世界の天蓋
名前変換
この章の夢小説設定デフォルト:エカ
種族:想像にお任せします
元前衛オペレーター。酷い怪我のため左腕を欠損。
以来精神的不調も見られる。(自覚なし)
現在は子供たち向けに絵本を描いたりしている。
名前を覚えられない欠点がある。
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ウンは私の楔となった。
その責任でも感じているのか以前よりも声をかけてくる頻度や長話をする回数も増えた。
もちろんそれは私もだが。
むっとむくれたハイビスが私を恨めしそうに見ている。
今日は雨で天気が悪く、体調も悪い。
いつものことだがハイビスがやや強引に医務室へ連れてきた。
古傷が痛む。
「ハイビス、なんでそんなに怒ってるの」
「嫉妬してるんです」
「嫉妬?」
ハイビスに似つかわしくない言葉がでてつい笑ってしまう。
「笑い事じゃありません!
最近のエカさんはウンさんばっかり!」
「え、そうかな…」
「そうですよ!
私だってエカさんとおしゃべりしたいです!」
「ははは、うん、わかった」
嫉妬されるのがこんなに嬉しいとは。
交友関係の広い彼女から言われるのはアリだ。
「それに、ちょっと根に持ってることがあるんです」
「え、」
「私の名前はずーっと覚えてくれなかったのに
ウンさんだけ!すんなり覚えたじゃないですか!」
「それは覚えやすかったからだよ
事実アーだってすぐ覚えたし」
「私は信じませんからねっ」
「可愛い顔が台無しだぞ」
ツンと鼻をつつけば、ハイビスもちょっと笑った。
ここ最近の襲撃もあって未だロドスは張り詰めている。
ハイビスもその空気に影響されているのだろう。
ついでにハイビスの肩や首をマッサージして気分をほぐした。
「ハイビス、あんまり人のことばかりで自分のこと疎かにしちゃダメだよ
私が居ればいいんだけど
もうそこにはいけないから…」
「はい…そうですね」
軽く頭を撫でてハイビスを見送る。
この世界にふさわしいほどの曇天が覆っていた。
◆
今日もぼんやり歩いていると、他の人と見まごうはずもない
アーがいた。
一人でジュースを飲んでいる。
「アー!
奇遇だなぁ〜取材させて?」
「うわ出た!」
「今何してんの?」
「気分転換
行き詰まったんだよ」
「ふーん
頭いい人は大変そうだなぁ」
ふん、と鼻をならしてそのままジュースを飲み干す。
「じゃあな、来るなよ」
「ついていっちゃお」
「新薬の試験体になってくれるなら歓迎するがな」
「えー!やるー!」
「だがテメーはダメだ」
私ではなく、アーが不服そうに言った。
アーに全ての取材を断られ続け、今日も玉砕するはずなのだが。
「ウンにキツく言われてんだよ
テメーにゃ間違っても新薬使うなってさ
まぁそもそも前線に立ってるわけじゃなし
投与する予定もないがな」
「へ…へぇー…」
「じゃあな
今夜は雨がよく降る
痛み止め多く飲んどくんだな」
「え」
あなどれない。
あんなに人に無関心と思いきや医者のサガなのか症状まで把握しているとは恐れ入った。
ハイビスに心配をかけたくない
併せてアーにも言われたのだから今日は大人しく部屋で執筆作業をしよう。
部屋に戻る途中でアーの言葉をもう一度思い出す。
お腹の中がむずむずして、深いため息を何度も繰り返した。
そうしなければ謎のモヤモヤが消えなかった。
いつの間にか、ウンの中の保護対象に含まれているのだろうか。
いや、それよりもっと別の扱いをされているのではないかと勘ぐってしまう。
この思考は果てしなく意味がない。
なのですぐにやめたいのだがウンのことを考えては手が止まっていた。
たしかにこの間の件で私自身ウンへの許容範囲は広くなった。
壁を取り除いたと言ってもいいだろう。
それはあくまで、あれだけ優しくされたのだからという一種の恩情だ。
だが今の私はそれに留まらず何かもっと別のことをしようと、
感情を具体的にしようと思っている。
首を振って雑念を払った。
強制終了して作業にふける。
私の名前はずーっと覚えてくれなかったのに
ウンさんだけ!すんなり覚えたじゃないですか!
