朝日のない
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どろどろの朝食を食べ、ぐったり横になる。
昨日の事は嘘ではないと頭でわかっているはずだ。
けれど、どうにも信じられない。
何しろ連続で起き続けている感覚で、疲れがあった。
気疲れ、というものに近い。
『失礼…こういうものですが』
無礼にも急に入ってきたのは警察だった。
フランス語で相変わらず何を話しているのかはわからない。
しかし警察手帳を見てわかった。
監禁された事件について調べるのだと。
さっさと聴取を済ませたいせいか半端な通訳者を連れてきているようだ。
とにかく早く休むためにありのままのことを言うのだが、私の『被害者』という感覚が薄いためか怪訝な顔をされるばかりだった。
『まぁ、一応は調べてみますが…
ああ、それはそうと日本大使館に連絡して完治する間ビザを発行してもらうようになったので』
簡単に重要なことを言って去っていった。
はあ、とまたため息をつく。
誰も居なくなった部屋は無音。
耳が先ほどの会話のせわしなさを覚えている。
「大丈夫か」
「うわっ!?」
「す、すまない」
急に現れたセイバー。
文字通り、気配もなく、何もないところから発生したのだから驚くなというほうが無理だ。
「…今度はなに」
「いや…
横になってもらって構わない。」
いいや、何も用がないのに突然現れるわけがない。
何か言いたいことがあったのだろう。
「…昨夜の聖杯戦争の話だ。」
「それは後にして」
「…そうか」
「後にできねぇんだよなあこれが」
「ッ!!」
瞬きの間に急に人が増えた。
驚きのあまりベッドから落ちそうになったがセイバーがやはりキャッチして未然に防いだ。
「っと、悪い悪い」
「っ~~!」
「急に現れるのはやめてもらえるか。」
「そんなに驚くとは思わなかったんだよ。」
息を吐いて、心臓を落ち着かせる。
そこで新たな来訪者。
「やあ、秦民 一真くん」
「……出ていけ」
「まぁまぁ、そう邪険にしないでくれ。
君の命に係わるからね。」
例の黒い空間にいた無精ひげだ。
名前は、忘れた。
「ランサー陣営が、そろって何の用だ。」
「聖杯戦争の内容だよ。
まだ具体的に教えてないんじゃないかと思ってね」
さっき、それは後にしろと言ったばかりなのにコレだ。
今回、とことん運が悪いとみた。
「さっさと終わってほしそうな顔をしているから手早く説明するよ。
僕なりの親切だと思って目をつむってくれ。」
「はぁ……じゃあはやく言って」
「それじゃ遠慮なく。
ある程度の説明はされていると思うけど、念のため。
聖杯戦争というのは本来7人の参加者同士の殺し合い。しかし今回は7対7の団体戦みたいなものだ。
君のセイバーと同じように7人の人間がサーヴァントを使役している。
僕の場合はランサーだ。
残りは、アーチャー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー
7つのクラスにあてはめられた過去の偉人、英雄に代わりに戦ってもらう。
まぁ、マスターもそれなりに自衛しないといけないけれど。」
「…じゃあ、このセイバーも過去の人間?」
「はは、人間、というカテゴライズは良くないな
サーヴァントはいずれにしても生前から人間の枠から外れているのがほとんどだ。
英霊、と呼ぶのが正しい。」
「あっそ」
枕を背に挟み、もたれる。
さっさと終わってほしい、さっさと話せ、という感情が抑えられない。
要はしばらく眠りたいだけだ。
「そもそもサーヴァントっていうのは契約主の魔力で存在ができている。つまり契約主を殺せばサーヴァントも消滅するという仕組みだ。
この聖杯戦争は、サーヴァントがサーヴァントを倒すなんて方法あまりとらない。
サーヴァントが敵のマスターを殺しに行くのがベストで効率もいい。」
「……は?
