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夢小説設定
この章の夢小説設定ユリ・ガンデラ(デフォルト名)
元バーニングレスキューに所属。
バーニッシュに腕を焼かれたことで切除し引退を密かに決めてる。
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ガロはきれた電話に向かって呼んだ。
「センパイ!」
それでも無音のまま、どこにも響かない。
会いたいと言う気持ちだけが大きくなりやるせなくなった。
その日の夕方、外回りから戻ると珍しくリオとイグニスが1人の隊員に説得をしていて大騒ぎだった。
外から聞いてみれば近く、レスキューを辞めるという声が聞こえた。
まだ元バーニッシュの風当たりが強い。
このバーニングレスキューにいるだけでまだ守られているのだがそんなことはどうでもいいと言わんばかりだった。
「おいおいおい、何でこんな大事になってんだ」
シードはキッとガロを睨んだ。
「俺、ユリさんのとこに行きます」
「あ?」
ガロも目を細めて眉間に皺を寄せた。
「休暇の間毎日ユリさんを探して今日やっと見つけたんです」
「だからってレスキュー辞めてセンパイのとこ行くのかよ
リオが心配してるのがわかんねーのかよ!」
「ユリさんにも同じこと言われました!
きっとユリさんが根回ししたんだ
でも、だからって、ユリさんのこと探そうともしないガロさんに言われたくない」
咄嗟に胸ぐらを掴み上げる。
イグニスが割って入るが2人揃ってイグニスの肩を押して追いやった。
「それとこれとは関係ねぇよ!
センパイが理由でここ辞めてお前に何かあったらセンパイは悲しむ!
それがわかんねぇのか!?」
「それは…、そうかもしれない
けど、覚悟の上です!」
「覚悟の話じゃねぇよ!」
「じゃあなんですか!
手をこまねいていろって言うんですか!そんなの、バーニッシュだった時と何も変わらない!!」
「センパイの気持ちも考えろ!
それに、俺なんかより、バーニングレスキューの古株の奴らの方が寂しいに決まってる!!
自分だけが寂しいなんて、思うんじゃねえ!!」
シードの胸ぐらを下ろす。
いっときの静けさの中、シードはそれでも言い放った。
「俺はユリさんのことまだ好きです
ユリさんのこと好きでもなんでもないのに
ユリさんの子供でいたいやつは黙ってろ」
「ッッッッカァーーーーー!!!この野郎言いやがったな!!!!」
表出ろ!!」
「上等です
受けて立ちます」
ここでようやく全員が喧嘩を止めに入った。
それでも互いに食ってかかり、まさに子供じみた口喧嘩となっていた。
「俺はユリさんの好物知ってるし誕生日も知ってる!!」
「このストーカー!!俺なんか今日電話きたもんな!!」
「ハァーーーー!!!?」
ガロに電話かけろなんて言わなければよかった。
イグニスは後悔に塗れて女を奪い合うバカたちにゲンコツをした。
▶︎
アイナはユリとほぼ同時期に入った。
今より暗く、じめじめとした彼女は今にも死にそうな顔をして訓練ばかりしていた。
つかみどころがないのは今もだが、幽霊がそこに居るような不気味さに、同期とも思いたくなかったのを覚えている。
アイナはユリがバーニングレスキューに入った噂を聞いたことがある。
夜、ガロは頭を冷やしに例の寒冷地帯に赴いていた。
アイナはそれを後から追いかける。
氷で張り詰めていた湖はすっかりただの穴だ。
下から吹き付ける冷たい風に頬が冷たくなる。
「ガロ、あんまり行くと落ちるよ」
「落ちねぇよ」
まだ膨れっ面をしていて、身体中の空気を抜くように息を吐いた。
白い空気が消えていく。
「ユリさんのこと、好きなんだね」
「好きって、いうか
ちげーよ」
「まったくアンタ、鈍感にも程があるわよ」
「何しにきたんだよ」
「ユリさんのこと、教えに」
アイナはユリの変化を遠くから見ていた。
特に大きな変化はガロが与えていた。
だったら教えるとすればガロだと思ったのだ。
「私と同じ時期にバーニングレスキューに入ったのは知ってるでしょ」
「おう」
「ユリさん、結婚してたの
知ってた?」
ガロは口をあんぐり開けてアイナを見る。
後退り、木々に背中をつける。
「けけけけ、結婚!!!??!」
「まぁ本人から聞いたんじゃなくてお姉ちゃんからの情報だけどね」
「けっこん、ケッコン!!?!!?
