少年期
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文と共に衣類も送られてきたそうだ。
今まで獣の皮でツギハギしていたので新しいものは嬉しいし何より有り難みを感じられた。
川で体を洗い、その服に着替える。
髪を櫛で梳きながら小屋に戻ってくると徐庶が顎に手を当てて考え事をしている。
「徐庶さん?」
「あっ、よくお似合いです
それに丈も合っていますね」
「ありがとうございます
それにしても、何か考え事してました?」
「いえ、そんなことは…
…俺も水を浴びてきます
姫は休まれてください」
「はぁい」
何を考えているのか。
それを聞き出すにはまだ私の齢が足りない。
しかし心配性の彼が私にある意味で信頼して考えを教えてくれるのだろうか。
徐庶は優しくそして親切で、この4年間で随分と仲良くなれたはずなのにまだどこか離れている気がする。
本当の意味で近づける日が来るのだろうか。
布で水気を含んだ髪を拭う。
この髪ももう少しすれば切るべきだろう。
宮中に戻る道は4年前よりも早かった。
体力が異常なほどついたことが大きな要因だろう。
それから、曹丕と甄姫と会えるのも楽しみだった。
「宮中についたら髪を切らないと」
「どうしてです?」
「だって男子で髪を伸ばしている方はそんなに見かけないですし」
現に君だって短髪じゃないか。
視線で訴えると、素直に指先で跳ねっ毛をいじった。
「俺は長髪が似合う男ではありませんし
それに姫はきっと長い方がお似合いです
自ら切ってしまうのはもったいないでしょう」
「うーん…徐庶さんがそう言うなら…」
「ええ、俺からの進言として受け取ってください」
ポニーテールの髪は風で揺れる。
この長い髪は草木に引っかかったりすることが度々合って徐庶に手間をかけさせた。
その度に切ろうと思うのだが、徐庶が丁寧に髪の毛を解いていくので切れなかった。
(まぁ…これからはそんなに森に入ることもないし、いいかな)
そんな他愛ない話をしながら首都へ進む。
きっかり1週間でたどり着いた。
流石に少し疲れたが、馬車に揺られて疲弊していたあの頃よりは大きく成長したことが自身で感じ取れた。
「懐かしい
徐庶さん、昔ここを歩きましたね」
「ええ、そうですね
そう思うと、本当に大きくなられました」
「まだ背が伸びますよ、驚くのはまだ早いです」
以前の光景とあまり変化はないものの、やはり市場は活気で溢れている。
とても喜ばしいことだ。
父の治世は滞りなく落ち着いているのだろう。
「ところで…なんだかすごく見られているような」
「え、ええ、まぁ…」
さほど物珍しい格好をしているわけでもないはずだ。
なんだか好奇の目にさらされている気分になり、徐庶と同じフードが欲しくなった。
宮中の裏口には門番がおり、通行証を見せれば問題なく進めた。
これは私なりの推測だが、4年は学問と剣に励ませ、残りは宮中でそれ相応の教育をされるのだろう。
そもそも私を宮中から隔離した理由は、疑いの目やら、側室から命を狙われているからだ。
「長旅ご苦労様でした」
一室に私たちは招かれ、そこでようやく腰を落ち着かせることができた。
ここ数日は歩きっぱなしだったので足に疲れが出ていた。
「今しばらくお待ちください」
そっけなく門番は踵を返す。
そんな態度なのでまるで宮中に帰ってきた気分にならず、他人の家に上がり込んだようだ。
「父上が来てくださるんでしょうか」
「………」
「徐庶さん?」
ふと見やると、また物思いにふけっていた。
改めて呼びかければ気づきなんでもないそぶりをする。
「もしかして、どこか体調がよろしくないのでは?」
「いえ、そんなことは…」
「でも、あの山小屋のときからずっと様子が変です
何かあるのなら、私にも教えてください」
「………それは…」
私が頼りないのは分かるが、そうあからさまに反応されては少しむっとしてしまう。
「教えられないんですか?それとも言いにくい事ですか?」
「実は……」
言いかけた時に妙にタイミングよく従者がやってくる。
舌打ちしたくなったが、必死に抑え込んだ。
しかし何を話すでもなく深々と礼をしている。
そうして突然大本命の曹丕がやってきた。
4年前と全く変わらない顔つきに安堵しながら私は頭を下げた。
「ただいま戻ってまいりました」
「4度の四季を過ぎたが、これほどまでに成長するとは思わなんだ
顔をよく見せよ」
見せろ、という割に顎を掬いあげられる。
口の端が吊り上がり実に愉快そうな笑みをする。
思い通りの結果になり喜ばしいのだろう。
「よくぞ太子の器に成長させた
褒めてつかわす、徐元直」
「もったいないお言葉です」
改めて私に視線を映し、神妙な顔つきで話し始めた。
「徐元直から聞き及んでいるだろうが
東郷、お前は幼くして毒により死んだこととなっている。
さらに曹叡は病弱である
よって、曹叡の名はしばしお前が継ぎ、曹叡に相応しい道のりを歩め」
一瞬頭の中で混乱したが徐庶が言い澱んでいたことはこれなのだとすぐに察し、顔に出す前に深々と礼をした。
「父上の期待に添いますよう、努力してまいります」
「良い返事だ
今宵は体を休めよ」
「はい」
従者ともども曹丕が部屋を出、足音が完全に遠ざかった後に徐庶を見やった。
私が苦言を呈す前に深く頭を下げていた。
「……あのさあ」
「申し訳、ありませんでした」
「いえ、分かればいいんですけど…
あそこで私が驚いた顔をしていれば徐庶さんどうなっていたか想像できますよね」
「はい」
たとえ私が傷つくからと、事実を先延ばしにされるのは今の時代では深刻な問題だ。
現代では情報が大量に行き交う時代であるために多少の情報の遅さは他で補える。
だがここ三国時代では話が別だ。
拳を作って軽く頭にげんこつした。
「はい、これでチャラです」
「はい……」
「それにしても、私が曹叡という名前になるなら
男として振舞わなければいけませんし
何より母上がどう思われるか…」
「個人的に得たことなのですが
ここ数年、甄夫人と曹子桓殿は不仲であると…」
あんなに長い間いちゃいちゃしていたくせに?