じゃあ私も狙われるってこと?」
「とはいえ、この聖杯戦争は対戦式だ。
毎回1週間の情報戦が行われるらしい。
さっき言ったように過去の英霊も一度は死んだ身。
その死んだ過去を知られればどんなに強力なサーヴァントでもひとたまりもない。
要するに、サーヴァントの名前を知られるというのは、情報戦に負けたと同意義。
そんな状態で対戦に臨んだら対策を練られてあっという間に殺されてしまう。」
だから昨晩、あんなにも話し合いをしていたのだ。
初見同士とはいえ、協力しなければ戦争は負ける。
「ちなみに、聖杯を獲得したら誰がもらうの」
「いい質問だね。
僕ら、左翼陣営は聖杯より自分の命が惜しい一般人がほとんどだ。
けれど、戦争に勝てば無論、聖杯の奪い合いが起こるはず。」
「は~……めんどくさ…」
「だから最終的には壊すほうがいいと思う。
これは、他のマスターには言っていないけど。
君は本当に興味がなさそうだから。」
それだけは当たっている。
聖杯が手に入ろうがにわかに信じられない上に面倒だ。
「手短に説明が済んでよかったよ。
それじゃあ、これから敵の調査に行くから。」
無精ひげは目じりを細くさせた。
「セイバーは最優のサーヴァントって言われてる。
嬢ちゃんも早く復帰してもらえるとこっちの負担も減るんだがな。」
ランサーはそんなことを言ってマスターの後を追うように姿を消していく。
しかし、無精ひげの男がひょっこり顔を出した。
「そういえば、セイバーの前のマスターは
グレゴリー・アレクサシェンコ
彼についても色々調べてみるよ。」
「…ぐれ…させこ…?」
横文字の耳に慣れない名前は脳を停止させるのに十分すぎる。
首を傾げ、ゆっくりスライドしていく無人のドアがしっかりと閉じられた。
「…グレゴリー・アレクサシェンコ、だ。
他のマスターたちには一般人、と言っていたが、彼は正真正銘、生粋の魔術師だ。」
「……そんなオチだろうとは思ったよ」
「普通、マスターとサーヴァントは魔力のパスを繋ぐことが前提で主従となる。
しかし彼は『マスター権』を己に。『魔力供給権』をあなたに。
分割して三つ巴の主従関係にしていた。」
俗にいう、三角関係、というものだ。
とはいえ、改めて下腹部と目に刺されていたモノが何をくらっていたのかが分かった。
「じゃあ、魔力を延々と食われてただけか」
「それでも魔力を取られすぎると衰弱死する。
俺はそれを見過ごせなかった。
結果的に、巻き込んでしまったのは…すまない。」
深々と頭を下げる。
おそらく、マスターを殺せば自分も消滅すると思っていたようだ。
しかし、今度は魔力供給をしているこっちにマスター権が移った。
そういうことなのだろう。
「…ほっといて。
休みたいから」
「……ああ」
◇
しかし、あと6日経てばあの震えていた少女が殺されるかもしれないという事実がある。
夜風に当たりながらぼんやりと考えていた。
「カズマ、そろそろ眠ったほうがいい。」
「……そういえば、ソレなに」
「それ、とは」
体に光る模様を指さす。
「ああ、これは…なんというか
証、みたいなものだ。
あまりこれ自体に意味はないから気にしないでいい。」
「触りたい」
「!?」
目を見開くものの、小さくうなずいた。
それを確認して、指先で触る。
体温と似た暖かさだ。
ここだけ堅いのかと思えば、割とそうではないようだ。
力を込めてつついても、特にこれといったものはない。
「もう…いいか?
