密偵手記裏

イタチは珍しく巣に籠もってる。
外に出ても長く巣をあけない。
イタチは犬を拾ってきたようだ。
傷だらけで更に女王蜂に刺された犬。イタチはその犬が気になるようだ…。
狩りさえ出ずに犬のそばに寄り添っている。


ある諜報員の手記より
密偵手記のアカギサイドです。


年齢、国籍、姿形。任務によって全てを偽ってきた。
そうしてるうちにいつしか自分にまでも嘘をつき、他人の心を読み取ることだけに集中してきた。
それがオレであることの証、カマイタチであることがオレの唯一のアイダンティティだった。


他人とは騙すためだけの存在で、入れこむべき物じゃない。
彼をさらってきた理由は犬を拾った時の衝動に似ていた。
利発そうな瞳だったり、艶光りする毛並みだったり、可愛いなと思った。

オレにはとうてい手に入れられない、純粋な心が気になった。
憧憬と言った方がいいかもしれない。
隣にいたらさぞや救われた気持ちになるだろう。

現にオレがあのペンションの前、そぼ降る雪の中で、十余年を過ごした仲間を撃ち殺した時にも何も感じなかった。

ポケットの中で微かに震える手が、オレの心を悔しさや悲しみから遠ざけてくれていた。
1/4ページ