デフォルトはフラン
星の下に生まれる
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星穹列車に乗っているナナシビトは善行を良しとする。そんな話をどこかで聞いた。まるで日曜日の朝に見る番組のストーリーのようだと感じる。仙舟「羅浮」の星核問題、ならびに反物質レギオンの侵入はそんな彼らの助力があって解決した。邪魔に思うはずもないが実際に見たことがないのでどこか他人事のように思うのだ。しかし実際に会ったらいろんな事を聞いてしまうに違いない。他の惑星、旅の道行き、出会った人々、全て同じではないのだから。
フランは御空からの連絡により天舶司に呼び出された。とは言ってもフランも天舶司から手伝って欲しいと言われ星核問題の後から一部業務を肩代わりしていたのだ。羅浮内部のことを知っていい人間はそう居ない。都合のいい助っ人として天舶司だけじゃなく他の所轄にも顔を出しているので権限の許可は降りている故に小回りが効く。それに御空のメンタルも気になっていたのでフランはすぐに即答したのだ。
廻星港であらかた調べ物をした後に呼び出しに応じて天舶司へ向かう。するとそこには見慣れない人物が三名いた。御空とも顔見知りのようで邪魔しないよう離れたところから眺める。そんなフランを気遣った職員が御空に声をかけるとあの大きな耳がぴくりと動いて目が合った。
「フラン様、呼び出しに応じていただきありがとうございます。遠慮せず声をかけていただいても良いのですよ」
「何か込み入った事情を説明しているようでしたから……すみません」
男性一人、女性二人。うち一人の淡い桃色髪の女性はフランを見るとにこっと笑って見せた。
「あんたも天舶司の人?御空さんが言っていた同行人?」
「……おそらくそうです」
なるほど、彼らがナナシビトなのだと察して御空を見る。御空は一つ咳払いをした。
「先ほど天舶司は以前から調査をしていたと伝えましたがその調査員が彼女、フラン様です」
「御空さん、察しました。私の補佐としてある程度彼女らを使っても良いという事ですね」
「はい、左様です」
「状況は各メッセージに送信させていただきます。確認し準備ができたら同行を開始しますのでよろしくお願いします」
人員を出すのはいいが、よりによってナナシビトとは思いもしなかった。それぞれのメッセージ欄にこれまでの調査内容と経緯、これからの行動を簡潔にまとめて送信する。御空に少し頭を下げてその場を去る。天舶司の入り口で待っている間読みかけの本を開いた。
「お待たせしてすまない」
十分ほどだろうか。ちょうど章が終わったところで声がかかった。男性の声に本を閉じてバッグに入れる。目の前の三名は緊張するでもなくフランの前に立っていた。
「いいえ、改めて、私はフラン。仙舟“羅浮”では便利人として行動しています」
「フランさん、初めまして。俺はヴェルト・ヨウ」
「あたしは三月なのか!よろしくね便利屋さん!」
「星、よろしく」
早速今後の行動…廻星港での聞き込みを開始するため移動をするが、三月なのかは後ろから遠慮がちに手を上げた。
「あの〜……質問があるんですけど」
「お答えできるものなら」
「便利屋さんって天舶司のお役人さんなの?」
てっきりこれからの仕事の質問かと思っていたがそうではなかった。フランは間を開けて返答する。
「厳密に言えば私は働いていません。働かなくて済むようになっています。ですが将軍と符玄様のお達しで定期的に羅浮全ての管轄へ助っ人として出向いています」
「へぇ〜……いろんなお仕事して大変そう。でも頼りにされてるから様付けで呼ばれてるのかな?御空さんとは付き合い長いの?」
「あの、仕事の質問なら問題ありませんがこれ以上はお答えできません」
え!?と純粋に驚く三月なのかにヴェルトは首を横に振って制していた。あまり語りたくないことを察したようだ。
「なら仕事の質問をしたい」
今度は星が手を上げた。どうぞ、と言えば遠慮なく口を開く。
「何を聞き込みすればいい」
「…………」
メッセージに送ったはずなのだが、読んでいない。もしくは理解ができない。フランは開いた口が塞がらない。少なくとも報酬が出る以上誠実に対応するのが常識だと思っていた。けれどナナシビトはそうではないようだ。
ヴェルトはフランの様子を見て助け舟を出した。
「掻い摘んで説明すると、今回は廻星港に不正輸入される外来生物の摘発だ。星核の件もあり厳重な警備を敷いているが騒ぎに乗じて外来生物が民間の手に渡ったと自白した。外来生物の捕獲と輸入者の特定をするためにこれから聞き込みを行うんだ」
星だけでなくなのかまで、ふうん、と返事する有様。まともに仕事をする気があるのはヴェルトだけらしい。当てにしないほうがいい。あるいは雑用だけさせていれば良いとフランは自分を宥めた。
「外来生物とわかっていて受け取っていた人はどうなる?」
「個人情報を特定し、罰金の支払いをさせます。そのあたりは私が対処しますのであなた達は特定さえしていただければ」
「わかった」
本当か?と怪訝な顔をしていたようだ。ヴェルトはすかさず次の質問をした。
「外来生物はどう特定すれば?我々ではわからない場合もあるだろう」
「捕獲し写真を撮って私へ送信してください。捕獲器は雲騎軍が持っていますのでこれから私が受け取りにいきます。あなたたちはその間聞き込みをお願いしていいですか」
「了解した。なのか、星、それぞれエリアを分担しよう」
廻星港につくとたくさんの星槎が着港しコンテナを流している。ここらでの調査をしていたフランはすでに顔を覚えられていて嫌な対応しかされていなかった。このタイミングでナナシビトがきたのは確かに幸いだろう。
「大変とは思いますが聞き込みから情報を仕入れてください。お願いします」
一つ頭を下げた後フランは雲騎軍の停留所へ向かった。十分離れたあと、なのかは感想を口にする。
「あの子、淡白っていうか……」
「なのか、彼女は仕事熱心なだけだ。さぁ、仕事を始めよう」
「じゃあ行ってくる」
星は特に興味が無いようですぐ決められたエリアへ向かった。確かにはしゃぐ仕事でもないのだがどうせやるなら楽しくやった方がいいに決まっている。なのかは少しむくれながら担当エリアへ向かった。
「すみませーん!ちょっと教えて欲しい事があって!」
エリアに着くや否やコンテナの上で談笑している職人がいた。なのかが声を出して手を振るとコンテナから降りて近づく。
「なんだ?見た事ないかっこうしてるな」
「あ、ええと外から来てて……」
「ああ、短命種か、それで俺たちに何のようだ?」
短命種と言われることには慣れた。しかし羅浮に住んでいる短命種は陰口を言われたり、仕事与えられなかったりと差別を受けている場面を何度か見た事があった。短命種と言われるたびにこの船に生まれなくて良かったと思う。
「天舶司から外来生物の捕獲をするよう頼まれてるんだけど、このあたりで見たことはない?それか外来種を運んでる人がいたり……」
なのかは仕事で聞いただけなのだが彼らは心底うんざりした表情をみせた。もう一人は半笑いで肩をすくめる。
「あの便利屋の仕事か?よくやるよあの短命種も」
「短命種同士、気が合うんじゃないか?」
話が噛み合っていないような気がしたが頭の中でいろんな状況を整理する。五秒かかったが、なのかは無事に擦り合わせができた。
「あの子短命種なの!?」
「なんだ、知らないのか」
「羅浮の人間なら短命種っていうと真っ先にフランを出すぜ」
あまりの事実に呆けたが必死に本来の仕事を思い出す。
