世界の天蓋
名前変換
この章の夢小説設定デフォルト:エカ
種族:想像にお任せします
元前衛オペレーター。酷い怪我のため左腕を欠損。
以来精神的不調も見られる。(自覚なし)
現在は子供たち向けに絵本を描いたりしている。
名前を覚えられない欠点がある。
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特に進展があるわけでもなく月日が経った。
私は相変わらずの毎日で、ウンも相変わらずだった。
毎日代わり映えのない、ただ闘いばかり。
時にはロドス本部近くにて戦いはあったがそれきり。
感染症患者は落ち着いて生活を繰り返した。
「ここ最近、カウンセリングに来てくださいますね…」
「え?まぁ、ちゃんとメモしてるので」
シャイニング先生はくすりと笑ってカルテに目を落とす。
「ハイビスと、ウンと
それから交友関係が広がっているようで何よりです」
「なんで先生知ってるの?」
「あなたは興味があることしか覚えられないでしょう」
自慢ではないが興味がないと何もかも忘れられる都合の良い頭をしている。
なのでストレスなどとは無縁なのだ。
悪く言えば鳥頭。
「繋がりが増えることは良いことです
本来人とは助け合って生きていく種族ですから」
ピクピクと耳が反応する。
確かに、言われている通り交友関係は以前と比べてぐっと増えた。
というのもウンが紹介するからだ。
否応なしに頭に叩き込まれている感覚すら覚える。
「エカ、人は戦いだけではありませんよ」
見透かすように言い放つ。
数々の経験を越えた医者の言葉はそれ相応の重みがある。
私の経験の浅さを知らされるようだ。
「…先生、私さ…」
その途中でロドス全体が揺れた。
弁当箱のような外見ではあるが、ロドスの実態は移動都市だ。
今の攻撃が特別大きいことを物語っている。
「エカは子供達の避難を」
「わかった」
いわれるまでもない。
医務室から走る。
多くのオペレーターに出動命令が出ていた。
廊下は忙しなく、人の往来が激しい。
同じく私も混ざり、子供たちが勉学に励む場所まで走った。
患者たちのトラウマがフラッシュバックされたのか各所から悲鳴やすすり泣く声が聞こえる。
到着するとすでに任されていたのかレンジャーが避難誘導をしていた。
「おじいちゃん!」
「エカ!お主は大丈夫か!」
「平気!私が後ろにいくからおじいちゃん前お願い!」
予め訓練されているため誰もが避難場所を知っている。
置いてけぼりがいないか念のため確認しながら集団で退避した。
警告アナウンスが流れる。
しばらくすれば防護壁が作動するだろう。
泣き叫びながらも子供達は教えられた通り手を繋ぎ支え合って進む。
少しでも安心させるために笑って背中をさすった。
だが急に背後から防護壁が立ち上がる。
激しい音に全員が硬直した。
「走れ!!」
レンジャーの叱咤に子供達も泣いてはいられない。
全力で走り出す。
「いけいけ!走れ!!」
壁は数十メートルからすぐそばまで立ち上がる。
まるで竜の口のようだ。
背中にヒヤリと恐怖が乗った。
真後ろの壁が立った。
もう目の前は広場だ。
避難所まではまだ距離はあるものの壁は迫り上がってこない。
近場の子供達をひっつかんで投げた。
レンジャーと年長の子供が受け止めるもその瞬間に目の前の壁が立ち塞がった。
私は一人になった。
「はーマジか…」
とりあえず走り疲れたので座る。
敵がハッキングを仕掛けたにしても大胆すぎる。
むしろ暇なのではないかと思うくらいだ。
しかし、子供達をこの閉鎖空間から出したのはよくやったと自分を誉めていいだろう。
一旦休息するために壁を背にしてぼんやりした。
20分ほど経った頃、壁が開く音が聞こえる。
義手の仕込みナイフを抜き、敵が現れるまでは休もうと筋肉を弛緩させる。
もしかすれば味方が開けているだけかもしれないからだ。
ようやく目の前の壁が開いた。
向こうからガシャガシャとうるさい足音。
部屋を物色しているようでもあった。
ならこっちができるのは奇襲だ。
