朝日のない
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即刻、この拠点から離れなければならないと言ったのはアサシンだった。
『少なからず、拠点、この立地を知られているならばもう一度襲わないわけがない。
キャスターの結界があるとはいえ、何らかの方法で襲撃をするはずです。』
『そうですか……』
『心苦しいでしょうが、別の場所へ逃げましょう。
他に当ては…?』
当て、と言われてもここにいるのは神父、女子高生、拉致被害者。
もっと言えば一般人ともとれる。
そんなマスターにほかの拠点があるわけがない。
しかし、代わりに口を開いたのは詩絵李だった。
『…うちに別荘があるわ。
海岸際だけど、寝泊まりする場所がないよりはマシでしょ。』
訂正しよう、金持ち女子高生だ。
とにかく地図で別荘の場所を確認する。
まず、その別荘の鍵を取りに詩絵李は自宅に戻る。
それに全員が付いていけば流石に目立つので、私のみが護衛として付いていく。
ヴィクトルは別荘近くの教会で待機し、後で落ち合うといった寸法だ。
『では、その別荘に行く時間は?』
ヴィクトルの質問にはセイバーが答えた。
『ランサー、キャスター、アーチャーが敵セイバーに戦いを仕掛ける
とはいえあくまでセイバーを消耗させるための戦いだ。
その情報、作戦は敵にも知れ渡っていると考えてよいだろう。
ならば単独で3騎が集まっているここに襲撃するとは考えにくい。
俺が推奨するのは、会敵した瞬間だ。』
『早くに出ても狙われる可能性がありますし、それがよろしいでしょう。』
こうして3陣営はタイミングを狙って即座に二手に分かれた。
案の定、あの教会は炎の中に取り残されている。
「まだだ。敵サーヴァントがこちらを索敵しているかもしれない。」
少し気を緩ませていた。
屋根伝いに跳び、しばらくすると先行していたアサシン陣営が通りに降りる。
追いかけると、詩絵李は髪を手串で梳かしていた。
「敵は追ってこないようだな
ライダー陣営とも会敵した様子は見受けられない」
「ええ、こちらにはまだ興味がない、と言ったところでしょうが、幸いです。
もうすぐ主の自宅にたどり着きます。
ここからは霊体化しましょう。」
「了解した」
気を取り直して、詩絵李の背中を追いかける。
ここらへんは景観がいいようだ。
仄暗くつけられている街頭は、いささか頼りないが。
『あまり近くに寄らないで』
ギッ、と睨んできたが、やはり何もわからない。
「なんて?」
〔…あまり近くに寄ってほしくないようだ〕
〔申し訳ありません…〕
肩をすくませて、距離をあける。
気難しい年ごろというやつだろう。
関わる事すら面倒だが。
〔そこの突き当りを右に曲がったところが自宅です。
カズマ様はここでお待ちいただけますか。〕
「ん。」
しかし夕方すぎた夜に帰ってよく殴られないものだ。
私だったら殴る蹴るを受けて翌日まで部屋に閉じ込められている。
詩絵李が角を曲がったところで、壁に寄り掛かって待った。
『きゃあっ!』
小さい悲鳴が聞こえた。
すぐに駆け出して角に飛び出す。
瞬間、ギラリとした銀色の刃が見えたが、それを大きな背が隠した。
金属のぶつかり合いが響く。
「っ!?」
「下がれ!サーヴァントだ!」
セイバーに言われるがまま離れると、暗闇に、体に余るほどのコートを身にまとった人物。
あれがサーヴァントとセイバーは言うが、あまりの背丈の小ささに驚く。
黒いセイバーとは比べ物にならない。
「悪いけど、マスターの趣味趣向であのハーフの子、頂いていくよ」
「させると思うか」
「だから、奪うんだよ」
素早い動きでセイバーに何度も刃を叩きつける。
セイバーもそのサーヴァントを上空にあげて、アサシン陣営の様子をうかがう。
「カズマ、この相手は俺がする。
アサシンのマスターは敵マスターに人質にされている。
カズマには気づいていないようだ。
どうにか隙を突いて」
「あぁ~ら、どこかへ行ってしまわれるのですか?」
ごりっ、と堅いものが頭に押し付けられた。
振り返る前にセイバーが私を押しのけた。
