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人間不信の少女
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人間不信の少女に優しく接する賀喜遥香
薄暗い部室の片隅で、膝を抱えて俯いている少女がいた。
誰とも目を合わせない。話しかけられても小さく首を振るだけ。
そんな彼女の前に、そっと近づく影があった。「……ねえ、大丈夫?」賀喜遥香は、いつもの明るさを少しだけ抑えて、優しく腰を落とす。
少女がびくっと肩を震わせても、逃げたりしない。
ただ、少し離れたところで同じ高さに座って、静かに待つ。「怖がらせちゃったかな。ごめんね」
「私、賀喜遥香。4期生の……って、知ってる? ううん、知らなくて全然いいよ」少女は顔を上げない。
でも、耳が少しだけ動いた。遥香は自分の膝に手を置いて、穏やかに続ける。「私ね、昔、人を信じられなくなった時期があって。
誰かが優しくしてくれるたび『どうせ裏がある』って思っちゃって……
だから、今の気持ち、ちょっとわかる気がする」少女の指が、ぎゅっとスカートの裾を握りしめた。「でもさ」
遥香は微笑んで、ほんの少しだけ近づく。「信じられないままでもいいんだよ。
無理に信じなくたって、私がここにいるのは変わらないから」少女が、初めてちらりと顔を上げた。
涙で濡れた瞳が、遥香を見つめる。「…………どうして、そんな優しくするの?」
震える声。疑いの色が濃いまま。遥香は困ったように笑って、でも真っ直ぐに答えた。「だって、放っておけないじゃん」
「私が昔、誰かにそうしてほしかったから……かな」少女の目から、ぽろりと涙がこぼれる。遥香は何も言わず、ただそっとハンカチを差し出す。
受け取るか、拒むか。それは少女の自由。しばらくの沈黙の後、
少女が小さく、ほんの小さく手を伸ばした。「……ありがとう」
掠れた声だったけど、確かに届いた。遥香は満面の笑みを浮かべて、でも泣きそうな顔で頷く。「うん。こちらこそ、話してくれてありがとう」
「これからゆっくりでいいから……少しずつ、ね?」少女は答えなかった。
でも、ハンカチをぎゅっと握りしめた手が、
ほんの少しだけ震えを止めた。遥香は立ち上がると、最後に優しく言った。「私はいつでもここにいるよ。
信じられなくても、嫌いになんてならないから」そうして、そっと部室を出ていく。
振り返ると、少女が小さく手を振り返していた。……それが、ほんの小さな、でも確かな一歩だった。
どうせ裏切られる
少女はハンカチを握りしめたまま、ぽつりと呟いた。「……どうせ裏切られる」その声は小さくて、震えていて、自分でも信じたくない本音みたいだった。部屋に残ったのは、さっきまでいた遥香の残り香と、静寂だけ。でも、次の瞬間。ドアがそっと開いた。「……やっぱり、気になっちゃって」賀喜遥香が、また戻ってきていた。
手にコンビニの温かい缶コーヒーふたつ。「ごめん、勝手に戻ってきちゃった」
「でもさ……『どうせ裏切られる』って言ってる子を、ほんとに放っておけるわけないじゃん」少女は驚いたように顔を上げて、すぐに目を逸らす。遥香は無理に近づかず、ドアのすぐ横に座り込んだ。
缶コーヒーをひとつ、床に置いて、自分の分を開ける。「……私、裏切られたこと、何回もあるよ」
「信じてた人に嘘つかれて、大切なものを奪われて……
それでもさ、また信じちゃうんだよね。バカだなって思うけど」少女の視線が、ちらりと動く。「でもね」
遥香は缶を両手で包みながら、静かに続けた。「裏切る人もいるけど、裏切らない人もいる。
……私、そういう人になりたいって、ずっと思ってて」少女は黙ったまま、唇を噛んだ。「だからさ」
遥香は、少しだけ笑った。「私が裏切るかどうかは、私が決めることだよ」
「あなたが信じるかどうかは、あなたが決めること。
……でも、私がここにいるのは、私が決めたこと」少女の目から、また涙がこぼれた。「どうせ……どうせ、また……」「うん。どうせ、って思ってもいい」
遥香は優しく、でもはっきりと言った。「それでも、私は裏切らないって決めてる」
「何年かかっても、何回泣かせちゃっても、
あなたが『もういいよ』って言うその日まで、
私はここにいる」少女は、はらはらと涙をこぼしながら、
初めて、ほんの少しだけ、口を開いた。「……約束、できるの?」遥香は、迷いなく頷いた。「できるよ」
「だって、私、賀喜遥香だもん」
「約束、破ったことないから」少女は、震える手で、床に置かれた缶コーヒーを拾った。温かさが、指先に伝わる。「……信じられるか、わからない」
「でも……」遥香は、優しく微笑んだ。「うん。それでいいよ」
「少しずつでいいから。ね?」少女は、缶を胸に抱えて、
小さく……ほんの小さく、頷いた。その瞬間、部屋の中が、
ほんの少しだけ、温かくなった気がした。
缶コーヒーを投げる
少女は、温かかった缶コーヒーを、突然、力任せに遥香に向かって投げつげた。ガシャンッ!!缶は床にぶつかり、中身が勢いよく飛び散る。
黒い液体が床に広がり、遥香のスカートの裾まで濡らした。「……やっぱりね」少女は震える声で吐き捨てる。「どうせ優しいふりして……どうせ裏切るんでしょ!
