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夢小説設定
この章の夢小説設定ユリ・ガンデラ(デフォルト名)
元バーニングレスキューに所属。
バーニッシュに腕を焼かれたことで切除し引退を密かに決めてる。
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息をするのも体を焦がすようだ。
気管支はすでに爛れているだろう。それくらい煙を吸い込んでしまった。
これほど体が重たいと思ったことはなく、自分の両腕が汚いと思った。
服が大量の血を吸って重たい。這うこともできそうになかった。
この世の絶望。悪夢を見せられているようだ。
焼け落ちる建物の奥に幻覚を見る。
男はゆっくり笑ってこちらをじっと見ていた。
いつまでも、その目が消えない。まるで死ぬまで瞬きもせず監視しているようで、なおかつ、死ぬのを待ち望んでいるよう。
見るな、そんな目で私を見るな。
1時間前、基地内にけたたましい警報音が響く。
火災が発生した通報だ。
手慣れたもので準備はいつも10秒以内に終わる。
車内に乗り込み機体発射箇所で待機した。
「住宅街23番地にて火災発生
バーニッシュによる火災と思われる」
現場に急行。青と赤の光が建物に反射するが煙がそれを遮った。
空を暗闇にするほどの暗雲のようだ。
「ユリ!準備はいい!?」
「了解、いつでもいける」
アイナの報告によると中に要救護者複数。
家族と思われる。
建物の周りには炎が壁のように反り立っているので屋上からの侵入となる。
白い煙突のような筒が空に立ち、ユリに圧力がかかった。
瞬間、青い空が見えたと思えば屋上へ落下する。
いくら衝撃吸収装置があるとしても旧型パーツではいつか救護する前に骨折しそうだ。
ガチャガチャと装備がまとわりつき、すぐさま建物の壁に張り付いた。
サーモグラフィーで家族4人が固まっているのがみえる。
『高いバーニッシュ反応!近くにマッドバーニッシュがいるかも!』
「まずは救護優先、アイナは屋上待機」
瞬間冷却しつつ窓を割る。
酸素を室内に入れるよりも先に凍らせ延焼を防ぐ。
「バーニングレスキューです!こちらへ!」
防御カバーを外し、ボックスを開く。
すると家族はユリを見るなりさらに恐ろしい顔をした。
一体なぜ、と思うよりも先に男がこちらに向かって白い炎を吐き出してきたのだ。
差し伸べていた右手に火がつく。
「ガアァァッ!!?」
あまりの痛みに機体から落ちる。
そして機体の防御装置が近くの熱源に反応して瞬間冷却を噴射する。
まるで獣のような叫び声。
無線どころか街中にそれが響いていたのは後に知ることになる。
とにかく急激な加熱と冷却。
想像を絶する痛みに胃液が出る。
頭の中が真っ白になり、何も考えられない。
「ユリ!しっかりするんだ!今助ける!」
レミーの声もユリ自身の叫びで隠された。
そして男はそれに同調するかのようにさらに炎を出す。
ユリが搭乗していた機体は吹き飛ばされる。
損傷によるエラーが発生したようだった。
「うるせぇぇえ!お前ら全員燃やしてやる!!
バーニッシュなんざ関係ねぇ!