子供の目の前でも恥じるそぶりもなく抱き寄せてはうっとりしていたくせに?
しかし、弟が生まれた途端にそちらに意識が向いたことなどを考えれば、曹丕としては面白くはないだろう。
甄姫の気持ちもわからなくはないが、私は曹丕直々に拾われた身。
曹丕としては自分の手で拾い上げた子供にそれなりの愛着があるのだとすれば不仲になってしまうことも考えられる。
そして、私が曹叡の名前を継ぐということは………。
「……私、また毒もられてしまうかも…」
「毒!?
毒って…それは初耳なんですが!?」
側室に毒を盛られ続けていたことを言えば徐庶はまるで今生きていることが奇跡であるような目をして深くため息をついた。
ため息に「よかった~~~」と文字が描かれている気がした。
■
曹叡と私の年の差は5歳。
つまり曹叡は現在5歳なので、急に私が「曹叡です!」なんて言って出てしまえば曹丕は非難の的だ。
なので私が正式に曹叡と名乗ることができるのは、“曹叡”が成人になる年だろう。
そして生年月日はわりと有耶無耶にできるそうなので、成人の歳を少し早めて私がちょうど20歳になれば曹叡となる。
現在12歳なのであと8年、何をすればいいのかというと、魏が設立した”書館”という所で教育を受けるとのこと。
今でいう学校に相当する機関で魏が作っているだけあって富裕層、武将の子などが通っているそうだ。
もちろん剣術もそこで学ぶ。
唯一の救いは、そこが住み込みではないことだ。
寮などがあれば一瞬で私が女であるとバレるに決まっている。
都の郊外に仮の住まいを用意しているらしい。
そこから通い、身分を隠し通せとのお達しだ。
もちろん徐庶もお目付け役として共に生活するそうなのだが
そこへ行く前に、無理な相談だとわかっていても父である曹丕に一つだけ嘆願した。
「母上に、一目だけでもいいのでお会いしたいです」
あからさまに眉をひそめていたが、それでも久しぶりの娘の願いに首を縦に振った。
案内された部屋の場所は依然と変わりないが、戸だけを見れば陰鬱な気が漂っている。
「失礼します、甄夫人、一言ご挨拶をさせていただきたく参りました」
「はいりなさい」
凛とした声は変わらず、なつかしさに微笑みを浮かべて部屋に入る。
「あなたは…徐元直殿、一体どういう風の吹き回しです」
「言葉通りの意味です、夫人
ただし、ご挨拶をしますのは私ではありません」
緊張はあれども、美しさは変わらない母に敬意を表す。
この時代でよくぞその美しさを保てるものだ。
並々ならぬ努力があることは女だからこそわかる。
「お久しぶりです
覚えていらっしゃいますか」
顔をあげれば甄姫は徐々に驚き、そうして顔色が悪くなった。
勢いよく立ち上がりガタンと椅子がずれる。
「東郷……!!」
「母上、ご心配をおかけしましてもうしわけありませんでした」
もう一度頭を下げると、肩を掴まれ顔を上げる。
「そんな……!我が君の、あの言葉は本当だったの…!?」
「…母上にとっては、心苦しいお話だったと思います…
至らぬ身ではありますが、曹叡の名に恥じぬよう努力いたします」
痛いくらい肩に力が込められ甄姫がどういう表情をしているかわからなかった。
もしかすれば、私はやはり要らない存在だったのだろうか。
そんなことを考えては心臓が締め付けられたが、いつしか甄姫は私の肩にもたれるように泣いていた。
「東郷…東郷……!」
「母上…」
「あれほど、あなたは私を慕ってくれていたのに…!
