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聖杯戦争準備期間4日目。
手の熱さは少しずつ引いてきた。
だが痛みで目が覚める夜は続くだろう。
だがそれよりも今朝、私が眠っている間に警察が来たようだ。
ヴィクトルが少々気を病んでいるのはそのせいかもしれない。
「刑事に目をつけられてはうかつに行動できません
カズマさんもこの部屋から極力出ないようにしたほうがいいでしょう」
「私を探してたの?」
「いや…詩絵李について調べているようだ。
手の甲の令呪を見られた」
相手が魔術に詳しくない者で安心した、とサーヴァントたちは結論を出していたが私は首をかしげる。
そもそも、令呪ってなんだ?という疑問だ。
『これからは、手の甲を隠さなければ…
教会に居た頃は手袋でよかったのですが…』
『あの刑事が当面厄介ですね
聖杯戦争をもしも感づかれたならば最悪の場合…』
さっそく別の話題に移り変わろうとしているため、改めて話を戻す。
今の段階で私に分かることといえば、十分な説明を受けていないことだけだ。
「あのさあ………令呪って、なに」
セイバーは一瞬呆けた顔をしたが次第に「あっ、忘れてた」と顔に映し出す。
「す、すまない…すまない……失念していた…
カズマの場合ちょうど左手の甲にある赤い模様が令呪だ…」
以前左手を消毒してもらったとき目を伏せていたので私は確認していない。
セイバーだけが目視している。
代わりにヴィクトルの右手の甲を見せてもらうと、鮮やかな赤い模様が見える。
「へぇ
令呪ってそもそも何?」
「そうですね、カズマさん向けに言うならば、3回サーヴァントに何でも命令できる権利です。」
「へぇ~、便利」
セイバーをじっと見ながらわざとらしく言ってやった。
とはいえそれも実際は2回が限度らしい。
「これはいわゆるマスターである証明です。
3つ目を使ってしまえばマスターの権利さえなくなってしまい、今回の聖杯戦争では脱落してしまいます。」
「命令って何でもできるの?」
「ええ、カズマさんが優秀な魔術師であればあるほど、あいまいな命令でも強制力を持ちます。
例えば、遠方にいるサーヴァントを呼んだり、強敵を打破するバックアップにもなりえるでしょう。」
とはいえこれは敵マスターも持っているということだ。
いつどんな時に使われるかわからない。
今思えばただでさえ強いマスターの陣地に突っ込もうと言った私に、セイバーの心情は穏やかではなかっただろう。
「カズマ、その令呪を使うタイミングは任せよう。」
「……うん」
◆
これだけの大きな事件が起こっているにもかかわらず小さな事件ばかり起こる。
ただ普通の刑事としてその対処に追われながらも並行して秦民一真の捜索もするため窶れ気味だった。
栄養補給ドリンクを飲みながら書類を眺めている時、一人の刑事があわただしく部屋へ入ってきた。
皆、なんだなんだと冷ややかな目で見ていたがその刑事の持ち込んだ情報で目の色を変える。
『エオス…エオス・ゴッドスピードが!!この街で目撃されました!!』
思わずドリンクを噴き出す。
そしてそれまで考えていたことが一気に真っ白になった。
エオス・ゴッドスピード、簡単に言えば大量殺人鬼だ。
文字通り老若男女問わず殺して回った。たとえそれが赤ん坊でもだ。
殺した人数は200にのぼり、殺害方法は多岐にわたる。
それまでは自分の生まれたその村で医者として勤め、若いながらもその腕が良さと人柄が評判で遠方からも患者がやってくるほどだったという。
そんな彼女が一夜にして村人全員を殺しつくす理由は正しくはわかっていない。
そして恐ろしいことに現場には一目で己の犯行だとわかる物的証拠が残らなかった。
むしろ明瞭に残っていた証拠が“エオス医師だけが生き残っていた”という事実だけだ。
これが表向きに出回っている情報。
正確には、“殺さざるを得ない”状況であった。
そして時計塔は彼女をある意味称賛している。
(にしたってなぜこのフランスに…!)
