序、陸と海が交わるとき
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新横浜。そこは騒がしくも賑やかな街。そこに、一際騒がしい建物がある。
「ドォラァルゥクウウゥッ!!テメーこのクソ砂ぁ!!」
【ロナルド吸血鬼退治人(ハンター)事務所】と書かれた部屋の扉を勢いよく開けたのは、家主のロナルドだった。開幕早々に整った顔立ちを崩しながら、彼は全力で喚いている。相手はもちろん、何食わぬ顔でゲームをしている高等吸血鬼(バンパイアロード)のドラルクだ。青白い顔に享楽的な笑みを浮かべながら、彼はのらりくらりと返事をした。
「何だね君、相変わらず血気盛んな脳筋だね」
「殺すぞ」
「ごめんなさい」
即座にその場に直りながら、ドラルクは必死でロナルドが怒っている理由を考えた。だが、すぐに頭を抱える。
ダメだ、思い当たる節が多すぎる!!
そんなことを心の内で絶叫していると、ロナルドが退治依頼書を鼻先に突きつけてきた。中身に目を通すと、そこには心当たりしかない文章が書かれている。
『海を荒らす吸血鬼がみなとみらいに現れたので、なんとかしてください。近所に住む人魚が困っています』
読み終えたことを確認すると、ロナルドは青筋を立てながら相棒に尋ねた。
「あのな、ドラルク。勝手にOKすんなや。ここは!俺の!事務所なんだよっ!!」
「え、そうだっけ」
厚顔無恥の返答が返ってくる。しばしの沈黙。そして――――
「当たり前だろ、このクソ砂ぁぁぁ!!!!」
ロナルドの必殺パンチが炸裂する。哀れドラルクは一瞬で砂と化した。そして、それを悲しげに見つめるアルマジロのジョン。
騒がしいかな、これが当事務所の日常である。ロナルドは息を整えると、ソファに腰掛けた。それから改めて依頼文を読み直した。
「で、どうせ面白そうだからって引き受けたんだろ。お前ってホント、なんつーか……」
ぶつくさ言いながら、視線が書類の下へと動く。ふと、ロナルドの目の動きが止まる。無意識に、唇は一つの言葉を紡ぐ。
「……人魚だぁ?」
「人魚?いやいや、ロナルドくん。どうせまた半魚人だろ」
ドラルクは苦笑いを浮かべながら、肩をすくめている。ロナルドも脳裏には苦い思い出がよぎっているらしく、顔色が悪い。
「そもそも、近所の人魚ってなんだよ。みなとみらいに人魚なんて居てたまるか」
相棒のぼやきを聞いたドラルクは、眉をひそめて思考を巡らせた。そして不意に、何かを思い出したように目を丸くしてみせた。
「あ、そういえば。あの周辺に人魚が出ることがあると、オカルト掲示板に書かれていた気がするなぁ」
「だーかーらー、みなとみらいの人魚ってなんなんだよ。ぜんっぜんロマンチックの欠片もねぇじゃねぇか」
唸るロナルドを置いて、ドラルクはスマホで掲示板の内容を辿り始めている。掲示板には有象無象の諸々が記述されているが、幾つかは信憑性のあるものも見受けられる。
「なんでも、魔法が使える人魚の一族がいるとか居ないとか……」
「魔法?だったら城でも直してもらえよ」
「5兆円貯めるより早そうだな」
