朝日のない
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聖杯戦争のことを知れば知るほど、意味がわからない。
おそらく無精ひげの切敷に聞いたところで全貌はつかめないだろう。
海岸線の見えるベンチで切敷は昼食を買って食べていた。
そのおこぼれを頂く。
レタスとハムがたくさん詰まったサンドだ。
「いただきます」
「はいどうぞ」
大きいパンは食べるのにも一苦労だ。
ひたすら咀嚼していると、そういえば、と話しかけてきた。
「そういえば、君はグレゴリー氏から拉致されてきたんだよね」
「…たぶん」
「生まれは日本?」
「日本語喋ってるのわかんないの?」
「確認だよ確認。
何故拉致されたか、何か分かったりしないかな?」
「知らない。急に背後から袋被せられてそれきり。
同じ魔術師でしょ。お互いにコンタクト取ったりしなかったの。」
きょとんという顔をして、困ったように返答した。
「僕が君を攫う手助けをしたのかって聞きたいのかな?
残念だけど、僕はそんな悪趣味なことはしない。
グレゴリー氏の独断だろうね。
もっとも、魔術師でも派閥があるし、僕はあくまで雇われの魔術師をしていた身だ。
魔術師同士の詳しいいざこざはよく分からない。」
ならば現状このセイバーが一番グレゴリーを知っているという事になる。
何故私をターゲットにして魔力供給の人間タンクとしたのか。
たまたま、と言われてしまえばそれまでだ。
しかし、何か別の理由があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
「それにしても、よくあの英霊の名前を当てたね。」
「…見ればわかる外見だったから」
「じゃあ、今味方のサーヴァントで他に名前がわかるのは?」
「2人くらい
ライダーはわかる。アサシンは候補が3つくらい。
あとは外見みてもよくわかんないし、どこの地域の英霊かは分かるけど、名前は分かりそうにない。」
「へえ、教養があるんだね。
両親の教育のたまもの……」
妙な感情がこみ上げる。
なぜ、あいつらが褒められなくてはいけないのだ。
自分を放置して好き勝手している人間が、暴力しかできない出来損ないが。
切敷を睨む。
「な、何か気に触ることを言ったみたいだね
謝るよ」
「二度と知ったような口をするな。
そもそも関係ないだろ。」
昼食を食べ終え、とりあえず拠点に戻る。
その道の途中で、詩絵李にはバーサーカーは後で合流すると嘘をついた方がいいと提案された。
確かに、3騎で敵のセイバーを削りきれなかったのだから、2騎でどうにかなるものではない。
しかもかたや疲労、もう片方怪我が完治しておらずまともに動けない。
この戦力は絶望的だ。
「残念だけど、明日の晩はダメだろうな」
切敷はいつもの口調通りに言ってのけた。
◇
詩絵李は安堵していた。
ヴィクトルも、きっと大丈夫と言っていた。
『それじゃあ、5時になったらまた外で。
「夜通し戦う事になるから今のうち休んでおいた方がいい。」
切敷はそう言いながら別荘を出る。
『どちらへ?』
『この拠点に4騎も集まってたら僕がおちおち休めないんでね。
僕自身の拠点で休ませてもらうよ。』
「カズマも休んだ方がいい
歩き通しで疲れているはずだ」
「…そうする」
公共の交通機関はなるだけ使わない方がいいというのは、監視カメラを見るだけでどこから来ているのかが推測されやすいからだ。
これも切敷の受け売りだが。
静かに席を立って部屋に入ろうとすると、詩絵李がやってきた。
何やらもじもじしている。
『あの…まだ助かったわけじゃないけど
ありがと、怪我してるのに』
翻訳をしてくれたが、それに答えるべきではなかった。
どちらにせよ嘘をついて安心させているのだから。
ベッドにすぐ横になった。
眠気が襲う。
「カズマ、傷は痛むか」
「……少し」
投げ出している左手を、ゆっくり撫でた。
手が暖かい。
「私、報われないことが一番嫌い」
小さく呟いたが、その言葉の端から不安を読み取られた。
