氷野の展望
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この小説の夢小説設定フェードラッヘ・白竜騎士団の会計事務
数年前に失明したことで前線を退き、裏方仕事をしている。
下級貴族から家出する形で黒竜騎士団に入った経歴がある。
騎士としてのプライドは高く、皆に優しく自分に厳しい性格。
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縁談がきた。
両親のいらぬお節介だ。
そもそも貴族の出で、本来ならば騎士とは無関係であるべきはずだったのだが。
どうしても政略結婚とか、よくわかりもしない相手と結婚が嫌で両親の反対を押し切って黒竜騎士団に入った。
それまでは剣術や馬術、学問を家庭教師に教わっていたのが功を奏した。
結局騎士になったということで、父から直々に親子の縁を切ると言われた。
むしろせいせいしたくらいだ。
足かせが減るのだから問題はない。
快く承諾すると一番絶句していたのは父だったのでカリアも驚いたのだが。
ともかく、縁を切ったのだから家の援助も受けずに小さな家で暮らしている。
それなりに生活は充実しているし、悠々と過ごせているほうだ。
それなのに今更顔を出して縁談を受けるなど冗談ではない。
むろん断ったのだが相手の強い希望で、と無理やり連れてこられた。
どちらにせよ失明し、体は傷だらけ。
人相も連続勤務で悪くなっているため相手は恐れおののいて逃げ帰るだろう。
(いや、私に剣で勝てたら、なんてのもいいな)
そうこうしていると相手が来た。
髭面の、中年男性だ。
息子は遅れているのだろうかと思いつつ適当に挨拶をする。
「初めましてカリアさん
いやぁ聞いていた通り美しいお嬢さんだ」
「いいえうちの子はお転婆でして」
男同士、親同士の会話が続く。
早く帰って寝たいと思っている矢先に改めて紹介が入った。
「こちら縁談を持ちかけてくださったハイル氏だ
それじゃあ失礼のないように」
「…え?」
父親は一礼してこの場を去った。
まさか、とぎこちなくおっさんを見る。
「手始めにお互いの好みを話していこうか、カリア」
ありえない
脳内で叫ぶ。
よりによってこんな変なおっさん。
これはもはや嫌がらせだ。
私が一体何をしたというのか。
「す、すみませんが
今日は気分が優れないので」
席を立つと腕を掴まれる。
ぞっとする。
「離してくださ…」
「気分が悪いなら部屋でもいいんじゃないかな?ん?」
手を思い切り弾いて走り去る。
今のカリアの顔は顔面蒼白で、家に帰り着いてもまだ気分の悪さが抜けきれなかった。
男のじっとりとしたぬるま湯の気持ち悪い体温が這ってくるようで、何度も手を洗う。
頭を抱えても、横になっても治らず、最終的に睡眠薬を飲んで眠るしかなかった。
それからというもの。
職場に例のハイルという男が現れるようになった。
職場でも婚約者だなどと噂が広まる。
職場に来るのはやめてほしいと言っても聞く耳を持たない。
さらに決まってこう言うのだ。
「いやなに、女性でも働ける場所があるのだなと
見学も含めているんだよ」
それがどういう意図を含んでいるのかはわからない。
ただあえて勘違いさせやすく言い換えているのは確かだ。
「ふざけないでください
私はあなたとの縁談に応えたつもりはありません
お引き取りください」
「おっと…そうか
君にだって男を選ぶ権利があるのを忘れていた
もしや、騎士団から選ぶのかな?」
「っ!!