そう言ってから、ドラルクはクスリと笑みをこぼした。ロナルドはメビヤツから帽子を取ると、対吸血鬼用のハンドガンを装備した。それから扉を開けて、頼りなくもにぎやかな相棒の方に向き直った。
「んじゃ、行くか」
呼びかけに呼応するように、ドラルクも立ち上がって使い魔のジョンを抱きかかえた。それから、いつの間にか調べたみなとみらいの観光案内を眺めながらこんなことを呟いた。
「観覧車って、予約無しで乗れるのかね?」
「知るか。でっけーゲーセンならあるぜ」
「良いね。んじゃ私はゲーセンに行くから、君は吸血鬼を退治――――――」
退治してきてくれ、と言い終わるより前にロナルドの鉄拳が飛ぶ。目にも止まらぬ速さでドラルクの顔面に拳が着弾した。
「ふざけんなクソ砂ぁ!!」
「スナァッッ!!」
「ヌー……」
例に漏れず、ドラルクが砂と化す。つまり、今日も新横浜は平和である。
その頃、みなとみらい赤レンガ倉庫の近くの海には1人の女性の姿があった。海から首を出して外の様子を伺う彼女の手を、おもむろに誰かが水底から引っ張る。浮かび上がったのは、彼女にどこか顔立ちが似ている少女だった。
「お姉様、本当に大丈夫?厄介事にならないために、ずっと陸には近づかなかったのに……」
「ヘルミ。あたしはね、妹のためなら呪いなんて怖くないさ。…………それに、あの子が病気で苦しんでるっていうのに恋に落ちてる暇なんて無いよ」
ヘルミ、と呼ばれた人魚が姉に抱きつく。姉人魚はその背中をそっと抱きしめて、母親のような笑顔を浮かべた。彼女の翡翠色の髪が、ふわりと優しく垂れる。
「大丈夫、ヘルミ。あたし、絶対に戻ってくるから」
「約束だよ、ヴァートお姉様。アールトお姉様は人間の病院じゃ治せないから、VRCってとこにいるんだって」
「VRC……わかった。ヘルミ、あんたは家に戻るんだ。ここからはあたしだけで行くから」
妹が小さく頷き、水面から影が消えていくのを見届けたヴァートは陸を見据えた。怖くないわけはない。だが、今の彼女にとって最も恐ろしいのは、たった3人しかいない家族を失うことだった。
「長女のあたしがしっかりしなくて、どーすんのさ。行くよ、ヴァート。あんたなら出来る」
自分にそう言い聞かせると、ヴァートはヒレを強く動かして夜の海を進み始めた。陸の世界にどんな出会いと危険が待っていようとも、妹を救えるのならば。そう思う一心で。
「ドォラァルゥクウウゥッ!!テメーこのクソ砂ぁ!!」
【ロナルド吸血鬼退治人(ハンター)事務所】と書かれた部屋の扉を勢いよく開けたのは、家主のロナルドだった。開幕早々に整った顔立ちを崩しながら、彼は全力で喚いている。相手はもちろん、何食わぬ顔でゲームをしている高等吸血鬼(バンパイアロード)のドラルクだ。青白い顔に享楽的な笑みを浮かべながら、彼はのらりくらりと返事をした。
「何だね君、相変わらず血気盛んな脳筋だね」
「殺すぞ」
「ごめんなさい」
即座にその場に直りながら、ドラルクは必死でロナルドが怒っている理由を考えた。だが、すぐに頭を抱える。
ダメだ、思い当たる節が多すぎる!!