「って、そうじゃなくて、外来生物!」
「見てない見てない」
「ブリーダーも摘発されたし、もう外来生物騒ぎも落ち着いただろ。いくら仕事がないからってそんな小さい虫を潰すような仕事させなくてもなぁ?」
全くだといって二人はそのまま談笑を続ける。なのかはフランと気が合いそうにはないものの、二人の態度にムッとしたのも事実。眉間に皺を寄せながら次の聞き込みへ向かった。
二時間の聞き込みの間ヴェルトは荷物付着した宇宙生物を発見。そのまま駆除をし、害虫被害報告は運送者が行う手筈となった。星は隣の部屋から聞いたこともない音がして困るという話を聞いて道すがら立ち寄ると巨大な飛行型昆虫が襲いかかったのでバットでぶん殴り死骸を引きずって待ち合わせまでやってきた。
一方なのかはフランの悪口ばかり聞かされてイライラを隠せないままだった。
「確かに愛想ないけどいくらなんでもそんなに言うことないでしょ!」
「一体どんな聞き込みしたんだ二人とも…」
そうこうしていると台車に捕獲器を載せたフランがやってきた。死骸を引きずっている星を見て足が止まり、その場で立ち尽くしている。星が一歩前へ進むとフランは下がる。
「星はそこで止まりなさい。私がまとめて報告してこよう」
遠くで二人が話し合いをしている間、なのかは星にこれまでのことを話した。フランは短命種であり、羅浮のために働いているのに差別されて果てには馬鹿にされているとも。
「将軍に言った方がいいと思わない!?こんなの絶対おかしいって!」
「お待たせしました……何か問題が?」
静かな目つきになのかはつい首を横に振ってしまう。
「星さん、外来生物がいた現場を案内してもらえますか?繁殖していないかも確認をしたいので」
「わかった、ついてきて」
「あ、いいえ、場所だけ教えて貰えば…その昆虫の遺体も捕獲器に入れて私が持っていきます」
星に襲いかかってきたとはいえ殺したのは間違いなく星穹列車の一員だ。ヴェルトは二人の間につい口を挟んだ。
「すまない、フランさん、先ほども報告したが我々の責任でもある。一緒について行った方がいい」
「いいえ、効率が悪いです。皆さんは運送会社に割り当てられた倉庫に向かい、害虫駆除をお願いします。今メッセージに許可証を送信しましたので」
それ以上何も言わせないために捕獲器を持って現地へ向かう。ヴェルトはフランが代わりに謝罪と罰金の支払い要求に行ったのだと知りその背中を見つめていた。そんな様子を見逃さないなのかは痺れを切らしたように提案する。
「じゃあ早く駆除しに行こうよ!三人いればすぐ終わるでしょ!捕獲器もあるんだしさ!」
「ああ、そうだな。急ごう」
倉庫弐番百釟号。三人が向かうと丁度虫がいたとのことで職員が駆除作業に追われていた。
「害虫駆除で来ました!捕獲器つかいます!」
なのかが声を張り上げると職員は捕獲器を持って等間隔に配置する。中には餌が入っていて、しかも害虫が出すフェロモンを仕込んでいる。それに誘われて捕獲器へ入っていくという寸法だ。
しかし倉庫の中には大きく育ってしまった成体もいる。これらはナナシビトが物理的に駆除することで事なきを得た。
ここまでノンストップで動き、これからフランの元へ向かう。やることが…やることが多い…!とヴェルトは思っていたが下手すればなのかよりも年下の子にクレームを任せるなど良心が耐えられない。
星が先導し、長楽天へ向かう。居住区が集まる場所で怒号が聞こえた。
「お前が俺の可愛いきゅるてんたそを殺したんだから罰金なんて払うわけねぇだろ!」
「いいえ、払ってもらいます。下手すれば近隣住民が怪我をしていた可能性もあります。今後そのことがないように罰金制度があります」
「話にならねぇよ!」
「それから繁殖されていないかの確認が必要です。これが許可証になります」
ホログラムで映し出された数々の書類。しかし「きゅるてんたそ」を飼っていた男は激昂しその腕を払った。
「でまかせだろそんなの!!」
「いいや、我々は天舶司の御空さんから指示を受けて行動している。家宅捜索の許可が降りているのは確かだ」
ヴェルトが割って入り男を諌める。三名の出現に見開いていたがすぐ敵対する。
「なんだお前達!殊俗の民か!?そうやって仲間を増やして押し入ろうったってそうはいかないぞ!」
「私は銀河打者」
「うるせぇ!」
星の突然の発言にも男はめげずに反抗を続ける。ペットを殺された悲しみはわかるが襲いかかる相手が飼い主であったら今頃死体を貪られていただろう。
「これは法律です。絶対に守るべき強いルールです。これ以上抵抗するなら雲騎軍が出動することになります」
「やってみろよ!将軍がペットを飼っていいのに俺がダメだなんてそんなルール通用するかよ!」
「…………」
フランは真顔でドアを閉めた。そして隙間に接着剤を塗り始める。ドアだけでなく窓も同じく。
「ひどい言い方だったけどそこまでしなくても……」
「三月さん、これは認められている行為です。私怨でやっているわけではありません」
しかし先ほどより覇気のない声。隙間を塞ぎ、虫が羽化して飛び去ることを防ぐ処置が終わった後、星は声をかけた。
「大丈夫?」
「……ええ、まぁ、いつものことです……それより雲騎軍に連絡をします。彼を一時的に勾留し、その間に家宅捜索を行います」
フランは離れた場所で雲騎軍の停留所と連絡を取り合った。
「彼女には少し休んでもらおう。捜索は俺たちでやった方がいくらか負担は軽減されるはずだ」
「うん、そうだね……」
あれだけ言われても声を荒げず真っ直ぐ対処する姿勢をすごい、と評価はできない。何故なら「それが自分に与えられた役目だから」とまるで背中が語っている。もどかしくなりながらもフランを見つめていると、何か問答を繰り返していた。埒が開かないのか、フランは「もういいです」と言って切る。
「どうしたの?雲騎軍は?」
「人員が足りないそうです。ですので神策府に向かい対象捕縛許可を貰いに行きます。彼が窓を破壊して逃げる可能性がありますので私はここを見張ります。神策府の者に私の名前を出してください。きっと捕縛許可が降ります」
「……許可はなのか、星が取りに行ってくれないか?俺もここで見張っておこう」
なのかと星は頷いてすぐ神策府へと向かう。フランは玄関の扉をじっと恨めしそうに見ていた。
「フランさん、ここは俺が見ておくから離れて少しでも休むといい」
「いいえ、これは私に任された仕事です。ナナシビトに任せるわけにはいきません」
だがその手は少し震えていた。ヴェルトは自分の子どもを思い出して隣に立った。
「フランさんはいつもこういった仕事を?」
「……はい、でも、毎日ではないです。楽なものもあれば今日みたいに面倒が重なる時もあります」
「そうか……とても真面目なんだな。けど辛いときは辛いと言った方がいい。我慢しているのを見ている側も意外とつらいものだから」
扉を見ていた視線が下がる。ぼーっとして、思い出したように呟いた。
「私の養父もそう言っていました」
「良い父君なんだな」
「……まぁ、そうですね。恵まれていると思います」
◆
神策府に辿り着いたなのかと星はフランの名前を出して捕縛許可を早速貰っていた。しかしなのかはここぞと言わんばかりにこれまでの鬱憤を言い放ったのだ。
「フランちゃん、すっごく真面目なのに街の人から短命種とかペットとか好き放題言われてるんだよ!?なんかこう、取り締まった方がいいよ!」
「ま、まぁ…そうですが……」
「便利屋便利屋って、便利に使ってるならなんとか守ってあげないの!?すっごく可哀想だよ!!」