散々子供達と隠れんぼしている。
地の利はこちらにあるも同然だ。
まずは各所にある地下保管場。
といっても子供達の共同のおもちゃなどがあるだけだ。
そこに入り込む。
カーペットなどで入り口を隠し、可能な限りやり過ごす。
後ろから一人一人隊員が消えていくというホラーを作る。
それだけの技量はあると自負していた。
そうして敵の足音は私が隠れている場所から遠ざかる。
這い出てまずは後方にいる一人を落とす。
首を締め上げて気絶させる。
武器を奪い、面白そうな武器はサイレンサーを使って武装勢力にバスバス撃ち込んだ。
すると面白いくらいバタバタと倒れていく。
強力な睡眠剤の類だろう。
そのまま死なれてもまずいので回復体位で寝かせた。
合計5人。
侵入部隊にしては少なすぎる。
後から雪崩れ込むようにやってくるだろう。
「つか人間を連れ去ることが目的?まぁ装備と通信装置と…簡易食料ももらお〜」
防弾チョッキも奪い、今まで逃げてきた道を逆走する。
すると戦火の真っ只中なのか、怒声、銃声、爆発音までも聞こえた。
スティックを食べながらそのまま進むとロドスの戦闘員がその場を死守していた。
防衛ラインを敷いていたようだが数名突破されたと察する。
「もしもし?重装オペレーター?」
「おわっ!!?」
いつも仮面のノイルホーンだ。
大層驚いたようで胸を撫で下ろす。
「何やってんだ早く退け!」
「もうここ数名突破されてた。
一応睡眠剤っぽいので寝かせてる
敵はハッキングなんかも仕掛けてるみたいだね」
「ここに駆けつけるのが遅かったか…わりぃ」
「や、子供達は避難させたし」
「いや、エカがまだいるだろ
逃せなくて悪い」
ノイルホーンは優しいので善意100%でそう言ったのだろう。
私にとっては侮辱100%だったが、その通りだなとも思えた。
自分は非戦闘員。
ロドスのお荷物だ。
「第2波来るぞ!構えろ!!」
「なんとしてでも内部に侵入させるな!!」
目の前が真っ暗になった、というのは今の私にふさわしい表現だ。
何故私の左腕は呆気なく吹き飛んでしまったのだろう。
激しい戦闘空間と隣接していながら私は自分の感情の世界へと入ってしまった。
「ヤトウ!!前に出過ぎるな!!」
大声がようやく耳に入った。
ハッとして戦況を見ると戦闘ドローンが制空しており、前方部隊の相手をヤトウと術師オペレーターが対応するので手一杯だ。
すり抜けてきた敵にノイルホーン率いる数名の重装オペレーターが対応している。
他に激戦区があるのだろう。
ロドスが防戦一方なのはいつものことだ。
だが戦闘ドローンをもう一機増やされたらあっという間に防衛ラインが瓦解する。
なんとしてでも打ち落とさなければ、ロドス内に敵が雪崩れ込む。
「ノイルホーン!!!私を打ち上げろ!!!」
廊下からかなり助走をつける。
ノイルホーンは何か文句を言ったが盾を私に構えて腰を落とす。
盾に乗り、ぐっと飛び上がると同時に盾をバネのように上へ押し上げた。
空に舞い、敵から奪ったサイレンサーでドローンを撃つ。
めちゃくちゃに撃ったが一発が当たり、ドローンの銃口が上を向いた。
これ幸いと言わんばかりに、ドローンの銃口につかまり滑空する。
だが人間の体重をドローンが支え切れるはずもなく
「やべぇー!!」
そんな断末魔を上げながら地面に落ちた。
ドローンは爆発し煙が一帯に広がる。
私は更に飛ばされたが私の進行方向には敵の一団がいるのは分かっている。
残り2発の麻酔をあますことなく撃つ。
銃を持ち替えて弾を補充し構える。
地面に威嚇射撃をすればそこから煙は晴れて一団は退却を始めた。
一瞬だけ気が緩んだ。
この場所に敵の気配はない。
あとは再度敵の襲来を警戒するだけだ。
ふと、ザクッと目の前に矢が刺さった。
機械音が規則正しく鳴る。
「爆弾だこれェ!!」
一斉に退却するももちろん私が一番逃げ遅れている。
これは両足、または首までも吹き飛ぶのではなかろうか。
空気が圧迫され押し潰される。
皮膚にまず空気の余波が当たり、それから本格的な爆発が背中へとぶち当たる。