一言、一言だけ私はあなたに言いたかったのです…!
1人にさせてしまい…、毒で苦しむ間際も母として安心させてやれなかった…
東郷、ごめんなさい、こんなふがいない女を、母と呼ばせてしまい…!!」
やはり甄姫は内面でさえも美しかった。
弟に熱心になっていたのは自身の保険だ。
そうすることでこの宮中で生き残れるのだから。
そのことに関して、甄姫にだけは責めることはできない。
まぁ、曹丕のほったらかしは、拾ったくせに何やってんだという気持ちだったが。
「母上、今そのお言葉で救われました
もう涙を流されないでください
せっかくのお顔が曇りますと私も悲しくなります」
「東郷……あなたがいなくなった途端、強烈な寂しさが訪れました…
もし次を与えてくださるのなら今度こそ良き母になりますわ」
「何をおっしゃいますか
昔も今も、綺麗でかっこいい自慢の母上です」
甄姫は安堵していた。
私もそれに安堵する。
涙を拭ってやると、ほんの少しだけ笑った。
「まぁ……もうすっかり殿方のようなしぐさをしてくださるのね」
「え、あ、
えへへ」
気がほぐれたためか、その後は質問攻めにあった。
これまでどうしていたのか何をしていたのか。
まともに回答すれば今度は徐庶と曹丕が攻撃されかねないので嘘も交えつつ答えていく。
そうして最後に、魏が創設した書館に通うと伝えた。
「宮中ではなく都の郊外へ…!?」
「ええ、でも大丈夫です
これでも自分で身の回りのことはできますし、
心配されるようなことはありません」
「そう…我が君が命じたのであれば…私も異論はありませんわ…」
めちゃめちゃ異論あります、と顔に書いてある。
「ですが、宮中に帰ってくる時は必ず私に顔を見せて頂戴
いいですね?
それと、何もなくても帰ってきていいのですよ?」
「は、はは…善処します…」
そうして優しく抱きしめられた。
懐かしい匂いに目を閉じる。
ようやく帰ってきたのだと実感する。
「それでは母上、今宵はここらで失礼します」
「ええ、風邪をひかぬよう、気を付けるのですよ」
「母上も、お体をお大事に」
部屋をでて遠ざかると何故か私と徐庶はそろって息を吐いた。
「え?」
「えっ…」
お互い何故ため息をついたのかわからない状態だ。
私は、徐庶が何を心配することがあるの?という気持ちで
徐庶はその逆だ。
用意された部屋で詳しく聞いてみると、弟の名を語って太子になるということに甄姫がどう思っているのかとても不安だったそうだ。
さらには私を拒絶するのではないか、と。
私が心配していた内容と同じだったので思わず笑う。
「でも母上が以前と変わらず優しい人柄でよかったです
きっと、父上との不仲もそのうち元に戻られるでしょう」
「ええ、そうですね」
これまでの不安は消し去られた。
あとは残りの8年間、性別を悟られず過ごすだけだ。
■
初めて書館に訪れた際、いろんな子供たちからじろじろと見られた。
性別を偽っていることはもちろん書館の長は知らない…というか上から圧力がかけられて何も悟らぬようにしている。
徐庶からも、顔が可愛いと評されていることから女であることはすぐばれそうではあるが。
初日から数週間は女とバレぬよう口数を少なくし、話すときはやや低めでぶっきらぼうに。
それを意識していたがやはり一日の終わりにはどっと疲れが溢れていた。
しかし不幸中の幸いか、徐庶があの4年間で教わったことの復習を書館でしているので勉学はそれほど苦痛ではないし、剣術指南も苦労はしなかった。
「沖は剣術もでき、学問をよく理解できる子よなぁ」
沖(ちゅう)、という名前は甄姫が私の為に偽名を与えてくれた。
これを聴いたとき徐庶はかなり渋い顔をしていたので何か裏はありそうだが一言「それを曹子桓殿の前で言わないように、間違っても甄夫人から与えられたともいわぬように」と言われた。
口が裂けても言わないことにした。
「ありがとうございます
そのお言葉、父上にきかせればさぞ大喜びすることでしょう」
完璧な受け答えに褒めちぎってくる教師はより笑顔をつくった。
しかし、先入観からか、私としてはやはり徐庶の授業のほうが分かりやすかったような。
「それもよいが…そうさなぁ
少し私手ずから学問のなんたるかを教授しようではないか」
「えっ」
なんで?