地面に倒れこんだ直後発砲音が聞こえる。
「セイバー!!?」
あれほどの至近距離で無事でいるはずがない。
泣き出しそうな声で呼ぶが、その体躯はすぐに動き出した。
もう一人のサーヴァントらしき女は銃で大剣をあしらう。
「やはり、ダメですわね!」
「ほ~ら騎士さま!2対1だよ!!」
背後から先ほどのサーヴァントが現れた。
直感的にここにいてはセイバーの邪魔になると思った。
それぞれの攻撃が目の端にすら写らない。
ならばここにいれば巻き添え食らうに決まっている。
走り出して一つ手前の角を曲がった。
静まりかえる民家から大きなスコップを借り、塀を上って詩絵李のもとへ。
『いやぁ、いい子がいるなぁって思って
この栗毛色、いいと思うんだよなぁ』
『ひっ…!!』
ウェーブかかった髪の匂いを大きく吸い込む。
(変態だ…)
『主から離れろ下衆めが』
『逆に手元狂ってこの子の首切れちゃうよ?いいの?』
街頭に照らされている首元に、包丁より長く、幅も大きいナイフが押し付けられていた。
家の近くだからと安心していたためアサシンも待ち伏せされているとは思えなかったのだろう。
(かといって私が下手に襲えば本当にナイフが首にささるし…)
家の隙間から様子をうかがう。
しかしこのまま膠着状態が続けば、セイバーがやられてしまうかもしれない。
そこのことには、背中がひやりとした。
腹に銃弾を受けているのだから、なおのこと。
敵マスターは逃げる準備のため、少しずつ後退していく。
『おっと、動くなよ
俺は死体でも断然イケちゃうタイプだから』
『うっ、ううっ、た、たすけてっ、こたろうっ』
アサシンもゆっくり前に進む。
だがその距離は開いていく一方だった。
『主……!』
ふと、こちらに気づいた。
いや元々気づいていた。
目に映らない速さでこちらに手のひらに収まるほどの黒いボールを投げてきた。
とにかく、用途はよく分からないがこれでなんとかかく乱しろということだろう。
塀をおりて、先回りをする。
角に待ち伏せしていたのだからこちらも待ち伏せをする。
ボール状なのだから『投げる』のだろう。
男の背中が見えた。
この瞬間、思い切り投げつける。
背中に当たり、黒い幕が破れて中身があふれ出すのが見えた。
白い煙が周囲に広がる。
『ぐわっ!!? グヘァ!!』
黒い影が遠くへ吹き飛んだ。
『あ、ああ!アサシン!』
『こちらへ!「カズマさん!」
声の聞こえた方向へ向かうと、腕が伸びて手をつかんだ。
引かれるままについていくと、家の中に入れられる。
『アサシン!?』
『すぐ戻ります!』
そうだ、セイバーが外でサーヴァントと戦っている。
2体いたのだから当然、もう一人マスターがいると思っていいはずだ。
「待って!もう一人マスターが!」
追いかけようとすると、またまた腕を握られた。
掴んだ主は詩絵李だ。
『お願い…いかないで…ここにいて…』
相変わらずなんて言っているかわからない。
しかし、言いたいことは状況を考えればすぐわかる。
なにより、震えていたのだから。
「……わかったよ」
◇
腰をがっしり掴んで、腹を凝視した。
「マスター…その、心配してくれているのはありがたいが…」
解せぬ。何よりあのショットガンらしき銃弾を至近距離で受けたのに対し無傷。
全くの無傷である。
いや、守る存在がいなくなってしまうので無傷であることは大変喜ばしいことなのだが。
一方、アサシン陣営はというと、先ほどの変態が相当ショックだったようだ。
詩絵李はアサシンにべったりだった。
『うっ、えぐっ』
こんな2陣営を見たライダーは少々言葉を濁らせながら、
『ええと…一体何が…』
歯切れの悪い質問をした。
『二手に別れた後、アサシンのマスターの自宅付近で別のマスターに襲われた。』
『それもサーヴァント2体。
何より、主が人質に取られるまで、全く気配を感じられませんでした。』
それぞれのサーヴァントが報告をした後、ヴィクトルが話を要約した。
『つまり…2組の陣営に襲われたと
にしてもアサシンが気配を読み取れないのは何か理由があるのでしょうか?』
『クラスは分かりましたか?
