Bの行く先
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発覚したのは少女の誘拐からだった。
昔から教育機関の中でも問題になっていたという秦民一家は、地域でも異色だったという。
母親は夫がいない晩はフラフラと外に出歩き、
一方父親は娘を居ないものとして扱った。
それは周知の事実であり、わざわざ通報せずとも噂は地域の保健所にまで広がっていた。
虐待の生傷が絶えない娘に児童養護施設の長が言ったそうだ。
「ここにいると死んでしまう」と。
それでも娘は言った。
『ここにいる事を望んでいるから』
まるで他人事のような感想だと思ったようだ。
娘の何がそうさせているのか。包帯まみれの体は継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみ同然だ。
いや、文字通り「ぬいぐるみ」なのだろう。
殴られ、切られ、そして抱きしめ。
いっときの温もりがぬいぐるみとしての役割を貼り付けているならば、それはもう異常としか言えない。
強烈な家族愛に為すすべはないと、語られた。
「血まみれの部屋…そこに秦民一真の指を見つけた。
これが現場の写真。
だがここには奇妙なものがあった。」
鑑識の男は薄暗い部屋の中、一枚の写真を見せた。
「この機械、ドラム缶にも見えるが中は人間の臓器が継ぎ接ぎで内側を縁取りされていた。」
「うっわ…ほんとかそれ…」
「何も入っていなかったが、これは、グレゴリーが発案した魔力貯蔵庫だ。
数十年前発案されたが、魔力は目に見えず気化する。
つまりこの貯蔵庫に入れるには"満タン"かつ"永続的に"魔力を送り続けなければならない。」
そこでハッとする。
要するに、多くの人間をここに収容し同時に魔力を搾り取っていたということも考えられる。
1人の人間の魔力ではそこまで補えるはずがないのだ。
「他にも被害者が多数いるのか!」
それには首を振る。
「血液は1人だけ。
混ざり合った形跡もない。
信じられるか?このドラム缶いっぱいに永続的に魔力搾り取られてもなお生きているんだぞ?」
身震いがした。
職業柄、魔術協会の隠蔽など手助け、さらには魔術関連の事件を解決してもみ消すことが多い。
なのでこういった魔術でしかなし得ない事件も多く見てきた。
だがこれはあまりにも被害者が化け物すぎる。
監禁日数は凡そ5日間。
そして何らかの魔術を使って自ら脱出し、グレゴリーの手首を切り落とした。死因は失血死だ。
グレゴリーの死体はリビングから発見されており鮮やかな断面はCTを撮った時のよう。
この事件を担当する秋巳大輔はおもむろに荷物を持った。
「今から事情聴取に行く」
「おいもう夜だぞ!」
「行かないと手遅れになりそうなんでな!」
その予感は見事に的中した。
病院の入り口に足を踏み入れた途端爆発が起こった。
当直の看護師に消防へ連絡するよう伝え、現場に向かう。
患者が悲鳴をあげ、地獄のようだと思った矢先に目に飛び込んだのは赤く染まった瓦礫。
肉片が飛び散り、病室は無残にも破壊されていた。
殺されたのは誰なのか。
秦民一真が殺されたとしたら一体何の理由で殺したのか?
そもそも誰が?
肉片を拾い、DNA鑑定をする。
これにはやはり数日かかるようだった。
その間に少しでも情報を仕入れる。
◆
街を歩きながらこれまでの情報を整理した。
グレゴリーが日本人を誘拐。互いに他人であり、接点など見受けられない。
だが日本人は膨大な魔力を持っていた。
そして自ら逃走。
保護された病院で療養していたが、何者かに襲撃された。
頭の痛くなる経緯だ。
このことをニュースも大々的に取り上げているため、隠蔽も、被害者でありグレゴリーを殺害したと思われる秦民一真も表には出てこられないだろう。
これは長丁場になるだろうと確信する。
そして、新たな情報として、この街に日本人を見かけたという住民がいた。
微かな可能性でも、あの秦民一真を見つけなければならない。
もしも死んでいたなら、秦民一真を殺した犯人を見つけなければならないが。
ただ、どうにも死んだとは思えなかった。
拘束されていた四肢を自力で脱出した人物だ。あの程度の爆破で死ぬのも納得いかない。
「ん?なんだ、この匂い…」
鼻につくハーブのような匂いだ。
嫌な匂いだ、と思った途端に意識が途絶えた。
冷たい石畳に不快感を覚えて目が覚める。
自分でものちに起き上がって少し笑ってしまったくらいだ。
ただ匂いを嗅いだだけで魔術らしきものにかかるなど。
(やはり…何かがおかしい!)