すぐに街に警備員、警官、機動隊が派遣される。
こうして厳戒態勢が敷かれることとなった。
こうなってはデスクで考えている時間が惜しい。
この街に起きている異常事態を早急に確認しなければいつまでたっても後手に回ってしまう。
まず何をすべきか。
とりあえず、詩絵李・B・カーロの手の甲にある例の紋について聞き取りしなければならない。
今わかっていることはこれしかないのだから。
こういった場合、一番は情報屋に聞けばいいのだろうが逆にあちこち言いふらされても困る。
ならどこに聞けばいいのかと言えば、この街にあるとあるIT会社の本社だ。
ネットに関してはこの街だけでなく州までもを受け持っている。
そこならばネットの裏社会、女子高生が立ち入ってしまいそうな場所まで知っているだろうと踏んだのだ。
見上げるほどのビルにやや圧倒されながらも受付ロビーに立ち入った。
「失敬、こういうものですが」
警察手帳を見せると受付嬢はぎくりと顔色をこわばらせた。
立ち入り調査でもされるのかと思っているに違いない。
「巷で事件が起こっていることについて、情報提供をしていただきたい。
ああ、個人情報なんかじゃなく。
とにかく、話が分かりそうな上司に連絡できませんかね。」
「え、ええ、少々お待ちください」
受付嬢は電話をして、すぐに来られる上の者を呼んだ。
このロビーに到着するまで数分はかかるようだ。
念のためそれとなく話をする。
「ところで、この街でこのマークをつけた人、見かけたりしませんでした?」
「え?いいえ、まったく見たことありません」
「そうですか、じゃあ忘れてください。
それと、日本人を見たことは?
このぐらいの背丈で、女の子なんですが」
しばし考えたようにして、ハッと、何か思い出したような顔をする。
やや興奮気味に話を始めた。
「そういえば2,3日前!私の同僚に当たる者が日本人二人の対応で大変迷惑していたんです。
1人は無精ひげを生やした黒髪の中年男性で、もう一人は背の低い女の子です。片目を隠していたそうです。」
「それ、本当ですか!」
「ええ、それこそ今からくるミカエル・アルボーがその二人を連れだしてくれたのですが…
いつくるかわからないので一応受付全員に注意を促しているんです」
思わぬところで尻尾を掴んだ!
秦民一真は同じ日本人に匿ってもらっているということか。
それならばミカエルにその情報を人質にして、例の紋について調べさせることも可能だ。
しめしめと、にやつく表情はやめられないまま、ミカエルを迎えた。
「お忙しいところ申し訳ありません」
「ええ、まぁ…それで、刑事さんが一体何の用です」
「ここではなんですので、少し場所を移しましょうか…」
さぁ、尻尾を出せ!居場所を教えろ!
まるで自分が悪魔になったかのように思えたが、それでこの事件を解決できるなら悪魔にでもなろう。
そして話を切り出す。
「先日、女子高生が変死して発見されました。
その少女の手の甲にはこんなマークがあったのです。」
ミカエルは苦虫を噛み潰したような表情をしてうっすら脂汗をかいていた。
「IT企業なら、こんなマークをした裏サイトなんかにお強いだろうと思いまして」
「…いいえ、わかりませんね
そもそもそういうサイトにはウイルスやらハッキング経路を作ってしまう可能性がありますので開かぬよう指導しています。
他の職員に尋ねても同じ回答をすると思いますよ。」
「ですが、あなたならこれがなんなのか、調べられるんじゃないんですか?」
顔がこわばる。
これはあたりだ。
思わず笑みがこぼれた。
「それとあなたには個人的に尋ねたいことがありまして」
「な、なんですか」
「秦民一真と会っていましたね?」
一時、あれだけニュースに取り上げられているのだ。
名前くらいは聞いたことはあるだろう。
ミカエルは何も言わず沈黙した。
「それともう一人の日本人に。
単刀直入に聞きます
彼女は今どこに
隠しだてするならば、書類送検くらいはできますけど」