が、その寸前で私を地面に伏せて庇った人物がいた。
実質タックルされたのと同じだ。
狭い建物の隙間へ逃げて直接的な被害を受けることは免れたものの心なしか脇腹が痛い。
土埃に咳き込み、目を開けると発色の良い赤とオレンジが見えた。
反射的に名前を叫ぶ。
「ウンくん!」
「エカ…怪我は?」
「だ、大丈夫だけど…
ウンくんこそ」
「俺は平気だよ、頑丈さが取り柄だから…」
いくらシールドで軽減したとはいえ、ノーダメージで済んでいるはずがない。
とりあえず座らせて楽にさせた。
そして続々とロドスの主要部隊がこの場へ駆けつけた。
医療チームもだ。
「なんで…ウンくんだけ先に」
「なんでって…カン…かなぁ」
軽く笑うも傷に響いているようで苦しそうな声を上げた。
慌てて医療チームに声をかけてウンの応急処置を頼む。
ついでのごとく私にも応急処置をされたが脇腹の触診の際、激痛が走ったため折れているだろうと見なされウン共々仲良く担架で運ばれた。
◆
勝手に戦闘に参加したことを、代表のアーミヤより直々に怒られた。
そんなに怒るところを見たことがないので素直に叱られた。
「大怪我して!エカさんはもう少し周りをみて行動してください!
エカさんの命はエカさんだけのものではないんですからね!」
「はぁい」
ひとしきり怒って落ち着くために、アーミヤは深呼吸をした。
「…でも…オペレーターから話は聞いています
人員不足のなか侵入部隊の撃破と、ドローン撃墜
さまざまな資源が少ないなか、ありがとうございました」
「やー、でも逃げ遅れたから
私の凡ミスだし」
「ともかくしばらく治療に専念してください
戦闘で肋骨が折れているんですから、臓器を傷つけないようじっとしていてくださいね」
「はーい」
戦闘というか、助かったために生まれた骨折というか。
部屋からアーミヤが出て、ようやく肩の緊張が抜けた。
ここに来てからというものずっと怒られっぱなしだったからだ。
さて、と脇のデスクに目を向けるがいつものパッドがない。
部屋にあることを思い出して頭を抱えた。
誰か取りに言ってくれればいいのだが、ハイビスは未だに負傷者看護で忙しい。
女性で親しい友人が一人だけというのも考えものか。
そして部屋でぼんやりする日々が少し続いた。
何もすることがないので医療チームと雑談したり、骨折のことを聞いたり。
これを機会に医療系の知識を増やすのも悪くはない。
紙とペンをもらってネタとして使えそうなものを書き殴る。
するとお見舞いにハイビスがやってきた。
この間の戦闘の治療がやっと落ち着いたのだろう。
少しだけやつれているように見えた。
「ハイビス、大丈夫?疲れてるように見えるけど」
「そんなことないですよ
それより私、エカさんが元気そうでホッとしました」
「うん、次から気をつけるから」
「次、なんて私の目が黒いうちはありませんからね!」
それもそうだと笑っていたが、次第にハイビスは表情を曇らせる。
まさか本気で次無理にでも戦闘に出る、と勘違いさせているのではないだろうか。
慌てて訂正した。
「ハイビス、今のはほんとの言い間違いだから気にしないで」
「いえ…はい、それはわかっているつもりなんです…
ただ…エカさん、前線に戻りたいって、思ってますか?」
「それは…」
どうなのだろう。
ただ私は今回のことを通してなんとなくわかったことがある。
別に戦いが好きというわけではない。
なのになぜ、ノイルホーンに言われたことをまだ根に持っているのか。
自分自身理解ができなかった。
「ごめん、よくわかんないけど…
もし私が前線に呼ばれるとなれば行くと思う」
「そうですか…」
「とりあえずハイビスも疲れてるだろうし
私ももう少しは安静にって言われてるから
ゆっくり休みなよ」
「ええ、そうですね」
そしてハイビスはゆっくりと病室から出た。
いらぬ心配をかけてしまい後悔をする。
いつも、心配しかさせていないような気がして仰向けになり天井をただ見上げた。
「やっぱり相応しくないのか」