この事件はおかしい。
街全体が何かに巻き込まれているのではないか。
そう思わせるほどに混沌と化していた。
◆
それからというもの、この街に異常な事件が多発する。
教会への放火、遠くからの轟音、地区全員が気絶、別荘地が燃えているのに誰も気づかない。
羅列するだけでも吐き気がする謎のオンパレード。
そしてトドメの、突然の変死。
有名な高等学校に通っていた詩絵李・B・カーロが病院で死んでいたのだ。
しかも全身黒ずみ、炭になったような、乾燥されたような。
それまで別荘地の火災に巻き込まれ、救急車で搬送されたのだが大きな怪我は無い。意識もはっきりしていたと医者は言う。
もちろん命に関わるようなものなど一切なかった。
だが変わり果てた娘の死体に両親は精神に異常をきたして病院送りとなった。
それに同情しつつ、家宅捜査に入る。
『詩絵李さんは優秀な生徒だったようですが、1週間前から様子がおかしかったようです。』
『様子が?どんな風に?』
『何というか、怯えているように見えたそうです。
それにこの地区で集団気絶があったじゃないですか。
それより前からそんな様子だったということは何か知っていたんですかねぇ…』
一般家庭の少女が?
魔術など知りもしないのに?
内心から笑いしていたが、後輩刑事の続く言葉で繋がりが見えてしまった。
『あと、教会に行きたくない、とかいろいろ呟いてたそうです。
ご両親は熱心なカトリックだったんでしょうか。』
(教会…?)
詩絵李・B・カーロが教会に行くとすればどこだ?
地図を開いて、燃えた教会の位置を確認する。
そして、一家が持っていた別荘は、先日の火災で一番激しく燃やされていた。
この一連の謎を解くために、唯一居場所が掴みやすい人物をあげた。
「ヴィクトル・べシー
教会の神父さまか」
「ああ、これから事情聴取に行こうと思う。
お前は鑑定よろしくな。」
コーヒーを一服しに来ていたのだがやはり鑑定は終わっていないらしい。
息をついて席を立つと、再び話しかけられた。
「そういえば、あの変死体、右手の甲におかしな模様があってな。
若い子の流行りか?」
「模様?」
「分かりにくいが、皮膚より若干濃い色をしていたから
これだよ。刺青をしていたとは聞いていないし、アザにしては模様として成り立ち過ぎているし…」
写真をホワイトボードに貼り付ける。
一瞬どれがどうなっているのか分からないため図で書いてもらった。
「ほら、左右対称で…」
「本当だ…一体なんだ?」
「まぁ事件とは関係ないかもしれないけどな。」
とはいえ何らかの手掛かりになるかもしれない。
メモ帳に簡単に模様を描いて、部屋を後にした。
◆
チャイムを鳴らす。
教会を焼かれた神父は、友人のつてでこのマンションに移り住んでいることは分かっていた。
『はい、どなたでしょう。』
『突然すみません、こういうもの…ですが……』
目の前の神父は首をかしげる。
そして、目線が合っていない。
(まさか、盲目…?)
教会が燃やされた時、たまたま外出していたと聞くが、もし本当ならとんでもない幸運だ。
改めて自分の身分と、訪れた理由を話す。
『ああ、ええと
警察です。少しお話を伺いたくて。』
『……ええ、構いません
どうぞ中へ。』
神父はとてもゆっくり壁伝いに進み、手探りで机に触れた。
とてもおぼつかない手つきで座るためこちらが不安になるほどだ。
『慣れない家だと、どうにも…』
『教会が放火されたことで伺いました…
すみません、お辛い時に』
『いいえ、大丈夫です。
それで、聞きたいこととは?』
『早速本題に入りますが、詩絵李・B・カーロ、という女の子はご存知でしょうか。』
びく、と肩が震えた。
これはやはり何か知っているに違いない。
『先日変死体で発見されました。
数日前のことを友人に伺うと教会がどうとか言っていたそうです。
そちらにいたのではないですか?』
『ぁ…い、いえ…はい…その…
その名前は、聞き覚えがあります。
やはり、教会にいらしてた子だったのですね……』
『他に何か知りませんか?教会に行くのを嫌がっていたようですが?