もしアサシンであれば、気配遮断のスキルなど理由は考えられますが』
相変わらず会話が分からず、置いてけぼりである。
とにかく教会で落ち合ったはいいものの、これから別荘に向かわなければならない。
「とにかくさ、別荘行かないと
話はそこですればいいでしょ」
私の意見にサーヴァントたちは頷いた。
それをそれぞれマスターに伝達する。
先発はライダー。
ライダーというクラス名の通り、傍に毛艶のよい馬が召喚される。
「わ、すご」
『それでは先方を確認しつつ、アサシン陣営は私についてきてください。
後ろはセイバーに任せて良いですね?』
『ああ、了解した』
再び3陣営は動き出す。
敵も3陣営動いているかもしれないと分かれば、こちらも慎重にならざるを得なかった。
「…あの2人のサーヴァント、生前から関わりがあったのだろうか」
「は?何が?」
「あの2騎と戦い、あまりにも連携が優れていたと思った。
ただそれだけだ。」
「ふうん」
結局、警戒していた割に尾行も全くなく、安全にたどり着いた。
詩絵李がずびずびと鼻を鳴らしながらドアを開ける。
全員が中に入ったのを確認して、セイバーは見張りをすると言う。
さっさと姿を消して、やや埃っぽい別荘の中で話し合いは始められた。
敵に勘付かれてはまずいと、ランプにタオルをかけた薄暗い中で話し始める。
『……もう、帰りたい…』
弱々しい声で詩絵李は言う。
『お父さんお母さんも、家の中で、倒れてた…
周りを巻き込むなんて、ありえない……っ』
『念のため、他の家にも確認をしたのですが、あの街の住民が全て催眠をかけられていました。
主を襲ったマスターの仕業かと。』
『お父さんお母さんがこれ以上危ない目に合うなら、帰るっ』
改めて、ライダーになんだって?と聞く。
詩絵李は先ほどの変態のこともそうだが、周囲を巻き込むことが嫌なのだと言う。
「でも、あれだけ集団で眠りこけてたなら明日には大ごとになるでしょ
当然警戒もされるだろうし。
多分次はこんな手間なことしないと思う。」
「しかし、今回はシェリーさんの周囲を狙った行動なのでは?
それほどまでの魔術を行使できる魔術師なら次は…」
「あ、いや、あれは、聖杯戦争を秘匿にするためと、詩絵李を誰にもバレずに攫うため、両方だったと思う
だって…その……あのおっさん、詩絵李の…髪匂ってたし……」
ライダーも若干気まずい顔をした。
一応本人の前だからとコメントしなかったものの、内心、無いわ、とか思っているはずだ。
「とにかく、カズマさんの見立てでは、もうあの街に手出ししないと?」
「うん。それでなくてもアサシン陣営はずっと単独で引きこもってたから、それを狙ってたんだろうと思う。
今日はたまたま、私らがいてラッキーだったって感じ。
でも、まぁ、これでヴィクトルさんの家燃やした奴とあのおっさんが全く連携取れてないのも分かった。
向こうも混乱してるんじゃない?」
ソファーに持たれると、アサシンとライダーがじっとこちらを見ていたことに気づいた。
「あの…なに」
「いえ…素人にしては目の付け所がいいなと…」
「ええ、私も驚いていたところです」
そりゃどうも、と愛想なく返事をしたところでそれぞれマスターに説明をする。
詩絵李はまだ不安がっていたものの、納得できた理由もあり、今すぐ帰りたいと言うことはなくなった。
ヴィクトルは相変わらず、現状を聞いてそうですか、と報告を聞くばかり。
「今日は疲れたから、早く休んだら」
ヴィクトルは目の前で家が焼かれた上に詩絵李は変態に付け狙われた。
このマスターたちは疲労困憊しているはずだ。
『ええ、マスター、今日は休みましょう。色々なことがあって、気疲れを起こしているはずです。
無理はなさらず。』
まずヴィクトルがライダーに手を引かれて、詩絵李が指示した部屋へ向かった。
『主、僕は部屋の外で見張っていますから』
『やだっ、そばにいてっ』