「あ゛ー!!」
雑念が払えない。
ハイビスの言葉を今更思い出して悶々としてしまう。
頭をぐしゃぐしゃにかきまわし、ベッドにうつ伏せになる。
顔を上げると長らく使われていない刀がそこに鎮座していた。
這いつくばりながらそれを手にして引き抜く。
(そろそろ油塗らないと痛むな…)
実用の刀のくせに、今は使われていないしかと言って観賞用にもなれない。
いわば手持ち無沙汰だ。
いっそのこと誰かに譲るのも手だ。
エンカクあたりは刀に詳しそうなので会ったら話してみるのもいいだろう。
(…やっぱり刀みると雑念消えるなあ)
深呼吸してパッドと向き合った。
綺麗な言葉のパズルを当てはめる。
こんな事があればいいな、をわかりやすく表していれば時間はゆうに過ぎていく。
そうする事で、私は割と一日中ウンについて考えていることが多いという事実に気付いた。
暇さえあれば資料探しをしていたことが嘘のように、ぼんやりと頬杖ついて上の空。
頭の中でウンの笑顔が自然と浮き上がる。
なぜあんなにも敵対心を無くす笑顔をしているのだろうか、子供にも好かれているんだろうな、などといったことを意味なく考える。
するとパッドにメールがきた。
滅多に来ることはないので何かの作業依頼だろうとタカを括っていた。
実際の中身は義手の修理完了の知らせだった。
私は技術部へ飛ぶように向かった。
「こんにちわー」
「あわわ!もう来られたんですかぁ!」
ワタワタと慌てている。
白くて長い髪だが黒髪もありツートンカラーだ。
「なんか時間おいた方がよかったです?」
「だだ、大丈夫です!
こちらが義手です!」
「ありがとうございます〜
えっとー」
ちらりと顔を見ると焦ったように自己紹介をし始めた。
「龍門の技術所属スノーズントといいます!
最近ロドスにきました!」
「あー…エカっていいますー」
お互いぺこりと頭を下げて、改めて義手をみる。
「前回と同じ仕様で修繕しました!
接続するのですこし待ってください」
工具を取り出し、一人で大変そうだ。
そもそも他の人はどうしたのだろう。
欠損部をめくりながら直球で尋ねた。
「他の人はどうしたんですか?」
「ええ、えっと、未だ襲撃された部分の補強作業です
私は休憩時間で手持ち無沙汰だったので、エカさんの義手の修理してました」
「え……一人で!?」
「ひえっ!何かいけなかったのでしょうか!?」
人は見かけによらない。
おどおどした子があまりにも有能かつ敏腕だったとは。
「ありがとう…助かる…」
「え、えへへ…嬉しいです」
無事接続が完了し、ゆっくりと左腕を動かす。
「反射速度に合わせて左腕も動かせるようになればいいんですが…
技術の進歩が追いつかず…」
「反応して動かせるだけすごいよ
ありがとう」
彼女は照れ臭そうに笑ってもう一度頭を下げた。
優秀な新人が入ってロドスも大助かりしていることだろう。
私は久々に廊下をスキップで歩く。
天気はやはり暗いが、今の時期にはちょうどいいくらいの気温だった。
(ウンくんどこかにいないかな)
どこか心が浮ついて周囲を見渡す。
やはり任務に出ているのだろうか。
それならすこし残念だ。
ロドスの出入り口が見える、塀の上によじ登る。
見張り台よりも後方に位置するため見づらいが、見張り台に立つ資格はもう無いので仕方がない。
(もしかすれば長期任務だったりして
じゃあ登り損かぁ)
と思いつつも健気な忠犬のようにしばらくはそこにいた。
ぽつん、と鼻に雨が当たって見上げると、スコールが降り注いだ。
外にいたロドス員もわあわあ言いながら中へ入る。
私も逃げるように中へ舞い戻った。
「うへぇ…」
何もしていないのにびしょびしょの私は注目を浴びる。
急いで部屋に戻る。
今日は仕方ない。じっと部屋にいよう。
そう決め込んだ時に後ろからタオルを被せられた。
「うわっ」
「エカまでどうしてびしょ濡れなのかな?」
振り返ると困った顔したウンがいた。
私は自然と笑顔になる。
「ちょうどよかった!
いや大した理由ではないけど!
