世界の天蓋
名前変換
この章の夢小説設定デフォルト:エカ
種族:想像にお任せします
元前衛オペレーター。酷い怪我のため左腕を欠損。
以来精神的不調も見られる。(自覚なし)
現在は子供たち向けに絵本を描いたりしている。
名前を覚えられない欠点がある。
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私は考えた。
ウンと話し足りないのであれば共通の話題を作ればいいのだと。
常々ウンは機械の講習などを探していた。
とはいえロドス内の講習は治療やサバイバル演習が多く、機械関係は手を出せない状況だ。
そもそも需要があるのかわからないが。
そういうわけで実際に技術部の彼女に話を聞くことにした。
名前は忘れてしまったが白い髪に似合う名前だったと思う。
「へぁ?機械の講習…ですかぁ?」
「うん
まぁ一口に機械って言ってもいろんなのがあると思うけど
とっつきやすくて、身近な知識を教えてほしいなって」
「そうですねぇ…
機械の修理関係なら幅広く教えられそうですが」
「なるほど〜じゃあ基盤とかも教えてくれたりする?」
「可能であれば…ただ私別のプログラムも担当してて…」
たしかに彼女は優秀だ。
いろんな所から引く手数多なのだろう。
無理をさせて体調を崩されても困る。
「無理をさせたいわけじゃないから
もしよかったら他の講習できそうな人を紹介してくれるとありがたいんだけど」
「もちろんです!
ええっと…それじゃあ…」
それからの流れは案外早かった。
やるべきことがはっきりとしていたせいだろうか。
またはやると決めたことに関しては何の面倒臭さも感じない都合のいい性格をしていたせいか。
ともあれ事実、講習を無事開けることとなり、私はチラシを貼って回った。
スノーズントに紹介された技師はダルーという名前の男だった。
良くも悪くも几帳面な性格の持ち主であり、試験的な意味で私が講習内容を学習してみた。
案外モノを教える才能もあったようで、単純に分かりやすかった。
講習当日、機材を運ぶのを手伝い、後は受講生を待つだけだった。
私は前の席でポツンと座っていたが気がつけば続々と人が増えている。
こんなに多くなるとは予想だにせず、ダルーと私はアイコンタクトでうなずいた。
次回も同じ内容でやるか、と。
そうしてまず、溢れた人員に対してはまた後日同じ内容で講習を開く旨伝えた上で、席を開ける。
私は今日じゃなくてもいいので席を立ち、他の人に譲った。
廊下からこんなに多くなるとは思いもしなかった、と他人事のように眺める。
1時間の講習が終われば、ダルーに質問をする生徒が後を立たない。
その中にはもちろんウンもいた。
私の掌で転がされているとも知らずに、なんて思いながらほくそ笑む。
質問者も少し減ったところで後ろから声をかける。
「先に片付けしとくね」
「ああ、頼むよ」
こんなに好評だった講習にダルーも鼻が高いようだ。
いつもは仏頂面なのだが少し笑った。
私も小さなことだが、ロドスのためになることを出来たのだと思うと思いがけず誇らしくなった。
次回の講習と、発展型の講習もアンケートに入っていたため
ダルーのシフトと会場のスケジュールも合わせて私がマネージャーのようになっていた。
とはいえいつもニートのように放浪することで時間を潰していただけであって特別仕事が増えたからといって忙しいわけではない。
むしろダルーのほうが忙しいだろう。
「あ!ちょうどいいところに!」
通路の先にダルーが資料を持ちながら歩いていた。
走って駆け寄る途中で、視界にウンも見えた。
片手で手を振ってすぐにダルーへと。
「こないだのスケジュールさ、ロドスでほかの会議が立て続けにあって講習開いても来れる人いなさそうなんだよね。」
「そうか、じゃあ更に先延ばしになるな」
「せめてこないだあぶれた人に講習したいんだよね
いい案ないかな」
「場合によっては夜に講習をすることも可能だとは思うが」
はっとした顔でダルーの肩を叩く。
「それ!なんださすが秀才〜!」
「会場を押さえるのはお前の仕事だ
交渉は任せたぞ、マネージャー」
「りょ!」
一目散に駆け回り、そうして私の最低限の仕事は無事に終わった。
いつもは夜遅くまで執筆作業をするのだが最近はすべきことが終わると睡魔が襲い、泥のように眠る。
あまりにも心身ともに健康的な生活を送っていた。
朝、今日も役目があるため食堂で朝食を食べながらパッドで仕事内容を確認していると、ハイビスが隣に座った。
「ハイビス!」
「エカさん!あの噂本当ですか!?」
