朝日のない
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「貴様答えろ。なぜアレが人として存在している。」
黒いセイバーが剣をかざしながら切敷に問いかける。
それでも切敷は何も言わずに黙ったままだった。
「……答えないならば、死ぬがいい」
「ランサー迎え撃て」
「おうさ!!魔力回しな!!」
互いの魔力が膨れ上がる。
その時、セイバーの背後に緑色のサーヴァントが現れた。
「撤退だ。
左翼のサーヴァントが集まりすぎている。」
「貴様のような賊の言葉を聞き入れると思うか?
耳障りだ消えろ」
「マスターの命令でもある。
今回の件、マスターの口から聞けることもあるだろうさ。
少なくとも、そこの野郎よりはな。」
舌打ちをして、黒いセイバーは言う。
「アレに手を出してタダで済むとは思うなよ。」
緑のマントを大きく広げ、サーヴァント2騎は姿を消した。
はぁ~、と大きく息をついたのはキャスターのマスターだった。
『マスター…いえ、同盟者アレクシ
そのような状態で今後どうするつもりですか。
指示もろくにできないとは。』
『無茶言うな!できるわけねーだろ!だったら手本見せろ手本!!』
『この不敬者!』
杖で頭を殴られ、痛いと声を荒げているのをよそに、瓦礫に埋もれたライダーを起こす。
「すみません、不意を突かれました。」
「いや、あのセイバー相手によく生きてるもんだ。
流石は守護聖人」
「チッ…邪魔しやがって…あの緑色、次会ったら仕留めてやる。」
この場がひと段落した時、残りの陣営たちが教会に戻ってくる。
『無事か!』
『うう…!!だれか、ケガを治せる人いないんですか!?
大けがしてるんです!』
アーチャーのマスターが声をかけると、ライダーが慌てて己のマスターの元に駆け寄る。
『あんたのマスターは無事だ。
ただ緑色のサーヴァントの結界内にいたもんで眠ってる。
けど、セイバーのマスターがちと状態がよくない。』
全員が血が垂れているカズマの様子を見た。
血が苦手なアレクシは後ずさる。
『見せてみなさい。
出来る限りの治療はしましょう。』
キャスターが歩み寄り、横に寝かせるよう指示した。
「ぃ…いた…いたい…いたい……」
顔が青白く、唇も紫色になっている。
そして同じくらい、セイバーの顔色も優れていなかった。
「カズマ……」
右手を優しく握り、冷え切った体を少しでも温めようとした。
キャスターの魔術で止血をし、傷は塞いだものの、失った血液はどうしようもない。
少しでも温めるよう指示をする。
うわ言で、今でも痛いとつぶやくカズマを抱きしめながら、毛布で包む。
『……一体、何が起こったのか
教えてくれるか』
セイバーがそう口を開くと、ライダーが答えた。
『黒いサーヴァントが襲撃してきました。
クラスはセイバーでしょう。
そして、カズマさんにはマスターを連れて逃げるよう頼みました。』
続いてアーチャーが答える。
『んで、俺らは教会で強い魔力を感じたんで二手に分かれて俺が先にそのマスターたちを見つけた。
おそらく、ライダーのマスターを庇ったんだろう。
見つけた時は緑色のサーヴァントに顔を掴まれてたからな。』
『とにかくよぉ
セイバーが自分から来てくれたのは僥倖だろう。
あの太刀筋と剣で真名は絞れた。』
『…カズマを…休ませてもいいだろうか
ここにいるよりは…安心するはずだ』
『ええ…構いません』
重たい足取りでセイバーはカズマを運んで行った。
教会から姿を見せなくなったとき、アレクシが言う。
『血…やっば…吐き気する…』
『カズマさん、大丈夫でしょうか…
あの、看護の資格持ってますし、包帯を巻き替えるだけでも…』
『マスター、今行くのは馬に蹴られるのと同じだぜ?』
アーチャーのマスター、無津呂 秋の肩を掴んで留まらせた。
『とにかく、戦闘は終わった。
ライダー、明日の朝、一真ちゃんを僕の拠点に連れて来てくれないか?』
『それは断ります。』
切敷の提案は至極まっとうなものだった。
しかしライダーはきっぱりと断る。
『…なぜ?』
『確かに敵に拠点を知られたことは痛手でしょう。
今後どんなサーヴァントが襲ってきても仕方がない。
しかし、それでもカズマさんは我が陣営が請け負いました。
今更どなたかに守りを任せることはありません。』
ランサーが茶化すように、振られてやがる、とつぶやいた。
『けど!この教会が危ないことは変わらない!
2騎同時に潰されるなんて冗談じゃない!