でも、センパイちょーーー若いじゃん!!
俺くらいの時にケッコンしてたってことか!?」
「そう、いいとこのお嬢様だったらしいよ
でも、火事があったらしくて
旦那さんが亡くなったんだって
そこの経緯は知らないけど…ガロ、もしユリさんにこれ以上踏み入れるんだったらそれ相応の理由と覚悟が必要だと思う」
「覚悟…」
「もしかしたらまだ旦那さんのことが好きかもしれない
だから、簡単な気持ちでユリさんのこと引き止めちゃダメ」
アイナの言うことも最もだ。
だとすれば昼間の、寂しいという言葉は不適切で、あの男の言う通りユリの子供そのものだ。
どんな冷たい空気や水よりも、アイナの言葉は冷えた。
「なんで、俺に教えてくれたんだ」
「ユリさん、アンタが絡んできたあたりから
笑う顔見せるようになったの
きっと底抜けな明るいとこが移ったんでしょうね〜」
ふふ、と笑って空を見上げる。
「ほんっと、悔しいくらい
ユリさん優しすぎるから」
そう言ってアイナは自分のバイクに戻った。
ガロはその背中に言う。
「アイナ!ありがとう!」
「無駄にすんじゃないわよ」
しばらくそこに佇んで、それから電話をした。
ガロのすべきことは分かっていた。
そもそもユリのことを何も知らない。
ただその優しさを享受していただけなのだ。
電話のコールが止まる。
数秒無言で、ガロから声をかけた。
「センパイ、」
『なに、早く寝なさい』
やはり子供扱いだ。
ガロはそれでも言いたいことがあった。
「俺も、センパイに会いに行きたい」
『はぁ……あのね、転職って結構するもんなの
就職したらそこに居続けるわけじゃないんだから』
「わかってる
センパイのすることを止めたくない
でも俺わかった、わかったけど、言ったら困らせるから言えないけど
…センパイのこと知りたい」
『……何か聞いたの』
「いいや、まだ10%くらいしか」
『それを聞いたって言うんだ
何を聞いたかも聞きたくないけど、私が言わないってことは言いたくないってこと』
「けどさ、俺がセンパイのこと助けたいって思うのはいいだろ?」
ユリは黙った。
「包み隠さず話せってわけじゃないし、言いたくないことは言わないでいい
俺センパイのこと考えてて、たぶんセンパイは人助けが好きじゃないだろ
本当の意味で、腕が理由で辞めたわけじゃねぇだろ」
『やめて
切るよ』
「センパイは俺を守って、助けてくれたから同じことがしたい
それだけ!」
電話越しにユリの息が震えている。
「俺、待ってる
ずっと
何十年でも、ユリのこと待つから」
『ガロ…
わたし…』
それから言葉は来なかった。
ガロはずっとそれに耳を傾けていた。
少しだけ泣いているような声も聞こえた。
『やめて…もう、ゆるして…
ガロが思うほど…立派じゃない
1人にさせて…』
「立派じゃないって言うならその理由を教えてくれよ
センパイ、伝えねぇで伝わるわけないだろ」
『お願い…こわいよ…』
「じゃあ、電話、切っていいか」
『…………』
それは嫌なのだろう。
おそらく初めてユリの内部に踏み込まれてどうすればいいかわからないのだ。
その戸惑いはガロには手にとるようにわかった。
「はーあ、なぁセンパイ
ピザ食いたくねぇ?」
『…もう夜中だよ
食べたくない…』
「俺はいけるね
バリスより食える」
先ほどより幾分落ち着いた声に戻ったユリは、まず聞いた。
『どうして、私をそんなに気にかけるの
ただセンパイだから、って
それは流石に度が超えてる』
「え…あー、いや…まぁ…
それはちゃんと言うけど今は辞めとく
保険って意味じゃねぇけど!…俺だけセンパイのこと知らないで言うのは間違ってるって思う
そういうの苦手そうだし」
『そう……わかった
誰にも言わないなら、教えてもいい』
もちろん、と返事をすればユリはつぶやいた。
『結婚、させられてた』
「させられてた?」
結婚してたのは今さっき聞いたがさせられていたとはどういうことか。
分からずに問いただす。
ユリ曰く、政略結婚、というもので学校を卒業とともにすぐさま結婚を強要されたそうだ。
『18歳のとき…嫌だった
それで、2年くらい、本当に地獄だった
相手が、バーニッシュで、炙られてね』
聞きたくなくなった?と確認を取られる。
話せるところまででいい、怒りを抑えて平静を装った。
『20歳のとき、暴走して私を殺そうとしたの
一緒に死んでやるって
ほら、差別がすごかったから、プロメポリスの部隊に捕まるのも時間の問題だって
巻き込まれそうになって、咄嗟に……殺した
いつも食べ物切ってた包丁でさ、刺しちゃったんだよ
もう、意味わかんない
私は悪くない、実際正当防衛だったし、何も罪にはならなかったけど
でも、あいつ、死にながら私を見てた
ずっと、こびりつくくらい、ずっと!今も夢に出る!!