優しくされたって、嬉しくなんかない!
信じたら、また壊されるだけ!!」涙と怒りと、全部が混じって、声が裏返る。遥香は、びしょ濡れになったスカートを見下ろしたまま、
……動かない。数秒の、痛いほどの沈黙。やがて、ゆっくりと顔を上げた。「……うん」遥香は、静かに、でもはっきりと答えた。「怒ってるんだね。
怖いんだね。
……投げてくれて、ありがとう」少女の目が、信じられないというように見開かれる。「私、びっくりしたけど……
ちゃんと気持ち、伝わったよ」遥香は濡れた床に膝をついて、
飛び散った缶コーヒーを指で軽く触りながら、「こんなに怒れるってことは、
まだ誰かを信じたいって、思ってるってことだよね」少女の肩が、びくっと跳ねた。「……違う! 違うよ!!」「ううん、同じだよ」
遥香は優しく、でも少し強く言った。「私も昔、好きな人に缶コーヒー投げつけたことあるもん。
『どうせ裏切るくせに!』って叫びながら」少女が、言葉を失って立ち尽くす。遥香は立ち上がると、濡れたスカートを気にせず、
少女の目の前までゆっくり歩いてきた。そして、「……次は、私が投げられてもいいよ」
「何回でも投げてくれていい。
缶コーヒーでも、言葉でも、全部受け止める」少女の目から、堰を切ったように涙が溢れた。「なんで……なんでそんな……!
私、ひどいことしたのに……!」「だって」
遥香は、泣きじゃくる少女の前にしゃがみ込んで、
そっと、でもしっかりと両手を広げた。「私、約束したじゃん」
「裏切らないって」少女は、もう耐えきれなくなったように、
遥香の胸に顔を埋めて、
子供のようにはげしく泣き始めた。遥香は、びしょ濡れのまま、
ただただ、少女の背中を優しく撫で続けた。「……ごめんね……ごめんね……!
怖かった……怖くて……!」「うん。わかってるよ」
「もういいよ。全部吐き出して」どれくらい泣いただろう。少女の嗚咽が、少しずつ小さくなっていく。遥香は、濡れた髪を指で梳きながら、
小さな声で囁いた。「……ねえ、これからも缶コーヒー投げたくなったら、
私に投げてね。
それで、少しでも楽になるなら」少女は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を上げて、
……初めて、ほんの少しだけ笑った。「……バカ……」「うん、バカでいいよ」
遥香も、泣き笑いで答えた。床に広がったコーヒーの染みは、
なんだか、二人の距離みたいに、
少しずつ、形を変えていった。
抱きしめる 離して!
少女は、遥香の胸に顔を埋めたまま、突然、両手で遥香の肩を強く押した。「離して!!」叫びと共に、体を捩って必死に逃れようとする。腕の中で暴れる少女の体は熱くて、震えていて、まるで壊れそうだった。遥香は、一瞬だけ腕に力を込めた。……でも、すぐに、ゆっくりと、両腕を解いた。「ごめん」遥香は素直に手を離し、半歩だけ後ろに下がる。少女は勢い余ってよろめき、壁に背中をつけて息を荒げた。「……触らないで……近づかないで……!