気まずそうな顔で一同目を逸らす。今までなのかは声をあげていたが無口だった星がとうとうでかい爆弾を落とした。
「どうにもしないなら私たちが貰っていく」
それまで面白いくらい我関せずを貫いていた者たちが星をみる。まるでスポットライトに当てられた心地だ。
「それは困るなぁ」
のんびりした声が真後ろから聞こえる。気配もなく二人の背中を取っていたのは仙舟「羅浮」の将軍、景元だ。今度は二人が景元を見上げる。
「えっ、ええ!!いつの間に!?」
「ついさっきだよ。フランが捕縛許可を取るなんて、雲騎軍は何をしている?」
景元の穏やかでいながらも冷たさを帯びたセリフに職員は背筋が凍った。目の前に対峙している職員はたじたじになり上手く言葉を発せていない。代わりに星が事情を全て説明することになった。
「そうか……なるほどね。なら私がいこう」
「え!?いいの!?」
「もちろん。フランが困っているのであれば尚更」
にこりと笑顔を浮かべるがいつもより穏やかではない。いや、表面上はいつもと同じだ。しかしじわりと浮かぶ空気は確かに重い。
「フランとはどういう関係?」
「あれ、言っていないのかい?私はフランの父だよ」
「うそ!?でも、短命種だって…」
「もちろん義理だよ。さ、フランが待っている。急ごうか」
将軍を連れて戻ってくるまで、フランはヴェルトに他の世界のことを聞いていた。随分大人びていると思っていたが目をキラキラさせて好奇心のままに質問する姿は子どもだ。ヴェルトは初めてフランの笑顔を少しだけ見ることができた。
「厳選された植物はとても獰猛で、狡猾だ。しかし原住民はそんな植物を家畜化し共生しているんだ」
「すごい…そんなふうにできるなんて」
「ああ、人間の可能性を感じさせてくれる星だった。俺もあの星のデータを時々読み返すんだ」
話に花を咲かせる二人になのかが元気よく声をかける。「おーい!」という声に振り返ると将軍がいるので二人は石のように固まった。特にフランの心労はピークを迎えている。
「フラン、また苦労をかけたようだね」
「景元将軍……なんでここに……」
「心配だからに決まっているだろう?」
「だからって…………前にも言ったじゃん!!子どもの職場に顔を出すなって!!授業参観じゃないんだから!!」
それまで真顔だったフランが血管を浮かせながら声を荒げる。真面目で静かな印象など彼方へ吹き飛んでしまう。
「ええと…なのか、どういう状況だ?」
「フランちゃんの義理のお父さんが将軍」
「そうなのか!?」
人の縁とは摩訶不思議なものだ。とはいえフランはまさか将軍が出てくるとは夢にも思っていなかっただろう。
「暇なの!?暇じゃないでしょ!?符玄さんに言いふらすからね!!」
「まぁまぁ、話に聞いたけどまた雲騎軍が動いてくれなかったんだろう?」
「……」
「大丈夫、私から勧告をする。今回で彼らもフランを蔑ろにできなくなるだろう」
フランは景元の顔を見て、俯く。子持ちの父親たちは直感的にまずい!と思ったがそれよりも先にフランはその場から逃げてしまった。
「ちょ、ちょっとフランちゃん!」
「確かにクレーム現場に親が来ると恥ずかしいし情けなくなるかも」
「そうなの!?星もっと早くにいってよ!!」
景元は苦笑して矛を取り出した。光を纏う様子は威厳に満ちているがどうにも今この状況では似つかわしくない。
「け、景元将軍?」
「さて、可愛い我が子の仕事を代わりに果たそうか」
「まって、待って待ってやばい!」
列車組は走って逃げる。景元は憂さ晴らしのように矛を振るうと玄関ごと真っ二つになり建物はひどい有様。土埃が舞い、その中で腰を抜かす男がいた。
「しょ、しょしょ将〜……」
「やあ、君か?外来生物を飼育していたのは」
「しっ、し、し死〜〜……」
「うんうん、死んでるね。見事な一撃だ。だが、外来生物は一匹たりとも逃してはならない。大掃除といこうか」
長楽天の一部で光が放たれる。男は光の中にゆっくり包まれる。圧倒的な力で部屋は綺麗さっぱり掃除されたのであった。
膝を抱えて泣いていた。将軍がいないと仕事ができないと思われて失望されるのが嫌だった。周囲の者たちにいかに自分を認めさせようとしても将軍の威光にかき消えてしまう。何度も、こんなこと辞めよう、もう家で引き篭もるか羅浮を出ようと思っても逃げ出せずにいた。
「フラン、探したぞ」
「帰らない」
景元はいつもこうやってフランを迎えに来る。隣に座って静かに話しかける。
「停留所の雲騎軍には言っておいた」
「どうせ……半年すればまた言うこと聞かなくなる」
「困ったものだ。フランにはそれ相応の権限があるというのに」
「……ごめんなさい。仕事、上手くできなくって」
涙を抱えて震える声を聞いて肩を抱き寄せる。
「フランはよくやっている。フランは良い子だって言ってくれる者もいるんだ。色んなことを頑張ってくれているおかげで助かっている。そのことは忘れないでくれ」
「……あの人どうなったの」
「綺麗に掃除をしてあげたら泣いて罰金を払ったよ」
「……へ、へえ」
神君を使ったに違いない。確かにクレームを言われた恨みはあるがあの巨大な神君と共に武器を構えられるなんて哀れだ。
「それより、どうする?天舶司の仕事は一度保留にしていくかい?」
「……ううん、やる」
「そうか。なら明日も仕事だ。食事をして休もう」
手を引いて立ち上がる。悔しくていつも泣いて目元が赤い。こんな横顔は昔から何度も見てきた。
「でも列車の人たちに、あんまり迷惑かけられないから…業務外して欲しい」
「ははは、今日のフランを見てやる気に満ち溢れていたのに」
「……どうして?」
「どんな状況でもめげないところはナナシビトの精神に通じる。そこに感化されたんだろう」
何も言わない帰り道。将軍とその娘が帰っているのを見て何者でもない通行人は、相変わらず仲がいいと羨ましそうにしている。
「フラン、君は他でもない、私の子で……最年少で学校を卒業した。そんな君だから君にしかできない仕事を与えている。自分の仕事に胸を張るためにも使える権力は自分で使いなさい。それを悪というのなら私が責任を取る」
「…………うん」
将軍は優しく心が広い。こうして迎えにくるとわかっていてフランはわざと一人膝を抱えてもいたのだ。けれどそうしていたって何も変わらないしいつまでも将軍の庇護下に収まるばかり。体だけデカくなってもまだ子どもだと自覚させられていた。
◆
翌日も外来生物の取り締まりに当たった。長楽天の騒ぎを聞いたことと雲騎軍も将軍から直々に苦言をされたのでフランの指示に従っていた。なのかは最初から言うことを聞いていればいいのにと愚痴をこぼす。
大規模な取り締まりを行い、結果的にさらに外来生物の捕獲と密輸者の逮捕まで至る。フランは自分の仕事がようやく終わると確信していた。
「列車の皆さん、今日はありがとうございました。報酬は御空さんより支払われます。報告は私からします。外来生物捕獲の業務は以上で終了です。」
「終わったー!」
なのかは両腕を挙げて喜ぶ。そんな中雲騎軍の一人がフランの元へ駆け寄った。
「フラン様!たった今新たな外来生物が!」
「案内をお願いします!」
「俺たちも同行しよう」
ようやく終わるところだったのにという不満を言っても仕方がない。フランはと列車組は走って現場に向かうと、体が大きな犬のような生物が二匹いた。しかも口が大きく開くと触手が飛び出て雲騎軍を攻撃している。
「大変!止めなきゃ!」
なのかは矢を番えるがフランが手で制した。そして大声を出す。
「全員防御態勢を取って!一定距離を保ってください!」