くすぐったいのだ」
「あー、はい」
指を離し、そそくさと毛布に潜る。
次の日。
担当医が検査をするのだが、今日は私の担当医が急用とかで別の医師が検査した。
取り立てて珍しい事ではない。
けれどこの医師はとばっちりを食らったも同然だろう。
フランス語も英語もわからない日本人相手に診察だけでも一苦労だ。
一応看護師からもらった英語辞典を使ってたどたどしく会話はしている。
『経過は、良好です…』
なんとなくのニュアンスを受け取り、どうも、と伝える。
カルテにさらさらと書いて、それを看護師に渡す。
この病室には医師がいるだけとなった。
それでもまぁ、例のサーヴァントはいるのだが。
『では、今日の痛み止めを出しておきます…
そのぉ…担当医から話は伺っているのですが…痛み止めが少し強いのではないかと思いまして…』
「はぁ?」
なんと言っているかわからない。
わからないのに律儀に説明しようとしている。
それにしてもだ、この医師先ほどから挙動不審である。
無造作に出された薬が袋の中から出てきた。
『とにかく、これで適切な量なので…』
不可解な顔をしていると、ふと耳元で声がする。
セイバーの声だ。
〔従来の痛み止めが強すぎるため、少し弱い痛み止めを出すと言っている。〕
通訳してくれているようだ。
サーヴァントとはそんなにも便利なものなのか。
今度から翻訳こんにゃくと呼ぼう。
勝手にそう決めて、新たに渡された紙面に目を通す。
『それでは、紙面に成分を書いているので…あ、もちろん英語ですよ』
貰った紙と、小さな白い紙袋
様子がおかしいので、念のため尋ねた。
「アー…Are you OK?」
『へっ!?』
「えっと…You look sick」
『そうですかねえ…私はいたって健康ですよ!
さ、次の患者がいるので私はこれで』
にこっと軽やかに、一番自然に笑ってみせた。
余計変だ。
そう確信して、医師が部屋を出てから薬を開けてみせた。
「それは飲まないほうがいいだろう」
銀の髪と、ほんのりと色黒の肌に発光する刺青。
「それでなくとも飲むつもりはないよ」
どんな意図があってこの薬を渡したのかわからないが、自分の直感を信じるしかない。
それから午後はとりわけ何かをするわけでもなく、突然の来訪者もなく過ごしていた。
じっとしていれば痛むこともないので眠ることで暇な時間をつぶす。
明日もこのような感じなのだろう。
電気を消した部屋で夜風に当たっていると、巡回の看護師の足音がする。
ゴムのスリッパがギュムギュムと音を立てるのは特徴的だ。
ベッドに入って寝たふりをする。
しかし、スゥッとスライドドアを開けて入ってきてベッドのそばに立ち尽くしている。
懐中電灯の明かりはない。
小さな音しか聞き取れないが、何かをしている。
体を触られているわけではないのだが、不安はよぎる。
ここままでは危ないのでは?
頭の中で警告の声。
そうだ、これは危ない。どう考えたっておかしい。
起き上がると、看護師と思っていた人物が悲鳴を上げて尻もちをついた。
そしてひとりでに蛍光灯の明かりがついた。セイバーがつけたのだろう。
「…!