こいつは俺と一緒に死ぬんだよぉ!」
子供と妻が泣き叫ぶ。
この世界の地獄を寄せ集めたかのような現場に誰もが冷えた。
臓器も頭も、体が一瞬硬直した。
長らく現場で救助活動をこなしていたユリでさえも、恐怖を思い出す。
身体中から脂汗と、口からは胃液と。
今すぐ帰って風呂に入りたい気分だ。
だが子供とその母親が泣いている。
バーニッシュである男も泣きながら笑っていた。
ユリは転がる銃を手にし、自分の右腕に撃つ。
この際壊死しようが関係ない。
このまま無様に死ぬなら家族とバーニッシュを助けて、バーニッシュの意思を挫けさせたほうがいい。
冷却に冷却を重ねて痛覚を消す。
この行動にバーニッシュも燃え盛る自己陶酔から我に帰った。
自分の腕を撃つなど自殺行為という言葉では生ぬるい。
自傷かつ拷問だ。
「頭冷やせバカが!!」
男の手足に氷の錠がつけられる。
それを見てからユリは機体に近づいた。
「バーニッシュ、無力化…救護要請…」
無線の向こうからはノイズしか聞こえない。
入ってきた窓も炎で覆われている。
冷却も次第に溶け始め、この場が焼けるのは時間の問題だった。
朦朧とする意識の中、機体を無理矢理にでも動かす。
ボックスの中にいれば燃えることはない。
幸いボックスだけはまだ生きていたので家族を収容することはできた。
だが問題は、ボックスを閉めるには外部からの信号が必要ということだ。
機体からの信号でボックスが操作されるのだから当たり前の機能であり、本来火災現場にボックスを置いていくなど想定外の利用法だ。
(ボックスの耐熱温度なら十分耐えられる
あとは操作をうまくすれば)
「おねえちゃんは?おねえちゃんも入らなきゃ!」
救助した子供がそう言った。
それににこりと笑う。
「助けが来るから大丈夫」
千切れた回線を合わせる。
するとバチッと火花が飛んでボックスが閉まった。
救助ランプを飛ばす。
そうすればユリの仕事は終えた。
痛みに痛いと声を上げる気力すらない。
早く焼いてくれと願うほどだった。
機体からは無線のノイズが入り込む。
もう助からない。自分の体は自分が一番分かってる。
実質体が燃えてその分の血液も蒸発した。
つまり出血多量のようなものだ。
死ぬに決まっている。
『セン……え……こい…!!』
何を言いたいかわからない。
脳は思考を閉じようとしている。
『……センパ…!………守って……!!』
ふー、と息が長く吐く。
ああ、眠れる、などと考えていた矢先だ。
『センパイ!!』
脳みそが叩き起こされた。
まるでタライでも食らったかのような覚醒に自分でも驚く。
今の声はバーニングレスキューのメンバーのものではない。
ユリにしばらく前から付き纏っていた、レスキューに憧れている男子学生だ。
こんなところにまで勝手に顔を出しているのか、と憤りさえ感じた。
(これは、帰って説教だ)
体を起こす。
それだけでも重労働だが、機体から弾を出して火の手を抑える。
せめて弾が無くなるまでは粘ろう。
弾が無くなればそれまでにしよう。
そんなゴールを先に決めていたものの、大型消防車両が何台も駆けつけ、火の手はあっという間に鎮まった。
炎が小さくなるのをみて安心し、仰向けに倒れた。
▲
目が覚める。
相変わらず体は重い。
だがいつもある感覚がない。
右腕は切除されていた。
腕に視線を取られていたが、ベッドに上半身を乗せてうつ伏せで寝ている男子学生がいた。
何故怪我人の前で寝ているのかわからない。
仕方なく唯一動かせそうな足で頭をこづいた。
「ガロ」
思ったより勢いよく膝が頭に当たる。
ゴン、という音が鳴った。
そして青色でトサカの髪をした目立つ学生は飛び起きる。
「はっ!!?
