私は喜んでしまう。
萌えギレとかいうやつだとさっするがチョロい女とも思われても困る。
「お前わかりにくい癖に素直だな」
悪魔となった古川の動きが遅くなる。
「ちっっっがう!!
絶対嬉しいとかそんなの思ってないから!!」
「俺の話ちゃんと聴けてなかったか?ん?」
「ダンテさんに褒められてめっちゃ嬉しいって知られたくないもん!!」
にや〜と不敵な笑み。
私はそれどころではない。
大混乱が巻き起こっている。
『青桐!!そんなボンクラ信じるなぁあああ!!!』
要は私への口説き合戦。
私がコロっと転がった方がこの監獄での勝者だ。
『そもそもお前が!!全員悪魔にしたんだろうがこの魔女め!!!』
「はー!!?私は好き好んで悪魔にしたわけじゃないし!!
あんたが悪いんでしょ肉団子!!」
『ここを監獄にした以上もう元には戻れんぞ!!!
お前は一生人間に恨まれ続け化け物扱いされる運命だ!!!』
確かに!と妙な確信を得た。
私が原因ではないにせよ関わっていたなら非難を浴びるのはもっともだ。
しかも会社で生き残ったのは私だけとなるとなおさら。
『そうだ!!!ならここにずっといればいい!!!
ここに居ればその悪魔も留まり続ける!!!』
古川は妙に説得力のある言葉を放つ。
けれど私としてはそれは如何なものかとも思うし、ダンテのような人は根無し草で色んなところに行ってしまうだろう。
私はそれでは寂しいと思う程度には慕ってしまっていたのだ。
「なんだ、俺が恋しいのか?」
「違う!流石に期待しすぎ!!」
「なら俺がここから連れ出してやる」
変な理屈を捏ねられるより単純な根拠のない言葉が重く感じるのはここまで一緒に上り詰めたからだろう。
本当に連れ出してくれそうな気がした。
肉塊が小さくなった。
「でも、あの、私
私なんか連れ出して何の意味が」
もっと言葉が欲しいと思い、屁理屈を捏ねる。
ダンテは私を下ろして完全に口説くつもりで頰を指の背で撫でた。
「意味なんざあるか
連れ出したいと思ったら連れ出す
チカコは俺が連れて行く」
沸騰したヤカンのように顔が真っ赤になって湯気が出そうだった。
「こ、こんな状況だから言ってるのかもしれないけど!!
勘違いするでしょ!!」
「勘違いくらいしろ
責任は取る」
脳汁が溢れるという感覚を得た。
目の前がちかちかして、この暗い監獄が明るく感じた。
それから本気で照れて両手で顔を隠す。
狡い、一周回ってムカつく、イケメン、そんな単語が回る。
つまりはダンテといく世界が明るく感じてしまった。
「俺に連れ出されるのは嫌か?お姫様」
「う〜っ
そんなのっ、絶対楽しいに決まってるじゃんっ!!」
多幸感と希望と未来がひらけた気分になった。
その瞬間に肉塊と古川は悲鳴をあげる。
それまで受けた弾丸の傷が後を追うように体に戻り、最後は顔面の傷が戻って絶命した。
建物も大きく揺れ始め、壁や床のヒビが走る。
「ウソぉ!?」
「来いチカコ」
呼ばれて素直に抱きつく。
「そのまま離すなよ」
あ゛〜〜!!イケボ〜!!