今朝の医者…」
『ち、ちが、これは、ちがう
う、うう。』
うろたえながら、走って部屋を出ようとするも、扉があかない。
セイバーがカギを閉めたからだ。
医師は気が動転してそのことさえ気づかない。
『俺がやったわけじゃない!!俺だってやりたくてやったわけじゃない…!』
一体何がどうしたというのか。
すると、手の甲に刺さっていた点滴を急に抜かれた。
「い゛っだぁ!」
「すまない。」
もちろんこんなことをするのはセイバー以外にいない。
睨み上げるも、セイバーは視線を医師にやった。
『説明してもらおうか。
誰から指示された。』
『ヒィッ!!』
こんな大男から迫られたら大人でも泣き出すに決まっている。
けれどこの医者だけはもっと別の理由で泣きべそをかいていた。
『このままのこのこ帰るならば、お前の命はないだろう。
ただし、理由を話すならば話は別だ。』
『ち、ちがうんだ!あれは!その!医療用の…』
『今朝も毒を薬と称して渡していたな。
素直に話せ。』
背中の剣に手を向ける。
思わずこちらまで緊張が高ぶる。
駆け引きだけではない、命のやり取りをされているのだと気づいた。
『マスターを狙うならば容赦しない。』
『は、話す!!話しますから!!』
及び腰の医師はドアにもたれながら床に倒れこんだ。
が、その時、
『う…おごっ………ま゛っ…まっでぇ…俺は…ま゛だ…』
体が異常なほど膨れ上がった。
風船のように空気を無理やり入れられているようだ。
そんな異常状態も一瞬だ。
セイバーはすぐさま私を抱きかかえて窓から飛び降りた。
直後、部屋が爆発。
セイバーの肩越しに見えたその惨状が目にこびりつく。
「目を閉じていてくれ。」
爆発の轟音も気にせず病院を抜ける。
何が起こったのか、何をされたのかわからないまま、セイバーに抱かれて逃げている。
ただ、あの爆発の音が忘れられそうになく、きつく目をつむった。
◇
森の中で降ろされ、先ほどの説明をしてもらおうと思ったが、人差し指を立てた。
「じっとしていてくれ。」
背中から大剣を引き抜く。
そしてこちらに背を向けて警戒している。
(今更…心臓がばくばくしてる)
右手で胸を抑える。
(明日、どうなるんだろう…)
言い知れない不安も生まれた。
今まで明日や人生のことなどまともに考えたことはない。
しかし、今は命の危機のせいか、無意味なほど深く考えてしまう。
「セイバー!ここにいましたか!」
「ライダー!すまない、助かった。」
「マスターはどちらに」
現れたのは昨夜見たライダーだ。
セイバーに抱かれて無事を示す。
「では私についてきてください。
ここにいるよりは安全です。」
ライダーの案内により複雑な通りを抜ける。
先ほどの大きな爆発もあいあまって、人々が起きているからこそ人目を避けているのだろう。
「こちらです、どうぞ」
招き入れたのは教会だ。
イエスキリストの偶像が月あかりに照らされている。
夜の教会は静寂であり、赤く燃える部屋などとは正反対だ。
「はぁ………」
手足の肌が鋭利になったかのように、ひりひりしている。
火傷などではない。突然の事件に全身が驚いていた。
「ここなら安全だ。」
私に声をかけながら、さらに奥に進むと民家と繋がっている。
ライダーに勧められるがまま、中にはいるとライダーのマスターがいた。
杖をついている。
『ライダー!無事でしたか!』
『ええ、セイバーもそのマスターも無事です。
ですが少し動転されている様子です。』
『そうですか…では今晩は空きの部屋で休んでもらいましょう。
明日、Mr.キリシキに意見を伺いましょう。』
『わかりました。そのように。』
フランス語をつらつらと使われて何を話していたのかわからないものの、ライダーは言った。
「今晩はここで休んでください。
マスターもそうするように勧めてくださいました。
部屋に案内しましょう。」
『感謝する。』
2階に上がり、ベッドがいくつか並べられている部屋へ。
そこでようやく降ろされ、私も口を開いた。
「あれ…何なの…」
「敵の襲撃だな。医者を利用するとは思いもしなかったが。」
「敵のクラスは判明していますか?」
「妥当に考えればキャスタークラスだと読んでいるが…姿を見たわけではない。」
「ちがうそういうことじゃ…ない」
空いている目を押える。
頭の中がこれ以上の情報を拒絶している。
「…すまない、少し二人にしてもらえるか」