センパイ!!」
「静かに
病室でしょ」
「そ、それよりナースコール!!」
慌ててガロはボタンを押しそうになったが足で止めた。
「右腕無いんだ
左においで
話をしよう」
眉間にシワをつくり、硬く口を閉じる。
そして言われた通り左側にやってきた。
左腕も火傷をしていた。
だがこの程度はきっとマシなほうだろう。
ゆっくり腕を上げるとガロは手を取った。
そのままユリは腕を伸ばし続けるので支えるようにガロの手は付き添う。
そして頬へ。
ガロもまた確かめるように頬を押し当てた。
「これを見ても、レスキュー隊に入りたい?」
「…ああ」
「助けようとした相手に攻撃されても?」
「…ああ」
「たとえ仲間が目の前で死にかけても?」
「それはどっちも助ける」
揺るぎない青の瞳見て、ようやくユリは折れた。
「おいで
君にバトンを渡すから」
ガロの後ろ首を握ると、ガロは両手でユリの頭を下からすくう。
そして互いに抱きしめ合った。
「今までよくついてきたね
これからが本番だよ」
「ああ…!」
ふわふわとした髪がユリをくすぐっていた。
ユリの長かった髪も燃えて、乱雑に切られている。
今まで両腕でガロを引っ張っていたユリが、今は隻腕であることに切なくなりながらも
レスキュー隊員として尊敬していたユリに認められた嬉しさも備えていた。
▽
少し前の夢を見た。
ガロがバーニングレスキューに入る直前の話でもある。
何故今そんな夢を見たのだろうと、その理由はすぐそばにあった。
「おう、センパイ
起きたか」
ガロにもたれ掛かって眠っていたようだ。
レスキュー隊はその基地に宿舎があるのでここが家のようなものだ。
レスキュー活動以外は皆休日のように過ごしているか体を鍛えているかのどちらかだ。
だがユリに至ってはそうはいかない。
右腕が無くなってからはイグニスが担当していた財務管理を任されることとなった。
また、新人の指導係でもある。
つまりガロと行動を共にする、というものだ。
破天荒で何故か極東の火消しマニアで見栄っ張りの熱い男が静かにしていられるはずがない。
あれこれとクレイ・フォーサイトの一件でバタバタしていたが今日、体力が先に尽きたのだ。
手元の書類は机の上に置かれてまとめられている。
そして膝掛けと、となりにはガロ。
「…なんで起こしてくれなかったの」
「なんでって、そりゃ俺たちは体動かして街の後片付けしてるけどよ
センパイはそうじゃねぇ
頭使いながらあちこち出て指示してるから
疲れてんだなーって思って見てたら俺の方に倒れてきたんだよ」
だから寄りかかって寝ていたのか。
それを聞いて伸びをする。
「重かったでしょうに
そういう時は次はちゃんと起こして」
ふと時計を見ると日付が回っている。
明日もやる事は山積みだ。
ガロだって反バーニッシュの炎上や事件やらで駆けずり回っている。
いつか鍛えてあげていた時よりもハードワークだろう。
「ガロももう寝なさい
明日も早いでしょう」
立ち上がり、空になったカップに水を入れようとしたがガロの右腕が腰に回る。
「ちょっと、」
「センパイも寝ろ
ここ最近ちゃんと寝てねぇんだろ」
「あのねぇ、これでもちゃんと休んでる」
「いいや休めてないね
なんてったって書類の文字がめちゃくちゃだ」
突きつけられた書類見てみると、サインがしっちゃかめっちゃかの殴り書き。
まるで赤ん坊が触ったようだ。
「これ私だっけ?」
「そう
これだと申請通せねぇんだと
文字かどうかすら判別できねぇんだもん」
たしかに、これはまずい。
ユリがそう自覚したのをいいことにガロは思い切り腰を引っ張った。
「うあぁ!?」
ぐるりと視界が回ってガロの顔がドアップで映る。
「寝ようぜ、な?」
ガロの膝の上にいることに気づき顔を押す。
そして自力で起き上がった。
「近い
離れなさい」
「頭!頭外れる!」
いつからこんなに強引な態度になったのやら
バーニングレスキューに入隊して日が浅いはずなのに古株の一人とも言われるユリにはユリの心の壁すら溶かしていく勢いだ。
唯一レスキューメンバーの中で「センパイ」と呼び慕っているにしては、あまりにも近すぎた。
「私は忠告通り休むよ
ガロも寝なさい」
「もちろんそのつもり」
そのまままっすぐ自室へ向かった。
明日も慌ただしい1日だろう。そんな中でガロに心配されるなんて少し前では考えられなかった。
実際にガロとリオはプロメテウスのヒーロー的存在である。
特に元バーニッシュのメンバーからは慕われている。
いつも後ろをゼェハァ言いながらついてきていた子供にあっという間に抜かれて背中が小さくなっていく。
寂しさを覚えるには無理もないことだった。