いろいろあれこれ考えてみたが相当する理由が見当たらず、ひとまずここは断っておくべきだと察した。
これぞ転生の強みである。
「申し訳ありません。
せっかくご教授いただくよう取り計らっていただきましたが
父上より日が暮れる前に戻るよう言いつけられていまして
最近は人さらいがおおいのだとか…」
「そ、そうか、父君の言いつけは守らねばなるまいな…」
「はい、ではここらで失礼します」
怪しまれぬよう、できるだけ早めに歩く。
そうして私の姿を認識されなくなった瞬間に走り出した。
「たっ、ただいま帰りましたっ」
「お勤めご苦労様です」
「じょっ、じょしょさんっ」
草履を脱ぎ、袖をぎゅっと握る。
徐庶はきょとんとしている。
「あのっ、書館の師より学問を直々に教授されることはよくあるのでしょうかっ」
そういった瞬間、徐庶がほんの少しだけ目つきを細くさせた後、誤魔化すように笑みを作った。
「ごく稀ですが、気に入られればそのようなこともあります
ですが沖殿は身分を隠すためにも、直々に教わることは避けたほうがよろしいかと」
「そっ、そうですよねっ
もちろん断ってきましたがっ」
絶対ヤバイことされそうになってたな。
徐庶の目すらも据わるほどだ。
きっとあの教師は徐庶のブラックリストに記載された第一号になったに違いない。
「じゃ、じゃあ、お夕飯の準備しますねっ」
「私もお手伝いしましょう」
それからというもの
やたらと書館の教師に見つめられていたり
ご褒美と称して甘味をもらったり
一番鳥肌が立ったのはねちっこく肩を触られた時だ。
こんな風にされているせいで、同じく勉学に励む子供たちからは「おとこおんな」「色目を使う男」などと言われる始末。
勝手に近寄っているのは向こうだというのに。
だが、何より一番堪えたのは
「あの…えっと…沖さまは…どんな女子が好みでしょうか…」
突然知らない“女の子”から好意を寄せられたことだ。
「えっとぉ……頑張り屋さんが…好きです…」
その女の子の背後でまた、友達同士なのか女子の軍団がキャアキャアと黄色い声を上げる始末。
帰ってため息しか出なかった。
「ど、どうされたんですか」
「女の子に好意を寄せられていました」
「あー……うーん」
流石に徐庶もフォローしきれない様子。
そこまで男らしくできている自信はないし、むしろ「あいつは女だ」という噂ばかり立つものだと思っていた。
それなのに全く別の意味で「女」となじられ、同性から好かれるなど。
「私がもし、父上の後を継いだ場合世継ぎってどうするんですか………」
「ええと……」
「捨て子を拾うしかないんですかね…はは…」
「そ、そんなことは、ないと思いますが…」
「女同士で結婚なんてことは…」
徐庶もどう対応すればいいのか、彼の中にマニュアルがないので言葉選びに四苦八苦している。
私も困らせるつもりはないのだが、吐き出さねばこの理不尽に気持ちの整理ができない。
「すみません…ぐちぐち言ってしまって…」
「いえ、時にはそうやって言ってくださる方が俺は安心します
沖殿はもう少し我が儘を言ってもいいんですよ」
にこ、と安心できる徐庶スマイル。
もし徐庶が現代でコンビニで働いていたら朝昼晩通い詰めるだろう。
「わがまま…ですか?」
「ええ、自身を律することは素晴らしいと思うのですが
沖殿の年ごろの子はまだ親元すらも離れていません
だから俺は我が儘を言ってくださらないと逆に不安になってしまって…」
かつてこの魏に最初から良心と言える人物はいただろうか。いや、いた。
徐庶だ。思わずママと呼びたくなる。
しかしせっかくの申し出。わがままを言わずにはいられない。
「じゃあ私が結婚できなかったら徐庶さん、私と結婚して!」
徐庶は慌てふためいて首を横に振った。
顔も次第に赤いのか青いのかよくわからない。
「そっっっっ、そんなっっっっ!!
いけません!!ダメです!!」
「徐庶さんがわがまま言ってっていったじゃないですか」
「年の差もそうですが、そもそも俺は東郷様の忠臣です!
それだけは譲れません!!」
「………どうしても?」
「ウッ」
うるうると、わざとらしく悲しそうな顔をすれば徐庶は簡単に揺れる。
しかし徐庶も学んできたようで、視線をずらした。
「そんな風に言ってもダメですし、これは俺の矜持でもあります
絶対にダメです。」
「……ぜったい?」
「…………………絶対です」
やっぱりチョロい。
しばし赤い顔して考え込んで拒否したのがすぐにわかる。
それが面白くて我慢しきれず笑った。
「か、からかいましたね!?