強い声に誰もが指示に従う。すると暴れていた外来生物は二匹で固まり攻撃をやめた。
「やっぱり、あの二匹は番です。本で読みました。ナワバリを意識する生物と思います」
「けどどう捕獲する?」
フランは少し考えて周囲の地図を出した。そして地図を見ながら再び指示を下す。
「西の通りへ誘導してまたこの場所へ追い込みます!安全のため路地への横道は全て閉鎖!雲騎兵士二十名は私に着いてきてください!残りは捕獲器を展開し待機!」
走り出すと外来生物二匹は危険を察知するまま西の通りへ走り出した。列車組はヴェルトの判断によりなのかがフランの後を追う。少しでも裏路地に入るそぶりを見せるとなのかの弓で行動を防ぐ。そうしながら一周し先ほどの広場に戻る。足を踏み入れた生物は捕獲器に捕まり身動きが取れなくなった。もう一匹は踏みとどまるが背後にいるのは雲騎軍。逃げ場がなくなった外来生物の次の行動は“抵抗”だった。
再び大きく口を開き触手を硬化させ槍のように凄まじいスピードで穿つ。先ほど広場で見せた抵抗はささやかな攻撃でしかなかったのだ。
フランはすかさず前に出て棍平で軌道を逸らす。同時に腕を負傷したが、柄から伸びる鎖を伸ばして口を縛り上げた。互いに引っ張り合い、綱引きになると思いきやフランは棍平から手を離す。その勢いで後ろへ転がり捕獲器に足を踏み入れることになった。
「フランちゃん大丈夫!?」
なのかはすぐ駆け寄りフランの腕を手当てした。だが止血をしただけでそれ以上の手当を受けなかったのだ。
「ありがとうございます。なのかさん。現場指揮をしなければなりませんので大丈夫です」
「結構深い傷だよ!ほら、すぐ丹鼎司の人に診てもらったほうがいいって!」
「はい、すぐ行きます。ですがまずは指揮をしなければ。そうでないとこの後の彼らの業務が滞りますので」
テコでも動かないかもしれない、と思わされた矢先、運良く別の助っ人が現れた。白と青の眩い存在は声までも明るい。
「なんじゃフラン!また怪我をしたのか!」
「白露様、どうして」
この機会を見逃すなのかではない。すぐ白露を目の前に連れてきて手当てするよう促したのだ。
「私が何言っても仕事が先って聞いてくれないの!手当てしてあげて!」
「もちろんじゃ!怪我人を治すのはわしの役目!フラン、絶対に動くでないぞ!」
周囲を見渡すがお付きの者がいない。つまりまた屋敷から抜け出したのだろう。フランはため息を堪えて呟くように苦言した。
「白露様、あまり私が言うことでもないのですが、つい先ほどまでこの場所は戦闘区域でした。もう少し登場が早かったなら私ではなくあなたが怪我をしていたかもしれません」
「わしが来たおかげで治療ができたんじゃろ!わしに説教するなど五億年早いわ!」
結局治療を受けながらフランは口頭で指示をする。時折白露がフランを見上げては少しだけ眉をしならせていた。
「ありがとうございます、白露様、なのかさん。手当てしてくださったおかげで報告ができます」
「わしが手当したのはこのまま安静にさせるためじゃ!」
「すみません、けどそんな時間はないんです。やる事が山積みなので」
仕事がひと段落した星、ヴェルトも集合する。フランの指示により先に御空へ今回の外来生物の報告を依頼していたのだ。
「フランさん、彼女の言う通り唯一怪我をしたのだから休んだ方がいい」
「いいえ、仕事は待ってくれません。私は短命で時間は限りなく有限です。最大限有効活用しなければ」
その言葉がフランの全ての行動指針を表していた。ゆったりと進む時間感覚と逆行するように急ぐフランは良くも悪くも羅浮での生き方を見出している。ヴェルトはフランの思想を見抜いたが指摘すべき事ではない。その思想はフランにとって最も大切で、もし羅浮の時間に任せて生きていれば人生を無意味に終わらせてしまうと分かりきっていた。
「しょうがないのう…その仕事とやらにわしがついていく!仕事が終わったらしっかり寝るようにな!」
「白露様私を暇つぶしに使ってません?」
「わしの大事な患者を暇つぶしに使うものか!」
軽口を叩き合う二人を見てなのかは星とヴェルトに近づく。
「思ったより仲良いみたい。フランちゃんのことは白露ちゃんに任せていいのかも」
「ああ、そうだな。御空さんに報告したところ、先ほどの外来生物は危険指定されているものだそうだ。急ぎ神策府へ一報を入れて欲しいと指示を受けた」
「外来生物を駆除するって言ってた」
捕獲器越しに二匹の番は鳴き合う。台車に乗せている間も暴れて抵抗し続ける。
「あ、御空さんへの報告ありがとうございます。ところで結果はどうでしたか」
「神策府にも報告することになった」
星が端的に答えると真剣な顔をして外来生物を見つめる。
「……あの生物は危険指定生物Ⅳです。殺処分は免れないでしょう」
「やはり、生き物にかなり詳しいんだな。読んでいた本も生き物に関連するものだったし、本当は外来生物を守ってやりたいんじゃないか?」
フランは何も言わない。守りたいとはいえその後どう責任を取れるのか、きちんと保護してやれるのか、フラン自身もわからなかった。
「私も神策府に行きます。いきましょう、白露様」
「うむ……」
一行は静かな雰囲気のまま神策府へと赴いた。ちょうどホログラムの景元が職員の書類に目を通している時だったようだ。
『おや、外来生物特定班……右腕の傷、そして龍尊……何かあったのかな?』
「外来生物捕獲時に私がヘマをしただけです。ちょうど通りかかった白露様に手当していただきました」
『そうか、ありがとう白露殿。また面倒をかけてしまったね』
「フランはわしの友だち兼患者!当然のことをしたまでじゃ!」
抜け出した白露とフランが時々遊ぶことはあったがフランが仕事を始めてから関係は疎遠になってしまった。とはいえそう思っているのはフランだけで、たかだか二、三年会わないのは羅浮の住人にとって当たり前。白露は当初、成長したフランに驚きはしたものの変わりない様子に素直に喜んでいた。景元もふたりの関係性は穏やかで良いものだと認識している。
「将軍、今回俺たちが赴いたのは、その外来生物が危険指定された生物だったからだ」
景元はかすかに眉を動かす。腕を組み静かに話を聞き始めた。
「番で捕獲したがコンテナに潜んでいたようだ。他のコンテナも捜索したが他の生物はいなかった。御空さんは一時間後に正式な報告をあげるとも言っていた」
『なるほど、君たちが神策府に報告に来た理由がわかった。すまないが列車組はフランを屋敷まで護衛してくれないか』
護衛、という言葉に目を見開いた。景元がその言葉を口にする時、フランは今どういう状況下にいるのか理解していた。
「……景元さん」
『フラン、一度手を引きなさい。そして屋敷から出ないように』
そう言った途端、神策府の職員が慌ただしく動き始めた。データを拾う機器が音を立てて結果を職員に伝える。慌ててやってきた職員が景元に報告した。
「た、たった今、外来生物が爆発……周囲の雲騎軍兵士三十六名負傷、十七名重傷とのこと。自爆器官のない生物のため、外部から自爆機能を取り付けられたものと思われます」
フランは俯く。そして腕の傷を押さえて悔し涙を流した。
『……今、その場にいない事が無念でならないよ、フラン』
動物が好きでいろんな本を読んでいるのを知っているからこそ、フランの悔しさは誰よりも理解できていた。もしこの場にいたなら人目を憚らず抱きしめていただろう。
『列車諸君、今回のこの外来生物爆発の件は君たちには関連性のないことだ。屋敷まで護衛した後は……手間をかけるが白露殿も送ってあげてくれないか』
