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夢小説設定
この章の夢小説設定ユリ・ガンデラ(デフォルト名)
元バーニングレスキューに所属。
バーニッシュに腕を焼かれたことで切除し引退を密かに決めてる。
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あの日からユリに対する感情がもう一つ増えたことを自覚した。
それは燃える炎のように熱くて激しく危険なものだ。
少しそばにいるなら問題はないが長い間一緒にいるとそれが沸騰してユリにひどいことをしてしまうのではないかとガロ自身恐れていた。
この熱りを覚ますため早朝から訓練をしたり、洗車をしたりと動き回っていたが冷めない。
むしろひどくなった気さえした。
もちろんユリに連絡できるはずもない。
講習が終わってユリはまたバーニングレスキューに出入りすることはなくなっていた。
一部の人間と連絡は取り合っているようだが、それに嫉妬するどころではない。
▲
掌底打ちを食らってガロは仰向けに倒れる。
体格も筋肉の量も体重も違う相手におもちゃのように飛ばされて一瞬意識が混乱した。
「な、なんだ今の!」
「マッドバーニッシュだったら今のでガロの腹は空いてる」
腹がジンジンと遅れて痛みを主張してくる。
だが急所の鳩尾は避けられていて、これでもなお手加減されているのだと知った。
「センパイ強すぎだろ!
それに、マシンに乗ればそんなのカンケーねぇって!」
「あるよ
どこをどう動かせば敵を抑えられるか
生身で動けないのに機体で動かせると思う?」
「うぐ…」
右手を差し伸ばされたがむしゃくしゃして払いのけた。
ユリは息を吐いてガロを見下ろす。
「マッドバーニッシュは危険だよ
平気でこちらを焼いてくる
一つの感情に囚われず視野を広くしなさい」
「……なぁ、質問だけどよ」
「何」
「センパイって、できないことあんのか」
これまでユリの指導を受けてきてガロは完全無欠のレスキュー隊員だという認識だった。
体力、知識、忍耐、全てにおいて今まで見た中で群を抜いている。
化け物だとも思い始めた頃だった。
「…できない、というより、無理なことはあるよ」
「無理?」
「状況によるけど……自分を守ることとか」
不思議とその回答はバカにできなかった。
正真正銘の化け物だという証明にしかならない。
ガロはそれから話すこともできずへたり込んだままだった。
「ガロ、バーニングレスキューはチーム戦
できないところとできるところを互いに補って全ての火災に対処する
私はたまたまオールラウンドなだけで、実際現場ではみんなに助けられてる」
「説得力ねぇよ」
「あるよ
バーニングレスキューにいるんだから」
ユリもガロと目線を合わせるために座り込んだ。
「ねぇ、クレイ司政官からバーニングレスキューの推薦、確約されたって言ったね
蹴ろうとは思わなかったの」
「もともとマッドバーニッシュから街を守る仕事をしたかったんだ
ダンナに相談したら、だったらバーニングレスキューが適任だって
俺の体育の成績とか、知ってたしよ」
じっと目を見られて、不自然にユリは頭をかいた。
まるで何かに板挟みされているようだ。
眉間に皺が入ったのを初めてみて不安になった。
「な、なんだよ…」
「いや……バーニングレスキューは本当に危険と一緒にいるような場所だよ
下手に警察なんかより求められる技術も高い」
「でも、クレイのダンナの期待を裏切りたくない!」
「そう…」
今度は膝立ちしてガロの頭を掴んだ。
また寝技を決められるのかと体が強ばるが、ゆっくり両腕が回った。
今何がどうなっているのかガロにはわからない。
だが甘くて優しい匂いを思い切り吸い込んでしまって心臓が激しく動いた。
「ガロ、ひたむきに努力しなさい
それからバーニングレスキューに入ったら私が守ってあげる」
「う…ぁ…」
「ガロの足りないところを補う
それが私の先輩像だから」
腕が離される。
思えば強く抱きしめられていたわけではない。
しかしガロの皮膚はユリが触れていたところにやたら熱を持って残っている。
顔を赤くなるのをバレない様立ち上がって背を向けた。
「どっ、努力は当たり前だ!
