相棒のジレンマ
Aiはうとうととソファーの上でまどろんでいた。
6本触手は柔らかいしあたたかい。枕にもなる。補食態はゴロゴロするのに向いていた。
「ただいま」
足音が近づいてくる。幕一枚隔てたような籠もった音と感覚、スリープに入るか入らないかの状態が気持ちいい。
ふと足音が止まった。気配が近い。
Aiの体は宙に浮いていた。
気づけば暖かい場所にいる。遊作の胸の中だ。
首を上げると涼しい顔がすぐそばだった。
ぎゅっと抱きしめられて制服のざらついた生地が近い。
思わず触手を遊作の腕に絡ませた。
(遊作の匂い)
Aiはこの匂いが好きだった。
遊作から生まれたせいか何だか懐かしくなる。
(遊作……)
遊作は頭を撫でてくる。
胸が苦しいけど指は気持ちいい。
とろけそうになってしまいそうだ。
ふっと我に帰って首をふる。
(遊作ちゃんめ……俺はペットじゃねぇんだぞ)
キュートでイケメンなのはわかっているし、この体が魅力的なのもわかる。
だが遊作の相棒なのだ。ペットではない。
拒んでやろうと目を開けると、瞼に柔らかい物が落ちてきた。
遊作の、唇。
(ゆ、遊作)
完全にペット扱い。
体から骨が抜けるようだ。元々骨はなかったが。
遊作は胸にAiを乗せたまま体を撫ではじめた。
(く……くそぉ……はぅう……き、気持ちよくなんか)
(ひんっ♥)
(……く、悔しい)
結局遊作に抱きしめられたまま、しばらく眠ったふりをしていた。
(もう、今回だけだからな)
「Ai、寝てるのか」
(またか)
遊作はこちらが寝てると構ってくる。
どうやらAiが静かだと心配らしい。
そんなところも可愛い。
遊作は触手をつまんで撫でてくる。
「っ」
「ん……」
気持ちよくて苦しい。
体のあちこちに唇が落ちてくる。
遊作の手を振り払った。
(だから、俺はペットじゃないって!)
「後でな!」
「Ai……」
(そんな悲しそうな顔すんなよ。クッソ……可愛いな。
お前が悪いんだからな。俺はお前が好きなのに。そんなことされたら、俺は……)
「ったく……」
Aiは充電中だったソルティスに戻る。
充電ケーブルを首から抜いてソファーに横になった。
この姿ならペット扱いはしてこないだろう。
Aiにとって、スリープだけが気の休まる場所だった。
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