どこでそんなことを覚えてきたんですか!」
「ふふ、あはは、徐庶さん面白い
また遊んでくださいね!」
「遊ばれたのは俺のほうだと思うんですが…」
「でも徐庶さんみたいに優しい人なら結婚したいなって思いますよ?」
「ひ、姫、そういって、男に期待させるのは悪い癖ですよ」
ともあれ徐庶をからかうのは面白くて癖になりそうだ。
しかし、もしもの話だが
私が誰かと結婚すれば曹丕よりも大泣きしている姿が目に見える。
今まで獣の皮でツギハギしていたので新しいものは嬉しいし何より有り難みを感じられた。
川で体を洗い、その服に着替える。
髪を櫛で梳きながら小屋に戻ってくると徐庶が顎に手を当てて考え事をしている。
「徐庶さん?」
「あっ、よくお似合いです
それに丈も合っていますね」
「ありがとうございます
それにしても、何か考え事してました?」
「いえ、そんなことは…
…俺も水を浴びてきます
姫は休まれてください」
「はぁい」
何を考えているのか。
それを聞き出すにはまだ私の齢が足りない。
しかし心配性の彼が私にある意味で信頼して考えを教えてくれるのだろうか。
徐庶は優しくそして親切で、この4年間で随分と仲良くなれたはずなのにまだどこか離れている気がする。
本当の意味で近づける日が来るのだろうか。
布で水気を含んだ髪を拭う。
この髪ももう少しすれば切るべきだろう。
宮中に戻る道は4年前よりも早かった。
体力が異常なほどついたことが大きな要因だろう。
それから、曹丕と甄姫と会えるのも楽しみだった。
「宮中についたら髪を切らないと」
「どうしてです?」
「だって男子で髪を伸ばしている方はそんなに見かけないですし」
現に君だって短髪じゃないか。
視線で訴えると、素直に指先で跳ねっ毛をいじった。
「俺は長髪が似合う男ではありませんし
それに姫はきっと長い方がお似合いです
自ら切ってしまうのはもったいないでしょう」
「うーん…徐庶さんがそう言うなら…」
「ええ、俺からの進言として受け取ってください」
ポニーテールの髪は風で揺れる。
この長い髪は草木に引っかかったりすることが度々合って徐庶に手間をかけさせた。
その度に切ろうと思うのだが、徐庶が丁寧に髪の毛を解いていくので切れなかった。
(まぁ…これからはそんなに森に入ることもないし、いいかな)
そんな他愛ない話をしながら首都へ進む。
きっかり1週間でたどり着いた。
流石に少し疲れたが、馬車に揺られて疲弊していたあの頃よりは大きく成長したことが自身で感じ取れた。
「懐かしい
徐庶さん、昔ここを歩きましたね」
「ええ、そうですね
そう思うと、本当に大きくなられました」
「まだ背が伸びますよ、驚くのはまだ早いです」
以前の光景とあまり変化はないものの、やはり市場は活気で溢れている。
とても喜ばしいことだ。
父の治世は滞りなく落ち着いているのだろう。
「ところで…なんだかすごく見られているような」
「え、ええ、まぁ…」
さほど物珍しい格好をしているわけでもないはずだ。
なんだか好奇の目にさらされている気分になり、徐庶と同じフードが欲しくなった。
宮中の裏口には門番がおり、通行証を見せれば問題なく進めた。
これは私なりの推測だが、4年は学問と剣に励ませ、残りは宮中でそれ相応の教育をされるのだろう。
そもそも私を宮中から隔離した理由は、疑いの目やら、側室から命を狙われているからだ。
「長旅ご苦労様でした」
一室に私たちは招かれ、そこでようやく腰を落ち着かせることができた。
ここ数日は歩きっぱなしだったので足に疲れが出ていた。
「今しばらくお待ちください」
そっけなく門番は踵を返す。
そんな態度なのでまるで宮中に帰ってきた気分にならず、他人の家に上がり込んだようだ。
「父上が来てくださるんでしょうか」
「………」
「徐庶さん?」
ふと見やると、また物思いにふけっていた。
改めて呼びかければ気づきなんでもないそぶりをする。
「もしかして、どこか体調がよろしくないのでは?」
「いえ、そんなことは…」
「でも、あの山小屋のときからずっと様子が変です
何かあるのなら、私にも教えてください」
「………それは…」
私が頼りないのは分かるが、そうあからさまに反応されては少しむっとしてしまう。
「教えられないんですか?それとも言いにくい事ですか?」
「実は……」
言いかけた時に妙にタイミングよく従者がやってくる。
舌打ちしたくなったが、必死に抑え込んだ。
しかし何を話すでもなく深々と礼をしている。
そうして突然大本命の曹丕がやってきた。
4年前と全く変わらない顔つきに安堵しながら私は頭を下げた。
「ただいま戻ってまいりました」
「4度の四季を過ぎたが、これほどまでに成長するとは思わなんだ
顔をよく見せよ」
見せろ、という割に顎を掬いあげられる。
口の端が吊り上がり実に愉快そうな笑みをする。
思い通りの結果になり喜ばしいのだろう。
「よくぞ太子の器に成長させた
褒めてつかわす、徐元直」
「もったいないお言葉です」
改めて私に視線を映し、神妙な顔つきで話し始めた。
「徐元直から聞き及んでいるだろうが
東郷、お前は幼くして毒により死んだこととなっている。
さらに曹叡は病弱である
よって、曹叡の名はしばしお前が継ぎ、曹叡に相応しい道のりを歩め」
一瞬頭の中で混乱したが徐庶が言い澱んでいたことはこれなのだとすぐに察し、顔に出す前に深々と礼をした。
「父上の期待に添いますよう、努力してまいります」
「良い返事だ
今宵は体を休めよ」
「はい」
従者ともども曹丕が部屋を出、足音が完全に遠ざかった後に徐庶を見やった。
私が苦言を呈す前に深く頭を下げていた。
「……あのさあ」
「申し訳、ありませんでした」
「いえ、分かればいいんですけど…
あそこで私が驚いた顔をしていれば徐庶さんどうなっていたか想像できますよね」
「はい」
たとえ私が傷つくからと、事実を先延ばしにされるのは今の時代では深刻な問題だ。
現代では情報が大量に行き交う時代であるために多少の情報の遅さは他で補える。
だがここ三国時代では話が別だ。
拳を作って軽く頭にげんこつした。
「はい、これでチャラです」
「はい……」
「それにしても、私が曹叡という名前になるなら
男として振舞わなければいけませんし
何より母上がどう思われるか…」
「個人的に得たことなのですが
ここ数年、甄夫人と曹子桓殿は不仲であると…」
あんなに長い間いちゃいちゃしていたくせに?