ぎゅっと手を握る。
アサシンは美人に手を握られて少し頬を赤くしていた。
「あら~」
『っ、し、しかし、女性の部屋に男が入るのは、どうかと…』
『お願い…怖くて、眠れないの
今日は、いつもより…』
栗毛色の髪は確かに柔らかそうだ。
項垂れるたびに、髪は顔を隠して行く。
『…僕で良いのでしたら…主が安心して眠れるよう、ずっとお側におります』
そっと肩を撫でた。
今にも泣き出しそうなマスターに、アサシンは微笑む。
「ふぅ~ん」
「か、からかわないで頂きたいっ」
「別に何も言ってないけど
私ここで寝るから、どうぞごゆっくり」
赤い髪より顔が赤くなっていた。
それを見た詩絵李は少しだけ笑う。
あれほど癇癪を起こしていた人物とは思えないほど朗らかな笑みだ。
こうしてアサシン陣営も別室に入っていった。
クッションを取って頭の下に敷く。
改めて横になると、どっと疲れが押し寄せた。
はぁ、とため息をつく。
心なしか頭も痛くなってきた。
「カズマ」
「ん…?」
見張りをしているはずのセイバーが現れた。
そういえば見張りの交代を全く考えていなかった。
「ごめん、見張りのこと頭になかった」
体を起こすと、そっと肩を押してもう一度寝かされた。
「それは構わない。
サーヴァントはあまり疲労に囚われないからな。
それより、そのままでは体が冷える。
野暮なものですまないが、これを」
いつも剣の鞘に鎖と一緒に巻かれている外套だ。
セイバーが持つと小さく見えたが、意外と体をすっぽり覆い隠した。
「ゆっくり休んでくれ」
そう言って、また消えてしまった。
『少なからず、拠点、この立地を知られているならばもう一度襲わないわけがない。
キャスターの結界があるとはいえ、何らかの方法で襲撃をするはずです。』
『そうですか……』
『心苦しいでしょうが、別の場所へ逃げましょう。
他に当ては…?』
当て、と言われてもここにいるのは神父、女子高生、拉致被害者。
もっと言えば一般人ともとれる。
そんなマスターにほかの拠点があるわけがない。
しかし、代わりに口を開いたのは詩絵李だった。
『…うちに別荘があるわ。
海岸際だけど、寝泊まりする場所がないよりはマシでしょ。』
訂正しよう、金持ち女子高生だ。
とにかく地図で別荘の場所を確認する。
まず、その別荘の鍵を取りに詩絵李は自宅に戻る。
それに全員が付いていけば流石に目立つので、私のみが護衛として付いていく。
ヴィクトルは別荘近くの教会で待機し、後で落ち合うといった寸法だ。
『では、その別荘に行く時間は?』
ヴィクトルの質問にはセイバーが答えた。
『ランサー、キャスター、アーチャーが敵セイバーに戦いを仕掛ける
とはいえあくまでセイバーを消耗させるための戦いだ。
その情報、作戦は敵にも知れ渡っていると考えてよいだろう。
ならば単独で3騎が集まっているここに襲撃するとは考えにくい。
俺が推奨するのは、会敵した瞬間だ。』
『早くに出ても狙われる可能性がありますし、それがよろしいでしょう。』
こうして3陣営はタイミングを狙って即座に二手に分かれた。
案の定、あの教会は炎の中に取り残されている。
「まだだ。敵サーヴァントがこちらを索敵しているかもしれない。」
少し気を緩ませていた。
屋根伝いに跳び、しばらくすると先行していたアサシン陣営が通りに降りる。
追いかけると、詩絵李は髪を手串で梳かしていた。
「敵は追ってこないようだな
ライダー陣営とも会敵した様子は見受けられない」
「ええ、こちらにはまだ興味がない、と言ったところでしょうが、幸いです。
もうすぐ主の自宅にたどり着きます。
ここからは霊体化しましょう。」
「了解した」
気を取り直して、詩絵李の背中を追いかける。
ここらへんは景観がいいようだ。
仄暗くつけられている街頭は、いささか頼りないが。
『あまり近くに寄らないで』
ギッ、と睨んできたが、やはり何もわからない。
「なんて?」
