カイジたちの夜4
鎌風ノゴトク
アラワレ
玉風ノゴトク
シンコウシ
葉風ヨリモ
シズカニ
鷹風トトモニ
キエテイケ
カマイタチ呪言の歌
白銀の世界にオレはひとりだった。
360度見渡す限りに何もなく、なだらかな雪の丘陵が広がっている。
山間を吹きすさぶ風は冷たく凍っていて、剣のようにオレの体に突き刺さる。
埋もれた手足は冷たいを通り越していて、かゆくて熱い。
周りには場所の区別や方位を示す物はない。
スノーモービルのシュプールが、唯一の導き手だった。
純白の光の中を半分埋まりながら進んでいく。
オレの名前は伊藤カイジだ……。
ジェームスボンドでもなければ、段ボールが好きな伝説の傭兵でもない。
血生臭い銃撃戦や知謀張り巡らす諜報戦なんてまったく関係ない、ただの一般市民。
そのオレがどうして伝説のスパイ、カマイタチを追跡してるのか……。
話せば長い。無理矢理短くすれば、ある薬品を取り返すためだ。
「ハァ……」
行けども行けどもスノーモービルの姿はない。さっきまで晴れていた空は雲が覆い隠してる。
更にちらほらと鼻先に雪が落ちてきた。
もう帰りたい。
今頃温泉にでも浸かって、日頃の疲れやストレスを洗濯する予定だったのに……。
弱音を吐いていても足は止まってくれない。
先へ先へと心より早く進んでいる。
オレの中の勝手な奴は、マインドブレイクを必ず見つけて処分するつもりみたいだった。
だけど雪が強くなったらこの追跡も終わる。シュプールも消えるし遭難の恐れもある。
白樺の木立の前に、シュプールの跡が交差している。
雪にかすむ前方を注意深く睨んで、シュプールの跡をかがんで見る。小さな筒が沢山落ちていた。
これは……薬莢?
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