子供の目の前でも恥じるそぶりもなく抱き寄せてはうっとりしていたくせに?
しかし、弟が生まれた途端にそちらに意識が向いたことなどを考えれば、曹丕としては面白くはないだろう。
甄姫の気持ちもわからなくはないが、私は曹丕直々に拾われた身。
曹丕としては自分の手で拾い上げた子供にそれなりの愛着があるのだとすれば不仲になってしまうことも考えられる。
そして、私が曹叡の名前を継ぐということは………。
「……私、また毒もられてしまうかも…」
「毒!?
毒って…それは初耳なんですが!?」
側室に毒を盛られ続けていたことを言えば徐庶はまるで今生きていることが奇跡であるような目をして深くため息をついた。
ため息に「よかった~~~」と文字が描かれている気がした。
■
曹叡と私の年の差は5歳。
つまり曹叡は現在5歳なので、急に私が「曹叡です!」なんて言って出てしまえば曹丕は非難の的だ。
なので私が正式に曹叡と名乗ることができるのは、“曹叡”が成人になる年だろう。
そして生年月日はわりと有耶無耶にできるそうなので、成人の歳を少し早めて私がちょうど20歳になれば曹叡となる。
現在12歳なのであと8年、何をすればいいのかというと、魏が設立した”書館”という所で教育を受けるとのこと。
今でいう学校に相当する機関で魏が作っているだけあって富裕層、武将の子などが通っているそうだ。
もちろん剣術もそこで学ぶ。
唯一の救いは、そこが住み込みではないことだ。
寮などがあれば一瞬で私が女であるとバレるに決まっている。
都の郊外に仮の住まいを用意しているらしい。
そこから通い、身分を隠し通せとのお達しだ。
もちろん徐庶もお目付け役として共に生活するそうなのだが
そこへ行く前に、無理な相談だとわかっていても父である曹丕に一つだけ嘆願した。
「母上に、一目だけでもいいのでお会いしたいです」
あからさまに眉をひそめていたが、それでも久しぶりの娘の願いに首を縦に振った。
案内された部屋の場所は依然と変わりないが、戸だけを見れば陰鬱な気が漂っている。
「失礼します、甄夫人、一言ご挨拶をさせていただきたく参りました」
「はいりなさい」
凛とした声は変わらず、なつかしさに微笑みを浮かべて部屋に入る。
「あなたは…徐元直殿、一体どういう風の吹き回しです」
「言葉通りの意味です、夫人
ただし、ご挨拶をしますのは私ではありません」
緊張はあれども、美しさは変わらない母に敬意を表す。
この時代でよくぞその美しさを保てるものだ。
並々ならぬ努力があることは女だからこそわかる。
「お久しぶりです
覚えていらっしゃいますか」
顔をあげれば甄姫は徐々に驚き、そうして顔色が悪くなった。
勢いよく立ち上がりガタンと椅子がずれる。
「東郷……!!」
「母上、ご心配をおかけしましてもうしわけありませんでした」
もう一度頭を下げると、肩を掴まれ顔を上げる。
「そんな……!我が君の、あの言葉は本当だったの…!?」
「…母上にとっては、心苦しいお話だったと思います…
至らぬ身ではありますが、曹叡の名に恥じぬよう努力いたします」
痛いくらい肩に力が込められ甄姫がどういう表情をしているかわからなかった。
もしかすれば、私はやはり要らない存在だったのだろうか。
そんなことを考えては心臓が締め付けられたが、いつしか甄姫は私の肩にもたれるように泣いていた。
「東郷…東郷……!」
「母上…」
「あれほど、あなたは私を慕ってくれていたのに…!