義手!」
「帰ってきたんだね、よかった」
と、ウンは言いながら私の頭をタオルで拭う。
「エカも外にいたの?」
「そう」
「何しに?」
「ウンくんのこと考えてた」
ぴたりと手が止まって、何事もないかのようにまた髪を整えた。
「そ、そうなんだ」
「義手自慢しようと思って」
「なんだぁ…」
顔が緩みきって耳まで余計に垂れている。
雨に濡れてシャワーを浴びたいと、人々はシャワールームへ向かったようだ。
「まぁ…それだけなんだけどね
タオルありがとう」
「どういたしまして
風邪ひかないようにね」
「はーい」
そこで会話は終わり、私は自室へ向かうのだが
ふと思い返して見れば全然話し足りない。
とは言えなんの用事もなく話す事に抵抗がある。
というかウンはああ見えてかなり多忙だ。
世話好きな性格のせいなのかはわからないが、すぐ手助けしようとする。
それは私じゃなくても同じだ。
今、自分で答えを出したくせしてめちゃくちゃ不機嫌になってる。
どうせなら何もなくても会話できるようになりたい。
けれどもそこまで踏み込んでいいのかわからない。
モヤモヤした気持ちを抱えながら、引きこもった。
◆
気分を一新し、私は手入れ道具と刀を持ってロドス内をうろうろしていた。
「前衛オペレーターさん
刀買いませんかー
30万で譲りまーす」
ちなみにアテのヤトウには断られた。
だろうとは思った。
「めちゃくちゃ貴重な刀でーす
すげぇキレまーす
極東に刀匠ふんじばってもらいましたー」
宣伝しているはずなのに誰もよってこないどころか避けられている。
これは由々しき事態だ。
こうなれば人事部も管轄しているドクターに殴り込みにいくしかない。
事務室にたどり着きノックする。
無機質な声が聞こえた。
「エカでーす
相談があってきましたー」
どうぞ、と声が出て遠慮なく入る。
暗い部屋、というよりは殺風景。
書類と、薄暗い空と、黒いデスク。
それだけだ。
「刀いります?」
「………」
「ちなみにめちゃくちゃ凄腕の刀匠から貰ったやつですごいんですよこれ
隕鉄だし、なんか数百年ものみたいで
刃こぼれしたことないんですよ」
「…………それは、誰からもらったんだ?」
「さあ?極東に留学してた時に、たまたま近くに刀匠の人が来てるっていうのを聞いたから襲ってもらった
だってめっちゃ綺麗な刀だったから」
ドクターは頭を抱えながら電話をした。
誰に電話したのかわからないが、とりあえずソファーに座れと言われる。
そのまま待機すると続々とロドスや他組織のトップが集まってきた。
予想外の展開にドクターを凝視する。
「で、狙いがわかったとはいったいどういう意味だ」
チェンは私をすこし睨みながら意味を急かす。
「襲撃犯が撤退する際、ロドスでは扱いきれない至高の宝をもう一度取りに行くと言っただろう」
「それがなんだ
ロドスには事実宝などあるはずないだろう」
ドクターは私を指差す。
一斉に視線が集まった。
「え?なに?」
はっとした顔つきでシルバーアッシュは刀を手に取る。
「ミツユキの刀か」
「お目が高い!
名前はえーと、咆哮光之
虎みたいな紋様がキレーで、しかもアーツ適正のある隕鉄で作ってるからそりゃもうそこらの刀とはおおちが…い……」
私をじーっと見て、今更ながら冷や汗をかいた。
「……欲しい人いるんです?」
「端的にいうとそうなるな」
「えー!!でも私はロドスの前衛の人にあげたいと思ってきたんだけど!」
なるほど、とロドス総責任者のケルシーは言う。
「ミツユキ作の刀を求めて襲撃まで起こしたと言うことか
だが他武装勢力にアーツ適正隕鉄の刀をおいそれと渡すわけにはいかない」
「あの襲撃、この刀のせいなんです?」
「刀のせい、というよりは全ての原因はあの意味不明の武装勢力が襲撃したせいでもある。
場合によっては小国家を買えるほどの値段がするだろう」
「やば」
そんな刀を、刀匠に戦い挑んでよくもらって帰ってきたな、としみじみ思う。
「エカ、この刀をしばらく預かるぞ」
「どうぞどうぞ
前線引いて宝の持ち腐れだったんで
手入れ道具おいときまーす」
じゃ!なんて言って友人の部屋から出るように挨拶した。