「え?」
「技術部の人と付き合ってるって話」
「はぁ?」
変な顔をすればハイビスも怪訝な表情を浮かべた。
「だって最近技術部に出入りするじゃないですか
エカさんが仲良く話してるのを見かけて、子供たちも付き合ってるって」
「流石に勘違いしすぎ
私付き合ってないし好きな人もいないし」
「噂は噂だったってことですねぇ…
でも、もしそういう人がいたらぜっっったい私に相談してくださいね!」
「…考えとく」
うっかり簡単に漏らしてしまいそうだ。
視線を逸らしつつパンを頬張る。
そもそも問題はそこではない。
いい加減な噂が立っていることについては不愉快である。
きっとダルーとのことを言っているのだろう。
ただ私はウンとの話題を作りたいということがことの発端であり、今回の講習はその延長線上にすぎないのだ。
だが結果思ったより好評で、せっかくだからと続けている。
「俺も隣いいかな」
「ウンくん、おはよ」
「おはようございます!」
毎日任務だった頃を思い出し、早朝からの護衛任務ほど面倒なものはなかったな、なんて感想を浮かべる。
「おいエカ」
「お、秀才ダルーくん」
「変な二つ名つけんな
これ次の資料
なんか分かりづらいところあったら言え」
「了解〜」
ファイルに収めて、お茶を飲もうとしたところ、ウンが思ったよりじっと私を見ていた。
「え、ウンくん?」
「あっ、ごめん
ぼーっとしてて!」
「大丈夫ですか?
体調が悪いなら医務室にでも…」
ハイビスの提案に対し大丈夫の一点張り。
だがそれからのウンは上の空だった。
なんだか他のことを考えているような、そうでもないような。
ハイビスと目を合わせて首を傾げる。
「何かあったんでしょうか…」
「まぁウンくんのことだし、アーのことでなにかあったんじゃない?」
「そうですかねぇ…」
今もまだぼんやりとしている。
とはいえウンも完璧超人ではない。
そういう時もあるだろうとあえてそっとしておくことにした。
◆
夜の講習も無事終わった。
夜に時間を持て余すオペレーターも多いようで、今回も好評だった。
ただダルーの体調的な面を考えると夜間講習はあまりしないほうがいいだろう。
機材を片付けながら考えていると、今回の講習にもウンがいた。
私も機械に関してはそこそこの知識を持てるようになった。
そろそろウンに切り出してもいい頃だろう。
なんて話そうか、と考えていたところダルーが私を呼ぶ。
「悪いがこの機材だけA-12倉庫に持っていってくれ」
「これだけ?他は?」
「あとは俺の近くの倉庫だから明日まとめてもっていく」
「わかった
じゃあねダルー、ウンくんも
おやすみ〜」
ひらひらと手を振ってその場を後にした。
機材倉庫は居住区画から離れている。
しかしすっかり慣れてしまったためにいちいち電灯をつけなくとも置く位置は把握できていた。
一仕事終わったところで背伸びをしていると、背中に明かりが当てられた。
懐中電灯だ。
「?」
「エカ!せめて電気つけなきゃ」
ウンだ。
さっきまでダルーといたのに。
「なんでここに?」
「この倉庫に格納しないといけない道具があるって
俺が代わりに持ってきたんだよ」
「そうなんだ
じゃあここの棚にでも置いとこ」
ひょいと持ち上げてそのまま置く。
これでウンも頼まれごとは終わったはずなのだが、やはり少しぼうっとしているようだ。
「ウンくん?
どうしたの?」
「あ…ええっと…
なんでもないんだけどさ…」
歯切れが悪い。
気を遣って言えないような何かがあるのだろうか。
「ねえねえ、少し時間ある?」
「大丈夫だけど…?」
裾を引っ張って倉庫の奥へ連れて行く。
吹き抜け構造になっているため、天井からは月の光が一画だけ降り注いでいた。
懐中電灯を消してそこから空を見上げる。
雲に少し隠れた月が私は好きだった。
「…これだけなんだけど
前にここから見る月が好きで、上に登って見たことあったんだ
つまんなかったかな」
「ううん
今日は天気もいいし、綺麗な月だね」
ほんの少しの時間だが2人で見上げた。
すると向こうからカシャンという音が聞こえた。
2人で一斉に振り返って入り口方面へ全力で走る。
「おーいおいおい!中にいるんですがー!!?」
声を出しながら出入り口に駆け寄っても時すでに遅し。
しっかりと施錠されていた。
叩いても誰かが開けてくれる様子もない。
まず私は
「ごめん…私が電気しっかりつけてれば…」
ウンに頭を下げた。
私はともかくウンは明日も任務だろう。
ベッドのないところで寝ることのストレスといったら。
当然ながら罪悪感が襲う。
「だ、大丈夫だよ!