「………ああ、そうさ
あのJAPに会っていた…」
「居場所は」
「さぁな…ただ、奴は神父と一緒に居るってのは聞いたことがある。」
「神父…神父って…ヴィクトル・ベシー!?」
「ああ、そんな名前だったかな…
ただ刑事さん、あんまり深入りすると、やばいことになるぞ」
「やばい、とは?」
「もう一人の日本人、切敷っていう男だが
そいつ曰く、あまり話しすぎると、知ってしまった部外者を“殺さなければならない”と言っていた
俺はどういう意味かさっぱりだが、一応教えておく」
ミカエルははぁ、とため息をついて歩き出す。
逃げられる前に名刺を差し出す。
「何かあればこれに連絡を」
「とりあえず受け取っておくよ」
ミカエルが去った後、急ぎヴィクトル神父の元へ駆ける。
◆
ピンポン…ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
連打されている。
あまりのうるささにヴィクトルでさえ眉を潜ませていた。
『マスター様子を見てきます。』
ライダーが霊体化し、玄関の様子を見に行った。
そして瞬きする間にすぐ帰ってきた。
『この間の刑事です。』
『な……』
『おそらく何か確実な情報を握って来ています。
出るのは得策ではありません』
声を潜ませながら会話しているなか、チャイムは絶え間なく続く。
次第に隣人が怒鳴り声をあげた。
そしてチャイムは止んだものの、それでも未だ玄関前にいるだろう。
『とはいえ、このまま居座られるのも困りものだな』
『外からマスターを脱出させようにも、人目につきます。』
『で、でしたら…いったん出て、お帰り願いましょう…
こちらにはやましいことなど…ありはしないのですから』
ヴィクトルはゆっくり立ち上がり、玄関の元へ。
玄関を開けると、やはり先日の刑事がそこに立っていた。
ヴィクトルにはわからないものの、刑事もとい秋巳大輔は笑みを浮かべていた。
『あの…?』
『先日はどうも、神父さん
とりあえずお話しをうかがっても?』
『いえ、今日は体調が芳しくなく…
申し訳ありませんがお帰り願います』
『そうはいきません
失礼』
ヴィクトルの肩をのかし、ずんずんと部屋の中へ入っていく。
そして手当たり次第にドアを開けて回り、中を見る。
最後に、寝室を思しき部屋を見たが人の気配すらしない。
空だ。
『ヴィクトルさん、秦民一真をかくまっているという情報を警察は入手しています。
秦民一真は今どこに!』
『し、知りません…そんなこと…』
『いいや、あなたしかいない!』
当の本人…秦民一真は、セイバーが急に被せてきた外套に身を包んで隠れていた。
セイバーが言うにはこの外套は簡単に人に見つからないような仕組みになっているらしい。
今まで毛布替わりとして一真にたびたび提供していたがそんな優れたアイテムだとは一ミリも知りえなかった。
そして、警察が執拗に一真の行方を捜しているのも。
(しかたない…
ここ一室、魔力痕を分析するしかない!
幸い神父は目が見えないわけだし…!)
壁に手を当てて、秋巳は魔力を探知機のように流した。
すると、一個異質なものを感じ取る。
どす黒く、まるで存在しているのがおかしいと思えるそれに背筋が凍る。
感じ取ったそこは、寝室の隅。
思い切って再び魔力を流す。
人の形をかたどるように魔力の波動が目に見える。
何かが隠れている。
むんず、と掴んで引っ張るとそこに全身包帯まみれの少女が膝を抱えていた。
剥いだものは黒い外套。
これで隠されていたようだ。
ようやく見つけた高揚感と、ここまで引っ掻き回してくれたイラつきが混ざり合う。
「ようやく見つけた!!!秦民一真!!」
腕を引っ張り立ち上がらせると、うめき声をあげる。
「お前には署で聞きたいことがある!!
神父も一緒に連れて行く!」
「っ、いた…っ!」
か細い力で抵抗する。
抵抗する気を失くすようにより強い力で押えた。
「大人しく……」
ガンッ!
