魔女の塔
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どうしてこうなったと、貫かれた両手を呆然と見ていた。
パニックとショックとおびただしい量の血で逆に頭が冴えている。
私は若くして大企業に就職できた。
それは本当に運が良かったと当初は思っていたがその実ただのパシリという名の社畜で、今日も夜までずーっと仕事をしていた。
終わらない仕事、かけ続ける電話。
若いから平気、なんて言葉は最高にイラつく。
とにかくそうして仕事を深夜まで続けていたが、いつのまにか周りはとんでもない場所に変貌していた。
デスクは趣味の悪い悪魔の象られた銅像となり、壁はまるで血に染め上げたかのような色。
何より部屋としての空間が、それまでの比ではない。
巨大な異空間として再形成されていた。
それでもなぜ私がここを仕事場であると言い切れるのかは、私のデスクと資料がしっかり残っていたからだ。
ただでさえそこでパニックになっていたのに急に骸骨のモンスターが現れて私の手を鎌で串刺しにした。
痛みで叫び、恐怖で頭が真っ白になり、逃げられず失神した。
そして今に至る。
出欠多量で死ぬのではないかと思い、遺書を残そうにも両手は物理的に塞がれている。
おまけにバッグもない。
助けを呼ぼうにも周りには誰もいないのだ。
叫べばモンスターがまた出てくるかもしれない。
けれどここまでくれば一種の諦めも覚える。
ホイホイいいことなど、幸運など起きるはずない。
それは私には享受されないイベントだと痛感している。
さめざめと泣きながらその場にいると、ドアが開かれた音が聞こえた。
油の足りないうるさい音は職場のドアと同じだった。
汚い顔でその方向を見ると、明らかにやばそうな人がいた。
白い髪に赤いロングコート。
そして風貌は外国人。
年齢は自分よりも10は上かもしれない。
とにかく、只者ではないだろう。
知らないふり&気配を消すことを試みる。
まるで授業で先生に当てられないように目を伏せる生徒だ。
コツコツと、硬いブーツの足音が止まる。
「Hey」
「ひっ」
反射的に顔を上げるとジロリとこちらを見る。
そして鎌をノックした。
「いだだだだ!!!!?」
「ふーん……なるほど
これ抜くぞ」
「は!?ちょっ、ちょっと待ってくださいこれ抜いたら絶対やば」
話も聞かずに思い切り抜かれた。
ウギャ、と汚い悲鳴を上げて、痛みで全身が震える。
そこで間髪入れずに自らの手を切り裂き、貫かれた手に血液を落とした。
「ちょっとちょっとちょっと!!」
衛生的な問題もあるし、この男は何なのだと、再び混乱してしまっている。
実際泣いてる。
しかし男の血で肌の色が覆われた頃には痛みは引いており、動かさなければ痛くない程度に落ち着いた。
不思議とそれ以上の出血もないようだ。
「あれ…?」
「お嬢ちゃん、こんなとこで何してたんだ」
日本語が通じている。
意味がわからない。
そして何より声がいい。
外国人というのはやはり狡い。
「あ、え…あの、仕事してて…そしたらまわりがこんな風になって…変なモンスターみたいなのに、鎌で刺されて…気絶してました…」
「……」
コメントしづらいようだ。
わかる。私も。
「あの、帰りたいんですけどどこから帰ればいいか教えてもらっていいですか」
「残念だがあんたは帰れないだろうな」
「は?道がないってことですか?」
「いいや道はある」
「じゃ、じゃあ帰ります
助けてくださってありがとうございます!」
関わりたくない。
その一心で男が来た道を逆走する。
広い空間を横切り、質素なドアを触ろうとすると急に銃声が聞こえた。
ビクッと身を固めるが、傍になにかがおちる。
目をやると醜い風貌のモンスターがそこに血まみれで倒れていた。
思わず尻餅をつく。
モンスターは寸分たがわず頭を貫かれ、絶命していた。
「あ、ぁあ…!」
「この部屋から出るなら命の保証はできないが?」
「う……えぐ……」
普通に怖すぎ。
普通に泣いた。
男は肩をすくめる。
「帰りたいですぅ…」
「なら安全な場所まで俺についてこい
少なくとも守ってやる」
「ほ、ほんとですかぁ…?」
「疑うなら好きにしろ
助かりたいんだろ?