運よく残り5騎になったとしても、2騎分の穴は俺たちで埋めなきゃいけねーんだぞ!?』
『マスター、それほどまでにこの陣営が気にかかるのでしたらこの私が守りをすればよろしい。
結界を敷くことなど造作もない。
いかがしますか?』
『う……』
『私は同盟者たちに一定の敬意を払っていますが、それでも臆病者は好みません。
でしたら、ライダーを守った一つ目の少女に力を振るった方がマシです。
この左翼陣営のマスターはあまりにも自らの保身に走りすぎている。
自らを省み、そして恥じなさい。』
『…わ、わかったよ
キャスター、ここに防御張る事はできるのか?』
『むろんです。』
杖を床に2回、音を立てるようにつつくと布を被ったような小人が続々と現れる。
『うわっ!!?』
『うわ!とは何事ですか!!
この方々が結界を貼り続けて下さるのですよ!
敬服し崇めるのが当然の態度では!?』
キャスターの言葉に顔を歪ませながら、無理矢理にでも頷いて見せた。
◇
痛みに苛まれていた。
悪夢のように追いかけては体から離れない。
顔にまで覆って、息ができなくなったところで呼びかける声が聞こえた。
「カズマ!!」
「かっ……ぁ……」
息ができていない。
苦しくて首を掻き毟る。
「ここは大丈夫だ!
安心してくれ……カズマ…」
「ひゅっ……」
短く、必死に息を繰り返し、ようやく深く呼吸ができるようになった。
汗をかいている。
うなされていたのだろうか。
「…すまない…すまない…」
今にも泣き出しそうな顔で、謝り続けるセイバーがいた。
右手に縋って、握りしめている。
「…なに…してんの」
「すまない……酷いことを、口にさせてしまった……惨いことをさせていた…
許してくれとは言わない…ただ、ただ…謝らせてくれ…」
意味がわからない。
それすらもエゴだ。
そう言って突き放してやりたかった。
こっちに泣かれても困る。
懺悔するなら神にしろ。
許しを請うのも神にしろ。
泣くくらいなら過去の自分を殺せ。
けれど、鎖に繋がれていた私のように震えていたので、そのままにした。
目が覚めると、全身倦怠感に襲われ、完全な覚醒は出来そうになかった。
セイバーは未だに私の手を握っては、親指で撫でていた。
「手、もういいでしょ」
「カズマ…よく眠れたか?
痛みはあるか?」
右の目に手をかざすので、反射で手を払った。
「…さ、触るな
気分が、よくない」
「すまない…軽率な行動だった…すまない」
「もういい、どこかに行って。
放っておいて。
今日も、情報探しに行くんでしょ。」
「いいや、もう行かない
あなたのそばにいる。」
「じゃあ、1人にさせて
お願いだから」
「…わかった」
もう5日目だ。
聖杯戦争は過激化している一方。
見知らぬアサシンのマスターは今も震えているのだろう。
ベッドに倒れ込んで、息をつく。
すると、一階で怒声が聞こえた。
耳障りなので、壁伝いに降りて行くと、見覚えのある女マスターがいた。
癇癪を起こしているようだ。
『ふざけんじゃないわよ!!アーサー王!?勝てるわけないじゃない!!!』
『とはいえ弱点がないわけではないはずだ。
決戦が始まる前にこちらのサーヴァントで体力を削り、当日を迎える。
アサシンは宝具を放てばそれでいい。』
『昨日2騎がかりでも傷1つ入れられなかった相手に後2日でどうにかなると思ってんの!?』
「まぁ、絶望的だって話だ」
「…急に現われやがって」
「そう睨むな。
具合はどうだ。」
「寝たいけどうるさい。」
「とか言いつつ、気になったんだろう。
お前にも情報は伝えておかねぇとな。」
青いランサーは途端に真顔になる。
「あの黒いセイバー、真名アーサー王
若干存在としては正規とは違っているが、間違いない。」
「…アーサー王
あの日本のサーヴァントが勝てるとは思えないね。」
「とは言え、見過ごすわけにはいかねぇだろ?
今日、俺とキャスター、アーチャーが出る。
てなわけでここの守りは手薄になる。」
「…べつに。
ちなみに負けたらどうなるの」
「あ?死ぬに決まってんだろ。」
さらりと言ってのけた。
昨日のことを思えば確かにそうなんだろう。
しかし、実際に言われると別の部分に体重がかかった気分だ。
「だから、お前のセイバーは他のマスターも守るために躍起になってる。
別に悪かねぇと思うがな。」
「だから好きにしろと言った」
「そりゃ意味合いがちげぇだろ
お前のそれは意地っ張りってやつだ
いいや、そっちの方がまだいい
ただセイバーを遠ざけたいだけだろう。」
「知ったような口を…!」
「俺は中途半端がきらいなんだよ
死んだ目したくせに生きる気満々じゃねぇか。
放っておくつもりが、結局はライダーのマスターを守ってやがる。
白黒つけろ。
守るか守らないか
生きるか死ぬか。
まだ生きるために保身に走った方が気分がいいね。」
何が言いたいのかさっぱりだ。
しかし、バカにされているのはなんとなくわかった。
子供だと面と向かって言われた気分だった。
「じゃあ意地はってやる
意地はって無様に死んでやる」
リビングの扉を開くと、ヴィクトル、無精ひげ、金髪の女マスターがこちらをみた。
「私も行く
セイバーを出させる。同行する。」
「おや、どういう心境の変化かな?」
「あんたのランサーに煽られたんだよ。」
すかさずセイバーが現れた。
「カズマ!無謀にも程がある!!
