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この章の夢小説設定ユリ・ガンデラ(デフォルト名)
元バーニングレスキューに所属。
バーニッシュに腕を焼かれたことで切除し引退を密かに決めてる。
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小さなマンションに引っ越した。
荷物はガロがトレーニングと称して勝手に運んだのだがあまりの荷物の少なさに逆に心配された。
「なんかセンパイって…
大丈夫か?」
「なんで私心配されてんの?」
「もっといろいろあるかと思ったんだよ
俺なんてバイクもあるしいろいろ持っていきたいものあるし
こんなダンボール6つじゃおさまんねぇよ」
「そんなものかな…とにかくありがとう
何か奢ってあげるよ」
そう言った矢先、ガロは何かいいことを思いついたと言わんばかりの表情をする。
言葉にするよりわかりやすいのもガロの美点ではあるが、ユリはどうせ面倒なことになるだろうなと予測もしていた。
「バーニングレスキューのやつらに顔見せてやってくれよ!
絶対喜ぶぜ!」
「でも私はもう辞めてるから…
むしろたった5ヶ月でプロメポリスに帰ってきてなんか恥ずかしいっていうか…」
「ヘーキヘーキ!
行こうぜ!」
左手を握って駐車場まで走る。
ガロの手はひどく熱い。ユリの手のひらにいつまでも残りそうだった。
結局基地まで直行させられ、顔を出すとアイナとルチアに抱きつかれる。
「ユリさんまた髪伸ばしてよ!
綺麗な黒髪なんだから!」
「アイナがそう言ってくれるなら、伸ばそうかな」
にこりと笑ってしまうほどにはユリも会えて懐かしく思えている。
初めて見せた綺麗な笑みに、遠巻きに見ていた男性陣も見惚れてしまう。
そうこうしていると、ユリの近くにやってきたのは好意を寄せている元バーニッシュ、シード。
シードは一つ頭を下げてじっとユリを見ていた。
そうして思い至ったのだ。
ガロと同じく好意を寄せてわざわざ探してくれたのだから、秘密を告げるならばシードにも言わなければならないと。
「シード、少し話がしたい
時間がある時に連絡して」
ポケットからメモ帳を取り出し、ガロの背中を机代わりにする。
「ちょっ、センパイ!」
「じっとして、右手がないからかけないの」
そんなことされてもなんだかんだ嬉しそうである。
ルチアに足を軽く蹴られていた。
「鼻の下伸ばしちゃってさ〜」
「なっ!?ンな顔してねぇよ!」
そして連絡先を書いた紙をシードに渡した。
「いつでもいいよ
私しばらくまた職を探さなきゃだし」
「…わかりました」
ポケットに大事そうにしまった。
さらにシードの後ろからリオがくる。
「久しぶりだな、ユリ」
「どうも
成長痛大丈夫?」
「ガロ…勝手にまた話して!」
「いいだろ〜!センパイも心配してたんだしよお」
「でも、本当に背が伸びてきたね
私とそう変わらないくらいだ」
これからもっと大きくなるんだろう。
ともすれば今は動くのも辛いのだと察した。
「今もトレーニングしてる?」
「痛みが少ない時はな
それ以外は事務をしてる」
「誰かマッサージしてあげないの?」
その発言とともに思い出す。
基本的にバーニングレスキューのメンバーは成長痛が終わった人間だ。
それに成長痛の時期はただ体を休ませていただろう。
リオのように現在進行形ではないのだ。
「リオ、靴脱いでソファーに横になりなさい」
「は!?」
腕を引っ張り押し倒した。
「リオ、ユリさん一度決めたらこうだから黙って受けてなさい
ほら残りはトレーニング再開するわよ!」
アイナが声を張ると素直に皆戻っていく。
一方でリオをじっと見ていたのはガロとシードだった。
羨ましい。
ぼそりとつぶやいた言葉がダブる。
「み、みるな!」
「リオ、膝が痛そうだね
シャワー浴びたあとマッサージしてあげて」
白い手が膝を揉む。
それから足首をゆっくり伸ばしてやる。
「私も成長痛が酷かったほうなんだ
こうしてあげると少しは楽になるよ」
「わ、わかった」
「基本的にトレーニング前、シャワーの直後にして
もし痛みが激しくなるようだったら病院に行きなさい
いい医者を紹介してあげる」
左足から右足まで丹念にマッサージをするとリオはもう大丈夫だから、と言う。
顔は腕で隠されて見えなかった。
「本当に?」
「い、いいんだ
あんまりされると眠くなりそうだ」
血行が良くなったのか心なしか頬までほんのり赤い。
気持ちが良かっただけと知りユリは腰を上げた。
「ガロ、後で教えてあげるから
手が空いた時にでもリオのマッサージしてあげて」
「ガロが!?」
「おいリオ!俺が返事するまえに嫌そうな顔すんな!」
力加減が下手そうだとか、余計悪化しそうとか文句を言ってはガロが憤慨する。
口喧嘩に発展してしまったのでソファーに座って眺めていた。
その日の夜。
ベランダでタバコに火をつけてぼんやりしていると携帯が鳴った。
シードだ。すぐ出るとこんばんわ、と挨拶した。
『ユリさん、今大丈夫ですか?』
「いいよ
昼間は邪魔してごめんね」