もう誰も信じないって決めたのに……!」涙と怒りと恐怖がぐちゃぐちゃに混じって、声が割れる。遥香は、ただ静かに、少女を見つめていた。逃げない。
でも、もう一歩も近づかない。「……うん」
「離れてるよ。今はこれでいい」少女は壁にへばりついたまま、肩で息をしながら睨みつける。「……どうせまた、優しいふりして……
どうせ私がいなくなったら、ほっとしてるんでしょ……」遥香は首を横に振った。「そんなことないよ」
「でも、今は信じられなくても、いい」少女の目が、ぎゅっと歪む。「……うそつき」「うん。うそつきでもいい」
遥香は、少しだけ笑った。「でも、離れても、ここにいるのは本当だよ」少女は唇を噛んで、視線を床に落とした。「……もう来ないで」
「二度と、私の前に現れないで……!」遥香は、静かに頷いた。「……わかった」
「あなたがそう言うなら、今日はもう行かない」でも、遥香は一歩だけ、少女の方に近づいて、床に落ちていた、あのハンカチをそっと置いた。「でもね」
「これ、置いていくね」少女が、びくっと顔を上げる。「私が来るのが嫌なら、捨ててくれていい。
でも、もし……もし、少しだけ寂しくなったら、
このハンカチ見て、思い出して」遥香は、ゆっくりと立ち上がる。「私は、いつでも、あなたが呼べば来るよ」
「……呼んでくれなくても、遠くから見守ってる」少女は、何も言えずに、ただ涙をこぼしていた。遥香は、最後に一度だけ、優しく微笑んで、「じゃあね」
「……大好きだよ」そう言って、静かに部室を出て行った。ドアが閉まる音が響いて、少女は、壁に背中をつけたまま、ゆっくりと崩れ落ちた。そして、震える手で、床のハンカチを、ぎゅっと、胸に抱きしめた。「……うそつき……」小さな、掠れた声。でも、その声には、
ほんの少しだけ、違う響きが混じっていた。
悪夢
少女はベッドの中で、はっと目を覚ました。汗でびしょ濡れ。
息が苦しくて、胸が痛い。……また、あの夢だった。誰かが優しく手を差し伸べてくれる。
信じたい。信じたいって思う。
でも、握った瞬間、手は溶けて、
その人は笑いながら崩れ落ちて、
最後には「やっぱりね」と冷たく呟いて消える。毎回、同じ。信じたら壊れる。
優しければ優しいほど、裏切りは深くなる。だから、もう誰も信らない。
もう誰にも触られたくない。布団を頭から被って、膝を抱えて震える。すると、コン、コン。小さなノックの音。「……起きてる?」聞き慣れた、優しい声。賀喜遥香だった。少女は布団の中で固まった。(来るな……来るなって言ったのに……)でも、ドアは開かない。
遥香は無理に中に入ってこない。ただ、ドアの向こうから、静かに話しかける。「……悪夢、見ちゃった?」少女の体がびくっと跳ねた。(なんでわかるの……?)「私もね、昔、毎晩悪夢見てた」
「信じた人がみんな裏切る夢。
優しくしてくれる人ほど、最後に笑って消える夢」少女の喉が、ぎゅっと鳴った。「だからわかるんだ」
「今、きっとすごく怖いよね」布団の中で、涙がこぼれる。「……来ないで……」
掠れた声で、絞り出す。「うん、来ないよ」
「ドア開けないから。安心して」少しの沈黙。「でもね」
遥香の声が、少しだけ震えていた。「悪夢は、夢だよ」
「私がここにいるのは、夢じゃない」少女は布団をぎゅっと握りしめた。「……どうせ朝になったら、いなくなるんでしょ」「朝になっても、私はここにいる」
「明日も、明後日も。ずっと」少女は、布団の中で小さく首を振る。「……嘘」「嘘でもいいよ」
「でも、悪夢よりは、私の声の方が少しだけマシでしょ?」少女は、何も答えられなかった。ただ、布団の中で、はらはらと涙をこぼすだけ。すると、ドアの向こうから、小さな歌声が聞こえてきた。遥香が、子守唄みたいに、優しく歌ってる。知ってる曲。
乃木坂の、静かなバラード。声は震えてて、泣いてるみたいだった。でも、確かにそこにいる。少女は、布団の中で耳を塞ごうとした。でも、塞げなかった。……その歌を、聞いていたかった。どれくらい経っただろう。歌が終わって、静かになった。「……おやすみ」
「悪夢が来たら、私の声思い出して」
「私は、ずっとここにいるから」足音が遠ざかっていく。でも、確かに、廊下にいる気配がする。少女は、布団の中で、
小さく、ほんの小さく、呟いた。「……遥香……?」返事はなかった。でも、なぜか、
胸の奥が、少しだけ、温かくなった。悪夢は、まだ終わらない。でも、今夜は、
もう少しだけ、眠れそうな気がした。
乃木坂のライブに招待
少女は、いつもの部室で膝を抱えていた。
窓の外はもう冬の匂いがする。
机の上に、一通の封筒。白くて、ちょっと厚手の封筒。
表に、丁寧な字で。『〇〇ちゃんへ』……誰だっけ、この字。震える手で開けると、中から出てきたのは、乃木坂46 35thシングル アンダーライブ
全国ツアー2025
最終日・東京ガーデンシアター
VIP席 1枚
+バックステージパスそして、小さな便箋。『来てくれる?