振り切れない、ずっと、どこにいっても、腕も、あのバーニッシュに焼かれた!!
ごめん、ごめんね、誰も悪くない
でも、怖い…バーニッシュは怖い……もう、許して…』
ぐずぐずに泣いて、電話越しのユリが小さく見えた。
大きな背中はただの虚像に過ぎなかった。
「センパイ、やっぱ俺そっちにいく」
『やめてよ…ガロまで何言ってんの…』
「あいつみたいにそこにいるとかいわねぇよ!
ただ、センパイのことやっぱ助けたい
そんでもってピザ食べようぜ
今から迎えにいくから」
『寝なさい
マジで』
「いけるって!」
『寝不足で交通事故起こされたら私首吊って死ぬよ』
「……わ、わかった…
でも、朝イチで」
『仕事でしょ
休まず行きなさい』
「………はぁー」
今すぐ行って抱きしめたい気持ちを抑える。
こんなに弱いところを見せられて何もしないなどガロとしてはありえなかった。
「じゃあ、面と向かっても言うけどよ
俺、センパイのこと好きだぜ
尊敬とはまた別で
すっげえ好き」
『…何言ってんの』
「明後日、近くの駅でも教えてくれよ
待ち合わせしようぜ」
『ガロ、』
「嫌なら教えなくてもいい
時間かけて探す」
『…勝手にしなさい』
そうして電話は切れた。
◁
とか言いながら、待ち合わせの駅をメールで伝えてきた。
朝早く、バイクを押しているとユリを好きだと公言したシードが睨むようにガロを見ている。
「どこにいくんですか」
「センパイのとこだ」
「俺には偉そうに散々言ったくせに」
「ああ、悪かったよ
でも、俺もお前も同じだ
センパイも呆れるにちげぇねえ」
「まさか、」
こいつも自覚して告白したのかと悟る。
ガロはただ笑ってバイクに跨る。
「もうお前のこと止めねぇ
たぶん俺もお前の立場だったら同じことしてただろうし
でも手は抜かねぇからな」
そう言って走り去った。
シードはずるいと、一言こぼして俯いた。
バイクを走らせて4時間。
昼前に待ち合わせの駅についた。
電話を鳴らすとすぐに出た。
「センパイ、ついたぜ」
駅には工事業者が多くいて、土埃でむせかえるようだった。
近くで大規模な土地開発がなされていることを知る。
『今いくから待ってて』
バイクに軽く腰掛けたまま数十分ほど待つ。
すると大通りから見慣れた姿が見えた。
手を振るとユリは軽く走ってやってきた。
以前より髪は伸びて肩にかかってる。
「久しぶり
背が伸びたね」
「マジか!
へへ、やっりー」
それからユリは何を言うべきか迷って俯いた。
やはりその体は思ったより小さかった。
こんな体でよく、救助をしていたものだと感心してしまう。
「センパイ、会いたかった」
「…そう」
「とりあえずピザ食おうぜ!
俺朝イチで出たから腹減って仕方ねぇんだよ」
「おいで
知り合いの店がある」
人の波を掻い潜り、街角に立ち並ぶ店に迷いなく入った。
ピザを専門に取り扱う店で人で賑わっている。
「よぉユリちゃん!