『いえ……でも、ユリさんなんだか雰囲気変わりましたね』
「そうかな」
『はい、なんだか…柔らかくなった気がします』
場の懐かしい雰囲気もあっただろう。
けれど心のうちを1人に開け放った気楽さが影響しているのだと知る。
「そう……
君は、私のことを好いていてくれたから
ガロには言っているんだけど、君にも伝えておかないと不公平だと思うことがあって
嫌な話するから、気分が悪くなったら切って」
そうして、過去の話をした。
ガロに話した時より少し、落ち着いて話すことができた。
シードはもちろん絶句して時折息を呑む。
きちんと、バーニッシュが実は苦手であることも伝え終わるとシードは少し泣いていた。
『すみ、ません
ユリさんの気持ちも、知らないで俺、気持ちを押しつけて』
「気にしないで
でもね、君が私を探していたことは素直に嬉しかったんだよ」
『…すみません、でも俺は…知らないうちに怖がらせて、いたんじゃないかって』
「本当の意味で怖かったわけではないよ
ごめん、嫌なこと話したね
君には話しておきたいと思ったんだ」
しばらくして、シードは落ち着いたようだ。
ゆっくり息をしていた。
『ユリさん、やっぱり、ガロのこと好きなんですか』
「それはまだ少し曖昧かもしれない
でもガロは本当に…飽きもせず私にくっついてきたから
もしかしたら、いつか本当に好意を受け取れる日が来るんじゃないかって思えてる」
『そうですか……わかりました』
数秒無言が続き、向こうからありがとうございました、という言葉が出た。
『明日は早番なんです
早めに休むことにします』
「そう…がんばって」
『はい、それじゃあおやすみなさい』
電話はきれた。
タバコはすっかり灰になって燃え尽きていた。
▽
バーニングレスキューはバーニッシュが居なくなろうとも存続している。
理由は、バーニッシュがいなくとも火事は起こるからだ。
未だ差別の根は深く、あるものはバーニッシュ保護に意欲を出し、あるものはこれまで受けてきた差別に報復するため火事を起こしたり。
とにかく今あるマシンも全てフル稼働しつつ、いつでも出動できるよう維持しなければならなかった。
「…で、私が講習をしろと」
「レミーはどうしても外回り班で出なくちゃなんねぇ
バリスはあくまで操縦監督として操縦資格があるやつの指導をしなきゃなんねぇ」
「ガロは?」
「あいつに説明ができると思うか?」
頭の出来は悪くないくせに他人に教えるとなると壊滅的、かつ擬音が飛び交う。
イグニスは首を横に振った。
「バイトと思ってくれ
時給制だ」
「まぁ…暇つぶし程度なら」
元バーニッシュが駆け込み寺のようにレスキュー隊に志望してくるのだ。
想像以上の定員割れにイグニスも疲労の色が隠せていなかった。
「今ある機体のマニュアルどうしてるの」
「ルチアが管理してるはずだ」
まずはマニュアルを見なければ。
ほぼ一年、ユリは機体から離れていた。
感覚を思い出すためにもマニュアルは必要だろう。
とにかくルチアの元を訪れると、マニュアルはバリスが持って行ったのを覚えてるといい、バリスの元を訪れると元に戻したと言う。
要するに、散逸していることが発覚した。
「インシデントなんだけど」
イグニスの顔色が曇る。
ここしばらくドタバタが続いていたとはいえ、バーニングレスキューの要である機体情報が無い、という事実は単純に危機感を覚える。
「すまん…総出で探す」
「とにかく…私も一人一人に聞き込みしとくから
次から資料持ち出す時は台帳に記入するなり記録しておかないと」
「ああ、わかった」
機体は救助にも使えるがマッドバーニッシュを捕らえる武器でもあった。
いくら旧式とはいえ平たく言えば軍事機体と遜色ないのだ。
平気で建物を突き破るし瞬間冷却で破壊することもできる。
講習ではそこのところの危機意識も植え付けなければならないだろう。
ユリの仕事もある意味方向性が見えてきた。
散逸した資料をかき集めると同時に新たなマニュアル改訂も行う。
そして講習資料も作成した。
ある意味、レスキュー隊員だった時よりオフィスに入り浸っている。
時折レスキュー隊員の相談や雑談につきあい、またパソコンと睨めっこを続ける。
「やっぱセンパイ、バーニングレスキュー向いてるぜ」
ミルクが入ったコーヒーが置かれた。
ブラックコーヒーが飲めないと知っているのはバーニングレスキューの古株のみであり、センパイと今でも呼び慕うのはガロしかいない。
「コーヒーありがとう
でもこれはあくまで私の依頼された仕事の一環でしかない」
「そうかもしれねーけど
センパイがそこにいると落ち着くんだよなぁ」
ほろ苦いコーヒーはレスキュー時代を思い出させ、今でもバーニングレスキューにいるのではないかとおかしな錯覚をしてしまいそうだ。
ここしばらくガロがわかりやすくご機嫌なのはユリがいるからだろう。
机に少しもたれかかり柔らかい表情でユリを見ていた。
「…ところで
資料の行方はどうなったの」
「新人が見たところまではわかったんだけどその後がわかんねーんだよな」
「はぁ……機体管理厳重にするか最新モデルにするか、どちらか二つに一つだね」
「な!?