明日は昼からの任務だし、気にしないで」
「ほかの出口探して鍵もらってくる!」
窓から外に出られるだろう。
倉庫内の探索に乗り出そうとしたが、肩を握られた。
「あの、エカ
ちょっと聞きたいことがあって」
「それ今じゃないとダメなの?」
「ダメってわけじゃないけど…
今がいいタイミングだと思う」
少し意味は分からないが、ウンにもいろんな都合があるだろう。
頷いてその質問内容を催促した。
「…エカってさ…」
「うん」
「ダルーと付き合ってる?」
「またそれ!?付き合ってないし!」
何度否定すればいいのやら。
肩をすくめてあからさまなポーズをとってみせた。
「いくら話題が何もないからって勝手な噂流されたらたまったもんじゃないよ」
「ごめん、そういうつもりじゃなかったんだけど
少し気になって…」
「ウンくんが?なんで?」
「な…なんでだろう…
でもエカはあまり技術部と接点はないだろ?
意外だなって思ってさ」
たしかに私の交友関係の狭さを知っているウンなら気になって当然か。
そもそも過保護気味なのだから講習のために走り回っていることにも目がいっていたのだろう。
「実はさ、講習の立案したの私なんだ」
「え?」
「ウンくんが前に機械関係勉強したいって言ってたでしょ
それと、私ウンくんのこと何も知らないからさ、
手始めに私も機械のこと勉強しようと思って!
そしたら話題増えていっぱい話せるでしょ!」
これぞ名案中の名案。
ドヤ顔で答えると、ウンは少しずつ震えてお腹を抱える。
見たことのない反応するので一瞬心配をしたがすぐに解消する。
「あはは!
なぁんだ!ははは!」
「なんで爆笑!?」
すると両手で頭を撫で回される。
ぐしゃぐしゃにされて、最後に頰を両手で包まれた。
「言ってくれれば俺のことちゃんと教えたのに」
今までウンの笑顔はたくさん見てきたが、こんなに緩み切った…あるいは甘くなった…
正確な例えはわからないけれど、とにかく初めて見るタイプの笑みだった。
思わずドキリと変に心臓が動く。
じわじわと顔があかくなってしまった。
爆発した髪の毛を整えてごまかす。
「じゃ…じゃあ…また今度
休みの日に教えて」
「いいよ」
それから倉庫の中を探すもいずれも窓はスライド式ではなく、手動でハンドルを回しながら小窓を開けるタイプのものだった。
そもそも人は入れるサイズではないし私が入れないのであればお手上げだった。
「はぁ…パッド持ってくればよかった」
くたびれて座り込む。
せめて月明かりが差し込む天窓の近くで腰掛けた。
「マジでごめん」
「大丈夫だよ
気にしないで
それに俺のこと知ってもらういい機会だと思うよ」
「…それはそうだけど」
さっきのことが頭から離れない。
ウンは隣に座って私のことを見ていた。
いざ何か話そうとするも、なかなか言葉が出ずに顔を背けた。
そのことを見破ってか、結局ウンから話し始めた。
ロドスにいる前は探偵事務所にいただとか、料理は簡単なものなら出来るとか。
本当に他愛もないことだ。
なんの役にも立たない情報だけれど私が知りたがっていたことでもあり、逐一記憶できた。
ウンにはウンの人生があった上でアーの保護者なのに私が独り占めしているみたいでなんだか優越感に浸った。
「ひぃっくしょ!」
「え?くしゃみ?」
「そう…くしゃみですが…?」
ウンはまた笑う。
可愛げのないくしゃみだとよく言われるが、おっさんのように大きな声でするよりはマシだと思う。
「もしエカが良ければ俺に寄りかかっていいよ
自慢じゃないけど、体温は高いほうだから」
「そんなこと言われたらいっぱいもふもふするけどいいの?」
「エカならいいよ」
いたずら心に満ちた言葉を選んだはずなのにまるで幼児をあやすかの如く、呆気ない返答をされてまた何も言えなくなった。
だが正直なところウンのもふもふには逆えず肩に寄りかかる。
言った通り暖かい。
いい匂いもする。
自然と呼吸は深くなり、意識が沈んだ。