「ああ……将軍がそういうのなら尊重する。だがもし手助けが必要なら星穹列車はいつでも力になれると断言しよう」
『ありがとう、そう言ってくれると心強い』
一行は神策府を後にした。フランは自分で涙を拭いながらも、足元しか見れないまま歩いた。
フランは御空からの連絡により天舶司に呼び出された。とは言ってもフランも天舶司から手伝って欲しいと言われ星核問題の後から一部業務を肩代わりしていたのだ。羅浮内部のことを知っていい人間はそう居ない。都合のいい助っ人として天舶司だけじゃなく他の所轄にも顔を出しているので権限の許可は降りている故に小回りが効く。それに御空のメンタルも気になっていたのでフランはすぐに即答したのだ。
廻星港であらかた調べ物をした後に呼び出しに応じて天舶司へ向かう。するとそこには見慣れない人物が三名いた。御空とも顔見知りのようで邪魔しないよう離れたところから眺める。そんなフランを気遣った職員が御空に声をかけるとあの大きな耳がぴくりと動いて目が合った。
「フラン様、呼び出しに応じていただきありがとうございます。遠慮せず声をかけていただいても良いのですよ」
「何か込み入った事情を説明しているようでしたから……すみません」
男性一人、女性二人。うち一人の淡い桃色髪の女性はフランを見るとにこっと笑って見せた。
「あんたも天舶司の人?御空さんが言っていた同行人?」
「……おそらくそうです」
なるほど、彼らがナナシビトなのだと察して御空を見る。御空は一つ咳払いをした。
「先ほど天舶司は以前から調査をしていたと伝えましたがその調査員が彼女、フラン様です」
「御空さん、察しました。私の補佐としてある程度彼女らを使っても良いという事ですね」
「はい、左様です」
「状況は各メッセージに送信させていただきます。確認し準備ができたら同行を開始しますのでよろしくお願いします」
人員を出すのはいいが、よりによってナナシビトとは思いもしなかった。それぞれのメッセージ欄にこれまでの調査内容と経緯、これからの行動を簡潔にまとめて送信する。御空に少し頭を下げてその場を去る。天舶司の入り口で待っている間読みかけの本を開いた。
「お待たせしてすまない」
十分ほどだろうか。ちょうど章が終わったところで声がかかった。男性の声に本を閉じてバッグに入れる。目の前の三名は緊張するでもなくフランの前に立っていた。
「いいえ、改めて、私はフラン。仙舟“羅浮”では便利人として行動しています」
「フランさん、初めまして。俺はヴェルト・ヨウ」
「あたしは三月なのか!よろしくね便利屋さん!」
「星、よろしく」
早速今後の行動…廻星港での聞き込みを開始するため移動をするが、三月なのかは後ろから遠慮がちに手を上げた。
「あの〜……質問があるんですけど」
「お答えできるものなら」
「便利屋さんって天舶司のお役人さんなの?」
てっきりこれからの仕事の質問かと思っていたがそうではなかった。フランは間を開けて返答する。
「厳密に言えば私は働いていません。働かなくて済むようになっています。ですが将軍と符玄様のお達しで定期的に羅浮全ての管轄へ助っ人として出向いています」
「へぇ〜……いろんなお仕事して大変そう。でも頼りにされてるから様付けで呼ばれてるのかな?御空さんとは付き合い長いの?」
「あの、仕事の質問なら問題ありませんがこれ以上はお答えできません」
え!?と純粋に驚く三月なのかにヴェルトは首を横に振って制していた。あまり語りたくないことを察したようだ。
「なら仕事の質問をしたい」
今度は星が手を上げた。どうぞ、と言えば遠慮なく口を開く。
「何を聞き込みすればいい」
「…………」
メッセージに送ったはずなのだが、読んでいない。もしくは理解ができない。フランは開いた口が塞がらない。少なくとも報酬が出る以上誠実に対応するのが常識だと思っていた。けれどナナシビトはそうではないようだ。
ヴェルトはフランの様子を見て助け舟を出した。
「掻い摘んで説明すると、今回は廻星港に不正輸入される外来生物の摘発だ。星核の件もあり厳重な警備を敷いているが騒ぎに乗じて外来生物が民間の手に渡ったと自白した。外来生物の捕獲と輸入者の特定をするためにこれから聞き込みを行うんだ」
星だけでなくなのかまで、ふうん、と返事する有様。まともに仕事をする気があるのはヴェルトだけらしい。当てにしないほうがいい。あるいは雑用だけさせていれば良いとフランは自分を宥めた。
「外来生物とわかっていて受け取っていた人はどうなる?」
「個人情報を特定し、罰金の支払いをさせます。そのあたりは私が対処しますのであなた達は特定さえしていただければ」
「わかった」
本当か?と怪訝な顔をしていたようだ。ヴェルトはすかさず次の質問をした。
「外来生物はどう特定すれば?我々ではわからない場合もあるだろう」
「捕獲し写真を撮って私へ送信してください。捕獲器は雲騎軍が持っていますのでこれから私が受け取りにいきます。あなたたちはその間聞き込みをお願いしていいですか」
「了解した。なのか、星、それぞれエリアを分担しよう」
廻星港につくとたくさんの星槎が着港しコンテナを流している。ここらでの調査をしていたフランはすでに顔を覚えられていて嫌な対応しかされていなかった。このタイミングでナナシビトがきたのは確かに幸いだろう。
「大変とは思いますが聞き込みから情報を仕入れてください。お願いします」
一つ頭を下げた後フランは雲騎軍の停留所へ向かった。十分離れたあと、なのかは感想を口にする。
「あの子、淡白っていうか……」
「なのか、彼女は仕事熱心なだけだ。さぁ、仕事を始めよう」
「じゃあ行ってくる」
星は特に興味が無いようですぐ決められたエリアへ向かった。確かにはしゃぐ仕事でもないのだがどうせやるなら楽しくやった方がいいに決まっている。なのかは少しむくれながら担当エリアへ向かった。
「すみませーん!ちょっと教えて欲しい事があって!」
エリアに着くや否やコンテナの上で談笑している職人がいた。なのかが声を出して手を振るとコンテナから降りて近づく。
「なんだ?見た事ないかっこうしてるな」
「あ、ええと外から来てて……」
「ああ、短命種か、それで俺たちに何のようだ?」
短命種と言われることには慣れた。しかし羅浮に住んでいる短命種は陰口を言われたり、仕事与えられなかったりと差別を受けている場面を何度か見た事があった。短命種と言われるたびにこの船に生まれなくて良かったと思う。
「天舶司から外来生物の捕獲をするよう頼まれてるんだけど、このあたりで見たことはない?それか外来種を運んでる人がいたり……」
なのかは仕事で聞いただけなのだが彼らは心底うんざりした表情をみせた。もう一人は半笑いで肩をすくめる。
「あの便利屋の仕事か?よくやるよあの短命種も」
「短命種同士、気が合うんじゃないか?」
話が噛み合っていないような気がしたが頭の中でいろんな状況を整理する。五秒かかったが、なのかは無事に擦り合わせができた。
「あの子短命種なの!?」
「なんだ、知らないのか」
「羅浮の人間なら短命種っていうと真っ先にフランを出すぜ」
あまりの事実に呆けたが必死に本来の仕事を思い出す。
「って、そうじゃなくて、外来生物!」
「見てない見てない」
「ブリーダーも摘発されたし、もう外来生物騒ぎも落ち着いただろ。いくら仕事がないからってそんな小さい虫を潰すような仕事させなくてもなぁ?」