「ええ、無論です。
他の陣営にも連絡をしなければなりませんし。
何かありましたら呼んでください。」
ライダーが部屋を出ると、セイバーを目の前に膝をつく。
「どういう状況か、わかってる、けど」
「ああ、無理もない。」
ただ、監禁されてから臆病になっている自分が嫌に感じた。
映画のような過激なものはテレビ越しに見るのと間近で見るのとは全く違う。
「う…くそっ……」
泣き出しそうで、ベッドから立ち上がれなさそうで。
それでもセイバーは黙ったままそばにいた。
責めもしなければ励ましもしない。
ただ一般人の反応としてはそれが普通だと言わんばかりだ。
昨日の事は嘘ではないと頭でわかっているはずだ。
けれど、どうにも信じられない。
何しろ連続で起き続けている感覚で、疲れがあった。
気疲れ、というものに近い。
『失礼…こういうものですが』
無礼にも急に入ってきたのは警察だった。
フランス語で相変わらず何を話しているのかはわからない。
しかし警察手帳を見てわかった。
監禁された事件について調べるのだと。
さっさと聴取を済ませたいせいか半端な通訳者を連れてきているようだ。
とにかく早く休むためにありのままのことを言うのだが、私の『被害者』という感覚が薄いためか怪訝な顔をされるばかりだった。
『まぁ、一応は調べてみますが…
ああ、それはそうと日本大使館に連絡して完治する間ビザを発行してもらうようになったので』
簡単に重要なことを言って去っていった。
はあ、とまたため息をつく。
誰も居なくなった部屋は無音。
耳が先ほどの会話のせわしなさを覚えている。
「大丈夫か」
「うわっ!?」
「す、すまない」
急に現れたセイバー。
文字通り、気配もなく、何もないところから発生したのだから驚くなというほうが無理だ。
「…今度はなに」
「いや…
横になってもらって構わない。」
いいや、何も用がないのに突然現れるわけがない。
何か言いたいことがあったのだろう。
「…昨夜の聖杯戦争の話だ。」
「それは後にして」
「…そうか」
「後にできねぇんだよなあこれが」
「ッ!!」
瞬きの間に急に人が増えた。
驚きのあまりベッドから落ちそうになったがセイバーがやはりキャッチして未然に防いだ。
「っと、悪い悪い」
「っ~~!」
「急に現れるのはやめてもらえるか。」
「そんなに驚くとは思わなかったんだよ。」
息を吐いて、心臓を落ち着かせる。
そこで新たな来訪者。
「やあ、秦民 一真くん」
「……出ていけ」
「まぁまぁ、そう邪険にしないでくれ。
君の命に係わるからね。」
例の黒い空間にいた無精ひげだ。
名前は、忘れた。
「ランサー陣営が、そろって何の用だ。」
「聖杯戦争の内容だよ。
まだ具体的に教えてないんじゃないかと思ってね」
さっき、それは後にしろと言ったばかりなのにコレだ。
今回、とことん運が悪いとみた。
「さっさと終わってほしそうな顔をしているから手早く説明するよ。
僕なりの親切だと思って目をつむってくれ。」
「はぁ……じゃあはやく言って」
「それじゃ遠慮なく。
ある程度の説明はされていると思うけど、念のため。
聖杯戦争というのは本来7人の参加者同士の殺し合い。しかし今回は7対7の団体戦みたいなものだ。
君のセイバーと同じように7人の人間がサーヴァントを使役している。
僕の場合はランサーだ。
残りは、アーチャー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー
7つのクラスにあてはめられた過去の偉人、英雄に代わりに戦ってもらう。
まぁ、マスターもそれなりに自衛しないといけないけれど。」
「…じゃあ、このセイバーも過去の人間?」
「はは、人間、というカテゴライズは良くないな
サーヴァントはいずれにしても生前から人間の枠から外れているのがほとんどだ。
英霊、と呼ぶのが正しい。」
「あっそ」
枕を背に挟み、もたれる。
さっさと終わってほしい、さっさと話せ、という感情が抑えられない。
要はしばらく眠りたいだけだ。
「そもそもサーヴァントっていうのは契約主の魔力で存在ができている。つまり契約主を殺せばサーヴァントも消滅するという仕組みだ。
この聖杯戦争は、サーヴァントがサーヴァントを倒すなんて方法あまりとらない。
サーヴァントが敵のマスターを殺しに行くのがベストで効率もいい。」
「……は?