私、ステージからちゃんと見える場所に座っててほしいの。
怖かったら、途中で帰ってもいい。
でも、もし少しだけ勇気が出たら、
終演後、楽屋に来てほしい。
待ってる。
ずっと待ってる。』署名は、
賀喜遥香少女は、チケットを握りしめたまま、
何度も何度も読み返した。(嘘だ……
こんなの、夢だ……
行ったら、また裏切られるだけ……)でも、指はチケットを離さない。当日。東京ガーデンシアターの客席は、熱気で震えていた。少女は、渡されたVIP席の、
ステージ真正面・最前列のど真ん中に、
ひとりでぽつんと座っていた。周りはペンライトの海。
誰も彼女に気づかない。
彼女も、誰とも目を合わせない。開演。暗転のあと、
スポットライトが灯った瞬間。遥香が、センターに立っていた。白い衣装。
いつもの笑顔。でも、目が合った。遥香の瞳が、
まっすぐに、少女だけを見て、
少しだけ潤んで、
小さく微笑んだ。ライブが始まる。遥香は、いつも以上に全力で歌って、踊って、
時々、客席の少女の方をチラチラ見て、
「大丈夫だよ」って口だけで言ってる。アンコール。最後の曲の前。遥香がマイクを握って、
突然、客席に向かって話し始めた。「……今日はね、
私にとって、すごく大事な人が来てくれてます」会場がざわめく。「その子は、人を信じるのがすごく怖くて、
私に缶コーヒー投げたり、
『来るな』って言ったりして……
でも、今日、ここに来てくれました」少女の心臓が、止まりそうになる。「だから、この曲、
その子に届けたい」流れてきたのは、
『君の名は希望』遥香は、ステージの最前列、
少女の真上まで歩いてきて、
しゃがみ込んで、
マイクを離して、
口だけで、はっきりと言った。「……ありがとう。来てくれて」少女の目から、涙が止まらなくなった。ライブが終わって。スタッフに案内されて、楽屋へ。ドアを開けると、
汗だくの遥香が、
タオルで顔を拭きながら立っていた。少女は、震えながら、
一歩だけ部屋に入る。遥香は、にこっと笑って、
そっと両手を広げた。「……おかえり」少女は、もう何も言えなくて、
走って、遥香の胸に飛び込んだ。「遥香……遥香……!
怖かった……ずっと怖かった……!」「うん、知ってる。
でも、もう大丈夫だよ」遥香は、少女の頭を優しく撫でながら、
耳元で囁いた。「今日は、私が証明してあげる。
裏切らないって、ずっとそばにいるって、
全部、本当だって」少女は、遥香のユニフォームをぎゅっと掴んで、
はげしく頷いた。「……信じる」
「今なら、信じられる……!」遥香は、泣き笑いで、
少女をぎゅっと抱きしめ返した。楽屋の外では、
他のメンバーたちがそっとドアを閉めてくれて、
二人だけの時間をくれた。その夜、
少女は初めて、
悪夢を見なかった。代わりに夢の中で、
遥香がずっと手を繋いでいてくれた。……これが、
本当の始まりだった。