全くだといって二人はそのまま談笑を続ける。なのかはフランと気が合いそうにはないものの、二人の態度にムッとしたのも事実。眉間に皺を寄せながら次の聞き込みへ向かった。
二時間の聞き込みの間ヴェルトは荷物付着した宇宙生物を発見。そのまま駆除をし、害虫被害報告は運送者が行う手筈となった。星は隣の部屋から聞いたこともない音がして困るという話を聞いて道すがら立ち寄ると巨大な飛行型昆虫が襲いかかったのでバットでぶん殴り死骸を引きずって待ち合わせまでやってきた。
一方なのかはフランの悪口ばかり聞かされてイライラを隠せないままだった。
「確かに愛想ないけどいくらなんでもそんなに言うことないでしょ!」
「一体どんな聞き込みしたんだ二人とも…」
そうこうしていると台車に捕獲器を載せたフランがやってきた。死骸を引きずっている星を見て足が止まり、その場で立ち尽くしている。星が一歩前へ進むとフランは下がる。
「星はそこで止まりなさい。私がまとめて報告してこよう」
遠くで二人が話し合いをしている間、なのかは星にこれまでのことを話した。フランは短命種であり、羅浮のために働いているのに差別されて果てには馬鹿にされているとも。
「将軍に言った方がいいと思わない!?こんなの絶対おかしいって!」
「お待たせしました……何か問題が?」
静かな目つきになのかはつい首を横に振ってしまう。
「星さん、外来生物がいた現場を案内してもらえますか?繁殖していないかも確認をしたいので」
「わかった、ついてきて」
「あ、いいえ、場所だけ教えて貰えば…その昆虫の遺体も捕獲器に入れて私が持っていきます」
星に襲いかかってきたとはいえ殺したのは間違いなく星穹列車の一員だ。ヴェルトは二人の間につい口を挟んだ。
「すまない、フランさん、先ほども報告したが我々の責任でもある。一緒について行った方がいい」
「いいえ、効率が悪いです。皆さんは運送会社に割り当てられた倉庫に向かい、害虫駆除をお願いします。今メッセージに許可証を送信しましたので」
それ以上何も言わせないために捕獲器を持って現地へ向かう。ヴェルトはフランが代わりに謝罪と罰金の支払い要求に行ったのだと知りその背中を見つめていた。そんな様子を見逃さないなのかは痺れを切らしたように提案する。
「じゃあ早く駆除しに行こうよ!三人いればすぐ終わるでしょ!捕獲器もあるんだしさ!」
「ああ、そうだな。急ごう」
倉庫弐番百釟号。三人が向かうと丁度虫がいたとのことで職員が駆除作業に追われていた。
「害虫駆除で来ました!捕獲器つかいます!」
なのかが声を張り上げると職員は捕獲器を持って等間隔に配置する。中には餌が入っていて、しかも害虫が出すフェロモンを仕込んでいる。それに誘われて捕獲器へ入っていくという寸法だ。
しかし倉庫の中には大きく育ってしまった成体もいる。これらはナナシビトが物理的に駆除することで事なきを得た。
ここまでノンストップで動き、これからフランの元へ向かう。やることが…やることが多い…!とヴェルトは思っていたが下手すればなのかよりも年下の子にクレームを任せるなど良心が耐えられない。
星が先導し、長楽天へ向かう。居住区が集まる場所で怒号が聞こえた。
「お前が俺の可愛いきゅるてんたそを殺したんだから罰金なんて払うわけねぇだろ!」
「いいえ、払ってもらいます。下手すれば近隣住民が怪我をしていた可能性もあります。今後そのことがないように罰金制度があります」
「話にならねぇよ!」
「それから繁殖されていないかの確認が必要です。これが許可証になります」
ホログラムで映し出された数々の書類。しかし「きゅるてんたそ」を飼っていた男は激昂しその腕を払った。
「でまかせだろそんなの!!」
「いいや、我々は天舶司の御空さんから指示を受けて行動している。家宅捜索の許可が降りているのは確かだ」
ヴェルトが割って入り男を諌める。三名の出現に見開いていたがすぐ敵対する。
「なんだお前達!殊俗の民か!?そうやって仲間を増やして押し入ろうったってそうはいかないぞ!」
「私は銀河打者」
「うるせぇ!」
星の突然の発言にも男はめげずに反抗を続ける。ペットを殺された悲しみはわかるが襲いかかる相手が飼い主であったら今頃死体を貪られていただろう。
「これは法律です。絶対に守るべき強いルールです。これ以上抵抗するなら雲騎軍が出動することになります」
「やってみろよ!将軍がペットを飼っていいのに俺がダメだなんてそんなルール通用するかよ!」
「…………」
フランは真顔でドアを閉めた。そして隙間に接着剤を塗り始める。ドアだけでなく窓も同じく。
「ひどい言い方だったけどそこまでしなくても……」
「三月さん、これは認められている行為です。私怨でやっているわけではありません」
しかし先ほどより覇気のない声。隙間を塞ぎ、虫が羽化して飛び去ることを防ぐ処置が終わった後、星は声をかけた。
「大丈夫?」
「……ええ、まぁ、いつものことです……それより雲騎軍に連絡をします。彼を一時的に勾留し、その間に家宅捜索を行います」
フランは離れた場所で雲騎軍の停留所と連絡を取り合った。
「彼女には少し休んでもらおう。捜索は俺たちでやった方がいくらか負担は軽減されるはずだ」
「うん、そうだね……」
あれだけ言われても声を荒げず真っ直ぐ対処する姿勢をすごい、と評価はできない。何故なら「それが自分に与えられた役目だから」とまるで背中が語っている。もどかしくなりながらもフランを見つめていると、何か問答を繰り返していた。埒が開かないのか、フランは「もういいです」と言って切る。
「どうしたの?雲騎軍は?」
「人員が足りないそうです。ですので神策府に向かい対象捕縛許可を貰いに行きます。彼が窓を破壊して逃げる可能性がありますので私はここを見張ります。神策府の者に私の名前を出してください。きっと捕縛許可が降ります」
「……許可はなのか、星が取りに行ってくれないか?俺もここで見張っておこう」
なのかと星は頷いてすぐ神策府へと向かう。フランは玄関の扉をじっと恨めしそうに見ていた。
「フランさん、ここは俺が見ておくから離れて少しでも休むといい」
「いいえ、これは私に任された仕事です。ナナシビトに任せるわけにはいきません」
だがその手は少し震えていた。ヴェルトは自分の子どもを思い出して隣に立った。
「フランさんはいつもこういった仕事を?」
「……はい、でも、毎日ではないです。楽なものもあれば今日みたいに面倒が重なる時もあります」
「そうか……とても真面目なんだな。けど辛いときは辛いと言った方がいい。我慢しているのを見ている側も意外とつらいものだから」
扉を見ていた視線が下がる。ぼーっとして、思い出したように呟いた。
「私の養父もそう言っていました」
「良い父君なんだな」
「……まぁ、そうですね。恵まれていると思います」
◆
神策府に辿り着いたなのかと星はフランの名前を出して捕縛許可を早速貰っていた。しかしなのかはここぞと言わんばかりにこれまでの鬱憤を言い放ったのだ。
「フランちゃん、すっごく真面目なのに街の人から短命種とかペットとか好き放題言われてるんだよ!?なんかこう、取り締まった方がいいよ!」
「ま、まぁ…そうですが……」
「便利屋便利屋って、便利に使ってるならなんとか守ってあげないの!?すっごく可哀想だよ!!」
気まずそうな顔で一同目を逸らす。今までなのかは声をあげていたが無口だった星がとうとうでかい爆弾を落とした。
「どうにもしないなら私たちが貰っていく」
それまで面白いくらい我関せずを貫いていた者たちが星をみる。まるでスポットライトに当てられた心地だ。
「それは困るなぁ」