センパイを超えるくらいのバーニングレスキューになってやるからな!
覚えとけよ!」
「背中向けられながら言われても説得力ないよ」
あの時感じていた親愛はまるで家族に対するものだった。
言うなればガロにとっては姉のような存在だ。
家族を失ったガロからすれば得難いものであり、手放したくない絆の一つだ。
特に目立ちたがりやでデカイ態度のガロは友と呼べる者は少なく、孤児であることから一人でいることも少なくない。
ガロはユリに沢山の感情を詰め込んでいた。
尊敬、憧れ、家族愛、友人。孤独を埋めるように。
それがあの火災で崩れ落ちた。
ケモノのような叫び声に背筋が凍った。
何があっても声を荒げず、表情も変えない人間が苦痛を訴えている。
無線の向こうからの断末魔は嘔吐を繰り返しながらのたうち回っている。
どうしよう、助けたい、死なせたくない、感情ばかりが巡って足が動かない。
何周同じ思いを巡回したかわからないくらい、現実世界は時間だけ早く過ぎている。
叫び声は無くなり、荒い息づかいが聞こえる。
『バー………、無力………救……要請…』
壊れた無線機がユリの声を拾う。
すぐさま周囲の機体が消火に向けて動き始めた。
だがいくら待てども火が空高く昇り鎮まる気配はない。
「かわいそうに…またバーニッシュにやられて死ぬのか…」
「将来有望なバーニングレスキューなんでしょ…?」
「これで何人目?
マッドバーニッシュ、ただの人殺しだろ…!」
耳が痛くなる。
ユリが居なくなるなど考えたくもない。
感情が臨界点に達すると咄嗟に男の無線機を奪った。
「おいクソガキ!」
「センパイ!帰って来いよ…!!」
死ぬなど嘘だ。
そんな一方的な願いのまま叫んだ。
サングラスの男はガロの行動を止めずそのまま見ていた。
「センパイ!!なぁ、約束守ってくれよ!!」
建物の一部が崩落するのが見えた。
「センパイ!!」
それから、ユリを発見するまでがひどく長い時間だった。
右腕が炎によって炭化しており、呼吸も止まっている。
救急隊員が必死に命を繋げるため心臓マッサージを繰り返していた。
ガロは家族でもなければなんでもないただの学生。
泣きながら呆然と運ばれていく姿を見送ることしか出来なかった。
「ボウズ
プロメポリス・セントラル救急センターだ」
「へ…?」
「ユリはそこにいる
わかったら無線機返せ」
男はガロから無線機を奪うように取り返した。
そしてそのまま無線機で指示を出す。
仲間があんな風になってきたのを何度も見たのだろう。
それでもなお、バーニングレスキューとしての義務を果たさなければならない。
トボトボと、男の言った病院へ向かう。
行ったら死んでいるかもしれない。
だったら行きたくない。生きているかもしれないという希望を持ち続けたい。
けど死んでほしくない。
矛盾した心の中、ひたすら歩き続けた。
ようやくたどり着いた病院の受付にユリの名前を伝えると勝手に家族と勘違いしたのかあっさり通される。
看護師はユリの状況を説明したがガロの耳に入ってきたのは、右腕を切除したということだけだった。
「腕…なくなったら、
レスキューも、できないのか…?」
「そうね…でも、今は命が消えかかっている状態なの
お姉さんのそばにいてあげて
きっと気づいてくれるから」
看護師の言う通りベッドの横に座った。
病室のアルコールの匂いと妙に焦げた匂い。
一定間隔で機械音が響く。
「センパイ…」
ガロはうつ伏せになってひたすらユリが起きるのを待った。
たとえ目覚めないままだとしてもずっとそばに居たいと思っていた。
▽
ユリはコップをダン、と台所に置いた。