だったら答えは一つだ」
怪しい男についていくしかないようだ。
涙を腕で拭って、踏ん張って立ち上がる。
「お願いします…」
「よそ見せず俺にしっかりついてこい」
「はい……」
ちなみに名前は?と尋ねると、質素な答えが帰ってきた。
「ダンテ」
◾️
青桐 千華子
20歳。
身長は多分164cm
ヒールを履いているので多分168cmくらい。
それでも隣に立つダンテの方が遥かに大きい。
首を真上に上げなければならないほどだ。
「あの、ところでここって…日本…ですよね」
「ああ」
「なんで異世界みたいになってるんですか?」
「どっかの馬鹿野郎がここを悪魔の巣窟にしたからだ」
「悪魔の巣窟…じゃああのへんな生き物とも関係あります?」
「大アリ」
なるほど、ここは常識を捨てなければならないことは分かった。
つまり、本物の悪魔のダンションとなってしまったようだ。
悪魔という存在が実在するのは初めて知ったが、海外では急に街を破壊され、塔が建ったり人が変死したり、そういう物騒な事件は知っていたのでさほどショックでもなかった。
…と、言うよりも私の脳がこの事象を受け入れられない程度に疲れているだけかもしれない。
「ダンテさんはどうしてここに?」
「仕事だ」
「仕事?さっきみたいに悪魔を倒すのが?」
「そういうこと」
関わったらいけないタイプだ。
ここから出たら早々に縁を切ろう。
今回は喜んで頼らせてもらうが、この人といると悪魔が寄ってくるのだろう。
「…お給料いいんですか?」
時々寄ってくる悪魔を見向きもせず撃ち殺している。
私はビクッと肩を跳ねさせながら隣を歩くばかりだ。
「今回はノーギャラだ」
「は…え…マジですか」
「なんだ、俺が金で動く薄情な人間だと?」
わざとらしく両手を広げてみせる。
少なくともその見た目ではお金大好きガンマンにしか見えない。
「あー……はい…」
そして急に銃を向けて背後の悪魔を撃ち殺す。
驚いて慌ててダンテの背中に隠れた。
「マッッジでやめてもらえません!!?
今銃向けたでしょ!!?
当たったらどうするんですか!!」
「外すわけねぇだろ」
「日本人は銃に慣れてないんです!!!
勘弁してください!!」
ぶは、と面白そうに笑う顔はやんちゃな少年じみていた。
かくいう私は学生相手に接しているような気分である。
「曲がりなりにもまともに外国語喋れるんなら、日本人扱いできねぇな」
「は?何言ってるんです?
ずっと日本語喋ってますしダンテさんも日本語じゃないですか」
お互い黙る。
顔を見合わせて、しばしフリーズ状態となったが無かったことにしてダンテはまた歩き始めた。
「ちょっと!?」
「意思疎通できるんなら問題ねぇ」
「そりゃそうですけど…」
やや細い通路を抜けた先に立派な扉があった。
この扉は見覚えがある。
社長のコネで入社した部長室の扉だ。
「うわあ…」
「なんだ、見覚えあるって顔だな」
「そりゃそうですよ…だって私にセクハラしてた部長の部屋ですもん」
「セクハラ?
ならそいつの顔拝んでやるか」
「いや…今は居ないですけど…」
ガチャリとひらく。
こういったダンションものに鍵はつきものかと思っていたがそうでもないようだ。
ダンテの後ろについていけば、部屋の中は女の銅像でいっぱいだった。
しかもただの銅像ではない。
艶めかしく、無駄にやらしい動きをした女をそのまま固めたようなものだった。
目のやり場に困るとはこのこと。
「なに…ここ……」
ダンテはピューッと口笛を吹いた。
大層なご趣味なことで、とも嫌味を口にして進むと奥からでっぷりと太ったカエルが、女型の悪魔を首に繋いで偉そうにしていた。
本当に部長なのではないかと思うほど、イメージ通りだ。
でっぷり太っていて女は自分のものと思っているあたり特にそうだ。
『なんだ、ノックもせずに!!
ははぁ、女がいるな
おいそこの男!お前だけ部屋から出ろ!!』
頼むから置いていかないで。
その気持ちがダンテの裾を掴ませた。
「全く、そういうところだけはいっちょまえに素早いな」
「当たり前ですよ!!?
こんなとこで急に一人にされても困ります!!」
「ふーん…まぁ安全な場所までは守ってやるつもりだが、あのカエルにお前を引き渡して
俺は安全に先に進んでもアリだな?」
「ナシですよ何言ってんですか!!!
お願いしますひとりにしないで!!!