ランサーの言葉は真に受けるな!」
「私は私のしたいようにする!
あんたは他のマスターも救いたいんだろ!!
私を救った責任を背負え!!
嫌なら黙ってろ!」
セイバーは面食らった顔をし、目を伏せて頷く。
「…ああ、
あなたの命は確かに俺が背負った。」
「それでも問題があるわけ」
瞳が少し揺れて、同じように首を横に振った。
◇
まだ聖杯戦争は1回戦目。
それなのにこちらの陣営は総力戦をしようとしていた。
そうでもしなければ敵に押しつぶされてしまうからだ。
とはいえ、つい数日前は一般人ばかりのこのチームは穴が大きすぎた。
「じゃ、一真ちゃんたちは詩絵理ちゃんの護衛ね。」
「は」
いきおいよく部屋に乗り込んだのに護衛?
かちんときて口を開いた途端、別の言葉を上から被せられた。
「一番危険な立場にあるのは詩絵李ちゃんなんだよ。
最も狙われやすい。
主力となるバーサーカー陣営は相変わらず参加したがらないみたいだし、
詩絵李ちゃんを放置して残りの勢力をセイバー叩きに動員するなんて馬鹿げてる。
そういうわけで、最優のセイバー陣営は護衛ということで。」
目の前の詩絵李というマスターも嫌そうな顔をしていた。
怪我人に守られるなら自分で隠れていた方がマシだ、と思っていそうだ。
とにかくこの後早速セイバー叩きに行くそうな。
例によってライダーは拠点から動くことができないため、今回戦闘をしない組はライダー、アサシン、バーサーカーとなる。
『はぁ…もう、ほんっとないわ…』
『まぁまぁそう言わずに』
無精ひげはこちらの肩を叩いて家を出た。
この場に残ったヴィクトル、詩絵李、私。
気まずい。
そんな時、詩絵李の傍に膝をつきながらアサシンが現れた。
『この度は我が主人を護衛していただきありがとうございます。』
『礼には及びませんよ。少なからずどの陣営も守られる時があります。
それが今回アサシン陣営だっただけのこと。』
フランス語の会話にうんざりして、肘をついて俯瞰していた。
これならベッドで横になっていても構わないのでは?
「カズマ殿、主人の護衛を引き受けてくださり…」
「あの無精ひげのサーヴァントの挑発に乗っただけだから
感謝される理由がない。
っていうか、怪我人に守られても面白くはないだろうし。」
先ほどの無精ひげの会話にもイラついていたため、淡々と述べていると急に詩絵李が立ち上がった。
『こんなとこいたって意味ない!
帰る!』
『あっ、主!』
どこに行くつもりなのか。
追いかけるとこちらを振り向いて
「JAP!!」
罵声を浴びせられた。
他にも色々な言葉を被せられたが、聞き取れなかったものの、さすがに黙ってはいられない。
足早に去るのを追いかける。
「お前自分のサーヴァントにもその罵声聞こえてるってわかってんの?
あ?
ふざけんなよ」
腕を掴むと、女はこちらを見下ろした。
そして振りほどくので、無理矢理掴む。
『放してよ!!気持ち悪い!!』
「何話してるかわかんねーっての」
『こっちの気も知らないで!
私は勉強していい大学に入らないといけないの!!こんなことしてる時間はないのよ!!』
「あーもー頼むから金切り声出すのほんとやめろ」
一方的に悲鳴じみた声を受けているとさすがに見てられなくなった互いのサーヴァントが現れる。
『主…お気持ちはわかりますが、今は命の危機です
今一度冷静になって考えてください』
『うるさいわね!!口答えしないでって言ったでしょう!!
だから日本人なんて嫌いなのよ!!』
『アサシンの言うことは正しい。今は逃避するべき時ではない。』
唇がわなわなと震えて、泣き出す。
『何よ…!!何よ何よ!!!私は何も分からないしできないのよ!!!
ただ一方的に狙われて落ち着いていられるはずがないじゃない!!