じゃあ私も狙われるってこと?」
「とはいえ、この聖杯戦争は対戦式だ。
毎回1週間の情報戦が行われるらしい。
さっき言ったように過去の英霊も一度は死んだ身。
その死んだ過去を知られればどんなに強力なサーヴァントでもひとたまりもない。
要するに、サーヴァントの名前を知られるというのは、情報戦に負けたと同意義。
そんな状態で対戦に臨んだら対策を練られてあっという間に殺されてしまう。」
だから昨晩、あんなにも話し合いをしていたのだ。
初見同士とはいえ、協力しなければ戦争は負ける。
「ちなみに、聖杯を獲得したら誰がもらうの」
「いい質問だね。
僕ら、左翼陣営は聖杯より自分の命が惜しい一般人がほとんどだ。
けれど、戦争に勝てば無論、聖杯の奪い合いが起こるはず。」
「は~……めんどくさ…」
「だから最終的には壊すほうがいいと思う。
これは、他のマスターには言っていないけど。
君は本当に興味がなさそうだから。」
それだけは当たっている。
聖杯が手に入ろうがにわかに信じられない上に面倒だ。
「手短に説明が済んでよかったよ。
それじゃあ、これから敵の調査に行くから。」
無精ひげは目じりを細くさせた。
「セイバーは最優のサーヴァントって言われてる。
嬢ちゃんも早く復帰してもらえるとこっちの負担も減るんだがな。」
ランサーはそんなことを言ってマスターの後を追うように姿を消していく。
しかし、無精ひげの男がひょっこり顔を出した。
「そういえば、セイバーの前のマスターは
グレゴリー・アレクサシェンコ
彼についても色々調べてみるよ。」
「…ぐれ…させこ…?」
横文字の耳に慣れない名前は脳を停止させるのに十分すぎる。
首を傾げ、ゆっくりスライドしていく無人のドアがしっかりと閉じられた。
「…グレゴリー・アレクサシェンコ、だ。
他のマスターたちには一般人、と言っていたが、彼は正真正銘、生粋の魔術師だ。」
「……そんなオチだろうとは思ったよ」
「普通、マスターとサーヴァントは魔力のパスを繋ぐことが前提で主従となる。
しかし彼は『マスター権』を己に。『魔力供給権』をあなたに。
分割して三つ巴の主従関係にしていた。」
俗にいう、三角関係、というものだ。
とはいえ、改めて下腹部と目に刺されていたモノが何をくらっていたのかが分かった。
「じゃあ、魔力を延々と食われてただけか」
「それでも魔力を取られすぎると衰弱死する。
俺はそれを見過ごせなかった。
結果的に、巻き込んでしまったのは…すまない。」
深々と頭を下げる。
おそらく、マスターを殺せば自分も消滅すると思っていたようだ。
しかし、今度は魔力供給をしているこっちにマスター権が移った。
そういうことなのだろう。
「…ほっといて。
休みたいから」
「……ああ」
◇
しかし、あと6日経てばあの震えていた少女が殺されるかもしれないという事実がある。
夜風に当たりながらぼんやりと考えていた。
「カズマ、そろそろ眠ったほうがいい。」
「……そういえば、ソレなに」
「それ、とは」
体に光る模様を指さす。
「ああ、これは…なんというか
証、みたいなものだ。
あまりこれ自体に意味はないから気にしないでいい。」
「触りたい」
「!?」
目を見開くものの、小さくうなずいた。
それを確認して、指先で触る。
体温と似た暖かさだ。
ここだけ堅いのかと思えば、割とそうではないようだ。
力を込めてつついても、特にこれといったものはない。
「もう…いいか?
