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坂
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森の奥、古びた劇場跡に、ガラス棺は置かれていた。
毒林檎を食べて眠りについた白雪姫の少女は、長い睫毛を閉じたまま、まるで時間が止まったように美しかった。その棺を囲むように、三人の「王子」が立っていた。「私が最初にキスをするべきです。だって、私が一番先にここに辿り着いたんだから」
賀喜遥香はそう言って、自信たっぷりに髪をかきあげる。金色のマントが風に揺れる。「待ってください。先輩。それ、ただの早い者勝ちじゃないでしょう」
久保史緒里が静かに割り込んだ。黒い騎士服の襟を正しながら、冷静な声で続ける。
「白雪姫を目覚めさせるキスは、真実の愛の証のはず。感情の深さが問われるべきです」「二人とも……いい加減にしてください」
遠藤さくらが小さく呟いた。彼女は一番幼い王子で、いつも控えめだ。けれど瞳だけは真剣で、棺の中の少女を見つめながら震えている。
「私だって……私だって、ちゃんと想ってるのに……」三人は顔を見合わせ、同時に一歩前に出る。
また同時に一歩下がる。
誰も譲らない。
誰も、自分が「本当の王子」ではないかもしれないという不安を振り払えない。そんな堂々巡りを、最初は微笑ましく見ていた小人の与田祐希も、だんだん我慢できなくなってきた。「ねえ、もう三時間経ってるよ?」
与田は小さな体で大きなため息をつく。
「王子って、そんなに優柔不断でいいの? 白雪姫、可哀想でしょ。いつまで寝かせとくつもり?」賀喜がむっとした顔で振り返る。
「だって、順番が決められないんだもん!」「順番じゃないでしょ。愛の問題でしょ?」久保が冷静に返す。「愛って……どうやって証明すれば……」さくらが涙目になる。与田は呆れたように首を振った。そして、ぽん、と小さな手を自分の胸に当てる。「もういい。私がやる」三人の王子が目を丸くする。「え、与田ちゃん!?」「ちょっと待って!」「だ、ダメだよ、小人がキスなんて筋書きにない!」だが与田祐希はもう聞いていなかった。
小さな体を棺の上に乗せ、ガラスの蓋をそっと開ける。
眠る白雪姫の少女の頬に、そっと手を添えた。「ごめんね、待たせちゃって」
小さな声で囁いて、与田は目を閉じる。
そして、本当に小さくて、本当に優しいキスを、少女の唇に落とした。瞬間。
森が光った。
鳥が一斉に歌い出し、風が花びらを舞い上げた。白雪姫の少女の睫毛が震え、ゆっくりと目が開く。
最初に見たのは、三人の王子ではなく、小さな小人の笑顔だった。「……あなたは?」与田祐希は、少し照れくさそうに笑った。「与田祐希。よろしくね、白雪姫」少女は、なぜか自然に微笑み返した。
そして、小さく伸ばされた与田の手を、そっと握り返す。その横で、三人の王子は完全に固まっていた。賀喜遥香が、ぽかんと口を開ける。
「……え、ちょっと待って。これ、どういう展開?」久保史緒里が、珍しく取り乱して叫ぶ。
「脚本が! 脚本が違う!!」遠藤さくらは、俯いたまま小さく呟いた。
「……私たち、完全に空気だったね」与田は振り返り、にっこり笑って言った。「王子って、背が高いとか、カッコいいとか、そんなんじゃないんだよ」
「一番近くで、ちゃんと想って、一番最初に勇気を出せた人。それが王子なんだ」白雪姫の少女は、与田の肩にそっと頭を預けた。
二人の影が、夕陽に長く伸びていく。三人の「元王子」は、しばらく呆然とそれを見ていたが、やがて苦笑いしながら肩をすくめた。「……まあ、幸せそうだから、いいか」
賀喜が呟く。「次は、私たちが主役の話にしよう」
久保が静かに言う。「うん……次は、ちゃんと決める」