〔…あまり近くに寄ってほしくないようだ〕
〔申し訳ありません…〕
肩をすくませて、距離をあける。
気難しい年ごろというやつだろう。
関わる事すら面倒だが。
〔そこの突き当りを右に曲がったところが自宅です。
カズマ様はここでお待ちいただけますか。〕
「ん。」
しかし夕方すぎた夜に帰ってよく殴られないものだ。
私だったら殴る蹴るを受けて翌日まで部屋に閉じ込められている。
詩絵李が角を曲がったところで、壁に寄り掛かって待った。
『きゃあっ!』
小さい悲鳴が聞こえた。
すぐに駆け出して角に飛び出す。
瞬間、ギラリとした銀色の刃が見えたが、それを大きな背が隠した。
金属のぶつかり合いが響く。
「っ!?」
「下がれ!サーヴァントだ!」
セイバーに言われるがまま離れると、暗闇に、体に余るほどのコートを身にまとった人物。
あれがサーヴァントとセイバーは言うが、あまりの背丈の小ささに驚く。
黒いセイバーとは比べ物にならない。
「悪いけど、マスターの趣味趣向であのハーフの子、頂いていくよ」
「させると思うか」
「だから、奪うんだよ」
素早い動きでセイバーに何度も刃を叩きつける。
セイバーもそのサーヴァントを上空にあげて、アサシン陣営の様子をうかがう。
「カズマ、この相手は俺がする。
アサシンのマスターは敵マスターに人質にされている。
カズマには気づいていないようだ。
どうにか隙を突いて」
「あぁ~ら、どこかへ行ってしまわれるのですか?」
ごりっ、と堅いものが頭に押し付けられた。
振り返る前にセイバーが私を押しのけた。
地面に倒れこんだ直後発砲音が聞こえる。
「セイバー!!?」
あれほどの至近距離で無事でいるはずがない。
泣き出しそうな声で呼ぶが、その体躯はすぐに動き出した。
もう一人のサーヴァントらしき女は銃で大剣をあしらう。
「やはり、ダメですわね!」
「ほ~ら騎士さま!2対1だよ!!」
背後から先ほどのサーヴァントが現れた。
直感的にここにいてはセイバーの邪魔になると思った。
それぞれの攻撃が目の端にすら写らない。
ならばここにいれば巻き添え食らうに決まっている。
走り出して一つ手前の角を曲がった。
静まりかえる民家から大きなスコップを借り、塀を上って詩絵李のもとへ。
『いやぁ、いい子がいるなぁって思って
この栗毛色、いいと思うんだよなぁ』
『ひっ…!!』
ウェーブかかった髪の匂いを大きく吸い込む。
(変態だ…)
『主から離れろ下衆めが』
『逆に手元狂ってこの子の首切れちゃうよ?いいの?』
街頭に照らされている首元に、包丁より長く、幅も大きいナイフが押し付けられていた。
家の近くだからと安心していたためアサシンも待ち伏せされているとは思えなかったのだろう。
(かといって私が下手に襲えば本当にナイフが首にささるし…)
家の隙間から様子をうかがう。
しかしこのまま膠着状態が続けば、セイバーがやられてしまうかもしれない。
そこのことには、背中がひやりとした。
腹に銃弾を受けているのだから、なおのこと。
敵マスターは逃げる準備のため、少しずつ後退していく。
『おっと、動くなよ
俺は死体でも断然イケちゃうタイプだから』
『うっ、ううっ、た、たすけてっ、こたろうっ』
アサシンもゆっくり前に進む。
だがその距離は開いていく一方だった。
『主……!』
ふと、こちらに気づいた。
いや元々気づいていた。
目に映らない速さでこちらに手のひらに収まるほどの黒いボールを投げてきた。
とにかく、用途はよく分からないがこれでなんとかかく乱しろということだろう。
塀をおりて、先回りをする。
角に待ち伏せしていたのだからこちらも待ち伏せをする。
ボール状なのだから『投げる』のだろう。
男の背中が見えた。
この瞬間、思い切り投げつける。
背中に当たり、黒い幕が破れて中身があふれ出すのが見えた。
白い煙が周囲に広がる。
『ぐわっ!!? グヘァ!!』