脳裏は一瞬こんな奴にときめくなんて!!と恨めしいことを思ったがそれでも本能には抗えない。
しゅき!と手のひら返しをした。
壁が崩れたところへ走り抜けて外へ飛び出す。
太陽の光がとても眩しかった。
▪️
しばらくして私は病気で目が覚めた。
あのことは夢だったのか、なんて思った矢先に、コンビニのフルーツパフェを食べているダンテがそばにいた。
「ダンテさん…?」
ちゃんと逃げずにいたんだな、と見ていると急にダンテは英語で話し始めた。
「ほあ?」
なんであの場所では言葉が通じていたのに急に通じなくなったのだろう。
兎にも角にも理解不能で終始キョトンとしていた。
ダンテはため息をついて、それから横たわる私の前髪を優しく払った。
そして額に口が当たる。
「え、ひえ」
「Will come again」
「え?」
ぷに、と頰をつつかれてダンテは病室を離れた。
キスされた額を押さえて私は枕に顔を埋める。
そして枕に向かって叫んだ。
「いけめーーん!!!!!」
病室では静かに!と看護師に怒られてしまう。
監獄は崩れ、よくわからない現象に誰もが頭を悩ませる。
私は運良く助かっただけの会社員に成り下がっていた。
ともあれ疲労も怪我も治ったので退院の手続きを済ませた。
ただ黙って病院を出るとダンテがいた。
絶対職質されてるだろうという風貌だ。
「ダンテさん…私英語喋れなくて…」
コミュニケーションもままならないという状況にひどく落ち込んだ。
これから英語を勉強し直すのはきついものがある。
しょんぼりする私にニヤリと笑って歩き出した。
私も慌ててついていく。
やはりイケメンなので通り過ぎる人々の視線を集めまくった。
もちろん私もダンテをじっと見ている。
するととある店で足を止めた。
カフェだ。
店のウィンドウに並べられた作り物のデザートをじっと見ている。
「あ…もしかして、食べたい?」
つまり私は今回おごらされるためだけに来たようなものだ。
仕方なく街角のカフェに入る。
店員がドキマギしながら私たちに近づいた。
「2名さまですか?」
「あー、はい」
「禁煙と喫煙どちらがよろしいですか?」
「えっと…」
がっつりタバコ吸います、というような顔つきのダンテ。
確認のため単語をつぶやいた。
「Smoking?」
「No」
以外だ。
タバコは嫌らしい。
禁煙でお願いしますと言うと手頃の空いてる席に座った。
メニュー表を開いて見せてやる。
迷わずパフェに目がいったようだ。
それにしてもこんな人が甘党だとは知らなかった。
デビルハンターという過酷な職業柄、やはりストレスも溜まっているというのか。
「私抹茶パフェ
ダンテさんは?」
指で押す。
イチゴが乗ったそれを見る。
「ん…ふふ」
意外もここまで極まればギャップが可愛いものだ。
ちょっと笑ってしまった私の頰を摘んだ。
「ごめんなさいごめんなさい」
いちごパフェと抹茶パフェを注文し、二人こぞって夢中で食べ始める。
そして冷たさと甘さと渋さと堪能したところで、やっとあの変なダンジョンから抜け出せたのだと脳みそが理解した。
やはり甘いものは偉大だったのだ。
人間の叡智の結晶だろう。
食べ終わったところでじっくり携帯の翻訳機片手に辿々しく会話をしていた。
いつ帰るのか、お土産とか買うのか、そんなことだった。
最後に、ダンテさんちにいつか遊びに行ってもいい?というニュアンスの英語を見せれば変な顔した。
というか、何を言ってるんだという顔。
そんなに嫌なのかと落ち込んだのもつかの間、ダンテがポケットに突っ込んでいた紙切れを押し付けてきた。
「すかいちけっと…飛行機!?」
「yap」
「うううう、嘘だ!だってダンテさん一文無しじゃん!!」
このパフェだって私につけられているのだ。
そんな金もないのに飛行機のチケットなど払えるものかと思ったが、発想を逆にしてみる。
チケットを買ったからお金がなくなったのでは?