「あなたの思う以上の働きをしてみせる。
大丈夫だ。」
それから沈むように、眠りに落ちた。
◇
セイバーによって目覚めた。
肩をさするように、揺らす。
「ぅ……?」
「すまない、そろそろ時間だ。」
静かな声で起こされるのは、存外いい目覚めだと思う。
あくびをして、背伸びをした。
部屋を出ると、詩絵李がそわそわしながら部屋の前をうろついている。
こちらと目が合うと、近づいて、何かを言ってきた。
「これ以上怪我をせず、頑張って欲しい、と」
「…そうですか」
人間というものはこんなにも単純なのか。
以前はあんなにも怒り狂っていたのに。
詩絵李に見送られながら、切敷との待ち合わせ場所へ向かう。
夜道を1人で歩くのは久しぶりだ。
すると、電灯の下に見慣れた赤髪の少年。
詩絵李のアサシンだ。
「何か用?」
「…いいえ、お時間は取らせません。
我が主を守っていただきありがとうございます。」
不意に言葉が出ない。
おそらく嘘をついていることくらい見抜いているはずだ。
それでもなお感謝の言葉を伝える。
「……嫌味?」
「まさか、本心ですよ。」
「明日、死ぬかもしれないんだよ」
「それでも僕は詩絵李様のサーヴァントです。
何が何でも、死なせません。」
「…そう」
「本来ならばサーヴァントがマスターを守るもの。
それを代わりにセイバー、ランサー、アーチャー、キャスター、ライダーと錚々たる面々に守られてきました。
明日は必ず勝ってみせます。」
そして最後に深く礼をして消えた。
きっとほとんどのマスターは、死ぬのが怖いはずだ。
無論私も恐ろしいと思う。
しかし、それは痛みを伴うからこそ怖いのであって、この世に未練など一つもなかった。
では彼らは何を恐れているのだろう。
たぶん、怖い、というより、惜しいという感情が正しい気がする。
暖かい環境で育ち、感情の赴くままに発言し、様々な痛みを持つことなく生きていた。
両親ともっと一緒にいたい、友達と笑いたい、もっと楽しいことをしたい。
そういう思いが、結局は詩絵李とミカエルを喚かせていたのだろう。
では他のマスターたちはどうだろう。
もしかすれば、一番現実を見ているのはあの2人なのではなかろうか。
「ここだね」
ビルによじ登り、その屋上で切敷は何かをしていた。
「昨日この上空で戦闘をした。
その時、戦争の隠蔽をするために敵のマスターが結界…のようなものを張った。
その起点がここだ。」
「結界?」
「まぁ、街全体を覆ったってことだ。
サーヴァント同士の戦いは、下手すれば街ごと吹き飛ぶ可能性だってあるんだ。
けどそんなことがあっては魔術の秘匿という大前提が破られる。
だから、見上げても普通の夜空が見られる、そんな結界を作った。」
「へえ、でっかいプラネタリウムのドームみたいなもんか」
「一真ちゃんはロマンチックだね」
「バカにしてんの?」
「からかっただけだよ」
切敷はその結界からマスターの居所を探ると言う。
とはいえもちろん追跡できるわけではない。
魔力の残穢をたどってどの方向に向かったかを調べる程度だ。
「実は昨日のうちに調べていてね。
ここから北東部に向かっていった。
さ、後はそこに向かうだけだ。」
「…それって、敵の拠点に行くってこと?」
「そうでもしないと、セイバーは現れないからね」
「……それは嫌だ。
昨日はアーチャーが居たから遠距離での援護もできたかもしれないけど、今日はいない。
向こうのアーチャークラスが狙う可能性だってありえる。」
「とはいえアーチャーとセイバーが密に組んでいる可能性は」
「組んでるに決まってる。
セイバーが教会を襲った後、ボウガンを持ったサーヴァントが追いかけてきた。
確かにアーチャーではないかもしれないけど、セイバーが遠距離攻撃のできる他のクラスと行動している裏付けにはなる。
…あんた、怪しいよ。そんなの考えれば誰だってわかる。
無理に拠点に連れて、何がしたい。」
ランサーのマスターは微笑む。
それから、呟いた。
「やはり君は聡明だね」
切敷のまとう空気が少しだけ変わったような気がする。
「では、君ならどうする?