そんなことを心の内で絶叫していると、ロナルドが退治依頼書を鼻先に突きつけてきた。中身に目を通すと、そこには心当たりしかない文章が書かれている。
『海を荒らす吸血鬼がみなとみらいに現れたので、なんとかしてください。近所に住む人魚が困っています』
読み終えたことを確認すると、ロナルドは青筋を立てながら相棒に尋ねた。
「あのな、ドラルク。勝手にOKすんなや。ここは!俺の!事務所なんだよっ!!」
「え、そうだっけ」
厚顔無恥の返答が返ってくる。しばしの沈黙。そして――――
「当たり前だろ、このクソ砂ぁぁぁ!!!!」
ロナルドの必殺パンチが炸裂する。哀れドラルクは一瞬で砂と化した。そして、それを悲しげに見つめるアルマジロのジョン。
騒がしいかな、これが当事務所の日常である。ロナルドは息を整えると、ソファに腰掛けた。それから改めて依頼文を読み直した。
「で、どうせ面白そうだからって引き受けたんだろ。お前ってホント、なんつーか……」
ぶつくさ言いながら、視線が書類の下へと動く。ふと、ロナルドの目の動きが止まる。無意識に、唇は一つの言葉を紡ぐ。
「……人魚だぁ?」
「人魚?いやいや、ロナルドくん。どうせまた半魚人だろ」
ドラルクは苦笑いを浮かべながら、肩をすくめている。ロナルドも脳裏には苦い思い出がよぎっているらしく、顔色が悪い。
「そもそも、近所の人魚ってなんだよ。みなとみらいに人魚なんて居てたまるか」
相棒のぼやきを聞いたドラルクは、眉をひそめて思考を巡らせた。そして不意に、何かを思い出したように目を丸くしてみせた。
「あ、そういえば。あの周辺に人魚が出ることがあると、オカルト掲示板に書かれていた気がするなぁ」
「だーかーらー、みなとみらいの人魚ってなんなんだよ。ぜんっぜんロマンチックの欠片もねぇじゃねぇか」
唸るロナルドを置いて、ドラルクはスマホで掲示板の内容を辿り始めている。掲示板には有象無象の諸々が記述されているが、幾つかは信憑性のあるものも見受けられる。
「なんでも、魔法が使える人魚の一族がいるとか居ないとか……」
「魔法?だったら城でも直してもらえよ」
「5兆円貯めるより早そうだな」
そう言ってから、ドラルクはクスリと笑みをこぼした。ロナルドはメビヤツから帽子を取ると、対吸血鬼用のハンドガンを装備した。それから扉を開けて、頼りなくもにぎやかな相棒の方に向き直った。
「んじゃ、行くか」
呼びかけに呼応するように、ドラルクも立ち上がって使い魔のジョンを抱きかかえた。それから、いつの間にか調べたみなとみらいの観光案内を眺めながらこんなことを呟いた。
「観覧車って、予約無しで乗れるのかね?」
「知るか。でっけーゲーセンならあるぜ」
「良いね。んじゃ私はゲーセンに行くから、君は吸血鬼を退治――――――」
退治してきてくれ、と言い終わるより前にロナルドの鉄拳が飛ぶ。目にも止まらぬ速さでドラルクの顔面に拳が着弾した。
「ふざけんなクソ砂ぁ!!」
「スナァッッ!!」
「ヌー……」
例に漏れず、ドラルクが砂と化す。つまり、今日も新横浜は平和である。
その頃、みなとみらい赤レンガ倉庫の近くの海には1人の女性の姿があった。海から首を出して外の様子を伺う彼女の手を、おもむろに誰かが水底から引っ張る。浮かび上がったのは、彼女にどこか顔立ちが似ている少女だった。
「お姉様、本当に大丈夫?厄介事にならないために、ずっと陸には近づかなかったのに……」
「ヘルミ。あたしはね、妹のためなら呪いなんて怖くないさ。…………それに、あの子が病気で苦しんでるっていうのに恋に落ちてる暇なんて無いよ」
ヘルミ、と呼ばれた人魚が姉に抱きつく。姉人魚はその背中をそっと抱きしめて、母親のような笑顔を浮かべた。彼女の翡翠色の髪が、ふわりと優しく垂れる。
「大丈夫、ヘルミ。あたし、絶対に戻ってくるから」
「約束だよ、ヴァートお姉様。アールトお姉様は人間の病院じゃ治せないから、VRCってとこにいるんだって」
「VRC……わかった。ヘルミ、あんたは家に戻るんだ。ここからはあたしだけで行くから」
妹が小さく頷き、水面から影が消えていくのを見届けたヴァートは陸を見据えた。怖くないわけはない。だが、今の彼女にとって最も恐ろしいのは、たった3人しかいない家族を失うことだった。
「長女のあたしがしっかりしなくて、どーすんのさ。行くよ、ヴァート。あんたなら出来る」
自分にそう言い聞かせると、ヴァートはヒレを強く動かして夜の海を進み始めた。陸の世界にどんな出会いと危険が待っていようとも、妹を救えるのならば。そう思う一心で。
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