チケットを額につけて、息をこぼす。
本当に私を連れて行く気のようだ。
約束通り置いていくことなく。
ちらりとダンテを見ると、得意げに口角をあげた。
私もつられて笑ってしまう。
「ところで飛行機の発着は…」
4日後だった。
正しくは4日後の朝イチ。
つまり、3日間でアパートの解約やあれこれ走り回らなくてはならないのだ。
財布を取り出し、札を叩き出す。
「3日後ここで!」
徹夜で頑張るしかない。
むしろここが頑張りどころだろう。
急ぎ足でカフェを出た。
頼むからちゃんと守って!と懇願してケラケラ笑うだけでまともにとりあってくれない。
私の命で遊ばれているのだ。
やはりダンテといるとストレスというか、それ以上の苦痛が襲う。
この監獄から抜け出せたらきちんと別れないと。
(というか既に私の人生めちゃくちゃになってる気がしないでもない)
こんなことに巻き込まれ、両手に赤い結晶が埋め込まれているのだからおそらく苦労して生きることになるだろう。
「おい」
「え?」
モヤモヤと悩んでいると急にダンテが話しかけてきた。
いつも私が話しかけるばかりだったので珍しい。
「ここから出たら何したい」
「え…すごい急…
えーっと…特にしたいこともないですし
多分また就職活動…的な?
あ、わかります?しゅーしょくかつどー」
「お前俺をなんだと思ってんだ?」
「いやいや、日本文化知らないイメージだったんでつい
ダンテさんは?」
「パフェ食う」
「えっ!?ほんとですか!?マジですか!!?
ダンテさんパフェ食べるんですか!?いーなー!私も食べたい!!」
「てめぇの分はてめぇで食え」
「なんでそんなつれないんですか
奢ってくれてもいいんですよ?
私抹茶パフェ!」
「話しかけなけりゃよかった」
「ダンテさんは?ダンテさん何が好き?」
わざとダンテの前に出て邪魔をしてみるがすり抜けられる。
走って周りをぐるぐるしてみた。
「やかましい
犬かお前は」
「散々私のこと子犬呼ばわりしたからですよー」
「じゃあ今度首輪買ってやる」
「それはいりません
パフェください」
「子犬ちゃん、ご主人様の名前を言ってみな
ご褒美がくるかもだぜ」
「さいてー」
きゃっきゃと私は本当にダンテに懐いた子犬のようだった。
ようやく心を開いたと言っても過言ではない。
そうしていつしかデスクが亡骸のように積み上げられた部屋が多くなった。
私は他人事のようにそれを眺めている。
しかしここを悪魔が監獄というには監獄として大事なものがない。
それは牢屋だ。
鉄格子のそれが全くない。
もしくは囚人を捕らえる小部屋。
たださしあたって目ぼしいものはこのデスクくらいだ。
「ところで私を利用した?人って検討ついてるんですか?」
「いいや
出会い頭ぶちかますくらいしか考えてない
むしろお前の方が心当たりあるんじゃないのか」
「うーん…いや…その道の極悪人とかいるのかなって
私数時間前までただの社畜だったんですよ
わかんないです」
社長秘書がいたのに社長がいないのはおかしいとは思う。
しかし社長なんて写真でしか見たことがないし、興味もない。
話したことすらないのだ。
多分目の前に出てきてもわからないだろう。
殺風景な部屋ばかり通過していくと、鉄の簡単な階段がある。
それまで重厚感のある立派な階段だったのにここだけ違和感を放っている。
かつかつとブーツの音をたてて登っていくので私も後を追う。
すると、下手な悪魔よりもエグい、肉の塊があった。
部屋は豪華なのに、その異物が何よりも嫌悪感を示す。
ダンテは何も言わず私を後ろにやって2丁の銃を取り出す。
「他にも持って来ればよかったな」
「他?」
「同業者が俺の武器持っていくんだよ
骨が折れるな」
それ借りパクされているのでは?