最新モデルはいいかもだけど俺のマトイテッカが使えなくなるだろ!」
「全く…あんたの纏もちゃんと管理しなさい」
もう一度コーヒーを口に含む。
「ところで、ここで油を売ってていいの?」
「俺はぎょーむしゅーりょー
センパイをうちまで送ろうと思ったんだよ」
時計を見ると、たしかにガロの言う通り一般的に業務終了時刻だった。
眉間を抑えながら資料を保存してパソコンを閉じた。
「そうだね…帰ろうかな」
「おう!
荷物預かるぜ」
「いいよ、私の荷物なんだから」
「ダメだって
ほら早く行こうぜ」
先々行ってしまうガロを後ろから追いかける。
こんな時でも、ただユリと一緒にいるからと楽しそうな横顔。
少し前まではゼェハァと辛そうに呼吸していたガロの荷物を持ってあげていたのはユリの方だった。
ユリのトレーニングに必死にくらいつき、夏にはわざわざ休みの合間を縫ってスパルタで勉強をし、ガロとユリの休日が被ると朝早くからランニングに連れ出した。
ユリは思わず笑う。
「?
なんだ?」
「いや…昔さ…私結構スパルタだったなって
ガロもよくついてきたね」
「ああ、そりゃ、センパイがすっげぇレスキュー隊員って知ってたし
それにセンパイ教えるの上手だからな
キツかったけど楽しかったぜ!
飯も奢ってくれたし!」
「そうだね
私にとってもガロはいい刺激だったよ」
基地を一歩踏み出そうとするとサイレンが鳴り響く。
2人してサイレンを見ながらガロは荷物をユリに渡し、ユリは荷物を受け取った。
「わりぃセンパイ!
気ぃつけて帰れよ!」
「ガロのほうが気をつけなさい」
「おう!」
大型車がランプを回しながら出動する。
それを見ながらユリは自宅に向かって歩き出した。
数日後、資料は完成し講習日には十分間に合った。
そして散逸していた機体資料も無事に回収することができたと言う。
そのことに胸を撫で下ろすも、あまりにもバージョンの古いものだったのでこの程度なら誰に見られても意味はなかったな、などと杞憂を感じていた。
講師らしくシャツとパンツスタイルで出勤する。
受講生もそこそこに集まっており、資料を配布して流れる様に授業は始まった。
皆見ている限りしっかりと耳を傾けているようだ。
ガロのように話をしている途中で居眠りをされないだけマシである。
講習が終わっても生徒からの質問の嵐。
生徒たちはいろんな意味で目が血走っていたので一体どういうことだと尋ねる。
「悪いわけじゃないんですけど
ここの人たちあまりにも感覚で操作してるとこあって…」
「ユリさんみたいに理論立てて説明してくれるのすごく助かります」
指導役のメンツを思い浮かべてつい苦い顔をしてしまった。
同情すらしてしまう。
こうしてユリはレスキュー隊を辞めた身でありながら新人の信頼をしかとキャッチしてしまったのだった。
講習のたびに、ユリさんユリさんと声をかけてくる新人。
こうなると面白くないのはガロだ。
「ダメだ!センパイは締め切り!
今日は閉店だ!」
「なんでですか!!」「ガロさん独り占めはみっともないですよ!」「そーだそーだ!」
新人たちの憤りにはうるせぇの一言。
ユリの目の前に壁の様に立ち塞がり、新人を追い返していた。
「…ガロ、ほんっとあんたは…」
「なんだよ
センパイ、今日こそ家まで送るからな!