お金ならありますから!!!おいくら万円必要ですか!!?」
縋るように必死にダンテに交渉する。
ダンテのニヤニヤ顔を見るあたり、もしかして私の必死の形相を楽しんでいるのではないかとも思えたが本気でひとりにされたら死ぬほど困る。
痛い手を我慢して腕を握った。
「じゃあ………」
そっと私の手を上から握る。
その優しい手つきに、あ、これ遊ばれてたな、なんて自覚した瞬間。カエルの悪魔が大声で話し始めた。
『女を引き渡せば貴様の望む力を与えてやろう!!!!』
高らかに響く声に、ダンテは見向きもせず銃を撃った。
ぷしゃあ、とカエルの体から緑色の体液が吹き出ている。
そして鋭い眼光で睨みつける。
「俺が喋ってるだろうが」
『こ、この若造が〜!!!』
いけ!殺せ!という声と共に石像の女たちが動き始めた。
さらに、私が驚く前に銃をもう一人取り出し、両手で乱射するダンテ。
女の悲痛の叫びが嬌声のように聞こえ、あっという間に女たちが死んだ後に私は赤いコートに飛びついた。
私自身の痛みも忘れて震える手で握りしめる。
『女一人のために死ぬとは人間というものは本当に愚かだな!』
「俺にとってはいいハンデだ」
私のせいでダンテは動けないのか。
ハッとして手を離すが、私の赤い手をダンテは握る。
「いい子にしてろ」
「は…ひゃい…」
ドッッッイケメンである。
こんな状況でもダンテの顔の良さに私は喜べるとは、お気楽なのか余裕なのか、一周回ってパニックなのか。
ただでさえ謎のダンションに巻き込まれただけで忘れられない体験なのに、こんな乙女ゲーのようなスチルをゲットしてしまうなんて。
このことは墓に持って行こう。
不覚にもときめいたなど、ダンテには絶対に言えまい。
するりと熱い手が抜けてカエル部長へ向き合う。
そして両者はそれぞれ手段を用いて殺しにかかる。
まずは首輪に繋がれた女たちが猛威を振るった。
石像とちがって銃を避けるというあり得ない動きをしていたが、ダンテは容赦なく蹴り上げる。
地面に叩きつけ、足で踏みつけて銃で仕留める。
わざと銃で逃げる方向を定めさせ、動きを封じる。
数では負けていてもダンテは圧倒していた。
そして残るはカエル部長だけだ。
『まっ、待て!話せばわか』
ダンテは跳躍し、カエル部長に乗っかったと思えばエグいほどに銃を発砲し続けた。
銃が貫通した穴で顔が潰れ、原型を留めていない。
「タマのねぇ野郎だ」
口の悪い捨て台詞だ。
「んで、さっきの話だが」
「え、は?」
「俺にギャラを出すって話」
「ちょっと、ま、え、
ん?なに…え?
話が全くみえない」
「そうだな…いくらにするか…」
「さっき金で動かないって言ったじゃないですか!」
「時と場合によりけりだ」
やっぱりお金大好きガンマンではないか!!!
さよなら私の通帳。
心の中で別れを告げると、ダンテは審判を下す。
「選ばせてやる
1000万かキスか」
「は?」
「さっきの悪魔一匹倒すごとに1000万
だがキス一つでチャラにしてやる」
「頭沸いてんですか?
あっ、すいません本音が」
「そりゃそうだ
俺は頭が沸いている」
クレイジー、という言葉が頭を駆け抜ける。
「あの、お金は百歩譲ってわかります
その技術には当然支払われるべき額だと思います
けど、なに?キス?は?」
「とりあえず雑魚は初回サービスでタダにしといてやる
だがさっきみたいな大物は別だ
この先も出続けるだろうよ
それをキス一つでチャラにしてやるって言ってるわけだ」
優しいだろうと言われても困る。
全然優しくない。
セクハラじゃん。
嫌である。という気持ちを顔に出せばまたダンテは笑う。
肩を震わせる。
「冗談に決まってんだろ
何真に受けてんだ」
「は…はー!!?」
「先を急ぐぞ
キビキビ歩け」
完全にからかわれていただけのようだ。
薬莢を足で蹴散らしながら進む。
弄ばれた私は少しイラつき覚えるが、それでもダンテについていかなければあっという間に死んでしまうだろう。
重いため息をついて後を追った。
▪️
目の前には階段があった。
ダンテは何も言わずに登ろうとするので待ったをかける。
「なんだ?」
「私帰りたいんですけど…なんで登りつめようとするんですか」
「俺は俺で目的がある」
「それって私が外に逃げてからでも遅くないのでは?」
ダンテは意味深に笑うだけだ。
「いいから来い
置いてくぞ」
明らかになにかを知っている顔だ。
だが何を知っているのか、それは私のただの勘であって理由のない思いつきにすぎない。
ダンテはたしかに悪魔について詳しいものの、それ以外は謎の男だ。
この悪魔の巣となった会社についても何らかの情報があるに違いない。
(ともあれ私は帰れたらなんだっていいんだけど…)
後ろからただ黙ってついていくしか選択肢はない。
私は今、ダンテの手のひらで転がってる卵に過ぎないのだ。