仲間を愚弄しないでいただきたい!!」
「ああ怖い
それでもそうやって怒る君も可愛らしいね」
ふざけた口調で足取り軽く帰って行く。
そうした日が最悪の場合1週間も続き、このトラブルは職場の枠を越えていた。
団員は面白半分で尋ねてくる。
両親からは早く結婚しろと。
他の管轄からは、陰口を叩かれる。
騎士団と貴族あがりで気に入られていない存在であることは理解していたものの、立て続けにこんなことが起こっていては心が持たない。
次第に食欲を無くしていた。
精神的に参ってしまい、ハイル氏がやってきても下手に、帰ってくださいとしか言えなくなってしまう。
助けてくれる人が誰もいない。
ふと脳裏にランスロット、ヴェインが現れるが首を振る。
(もしかすれば断り続けていつか諦めがつくかも)
自分に言い聞かせながら今日の業務を終えた。
黄昏時の閑静な郊外。
明日の業務のことをどうしても考えてしまう。
明日は来ませんように。
明後日も明々後日も、二度と現れませんように。
(結局、どれだけ騎士になろうとも私はなれやしないのか…)
自嘲気味に笑う。
特段騎士に憧れていたわけではない。
ただ、言いなりになるのが嫌だというあまりにも抽象的な思いの果てに辿り着いただけなのだから、なれるわけない。
そんな考えにまた疲れそうになるが、唯一安心できる家へ帰り着く。
「ああおかえりカリア」
玄関を開けた目の前にハイルがいた。
脳が動きを止める。
荷物を落とした音でとっさに我に返った。
逃げようとするも無理やり掴んで家の中に引きずり込まれた。
叫ぼうとしても指を口に突っ込まれる。
「んぐっ、ご、ぁ」
「じっとしていろ
そうだ、ああ、カリアはいい子だ」
口から指を引き抜き、カリアの唾液を舐める。
足で蹴り付けようとするも情けないくらい恐怖で震えている。
そんなカリアをみてニタリと笑い玄関に突き飛ばした。
「ぅあっ!」
「やっときみを抱ける…ずっと待ってたんだ大きくなるのを…」
「は……?」
あっけにとられている間にシャツを引きちぎられる。
胸を揉みしごかれたまま話を続けた。
「小さい頃君を見かけておっぱいに触ったの、すっかり忘れてるだろう?」
脳内の記憶が逆再生を始める。
そのカミングアウトがトリガーだったようだ。
確かに、成人の大人がカリアを羽交い締めにした。
カリアは近くの置物でその男を殴って逃げ出し、兄に泣きついたのだ。
「もっ、もう我慢できないっ!
なんて綺麗な髪なんだっ!
はぁっ、はぁっはぁっ!」
「ひっ!?」
股を開いて、股間を押し付ける。
ピストンを繰り返した。
布越しに男の象徴が、熱さが。
「いやっ!いやだっやだやだ!!」
下着も取り払われて、それでも逃げようとするカリアの髪を乱暴に掴んで馬乗りになる。
足を持ち上げられ蜜部を視姦しスジを弄った。
カリアは悲鳴をあげる。
どうして誰もきてくれないのか。
助けてくれないのか。
泣き喚いているのに。
どうしてこんなことばかり起こるのか。
恨み言が頭の中で埋め尽くされていた。
恐怖で声も出なくなりそうな時に激しくドアが蹴破られた。
夜の暗闇でそこに人がいるのかすらわからない。
それでもハイルは壁に叩きつけられて剣を突き立てられているからそれは確かに人なのだろう。
「貴様……」
「ひ、ひぃっ!?」
剣を持つ手がギリギリと血が出ている。
酷く、手を握りしめているからだ。
身を隠すロングコートで身を隠しているため誰なのかすらわからない。
「氷漬けにしてやってもよいぞ
そして粉々に砕いてやろう」
「ひ、あっ、さ、刺さるっ!
刺さる!!」
「今更己の命を惜しむか下郎!!」
ぐっ、と首に刃が食い込み赤い線が首筋に沿って垂れる。
「すす、すみませんっ!!申し訳ありませんっ!!」
「いいや殺してやる!!!