黒い影が遠くへ吹き飛んだ。
『あ、ああ!アサシン!』
『こちらへ!「カズマさん!」
声の聞こえた方向へ向かうと、腕が伸びて手をつかんだ。
引かれるままについていくと、家の中に入れられる。
『アサシン!?』
『すぐ戻ります!』
そうだ、セイバーが外でサーヴァントと戦っている。
2体いたのだから当然、もう一人マスターがいると思っていいはずだ。
「待って!もう一人マスターが!」
追いかけようとすると、またまた腕を握られた。
掴んだ主は詩絵李だ。
『お願い…いかないで…ここにいて…』
相変わらずなんて言っているかわからない。
しかし、言いたいことは状況を考えればすぐわかる。
なにより、震えていたのだから。
「……わかったよ」
◇
腰をがっしり掴んで、腹を凝視した。
「マスター…その、心配してくれているのはありがたいが…」
解せぬ。何よりあのショットガンらしき銃弾を至近距離で受けたのに対し無傷。
全くの無傷である。
いや、守る存在がいなくなってしまうので無傷であることは大変喜ばしいことなのだが。
一方、アサシン陣営はというと、先ほどの変態が相当ショックだったようだ。
詩絵李はアサシンにべったりだった。
『うっ、えぐっ』
こんな2陣営を見たライダーは少々言葉を濁らせながら、
『ええと…一体何が…』
歯切れの悪い質問をした。
『二手に別れた後、アサシンのマスターの自宅付近で別のマスターに襲われた。』
『それもサーヴァント2体。
何より、主が人質に取られるまで、全く気配を感じられませんでした。』
それぞれのサーヴァントが報告をした後、ヴィクトルが話を要約した。
『つまり…2組の陣営に襲われたと
にしてもアサシンが気配を読み取れないのは何か理由があるのでしょうか?』
『クラスは分かりましたか?
もしアサシンであれば、気配遮断のスキルなど理由は考えられますが』
相変わらず会話が分からず、置いてけぼりである。
とにかく教会で落ち合ったはいいものの、これから別荘に向かわなければならない。
「とにかくさ、別荘行かないと
話はそこですればいいでしょ」
私の意見にサーヴァントたちは頷いた。
それをそれぞれマスターに伝達する。
先発はライダー。
ライダーというクラス名の通り、傍に毛艶のよい馬が召喚される。
「わ、すご」
『それでは先方を確認しつつ、アサシン陣営は私についてきてください。
後ろはセイバーに任せて良いですね?』
『ああ、了解した』
再び3陣営は動き出す。
敵も3陣営動いているかもしれないと分かれば、こちらも慎重にならざるを得なかった。
「…あの2人のサーヴァント、生前から関わりがあったのだろうか」
「は?何が?」
「あの2騎と戦い、あまりにも連携が優れていたと思った。
ただそれだけだ。」
「ふうん」
結局、警戒していた割に尾行も全くなく、安全にたどり着いた。
詩絵李がずびずびと鼻を鳴らしながらドアを開ける。
全員が中に入ったのを確認して、セイバーは見張りをすると言う。
さっさと姿を消して、やや埃っぽい別荘の中で話し合いは始められた。
敵に勘付かれてはまずいと、ランプにタオルをかけた薄暗い中で話し始める。
『……もう、帰りたい…』
弱々しい声で詩絵李は言う。
『お父さんお母さんも、家の中で、倒れてた…
周りを巻き込むなんて、ありえない……っ』
『念のため、他の家にも確認をしたのですが、あの街の住民が全て催眠をかけられていました。
主を襲ったマスターの仕業かと。』
『お父さんお母さんがこれ以上危ない目に合うなら、帰るっ』
改めて、ライダーになんだって?と聞く。
詩絵李は先ほどの変態のこともそうだが、周囲を巻き込むことが嫌なのだと言う。
「でも、あれだけ集団で眠りこけてたなら明日には大ごとになるでしょ
当然警戒もされるだろうし。
多分次はこんな手間なことしないと思う。」
「しかし、今回はシェリーさんの周囲を狙った行動なのでは?