あれ?どっかで見たことあるような顔だな」
「これ後輩
ナポリピザLサイズ2枚お願いします」
「まぁいいか
あいよ!」
この店をよく愛用しているのか、さまざまな人に声をかけられている。
同時に男ばかりなので色んな意味で心配になる。
そうこうしているうちにピザが目の前に出される。
プロメポリスに負けず劣らずの香ばしい香りに腹の音が鳴った。
食べながら、できるだけ日常の会話に努めた。
リオが成長痛で悩んでるだの、近況も含める。
ユリはそれを止めもせず、頷いて聞いていた。
「ガロ、あれからクレイに会った?」
「まぁ…何度か
相変わらず冷たいけどな」
「喧嘩に負けたからそりゃガロ見るたび悔しいでしょ」
「ハハッ、たしかにそれはそうかもな」
あれだけ大きかったピザをいつの間にか食べ切っていた。
まるでバーニングレスキューにいた頃に戻ったような感覚になる。
「割り勘」
「いいって、俺がほとんど食ったし
俺が出す」
「いいから」
会計を済ませてユリはまた歩き出す。
とあるカフェの前で止まった。
「私がお世話になってるところ
まだ小さい町でね
さっきのピザ屋とこのカフェしか足を休ませるところがないんだ」
「ふうん」
カランカランと音を立ててドアを開ける。
中にいた店主は少し驚いたようだった。
「ユリちゃん、どうしたんだい」
「すみません、話をするのに場所を貸してもらえないかと思いまして」
店主はユリの後ろに立つ青年を見る。
そして笑った。
「ユリちゃんやっぱりモテるねぇ」
「…勘弁してください」
「ははは、お詫びに2階の空き部屋使っていいよ」
「ありがとうございます」
そうしてようやく2人は腰を落ち着けた。
窓を少し開けて、古い木の椅子に座った。
「ガロ、あの子はどうしてる?」
「あー…」
直感的にシードのことだとわかる。
苦笑いをしながらも事実を伝えた。
「辞めるって言ってる
でも、もう俺が止める資格もねぇから」
「…そう」
「怖いのか、あいつのことも」
「少しね
全てのバーニッシュを見たわけじゃないけど、バーニッシュは良くも悪くも行動力がありすぎる」
息をついてガロを見た。
「ガロ、来てくれてありがとう
嬉しかった」
「なんだよ
もう来るなって聞こえるぞそれ」
「そういう意味だよ」
「俺って振られたのか?」
「…うん
一人でいたい」
ガロは椅子を引っ張りユリの目の前に座る。
「でも俺はセンパイと居たい」
「勘弁して…めんどくさい…」
「は!?なんでそんなこと言うんだよ!
俺ほどいい男いねぇだろ!」
「自分で言わないでよ…あと声大きい」
窓の外に目を向けた。
もうバーニングレスキューにいた時のあの優しい目で見てくれることはないのだろう。
「センパイ、俺あの話きいても諦めたくない」
「諦めなさい
ガロ、私のこれはもう治らない
一生付き合っていくしかない」
「諦めない
なら俺も一生付き合う
勝手に守る」
「いい加減にしてよ
しつこい」
「手震わせながら言うなよ」
咄嗟に後ろに手を隠した。
首を横に振りながら俯く。
「俺の目を見てくれセンパイ
怖いなら俺の目を見ろ」
優しく両肩に手を置く。
薄い肩は氷の様に冷えている。顔を見ずともユリは怯えていた。
感情を表に出すことが、こんな形で明らかに発露するなど。
だがガロは真っ直ぐ見つめた。
青い目がじっとユリを映している。
「好きだ
ずっと、ユリが好きだ」
指先がユリの頬をほんの少し触る。
まぶたのふちに涙が少しずつ溜まっている。
潤んだ瞳が宝石のように見えて顔を近づけた。
「好きだから助けになりたいしそばにいたい
できれば、もっと触りたい」
ユリはムッと表情を変えてガロの頬を摘んだ。
つねっていじめる。
「いででで!」
「このアホ」
「へ、へへ、」
「本当はさ」
手が離れてユリはまた椅子に座り直した。
「腕が焼かれたあの一件で
出血多量で死ぬだろうなと思っていた
でもガロの声が聞こえて脳みそ叩き起こされて
……もう、死にたいと思うことは減ったんだよ」
「そっか
んならよかった」
「ありがとうガロ
ガロが一番私を守ってくれた」
頭を撫でる。それから頬に手を滑らせた。
病室でガロに触れたことを思い出す。
これまで本音で語り合った。
ユリは最後にもう一言加える。
「私はもう人をうまく好きになれないかもしれない
義務とか使命感で動くことしかできなくなってる
それでもいいなら、もう少しだけ私を守って」
「…えっと」
「プロメポリスに戻ろうかなってこと
ガロが責任取りなさい」
「あ…ああ!もちろん!絶対!