俺待ってっから!」
嫉妬だろう。
いつもなら子供すぎると説教をするところだが、何故だか今日は怒る気になれなかった。
「ガロ、明日のシフトは?」
「俺?夜勤」
「なら時間に余裕はあるね
ちょっと付き合って」
「えっ」
ガロは胸に期待を膨らませているだろう。
いつもの帰り道、変に意識して口数も少ない。
そうしてマンションに着いてガロは不安そうに言う。
「センパイ、つ、付き合うってなんだよ」
「おいで」
頬を赤らめながらも素直についてくる。
玄関を開けてガロを招き入れた。
「夕飯作るの手伝って」
「…………………」
それまでドキドキしていたのだろう。
それが夕飯を作る人手要員としりがっかりした表情が出ていた。
面白くてユリは笑った。
「セーンーパーイー!」
「片腕だと難しいの
ほら手を洗って
一緒にご飯食べよう」
拗ねているようだがそれでも素直に従う。
最初こそは渋々、徐々にユリの一挙一挙に手を出す様になった。
「センパイ!それ流石にあぶねぇって!」
「でもいつもこれで切ってる」
「もう俺が切るから!」
最終的にまともに動いたのは食器を出す程度で、テーブルの前で待機させられていた。
「センパイまじでおっかねぇ…
もう包丁触るの禁止な!」
「自炊できないじゃん」
「俺が作るからいいんだよ!」
どちらかと言うと、憤慨してうっかり言ってしまったのだろうがユリはこれを揶揄わずにはいられない。
「ふ、なんかプロポーズみたいだね」
「…そ…そう、受け取ったなら、別にいいけど!?」
「冗談だよ
もう少し視野が広くなってから言いなさい」
温かい食事が並べられる。
本当はピザばかり食べないよう連れてきたのだが作ってもらう側になるとは予想していなかった。
「美味しそう」
「まぁ俺様の手料理だからな!」
「味付けしたの私でしょ」
「そうだけどよ!」
スープも、野菜も、人と食べるだけでどこか心は満たされる。
会話しながらの食事は当たり前のことなのにユリにとっては非日常のように感じる。
太陽が沈み、時間がゆっくりと過ぎていく。
「ありがとうガロ
助かったよ」
「おう、また呼んでくれよ」
にこ、といつも変わらないあの明るい笑顔をつくる。
つられてユリも微笑んだ。
そのまま玄関を閉めるかと思ったがガロは頬を掻きながら、何か言い出そうとしている。
「あー…えっとさ」
「何?」
「その、俺も俺で楽しかったけど
…俺にご褒美、的なやつ、ない?」
天井を仰いで一気に俯く。
恋人でもないのにそう言うことを遠慮がちに期待されるとなんと答えればいいかわからない。
ユリは頭を悩ませた。
キラキラ、わくわくした子犬の様な目を裏切られない良心と
まだ付き合ってもないのに期待させる様なことを受け入れちゃいけない!という戒め。
とりあえず、判定を決めるために聞いてみる。
「たとえば、どんなご褒美?」
「…ハグ」
両手を広げられる。
以前はガロを慰めたり、優しくするために抱き締めていたが、いざ求められると体が固まる。
事実ユリはガロのことを文字通り子供だと思っていた。
うっすらと、あの男の目が炎の中でユリの背中に向けられている様な気がして背筋が凍る。
だがガロの真っ直ぐでむずむずしている目がそれらを覆う。
「………一回だけだよ」
「へへ!」
ガロはまた笑った。
ユリを覆う様に抱きしめる。
ユリもまた背中に腕を回すがいつの間にか広くなった背中に成長を感じた。
太い腕に力が入る。
ガロはユリの肩に顔を埋めた。
「センパイ…」
つぶやいて、頭をぐりぐりと押し付けた。
「うぅう、じょりじょりしないで」
「へへへ、センパイ、大好きだ!」
「し、知ってる
あと、長い!そろそろ離れなさい!」
「一回って言ったろ?
何秒、とは言ってないぜ」
これ以上は顔が赤くなる。
ガロの体温がユリに溶け込んでひとつになる。
だがそれ以上に体が溶けてしまいそうだった。
「ガロ、もう、あつい」
「おっと、わり………」
腕を離すと、真っ赤な顔で目を潤ませるユリが出来上がっていた。
恥ずかしそうに左手で口元を隠している。
ガロがそうさせたと思うととんでもない感情の波に襲われる。
「…せ、センパイ…」
「かえんなさい!
もう、遅くなる
じゃあ」
「ちょっ、センパイ!」
無理矢理玄関を閉めた。
ガロのせいでユリの認識全てが覆われていく。
いい傾向なのか、また悪いことなのか。それは誰にも分からなかった。