くすぐったいのだ」
「あー、はい」
指を離し、そそくさと毛布に潜る。
次の日。
担当医が検査をするのだが、今日は私の担当医が急用とかで別の医師が検査した。
取り立てて珍しい事ではない。
けれどこの医師はとばっちりを食らったも同然だろう。
フランス語も英語もわからない日本人相手に診察だけでも一苦労だ。
一応看護師からもらった英語辞典を使ってたどたどしく会話はしている。
『経過は、良好です…』
なんとなくのニュアンスを受け取り、どうも、と伝える。
カルテにさらさらと書いて、それを看護師に渡す。
この病室には医師がいるだけとなった。
それでもまぁ、例のサーヴァントはいるのだが。
『では、今日の痛み止めを出しておきます…
そのぉ…担当医から話は伺っているのですが…痛み止めが少し強いのではないかと思いまして…』
「はぁ?」
なんと言っているかわからない。
わからないのに律儀に説明しようとしている。
それにしてもだ、この医師先ほどから挙動不審である。
無造作に出された薬が袋の中から出てきた。
『とにかく、これで適切な量なので…』
不可解な顔をしていると、ふと耳元で声がする。
セイバーの声だ。
〔従来の痛み止めが強すぎるため、少し弱い痛み止めを出すと言っている。〕
通訳してくれているようだ。
サーヴァントとはそんなにも便利なものなのか。
今度から翻訳こんにゃくと呼ぼう。
勝手にそう決めて、新たに渡された紙面に目を通す。
『それでは、紙面に成分を書いているので…あ、もちろん英語ですよ』
貰った紙と、小さな白い紙袋
様子がおかしいので、念のため尋ねた。
「アー…Are you OK?」
『へっ!?』
「えっと…You look sick」
『そうですかねえ…私はいたって健康ですよ!
さ、次の患者がいるので私はこれで』
にこっと軽やかに、一番自然に笑ってみせた。
余計変だ。
そう確信して、医師が部屋を出てから薬を開けてみせた。
「それは飲まないほうがいいだろう」
銀の髪と、ほんのりと色黒の肌に発光する刺青。
「それでなくとも飲むつもりはないよ」
どんな意図があってこの薬を渡したのかわからないが、自分の直感を信じるしかない。
それから午後はとりわけ何かをするわけでもなく、突然の来訪者もなく過ごしていた。
じっとしていれば痛むこともないので眠ることで暇な時間をつぶす。
明日もこのような感じなのだろう。
電気を消した部屋で夜風に当たっていると、巡回の看護師の足音がする。
ゴムのスリッパがギュムギュムと音を立てるのは特徴的だ。
ベッドに入って寝たふりをする。
しかし、スゥッとスライドドアを開けて入ってきてベッドのそばに立ち尽くしている。
懐中電灯の明かりはない。
小さな音しか聞き取れないが、何かをしている。
体を触られているわけではないのだが、不安はよぎる。
ここままでは危ないのでは?
頭の中で警告の声。
そうだ、これは危ない。どう考えたっておかしい。
起き上がると、看護師と思っていた人物が悲鳴を上げて尻もちをついた。
そしてひとりでに蛍光灯の明かりがついた。セイバーがつけたのだろう。
「…!
今朝の医者…」
『ち、ちが、これは、ちがう
う、うう。』
うろたえながら、走って部屋を出ようとするも、扉があかない。
セイバーがカギを閉めたからだ。
医師は気が動転してそのことさえ気づかない。
『俺がやったわけじゃない!!俺だってやりたくてやったわけじゃない…!』
一体何がどうしたというのか。
すると、手の甲に刺さっていた点滴を急に抜かれた。
「い゛っだぁ!」
「すまない。」
もちろんこんなことをするのはセイバー以外にいない。
睨み上げるも、セイバーは視線を医師にやった。
『説明してもらおうか。
誰から指示された。』
『ヒィッ!!』
こんな大男から迫られたら大人でも泣き出すに決まっている。
けれどこの医者だけはもっと別の理由で泣きべそをかいていた。
『このままのこのこ帰るならば、お前の命はないだろう。
ただし、理由を話すならば話は別だ。』
『ち、ちがうんだ!あれは!その!医療用の…』