それほどまでの魔術を行使できる魔術師なら次は…」
「あ、いや、あれは、聖杯戦争を秘匿にするためと、詩絵李を誰にもバレずに攫うため、両方だったと思う
だって…その……あのおっさん、詩絵李の…髪匂ってたし……」
ライダーも若干気まずい顔をした。
一応本人の前だからとコメントしなかったものの、内心、無いわ、とか思っているはずだ。
「とにかく、カズマさんの見立てでは、もうあの街に手出ししないと?」
「うん。それでなくてもアサシン陣営はずっと単独で引きこもってたから、それを狙ってたんだろうと思う。
今日はたまたま、私らがいてラッキーだったって感じ。
でも、まぁ、これでヴィクトルさんの家燃やした奴とあのおっさんが全く連携取れてないのも分かった。
向こうも混乱してるんじゃない?」
ソファーに持たれると、アサシンとライダーがじっとこちらを見ていたことに気づいた。
「あの…なに」
「いえ…素人にしては目の付け所がいいなと…」
「ええ、私も驚いていたところです」
そりゃどうも、と愛想なく返事をしたところでそれぞれマスターに説明をする。
詩絵李はまだ不安がっていたものの、納得できた理由もあり、今すぐ帰りたいと言うことはなくなった。
ヴィクトルは相変わらず、現状を聞いてそうですか、と報告を聞くばかり。
「今日は疲れたから、早く休んだら」
ヴィクトルは目の前で家が焼かれた上に詩絵李は変態に付け狙われた。
このマスターたちは疲労困憊しているはずだ。
『ええ、マスター、今日は休みましょう。色々なことがあって、気疲れを起こしているはずです。
無理はなさらず。』
まずヴィクトルがライダーに手を引かれて、詩絵李が指示した部屋へ向かった。
『主、僕は部屋の外で見張っていますから』
『やだっ、そばにいてっ』
ぎゅっと手を握る。
アサシンは美人に手を握られて少し頬を赤くしていた。
「あら~」
『っ、し、しかし、女性の部屋に男が入るのは、どうかと…』
『お願い…怖くて、眠れないの
今日は、いつもより…』
栗毛色の髪は確かに柔らかそうだ。
項垂れるたびに、髪は顔を隠して行く。
『…僕で良いのでしたら…主が安心して眠れるよう、ずっとお側におります』
そっと肩を撫でた。
今にも泣き出しそうなマスターに、アサシンは微笑む。
「ふぅ~ん」
「か、からかわないで頂きたいっ」
「別に何も言ってないけど
私ここで寝るから、どうぞごゆっくり」
赤い髪より顔が赤くなっていた。
それを見た詩絵李は少しだけ笑う。
あれほど癇癪を起こしていた人物とは思えないほど朗らかな笑みだ。
こうしてアサシン陣営も別室に入っていった。
クッションを取って頭の下に敷く。
改めて横になると、どっと疲れが押し寄せた。
はぁ、とため息をつく。
心なしか頭も痛くなってきた。
「カズマ」
「ん…?」
見張りをしているはずのセイバーが現れた。
そういえば見張りの交代を全く考えていなかった。
「ごめん、見張りのこと頭になかった」
体を起こすと、そっと肩を押してもう一度寝かされた。
「それは構わない。
サーヴァントはあまり疲労に囚われないからな。
それより、そのままでは体が冷える。
野暮なものですまないが、これを」
いつも剣の鞘に鎖と一緒に巻かれている外套だ。
セイバーが持つと小さく見えたが、意外と体をすっぽり覆い隠した。
「ゆっくり休んでくれ」
そう言って、また消えてしまった。