あんたはいいわよね!!まだ対戦じゃないんだから!!』
「なんて?」
セイバーは、詩絵李が騒ぎ立てている内容を伝えた。
恐らくは死にたくない一心で混乱しているのだろう。
敵がアーサー王と知った上、2日後の対戦を切り抜けたとしてもその後のこうした情報戦でどんな傷を負うかわからない。
とにかくそれが原因だ。
(こういう人間に、大丈夫だと言っても聞かないんだろうな)
仕方なく手を離すと、再び背を向けて歩き出した。
「翻訳して。
ここに留まるか外に出るかだけで生死が決まるなら、ここに留まった方がいいと思うけど
それでも慌てふためいて外に出るというなら、勝手に死んでればいい
そこまで私らもお人好しじゃない
全員あんたのために動いてること忘れるなよ」
あれだけ叫ばれたらこっちも疲れる。
そもそも気力と体力は無い方だ。
昨日走り回った挙句傷口を強く握られたせいで、少し動いただけで痛みが走る。
今度はこちらが背を向けて、玄関まで帰ってきた。
「シェリーさんは」
心配になって様子を見に行こうにも刺激してはダメだとここで待っていたのだろう。
聖人らしい行動だ。
「シェリー…?」
「ああ、すみません、当初の自己紹介のときに詩絵李さんがシェリー、と呼んでよいと仰っていたものですから。
それで…」
「あんなわがままな人、これ以上こっちが振り回されたら危険だ
死ぬなら勝手にしろって言ってきた。
まぁ、セイバーとアサシンが説得してるんじゃない」
説得とか、そういう類は向いていない。
そもそも話をしたとしても通じない相手がほとんどだった。
ならこれ以上何を言おうとも無駄だ。
人徳と説得力のある人間に任せるのが一番だ。
「…別に、私のことも面倒になったなら切り捨てても構わないよ」
それだけは言っておかなければ自分がいつ詩絵李のようになってしまうか不安だった。
ライダー陣営に迷惑がかかるなら事前に言っておいた方がマシ。
さっさと2階に逃げようとするとライダーは再び声をかけた。
「お待ちください」
「……。」
「昨夜、我がマスターを守っていただきありがとうございます。」
「別に…」
「今マスターが無傷でいられるのはあなたの勇敢さの証です」
「ゆ、勇敢って…別に何もしてないし…
悪いけど少し横になるから…」
妙に恥ずかしくなって、まともな罵倒を浴びる時より足早に逃げてしまった。
きっとそれがライダーの心からの評価だと、私自身気づいたからだろう。
「はぁ…」
むず痒くなりながらベッドに横になった。
◇
傷口が痛むのは低気圧のせいなのか。
天気予報はおろかテレビも見ないのでわからないが、とりあえず水をもらいに降りるとノートと向かい合っている詩絵李がいた。
こちらを見るなり鼻を鳴らして睨んで、またノートを見下ろした。
(こういうやつ、必ず一人はいるんだよな…)
一方、ヴィクトルはこちらの足音に気づいて顔だけ向けている。
「あー…えっと、ウォーター…プリーズ…」
たどたどしく話すが、ヴィクトルはこちらの意図を汲んで、コップ一杯分の水をくれた。
「ありがとう…」
「ドウ、イタシマシテ」
唐突に日本語が聞こえたものだから驚いたのだが、ヴィクトルなりにコミュニケーションを取ろうとしているようだ。
「…ははは」
言葉が通じなくとも云々、というのは嘘だと、痛感している。
言葉というものは存外に大事なもので、生きるために必要不可欠な要素の一つだ。
特に今のような殺し合いに巻き込まれている以上、互いの連携、コミュニケーションがなければ圧倒間に食いつぶされるに違いない。
痛み止めを飲み始めると、ちょうどセイバーが現れた。
『敵セイバーとの衝突を確認した。
ここのサーヴァントは全員守りに徹する。
何か異常があれば呼んでくれ。』
『ええ、わかりました。』
『……ふん』
二人のマスターの返事を聞いて、セイバーは改めて私を見やる。
「何かあれば必ず呼んでくれ。駆けつける。」
「…わかった」
湿った空気の中で、草木はがさがさと揺れていた。
『フヒャヒャヒャヒャ!!!!結界の中で団欒ですかねェマスタァー!!!』
『うるさい、いいからやれ。』
悪魔のような笑いの傍らで静かに、指示を出した。
深くフードを被る中、ただただ教会を見つめる。
『……願わくば、これが最後の…』
途中の言葉は爆炎でかき消された。
『ヒャーーッハハハハハハハハハハハハハ!!!』
とぐろを巻く炎が、家を離さない。
空高く、伸びていく。
『かんっっっぺき!!!マァスタァ~~!!我ながら手はずも芸術的な炎と火の粉の舞いがかんっぺきではありませんかァ!!?』
『最低限の役割は果たした。
だが生死の確認をしてこい。
逃げているマスターがいれば首をとれ。』
『ウケたまわりましたァ!!』
雨に濡れるコートが体を冷やし始めたころ、遠くからサイレンの音が聞こえた。
黒いセイバーが剣をかざしながら切敷に問いかける。
それでも切敷は何も言わずに黙ったままだった。
「……答えないならば、死ぬがいい」
「ランサー迎え撃て」
「おうさ!!魔力回しな!!」
互いの魔力が膨れ上がる。
その時、セイバーの背後に緑色のサーヴァントが現れた。
「撤退だ。
左翼のサーヴァントが集まりすぎている。」
「貴様のような賊の言葉を聞き入れると思うか?