ぐるぐると思考を巡らせていると、階段を上り詰めたあたりで目眩がした。
足元が急に不安定になり、視界が揺れる。
思わずその場にへたり込んだ。
「おい、どうした」
「……なんだか……ふらついて…」
「まぁさっきまで出血していた上に悪魔の気に当てられたからな」
言われてみれば確かに出血の量がとんでもないことになっていただろう。
心なしか寒さも感じる。
身震いしても自分の体を温める体力もない。
ダンテは上着を脱ぎ、私に着せてくれた。
「つかまれ
ここはまだ悪魔がいる
もう少しマシな場所に行くぞ」
手を伸ばしたため、掴んで立ち上がろうとしたものの
ダンテはなんと片腕で私を抱き上げた。
平均体重はあるであろう私をこんな風に持ち上げるなんてやはり只者ではない。
そして安定感がある。
(あったかい…)
さっきまで散々疑っていたくせに、上着一つで安心できるなんて現金なやつだ。
私自身に向かって皮肉めいた言葉が浮かんだが、それでも人肌のあたたかさは心に栄養を与える。
安心したのか眠気が襲った。
次第に深くなる呼吸に、私は寝かしつけられていった。
目を覚ますと黒いソファーに横になっていた。
ふかふかの高級そうなそれはかつて会社の応接室にあるものだった。
向かいのダンテが銃に弾丸をいれている。
「ん…ダンテさん…」
「よお、眠り姫」
「なんですかそれ…
でも、寝てしまってすみません…」
体を起こすと薬莢が落ちていた。
その薬莢の量は部屋の奥にいくにつれて多くなっている。
そしてよくよく見ると、応接室の部屋は無駄に煌びやかで悪魔の巣とは思えないほど豪華ではあった。
しかし異常に気づくのは奥にケンタウロスの姿をした化け物がそこに転がっていたからだ。
ひ、と息を飲む。
「あれだけ銃声響かせても寝てやがる
案外肝っ玉は太いほうだな」
「あ、あれも、倒したんですか」
「じゃなけりゃなんだ?」
ケンタウロスとはいえ顔は馬面。
その特徴は周りの仕事を増やす営業課長そのものだ。
仕事を急かし、時には平気で人を叩く。
足グセも悪いもので入社したての頃は脛をよく蹴られていたものだ。
「カエルの野郎よりはマシな相手だったな」
「そう、ですか」
「ところで一つ聞くが、ここに入る前に一匹悪魔を殺してきた
見た目はハエの、口だけはやかましい女の悪魔だった
聞き覚えはあるか」
「やかましい……もしかして、受付のお局かも…」
「ふうん、なるほど」
その銃を腰のホルダーに仕舞い、立ち上がった。
「あの…ここにいた人が無理やり悪魔にされてるってことは…」
「まぁありえない話じゃない」
絶句した。
ということは私は人殺しを見ていたのか?
いや、そういうことではなく、このダンテはそれを承知の上で?
けれどあのままでは私たちも危なかったわけで、そこは正当防衛と割り切るしかないだろう。
今の私がどうこう言える立場ではない。
「……じゃあ、もしかしたらあと2人出てくるかも」
「へえ、怖気付くかと思った」
「だって…そんなこと言えるほど私は間抜けじゃないです
もしかしたら私も悪魔にされてたかもしれないんだから」
「安心しろ
お前は悪魔にはならないだろ」
「?
基準とかあるんです?」
それに対しても笑みを浮かべて肩をすくめた。
さあな、とジェスチャーしている。
いいや、きっとダンテのことだから大体は分かっているはずだ。
私も立ち上がる。
貧血が原因で目の前が少し砂嵐のようになるが直に引いた。
「上着、ありがとございます」
「いい、着てろ」
コートの大きさでも分かっていたことだが、裾を引きずってしまっている。
まず袖を折って、引きずっている端を持った。
「全然関係ない話してもいいですか?」
「…いいぞ」
「いつ頃からこういう仕事してるんですか?」
「ガキの頃から」
「ご両親もそういう仕事してた、とか?」
「逆だ」
「逆?全くの一般人?」
「親父は悪魔だった」
てくてく、とついていくが脳みそはついていけてない。
つまり、ダンテにも悪魔の血があるということだ。
そして先ほど私の手に血をかけた。
「……この手、大丈夫ですか」
「さぁ?」
「さぁ!?もしかして思いつきでしちゃったんですか!?」
「ワガママ言うな
俺が止血剤でも持ってると思うか?」
「知りませんよ!
おかしいなとは思ってたんですけど、まじですか!?
あぁ〜も〜このままずっと赤いままだったどうしよ〜年中長袖は辛いですよ〜」
手にペンキがついて落ちないとかいう言い訳も通用しそうにない。
なくなく諦めるしかないのかと思っているとダンテは隣で笑っていた。
おかしくてたまらないという顔だ。
「確認ですけど!わざとじゃないですよね!?最善の方法だったんですよね!?」
「ああ、そりゃもちろん、お姫様」
「もー!!
もういいです!このまま生きてやりますとも!!