今ここで死にたえろ!!!」
咄嗟に服を掴んだ。
こんなはしたない格好で動きたくもなかったが、
現実的に、かつ素直に言うと
家をこれ以上汚されたくなかった。
特にハイルの血で汚されたくはない。
泣き腫らして喉も潰れて、声が出ないまま首を横に振った。
それをみてその人は、剣を少し離す。
「もう一度この女に近づいてみよ
その首間違いなく切り取って市中に晒すぞ」
ハイルは慌てて逃げていった。
その場に残ったのは、しとしとと泣くカリアとマントの男。
とは言えその人物が誰なのか、検討はついていた。
マントを脱ぎ、カリアにかける。
ただ無言で膝をついて見つめる。
赤い目が今だけはとても優しく見えた。
「ひっく…う…うう…え」
「この場に男がいても気分が悪いだけであろう」
呻くような泣き声しか出せないが、控えめに腕を握る。
首を振って、行かないでほしいと懇願した。
「まずは着替えるがよい
我はここにいる」
「ほ…ほんと…れすか」
「嘘をついてどうする」
事実、カリアはアグロヴァルの顔を見ただけでとても安心していた。
だから出来れば、もう少しだけ居て欲しい。
わがままを言ってしまっている罪悪感と安心感が混ざり合って頭の中がフワフワとしてしまう。
とにかく、体を執拗なまで洗い、
着替えて戻ってくるとやはりまだそこに居てくれた。
「アグロヴァル様…どうして…きてくだ」
「貴様あの男と一体どういう関係なのだ」
「え?」
話を遮って、それよりもこっちが本命だと言わんばかりの様子。
先ほどのこともあってか苛立っていた。
「…両親が、縁談を持ってきて…その相手です
私は何度も断っていたんですが……
職場にも、今日、初めて、いえに…………」
「…酷なことを聞いたな
許せ」
「アグロヴァル様が、きてくれて、ほんとうに、ほんとうに、よかった…」
この際理由などどうでもいい。
唯一助けてくれたのだから、理由なんて意味は持たないだろう。
泣きそうになるのを必死に堪える。
「…やはり殺しておくか」
「や、えと、それは…」
「どうあっても許せぬ
貴様をそこまで穢した男が憎い」
真顔で、いつか見たような顔だ。
瞳に影を落としている。
(手が…)
力を込めすぎて割れた爪と、手のひらの血が見える。
それまでに怒ってくれている。
確かにあの出来事は怖いものだがアグロヴァルの怒りがカリアにとって嬉しかった。
「…何をニヤついている
貴様、たった今、操を奪われかけたのだ
分かっているのか」
「あ、えっと……うれしくって…アグロヴァル様が、たくさん心配してくださって…」
ふん、と顔を背ける。
「その様子なら、気分は落ち着いたようだな」
若干拗ねたように言うものの、やっぱりカリアの心配だけはしていた。
見た目で勘違いされる人だなぁと思いつつも
「はい…少しだけ」
「…では我は行く」
またあっさりと去ってしまう背中に非常に心細くなる。
今のカリアに頼れる人などいないのだから。
袖を掴む。
アグロヴァルは振り向くが、カリアの泣き出しそうな顔にぎょっとした。
「き、貴様、何を
まだ何かあるのか」
「わ、わがままばかりで、ごめんなさい…
ほんとうなら、自分で、どうこうしないと、いけないのに
迷惑をかけてるのは、わかっています
でも、今だけ、どうしようも、なくて」
謝りながらも震える手が止まらない。
そこで、アグロヴァルも自分がいなければダメなのだと理解した。
「…よい、申してみよ」
「……い…いって、ほしくない…です」
踵を返し、家の中に戻った。
激しく蹴破った時とは裏腹に、ドアを静かに閉める。
若干立て付けが悪くなっているのは致し方ない。
一方カリアはすんなりと留まってくれたことに驚きを隠せなかった。
さきほどから考えていたことなのだが、多忙のはずだ。
そもそもここにいること自体がありえないのだから。
優しい、という感想を抱いたところで
「あの、お茶、飲みませんか
お口に合うかは…自信がありませんが」
「頂こう」
中に入れて、ダージリンを淹れる。
友人など、白竜騎士団のみんな以外に居ない上に家に招くことなどない。
なのだが一応椅子を購入していたカリア。
過去の自分を褒めながら紅茶を差し出す。
「…長旅でした…よね」
「そなたの顔を一目見れば吹き飛んだ」
「えっ」
「…はずだったのだ
まったく、パーシヴァルの言う通り、危なかしい女だ」