耳障りだ消えろ」
「マスターの命令でもある。
今回の件、マスターの口から聞けることもあるだろうさ。
少なくとも、そこの野郎よりはな。」
舌打ちをして、黒いセイバーは言う。
「アレに手を出してタダで済むとは思うなよ。」
緑のマントを大きく広げ、サーヴァント2騎は姿を消した。
はぁ~、と大きく息をついたのはキャスターのマスターだった。
『マスター…いえ、同盟者アレクシ
そのような状態で今後どうするつもりですか。
指示もろくにできないとは。』
『無茶言うな!できるわけねーだろ!だったら手本見せろ手本!!』
『この不敬者!』
杖で頭を殴られ、痛いと声を荒げているのをよそに、瓦礫に埋もれたライダーを起こす。
「すみません、不意を突かれました。」
「いや、あのセイバー相手によく生きてるもんだ。
流石は守護聖人」
「チッ…邪魔しやがって…あの緑色、次会ったら仕留めてやる。」
この場がひと段落した時、残りの陣営たちが教会に戻ってくる。
『無事か!』
『うう…!!だれか、ケガを治せる人いないんですか!?
大けがしてるんです!』
アーチャーのマスターが声をかけると、ライダーが慌てて己のマスターの元に駆け寄る。
『あんたのマスターは無事だ。
ただ緑色のサーヴァントの結界内にいたもんで眠ってる。
けど、セイバーのマスターがちと状態がよくない。』
全員が血が垂れているカズマの様子を見た。
血が苦手なアレクシは後ずさる。
『見せてみなさい。
出来る限りの治療はしましょう。』
キャスターが歩み寄り、横に寝かせるよう指示した。
「ぃ…いた…いたい…いたい……」
顔が青白く、唇も紫色になっている。
そして同じくらい、セイバーの顔色も優れていなかった。
「カズマ……」
右手を優しく握り、冷え切った体を少しでも温めようとした。
キャスターの魔術で止血をし、傷は塞いだものの、失った血液はどうしようもない。
少しでも温めるよう指示をする。
うわ言で、今でも痛いとつぶやくカズマを抱きしめながら、毛布で包む。
『……一体、何が起こったのか
教えてくれるか』
セイバーがそう口を開くと、ライダーが答えた。
『黒いサーヴァントが襲撃してきました。
クラスはセイバーでしょう。
そして、カズマさんにはマスターを連れて逃げるよう頼みました。』
続いてアーチャーが答える。
『んで、俺らは教会で強い魔力を感じたんで二手に分かれて俺が先にそのマスターたちを見つけた。
おそらく、ライダーのマスターを庇ったんだろう。
見つけた時は緑色のサーヴァントに顔を掴まれてたからな。』
『とにかくよぉ
セイバーが自分から来てくれたのは僥倖だろう。
あの太刀筋と剣で真名は絞れた。』
『…カズマを…休ませてもいいだろうか
ここにいるよりは…安心するはずだ』
『ええ…構いません』
重たい足取りでセイバーはカズマを運んで行った。
教会から姿を見せなくなったとき、アレクシが言う。
『血…やっば…吐き気する…』
『カズマさん、大丈夫でしょうか…
あの、看護の資格持ってますし、包帯を巻き替えるだけでも…』
『マスター、今行くのは馬に蹴られるのと同じだぜ?』
アーチャーのマスター、無津呂 秋の肩を掴んで留まらせた。
『とにかく、戦闘は終わった。
ライダー、明日の朝、一真ちゃんを僕の拠点に連れて来てくれないか?』
『それは断ります。』
切敷の提案は至極まっとうなものだった。
しかしライダーはきっぱりと断る。
『…なぜ?』
『確かに敵に拠点を知られたことは痛手でしょう。
今後どんなサーヴァントが襲ってきても仕方がない。
しかし、それでもカズマさんは我が陣営が請け負いました。
今更どなたかに守りを任せることはありません。』
ランサーが茶化すように、振られてやがる、とつぶやいた。
『けど!この教会が危ないことは変わらない!
2騎同時に潰されるなんて冗談じゃない!