実際助けられてますし!?」
眠ったおかげか手の傷はほとんど痛みを感じなくなっていた。
そしてかけられた血が傷を覆うようにしかと固まっている。
両手をみればきっと私は渋い顔をしてしまうだろう。
極力手は見ないように、下は見ないように歩いた。
パニックとショックとおびただしい量の血で逆に頭が冴えている。
私は若くして大企業に就職できた。
それは本当に運が良かったと当初は思っていたがその実ただのパシリという名の社畜で、今日も夜までずーっと仕事をしていた。
終わらない仕事、かけ続ける電話。
若いから平気、なんて言葉は最高にイラつく。
とにかくそうして仕事を深夜まで続けていたが、いつのまにか周りはとんでもない場所に変貌していた。
デスクは趣味の悪い悪魔の象られた銅像となり、壁はまるで血に染め上げたかのような色。
何より部屋としての空間が、それまでの比ではない。
巨大な異空間として再形成されていた。
それでもなぜ私がここを仕事場であると言い切れるのかは、私のデスクと資料がしっかり残っていたからだ。
ただでさえそこでパニックになっていたのに急に骸骨のモンスターが現れて私の手を鎌で串刺しにした。
痛みで叫び、恐怖で頭が真っ白になり、逃げられず失神した。
そして今に至る。
出欠多量で死ぬのではないかと思い、遺書を残そうにも両手は物理的に塞がれている。
おまけにバッグもない。
助けを呼ぼうにも周りには誰もいないのだ。
叫べばモンスターがまた出てくるかもしれない。
けれどここまでくれば一種の諦めも覚える。
ホイホイいいことなど、幸運など起きるはずない。
それは私には享受されないイベントだと痛感している。
さめざめと泣きながらその場にいると、ドアが開かれた音が聞こえた。
油の足りないうるさい音は職場のドアと同じだった。
汚い顔でその方向を見ると、明らかにやばそうな人がいた。
白い髪に赤いロングコート。
そして風貌は外国人。
年齢は自分よりも10は上かもしれない。
とにかく、只者ではないだろう。
知らないふり&気配を消すことを試みる。
まるで授業で先生に当てられないように目を伏せる生徒だ。
コツコツと、硬いブーツの足音が止まる。
「Hey」
「ひっ」
反射的に顔を上げるとジロリとこちらを見る。
そして鎌をノックした。
「いだだだだ!!!!?」
「ふーん……なるほど
これ抜くぞ」
「は!?ちょっ、ちょっと待ってくださいこれ抜いたら絶対やば」
話も聞かずに思い切り抜かれた。
ウギャ、と汚い悲鳴を上げて、痛みで全身が震える。
そこで間髪入れずに自らの手を切り裂き、貫かれた手に血液を落とした。
「ちょっとちょっとちょっと!!」
衛生的な問題もあるし、この男は何なのだと、再び混乱してしまっている。
実際泣いてる。
しかし男の血で肌の色が覆われた頃には痛みは引いており、動かさなければ痛くない程度に落ち着いた。
不思議とそれ以上の出血もないようだ。
「あれ…?」
「お嬢ちゃん、こんなとこで何してたんだ」
日本語が通じている。
意味がわからない。
そして何より声がいい。
外国人というのはやはり狡い。
「あ、え…あの、仕事してて…そしたらまわりがこんな風になって…変なモンスターみたいなのに、鎌で刺されて…気絶してました…」
「……」
コメントしづらいようだ。
わかる。私も。
「あの、帰りたいんですけどどこから帰ればいいか教えてもらっていいですか」
「残念だがあんたは帰れないだろうな」
「は?道がないってことですか?」
「いいや道はある」
「じゃ、じゃあ帰ります
助けてくださってありがとうございます!」
関わりたくない。
その一心で男が来た道を逆走する。
広い空間を横切り、質素なドアを触ろうとすると急に銃声が聞こえた。
ビクッと身を固めるが、傍になにかがおちる。
目をやると醜い風貌のモンスターがそこに血まみれで倒れていた。
思わず尻餅をつく。
モンスターは寸分たがわず頭を貫かれ、絶命していた。
「あ、ぁあ…!」
「この部屋から出るなら命の保証はできないが?」
「う……えぐ……」
普通に怖すぎ。
普通に泣いた。
男は肩をすくめる。
「帰りたいですぅ…」
「なら安全な場所まで俺についてこい
少なくとも守ってやる」
「ほ、ほんとですかぁ…?」
「疑うなら好きにしろ
助かりたいんだろ?