脂汗が出てその場に座り込む。
幻肢痛に悩まされている。
こうなると痛み止めが効くまで眠れない。
夜中にこうした痛みがくるならまだしも日中に襲った時には仕事などできるはずもなかった。
(義手…ほんと…検討しようかな)
義手さえあれば腕があると脳が錯覚して幻肢痛を大きく軽減できるという噂を聞いたことがある。
痛みを減らせるだけ御の字だろう。
こうして無駄な時間をかけずに済むのだから。
ふぅ、ふぅと息が乱れる。
目をキツく閉じてないはずの右腕をさする妄想をしていた。
そして初めて幻肢痛で気絶をした。
目が覚めるとうつ伏せになっていて、体が硬く、こわばっている。
首もそのままだったので寝違えたような状態になってしまった。
「最悪…」
ガロと夕飯を食べて以降、驚くほどガロと話していなかった。
あいつのことだから明日にでも電話をかけてくるだろうと思っていたのだが、全く音沙汰がない。
逆に心配になり、レミーに遠回りに聞いてみたがいつの通りだと言う。
「はぁ…いた…」
ゆっくりベッドに横になる。
自分の体も大概に痛いが、ガロのことを今になって思い出すのは余裕が出てきた現れだろう。
あと適当に何か買ってきて欲しい。
使いっ走りにしようと、メールを出した。
夜勤で寝ていたりすると可哀想だとは思ったが、メール1通で目覚めるほどガロは繊細でもなんでもない。
しばらくすると電話がかかってきた。
「ごめん、ガロ
忙しいのに」
『べ、べつにいいけどよ…
センパイから頼まれごとなんて珍しいって思ってさ…』
「うん、ちょっと事情があって
本当に暇な時でいいから
適当に食べ物見繕って買ってきてくれないかな
お金渡すから」
『センパイ、どっか悪いのか?
今行く』
「急がなくてもいいから、私はもう平気だから
それよりガロ、最近音沙汰ないから心配で
それついでで頼み事したのもあったけど
なんだか大丈夫そうだね」
『ああ…ま、まぁ…
と、とにかく、すぐいくから
すぐ食べられそうなやつ買ってくぜ』
逆に心配させてしまって申し訳ない。
痛みは過ぎてしまって、今はただ寝違えているだけなのに。
だが何故か今、ガロが来るとしって心のつっかえが取れた。
これが何を意味しているのは理解できている。
「ほんと…最低だ…」
死ねばいいのに、と呟いた。
寝違えたと知るとガロは肩を落とした。
「心配させた手前なんとも言えないけど
急がなくていいとは言ったよ」
「そうだけどよー!
センパイ痛いとかそういうの隠すだろ!?余計心配になんだよ!」
「そうかな」
「そうだよ!まったく、センパイ誰かいないとぽっくりどっかにいっちまいそうで怖いっつうかさあ」
ガロは熱でも出したのかと思ったようでゼリーや消化にいいものを買ってきてくれたようだ。
ともあれありがたい。
ざっと計算し、ここまでのガソリン代も含めて胸のポケットにお札を入れる。
「ちょっ、何してんだよ!」
「お金」
「こんなにいらねーって!」
「ガソリン代も入ってるよ」
「いいって、俺のこと子供扱いすんなよ!」
「こうでもしないとおさまらな……」
顔を上げるとダメだ。
首が痛い。
ギ、ギ、とゆっくり戻す。
「だ、大丈夫か?」
「へ、平気…冷やせば治る」
と言いつつしっかり胸ポケットに入れ込んだ。
「急がせて悪かったね
今度また改めてお礼するから」
ガロからの返事はない。
すると手がユリの首に伸びた。
そのまま首の筋を親指で揉む。
「ふぁあ〜…」
「うわ、凝ってんな!」
程よい指圧で首の根本から肩まで揉まれている。
血行が促進されていき、体が温まる。
「う〜、じょうず〜」
「だろ?」