疑っているわけではないんですがこれも仕事で』
そう尋ねるも、首を振るばかり。
突っ込んだ話は出来そうになかった。
ただでさえ家が焼かれ、教会に足を運んだ少女--おそらく何か接点があると思われる--が変死。自分の周りでこれだけの怪異現象が起これば無口になるのも当然かもしれない。
(これは一旦出直して情報を揃えないとな…)
などと思っている時、神父の左手の甲に赤い模様が見えた。
『それ…どうしたんですか?』
『えっ、いやっ、これは、アザ、です。
先日、慣れない家で…ぶつけてしまいまして…』
さっと手の甲を隠した。
いいやあれはアザなどではない。
詩絵李の死体からそれは分かっていた。
規則的な赤い模様。
詩絵李のものはくすんでいたがこの神父のものは違う。
何かの新興宗教か?
別のテロリストの団体?
考えは尽きない。
ここで詰めなければ二度と話を聞けないだろう。
『見せてくれませんか』
『え、いえ、その…』
『アザ、ですよね?』
神父はしどろもどろしている。
元々気の弱い印象だったが、さらにそう思わせた。
『なにか隠し事でも?』
『いえ…それは…そんなことは』
『やましいものでなければ見せてください
見せられない、というのであればこちらも疑わざるを得ませんね
詩絵李さんを殺害した……とも受け取れますが』
『………もう、お帰りください
これ以上、私の口から話せることはありません』
『わかりました。
ですがこれからも事情を聴きにまいりますので
名刺、置いておきます』
席から立ち上がり、玄関を出ようとしたとき、神父が呟いていた。
『私は…殺してなど……』
それは疑われた故の怒りの言葉なのか悔しさなのかはわからない。
少なくとも今回の訪問でヴィクトル・ベシ―の身辺調査を始めることとした。
昔から教育機関の中でも問題になっていたという秦民一家は、地域でも異色だったという。
母親は夫がいない晩はフラフラと外に出歩き、
一方父親は娘を居ないものとして扱った。
それは周知の事実であり、わざわざ通報せずとも噂は地域の保健所にまで広がっていた。
虐待の生傷が絶えない娘に児童養護施設の長が言ったそうだ。
「ここにいると死んでしまう」と。
それでも娘は言った。
『ここにいる事を望んでいるから』
まるで他人事のような感想だと思ったようだ。
娘の何がそうさせているのか。包帯まみれの体は継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみ同然だ。
いや、文字通り「ぬいぐるみ」なのだろう。
殴られ、切られ、そして抱きしめ。
いっときの温もりがぬいぐるみとしての役割を貼り付けているならば、それはもう異常としか言えない。
強烈な家族愛に為すすべはないと、語られた。
「血まみれの部屋…そこに秦民一真の指を見つけた。
これが現場の写真。
だがここには奇妙なものがあった。」
鑑識の男は薄暗い部屋の中、一枚の写真を見せた。
「この機械、ドラム缶にも見えるが中は人間の臓器が継ぎ接ぎで内側を縁取りされていた。」
「うっわ…ほんとかそれ…」
「何も入っていなかったが、これは、グレゴリーが発案した魔力貯蔵庫だ。
数十年前発案されたが、魔力は目に見えず気化する。
つまりこの貯蔵庫に入れるには"満タン"かつ"永続的に"魔力を送り続けなければならない。」
そこでハッとする。
要するに、多くの人間をここに収容し同時に魔力を搾り取っていたということも考えられる。
1人の人間の魔力ではそこまで補えるはずがないのだ。
「他にも被害者が多数いるのか!」
それには首を振る。
「血液は1人だけ。
混ざり合った形跡もない。
信じられるか?このドラム缶いっぱいに永続的に魔力搾り取られてもなお生きているんだぞ?」
身震いがした。
職業柄、魔術協会の隠蔽など手助け、さらには魔術関連の事件を解決してもみ消すことが多い。
なのでこういった魔術でしかなし得ない事件も多く見てきた。
だがこれはあまりにも被害者が化け物すぎる。
監禁日数は凡そ5日間。
そして何らかの魔術を使って自ら脱出し、グレゴリーの手首を切り落とした。死因は失血死だ。
グレゴリーの死体はリビングから発見されており鮮やかな断面はCTを撮った時のよう。
この事件を担当する秋巳大輔はおもむろに荷物を持った。
「今から事情聴取に行く」
「おいもう夜だぞ!」
「行かないと手遅れになりそうなんでな!」
その予感は見事に的中した。
病院の入り口に足を踏み入れた途端爆発が起こった。
当直の看護師に消防へ連絡するよう伝え、現場に向かう。
患者が悲鳴をあげ、地獄のようだと思った矢先に目に飛び込んだのは赤く染まった瓦礫。
肉片が飛び散り、病室は無残にも破壊されていた。
殺されたのは誰なのか。
秦民一真が殺されたとしたら一体何の理由で殺したのか?