だったら答えは一つだ」
怪しい男についていくしかないようだ。
涙を腕で拭って、踏ん張って立ち上がる。
「お願いします…」
「よそ見せず俺にしっかりついてこい」
「はい……」
ちなみに名前は?と尋ねると、質素な答えが帰ってきた。
「ダンテ」
◾️
青桐 千華子
20歳。
身長は多分164cm
ヒールを履いているので多分168cmくらい。
それでも隣に立つダンテの方が遥かに大きい。
首を真上に上げなければならないほどだ。
「あの、ところでここって…日本…ですよね」
「ああ」
「なんで異世界みたいになってるんですか?」
「どっかの馬鹿野郎がここを悪魔の巣窟にしたからだ」
「悪魔の巣窟…じゃああのへんな生き物とも関係あります?」
「大アリ」
なるほど、ここは常識を捨てなければならないことは分かった。
つまり、本物の悪魔のダンションとなってしまったようだ。
悪魔という存在が実在するのは初めて知ったが、海外では急に街を破壊され、塔が建ったり人が変死したり、そういう物騒な事件は知っていたのでさほどショックでもなかった。
…と、言うよりも私の脳がこの事象を受け入れられない程度に疲れているだけかもしれない。
「ダンテさんはどうしてここに?」
「仕事だ」
「仕事?さっきみたいに悪魔を倒すのが?」
「そういうこと」
関わったらいけないタイプだ。
ここから出たら早々に縁を切ろう。
今回は喜んで頼らせてもらうが、この人といると悪魔が寄ってくるのだろう。
「…お給料いいんですか?」
時々寄ってくる悪魔を見向きもせず撃ち殺している。
私はビクッと肩を跳ねさせながら隣を歩くばかりだ。
「今回はノーギャラだ」
「は…え…マジですか」
「なんだ、俺が金で動く薄情な人間だと?」
わざとらしく両手を広げてみせる。
少なくともその見た目ではお金大好きガンマンにしか見えない。
「あー……はい…」
そして急に銃を向けて背後の悪魔を撃ち殺す。
驚いて慌ててダンテの背中に隠れた。
「マッッジでやめてもらえません!!?
今銃向けたでしょ!!?
当たったらどうするんですか!!」
「外すわけねぇだろ」
「日本人は銃に慣れてないんです!!!
勘弁してください!!」
ぶは、と面白そうに笑う顔はやんちゃな少年じみていた。
かくいう私は学生相手に接しているような気分である。
「曲がりなりにもまともに外国語喋れるんなら、日本人扱いできねぇな」
「は?何言ってるんです?
ずっと日本語喋ってますしダンテさんも日本語じゃないですか」
お互い黙る。
顔を見合わせて、しばしフリーズ状態となったが無かったことにしてダンテはまた歩き始めた。
「ちょっと!?」
「意思疎通できるんなら問題ねぇ」
「そりゃそうですけど…」
やや細い通路を抜けた先に立派な扉があった。
この扉は見覚えがある。
社長のコネで入社した部長室の扉だ。
「うわあ…」
「なんだ、見覚えあるって顔だな」
「そりゃそうですよ…だって私にセクハラしてた部長の部屋ですもん」
「セクハラ?
ならそいつの顔拝んでやるか」
「いや…今は居ないですけど…」
ガチャリとひらく。
こういったダンションものに鍵はつきものかと思っていたがそうでもないようだ。
ダンテの後ろについていけば、部屋の中は女の銅像でいっぱいだった。
しかもただの銅像ではない。
艶めかしく、無駄にやらしい動きをした女をそのまま固めたようなものだった。
目のやり場に困るとはこのこと。
「なに…ここ……」
ダンテはピューッと口笛を吹いた。
大層なご趣味なことで、とも嫌味を口にして進むと奥からでっぷりと太ったカエルが、女型の悪魔を首に繋いで偉そうにしていた。
本当に部長なのではないかと思うほど、イメージ通りだ。
でっぷり太っていて女は自分のものと思っているあたり特にそうだ。
『なんだ、ノックもせずに!!
ははぁ、女がいるな
おいそこの男!お前だけ部屋から出ろ!!』
頼むから置いていかないで。
その気持ちがダンテの裾を掴ませた。
「全く、そういうところだけはいっちょまえに素早いな」
「当たり前ですよ!!?
こんなとこで急に一人にされても困ります!!」
「ふーん…まぁ安全な場所までは守ってやるつもりだが、あのカエルにお前を引き渡して
俺は安全に先に進んでもアリだな?」
「ナシですよ何言ってんですか!!!
お願いしますひとりにしないで!!!