のんびりした声が真後ろから聞こえる。気配もなく二人の背中を取っていたのは仙舟「羅浮」の将軍、景元だ。今度は二人が景元を見上げる。
「えっ、ええ!!いつの間に!?」
「ついさっきだよ。フランが捕縛許可を取るなんて、雲騎軍は何をしている?」
景元の穏やかでいながらも冷たさを帯びたセリフに職員は背筋が凍った。目の前に対峙している職員はたじたじになり上手く言葉を発せていない。代わりに星が事情を全て説明することになった。
「そうか……なるほどね。なら私がいこう」
「え!?いいの!?」
「もちろん。フランが困っているのであれば尚更」
にこりと笑顔を浮かべるがいつもより穏やかではない。いや、表面上はいつもと同じだ。しかしじわりと浮かぶ空気は確かに重い。
「フランとはどういう関係?」
「あれ、言っていないのかい?私はフランの父だよ」
「うそ!?でも、短命種だって…」
「もちろん義理だよ。さ、フランが待っている。急ごうか」
将軍を連れて戻ってくるまで、フランはヴェルトに他の世界のことを聞いていた。随分大人びていると思っていたが目をキラキラさせて好奇心のままに質問する姿は子どもだ。ヴェルトは初めてフランの笑顔を少しだけ見ることができた。
「厳選された植物はとても獰猛で、狡猾だ。しかし原住民はそんな植物を家畜化し共生しているんだ」
「すごい…そんなふうにできるなんて」
「ああ、人間の可能性を感じさせてくれる星だった。俺もあの星のデータを時々読み返すんだ」
話に花を咲かせる二人になのかが元気よく声をかける。「おーい!」という声に振り返ると将軍がいるので二人は石のように固まった。特にフランの心労はピークを迎えている。
「フラン、また苦労をかけたようだね」
「景元将軍……なんでここに……」
「心配だからに決まっているだろう?」
「だからって…………前にも言ったじゃん!!子どもの職場に顔を出すなって!!授業参観じゃないんだから!!」
それまで真顔だったフランが血管を浮かせながら声を荒げる。真面目で静かな印象など彼方へ吹き飛んでしまう。
「ええと…なのか、どういう状況だ?」
「フランちゃんの義理のお父さんが将軍」
「そうなのか!?」
人の縁とは摩訶不思議なものだ。とはいえフランはまさか将軍が出てくるとは夢にも思っていなかっただろう。
「暇なの!?暇じゃないでしょ!?符玄さんに言いふらすからね!!」
「まぁまぁ、話に聞いたけどまた雲騎軍が動いてくれなかったんだろう?」
「……」
「大丈夫、私から勧告をする。今回で彼らもフランを蔑ろにできなくなるだろう」
フランは景元の顔を見て、俯く。子持ちの父親たちは直感的にまずい!と思ったがそれよりも先にフランはその場から逃げてしまった。
「ちょ、ちょっとフランちゃん!」
「確かにクレーム現場に親が来ると恥ずかしいし情けなくなるかも」
「そうなの!?星もっと早くにいってよ!!」
景元は苦笑して矛を取り出した。光を纏う様子は威厳に満ちているがどうにも今この状況では似つかわしくない。
「け、景元将軍?」
「さて、可愛い我が子の仕事を代わりに果たそうか」
「まって、待って待ってやばい!」
列車組は走って逃げる。景元は憂さ晴らしのように矛を振るうと玄関ごと真っ二つになり建物はひどい有様。土埃が舞い、その中で腰を抜かす男がいた。
「しょ、しょしょ将〜……」
「やあ、君か?外来生物を飼育していたのは」
「しっ、し、し死〜〜……」
「うんうん、死んでるね。見事な一撃だ。だが、外来生物は一匹たりとも逃してはならない。大掃除といこうか」
長楽天の一部で光が放たれる。男は光の中にゆっくり包まれる。圧倒的な力で部屋は綺麗さっぱり掃除されたのであった。
膝を抱えて泣いていた。将軍がいないと仕事ができないと思われて失望されるのが嫌だった。周囲の者たちにいかに自分を認めさせようとしても将軍の威光にかき消えてしまう。何度も、こんなこと辞めよう、もう家で引き篭もるか羅浮を出ようと思っても逃げ出せずにいた。
「フラン、探したぞ」
「帰らない」
景元はいつもこうやってフランを迎えに来る。隣に座って静かに話しかける。
「停留所の雲騎軍には言っておいた」
「どうせ……半年すればまた言うこと聞かなくなる」
「困ったものだ。フランにはそれ相応の権限があるというのに」
「……ごめんなさい。仕事、上手くできなくって」
涙を抱えて震える声を聞いて肩を抱き寄せる。
「フランはよくやっている。フランは良い子だって言ってくれる者もいるんだ。色んなことを頑張ってくれているおかげで助かっている。そのことは忘れないでくれ」
「……あの人どうなったの」
「綺麗に掃除をしてあげたら泣いて罰金を払ったよ」
「……へ、へえ」
神君を使ったに違いない。確かにクレームを言われた恨みはあるがあの巨大な神君と共に武器を構えられるなんて哀れだ。
「それより、どうする?天舶司の仕事は一度保留にしていくかい?」
「……ううん、やる」
「そうか。なら明日も仕事だ。食事をして休もう」
手を引いて立ち上がる。悔しくていつも泣いて目元が赤い。こんな横顔は昔から何度も見てきた。
「でも列車の人たちに、あんまり迷惑かけられないから…業務外して欲しい」
「ははは、今日のフランを見てやる気に満ち溢れていたのに」
「……どうして?」
「どんな状況でもめげないところはナナシビトの精神に通じる。そこに感化されたんだろう」
何も言わない帰り道。将軍とその娘が帰っているのを見て何者でもない通行人は、相変わらず仲がいいと羨ましそうにしている。
「フラン、君は他でもない、私の子で……最年少で学校を卒業した。そんな君だから君にしかできない仕事を与えている。自分の仕事に胸を張るためにも使える権力は自分で使いなさい。それを悪というのなら私が責任を取る」
「…………うん」
将軍は優しく心が広い。こうして迎えにくるとわかっていてフランはわざと一人膝を抱えてもいたのだ。けれどそうしていたって何も変わらないしいつまでも将軍の庇護下に収まるばかり。体だけデカくなってもまだ子どもだと自覚させられていた。
◆
翌日も外来生物の取り締まりに当たった。長楽天の騒ぎを聞いたことと雲騎軍も将軍から直々に苦言をされたのでフランの指示に従っていた。なのかは最初から言うことを聞いていればいいのにと愚痴をこぼす。
大規模な取り締まりを行い、結果的にさらに外来生物の捕獲と密輸者の逮捕まで至る。フランは自分の仕事がようやく終わると確信していた。
「列車の皆さん、今日はありがとうございました。報酬は御空さんより支払われます。報告は私からします。外来生物捕獲の業務は以上で終了です。」
「終わったー!」
なのかは両腕を挙げて喜ぶ。そんな中雲騎軍の一人がフランの元へ駆け寄った。
「フラン様!たった今新たな外来生物が!」
「案内をお願いします!」
「俺たちも同行しよう」
ようやく終わるところだったのにという不満を言っても仕方がない。フランはと列車組は走って現場に向かうと、体が大きな犬のような生物が二匹いた。しかも口が大きく開くと触手が飛び出て雲騎軍を攻撃している。
「大変!止めなきゃ!」
なのかは矢を番えるがフランが手で制した。そして大声を出す。
「全員防御態勢を取って!一定距離を保ってください!」
強い声に誰もが指示に従う。すると暴れていた外来生物は二匹で固まり攻撃をやめた。
「やっぱり、あの二匹は番です。本で読みました。ナワバリを意識する生物と思います」
「けどどう捕獲する?」
フランは少し考えて周囲の地図を出した。そして地図を見ながら再び指示を下す。