敵セイバーをどうおびき出せる?」
「囮になる。
でも死ぬつもりはないよ。」
焦って出てきたこちらのセイバーを制する。
「前に会った時、なんか意味のわからないことを言ってた。多分一方的に顔を知られてる。
だから、ここまで逃げてくる。そしたらランサーで対抗すればいい。」
「とはいえ、マスター、それはあまりに危険だ。複数のサーヴァントが出現した場合は」
「セイバーは何騎なら振り切れると思う?」
「……2騎だろうな。
3騎以上になると、負傷はやむ負えなくなる。」
「向こうの陣営は、少なくとも3騎が勝手な行動を取ってるとしたら、残り4騎は連携できている。
だったら、ギリいけるんじゃない?」
逃げに全力を出して、ランサーで不意の襲撃。
これなら何らかのダメージを与えられるはずだ。
「マスターがそう命ずるなら、俺は従う他あるまい。」
そういうことで意見は定まった。
だが、作戦開始直前になってランサーが何かに反応した。
「どうしたランサー」
「…嫌なにおいがする。」
「敵がいるということか?」
「違う、ここにはいないが、経験則みたいなもんだ」
すると、遠くの海岸に火の手が上がった。
「あの方角!」
「だと思ったぜ!本命はあっちだ!」
海岸にある家といえば、あの拠点しか思い浮かばない。
急いで駆けつけると、すでに戦闘は始まっていた。
「セイバー先に行って!」
「了解した」
「ランサーも行け!」
「おうさ!」
建物の屋上にマスターを置いて、戦闘に加わる。
切敷は双眼鏡を持って様子を確認した。
「あー、セイバー…あと、マスケット銃のサーヴァントがいる。
僕は適当な場所から狙撃する。
一真ちゃんはどうする?」
「…詩絵李と、ヴィクトルを探す」
「そうかい、じゃあ頑張って」
淡白な返答だ。
まるで、死ぬなら死んでいいと言わんばかりだ。
(やっぱこいつ嫌いだ)
そう思いながら、排水口のパイプを伝って降りた。
おそらく無精ひげの切敷に聞いたところで全貌はつかめないだろう。
海岸線の見えるベンチで切敷は昼食を買って食べていた。
そのおこぼれを頂く。
レタスとハムがたくさん詰まったサンドだ。
「いただきます」
「はいどうぞ」
大きいパンは食べるのにも一苦労だ。
ひたすら咀嚼していると、そういえば、と話しかけてきた。
「そういえば、君はグレゴリー氏から拉致されてきたんだよね」
「…たぶん」
「生まれは日本?」
「日本語喋ってるのわかんないの?」
「確認だよ確認。
何故拉致されたか、何か分かったりしないかな?」
「知らない。急に背後から袋被せられてそれきり。
同じ魔術師でしょ。お互いにコンタクト取ったりしなかったの。」
きょとんという顔をして、困ったように返答した。
「僕が君を攫う手助けをしたのかって聞きたいのかな?