だが急にガロの手は止まる。
そこで我に返った。
「ご、ごめん
つい受け入れてた
大丈夫だから早く帰って…」
振り返るとガロはじっとこちらを見ていた。
きらきらとした、眩しいものを見る目ではない。
それがなんなのかわからない。
「ガロ…?」
「……わ、わり!ちょっとぼーっとして…」
へらっと笑ってもその目の根本は変わらない。
何を思っているのかわからない。
「…急に呼び出したこと
怒ってる?」
「は?いや、別に…」
「じゃあどうしたの
雰囲気違うよ」
「…そうか?」
「うん」
罰が悪そうに笑うだけだ。
そしてガロは呟くように、伝えた。
「俺…センパイん家くるの、なんか辛くなってきた」
なんでもない言葉の癖にユリの頭にタライが落ちてきたような衝撃だった。
そもそも付き合ってもいない。
それなのに愛想を尽かされたと、勝手に被害者ぶっている。
そもそもユリはガロの告白に何の返事もしていないままだ。
たまたまガロの優しさに甘えていただけだと思い知らされる。
「ご…ごめん…なさい…」
「や、センパイが悪いんじゃなくて!
…あー…その…また出直すわ」
早足で家から出ようとする。
ユリが待って、と言っても聞く耳持たなかった。
「ガロ、ちょっと待っ……いっつ…」
ズキッと痛みが走り、首を押さえる。
玄関を出て行く音。
頭まで痛くなる。
そりゃそうだろう、ずるずるとこんな関係続けていいわけがない。
ユリも好きではないと言うならキッパリ縁を切ればよかったのだ。
今更ながら、ガロの存在の大きさを知って居た堪れなくなった。
膝を抱えてその場にうずくまる。
謝って許してもらえるだろうか、と関係を修復する前提の思考にもイライラしてくる。
ガロを振り回していた最低の人間がここにいる。
体が重くなってそのまま動けなくなった。
しばらくすると、足音荒く玄関が開けられて部屋に入ってくる。
足元しか見れないがガロだとわかってしまう。
そもそも足音で判別できていた。
「あーもー!センパイ!ちょっとじっとしてろ!」
「ガロ…」
「なんで泣いてんだよ!
俺が泣かせたみたいだろ!」
ずるずると引きずられて椅子に座った。
ガロは後ろから両手で、また首を揉んだ。
「な、なんで
いや、なんか、もう
ごめ…私…」
「俺も変な言い方して悪かったから、泣くなよ!」
「ちがう…ごめんね…ガロ…ごめん…」
「謝るなって
ほら、首痛いんだろ
我慢すんなよ」
首を横に振った。
痛いがそれどころではない。
「なんでかえってきてくれたの」
「な、なんでって……だってセンパイ、引き止めるとき痛いって、言っただろ!
俺もバイクに乗るとこだったけど気になってしょーがなかったんだよ!」
「だって、私すごく最低だ
ガロに付け込んで、ほんと…」
「それは…いいんだよ
だって、俺がセンパイ連れ戻してきたんだし」
そんなことを言ってもらう資格すらない。
ガロにユリが何かしてあげられただろうか。
ただひたすら、この青年の夢を守ってあげたかっただけなのに。
「腕もないし、みっともないし、
何も一人じゃできないし、ほんと…最低だし…
最悪だし…バツイチだし…」
「なんだよ、変なこと言うなって」
「でも、ガロが、いなきゃやだ…」
めそめそしながら最低な答えを返した。
ガロは数秒空けて、え?と聞き返す。
「いま、あの、何と?」
「が、ガロ、いっしょ、いて」
「もう、もう一声!!」
「う、うるさい!
もうやだ!!首痛いし幻肢痛辛いし!!気絶するし頭痛いし」
まるで子供のワガママだ。
そしてガロはゆっくりユリを抱きしめた。
「全部痛いの治ったら、もっかい聞くからな!!?