長い髪は燃えて、今は考えられないほどショートになってしまった。
だがショートもメリットはある。
まずシャンプーやリンスは少なくていい。
髪を乾かす時間が短い。
今までロングヘアーだったのは単純に髪を切りに行くのがめんどくさい、という理由だったのでショートになってショックを受けることもなかった。
建物は未だ倒壊。
仮設住宅を建設してプロメポリス全員が撤去作業を行う。
だが元バーニッシュを指揮することで反感を買うこともあった。
元バーニッシュはほとんどが戦闘能力を持たないただの人間だ。
今や炎を出す能力がなくなったので一般市民と変わりない。
だがそれまでクレイ・フォーサイトが行ってきた政策や30年間培われた嫌悪感情が簡単に消えるわけがない。
バーニッシュに暴言を吐く人間に顎を叩いて気絶させた。
「あ…ユリさん!」
「こいつは私が預かる
君たちは作業に集中して」
「は、はい」
ユリは自分より大柄な人間でさえも片腕で持ち上げる。
休憩所として設置したテントに寝かせる。
午前中だけで5名。
ユリに気絶させられるというだけで言わないが内心いろいろと思っている者が大半だろう。
こんな感情を植え付けたクレイ・フォーサイトはプロメポリスでも唯一残っていた収容所にいれている。
彼に権限などない。
だが彼は彼で優秀な方であった。
燃え盛る街をあの白くそびえるビルに変えたのだから、この撤去作業など足元にも及ばない。
「15分休憩に入ろう!
みんな一旦テントで水分補給を!」
重いものを任せられない子供たち数人にスポーツドリンクを作ってもらう。
何より実験のせいで体の一部が欠けている。
一部分無いだけで大変なのはユリが一番よく分かっていた。
「ありがとう、君たちも外で汗かいただろうから
ちゃんと飲むんだよ」
「はーい」
テントに座り、作業の汗を拭う。
皆一様に話をしていたが、一方で離れのテントで起き上がったものがユリに掴みかかった。
「てめぇ毎日毎日俺を気絶させやがって!」
先程バーニッシュだったものに暴言を吐いていた男だ。
男曰く昨日も一昨日もユリに顎や首を殴られて気絶させられていたようだ。
「学習能力が低いんだねぇ」
「あぁ!?」
胸ぐらを掴んで持ち上げる。
周囲の人間はきゃぁ、と悲鳴をあげたり、男を宥めようとしていた。
ユリの足は宙に浮いていた。
「こんな火を消すことしか脳のない女に指示されてたまるか!!
そもそも俺がバーニッシュにどう思っていようとテメェには関係ねぇだろ!」
「関係ある
私はここの管轄を任されている
一定の権限がある
あらかじめ私の視界にうつる差別発言は処理をすると言っていたよ」
「うるせぇ!」
「自分より弱そうな相手にしか口や拳を出さないんだね」
こうしてユリは1発殴られた。
力任せの拳は思ったより軽い。
ゆっくり男の顔を見やる。
「手、痛いでしょう
無理に悪漢ぶる必要はない」
「黙れ!」
もう1発。
ユリは頭を自分からぶつけにいった。
いわゆる頭突きだ。
男はたった頭突き一回の痛みでユリから手を離した。
「ユリさん!」
「下がって」
頭突きされた拳の上からさらに手で押さえている。
ユリはただじっと男を無表情で見つめる。
痛みで顔をしかめる男とユリはあまりにも対象的だ。
どちらかといえば男のほうが有利であるはずなのに、ユリはこれから何をしても顔色を変えないであろうことをこの場の全員が理解してしまった。
「くそっ!アバズレめ!!」
「どうも」
男はそう言ってどこかへ走って行った。
ユリの後ろにいる人間はほっと胸を撫で下ろす。
「顔が腫れてる!手当てしなきゃ!」
「ああ、それは自分でやれる
そろそろ作業に戻ろうか
気分が悪い人はすぐに報告を」
何もなかったかのような顔に周りだけがソワソワしている。
ユリは自分に無頓着なのかそんなことは気にせずただ手元の資料を見ながら指示を出していた。
昼休憩、レスキュー隊も車両を出動させていたが戻ってきたユリの顔に一同驚いていた。
「ちょっとその顔どうしたの!?」
アイナが驚いて駆け寄る。
レミーも救急箱を持ってきた。
「ちょっといろいろあってね
相手が理解力のあるやつでよかったよ」
「全然理解力あるように思えないけど!?」
額と左頬に医療用テープを貼られた。
「とにかくそう大事にはならなかった
喧嘩も弱かったし」
「全くお前は
いつも妙なところでぼんやりしてんな」
バリスの発言にみんなが頷く。
いい加減腕がないのだからユリが心配されていることを自覚してほしいものだ。
そうこうしていると被害が大きな区域を担当しているガロとリオが戻ってきた。
「たっだいまー!ってセンパイ!?