運よく残り5騎になったとしても、2騎分の穴は俺たちで埋めなきゃいけねーんだぞ!?』
『マスター、それほどまでにこの陣営が気にかかるのでしたらこの私が守りをすればよろしい。
結界を敷くことなど造作もない。
いかがしますか?』
『う……』
『私は同盟者たちに一定の敬意を払っていますが、それでも臆病者は好みません。
でしたら、ライダーを守った一つ目の少女に力を振るった方がマシです。
この左翼陣営のマスターはあまりにも自らの保身に走りすぎている。
自らを省み、そして恥じなさい。』
『…わ、わかったよ
キャスター、ここに防御張る事はできるのか?』
『むろんです。』
杖を床に2回、音を立てるようにつつくと布を被ったような小人が続々と現れる。
『うわっ!!?』
『うわ!とは何事ですか!!
この方々が結界を貼り続けて下さるのですよ!
敬服し崇めるのが当然の態度では!?』
キャスターの言葉に顔を歪ませながら、無理矢理にでも頷いて見せた。
◇
痛みに苛まれていた。
悪夢のように追いかけては体から離れない。
顔にまで覆って、息ができなくなったところで呼びかける声が聞こえた。
「カズマ!!」
「かっ……ぁ……」
息ができていない。
苦しくて首を掻き毟る。
「ここは大丈夫だ!
安心してくれ……カズマ…」
「ひゅっ……」
短く、必死に息を繰り返し、ようやく深く呼吸ができるようになった。
汗をかいている。
うなされていたのだろうか。
「…すまない…すまない…」
今にも泣き出しそうな顔で、謝り続けるセイバーがいた。
右手に縋って、握りしめている。
「…なに…してんの」
「すまない……酷いことを、口にさせてしまった……惨いことをさせていた…
許してくれとは言わない…ただ、ただ…謝らせてくれ…」
意味がわからない。
それすらもエゴだ。
そう言って突き放してやりたかった。
こっちに泣かれても困る。
懺悔するなら神にしろ。
許しを請うのも神にしろ。
泣くくらいなら過去の自分を殺せ。
けれど、鎖に繋がれていた私のように震えていたので、そのままにした。
目が覚めると、全身倦怠感に襲われ、完全な覚醒は出来そうになかった。
セイバーは未だに私の手を握っては、親指で撫でていた。
「手、もういいでしょ」
「カズマ…よく眠れたか?
痛みはあるか?」
右の目に手をかざすので、反射で手を払った。
「…さ、触るな
気分が、よくない」
「すまない…軽率な行動だった…すまない」
「もういい、どこかに行って。
放っておいて。
今日も、情報探しに行くんでしょ。」
「いいや、もう行かない
あなたのそばにいる。」
「じゃあ、1人にさせて
お願いだから」
「…わかった」
もう5日目だ。
聖杯戦争は過激化している一方。
見知らぬアサシンのマスターは今も震えているのだろう。
ベッドに倒れ込んで、息をつく。
すると、一階で怒声が聞こえた。
耳障りなので、壁伝いに降りて行くと、見覚えのある女マスターがいた。
癇癪を起こしているようだ。
『ふざけんじゃないわよ!!アーサー王!?勝てるわけないじゃない!!!』
『とはいえ弱点がないわけではないはずだ。
決戦が始まる前にこちらのサーヴァントで体力を削り、当日を迎える。
アサシンは宝具を放てばそれでいい。』
『昨日2騎がかりでも傷1つ入れられなかった相手に後2日でどうにかなると思ってんの!?』
「まぁ、絶望的だって話だ」
「…急に現われやがって」
「そう睨むな。
具合はどうだ。」
「寝たいけどうるさい。」
「とか言いつつ、気になったんだろう。
お前にも情報は伝えておかねぇとな。」
青いランサーは途端に真顔になる。
「あの黒いセイバー、真名アーサー王
若干存在としては正規とは違っているが、間違いない。」
「…アーサー王
あの日本のサーヴァントが勝てるとは思えないね。」
「とは言え、見過ごすわけにはいかねぇだろ?
今日、俺とキャスター、アーチャーが出る。
てなわけでここの守りは手薄になる。」
「…べつに。
ちなみに負けたらどうなるの」
「あ?死ぬに決まってんだろ。」
さらりと言ってのけた。
昨日のことを思えば確かにそうなんだろう。
しかし、実際に言われると別の部分に体重がかかった気分だ。
「だから、お前のセイバーは他のマスターも守るために躍起になってる。
別に悪かねぇと思うがな。」
「だから好きにしろと言った」
「そりゃ意味合いがちげぇだろ
お前のそれは意地っ張りってやつだ
いいや、そっちの方がまだいい
ただセイバーを遠ざけたいだけだろう。」
「知ったような口を…!」
「俺は中途半端がきらいなんだよ
死んだ目したくせに生きる気満々じゃねぇか。
放っておくつもりが、結局はライダーのマスターを守ってやがる。
白黒つけろ。
守るか守らないか
生きるか死ぬか。
まだ生きるために保身に走った方が気分がいいね。」
何が言いたいのかさっぱりだ。
しかし、バカにされているのはなんとなくわかった。
子供だと面と向かって言われた気分だった。
「じゃあ意地はってやる
意地はって無様に死んでやる」
リビングの扉を開くと、ヴィクトル、無精ひげ、金髪の女マスターがこちらをみた。
「私も行く
セイバーを出させる。同行する。」
「おや、どういう心境の変化かな?」
「あんたのランサーに煽られたんだよ。」
すかさずセイバーが現れた。
「カズマ!無謀にも程がある!!