「西の通りへ誘導してまたこの場所へ追い込みます!安全のため路地への横道は全て閉鎖!雲騎兵士二十名は私に着いてきてください!残りは捕獲器を展開し待機!」
走り出すと外来生物二匹は危険を察知するまま西の通りへ走り出した。列車組はヴェルトの判断によりなのかがフランの後を追う。少しでも裏路地に入るそぶりを見せるとなのかの弓で行動を防ぐ。そうしながら一周し先ほどの広場に戻る。足を踏み入れた生物は捕獲器に捕まり身動きが取れなくなった。もう一匹は踏みとどまるが背後にいるのは雲騎軍。逃げ場がなくなった外来生物の次の行動は“抵抗”だった。
再び大きく口を開き触手を硬化させ槍のように凄まじいスピードで穿つ。先ほど広場で見せた抵抗はささやかな攻撃でしかなかったのだ。
フランはすかさず前に出て棍平で軌道を逸らす。同時に腕を負傷したが、柄から伸びる鎖を伸ばして口を縛り上げた。互いに引っ張り合い、綱引きになると思いきやフランは棍平から手を離す。その勢いで後ろへ転がり捕獲器に足を踏み入れることになった。
「フランちゃん大丈夫!?」
なのかはすぐ駆け寄りフランの腕を手当てした。だが止血をしただけでそれ以上の手当を受けなかったのだ。
「ありがとうございます。なのかさん。現場指揮をしなければなりませんので大丈夫です」
「結構深い傷だよ!ほら、すぐ丹鼎司の人に診てもらったほうがいいって!」
「はい、すぐ行きます。ですがまずは指揮をしなければ。そうでないとこの後の彼らの業務が滞りますので」
テコでも動かないかもしれない、と思わされた矢先、運良く別の助っ人が現れた。白と青の眩い存在は声までも明るい。
「なんじゃフラン!また怪我をしたのか!」
「白露様、どうして」
この機会を見逃すなのかではない。すぐ白露を目の前に連れてきて手当てするよう促したのだ。
「私が何言っても仕事が先って聞いてくれないの!手当てしてあげて!」
「もちろんじゃ!怪我人を治すのはわしの役目!フラン、絶対に動くでないぞ!」
周囲を見渡すがお付きの者がいない。つまりまた屋敷から抜け出したのだろう。フランはため息を堪えて呟くように苦言した。
「白露様、あまり私が言うことでもないのですが、つい先ほどまでこの場所は戦闘区域でした。もう少し登場が早かったなら私ではなくあなたが怪我をしていたかもしれません」
「わしが来たおかげで治療ができたんじゃろ!わしに説教するなど五億年早いわ!」
結局治療を受けながらフランは口頭で指示をする。時折白露がフランを見上げては少しだけ眉をしならせていた。
「ありがとうございます、白露様、なのかさん。手当てしてくださったおかげで報告ができます」
「わしが手当したのはこのまま安静にさせるためじゃ!」
「すみません、けどそんな時間はないんです。やる事が山積みなので」
仕事がひと段落した星、ヴェルトも集合する。フランの指示により先に御空へ今回の外来生物の報告を依頼していたのだ。
「フランさん、彼女の言う通り唯一怪我をしたのだから休んだ方がいい」
「いいえ、仕事は待ってくれません。私は短命で時間は限りなく有限です。最大限有効活用しなければ」
その言葉がフランの全ての行動指針を表していた。ゆったりと進む時間感覚と逆行するように急ぐフランは良くも悪くも羅浮での生き方を見出している。ヴェルトはフランの思想を見抜いたが指摘すべき事ではない。その思想はフランにとって最も大切で、もし羅浮の時間に任せて生きていれば人生を無意味に終わらせてしまうと分かりきっていた。
「しょうがないのう…その仕事とやらにわしがついていく!仕事が終わったらしっかり寝るようにな!」
「白露様私を暇つぶしに使ってません?」
「わしの大事な患者を暇つぶしに使うものか!」
軽口を叩き合う二人を見てなのかは星とヴェルトに近づく。
「思ったより仲良いみたい。フランちゃんのことは白露ちゃんに任せていいのかも」
「ああ、そうだな。御空さんに報告したところ、先ほどの外来生物は危険指定されているものだそうだ。急ぎ神策府へ一報を入れて欲しいと指示を受けた」
「外来生物を駆除するって言ってた」
捕獲器越しに二匹の番は鳴き合う。台車に乗せている間も暴れて抵抗し続ける。
「あ、御空さんへの報告ありがとうございます。ところで結果はどうでしたか」
「神策府にも報告することになった」
星が端的に答えると真剣な顔をして外来生物を見つめる。
「……あの生物は危険指定生物Ⅳです。殺処分は免れないでしょう」
「やはり、生き物にかなり詳しいんだな。読んでいた本も生き物に関連するものだったし、本当は外来生物を守ってやりたいんじゃないか?」
フランは何も言わない。守りたいとはいえその後どう責任を取れるのか、きちんと保護してやれるのか、フラン自身もわからなかった。
「私も神策府に行きます。いきましょう、白露様」
「うむ……」
一行は静かな雰囲気のまま神策府へと赴いた。ちょうどホログラムの景元が職員の書類に目を通している時だったようだ。
『おや、外来生物特定班……右腕の傷、そして龍尊……何かあったのかな?』
「外来生物捕獲時に私がヘマをしただけです。ちょうど通りかかった白露様に手当していただきました」
『そうか、ありがとう白露殿。また面倒をかけてしまったね』
「フランはわしの友だち兼患者!当然のことをしたまでじゃ!」
抜け出した白露とフランが時々遊ぶことはあったがフランが仕事を始めてから関係は疎遠になってしまった。とはいえそう思っているのはフランだけで、たかだか二、三年会わないのは羅浮の住人にとって当たり前。白露は当初、成長したフランに驚きはしたものの変わりない様子に素直に喜んでいた。景元もふたりの関係性は穏やかで良いものだと認識している。
「将軍、今回俺たちが赴いたのは、その外来生物が危険指定された生物だったからだ」
景元はかすかに眉を動かす。腕を組み静かに話を聞き始めた。
「番で捕獲したがコンテナに潜んでいたようだ。他のコンテナも捜索したが他の生物はいなかった。御空さんは一時間後に正式な報告をあげるとも言っていた」
『なるほど、君たちが神策府に報告に来た理由がわかった。すまないが列車組はフランを屋敷まで護衛してくれないか』
護衛、という言葉に目を見開いた。景元がその言葉を口にする時、フランは今どういう状況下にいるのか理解していた。
「……景元さん」
『フラン、一度手を引きなさい。そして屋敷から出ないように』
そう言った途端、神策府の職員が慌ただしく動き始めた。データを拾う機器が音を立てて結果を職員に伝える。慌ててやってきた職員が景元に報告した。
「た、たった今、外来生物が爆発……周囲の雲騎軍兵士三十六名負傷、十七名重傷とのこと。自爆器官のない生物のため、外部から自爆機能を取り付けられたものと思われます」
フランは俯く。そして腕の傷を押さえて悔し涙を流した。
『……今、その場にいない事が無念でならないよ、フラン』
動物が好きでいろんな本を読んでいるのを知っているからこそ、フランの悔しさは誰よりも理解できていた。もしこの場にいたなら人目を憚らず抱きしめていただろう。
『列車諸君、今回のこの外来生物爆発の件は君たちには関連性のないことだ。屋敷まで護衛した後は……手間をかけるが白露殿も送ってあげてくれないか』
「ああ……将軍がそういうのなら尊重する。だがもし手助けが必要なら星穹列車はいつでも力になれると断言しよう」
『ありがとう、そう言ってくれると心強い』
一行は神策府を後にした。フランは自分で涙を拭いながらも、足元しか見れないまま歩いた。