残念だけど、僕はそんな悪趣味なことはしない。
グレゴリー氏の独断だろうね。
もっとも、魔術師でも派閥があるし、僕はあくまで雇われの魔術師をしていた身だ。
魔術師同士の詳しいいざこざはよく分からない。」
ならば現状このセイバーが一番グレゴリーを知っているという事になる。
何故私をターゲットにして魔力供給の人間タンクとしたのか。
たまたま、と言われてしまえばそれまでだ。
しかし、何か別の理由があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
「それにしても、よくあの英霊の名前を当てたね。」
「…見ればわかる外見だったから」
「じゃあ、今味方のサーヴァントで他に名前がわかるのは?」
「2人くらい
ライダーはわかる。アサシンは候補が3つくらい。
あとは外見みてもよくわかんないし、どこの地域の英霊かは分かるけど、名前は分かりそうにない。」
「へえ、教養があるんだね。
両親の教育のたまもの……」
妙な感情がこみ上げる。
なぜ、あいつらが褒められなくてはいけないのだ。
自分を放置して好き勝手している人間が、暴力しかできない出来損ないが。
切敷を睨む。
「な、何か気に触ることを言ったみたいだね
謝るよ」
「二度と知ったような口をするな。
そもそも関係ないだろ。」
昼食を食べ終え、とりあえず拠点に戻る。
その道の途中で、詩絵李にはバーサーカーは後で合流すると嘘をついた方がいいと提案された。
確かに、3騎で敵のセイバーを削りきれなかったのだから、2騎でどうにかなるものではない。
しかもかたや疲労、もう片方怪我が完治しておらずまともに動けない。
この戦力は絶望的だ。
「残念だけど、明日の晩はダメだろうな」
切敷はいつもの口調通りに言ってのけた。
◇
詩絵李は安堵していた。
ヴィクトルも、きっと大丈夫と言っていた。
『それじゃあ、5時になったらまた外で。
「夜通し戦う事になるから今のうち休んでおいた方がいい。」
切敷はそう言いながら別荘を出る。
『どちらへ?』
『この拠点に4騎も集まってたら僕がおちおち休めないんでね。
僕自身の拠点で休ませてもらうよ。』
「カズマも休んだ方がいい
歩き通しで疲れているはずだ」
「…そうする」
公共の交通機関はなるだけ使わない方がいいというのは、監視カメラを見るだけでどこから来ているのかが推測されやすいからだ。
これも切敷の受け売りだが。
静かに席を立って部屋に入ろうとすると、詩絵李がやってきた。
何やらもじもじしている。
『あの…まだ助かったわけじゃないけど
ありがと、怪我してるのに』
翻訳をしてくれたが、それに答えるべきではなかった。
どちらにせよ嘘をついて安心させているのだから。
ベッドにすぐ横になった。
眠気が襲う。
「カズマ、傷は痛むか」
「……少し」
投げ出している左手を、ゆっくり撫でた。
手が暖かい。
「私、報われないことが一番嫌い」
小さく呟いたが、その言葉の端から不安を読み取られた。
「あなたの思う以上の働きをしてみせる。
大丈夫だ。」
それから沈むように、眠りに落ちた。
◇
セイバーによって目覚めた。
肩をさするように、揺らす。
「ぅ……?」
「すまない、そろそろ時間だ。」
静かな声で起こされるのは、存外いい目覚めだと思う。
あくびをして、背伸びをした。
部屋を出ると、詩絵李がそわそわしながら部屋の前をうろついている。
こちらと目が合うと、近づいて、何かを言ってきた。
「これ以上怪我をせず、頑張って欲しい、と」
「…そうですか」
人間というものはこんなにも単純なのか。
以前はあんなにも怒り狂っていたのに。
詩絵李に見送られながら、切敷との待ち合わせ場所へ向かう。
夜道を1人で歩くのは久しぶりだ。
すると、電灯の下に見慣れた赤髪の少年。
詩絵李のアサシンだ。
「何か用?」
「…いいえ、お時間は取らせません。
我が主を守っていただきありがとうございます。」
不意に言葉が出ない。
おそらく嘘をついていることくらい見抜いているはずだ。
それでもなお感謝の言葉を伝える。
「……嫌味?」
「まさか、本心ですよ。」
「明日、死ぬかもしれないんだよ」
「それでも僕は詩絵李様のサーヴァントです。
何が何でも、死なせません。」
「…そう」
「本来ならばサーヴァントがマスターを守るもの。
それを代わりにセイバー、ランサー、アーチャー、キャスター、ライダーと錚々たる面々に守られてきました。
明日は必ず勝ってみせます。」
そして最後に深く礼をして消えた。