ともあれ言わぬが花か。
だが肉の塊はうめき声をあげるだけで全く攻撃しようとする意思を見せない。
むしろ苦痛を訴えているようにも見える。
「ダンテさん、なんか様子が…」
いつもの悪魔ならすぐ襲いかかってくるだろう。
しかしそいつはただそこにいるだけだ。
ダンテは近寄り、肉に軽く蹴りをいれた。
それでも何もしてこない。
「こいつは柱か」
「柱?」
「この監獄を支える柱
お前の魔力と、この柱があって会社の姿も存在も組み替えた」
「じゃあ誰がこんなこと…」
なんて暇人だ。
とかいう言葉を口に仕掛けたが、後ろから階段を登ってくる音が聞こえる。
素早くダンテの後ろに隠れた。
「ほんと、素早いな」
「命かかってるので、ええ
自分の役立たずは自分で理解しているつもりです」
扉を開けてきたのは顔面崩壊の古川だ。
自分でやっておきながらエグいと思ってしまった。
「思ったより殴られていい顔になってるぜ」
「やめて…煽るのやめて…」
「男の勲章だな」
「やめろってば」
遠回しに私をからかうの本当にやめて。
背中を叩く。
しかしこの男よくもまぁこんな状況で口が減らないものだ。
逆に言葉の引き出しが多くて感心する。
「青桐…!!戻ってこい青桐!!」
古川の顔はぐちゃぐちゃと音を立てて変形していく。
人ではない。
人の形をした何かだ。
「悪魔であることも気づいてないのか?」
「青桐!!お前は俺のものだ!!この監獄はお前のものだ!!」
ダンテが庇うように、もしくは煽るように私を抱き寄せる。
「やめてください」
「つれないな
俺とお前の仲だろ?」
「悪魔などの分際で!!
青桐!!青桐!!いいからこっちへ来い!!」
古川とダンテ、どちらがいいかというと、断トツでダンテだ。
ぎゅ、とシャツを握る。
「俺がいいとさ」
「消去法です」
「素直になれよ」
すると古川は走り出す。
その最中身体中が膨れ上がり、肉塊同然になった。
息を飲む暇もない。
ダンテは私を抱えて逃げる。
肉塊に包まれていない脚を狙って撃った。
だがそれでも脚が壊れたのは一時的で肉塊がアメーバのように迫ってきた。
『青桐ィ!
俺がお前を迎えてやったんだ!
だからこの監獄はお前のものであり俺のもので
お前も俺のものだ!!』
柱と称された肉塊と混ざり合い、さらに大きな肉塊と変化した。
動きは流動的で肉質な音を立てている。
「あんなに好かれてるぞ
チャームの呪いでも持ってるのか?」
「ちゃ、ちゃいむ!?」
「バカ」
弾丸は肉が包み込んでしまう。
現状の武器では打つ手無しだ。
『お前の魔力で王になれる!
こんなしみったれた世の中、お前には監獄に見えているんだろう!?
俺にはよくわかる!!俺が理解者だ!!』
古川の言っていることは先ほどから意味不明だ。
だがダンテには何となく察しがついたらしい。
「泣かせるね
お前のためにこの場所を作り変えたんだとさ」
「意味わかんないんですけど!?
ていうか結局私を利用してたのは誰ですか!」
「きっかけづくりはあのストーカーだが
作り変えたのもこの監獄も全部お前だとさ」
何を根拠にそんなことを言うのかわからない。
そもそも、限られた情報しかないのにそのように断言することができるのか。
古川は本来の声から様々な人間の声が混ざり始めた。
『ここでなら俺も最強だ!
青桐が女王蜂だ!!
この監獄が巣だ!!』
黙ってろと言わんばかりに飛び出た古川の顔を狙う。
痛みに短い悲鳴が出たがすぐに作り直される。
「まぁ、ここにきて試してはいたが
チカコ、お前さんの認識がそのまま投影されている
口揃えて悪魔が監獄と言ってるのは紛れも無いお前が監獄だと思っているからだ」
「は、はぁ?」
「実際チカコが恐怖を覚えれば悪魔は強くなる
俺がチカコを喜ばせたら悪魔が弱くなる」
「……ってことは私おだてられてただけ!?」
「俺はつまらん嘘はつかない」
はーーー!?
ブチギレながらも私は喜んでしまう。
萌えギレとかいうやつだとさっするがチョロい女とも思われても困る。
「お前わかりにくい癖に素直だな」
悪魔となった古川の動きが遅くなる。
「ちっっっがう!!