なんで顔!?」
「どぅは!?」
駆け込み、床を滑りながらレミーを押しのけた。
レミーはガロを恨めしそうな顔で見ている。
「君が心配になることはもうないよ
昼のミーティングを始めよう」
「でもセンパイ!」
「後で言いたいことは聞く
時間を無駄にしたくない」
そう言えばぐっと口をつぐんだ。
各所の状況や人数を報告するために昼のミーティングは重要だ。
「それで瓦礫のその後の処理なんだけどどうすんのあれ?」
「それね〜案があるにはあるけど、ちょっとマンパワーが足りないっていうか
時間がかかりすぎるっていうか」
「撤去に使うパワーアームの工場ですらダメになってるからな
今ある資源で活用するしかないだろう」
アイナ、ルチア、レミーの意見は最もだ。
巨大だったプロメポリスほぼ全ての建物の瓦礫を街の外に運び出すなど何百年かかるかわからない。
むしろ長期的に見ていくしかないのかもしれない、とユリが発言しようとしたその時、ガロが言う。
「なぁリオ、クレイが乗ってたマシンが撃ってきた中に全部土にするやつなかったか?」
「ああ、あったな
………まさかあんな危険なもの使うつもりか!?」
「だってしゃーないだろ!
いつまでも撤去し続けてるわけにはいかねーしよぉ」
この話題に食いついたのがルチアだ。
ガロとリオ曰く、クレイと戦った時に未開拓地を最低限の力で開拓するようなビームを放ったらしい。
さっそくマシンに詳しいルチアと、当事者のリオ。
そして怪力自慢のバリスがクレイの乗っていたマシンにいくことになった。
完全停止をし、沈黙を続けるそこは不思議と誰も近寄りたがらなかった。
「ガロは何故いかなかったの?」
「なぜって、パワーはバリスがいれば十分だろ?」
「そうだね
でもそれだけじゃないでしょう」
ガロは横目でユリを見てため息をついた。
「心配なんだよぉ
だって帰ってきたら顔腫れてっし!殴られたって聞いて殴り込みにいきてぇくらいだ!」
「そうなんだ」
「そうなんだよ!」
「じゃあ私は持ち場に戻るよ」
「オイっ!」
ユリはガロの言葉をいともせずさっさと瓦礫撤去場まで戻ってきた。
戻った現場監督がガロを引き連れているのでほとんどの人間は驚いているだろう。
そもそもユリのことはあまりに認知度が低く、レスキュー隊でも下っ端だろうと思っている人が多い。
「それでは午後の撤去作業を始めます
午後の気温は28度、これからもっと暑くなるので各自必ずこまめに水分補給をしてください
それから金属片は熱を持っているので軍手着用をお願いします」
「センパイ!俺の話聞けって!」
「ガロはコンクリの作業を
危険物取扱免許持ってたっけ」
「持ってねぇ!」
「じゃあ危険物あれば私に報告
君、ガロ連れていつもの現場にいって」
ガン無視されているガロは面白くない。
膨れっ面の顔に向かって左手が伸びて頬を摘んだ。
「終わったら話を聞く
まずは動け」
「約束だかんな!