きっとほとんどのマスターは、死ぬのが怖いはずだ。
無論私も恐ろしいと思う。
しかし、それは痛みを伴うからこそ怖いのであって、この世に未練など一つもなかった。
では彼らは何を恐れているのだろう。
たぶん、怖い、というより、惜しいという感情が正しい気がする。
暖かい環境で育ち、感情の赴くままに発言し、様々な痛みを持つことなく生きていた。
両親ともっと一緒にいたい、友達と笑いたい、もっと楽しいことをしたい。
そういう思いが、結局は詩絵李とミカエルを喚かせていたのだろう。
では他のマスターたちはどうだろう。
もしかすれば、一番現実を見ているのはあの2人なのではなかろうか。
「ここだね」
ビルによじ登り、その屋上で切敷は何かをしていた。
「昨日この上空で戦闘をした。
その時、戦争の隠蔽をするために敵のマスターが結界…のようなものを張った。
その起点がここだ。」
「結界?」
「まぁ、街全体を覆ったってことだ。
サーヴァント同士の戦いは、下手すれば街ごと吹き飛ぶ可能性だってあるんだ。
けどそんなことがあっては魔術の秘匿という大前提が破られる。
だから、見上げても普通の夜空が見られる、そんな結界を作った。」
「へえ、でっかいプラネタリウムのドームみたいなもんか」
「一真ちゃんはロマンチックだね」
「バカにしてんの?」
「からかっただけだよ」
切敷はその結界からマスターの居所を探ると言う。
とはいえもちろん追跡できるわけではない。
魔力の残穢をたどってどの方向に向かったかを調べる程度だ。
「実は昨日のうちに調べていてね。
ここから北東部に向かっていった。
さ、後はそこに向かうだけだ。」
「…それって、敵の拠点に行くってこと?」
「そうでもしないと、セイバーは現れないからね」
「……それは嫌だ。
昨日はアーチャーが居たから遠距離での援護もできたかもしれないけど、今日はいない。
向こうのアーチャークラスが狙う可能性だってありえる。」
「とはいえアーチャーとセイバーが密に組んでいる可能性は」
「組んでるに決まってる。
セイバーが教会を襲った後、ボウガンを持ったサーヴァントが追いかけてきた。
確かにアーチャーではないかもしれないけど、セイバーが遠距離攻撃のできる他のクラスと行動している裏付けにはなる。
…あんた、怪しいよ。そんなの考えれば誰だってわかる。
無理に拠点に連れて、何がしたい。」
ランサーのマスターは微笑む。
それから、呟いた。
「やはり君は聡明だね」
切敷のまとう空気が少しだけ変わったような気がする。
「では、君ならどうする?
敵セイバーをどうおびき出せる?」
「囮になる。
でも死ぬつもりはないよ。」
焦って出てきたこちらのセイバーを制する。
「前に会った時、なんか意味のわからないことを言ってた。多分一方的に顔を知られてる。
だから、ここまで逃げてくる。そしたらランサーで対抗すればいい。」
「とはいえ、マスター、それはあまりに危険だ。複数のサーヴァントが出現した場合は」
「セイバーは何騎なら振り切れると思う?」
「……2騎だろうな。
3騎以上になると、負傷はやむ負えなくなる。」
「向こうの陣営は、少なくとも3騎が勝手な行動を取ってるとしたら、残り4騎は連携できている。
だったら、ギリいけるんじゃない?」
逃げに全力を出して、ランサーで不意の襲撃。
これなら何らかのダメージを与えられるはずだ。
「マスターがそう命ずるなら、俺は従う他あるまい。」
そういうことで意見は定まった。
だが、作戦開始直前になってランサーが何かに反応した。
「どうしたランサー」
「…嫌なにおいがする。」
「敵がいるということか?」
「違う、ここにはいないが、経験則みたいなもんだ」
すると、遠くの海岸に火の手が上がった。
「あの方角!」
「だと思ったぜ!本命はあっちだ!」
海岸にある家といえば、あの拠点しか思い浮かばない。
急いで駆けつけると、すでに戦闘は始まっていた。
「セイバー先に行って!」
「了解した」
「ランサーも行け!」
「おうさ!」
建物の屋上にマスターを置いて、戦闘に加わる。
切敷は双眼鏡を持って様子を確認した。
「あー、セイバー…あと、マスケット銃のサーヴァントがいる。
僕は適当な場所から狙撃する。
一真ちゃんはどうする?」
「…詩絵李と、ヴィクトルを探す」
「そうかい、じゃあ頑張って」
淡白な返答だ。
まるで、死ぬなら死んでいいと言わんばかりだ。
(やっぱこいつ嫌いだ)
そう思いながら、排水口のパイプを伝って降りた。