そもそも誰が?
肉片を拾い、DNA鑑定をする。
これにはやはり数日かかるようだった。
その間に少しでも情報を仕入れる。
◆
街を歩きながらこれまでの情報を整理した。
グレゴリーが日本人を誘拐。互いに他人であり、接点など見受けられない。
だが日本人は膨大な魔力を持っていた。
そして自ら逃走。
保護された病院で療養していたが、何者かに襲撃された。
頭の痛くなる経緯だ。
このことをニュースも大々的に取り上げているため、隠蔽も、被害者でありグレゴリーを殺害したと思われる秦民一真も表には出てこられないだろう。
これは長丁場になるだろうと確信する。
そして、新たな情報として、この街に日本人を見かけたという住民がいた。
微かな可能性でも、あの秦民一真を見つけなければならない。
もしも死んでいたなら、秦民一真を殺した犯人を見つけなければならないが。
ただ、どうにも死んだとは思えなかった。
拘束されていた四肢を自力で脱出した人物だ。あの程度の爆破で死ぬのも納得いかない。
「ん?なんだ、この匂い…」
鼻につくハーブのような匂いだ。
嫌な匂いだ、と思った途端に意識が途絶えた。
冷たい石畳に不快感を覚えて目が覚める。
自分でものちに起き上がって少し笑ってしまったくらいだ。
ただ匂いを嗅いだだけで魔術らしきものにかかるなど。
(やはり…何かがおかしい!)
この事件はおかしい。
街全体が何かに巻き込まれているのではないか。
そう思わせるほどに混沌と化していた。
◆
それからというもの、この街に異常な事件が多発する。
教会への放火、遠くからの轟音、地区全員が気絶、別荘地が燃えているのに誰も気づかない。
羅列するだけでも吐き気がする謎のオンパレード。
そしてトドメの、突然の変死。
有名な高等学校に通っていた詩絵李・B・カーロが病院で死んでいたのだ。
しかも全身黒ずみ、炭になったような、乾燥されたような。
それまで別荘地の火災に巻き込まれ、救急車で搬送されたのだが大きな怪我は無い。意識もはっきりしていたと医者は言う。
もちろん命に関わるようなものなど一切なかった。
だが変わり果てた娘の死体に両親は精神に異常をきたして病院送りとなった。
それに同情しつつ、家宅捜査に入る。
『詩絵李さんは優秀な生徒だったようですが、1週間前から様子がおかしかったようです。』
『様子が?どんな風に?』
『何というか、怯えているように見えたそうです。
それにこの地区で集団気絶があったじゃないですか。
それより前からそんな様子だったということは何か知っていたんですかねぇ…』
一般家庭の少女が?
魔術など知りもしないのに?
内心から笑いしていたが、後輩刑事の続く言葉で繋がりが見えてしまった。
『あと、教会に行きたくない、とかいろいろ呟いてたそうです。
ご両親は熱心なカトリックだったんでしょうか。』
(教会…?)
詩絵李・B・カーロが教会に行くとすればどこだ?