さくらが頷いた。森は静かに夜を迎え、新しい物語の幕が、そっと下りた。めでたし、めでたし。
でも、ちょっとだけ、予定外で。
毒林檎を食べて眠りについた白雪姫の少女は、長い睫毛を閉じたまま、まるで時間が止まったように美しかった。その棺を囲むように、三人の「王子」が立っていた。「私が最初にキスをするべきです。だって、私が一番先にここに辿り着いたんだから」
賀喜遥香はそう言って、自信たっぷりに髪をかきあげる。金色のマントが風に揺れる。「待ってください。先輩。それ、ただの早い者勝ちじゃないでしょう」
久保史緒里が静かに割り込んだ。黒い騎士服の襟を正しながら、冷静な声で続ける。
「白雪姫を目覚めさせるキスは、真実の愛の証のはず。感情の深さが問われるべきです」「二人とも……いい加減にしてください」
遠藤さくらが小さく呟いた。彼女は一番幼い王子で、いつも控えめだ。けれど瞳だけは真剣で、棺の中の少女を見つめながら震えている。
「私だって……私だって、ちゃんと想ってるのに……」三人は顔を見合わせ、同時に一歩前に出る。
また同時に一歩下がる。
誰も譲らない。
誰も、自分が「本当の王子」ではないかもしれないという不安を振り払えない。そんな堂々巡りを、最初は微笑ましく見ていた小人の与田祐希も、だんだん我慢できなくなってきた。「ねえ、もう三時間経ってるよ?」
与田は小さな体で大きなため息をつく。
「王子って、そんなに優柔不断でいいの? 白雪姫、可哀想でしょ。いつまで寝かせとくつもり?」賀喜がむっとした顔で振り返る。
「だって、順番が決められないんだもん!」「順番じゃないでしょ。愛の問題でしょ?」久保が冷静に返す。「愛って……どうやって証明すれば……」さくらが涙目になる。与田は呆れたように首を振った。そして、ぽん、と小さな手を自分の胸に当てる。「もういい。私がやる」三人の王子が目を丸くする。「え、与田ちゃん!?」「ちょっと待って!」「だ、ダメだよ、小人がキスなんて筋書きにない!」だが与田祐希はもう聞いていなかった。
小さな体を棺の上に乗せ、ガラスの蓋をそっと開ける。
眠る白雪姫の少女の頬に、そっと手を添えた。「ごめんね、待たせちゃって」
小さな声で囁いて、与田は目を閉じる。
そして、本当に小さくて、本当に優しいキスを、少女の唇に落とした。瞬間。
森が光った。
鳥が一斉に歌い出し、風が花びらを舞い上げた。白雪姫の少女の睫毛が震え、ゆっくりと目が開く。
最初に見たのは、三人の王子ではなく、小さな小人の笑顔だった。「……あなたは?」与田祐希は、少し照れくさそうに笑った。「与田祐希。よろしくね、白雪姫」少女は、なぜか自然に微笑み返した。
そして、小さく伸ばされた与田の手を、そっと握り返す。その横で、三人の王子は完全に固まっていた。賀喜遥香が、ぽかんと口を開ける。
「……え、ちょっと待って。これ、どういう展開?」久保史緒里が、珍しく取り乱して叫ぶ。
「脚本が! 脚本が違う!!」遠藤さくらは、俯いたまま小さく呟いた。
「……私たち、完全に空気だったね」与田は振り返り、にっこり笑って言った。「王子って、背が高いとか、カッコいいとか、そんなんじゃないんだよ」
「一番近くで、ちゃんと想って、一番最初に勇気を出せた人。それが王子なんだ」白雪姫の少女は、与田の肩にそっと頭を預けた。
二人の影が、夕陽に長く伸びていく。三人の「元王子」は、しばらく呆然とそれを見ていたが、やがて苦笑いしながら肩をすくめた。「……まあ、幸せそうだから、いいか」
賀喜が呟く。「次は、私たちが主役の話にしよう」
久保が静かに言う。「うん……次は、ちゃんと決める」
さくらが頷いた。森は静かに夜を迎え、新しい物語の幕が、そっと下りた。めでたし、めでたし。
でも、ちょっとだけ、予定外で。