あー、もう、なんだよ、
わかった!全部買ってくる!
大人しくしてろ!」
ドタバタと台風のように走り去る。
ユリは泣き腫らしたまま椅子に座って言われた通り大人しくしていた。
バイクの走る音が遠のいたと思えば、数分後に飛ぶように帰ってくる。
痛み止めやら湿布など効きそうなものをどっさり買い込んできた。
子供みたいなユリにあれこれ世話をして、ようやく泣き止んだ顔を見た。
「ありがとう…ちょっと、取り乱した」
「いやそれよりもだ!!
もう逃がさねぇからな!!
しっかり答えろ!」
まるで尋問をするかのよう。
座るユリの膝の上に腕を乗せて下から覗き込んだ。
「センパイは俺のことが!?」
「………すき」
「センパイは俺がいなくなると!?」
「………さみしい」
「つまり俺とセンパイは!?」
ふい、と顔を背ける。
しかしガロは無理やり視界に入り込んでくる。
「センパイ!にげんな!」
「十分でしょ…」
「いいや言葉のアヤっつーのがあるからな!
しっかり人質取っとかないとな!」
「そんな意地悪な性格じゃなかったでしょ」
「これは作戦だ!
ほら、俺待ってっから!」
またきらきらした目に戻った。
期待で胸がいっぱいになっている。
この目には弱いから苦手だとようやく理解した。
「……私と、ガロは」
「うんうん」
「…………愛し合ってる?」
「アッ…アイシッ……」
「なに、違うの?
ひどいねガロ、女の子にこんなこと言わせて」
自分を落ち着かせるよう立ち上がり、部屋をうろうろしている。
そんなガロの様子を観察する。まだまだ子供なのでこっちの方が一枚上手だと知る。
「なに?恥ずかしくて言えない?」
「ちっっ、ちっげーよ!
んなことねぇし!お、俺が言うつもりだったんだ!!
お、おお、俺は、センパイのことっ、」
言葉を発するたび、顔が赤く染まる。
やはり動揺するガロは面白い。
思わず笑うと揶揄われていることに気付いたようで憤慨する。
「ったくもー!なんだよ!
俺だけかよ!」
「そんなことはないけど?」
そしてガロはまたユリの膝元に帰ってくる。
じ、と下から見上げた。
「キスしたい」
「……」
無言が続く。
無言に負けじとガロは見つめて食い下がる。
ある意味戦いでもある。
「ガロ、私腕ないんだよ
何もできないしさせられないし
すごくめんどくさいよ
なんなら人だって殺してる」
「い、今それ言うのかよ!
カンケーねぇから!」
「関係ある
私はすごく汚」
唇に口が覆われた。
ぐいぐいと押し付けられて言葉が消えて行く。
そうして離れた。
「関係ねぇよ
わかったか」
「は…う…」
下手くそなくせに一番情熱的だった。
ガロの熱に溶かされてしまう。
背中を丸めると包むように抱きしめられた。
これから先何を言ってもすべて見透かされるのだろう、と予感する。
「ユリ、大好きだ
俺ずっと居るから」
「う、うん、うん」
ユリは初めて縋り付くように抱きついた。
心を開け放ったことで重みが消える。
常に罪悪感を持ち義務感で生きていた時より今のこの熱が余分な重みを吹き飛ばしたのかもしれない。
「あつい…離して」
「やだね!あと5時間はこうしてる!」
こんなわがままにも付き合ってやるか、という感情が今のユリにはしっかりあった。
いや、思えば昔からそれはあったのかもしれない。
頭を預けると制汗剤のにおいがほんの少しと、太陽の匂い。
もう二度と手放したくない。もともとガロを守ると決めていたが今回ばかりは生半可な気持ちではなかった。
命を賭してでもこの火は消させない。
とけた氷が、炎となるのを感じた。