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坂
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遥香のやきもち賀喜遥香は、最近どうにも落ち着かない。乃木坂46の寮で、夜更けにリビングのソファに座っていると、隣の部屋から小さな笑い声が漏れてくる。そこにいるのは、同じ4期生の田村真佑――いや、今は「まゆたん」と呼ばれているあの娘だ。まゆたんはここ数ヶ月、ハロプロにどっぷりハマっている。特にモーニング娘。'25の最新シングルが出るたびに大騒ぎで、推しの佐藤優樹(まーちゃん)の過去の映像を延々と見返しているらしい。「はぁ……まーちゃん可愛すぎる……もう無理……」またその声だ。遥香はスマホを握りしめたまま、そっと壁に耳を当てる。完全に盗み聞きしている自覚はある。でも止められない。まゆたんは本当に夢中だ。レッスンの合間にハロプロの振りコピを練習し、休みの日は握手会やコンサートに足を運び、スマホの待ち受けも壁紙も全部ハロプロ。乃木坂の新曲の話題より、道重さゆみの卒業10周年記念ライブの話を熱量のほうが明らかに高い。そして何より腹立たしいのは、まゆたんが「推し」を見る目だ。あの、頬を赤くして、目をキラキラさせて、まるで世界にたった二人しかいないみたいな顔。あれは昔、遥香に向けられていた視線にそっくりだった。「…………」遥香は立ち上がると、そっとまゆたんの部屋のドアをノックした。「まゆたん、いる?」「あ、かっきー! 入って入って!」ドアを開けると、まゆたんはベッドに寝転がったまま、ノートパソコンでハロプロのライブ映像を見ていた。画面にはピンクのペンライトの海。そしてセンターに立つ、伝説のアイドル。「ねえ見て見て! これ、2014年のさゆみん卒業コンサートの『What is LOVE?』! 泣けるよ本当に……」まゆたんは遥香の隣にぴょんと座らせると、興奮しながら映像を早送りする。遥香は黙ってそれを見ていた。確かにすごい。観客の熱量も、道重さゆみの笑顔も、全部が眩しい。でも。「……まゆたん」「ん?」「最近、私のこと見てくれないよね」突然の言葉に、まゆたんはぱちくりと目を瞬かせた。「え? そんなことないよ? いつも一緒にいるじゃん」「違う。そうじゃなくて」遥香は少し俯いて、膝の上で指を絡ませる。「昔はさ、私が何かするたびに『かっきーすごい!』『かっきー可愛い!』って言ってくれたじゃん。レッスンで疲れてても、私の隣に座ってくれて、寝落ちしても起こさないで毛布かけてくれて……」まゆたんは少し困ったように笑った。「それは今も思ってるよ?」「でも、今はハロプロばっかり見てて……」声が震えた。自分でもびっくりするくらい幼い声になってしまった。「私、まーちゃんとかさゆみんとかに負けてるの?」まゆたんは一瞬、目を丸くして――それから、くすくすと笑い出した。「かっきー……やきもち?」「焼いてない」遥香は顔を真っ赤にしながら、素直に頷いた。「めっちゃ焼いてる。私、乃木坂の賀喜遥香なのに、ハロプロのOGに負けてるなんて悔しすぎる……」まゆたんはパソコンを閉じると、遥香の前に正座した。そして、突然、遥香の手を取った。「かっきーはね、私のいちばんの推しだよ」「……え?」「ハロプロは憧れで、遠い星みたいな存在。でもかっきーは、隣にいてくれる、触れっきとした“現役”の推しなんだもん。比べ物にならないよ」遥香は目を潤ませながら、まゆたんを見上げる。「ほんと?」「ほんとだよ。……ていうか、かっきーがやきもち焼いてくれるの、可愛すぎて死にそう」まゆたんはにやりと笑うと、遥香を抱きしめた。「だからもう、ハロプロの映像見てる時も、ちゃんと横にいて。そしたら私が『かっきーのここが好き!』って100個言ってあげる」「……200個」「えへへと笑うまゆたんに、遥香もやっと笑顔になった。その夜、二人は肩を寄せ合って、モーニング娘。のライブ映像を見続けた。でも、まゆたんは時々映像から目を離して、遥香の横顔を見つめながら、小さな声で呟いていた。「やっぱり、かっきーが一番可愛いな……」遥香はそれを聞いて、こっそりまゆたんの手を握り返した。やきもちは、少し甘くて、ちょっと切なくて、でも確実に二人の距離を近づける魔法だった。――そんな夜だった。