お金ならありますから!!!おいくら万円必要ですか!!?」
縋るように必死にダンテに交渉する。
ダンテのニヤニヤ顔を見るあたり、もしかして私の必死の形相を楽しんでいるのではないかとも思えたが本気でひとりにされたら死ぬほど困る。
痛い手を我慢して腕を握った。
「じゃあ………」
そっと私の手を上から握る。
その優しい手つきに、あ、これ遊ばれてたな、なんて自覚した瞬間。カエルの悪魔が大声で話し始めた。
『女を引き渡せば貴様の望む力を与えてやろう!!!!』
高らかに響く声に、ダンテは見向きもせず銃を撃った。
ぷしゃあ、とカエルの体から緑色の体液が吹き出ている。
そして鋭い眼光で睨みつける。
「俺が喋ってるだろうが」
『こ、この若造が〜!!!』
いけ!殺せ!という声と共に石像の女たちが動き始めた。
さらに、私が驚く前に銃をもう一人取り出し、両手で乱射するダンテ。
女の悲痛の叫びが嬌声のように聞こえ、あっという間に女たちが死んだ後に私は赤いコートに飛びついた。
私自身の痛みも忘れて震える手で握りしめる。
『女一人のために死ぬとは人間というものは本当に愚かだな!』
「俺にとってはいいハンデだ」
私のせいでダンテは動けないのか。
ハッとして手を離すが、私の赤い手をダンテは握る。
「いい子にしてろ」
「は…ひゃい…」
ドッッッイケメンである。
こんな状況でもダンテの顔の良さに私は喜べるとは、お気楽なのか余裕なのか、一周回ってパニックなのか。
ただでさえ謎のダンションに巻き込まれただけで忘れられない体験なのに、こんな乙女ゲーのようなスチルをゲットしてしまうなんて。
このことは墓に持って行こう。
不覚にもときめいたなど、ダンテには絶対に言えまい。
するりと熱い手が抜けてカエル部長へ向き合う。
そして両者はそれぞれ手段を用いて殺しにかかる。
まずは首輪に繋がれた女たちが猛威を振るった。
石像とちがって銃を避けるというあり得ない動きをしていたが、ダンテは容赦なく蹴り上げる。
地面に叩きつけ、足で踏みつけて銃で仕留める。
わざと銃で逃げる方向を定めさせ、動きを封じる。
数では負けていてもダンテは圧倒していた。
そして残るはカエル部長だけだ。
『まっ、待て!話せばわか』
ダンテは跳躍し、カエル部長に乗っかったと思えばエグいほどに銃を発砲し続けた。
銃が貫通した穴で顔が潰れ、原型を留めていない。
「タマのねぇ野郎だ」
口の悪い捨て台詞だ。
「んで、さっきの話だが」
「え、は?」
「俺にギャラを出すって話」
「ちょっと、ま、え、
ん?なに…え?
話が全くみえない」
「そうだな…いくらにするか…」
「さっき金で動かないって言ったじゃないですか!」
「時と場合によりけりだ」
やっぱりお金大好きガンマンではないか!!!
さよなら私の通帳。
心の中で別れを告げると、ダンテは審判を下す。
「選ばせてやる
1000万かキスか」
「は?」
「さっきの悪魔一匹倒すごとに1000万
だがキス一つでチャラにしてやる」
「頭沸いてんですか?
あっ、すいません本音が」
「そりゃそうだ
俺は頭が沸いている」
クレイジー、という言葉が頭を駆け抜ける。
「あの、お金は百歩譲ってわかります
その技術には当然支払われるべき額だと思います
けど、なに?キス?は?」
「とりあえず雑魚は初回サービスでタダにしといてやる
だがさっきみたいな大物は別だ
この先も出続けるだろうよ
それをキス一つでチャラにしてやるって言ってるわけだ」
優しいだろうと言われても困る。
全然優しくない。
セクハラじゃん。
嫌である。という気持ちを顔に出せばまたダンテは笑う。
肩を震わせる。
「冗談に決まってんだろ
何真に受けてんだ」
「は…はー!!?」
「先を急ぐぞ
キビキビ歩け」
完全にからかわれていただけのようだ。
薬莢を足で蹴散らしながら進む。
弄ばれた私は少しイラつき覚えるが、それでもダンテについていかなければあっという間に死んでしまうだろう。
重いため息をついて後を追った。
▪️
目の前には階段があった。
ダンテは何も言わずに登ろうとするので待ったをかける。
「なんだ?」
「私帰りたいんですけど…なんで登りつめようとするんですか」
「俺は俺で目的がある」
「それって私が外に逃げてからでも遅くないのでは?」
ダンテは意味深に笑うだけだ。
「いいから来い
置いてくぞ」
明らかになにかを知っている顔だ。
だが何を知っているのか、それは私のただの勘であって理由のない思いつきにすぎない。
ダンテはたしかに悪魔について詳しいものの、それ以外は謎の男だ。
この悪魔の巣となった会社についても何らかの情報があるに違いない。
(ともあれ私は帰れたらなんだっていいんだけど…)
後ろからただ黙ってついていくしか選択肢はない。
私は今、ダンテの手のひらで転がってる卵に過ぎないのだ。
ぐるぐると思考を巡らせていると、階段を上り詰めたあたりで目眩がした。
足元が急に不安定になり、視界が揺れる。
思わずその場にへたり込んだ。
「おい、どうした」