頭がまるで磁石のように壁にぶつけられる。
一瞬意味が分からず視線を横にすると、そこには見知らぬ男が立っていた。
ギリギリと頭を鷲掴みにされ、痛みに声を上げる。
「がっ…!や…やめ……!」
「彼女から手を離せ」
「わかっ、た、わかったからっ…!!!」
一真から手を離すと、鷲掴みする手も離された。
「大丈夫か?」
「はぁ…はぁ……い、いた…い……」
大きな背中ごしに、痙攣する手が見える。
一体こいつはなんだ、さっきまではいなかったのに、まるで幽霊のように現れた。
そして、鋭い目で秋巳を睨んだ。
殺される、俺は獲物だ。
そう、本能で理解させられる。
「カズマの捜査にて、カズマの傷を開くこと
それは必要事項か」
息をするのも許させない。
ひゅう、ひゅう、とか細い息が自身の耳に届く。
「落ち着いてください
まずすべきことはわかっているでしょう」
また落ち着いた知らぬ声。
振りむけば長髪の物腰柔らかそうな男性が立っていた。
すぐに殺さないであろう姿勢にほっとしたのもつかの間、秋巳大輔は手刀で気絶させられることになる。
手の熱さは少しずつ引いてきた。
だが痛みで目が覚める夜は続くだろう。
だがそれよりも今朝、私が眠っている間に警察が来たようだ。
ヴィクトルが少々気を病んでいるのはそのせいかもしれない。
「刑事に目をつけられてはうかつに行動できません
カズマさんもこの部屋から極力出ないようにしたほうがいいでしょう」
「私を探してたの?」
「いや…詩絵李について調べているようだ。
手の甲の令呪を見られた」
相手が魔術に詳しくない者で安心した、とサーヴァントたちは結論を出していたが私は首をかしげる。
そもそも、令呪ってなんだ?という疑問だ。
『これからは、手の甲を隠さなければ…
教会に居た頃は手袋でよかったのですが…』
『あの刑事が当面厄介ですね
聖杯戦争をもしも感づかれたならば最悪の場合…』
さっそく別の話題に移り変わろうとしているため、改めて話を戻す。
今の段階で私に分かることといえば、十分な説明を受けていないことだけだ。
「あのさあ………令呪って、なに」
セイバーは一瞬呆けた顔をしたが次第に「あっ、忘れてた」と顔に映し出す。
「す、すまない…すまない……失念していた…
カズマの場合ちょうど左手の甲にある赤い模様が令呪だ…」
以前左手を消毒してもらったとき目を伏せていたので私は確認していない。
セイバーだけが目視している。
代わりにヴィクトルの右手の甲を見せてもらうと、鮮やかな赤い模様が見える。
「へぇ
令呪ってそもそも何?」
「そうですね、カズマさん向けに言うならば、3回サーヴァントに何でも命令できる権利です。」
「へぇ~、便利」
セイバーをじっと見ながらわざとらしく言ってやった。
とはいえそれも実際は2回が限度らしい。
「これはいわゆるマスターである証明です。
3つ目を使ってしまえばマスターの権利さえなくなってしまい、今回の聖杯戦争では脱落してしまいます。」
「命令って何でもできるの?」
「ええ、カズマさんが優秀な魔術師であればあるほど、あいまいな命令でも強制力を持ちます。
例えば、遠方にいるサーヴァントを呼んだり、強敵を打破するバックアップにもなりえるでしょう。」
とはいえこれは敵マスターも持っているということだ。
いつどんな時に使われるかわからない。
今思えばただでさえ強いマスターの陣地に突っ込もうと言った私に、セイバーの心情は穏やかではなかっただろう。
「カズマ、その令呪を使うタイミングは任せよう。」
「……うん」
◆
これだけの大きな事件が起こっているにもかかわらず小さな事件ばかり起こる。
ただ普通の刑事としてその対処に追われながらも並行して秦民一真の捜索もするため窶れ気味だった。
栄養補給ドリンクを飲みながら書類を眺めている時、一人の刑事があわただしく部屋へ入ってきた。
皆、なんだなんだと冷ややかな目で見ていたがその刑事の持ち込んだ情報で目の色を変える。
『エオス…エオス・ゴッドスピードが!!この街で目撃されました!!』
思わずドリンクを噴き出す。
そしてそれまで考えていたことが一気に真っ白になった。
エオス・ゴッドスピード、簡単に言えば大量殺人鬼だ。
文字通り老若男女問わず殺して回った。たとえそれが赤ん坊でもだ。
殺した人数は200にのぼり、殺害方法は多岐にわたる。
それまでは自分の生まれたその村で医者として勤め、若いながらもその腕が良さと人柄が評判で遠方からも患者がやってくるほどだったという。
そんな彼女が一夜にして村人全員を殺しつくす理由は正しくはわかっていない。
そして恐ろしいことに現場には一目で己の犯行だとわかる物的証拠が残らなかった。
むしろ明瞭に残っていた証拠が“エオス医師だけが生き残っていた”という事実だけだ。
これが表向きに出回っている情報。
正確には、“殺さざるを得ない”状況であった。
そして時計塔は彼女をある意味称賛している。
(にしたってなぜこのフランスに…!)