センパイ!俺、そばにいるからな!ずっと、センパイがしてくれたみたいに!」
ずっとそばにいてくれたのはガロのほうだ。
こういう、幸福を享受するのがうまい人間が幸せになるのだろう。
いつか、もしユリを手放す時がきてもきっと今の記憶は生涯残り続ける。
まぶたに焼きついて離したくない。
「とりあえずガロ、フツーに帰んなさい
これ以上は帰りが遅くなる」
「あ…はい…」
「また近いうちに連絡する
それまでいい子にして待ってて」
「おう!わかった!」
明るい笑顔で、きらきら光る目がユリを見ていた。
こんな目なら怖くない。
あの男の目を思い出してもすぐ上書きされるだろう。
「ガロ、じっとして」
「え、え!?セン、」
瞼にキスをする。
ガロの顔は真っ赤になっていた。
「く、く、くち、口には!?」
「するわけないでしょ
このままだと私犯罪だし」
「でもセンパイ、俺くらいの時結婚したんだろ!?」
「それとこれとは別、いいからさっさと帰る」
「ズルい!屁理屈って言うんだぜそれ!」
▽
店主に挨拶をする。
また遊びにおいでと優しい言葉をかけられた。
娘ができたようで嬉しかったと、ユリまで泣き出しそうになる。
駅にいくとガロはバイクではなく乗用車で来ていた。
荷物を遠慮なく後部座席に乗せた。
「疲れてるなら私が運転するけど」
「平気だこんくらい
早く行こうぜ」
これからプロメポリスに帰る。
ガロが連れ戻したと言っても過言ではないため、周りからは2人はそういうことなのだという認識でいた。もっともユリはまだ、そのつもりはない。
あくまで連れ戻した責任を取れと言っただけで保険でもあった。
ともあれシードはユリがガロを選んだと知ってまた落ち込んだようだが未だに虎視眈々と狙っているらしい。
バーニングレスキューの非稼働時間でも気は抜けないとガロが電話口でぼやいていたのを思い出す。
「ガロ、こっち向いて」
「なんだ?」
ガロの足に左手を乗せて額にそっとキスした。
目を見開いたまま、真っ赤になる。
「事故しないでね」
至近距離、息がかかるほどの距離で忠告する。
するとガロはユリの頬を両手で包んで口にキスを返そうとするが左手で抑えられた。
「なんへ!?」
「ダメに決まってるでしょ」
頑張ってキスをしようとしたのだろう。
それが遮られてムッとしていた。ユリは面白くて笑みを浮かべた。
「もう少し私が、まともになれたら許してあげられるかもね」
未だ殺した傷が疼く。
いつまでも内臓を焼かれている感覚だった。
ガロと話をする機会が増えてユリも少しの間、その現実から離れることができるようになった。
少なくともその傷が傷として瘡蓋ができるまで、ガロに恋人らしいことも好きだという言葉も赦されない。赦されるべきではない。
ユリの頬を包む手に力が入る。
片手が背中に周り、抱きしめられるようにそのままガロはユリの手越しにキスをした。
ちゅ、と音が出て、唇同士が触れたわけでもないのに深く口付けされたような気分になった。
「……なに、して」
「はは、顔真っ赤だぜ」
「い、いいから、はやく、車出しなさい!」
「へいへい
あー、幸せ!」
ガロは太陽みたく笑う。
ユリの氷の鎧が解けるまで時間はかからないだろう。