一言、一言だけ私はあなたに言いたかったのです…!
1人にさせてしまい…、毒で苦しむ間際も母として安心させてやれなかった…
東郷、ごめんなさい、こんなふがいない女を、母と呼ばせてしまい…!!」
やはり甄姫は内面でさえも美しかった。
弟に熱心になっていたのは自身の保険だ。
そうすることでこの宮中で生き残れるのだから。
そのことに関して、甄姫にだけは責めることはできない。
まぁ、曹丕のほったらかしは、拾ったくせに何やってんだという気持ちだったが。
「母上、今そのお言葉で救われました
もう涙を流されないでください
せっかくのお顔が曇りますと私も悲しくなります」
「東郷……あなたがいなくなった途端、強烈な寂しさが訪れました…
もし次を与えてくださるのなら今度こそ良き母になりますわ」
「何をおっしゃいますか
昔も今も、綺麗でかっこいい自慢の母上です」
甄姫は安堵していた。
私もそれに安堵する。
涙を拭ってやると、ほんの少しだけ笑った。
「まぁ……もうすっかり殿方のようなしぐさをしてくださるのね」
「え、あ、
えへへ」
気がほぐれたためか、その後は質問攻めにあった。
これまでどうしていたのか何をしていたのか。
まともに回答すれば今度は徐庶と曹丕が攻撃されかねないので嘘も交えつつ答えていく。
そうして最後に、魏が創設した書館に通うと伝えた。
「宮中ではなく都の郊外へ…!?」
「ええ、でも大丈夫です
これでも自分で身の回りのことはできますし、
心配されるようなことはありません」
「そう…我が君が命じたのであれば…私も異論はありませんわ…」
めちゃめちゃ異論あります、と顔に書いてある。
「ですが、宮中に帰ってくる時は必ず私に顔を見せて頂戴
いいですね?
それと、何もなくても帰ってきていいのですよ?」
「は、はは…善処します…」
そうして優しく抱きしめられた。
懐かしい匂いに目を閉じる。
ようやく帰ってきたのだと実感する。
「それでは母上、今宵はここらで失礼します」
「ええ、風邪をひかぬよう、気を付けるのですよ」
「母上も、お体をお大事に」
部屋をでて遠ざかると何故か私と徐庶はそろって息を吐いた。
「え?」
「えっ…」
お互い何故ため息をついたのかわからない状態だ。
私は、徐庶が何を心配することがあるの?という気持ちで
徐庶はその逆だ。
用意された部屋で詳しく聞いてみると、弟の名を語って太子になるということに甄姫がどう思っているのかとても不安だったそうだ。
さらには私を拒絶するのではないか、と。
私が心配していた内容と同じだったので思わず笑う。
「でも母上が以前と変わらず優しい人柄でよかったです
きっと、父上との不仲もそのうち元に戻られるでしょう」
「ええ、そうですね」
これまでの不安は消し去られた。
あとは残りの8年間、性別を悟られず過ごすだけだ。
■
初めて書館に訪れた際、いろんな子供たちからじろじろと見られた。
性別を偽っていることはもちろん書館の長は知らない…というか上から圧力がかけられて何も悟らぬようにしている。
徐庶からも、顔が可愛いと評されていることから女であることはすぐばれそうではあるが。
初日から数週間は女とバレぬよう口数を少なくし、話すときはやや低めでぶっきらぼうに。
それを意識していたがやはり一日の終わりにはどっと疲れが溢れていた。
しかし不幸中の幸いか、徐庶があの4年間で教わったことの復習を書館でしているので勉学はそれほど苦痛ではないし、剣術指南も苦労はしなかった。
「沖は剣術もでき、学問をよく理解できる子よなぁ」
沖(ちゅう)、という名前は甄姫が私の為に偽名を与えてくれた。
これを聴いたとき徐庶はかなり渋い顔をしていたので何か裏はありそうだが一言「それを曹子桓殿の前で言わないように、間違っても甄夫人から与えられたともいわぬように」と言われた。
口が裂けても言わないことにした。
「ありがとうございます
そのお言葉、父上にきかせればさぞ大喜びすることでしょう」
完璧な受け答えに褒めちぎってくる教師はより笑顔をつくった。
しかし、先入観からか、私としてはやはり徐庶の授業のほうが分かりやすかったような。
「それもよいが…そうさなぁ
少し私手ずから学問のなんたるかを教授しようではないか」
「えっ」
なんで?