すぐに街に警備員、警官、機動隊が派遣される。
こうして厳戒態勢が敷かれることとなった。
こうなってはデスクで考えている時間が惜しい。
この街に起きている異常事態を早急に確認しなければいつまでたっても後手に回ってしまう。
まず何をすべきか。
とりあえず、詩絵李・B・カーロの手の甲にある例の紋について聞き取りしなければならない。
今わかっていることはこれしかないのだから。
こういった場合、一番は情報屋に聞けばいいのだろうが逆にあちこち言いふらされても困る。
ならどこに聞けばいいのかと言えば、この街にあるとあるIT会社の本社だ。
ネットに関してはこの街だけでなく州までもを受け持っている。
そこならばネットの裏社会、女子高生が立ち入ってしまいそうな場所まで知っているだろうと踏んだのだ。
見上げるほどのビルにやや圧倒されながらも受付ロビーに立ち入った。
「失敬、こういうものですが」
警察手帳を見せると受付嬢はぎくりと顔色をこわばらせた。
立ち入り調査でもされるのかと思っているに違いない。
「巷で事件が起こっていることについて、情報提供をしていただきたい。
ああ、個人情報なんかじゃなく。
とにかく、話が分かりそうな上司に連絡できませんかね。」
「え、ええ、少々お待ちください」
受付嬢は電話をして、すぐに来られる上の者を呼んだ。
このロビーに到着するまで数分はかかるようだ。
念のためそれとなく話をする。
「ところで、この街でこのマークをつけた人、見かけたりしませんでした?」
「え?いいえ、まったく見たことありません」
「そうですか、じゃあ忘れてください。
それと、日本人を見たことは?
このぐらいの背丈で、女の子なんですが」
しばし考えたようにして、ハッと、何か思い出したような顔をする。
やや興奮気味に話を始めた。
「そういえば2,3日前!私の同僚に当たる者が日本人二人の対応で大変迷惑していたんです。
1人は無精ひげを生やした黒髪の中年男性で、もう一人は背の低い女の子です。片目を隠していたそうです。」
「それ、本当ですか!」
「ええ、それこそ今からくるミカエル・アルボーがその二人を連れだしてくれたのですが…
いつくるかわからないので一応受付全員に注意を促しているんです」
思わぬところで尻尾を掴んだ!
秦民一真は同じ日本人に匿ってもらっているということか。
それならばミカエルにその情報を人質にして、例の紋について調べさせることも可能だ。
しめしめと、にやつく表情はやめられないまま、ミカエルを迎えた。
「お忙しいところ申し訳ありません」
「ええ、まぁ…それで、刑事さんが一体何の用です」
「ここではなんですので、少し場所を移しましょうか…」
さぁ、尻尾を出せ!居場所を教えろ!
まるで自分が悪魔になったかのように思えたが、それでこの事件を解決できるなら悪魔にでもなろう。
そして話を切り出す。
「先日、女子高生が変死して発見されました。
その少女の手の甲にはこんなマークがあったのです。」
ミカエルは苦虫を噛み潰したような表情をしてうっすら脂汗をかいていた。
「IT企業なら、こんなマークをした裏サイトなんかにお強いだろうと思いまして」
「…いいえ、わかりませんね
そもそもそういうサイトにはウイルスやらハッキング経路を作ってしまう可能性がありますので開かぬよう指導しています。
他の職員に尋ねても同じ回答をすると思いますよ。」
「ですが、あなたならこれがなんなのか、調べられるんじゃないんですか?」
顔がこわばる。
これはあたりだ。
思わず笑みがこぼれた。
「それとあなたには個人的に尋ねたいことがありまして」
「な、なんですか」
「秦民一真と会っていましたね?」
一時、あれだけニュースに取り上げられているのだ。
名前くらいは聞いたことはあるだろう。
ミカエルは何も言わず沈黙した。
「それともう一人の日本人に。
単刀直入に聞きます
彼女は今どこに
隠しだてするならば、書類送検くらいはできますけど」
「………ああ、そうさ
あのJAPに会っていた…」
「居場所は」
「さぁな…ただ、奴は神父と一緒に居るってのは聞いたことがある。」
「神父…神父って…ヴィクトル・ベシー!?」
「ああ、そんな名前だったかな…
ただ刑事さん、あんまり深入りすると、やばいことになるぞ」
「やばい、とは?」
「もう一人の日本人、切敷っていう男だが
そいつ曰く、あまり話しすぎると、知ってしまった部外者を“殺さなければならない”と言っていた
俺はどういう意味かさっぱりだが、一応教えておく」