地図を開いて、燃えた教会の位置を確認する。
そして、一家が持っていた別荘は、先日の火災で一番激しく燃やされていた。
この一連の謎を解くために、唯一居場所が掴みやすい人物をあげた。
「ヴィクトル・べシー
教会の神父さまか」
「ああ、これから事情聴取に行こうと思う。
お前は鑑定よろしくな。」
コーヒーを一服しに来ていたのだがやはり鑑定は終わっていないらしい。
息をついて席を立つと、再び話しかけられた。
「そういえば、あの変死体、右手の甲におかしな模様があってな。
若い子の流行りか?」
「模様?」
「分かりにくいが、皮膚より若干濃い色をしていたから
これだよ。刺青をしていたとは聞いていないし、アザにしては模様として成り立ち過ぎているし…」
写真をホワイトボードに貼り付ける。
一瞬どれがどうなっているのか分からないため図で書いてもらった。
「ほら、左右対称で…」
「本当だ…一体なんだ?」
「まぁ事件とは関係ないかもしれないけどな。」
とはいえ何らかの手掛かりになるかもしれない。
メモ帳に簡単に模様を描いて、部屋を後にした。
◆
チャイムを鳴らす。
教会を焼かれた神父は、友人のつてでこのマンションに移り住んでいることは分かっていた。
『はい、どなたでしょう。』
『突然すみません、こういうもの…ですが……』
目の前の神父は首をかしげる。
そして、目線が合っていない。
(まさか、盲目…?)
教会が燃やされた時、たまたま外出していたと聞くが、もし本当ならとんでもない幸運だ。
改めて自分の身分と、訪れた理由を話す。
『ああ、ええと
警察です。少しお話を伺いたくて。』
『……ええ、構いません
どうぞ中へ。』
神父はとてもゆっくり壁伝いに進み、手探りで机に触れた。
とてもおぼつかない手つきで座るためこちらが不安になるほどだ。
『慣れない家だと、どうにも…』
『教会が放火されたことで伺いました…
すみません、お辛い時に』
『いいえ、大丈夫です。
それで、聞きたいこととは?』
『早速本題に入りますが、詩絵李・B・カーロ、という女の子はご存知でしょうか。』
びく、と肩が震えた。
これはやはり何か知っているに違いない。
『先日変死体で発見されました。
数日前のことを友人に伺うと教会がどうとか言っていたそうです。
そちらにいたのではないですか?』
『ぁ…い、いえ…はい…その…
その名前は、聞き覚えがあります。
やはり、教会にいらしてた子だったのですね……』
『他に何か知りませんか?教会に行くのを嫌がっていたようですが?
疑っているわけではないんですがこれも仕事で』
そう尋ねるも、首を振るばかり。
突っ込んだ話は出来そうになかった。
ただでさえ家が焼かれ、教会に足を運んだ少女--おそらく何か接点があると思われる--が変死。自分の周りでこれだけの怪異現象が起これば無口になるのも当然かもしれない。
(これは一旦出直して情報を揃えないとな…)
などと思っている時、神父の左手の甲に赤い模様が見えた。
『それ…どうしたんですか?』
『えっ、いやっ、これは、アザ、です。
先日、慣れない家で…ぶつけてしまいまして…』
さっと手の甲を隠した。
いいやあれはアザなどではない。
詩絵李の死体からそれは分かっていた。
規則的な赤い模様。
詩絵李のものはくすんでいたがこの神父のものは違う。
何かの新興宗教か?
別のテロリストの団体?
考えは尽きない。
ここで詰めなければ二度と話を聞けないだろう。
『見せてくれませんか』
『え、いえ、その…』
『アザ、ですよね?』
神父はしどろもどろしている。
元々気の弱い印象だったが、さらにそう思わせた。
『なにか隠し事でも?』
『いえ…それは…そんなことは』
『やましいものでなければ見せてください
見せられない、というのであればこちらも疑わざるを得ませんね
詩絵李さんを殺害した……とも受け取れますが』
『………もう、お帰りください
これ以上、私の口から話せることはありません』
『わかりました。
ですがこれからも事情を聴きにまいりますので
名刺、置いておきます』
席から立ち上がり、玄関を出ようとしたとき、神父が呟いていた。
『私は…殺してなど……』
それは疑われた故の怒りの言葉なのか悔しさなのかはわからない。
少なくとも今回の訪問でヴィクトル・ベシ―の身辺調査を始めることとした。