ため息をつかれる。
たしかに、パーシヴァルからは「やらなくていい仕事をするな」とか「押し付けられる前にどうにかしろ」と、とやかく言われている。
その話がアグロヴァルにまで流布しているのは恥ずかしい。
「…あの、たびたびこうして来ていただけますが
心配してくださっているんですか?」
ギロッ
鋭い目をむけられたじろいだ。
アグロヴァルは慣れた手つきでカリアの頬をつまむ。
「この……愚鈍め……」
「うう……すみません…」
しかしいつもより今日はあまり痛くない。
素手で摘ままれているというのもあるが。
「あっ、でも、
言うのが遅れました
来てくださって、助けてくださって、本当にありがとうございます
アグロヴァル様」
カリアはにこっと笑う。
アグロヴァルは眉間のしわを深くする。
「……貴様の笑みでばかばかしくなってきた」
「え…ばか……ご、ごめんなさい
さきほどから意にそぐわないことばかり…」
「全くだ
貴様は我を幾度となくふがいない男にさせる」
「私がですか!?ど、どうして!?」
「そういう、ところだ」
両手で頬を引っ張る。
まるで八つ当たり。
だがカリアも、頬を引っ張っているあたり本気で怒っているわけではないのだろうと薄々気づいている。
とりあえず気が済むまでは好きなようにさせようと、抵抗せずに受け入れる。
「い、いたい…」
「ふん、当然の報いだな」
「はい…受け入れさせていただきます」
先ほどまで泣き叫んでいた女はアグロヴァルの前で微笑んでいる。
そのたびに胸の奥がうずいて、感情が入り混じる。
そしてたまらず呟いた。
「そなたは我を救った
この程度、気にする必要もない」
「へ…むっ」
ぎゅっ、と頬を包んで離した。
「我を頼れ
そなたにならば、何でもしてやろうと思えるのだ」
カリアの顔がじわじわと赤くなる。
あわてて、長い髪で顔を隠す。
いつもの騎士然とした態度から一変、少女じみた仕草にほおが緩む。
ようやくこやつの態度を突き崩せた、と。
「ご、ごめんなさ…
ちょ、ちょっと、…あはは」
冷静を保っているようにみえるが耳まで赤くなっていく様に笑みが止まらない。
「理解したなら、返事をせよ」
「へ?あ、は、はい
わ、わかりました……アグロヴァル様を…たより、ます…えへへ」
照れ笑いをするカリア。
上手くアグロヴァルを見ることができない。
どういう意味でそう言ったのかはさておき。
素直に嬉しくて、恥ずかしくもあって。
「そして、暇があればウェールズにも寄れ
いや、来い」
「はい…今の仕事が、ひと段落したら…」
「貴様にひと段落もあるか
いいから来い」
「ふふ、言えてますね
では、近いうちに必ず……会いに行きますから」
その晩はアグロヴァルばかりカリアを見つめながら話し込んだ。
護衛についていたあの時よりも本音に近い言葉で心より語り合う。
今までのどの時よりも互いが分かった。
アグロヴァルは見た目よりも優しいまなざしを向けるのだと。
カリアは強がりの少女なのだと。
◆
あのアグロヴァルと最近仲が良いのだという噂は騎士団の中で広まった。
定期的に帰ってくるヴェインもその噂を聞いてしまい、思わずカリアに尋ねた。
「アグロヴァル様?
いや、まぁ、いろいろあって仲良くさせてもらってるけど…」
「マジで!?
あの噂ほんとか!?」
「や、今に始まったことじゃないし…」
「そりゃ…アグロヴァル助けたりしたしなぁ…わかるんだけどよ…
言っちゃなんだけど、怖くないか?」
「それは見た目だけでほんとは優しいよ」
ほわん、とした笑顔を見せる。
いつものピリピリを醸し出すカリアではない。
ヴェインはカリアの額に手を当てる。
「熱は…ないな」
「なに
バカにしてる?」
顎を掴んで指先で頬を押す。
ヴェインはすみまひぇん、とすぐさま降伏する。
そういうところはいつものカリアなので、騎空団に帰った後にその話をなんとなく近くにいたパーシヴァルにした。
「まぁ、カリアも向こうで一人寂しいだろうし…
友達じゃねーけど心許せる相手がいるのはいいことだよな
………ど、どうしたパーさん!?」
「………いや……そういうことなのかと、
思ってな…………」
「な、なにが!?
大丈夫かパーさん!?」
「放っておけ…駄犬…
兄上のそういう話を聞くとは…夢にも思わなかったのだ…一人にしてくれ…」
「そういうってなんだよ!?」