いろいろあれこれ考えてみたが相当する理由が見当たらず、ひとまずここは断っておくべきだと察した。
これぞ転生の強みである。
「申し訳ありません。
せっかくご教授いただくよう取り計らっていただきましたが
父上より日が暮れる前に戻るよう言いつけられていまして
最近は人さらいがおおいのだとか…」
「そ、そうか、父君の言いつけは守らねばなるまいな…」
「はい、ではここらで失礼します」
怪しまれぬよう、できるだけ早めに歩く。
そうして私の姿を認識されなくなった瞬間に走り出した。
「たっ、ただいま帰りましたっ」
「お勤めご苦労様です」
「じょっ、じょしょさんっ」
草履を脱ぎ、袖をぎゅっと握る。
徐庶はきょとんとしている。
「あのっ、書館の師より学問を直々に教授されることはよくあるのでしょうかっ」
そういった瞬間、徐庶がほんの少しだけ目つきを細くさせた後、誤魔化すように笑みを作った。
「ごく稀ですが、気に入られればそのようなこともあります
ですが沖殿は身分を隠すためにも、直々に教わることは避けたほうがよろしいかと」
「そっ、そうですよねっ
もちろん断ってきましたがっ」
絶対ヤバイことされそうになってたな。
徐庶の目すらも据わるほどだ。
きっとあの教師は徐庶のブラックリストに記載された第一号になったに違いない。
「じゃ、じゃあ、お夕飯の準備しますねっ」
「私もお手伝いしましょう」
それからというもの
やたらと書館の教師に見つめられていたり
ご褒美と称して甘味をもらったり
一番鳥肌が立ったのはねちっこく肩を触られた時だ。
こんな風にされているせいで、同じく勉学に励む子供たちからは「おとこおんな」「色目を使う男」などと言われる始末。
勝手に近寄っているのは向こうだというのに。
だが、何より一番堪えたのは
「あの…えっと…沖さまは…どんな女子が好みでしょうか…」
突然知らない“女の子”から好意を寄せられたことだ。
「えっとぉ……頑張り屋さんが…好きです…」
その女の子の背後でまた、友達同士なのか女子の軍団がキャアキャアと黄色い声を上げる始末。
帰ってため息しか出なかった。
「ど、どうされたんですか」
「女の子に好意を寄せられていました」
「あー……うーん」
流石に徐庶もフォローしきれない様子。
そこまで男らしくできている自信はないし、むしろ「あいつは女だ」という噂ばかり立つものだと思っていた。
それなのに全く別の意味で「女」となじられ、同性から好かれるなど。
「私がもし、父上の後を継いだ場合世継ぎってどうするんですか………」
「ええと……」
「捨て子を拾うしかないんですかね…はは…」
「そ、そんなことは、ないと思いますが…」
「女同士で結婚なんてことは…」
徐庶もどう対応すればいいのか、彼の中にマニュアルがないので言葉選びに四苦八苦している。
私も困らせるつもりはないのだが、吐き出さねばこの理不尽に気持ちの整理ができない。
「すみません…ぐちぐち言ってしまって…」
「いえ、時にはそうやって言ってくださる方が俺は安心します
沖殿はもう少し我が儘を言ってもいいんですよ」
にこ、と安心できる徐庶スマイル。
もし徐庶が現代でコンビニで働いていたら朝昼晩通い詰めるだろう。
「わがまま…ですか?」
「ええ、自身を律することは素晴らしいと思うのですが
沖殿の年ごろの子はまだ親元すらも離れていません
だから俺は我が儘を言ってくださらないと逆に不安になってしまって…」
かつてこの魏に最初から良心と言える人物はいただろうか。いや、いた。
徐庶だ。思わずママと呼びたくなる。
しかしせっかくの申し出。わがままを言わずにはいられない。
「じゃあ私が結婚できなかったら徐庶さん、私と結婚して!」
徐庶は慌てふためいて首を横に振った。
顔も次第に赤いのか青いのかよくわからない。
「そっっっっ、そんなっっっっ!!
いけません!!ダメです!!」
「徐庶さんがわがまま言ってっていったじゃないですか」
「年の差もそうですが、そもそも俺は東郷様の忠臣です!
それだけは譲れません!!」
「………どうしても?」
「ウッ」
うるうると、わざとらしく悲しそうな顔をすれば徐庶は簡単に揺れる。
しかし徐庶も学んできたようで、視線をずらした。
「そんな風に言ってもダメですし、これは俺の矜持でもあります
絶対にダメです。」
「……ぜったい?」
「…………………絶対です」
やっぱりチョロい。
しばし赤い顔して考え込んで拒否したのがすぐにわかる。
それが面白くて我慢しきれず笑った。
「か、からかいましたね!?
どこでそんなことを覚えてきたんですか!」
「ふふ、あはは、徐庶さん面白い
また遊んでくださいね!」
「遊ばれたのは俺のほうだと思うんですが…」
「でも徐庶さんみたいに優しい人なら結婚したいなって思いますよ?」
「ひ、姫、そういって、男に期待させるのは悪い癖ですよ」
ともあれ徐庶をからかうのは面白くて癖になりそうだ。
しかし、もしもの話だが
私が誰かと結婚すれば曹丕よりも大泣きしている姿が目に見える。