ランサーの言葉は真に受けるな!」
「私は私のしたいようにする!
あんたは他のマスターも救いたいんだろ!!
私を救った責任を背負え!!
嫌なら黙ってろ!」
セイバーは面食らった顔をし、目を伏せて頷く。
「…ああ、
あなたの命は確かに俺が背負った。」
「それでも問題があるわけ」
瞳が少し揺れて、同じように首を横に振った。
◇
まだ聖杯戦争は1回戦目。
それなのにこちらの陣営は総力戦をしようとしていた。
そうでもしなければ敵に押しつぶされてしまうからだ。
とはいえ、つい数日前は一般人ばかりのこのチームは穴が大きすぎた。
「じゃ、一真ちゃんたちは詩絵理ちゃんの護衛ね。」
「は」
いきおいよく部屋に乗り込んだのに護衛?
かちんときて口を開いた途端、別の言葉を上から被せられた。
「一番危険な立場にあるのは詩絵李ちゃんなんだよ。
最も狙われやすい。
主力となるバーサーカー陣営は相変わらず参加したがらないみたいだし、
詩絵李ちゃんを放置して残りの勢力をセイバー叩きに動員するなんて馬鹿げてる。
そういうわけで、最優のセイバー陣営は護衛ということで。」
目の前の詩絵李というマスターも嫌そうな顔をしていた。
怪我人に守られるなら自分で隠れていた方がマシだ、と思っていそうだ。
とにかくこの後早速セイバー叩きに行くそうな。
例によってライダーは拠点から動くことができないため、今回戦闘をしない組はライダー、アサシン、バーサーカーとなる。
『はぁ…もう、ほんっとないわ…』
『まぁまぁそう言わずに』
無精ひげはこちらの肩を叩いて家を出た。
この場に残ったヴィクトル、詩絵李、私。
気まずい。
そんな時、詩絵李の傍に膝をつきながらアサシンが現れた。
『この度は我が主人を護衛していただきありがとうございます。』
『礼には及びませんよ。少なからずどの陣営も守られる時があります。
それが今回アサシン陣営だっただけのこと。』
フランス語の会話にうんざりして、肘をついて俯瞰していた。
これならベッドで横になっていても構わないのでは?
「カズマ殿、主人の護衛を引き受けてくださり…」
「あの無精ひげのサーヴァントの挑発に乗っただけだから
感謝される理由がない。
っていうか、怪我人に守られても面白くはないだろうし。」
先ほどの無精ひげの会話にもイラついていたため、淡々と述べていると急に詩絵李が立ち上がった。
『こんなとこいたって意味ない!
帰る!』
『あっ、主!』
どこに行くつもりなのか。
追いかけるとこちらを振り向いて
「JAP!!」
罵声を浴びせられた。
他にも色々な言葉を被せられたが、聞き取れなかったものの、さすがに黙ってはいられない。
足早に去るのを追いかける。
「お前自分のサーヴァントにもその罵声聞こえてるってわかってんの?
あ?
ふざけんなよ」
腕を掴むと、女はこちらを見下ろした。
そして振りほどくので、無理矢理掴む。
『放してよ!!気持ち悪い!!』
「何話してるかわかんねーっての」
『こっちの気も知らないで!
私は勉強していい大学に入らないといけないの!!こんなことしてる時間はないのよ!!』
「あーもー頼むから金切り声出すのほんとやめろ」
一方的に悲鳴じみた声を受けているとさすがに見てられなくなった互いのサーヴァントが現れる。
『主…お気持ちはわかりますが、今は命の危機です
今一度冷静になって考えてください』
『うるさいわね!!口答えしないでって言ったでしょう!!
だから日本人なんて嫌いなのよ!!』
『アサシンの言うことは正しい。今は逃避するべき時ではない。』
唇がわなわなと震えて、泣き出す。
『何よ…!!何よ何よ!!!私は何も分からないしできないのよ!!!
ただ一方的に狙われて落ち着いていられるはずがないじゃない!!