ミカエルははぁ、とため息をついて歩き出す。
逃げられる前に名刺を差し出す。
「何かあればこれに連絡を」
「とりあえず受け取っておくよ」
ミカエルが去った後、急ぎヴィクトル神父の元へ駆ける。
◆
ピンポン…ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
連打されている。
あまりのうるささにヴィクトルでさえ眉を潜ませていた。
『マスター様子を見てきます。』
ライダーが霊体化し、玄関の様子を見に行った。
そして瞬きする間にすぐ帰ってきた。
『この間の刑事です。』
『な……』
『おそらく何か確実な情報を握って来ています。
出るのは得策ではありません』
声を潜ませながら会話しているなか、チャイムは絶え間なく続く。
次第に隣人が怒鳴り声をあげた。
そしてチャイムは止んだものの、それでも未だ玄関前にいるだろう。
『とはいえ、このまま居座られるのも困りものだな』
『外からマスターを脱出させようにも、人目につきます。』
『で、でしたら…いったん出て、お帰り願いましょう…
こちらにはやましいことなど…ありはしないのですから』
ヴィクトルはゆっくり立ち上がり、玄関の元へ。
玄関を開けると、やはり先日の刑事がそこに立っていた。
ヴィクトルにはわからないものの、刑事もとい秋巳大輔は笑みを浮かべていた。
『あの…?』
『先日はどうも、神父さん
とりあえずお話しをうかがっても?』
『いえ、今日は体調が芳しくなく…
申し訳ありませんがお帰り願います』
『そうはいきません
失礼』
ヴィクトルの肩をのかし、ずんずんと部屋の中へ入っていく。
そして手当たり次第にドアを開けて回り、中を見る。
最後に、寝室を思しき部屋を見たが人の気配すらしない。
空だ。
『ヴィクトルさん、秦民一真をかくまっているという情報を警察は入手しています。
秦民一真は今どこに!』
『し、知りません…そんなこと…』
『いいや、あなたしかいない!』
当の本人…秦民一真は、セイバーが急に被せてきた外套に身を包んで隠れていた。
セイバーが言うにはこの外套は簡単に人に見つからないような仕組みになっているらしい。
今まで毛布替わりとして一真にたびたび提供していたがそんな優れたアイテムだとは一ミリも知りえなかった。
そして、警察が執拗に一真の行方を捜しているのも。
(しかたない…
ここ一室、魔力痕を分析するしかない!
幸い神父は目が見えないわけだし…!)
壁に手を当てて、秋巳は魔力を探知機のように流した。
すると、一個異質なものを感じ取る。
どす黒く、まるで存在しているのがおかしいと思えるそれに背筋が凍る。
感じ取ったそこは、寝室の隅。
思い切って再び魔力を流す。
人の形をかたどるように魔力の波動が目に見える。
何かが隠れている。
むんず、と掴んで引っ張るとそこに全身包帯まみれの少女が膝を抱えていた。
剥いだものは黒い外套。
これで隠されていたようだ。
ようやく見つけた高揚感と、ここまで引っ掻き回してくれたイラつきが混ざり合う。
「ようやく見つけた!!!秦民一真!!」
腕を引っ張り立ち上がらせると、うめき声をあげる。
「お前には署で聞きたいことがある!!
神父も一緒に連れて行く!」
「っ、いた…っ!」
か細い力で抵抗する。
抵抗する気を失くすようにより強い力で押えた。
「大人しく……」
ガンッ!
頭がまるで磁石のように壁にぶつけられる。
一瞬意味が分からず視線を横にすると、そこには見知らぬ男が立っていた。
ギリギリと頭を鷲掴みにされ、痛みに声を上げる。
「がっ…!や…やめ……!」
「彼女から手を離せ」
「わかっ、た、わかったからっ…!!!」
一真から手を離すと、鷲掴みする手も離された。
「大丈夫か?」
「はぁ…はぁ……い、いた…い……」
大きな背中ごしに、痙攣する手が見える。
一体こいつはなんだ、さっきまではいなかったのに、まるで幽霊のように現れた。
そして、鋭い目で秋巳を睨んだ。
殺される、俺は獲物だ。
そう、本能で理解させられる。
「カズマの捜査にて、カズマの傷を開くこと
それは必要事項か」
息をするのも許させない。
ひゅう、ひゅう、とか細い息が自身の耳に届く。
「落ち着いてください
まずすべきことはわかっているでしょう」
また落ち着いた知らぬ声。
振りむけば長髪の物腰柔らかそうな男性が立っていた。
すぐに殺さないであろう姿勢にほっとしたのもつかの間、秋巳大輔は手刀で気絶させられることになる。