「……なんだか……ふらついて…」
「まぁさっきまで出血していた上に悪魔の気に当てられたからな」
言われてみれば確かに出血の量がとんでもないことになっていただろう。
心なしか寒さも感じる。
身震いしても自分の体を温める体力もない。
ダンテは上着を脱ぎ、私に着せてくれた。
「つかまれ
ここはまだ悪魔がいる
もう少しマシな場所に行くぞ」
手を伸ばしたため、掴んで立ち上がろうとしたものの
ダンテはなんと片腕で私を抱き上げた。
平均体重はあるであろう私をこんな風に持ち上げるなんてやはり只者ではない。
そして安定感がある。
(あったかい…)
さっきまで散々疑っていたくせに、上着一つで安心できるなんて現金なやつだ。
私自身に向かって皮肉めいた言葉が浮かんだが、それでも人肌のあたたかさは心に栄養を与える。
安心したのか眠気が襲った。
次第に深くなる呼吸に、私は寝かしつけられていった。
目を覚ますと黒いソファーに横になっていた。
ふかふかの高級そうなそれはかつて会社の応接室にあるものだった。
向かいのダンテが銃に弾丸をいれている。
「ん…ダンテさん…」
「よお、眠り姫」
「なんですかそれ…
でも、寝てしまってすみません…」
体を起こすと薬莢が落ちていた。
その薬莢の量は部屋の奥にいくにつれて多くなっている。
そしてよくよく見ると、応接室の部屋は無駄に煌びやかで悪魔の巣とは思えないほど豪華ではあった。
しかし異常に気づくのは奥にケンタウロスの姿をした化け物がそこに転がっていたからだ。
ひ、と息を飲む。
「あれだけ銃声響かせても寝てやがる
案外肝っ玉は太いほうだな」
「あ、あれも、倒したんですか」
「じゃなけりゃなんだ?」
ケンタウロスとはいえ顔は馬面。
その特徴は周りの仕事を増やす営業課長そのものだ。
仕事を急かし、時には平気で人を叩く。
足グセも悪いもので入社したての頃は脛をよく蹴られていたものだ。
「カエルの野郎よりはマシな相手だったな」
「そう、ですか」
「ところで一つ聞くが、ここに入る前に一匹悪魔を殺してきた
見た目はハエの、口だけはやかましい女の悪魔だった
聞き覚えはあるか」
「やかましい……もしかして、受付のお局かも…」
「ふうん、なるほど」
その銃を腰のホルダーに仕舞い、立ち上がった。
「あの…ここにいた人が無理やり悪魔にされてるってことは…」
「まぁありえない話じゃない」
絶句した。
ということは私は人殺しを見ていたのか?
いや、そういうことではなく、このダンテはそれを承知の上で?
けれどあのままでは私たちも危なかったわけで、そこは正当防衛と割り切るしかないだろう。
今の私がどうこう言える立場ではない。
「……じゃあ、もしかしたらあと2人出てくるかも」
「へえ、怖気付くかと思った」
「だって…そんなこと言えるほど私は間抜けじゃないです
もしかしたら私も悪魔にされてたかもしれないんだから」
「安心しろ
お前は悪魔にはならないだろ」
「?
基準とかあるんです?」
それに対しても笑みを浮かべて肩をすくめた。
さあな、とジェスチャーしている。
いいや、きっとダンテのことだから大体は分かっているはずだ。
私も立ち上がる。
貧血が原因で目の前が少し砂嵐のようになるが直に引いた。
「上着、ありがとございます」
「いい、着てろ」
コートの大きさでも分かっていたことだが、裾を引きずってしまっている。
まず袖を折って、引きずっている端を持った。
「全然関係ない話してもいいですか?」
「…いいぞ」
「いつ頃からこういう仕事してるんですか?」
「ガキの頃から」
「ご両親もそういう仕事してた、とか?」
「逆だ」
「逆?全くの一般人?」
「親父は悪魔だった」
てくてく、とついていくが脳みそはついていけてない。
つまり、ダンテにも悪魔の血があるということだ。
そして先ほど私の手に血をかけた。
「……この手、大丈夫ですか」
「さぁ?」
「さぁ!?もしかして思いつきでしちゃったんですか!?」
「ワガママ言うな
俺が止血剤でも持ってると思うか?」
「知りませんよ!
おかしいなとは思ってたんですけど、まじですか!?
あぁ〜も〜このままずっと赤いままだったどうしよ〜年中長袖は辛いですよ〜」
手にペンキがついて落ちないとかいう言い訳も通用しそうにない。
なくなく諦めるしかないのかと思っているとダンテは隣で笑っていた。
おかしくてたまらないという顔だ。
「確認ですけど!わざとじゃないですよね!?最善の方法だったんですよね!?」
「ああ、そりゃもちろん、お姫様」
「もー!!
もういいです!このまま生きてやりますとも!!
実際助けられてますし!?」
眠ったおかげか手の傷はほとんど痛みを感じなくなっていた。
そしてかけられた血が傷を覆うようにしかと固まっている。
両手をみればきっと私は渋い顔をしてしまうだろう。
極力手は見ないように、下は見ないように歩いた。
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