『今朝も毒を薬と称して渡していたな。
素直に話せ。』
背中の剣に手を向ける。
思わずこちらまで緊張が高ぶる。
駆け引きだけではない、命のやり取りをされているのだと気づいた。
『マスターを狙うならば容赦しない。』
『は、話す!!話しますから!!』
及び腰の医師はドアにもたれながら床に倒れこんだ。
が、その時、
『う…おごっ………ま゛っ…まっでぇ…俺は…ま゛だ…』
体が異常なほど膨れ上がった。
風船のように空気を無理やり入れられているようだ。
そんな異常状態も一瞬だ。
セイバーはすぐさま私を抱きかかえて窓から飛び降りた。
直後、部屋が爆発。
セイバーの肩越しに見えたその惨状が目にこびりつく。
「目を閉じていてくれ。」
爆発の轟音も気にせず病院を抜ける。
何が起こったのか、何をされたのかわからないまま、セイバーに抱かれて逃げている。
ただ、あの爆発の音が忘れられそうになく、きつく目をつむった。
◇
森の中で降ろされ、先ほどの説明をしてもらおうと思ったが、人差し指を立てた。
「じっとしていてくれ。」
背中から大剣を引き抜く。
そしてこちらに背を向けて警戒している。
(今更…心臓がばくばくしてる)
右手で胸を抑える。
(明日、どうなるんだろう…)
言い知れない不安も生まれた。
今まで明日や人生のことなどまともに考えたことはない。
しかし、今は命の危機のせいか、無意味なほど深く考えてしまう。
「セイバー!ここにいましたか!」
「ライダー!すまない、助かった。」
「マスターはどちらに」
現れたのは昨夜見たライダーだ。
セイバーに抱かれて無事を示す。
「では私についてきてください。
ここにいるよりは安全です。」
ライダーの案内により複雑な通りを抜ける。
先ほどの大きな爆発もあいあまって、人々が起きているからこそ人目を避けているのだろう。
「こちらです、どうぞ」
招き入れたのは教会だ。
イエスキリストの偶像が月あかりに照らされている。
夜の教会は静寂であり、赤く燃える部屋などとは正反対だ。
「はぁ………」
手足の肌が鋭利になったかのように、ひりひりしている。
火傷などではない。突然の事件に全身が驚いていた。
「ここなら安全だ。」
私に声をかけながら、さらに奥に進むと民家と繋がっている。
ライダーに勧められるがまま、中にはいるとライダーのマスターがいた。
杖をついている。
『ライダー!無事でしたか!』
『ええ、セイバーもそのマスターも無事です。
ですが少し動転されている様子です。』
『そうですか…では今晩は空きの部屋で休んでもらいましょう。
明日、Mr.キリシキに意見を伺いましょう。』
『わかりました。そのように。』
フランス語をつらつらと使われて何を話していたのかわからないものの、ライダーは言った。
「今晩はここで休んでください。
マスターもそうするように勧めてくださいました。
部屋に案内しましょう。」
『感謝する。』
2階に上がり、ベッドがいくつか並べられている部屋へ。
そこでようやく降ろされ、私も口を開いた。
「あれ…何なの…」
「敵の襲撃だな。医者を利用するとは思いもしなかったが。」
「敵のクラスは判明していますか?」
「妥当に考えればキャスタークラスだと読んでいるが…姿を見たわけではない。」
「ちがうそういうことじゃ…ない」
空いている目を押える。
頭の中がこれ以上の情報を拒絶している。
「…すまない、少し二人にしてもらえるか」
「ええ、無論です。
他の陣営にも連絡をしなければなりませんし。
何かありましたら呼んでください。」
ライダーが部屋を出ると、セイバーを目の前に膝をつく。
「どういう状況か、わかってる、けど」
「ああ、無理もない。」
ただ、監禁されてから臆病になっている自分が嫌に感じた。
映画のような過激なものはテレビ越しに見るのと間近で見るのとは全く違う。
「う…くそっ……」
泣き出しそうで、ベッドから立ち上がれなさそうで。
それでもセイバーは黙ったままそばにいた。
責めもしなければ励ましもしない。
ただ一般人の反応としてはそれが普通だと言わんばかりだ。