絶対守ってくれよ!?」
しっし、とファイルで追いやる。
それから午後の作業が改めて始まった。
▲
髪の長かった女隊員は毎日同じコースを同じペースで走っていた。
はじめはただのランニングかとも思っていたが雨の日も雪の日も構わず走り続けているのだから只者ではないと気づいた。
そしてバーニングレスキューで活躍している姿を見て、ランニング中に声をかけた。
「なぁ!あんたバーニングレスキューの人だろ!
俺に教えてくれ!火消しの極意!」
「………」
耳にイヤホンをしている。
ポケットに手を突っ込み音量を上げていた。
聞いていないふりをしているとわかった。
「おい!無視すんなー!」
女はスピードを上げる。
それに負けじと追いつくも次第に離されて、息が荒れて肩で息をするほどに遠くなっていく。
「お、…おいっ!」
女はそのまま姿を消した。
だが翌日また走っていた。
なのでガロは毎日付き纏った。
飽きもせず、女に追いつこうと必死だった。
時折トレーニング中に出動要請が入り、全力で走り出すのでそれに追いつけないこともあった。
ガロは体を鍛え、学校でも器具を借りて暇さえあればトレーニングを繰り返した。
何よりあの女隊員に突き放されることが癪に触るのだ。
負けん気で走り続けて一年。
女の速度に追いつくだけではない。
ようやく並走するに至った。
「なぁッ!教えて、くれ!
レスキューに、なにが、必要なのか!」
すると女はイヤホンを外した。
「体力、知識、根気
君、次は勉強しなさい」
「は…ハァッ!?」
「そうしたら暇な時、トレーニングしてあげる」
「わ、わかった!よし!よし!!
よっしゃー!!」
それがいわゆる弟子入りの馴れ初めだ。
撤去作業中に、ユリとガロが親しい仲だと知らなかった作業員がどういう仲なのかと聞いてきた為に昔のことを思い出していた。
「センパイ、なんだかんだいって優しいんだよな
自分のこと以外面倒見がいいっていうか」
「ちょっとわかります
午前中のこともですけど何かあれば一番に駆けつけてくれるんです
ああいう人、なかなかいないですよ」
「だよなー!俺そういうとこ好きなんだよなー!」
「えっ…」
ガロは持っていた瓦礫を思わず落としてしまう。
顔を真っ赤にしながら全力で否定する。
「ちが、そういう意味じゃねぇよ!
人として!後輩として!」
「あ、ああ、そうなんですね」
雑念を払いたくて何倍も働いた。
まだまだ年頃なのか、動揺は誰から見てもバレバレだ。
「本日の作業は終了
みんなお疲れ様」
ユリの声を聞いてみんな労働から解放された。
だが他の地域よりも撤去作業が進んでいるのをみてユリは一言。
「みんな頑張ったね
ゆっくり休んで、無理しないように」
そう言った。
無表情だがこういう労いの言葉は嬉しいものだ。
ガロのハイスピードな作業に巻き込まれたとも言いだせないが達成感はある。
「おうセンパイ!どうだ俺様にかかればこの程度!」
「うん、すごいね
助かったよ」
率直な褒め言葉にドヤ顔を隠せない。
皆が後片付けをし、それぞれ散り散りになった。それを見届けてユリはコンクリートの瓦礫に腰掛けた。
「ガロ、何か言いたいことがあるんでしょう」
「お、おう…
その、センパイが強いのは知ってっけど
殴られるのはやっぱ心配しちまうよ」
「そうだね
私もガロが殴られたら心配するだろうね」
「だろ!?
あ、いや、まぁ俺は平気なんだけどよ
殴られたら殴り返すし」
それに、より心配になっているのは片腕がないせいだ。
事実ガロは片腕のないユリをよく注視している。
「でもね、君のそれはきっと一生治らない
私のこと、ずっと心配するしかないよ」
「なんでそんなことわかんだよ」
「君がそういう生き物だって知ってるから」
指摘に思わず顔が熱を持つ。
まるで見透かされているようで堪らなくなった。