あんたはいいわよね!!まだ対戦じゃないんだから!!』
「なんて?」
セイバーは、詩絵李が騒ぎ立てている内容を伝えた。
恐らくは死にたくない一心で混乱しているのだろう。
敵がアーサー王と知った上、2日後の対戦を切り抜けたとしてもその後のこうした情報戦でどんな傷を負うかわからない。
とにかくそれが原因だ。
(こういう人間に、大丈夫だと言っても聞かないんだろうな)
仕方なく手を離すと、再び背を向けて歩き出した。
「翻訳して。
ここに留まるか外に出るかだけで生死が決まるなら、ここに留まった方がいいと思うけど
それでも慌てふためいて外に出るというなら、勝手に死んでればいい
そこまで私らもお人好しじゃない
全員あんたのために動いてること忘れるなよ」
あれだけ叫ばれたらこっちも疲れる。
そもそも気力と体力は無い方だ。
昨日走り回った挙句傷口を強く握られたせいで、少し動いただけで痛みが走る。
今度はこちらが背を向けて、玄関まで帰ってきた。
「シェリーさんは」
心配になって様子を見に行こうにも刺激してはダメだとここで待っていたのだろう。
聖人らしい行動だ。
「シェリー…?」
「ああ、すみません、当初の自己紹介のときに詩絵李さんがシェリー、と呼んでよいと仰っていたものですから。
それで…」
「あんなわがままな人、これ以上こっちが振り回されたら危険だ
死ぬなら勝手にしろって言ってきた。
まぁ、セイバーとアサシンが説得してるんじゃない」
説得とか、そういう類は向いていない。
そもそも話をしたとしても通じない相手がほとんどだった。
ならこれ以上何を言おうとも無駄だ。
人徳と説得力のある人間に任せるのが一番だ。
「…別に、私のことも面倒になったなら切り捨てても構わないよ」
それだけは言っておかなければ自分がいつ詩絵李のようになってしまうか不安だった。
ライダー陣営に迷惑がかかるなら事前に言っておいた方がマシ。
さっさと2階に逃げようとするとライダーは再び声をかけた。
「お待ちください」
「……。」
「昨夜、我がマスターを守っていただきありがとうございます。」
「別に…」
「今マスターが無傷でいられるのはあなたの勇敢さの証です」
「ゆ、勇敢って…別に何もしてないし…
悪いけど少し横になるから…」
妙に恥ずかしくなって、まともな罵倒を浴びる時より足早に逃げてしまった。
きっとそれがライダーの心からの評価だと、私自身気づいたからだろう。
「はぁ…」
むず痒くなりながらベッドに横になった。
◇
傷口が痛むのは低気圧のせいなのか。
天気予報はおろかテレビも見ないのでわからないが、とりあえず水をもらいに降りるとノートと向かい合っている詩絵李がいた。
こちらを見るなり鼻を鳴らして睨んで、またノートを見下ろした。
(こういうやつ、必ず一人はいるんだよな…)
一方、ヴィクトルはこちらの足音に気づいて顔だけ向けている。
「あー…えっと、ウォーター…プリーズ…」
たどたどしく話すが、ヴィクトルはこちらの意図を汲んで、コップ一杯分の水をくれた。
「ありがとう…」
「ドウ、イタシマシテ」
唐突に日本語が聞こえたものだから驚いたのだが、ヴィクトルなりにコミュニケーションを取ろうとしているようだ。
「…ははは」
言葉が通じなくとも云々、というのは嘘だと、痛感している。
言葉というものは存外に大事なもので、生きるために必要不可欠な要素の一つだ。
特に今のような殺し合いに巻き込まれている以上、互いの連携、コミュニケーションがなければ圧倒間に食いつぶされるに違いない。
痛み止めを飲み始めると、ちょうどセイバーが現れた。
『敵セイバーとの衝突を確認した。
ここのサーヴァントは全員守りに徹する。
何か異常があれば呼んでくれ。』
『ええ、わかりました。』
『……ふん』
二人のマスターの返事を聞いて、セイバーは改めて私を見やる。
「何かあれば必ず呼んでくれ。駆けつける。」
「…わかった」
湿った空気の中で、草木はがさがさと揺れていた。
『フヒャヒャヒャヒャ!!!!結界の中で団欒ですかねェマスタァー!!!』
『うるさい、いいからやれ。』
悪魔のような笑いの傍らで静かに、指示を出した。
深くフードを被る中、ただただ教会を見つめる。
『……願わくば、これが最後の…』
途中の言葉は爆炎でかき消された。
『ヒャーーッハハハハハハハハハハハハハ!!!』
とぐろを巻く炎が、家を離さない。
空高く、伸びていく。
『かんっっっぺき!!!マァスタァ~~!!我ながら手はずも芸術的な炎と火の粉の舞いがかんっぺきではありませんかァ!!?』
『最低限の役割は果たした。
だが生死の確認をしてこい。
逃げているマスターがいれば首をとれ。』
『ウケたまわりましたァ!!』
雨に濡れるコートが体を冷やし始めたころ、遠くからサイレンの音が聞こえた。