絶対嬉しいとかそんなの思ってないから!!」
「俺の話ちゃんと聴けてなかったか?ん?」
「ダンテさんに褒められてめっちゃ嬉しいって知られたくないもん!!」
にや〜と不敵な笑み。
私はそれどころではない。
大混乱が巻き起こっている。
『青桐!!そんなボンクラ信じるなぁあああ!!!』
要は私への口説き合戦。
私がコロっと転がった方がこの監獄での勝者だ。
『そもそもお前が!!全員悪魔にしたんだろうがこの魔女め!!!』
「はー!!?私は好き好んで悪魔にしたわけじゃないし!!
あんたが悪いんでしょ肉団子!!」
『ここを監獄にした以上もう元には戻れんぞ!!!
お前は一生人間に恨まれ続け化け物扱いされる運命だ!!!』
確かに!と妙な確信を得た。
私が原因ではないにせよ関わっていたなら非難を浴びるのはもっともだ。
しかも会社で生き残ったのは私だけとなるとなおさら。
『そうだ!!!ならここにずっといればいい!!!
ここに居ればその悪魔も留まり続ける!!!』
古川は妙に説得力のある言葉を放つ。
けれど私としてはそれは如何なものかとも思うし、ダンテのような人は根無し草で色んなところに行ってしまうだろう。
私はそれでは寂しいと思う程度には慕ってしまっていたのだ。
「なんだ、俺が恋しいのか?」
「違う!流石に期待しすぎ!!」
「なら俺がここから連れ出してやる」
変な理屈を捏ねられるより単純な根拠のない言葉が重く感じるのはここまで一緒に上り詰めたからだろう。
本当に連れ出してくれそうな気がした。
肉塊が小さくなった。
「でも、あの、私
私なんか連れ出して何の意味が」
もっと言葉が欲しいと思い、屁理屈を捏ねる。
ダンテは私を下ろして完全に口説くつもりで頰を指の背で撫でた。
「意味なんざあるか
連れ出したいと思ったら連れ出す
チカコは俺が連れて行く」
沸騰したヤカンのように顔が真っ赤になって湯気が出そうだった。
「こ、こんな状況だから言ってるのかもしれないけど!!
勘違いするでしょ!!」
「勘違いくらいしろ
責任は取る」
脳汁が溢れるという感覚を得た。
目の前がちかちかして、この暗い監獄が明るく感じた。
それから本気で照れて両手で顔を隠す。
狡い、一周回ってムカつく、イケメン、そんな単語が回る。
つまりはダンテといく世界が明るく感じてしまった。
「俺に連れ出されるのは嫌か?お姫様」
「う〜っ
そんなのっ、絶対楽しいに決まってるじゃんっ!!」
多幸感と希望と未来がひらけた気分になった。
その瞬間に肉塊と古川は悲鳴をあげる。
それまで受けた弾丸の傷が後を追うように体に戻り、最後は顔面の傷が戻って絶命した。
建物も大きく揺れ始め、壁や床のヒビが走る。
「ウソぉ!?」
「来いチカコ」
呼ばれて素直に抱きつく。
「そのまま離すなよ」
あ゛〜〜!!イケボ〜!!
脳裏は一瞬こんな奴にときめくなんて!!と恨めしいことを思ったがそれでも本能には抗えない。
しゅき!と手のひら返しをした。
壁が崩れたところへ走り抜けて外へ飛び出す。
太陽の光がとても眩しかった。
▪️
しばらくして私は病気で目が覚めた。
あのことは夢だったのか、なんて思った矢先に、コンビニのフルーツパフェを食べているダンテがそばにいた。
「ダンテさん…?」
ちゃんと逃げずにいたんだな、と見ていると急にダンテは英語で話し始めた。
「ほあ?」
なんであの場所では言葉が通じていたのに急に通じなくなったのだろう。
兎にも角にも理解不能で終始キョトンとしていた。
ダンテはため息をついて、それから横たわる私の前髪を優しく払った。
そして額に口が当たる。
「え、ひえ」
「Will come again」
「え?」
ぷに、と頰をつつかれてダンテは病室を離れた。
キスされた額を押さえて私は枕に顔を埋める。
そして枕に向かって叫んだ。
「いけめーーん!!!!!」
病室では静かに!と看護師に怒られてしまう。
監獄は崩れ、よくわからない現象に誰もが頭を悩ませる。
私は運良く助かっただけの会社員に成り下がっていた。
ともあれ疲労も怪我も治ったので退院の手続きを済ませた。
ただ黙って病院を出るとダンテがいた。
絶対職質されてるだろうという風貌だ。
「ダンテさん…私英語喋れなくて…」
コミュニケーションもままならないという状況にひどく落ち込んだ。
これから英語を勉強し直すのはきついものがある。
しょんぼりする私にニヤリと笑って歩き出した。
私も慌ててついていく。
やはりイケメンなので通り過ぎる人々の視線を集めまくった。
もちろん私もダンテをじっと見ている。
するととある店で足を止めた。
カフェだ。
店のウィンドウに並べられた作り物のデザートをじっと見ている。
「あ…もしかして、食べたい?」
つまり私は今回おごらされるためだけに来たようなものだ。
仕方なく街角のカフェに入る。
店員がドキマギしながら私たちに近づいた。
「2名さまですか?」
「あー、はい」
「禁煙と喫煙どちらがよろしいですか?」
「えっと…」
がっつりタバコ吸います、というような顔つきのダンテ。
確認のため単語をつぶやいた。
「Smoking?」
「No」
以外だ。
タバコは嫌らしい。
禁煙でお願いしますと言うと手頃の空いてる席に座った。
メニュー表を開いて見せてやる。
迷わずパフェに目がいったようだ。
それにしてもこんな人が甘党だとは知らなかった。
デビルハンターという過酷な職業柄、やはりストレスも溜まっているというのか。
「私抹茶パフェ
ダンテさんは?」
指で押す。
イチゴが乗ったそれを見る。
「ん…ふふ」
意外もここまで極まればギャップが可愛いものだ。
ちょっと笑ってしまった私の頰を摘んだ。
「ごめんなさいごめんなさい」
いちごパフェと抹茶パフェを注文し、二人こぞって夢中で食べ始める。
そして冷たさと甘さと渋さと堪能したところで、やっとあの変なダンジョンから抜け出せたのだと脳みそが理解した。
やはり甘いものは偉大だったのだ。
人間の叡智の結晶だろう。
食べ終わったところでじっくり携帯の翻訳機片手に辿々しく会話をしていた。
いつ帰るのか、お土産とか買うのか、そんなことだった。
最後に、ダンテさんちにいつか遊びに行ってもいい?というニュアンスの英語を見せれば変な顔した。
というか、何を言ってるんだという顔。
そんなに嫌なのかと落ち込んだのもつかの間、ダンテがポケットに突っ込んでいた紙切れを押し付けてきた。
「すかいちけっと…飛行機!?」
「yap」
「うううう、嘘だ!だってダンテさん一文無しじゃん!!」
このパフェだって私につけられているのだ。
そんな金もないのに飛行機のチケットなど払えるものかと思ったが、発想を逆にしてみる。
チケットを買ったからお金がなくなったのでは?
チケットを額につけて、息をこぼす。
本当に私を連れて行く気のようだ。
約束通り置いていくことなく。
ちらりとダンテを見ると、得意げに口角をあげた。
私もつられて笑ってしまう。
「ところで飛行機の発着は…」
4日後だった。
正しくは4日後の朝イチ。
つまり、3日間でアパートの解約やあれこれ走り回らなくてはならないのだ。
財布を取り出し、札を叩き出す。
「3日後ここで!」
徹夜で頑張るしかない。
むしろここが頑張りどころだろう。
急ぎ足でカフェを出た。